悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<大トリはペインです。
決闘都市ギデオン 2番街【
凄まじい“決闘”。
今僕の目の前に広がる光景はそんな形容詞がぴったりだった。
フランクリンを倒し、王女も救出に成功。それから20分後には“スーサイド”シリーズも殲滅され、レイさんが力尽きるようにログアウトした後で僕もリズにミスリルを上げたらログアウトしようとした矢先、別行動をしていた近衛騎士団からの報告でお兄さんと共に飛んできたのです。
そして現在に至る訳ということになります。
「あ……、あの……これ、私達も助太刀に入ったほうが……?」
顔をひきつらせた霞さんが尋ねてくる。はっきり言って、それは愚策です。
あんな決闘の中で僕らが割り入っても邪魔になるだけ。むしろ人質とされる可能性もあります。
遊戯派なら躊躇わずに人質ごと刺し貫くという手も使いますが、おそらく……。
「なんなら頭突っ込んでみたらどうなんだ?」
不意に声が聞こえてきた。振り返ると建物の影から外套を纏った男性がこちらに向かってきている。
「あなたは?」
「ドレッドだ。アイツん所のサブオーナーをしている」
軽い自己紹介を済ませると、僕は試しに腕を前に突き出した。
――肘から先が消えてなくなった。
「ルーク!?」
「大丈夫。出血はしていないよ」
切り落とされたのなら腕が落ちてるし、何より出血を起こしていないのはおかしい。腕を引くと傷一つ見当たらずに戻ってきた。
今度は思い切って胸まで突っ込んでみる。その先は人一人いない街道であり、振り向くと胸から先の無い僕の身体が見えた。断面図は黒く塗りつぶされた状態で。
「結界ですか。それもすり抜けるタイプの」
「察しが良いな。この結界は外からは攻撃をすり抜け、内側は通行不可の結界になる」
「そして内部の攻撃は吸収される、ですね」
「……言ったか、それ」
「いえ、ついさっき見えたもので」
今さっき、槍使いが放った黒紫の旋風が結界の中に取り込まれるように消えたのを見ました。恐らく通行不可はティアンやマスター、モンスターの類でしょうね。
外からはすり抜け、内側からは攻撃が吸収される脱出不可の牢獄。現状これがあの中で戦っているペインという人の〈エンブリオ〉なのでしょう。
「お兄さん、スキルの中にこの手の結界を破れるものはありますか?」
僕の質問にお兄さん――着ぐるみモードに戻っていた――は少しの沈黙。
『あるにはある』
半ば予想の付いた答えを口にする。
霞さん達ルーキーは顔を輝かせますが、『だがな』という言葉で一同再びお兄さんに注目する。
『大前提として最低でも俺がデスペナルティになり、2番街が消滅する』
「え?ちょ、どゆこと?」
『《
「……意味ないじゃん!?」
まさに本末転倒。折角フランクリンから街を守ったというのにこれでは意味が無い。
というか、そんなことをすれば今度はお兄さんが指名手配されてしまいます。
「それに、助けに行くってのはそれだけペインを弱らせることになる。ステータス的な意味でな」
「え?助けに行くのに彼を弱らせるって、どういうことですか?」
「推察するのも勉強の一つだよ。それくらい考えな」
†
剣と槍がぶつかり合う。
剣戟を繰り返される。
「ハッ、〈エンブリオ〉のおかげで食い下がってるみたいだなぁ!!」
「ッ……!」
その剣戟の中で、ペインは超級職のアドルフと互角に戦っていた。相手は超級職でレベルも700オーバー。対してペインは戦争から一時ジョブをリセットしたことにより不完全な状態だ。
そんな圧倒的な差で、どうして互角に戦えるのか?その理由は2つある。
一つはペインの持つ剣、それこそが彼の〈エンブリオ〉、TYPE:アームズ・テリトリーの【血戦王剣ペリノア】の特性――《決闘有利》、《一対多数有利》でもある。
未熟なアーサー王を倒したように、それよりも前に幾多の騎士を決闘で葬ったペリノアのように、1人でいる場合自身のステータスが倍加されるパッシブスキル《決闘の老騎士》。
これによりペインは現段階の状態でも超級職に匹敵するステータスを持っていた。
だがこのスキルには続きがある。『自分以外の味方が自分に対して救援行動をする、あるいは自分以外のメンバーがパーティに入った場合、倍化ステータスが無効化され、その人数に応じてステータスが減少する』というもの。
己の娘と知らず、エレインを見殺しにしたことにより、彼女から「最も困っている時に誰からも助けてもらえない」呪いを掛けられてしまった逸話を再現した代償。
ある種、生い立ち故に連携ができないフィガロとは異なるソロ専特化と言える。
そして理由のもう一つが、そのデメリットを利用して弱体化された身で近衛騎士団との鍛錬で鍛え上げたプレイヤースキルによるものだった。
必殺スキルを手に入れてから、指名した相手と完全なる一対一の戦いを得意とし、集団戦でも鍛えたプレイヤースキルと強化されたステータスで広域殲滅型に勝るとも劣らない剣士となっていった。
「フリューゲル――」
アドルフが自らの槍を地面に突き立てる。
スキルの発動を察したペインは後ろへ跳ぶ。
その瞬間、ペインの横顔にアドルフの蹴りが入った。
突然の蹴りに体勢が崩れかけたが、追撃の槍の薙ぎ払いはかろうじて受け止める。
「スキル発動をブラフに使ったか……」
「戦い方も“自由”、なんだろ?」
スキル発動のブラフを挟んだ攻撃はアドルフが得意とする戦術だ。
先程使った《フリューゲル・バースト》は【
本来の《フリューゲル・バースト》は槍を振り回して矛先に風を集め、正面の体へと放つ奥義である。
アドルフがサブに入れた上級職【疾風槍士】はAGIを基にした直進的な高速攻撃が得意だが、前段階を要して放つ奥義級の範囲攻撃も有している。
【
(肉体への直撃は今の蹴りだけか。予想はしていたが、アイツらほどロンゴミニアドの特性を熟知している奴らはいないか。忌々しい)
アドルフの持つTYPE:エルダーアームズ【傷痍魔槍ロンゴミニアド】の特性は《治癒困難》と《呪術保存》。
癒えない傷として相手を苦しめるという、アーサー王伝説に登場した逸話同様、この槍で受けた傷は例え掠り傷だったとしても、自然治癒が圧倒的に時間を掛けてしまう。回復魔法ですら本来のHP回復量を劣らせる。
更に言えば予め呪いの条件が整えば1回だけ自動で発動する特性により、この槍にはアドルフ自らが【出血】ともう一つの呪いを与えた。
これで凶悪な特性が、掠り傷イコール深刻な出血を起こす。普通のマスターなら1回相手の肉を裂いてしまえばまともな回復手段では治癒しきれずにデスペナルティ一直線。
この条件でまともに戦えるのは、決闘王者のフィガロか、自分と相性最悪の〈化猫屋敷〉と呼ばれる【
(この結界には外部リソースが必要。もう10分以上戦っているから【
とはいえこのままではらちが明かない。
お互い戦術を知り尽くしている為に、予想の付く対策はしていた。
それ故に決定打を探っても潰される。
その拮抗を崩すには、相手が予想だにしない一手を打つ必要がある。
「オラァ!」
「クッ……!」
再び始まる剣と槍のぶつかり合い。剣を槍で防ぎ、槍の刺突を剣で受け流す。
お互いAGI2千を超す速度でのぶつかり合いを、掠り傷一つ受けることなく防いでいく。
「そらよッ!」
不意にアドルフが【ジェム】を放り投げる。それはペインに向かうはずもなく、放物線を描いて彼の後ろへと落ちた。
次の瞬間そこから爆発が起こる。
「斜ァッ!!」
頭部を狙った刺突を首を傾けて回避。
直後、ペインの身体が突然硬直した。
アドルフが仕込んだもう一つの呪術、《シャドウ・スタンプ》が発動したのだ。
「《ダブルスラスト》!!」
高速移動を利用した2連撃の刺突が鎧を砕き、ペインの肉体をついに捉えた。
1撃目の刺突で【ブローチ】が砕け散って消え、2撃目が脇腹に深々と突き刺さる。
周囲の王国組のマスターは息を呑み、アドルフは勝利を確信――。
「まだだッ!!」
――した直後に、ペインの放った一閃がアドルフの左腕を切断した。
本来右腕を狙うはずだった剣は左腕に阻まれる。次の瞬間には切断され右腕も断ち切られるであろうその一瞬でアドルフは突き刺さった槍の穂先を引き抜いて剣閃から免れる。
「うごおおぉぉぉォォォ……!!て、テメェ……!」
追撃の剣閃を凌ぎ、距離を置くアドルフ。片方は左腕を無くし、片方は治癒困難な傷痍。
重篤な傷を負いながらも、再び得物を構えなおす。
「クソが……しぶといんだよテメェは……!」
「生憎、しぶとさはこの半年に身についたんでね……」
「だがまあ自動回復も限界じゃねぇのか?」
減らず口を叩くもアドルフの言葉は的を射たものだった。
3千近いMPは今や500を切っている。1万強を誇るHPももはや4千にまで削られている。
現段階で秒間10ものMPを要するペリノアの結界も、刻限が迫ってきていた。
そしてペインの簡易ステータスには【出血】と【治療困難】、【呪縛】【恐怖】、【吸魔】の状態異常を現し、5桁もあったHPも洗面台の水が排水溝へと流れ落ちるように減ってきている。あと数分もすれば彼はデスペナルティになるだろう。
「お前……こんな死にかけの国にどうしてそこまで縋りつく?」
「なんだと?」
「この国が潰れるのは目に見えている。また勝ち目のない負け戦をしても意味は無いはずだ。いっそ吸収されちまえば皇国とも楽なんだがな」
傍目からすれば時間稼ぎにも思える問答。それにわざわざ答える必要なんてないだろう。
「――確かに、遊戯派や他の国に所属している〈マスター〉ならそう思うだろうな」
「だろうな。だったら――」
「だがな」
しかしペインは、〈集う聖剣〉は否定する。
「このクランを……〈集う聖剣〉を起ち上げた時に俺達は決めたんだ。誰も亡くさない為に、今度は絶対に守り抜くために……」
あんな蹂躙めいた戦いを強いるのであれば、二度と戦争を起こさないために。
再び戦争が起こってしまったのならあんな悲劇にさせないために――。
絶望のどん底から這い上がった彼らは、
「それをこんなところで裏切ったのだとしたら、俺を信じて付いて来てくれている奴らに申し訳が無いだろッ!!!!!」
「……正真正銘のバカだったか」
アドルフが槍を振り回す。まるで槍の穂先に風をかき集めるかのように、黒い疾風が集まっていく。
正真正銘【疾風槍士】の奥義、《フリューゲル・バースト》だ。
《シャドウ・スタンプ》による状態異常をMPレジストで自力で解除できたが、この攻撃を受ければまずペインの残りHPが消し飛ぶだろう。
デスペナルティ覚悟の上で剣を構えるペイン。
やがてアドルフの槍に奥義を発動できるほどの風を纏っていき、放たれるのは目前に思った時――、
『――いったい何をやっているのですかあなたはぁ!!』
――静寂を張り裂くかの如く、女性の怒声が響いた。
「りっ、リリアーナぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまうペイン。
怒声の主はラングレイ・グランドリア亡き近衛騎士団を率いる副団長、彼の娘でもあるリリアーナ・グランドリアだった。
彼女は怒りを露わにしていて、シュウからひったくるように受け取った拡声機能を持つ指輪から再び怒声を放つ。
『全く……勝手に王都から去ったと思ったらギデオンに移籍して、私達がどれだけ心配したと思っているんですか!?野盗クランにでもなり下がったのかと思ってひやひやしてたんですよ!!』
「誰がなるか!!大体出会い頭に兄弟子に向かってなんだその口は!?」
『誰が!あなたの!妹になったというんですか!?勝手に記憶を捏造しないでください!どっちかっていうと同い年くらいでしょう!?』
「捏造した覚えなんて微塵も無いんだが!?兄弟弟子の意味を勘違いするなバカ副団長!!」
『ばッ……馬鹿ァ!?心配しているのにバカ呼ばわりしますか普通!?』
『ステイ、落ち着け副団長。もたもたしてるとオーナーがマジで死ぬ』
『そうだクマ。頭に上った血を他に回す為のクールダウンも必要クマ』
『どうしてあなた達はこの状況で冷静でいられるんですか!?』
『『お前がこの中で一番頭に血が上ってるからだよ』』
興奮するリリアーナを落ち着かせるドレッドとシュウ。
この状況でこんなコント染みたやりとりにイオ、ふじのん、霞の3人のルーキーを筆頭に、近衛騎士達、バビ、アドルフですら絶句した。
『とにかく!あれだけ大見栄をきったのでしょう!?だったらさっさと彼を倒してしまいなさい!!』
怒声に含まれたそんな言葉には、ペインに対しての彼女なりの信頼が含まれていた。
最初から刺し違え覚悟で挑むつもりだったが、再び剣を構えたペインは新たな決意が産まれた。
「――任せろ!!」
――こんなとこでおちおち死んでいられるか、と。
「《フリューゲル・バースト》ォォォォォ!!」
【出血】が施された槍から、漆黒の暴風がペインへと放たれる。
今の状況で防ぐのは不可能。常人であれば回避するしかない。
そんな中、ペインがとった行動は――、
「《ファーストヒール》」
たった一言、最下級の回復魔法をただ放っただけだった。
直後、
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
生身で攻撃を受けたのだ。
最大レベルの《聖騎士の加護》でダメージは軽減されているものの、アドルフのロンゴミニアドの【出血】の強化の前ではあまり意味を成さない。
その行動は、傍目からすれば自殺行為だろう。誰の目にも明らかなそれを見ても、アドルフの顔は晴れない。
「あ……」
「結界が……消える……」
必殺スキルで展開していた結界が、頂点から溶けるように消えていく。
満身創痍のペインにもうアドルフを止める力は残されていない。ベテランが駆け付けるにも時間がいる。その間に彼の破壊を見過ごす訳にはいかない。
そして、万全の超級職ならまだしも相手も片腕を失っている。ルーキーであろうと連携次第で倒せるはずとルーキーを筆頭に武器を構える。
アドルフもまたルーキー達を掃討しようとペインから目を逸らし――刹那、ペインがアドルフに肉薄した。
「しまっ――」
「《聖剣折りし一撃》――《崩滅剣》!!!」
光を帯びた剣を振るい、アドルフの肉体を袈裟斬りに左肩から両断された。
《崩滅剣》はペインのジョブビルドの中の一つ【
そこに隠されたタネは、ペインの〈エンブリオ〉にある。
ペリノアの持つもう一つの特性、《反撃》。
ネメシスの特性と異なり、条件は《結界内からの結界への攻撃及び、使用者または本体へのダメージ》。それらの合計値を、防御能力貫通の固定ダメージとしてそのまま返す。
《カウンターアブソープション》のように、ダメージ無効化スキルを要さない代わりに結界へ閉じ込められた相手はその能力上、ペインを倒さなければならず彼に攻撃を仕掛ける他無い。
そして結界が解除されて安堵した瞬間、その固定ダメージが叩き込まれる。
「《フォースヒール》!《フォースヒール》!《フォースヒール》!」
アドルフの身体が両断された直後、ペインの頭上から光の粒が降りかかった。
その原因はリリアーナ。彼女の両手には淡い光が纏っていた。
「ごふ……っ」
両断されたアドルフが血を吐く。
普通なら両断された時点で事切れていてもおかしくない。
それでも数秒後にはデスペナルティになるのは免れない。
そんな状態でも、アドルフはペインを睨む。
怨嗟をまき散らすような怨讐をこれでもかと込めた目で。
「…………次は、この国を潰してやる」
その言葉を遺し、光の塵となって消滅した。
「……させないさ。何度だって」
†
【フランクリンのゲーム最終戦:2番街の戦い】
敵陣:盤上の“キング”ことアドルフ・ペンドラゴン。
自陣:ペイン・トーマス。
勝者:ペイン・トーマス。
フランクリン旗下のPK――死亡あるいは敗走。
“クラブ”【
“スペード”【
“ハート”【
“ダイヤ”【
“クィーン”【
“ジャック”【
“キング”【呪槍王】アドルフ・ペンドラゴン――ペイン・トーマスにより死亡。
決闘都市大規模テロ計画“フランクリンのゲーム”――終結。
(・大・)<これで本編決着。
(・大・)<次回投稿は日曜日。
(・大・)<そこでエピローグ4つ一気に投稿します。
(・大・)<感想もOKです。