悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<後半最初はドライフから。
皇都ヴァンデルヘイム。〈パレス・ノクターン〉
「ただいま戻りました~……」
「応、随分コテンパンにされてきやがったな」
〈LotJ〉――〈ロウ・オブ・ザ・ジャングル〉のクランホームである〈パレス・ノクターン〉に数人が倒れ込むように来店……いや、帰ってきたと言ったほうが正しいか。
その筆頭はオーンスタイン。“フランクリンのゲーム”で“ジャック”を務めた〈マスター〉達だった。
モヒカン頭にゴーグル型のサングラスを着けた男、モヒカン・エリートが事の次第を察したような口ぶりで飲料水の入ったペットボトルを彼らに差し出す。
「ああ、どうも。――全く、ゲームの中で三途の川を見る羽目になるとは思っていませんでした」
「フランクリンの八つ当たりってやつかい?」
「あれは八つ当たり程度で済むレベルじゃなかったと思いますが?」
デスペナ明け早々、オーンスタインの一味はフランクリンに闘技場に連れられ、そこで延々とモンスターの性能テストという名目のサンドバッグにされていた。
その理由はユーゴーの始末を独断で行った事らしい。
顔には出ていなかったが大層キレていたらしく、『私の秘蔵っ子を勝手に殺そうとした気分はどうだったんだい?ねえ?ねえ!?』と、思いっきりストレス発散の捌け口にされてたんじゃないかと加担したマスターは顔を青くしながら語っていた。
しかも事前に闘技場で連戦設定していたのだ。
殺されてはその場で復活して、また殺されてはすぐに復活……延々と続く無限地獄。
殺された回数だけならば、かつてフランクリンを殺したが故に、延々とメタ能力満載モンスターに殺され続けたマスターよりも多かった。遊戯派でも神経がガリガリすり減らされるレベルの拷問である。
『新しい悪魔の戦略を思いついたから試したい』という単純な理由で参加した代償としては、あまりにも大きい物だった。
「帰ったかオーンスタイン」
「オーナー。申し訳ありま――」
「お前の土食っていいか?」
「……第一声がそれですか?」
「冗談だよ」
「その手のジョークはあなたが言うと本気でやりかねないと思いますがね?」
次に声をかけてきたのは伸びた髪で右目を隠した成人男性のマスター、カタ・ルーカン・エウアンジェリオンと傍に帽子を目深に被り、口元を服の袖で隠している人物。帽子の人物のほうは身体つきから女性だろう。
……女性とカタの自分達を見る目つきが、自分達を捕食対象として見ているような気が抜けない。
「ああそうだ。その〈叡智の三角〉なんだがよぉ」
「よして下さい。今あのクランやフランクリンの名前を聞きたくない……」
「だったら事務処理でもするか?たっぷり溜まってやがるぜ」
「……気分転換には丁度良いかもしれませんね」
オーンスタインはモヒカン・エリートの肩を借りてふらふらと事務処理へ。他のメンツも気分を悪くしたのか、早々にログアウトした。
†
皇都郊外。〈叡智の三角〉ホーム。
「邪魔するぜ」
ノックも無しにフランクリンの部屋に入ってきたのは、アドルフ・ペンドラゴンだった。
フランクリンからは意外な客と思ったのか、机越しに面食らったような顔をしている。
「どうしたんです?意外と早い復活ですね」
「あ?どういう意味だ?」
「いやぁ、因縁の相手にコテンパンにされて、てっきり私は今頃リアルでヒステリー起こして八つ当たりしてるんじゃないかって――」
「そうか。じゃあこの話はまた3日後な」
「真顔で《フリューゲル・バースト》準備しないでくれませんかねぇ!?」
閑話休題。
「で、いったい何事なんですか?こう見えて私は今かなり忙しい身ですよ?」
「長居するつもりは無いから安心しろ。用件はこれだ」
あわや2度目のデスペナを何とかアドルフを宥めて回避したフランクリンが用件を尋ねる。アドルフは改めてアイテムボックスから資料を取り出した。
差し出された資料には、皇国のこれまでの歴史が纏められたものだった。所謂、アドルフ自身が書いたレポートだろう。
あらかた内容を見たフランクリンは資料を放り捨てるように返す。
「歴史のお勉強ですか?考古学者のほうがもっといい論文を出してくれますよ?」
「ああ悪い。皇国の始まり辺りから片っ端にまとめたのを忘れてた。ツヴァイアーの時代ん所と……これだ」
そう言って渡した資料のあるページを指した後、今度は別の資料を渡す。
ウンザリした表情でそれらを見比べて――表情が一変した。
「これ……M国の資料ですね?」
M国。
かつて世界の3分の1を牛耳っていたと言われる世界でも指折りの大国家の名前だ。
特に機械分野に精通し、現代では当たり前となった機械の発明を手掛けている。
しかし、その栄光は急に途絶えてしまう。
その原因は――ナノマシンのエラーによる土壌汚染。
農作地に栄養分泌ナノマシンを開発したものの、原因不明のエラーにより土壌に過剰な栄養を送ってしまい作物は全滅。向こう100年は植物が育たないだろうと国外の技術者達は結論付けた。
農作物の全滅をきっかけに内乱が始まり、M国各地でテロが発生。そして2023年。地図から、地球上からM国の名は消え去った。今でも荒廃した都市が閑散と乾いた風を受け、不自然に広がった荒野はかつての失敗を明確に物語っている。
当然、〈Infinite Dendrogram〉にはそんな国は存在しない。
M国は――現実に存在した国の名前だから。
「ナノマシン技術は癌治療以外ではロクな成果はありませんからねぇ。今じゃ政府ぐるみで適用技術以外でのナノマシンの使用は厳重な審査や検査の裏付けを立証されない限り禁止されてますし」
「ここからは俺の推測なんだが、原因は土壌用ナノマシンの活用期間が過ぎたことによる土地の枯渇。今皇国の土壌の殆どがそれらに害されたものになっている。“三強”時代の時も皇国領土内の国は食に関しちゃ流通で補っていたと思っている。それに……」
「それに?」
「いや、これはあくまで最終手段だ。今情報を集めてるが、8割以上眉唾物って感じだからな」
今のは忘れてくれ、と言いかけたその時、着信音が鳴る。
アドルフがアイテムボックスから今度は【携帯式通信魔法機】を取り出し通話に出る。
「どうした?ああ、そのことか。A班は【
「……」
「あん?どうした?」
余りの手際の良さにフランクリンも絶句。
通話を切って呆然と見つめる自分に声をかけられて、やっと我に返った。
「いや……確かあなたここに来た理由って、『王になる』って事でしたよね?」
「それが?」
「凄い手際ですよねぇ。やり手の社長ですよ」
「あの皇女との交渉に応じただけだ。それに、ここ半年農業とかの知識を徹底的に叩き込んだし、実験も試せるだけ試しまくった結果だ」
当初、彼は王になるという野望を抱いてペインたちを裏切り、〈円卓決議会〉はドライフへと亡命した。
皇女クラウディアとの交渉も無事に済んだものの、彼が目の当たりにしたのは……死んだ土地だった。
枯れた原因は不明。皇国の技術者達が手を変え品を変え工夫を凝らしても、まともに育つことは無かった。
――このままじゃ俺の王国は成り立たない。
焦燥感に駆られ、彼のクランは旧ルニングス領西地区で新たなクランホームを構え、復興へと尽力していった――。
今では西側の開拓も70%も進んでいるという。セーブポイントがまだ王国領土である分、不便さは否めないが。
彼にとっては仮に戦争が起きなかったとしても、ルニングス領域全部は皇国のものとしたい思いがある。
「いっその事リアルで政治家とかになったらどうなんです?案外、まともな世の中にしてくれたりして」
「もういっぺん殺してやろうか?」
「なんでぇ!?ちょっと褒めただけじゃないですか!?」
「口八丁でたぶらかす連中と一緒にすんなよ」
「あ、そ……」
ロンゴミニアドを紋章に収めるとアドルフは〈DDCドライフ支部〉へと向かう為に〈叡智の三角〉を後にしたのだった。
「……やれやれ、変なプライドを持ってる人なんですねぇ。将軍閣下とはまた違った方向で面倒な方だ」
呆れたような物言いで苦言を零す。
妹というブレーキを、テロを阻害した責任で旨く丸め込んで追放したとはいえ、面倒な相手は皇国にもいるにはいるものかと頭を抱える。
そして先のやり取りを思い返し、「ナノマシン……極小……現実の応用……」と色々呟いた後――何か思い出した。
「そういや、目に見えないほど極小の〈UBM〉もいましたねぇ。――いや、そもそも勘付かれたらアウト……ちょっと待って。確か何かのミステリードラマで……どれだったかしら?」
思わず素の口調に戻ってしまった彼――いや、彼女と言ったほうが正しいか――は、その結果を確かめるべくログアウトする。
――2度も自分の計画を覆した、レイ・スターリングを折るために。
(・大・)<次でエピローグ最後。
(・大・)<すなわち第3章終了です。