悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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まだまだ連続投降いきまっせ。


極振り防御と凶城(マッドキャッスル)

サウダ山道 【闘牛士】サリー・ホワイトリッジ

 

 

私のエンブリオ、【呪転舞踊 カーレン】が孵化した直後、いきなり現れた鎧に私達は思考が停止した。

見るからにこの場に合わない巨体と威圧感。フルフェイスのヘルムと地肌の見えない鎧は初心者からみても分かる。

 

「いたいた!おカシラがが先回りするなんて珍しいですねぇ!」

 

『クカカカカ!俺らが陣取ってたところにこいつらがノコノコ来ただけだ』

 

「これで30人目だなぁ!今日もがっぽりじゃねぇか!」

 

「可哀想なお嬢ちゃんたちねぇ~?」

 

逃げようとしたところで、ギャング風の男やモヒカン頭の男など、見ただけでガラの悪いプレイヤーたちに囲まれる。

 

「な、なに?何なのこの人達?サリーの友達……じゃないよね?」

 

パニックになるメイプルの隣で、私は今の状況を理解できた。

――こいつらの獲物はモンスターじゃない、私達だ。

 

『じゃあとりあえず……そこのチビから潰れちまいなぁ!!』

 

「……!?」

 

思考停止とパニックで動けないメイプルを鎧が手にした盾で潰そうと振り下ろす。が、それより早く私がメイプルを担ぐ形でギリギリ攻撃を回避できた。

あとは一直線に逃げれば生き残れる。と思っていたらさっきのプレイヤーに退路を阻まれる。

やばい、こいつら見た目よりも統率が取れている。

 

『逃げ足だけは一丁前だな。その靴が〈エンブリオ〉のようだが、まだ第1形態だろう?この中じゃ一番弱ェ、簡単な――あン?』

 

鎧がメイプルの手の甲に気付いたのか、言葉を遮った直後に大爆笑する。

 

『ダァーッハッハッハッハッハァ!!こりゃ傑作だ!このガキまだ第0じゃねぇか!!』

 

「ぶほっ、マジですか!?」

 

「ドンだけトロいんだよそいつの〈エンブリオ〉!」

 

「ちょ、やば、お腹痛い~!」

 

メイプルの〈エンブリオ〉が孵化してないのを見て爆笑が伝染する。

けどこっちは全然笑える状況じゃないし、今の装備じゃこの取り巻き達にすらダメージを与えられない可能性が高い。

だったら……。

 

「目的は何なんですか?」

 

メイプルを下ろして率直な意見を投げかける。

 

「あァ?んなもん教える必要がどこにあるんだよ?」

 

「いやいや、もしかしたら私達、貴方達の欲しいものを持ってるかもしれないんですよ?お金もありますから」

 

嘘だ。

でもこれで応じずともこいつ等の目的が分かるはず。

 

『ほぉ。で、どれくらいだ?』

 

「合わせて1万リルってところでしょうか?」

 

『ハッ、2人で1万だぁ?そんなんで割に合うと思ったら大間違いだぞ?』

 

「そうそう。2人で1万より2人で2万じゃねぇか?雇った奴が1人1万でPKし放題のほうが俺たちにとっちゃ楽な仕事だろ?」

 

つまり1人1万リル――現実で10万円相当――でPKを請け負ってるってことね。

向こうにとっては美味しい仕事だけど、狩られる側はたまったもんじゃないわよ。

でも情報は割れた。後ろの鎧の奴がフルフェイス越しでも苛立ってるのが分かるけど、さっきのギャング風の男の失言に気を悪くしてるみたい。

 

「じゃあアイテム!アイテムがならどうです?」

 

『バカかお前。第1に第0のマスター2人でどんなものを持ってるんってんだ?『私は初心者です』って書いた看板持ってフィールドをうろついてるモンだろうが。お前ら、もう御託はその辺にしてとっとと狩っちまいな』

 

ガラの悪いプレイヤーが獲物を構えて私達ににじり寄る。

このままいけば私達は抵抗虚しくPK()される。けど、このアイテムを使えばメイプルだけでも……。

 

「メイプル、一旦目をつぶって」

 

「え?」

 

怯えるメイプルにそっと耳打ちして、カバンの中のあのアイテムを起動し――。

 

「約束通り……これをあげますよ!」

 

“それ”をPK(プレイヤーキラー)に投げつけた。

 

「なんだこれ?」

 

投げられた“それ”を反射的にモヒカン頭の男が受け止め、

 

『ッ!捨てろバカ!!』

 

鎧が盾を構えた瞬間、

 

 

 

 

“それ”が、ショップで購入した閃光玉が破裂して激しい光を放つ。

 

「ぐああああッ!?」

 

「目がッ、目がああああああ!?」

 

「ぎゃひいいいいぃぃぃ!!」

 

「メイプル、ごめん!」

 

「えっ、うわぁ!」

 

光の中、メイプルを再び抱え上げて斜面を滑り降りていく。

この世界でログアウトをするには、誰にも触れられず、攻撃もされてない状況でしかできない。しかも30秒の時間を要する。

犯罪防止の為とはいえ、これじゃあ逆にPK(プレイヤーキラー)にとって有利すぎるシステムだ。とにかく遠くへ。メイプルだけでもログアウトできる時間を稼げる所へ逃げるしかない。

 

 

 

 

 

『――クソッ、何やってんだてめぇら!!』

 

「す、すいやせんおカシラ!」

 

「あの青チビ、絶対に許さない!」

 

『連絡だ!ジョーダン、魔ムドー!テメェらは南門の道に先回りしろ!王都に逃げ込ませるな!ゴロー、晩ブル、モヒカンXは俺と一緒にあのガキを追うぞ!!』

 

 

 

 

サウダ山道:道外れ

 

 

 

「サリー、ここ王都への道じゃないよ!早く引き返して!」

 

「ううん、あいつら無駄に統率が取れてるし、PKに手慣れてるから先回りしてるかもしれない!気付かれずにログアウトするしか方法が無いの!」

 

ログアウトすればセーブポイントに帰還できる。でも、あいつらがそんなに生易しいならこんな苦労はしない。

どこか、どこか隠れる場所があれば……!

 

「!」

 

焦燥感に駆られる中、小さな横穴を見つけた。丁度目立たない場所で掘られていて、私達サイズの人一人なら余裕で入られる。

その近くまで来た私はメイプルを下ろし、不安のさなかにいるメイプルに言い聞かせる。

 

「いい?私が奴らを引き付けるから、すぐにログアウトの準備をして」

 

「ま、待って!サリーはどうなるの!?一緒にログアウトしたほうが……!」

 

「それだと2人とも確実にやられる可能性が高い。とにかくメイプルはここでログアウトが完了するまで隠れてて。あ、ちゃんと再ログイン場所はセーブポイントに設定してよ?」

 

駄々をこねるメイプルも、渋々ログアウトの準備と共に洞穴に身をひそめる。近くの茂みを刈り取ってそれを洞穴に被せて偽装していると、奴らの声が聞こえてきた。

ここにいたら折角の作戦が全部パーだ。広く、そしてメイプルから離れた場所に誘導しないと。

 

 

 




次はサリーのターン(嘘)。
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