悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
決闘都市ギデオン 4番街、とある宿屋。
「メイプル、真剣に聞いてほしいの」
“フランクリンのゲーム”から3日目の朝。
サリーから呼び出されたメイプルは、ログインして宿屋に向かうと部屋に案内され、テーブルを挟んでサリーと対峙していた。
ヒドラはまだ紋章の中で修復中。今この部屋にいるのはメイプルとサリーの2人だけだ。
「ど、どうしたの?急に改まって……」
「……いつか話そうと思ってたんだ。このことは後回しにしちゃいけないと思って」
何時になく真剣な表情で自分を見つめるサリーに、メイプルは身体を強張らせる。
それからは少し沈黙が部屋を包む。まるでこれから話すことを躊躇っているかのようにサリーは黙り込み……やがて意を決して語りだした。
「私は、自分のわがままの為にメイプルに、楓に癒えようの無い傷を与えた。それがずっと私の中に残っていたんだ。私がロクに下調べもしない所為で、楓をこんな目に遭わせたんじゃないかって……」
世界的なブームに惹かれ、友達を誘って、そしてその友達を傷つけた。
サリー自身は軽率な行動を取った自分を怨み、友達を傷つけた事実を嘆いた。
「私は……あのPK連中と同じだよ」
「そ、そんなことないよ。私だけだったら右も左もわからなかったし……」
「それでも、外へ連れ出したのは私だよ。楓だけだったら、あの職業に就いていたんじゃない?」
メイプルが必死に否定しようにも、サリーは一蹴し、続ける。
「あの日にログインした時だって、もう絶交されるんじゃないかって覚悟していた。ここから先は独りでこのゲームをやろうって思っていた……けど、楓は私を赦してくれた。その時は思いっきり反論したかったよ」
「そんな、私はサリーの……」
「馬鹿にしないでよ!!友達をそんな目に遭わせておいたのをコロッと忘れてゲームにのめり込むほど、私も人間捨てちゃいないわよ!!」
サリーの怒声に思わずたじろぐメイプル。
こんなにも感情を露わにしたのは彼女も見たことは無かった。
「理沙……」
思わずリアルでの名前が出る。
それでも、サリーは静かに肩を落として何も答えない。
再びの沈黙の後、メイプルはサリーを強く抱きしめた。
「……っ!?」
思わず振り払おうとしたが、メイプルの手首を掴むが、すぐにその手に込められた力が抜ける。
どうしてなのか、理由はメイプルにも、サリーにもわからない。
「ごめん。だけど、これだけは言わせてくれないかな……?」
メイプルはそのままサリーを抱きしめ続ける。
このまま手を離せば、彼女は自分の手の届かない世界へと言ってしまいそうな気がして、届かなかった手を届かせるように。
「私は確かに、この世界は嫌いだよ。それでも、私の勝手で理沙の手から〈Infinite Dendrogram〉を取り上げたくなかった。だけど、悲しい事や辛い事だけじゃない。新しい友達に出会えた。やりたいことを見つけられた」
まるで赤子をあやす様な優しい言葉は、サリーの身体から余計な力を溶かす様に抜ける。
「だから、サリーも自分のやりたい事に正直になって。」
メイプルの言葉は、サリーが架した罪に対しての赦し。
今も信じられないようなサリーが、震えるような声で、メイプルに尋ねる。
自分を抱きしめる少女に縋るように。
「楓……楓は、私を赦すの……?」
「……うん」
「……ダメ。やっぱり私は――」
「本当に後悔しているのなら、言ったよね?絶対に死なないって。その約束だけは絶対に守って」
「……」
カーレンのパーソナルに、サリーは自分が裁かれるべき存在だと言っていた。
だけど、彼女自身無意識のうちに赦されることを待っていたのかもしれない。
メイプルを傷つけてしまったと気付いたその日から、自分を後悔で縛り続けていた。
〈Infinite Dendrogram〉で自分自身に課して、絡みついた罰は、自分自身の親友の手によって。
「…はは、やっぱり楓は楓だなぁ……」
乾いた笑いを上げたサリーはメイプルの腕を掴む。いや、掴むというより抱擁に答えるかのように、優しき握り返す。
「こんな……救いようのないゲームバカを簡単に許しちゃうなんてさ…………!」
その顔は涙を堪え、嗚咽をかみしめていた。
その涙が後悔によるものなのか、赦されたことで張っていた気が緩んだことによるものなのか、その真相は2人にしかわからない。
だけど、彼女らはこれからもこの世界で生きていくだろう。
†
「それで、どうするの?」
サリーのひとしきりの涙の後、宿を出た2人。
サリーがくるりと振り返って尋ねてくる。
その顔に後悔はなく、吹っ切れたように明るい笑顔だった。
「うん。まずは上級職に、かな?」
メイプルのほうも意気込みを新たに左手を握りしめる。
2人ともまだレベル50になったばかり。形態も第3だ。
彼女の道の先、到達点に親友を殺した鎧のPKがいる。だが、それはまだまだ先の話だ。
獲物を決闘都市との交通改善を理由にフィガロに横取りされはしたが、その目標は変わらない。
サリーもまた、心おきなく回避特化への道を邁進するだろう。
「やっとスタート地点に行ったんだもの。お互い頑張ってこ」
「――うん!」
差し出されたサリーの右手を、左手でがっちりと掴む。
彼女たちは漸く、スタート地点に立ったばかりだ。目指す目的は、遥か彼方。
それでも彼女らはそこへ向かい続けるだろう。
ある〈超級〉が、泣きじゃくる弟に言い放った言葉を借りるのであれば、『例え無数のゼロの先の小数点の彼方の可能性』へと、手を伸ばすだろう。
お互いの目標の為に、彼女たちは動き出す――。
†
――駄目だ。まだ足りない。
――もっと、もっと強度を高めなきゃならない。
――大盾の俺があの程度の敵に壊されてりゃ、この先マスターを守ってやれるはずがない。
――……つくづく情けないよな、本当に。
――毒殺特化の分際で無生物やアンデッド相手に手も足も出ない上に、亜竜級程度でやられるようじゃ、世話無いってもんだ。
――このままじゃ、この先確実に俺は足を引っ張ることになる。
――どんな相手にも対応できる毒と、盾の強度の向上。それ以外は考えるな。
――なんだ?こんな時に新しいスキルか?
――これは……。
EPISODE3 END。
(・大・)<第3章ようやく終了。
(・大・)<この次の話はリアルの話を1つとギデオンの日常をいくつか。そこから姉妹の話で決闘の閑話になります。
(・大・)<ここまで見てくださった読者の皆様方、評価を入れて下さった皆様方。本当にありがとうございました。
(・大・)<ただし完結とは言っていない。
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