悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<午前中に管理AIと監獄、午後に皇国と彼女らの話を上げます。
皇国某所。【
『さあ始まりました!【第27回運営イチ押し〈マスター〉決定戦】~!!』
『わーわー!』
「……」
耳に装備したイヤリングから少女の宣言と共に、また別の少女が乗り気で拍手する音が聞こえてくる。
……今の状況を端的に説明しようか。
僕は【兎神】クロノ・クラウン。表向きは皇国のPKという〈マスター〉だが、正体は〈Infinite Dendrogram〉の時間担当である管理AI12号ラビット当人。
ついさっきに入ってきたのは良いが、いつの間にか着けた覚えのない装備品が取り付けられ、外すことができずに戸惑っている所に例の2人の少女、管理AI1号のアリスと11号の片割れトゥイードルディー。
……多分これ、アリスと双子の仕業だ。双子は忙しいはずなのに。余裕か。
『さぁて恒例になりつつある【第27回運営イチ押し〈マスター〉決定戦】。今回のテロは私達からしても大きい収穫だったわ~』
『現に〈超級〉に至る可能性のある〈マスター〉が何人も見つかった。主にテロ鎮圧に尽力したルーキーが多い』
『なので!私達管理AI達が独断と期待で決めた相手を紹介していこうというコーナーで~す!』
「……とっとと始めてくれる?」
もう一方の片割れの説明に苛立ってくる。忙しい身だって解ってて引き延ばしてるよね?
まあでも、朝にでもなれば皇国にも〈DIN〉の新聞で知ることになるだろう。こちらにとってはフライング気味だけどね。
そんな中最初に声を上げたのが、奇怪な喋り方をする男だった。
『ワァタクシはサリィ・ホワイトリッジでぇすね』
その声は管理AI9号、アイテム担当のマッドハッターだ。
相変わらずの口調は、どうも僕には馴染めない。他のみんなは長い付き合いだから慣れてしまったんだろうけど。
『彼女なら、ワァタクシが発見した特別な〈超級職〉、【
「【避神】?」
そんなのあった?
『“三強時代”開始から1739日と23時間後に、それに就いているティアンをマッドハッターが見つけたのだ』
「なるほど。で、条件は?」
『前衛戦闘職の合計レベルが100に達すること』
は?それが条件のひとつ?
【
これじゃあ他の条件も割とハードルが低――、
『それとレベル100までに相手から受けた物理、魔法ダメージによる損失HPが100未満であること。失敗したら全ジョブリセットしてやり直し』
――くねぇ!?
何そのアホみたいな条件!?絶対達成させる気無いよね!?【
というかダメージ100未満なんて今の〈超級〉でも達成できないでしょ!?今の戦闘系〈超級〉が規格外になるまでに何回死んだと思ってんのさ!?
あと失敗したデメリットデカすぎるよ!!全ジョブリセット前提でなんて余程頭のネジが取れた奴じゃなきゃやんないよ!?
『ですぅが、【
「い、いたんだ……」
そのティアンの顔が見てみたいんだけど。時代的にもうこの世にいないのが残念だ。
『私はあの姉妹よ。確か……ユイとマイね』
次に声を上げたのは〈エンブリオ〉担当の管理AI2号のハンプティダンプティ。
サービス当初からシュウとかいう〈マスター〉に目を着けていたが、最近はあの姉妹にも興味を持ち始めたらしい。
『あの子たちは気付いていないでしょうけど、あの〈エンブリオ〉は特殊な必殺技を兼ね備えている。気付いたらきっと大抵の準〈超級〉には手が付けられないでしょうね』
「そんなに凄いの?たかがルーキーでしょ?」
『38人』
「え?」
『あの姉妹が倒したPKの数よ。勿論、2人合わせれば倍はあるけどね』
……どんな〈エンブリオ〉になったらそんなことができるの?
一応相手は全員格上なんだよね?
『私はレイ・スターリングだ』
今度は〈UBM〉担当の管理AI4号のジャバウォック。
……良かった。今度はまともそうなのが出た。
『これまでに2体の〈UBM〉を単独撃破してきたのだ。私の知る限りでは、彼ほど私の望む英雄叙事詩を叶えてくれている者はそうはいない。いうなれば、これからが楽しみということだ』
「……」
OK訂正。全然まともじゃなかった。
2回も〈UBM〉のMVP討伐なんて普通じゃできねぇよ。遭遇自体稀だし。つか、ゴゥズメイズに至っては完全に単独撃破じゃないか。メイデンの〈マスター〉でもそんな真似そうはできないよ?
閑話休題。
しばらくして参加者の話も進み、ついに最後の一人を残すこととなった。
大トリを担うのはモンスター担当、管理AI3号クイーン。
『私はメイプル・アーキマンだ』
「ああ、アポストルのルーキーか」
話は聞いていた。
にしてもアポストルなんて珍しい。彼女が来る前は奴を含めても3人しかいなかったくらいだ、否応なしに耳に届く。
『あの小娘、私が品種改良を重ねに重ねた【亜竜甲殻蜊蛄】を呆気無く殺したんだぞ……!アイツをけしかけて生かしたまま内臓引きずり出して殺してやる!!』
私怨駄々洩れじゃないか。いい加減落ち着けって。どんだけ根深い恨みを持ってんだ。
それにしても……。
「アイツって?」
『“聖剣王時代”と“三強時代”の間……“乱世の時代”とも呼ぶべきその時代で認定された〈UBM〉だ。今は別の〈UBM〉が寝床にしていて、確か後者はクイーンのデザインしたモンスターだったな』
「寝床?認定されたほうはマンション型の〈UBM〉か何かなの?」
『あれは色々あったからな。向こうは深い干渉をしないのを条件に寝床を提供している。認定している方は古代伝説級、例のモンスターは伝説級だ』
「……みんながみんなそのレイ・スターリングじゃないんだから、ほぼ死ぬよね?」
『うんうん。みんな思い思いに期待している人がいるんだねー。私も感激だよ!』
「無理矢理参加させといてよく言うよ」
『権限で強制ログアウトさせるよりはマシでしょ?』
その指摘をされるとぐうの音も出ない。
僕の事情を読み取ってくれたんだか知らないけど。
……あれ?そういえば一つ忘れてるような……?
「……チェシャは?」
そういえば奴の声はまだ出ていない。
毎回このくだらないイベントに首を突っ込んでいたあの猫が今回に限って参加を見送るとは思えない。
まだトム・キャットして王国にいるのか?
『ああ、奴なら13分23秒前からレドキングの所でヘルプの最中だ』
返答したのはトゥイードルダムだ。
レドキング……“監獄”の手伝い?
『その通り~。例のテロでPKも過半数が“監獄”に送られちゃったからね~。その処理に駆り出されたんだって~』
『私も覚えている。チェシャも参加したかったと顔に書いてあったぞ』
そりゃ毎年楽しみにしてた矢先に仕事送り付けられたらたまったもんじゃないよね。
それにしても、
「“監獄”ねぇ……」
そういや、アポストルの〈マスター〉って管理者含めて全員“監獄”関係者だよね。
元カレ殺害とついでの器物損害と傷害罪の暴走マシーン、罪状不明の引きこもり、管理者――。
「アポストルの〈マスター〉が1回“監獄”にお世話になるのがジンクスになってない?」
ここまで続くとそんな言葉が自然と出てしまうのだった。
(・大・)<因みにこの話だけ時系列がテロ終息直後。
(・大・)<他はデスペナ明けなので最低3日後となります。