悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(・大・)<接続章、

(・大・)<日常回です。



3.5章1/3:極振り防御と平穏日和。
極振り防御とリアルエンカウント。


 

現実、総合病院 本条楓。

 

 

「……」

 

「……これは、思ったより経過が早いですね」

 

「と、言いますと?」

 

「PTSDの症状が思った以上に優位性が高くなっているのです」

 

「つまり、トラウマの克服が進んだということですか?」

 

「はい。完治した、という訳ではありませんが。4月の入学は無理でも、長くて6月の上旬には登校に差し支えないレベルにまで回復するでしょう」

 

 

 

 

「楓、どうだった?」

 

「うん。長くても6月には入学だって」

 

「じゃあ私も学校生活になったらデンドロは控えておくか。楓の勉強をとっておくのもあるし」

 

迎えに来てくれた理沙に診察結果を話しておき、私は一度両親と別れて理沙と共に帰路に就く。

最初、2人とも渋い顔を見せていたが、私の説得で折れてくれたらしい。理沙も深々と頭を下げてお礼を言うと、久しぶりに2人きりになって歩き出した。

 

「……なんか、久しぶりに思えるね。この景色」

 

現実ではたった数日やそこらだっていうのに、何十年も遠くへ旅立って行って、今日久しぶりに帰郷してきたような気分だった。

それほどまでに、〈Infinite Dendrogram〉での日々が濃かったのかと思う。

 

「……!」

 

「楓ッ、大丈夫!?」

 

――嫌なことも思い出してしまって思わず吐きそうになった。

いけないいけない。こんなんじゃ本当にトラウマ脱却なんてできやしない。

 

「……他のみんなはどうしてるのかな?」

 

「流石にわからないよ。案外近くにいる人も居たりして」

 

話題を変えた理沙の冗談に私も笑いながら頷く。

そしてそこから、もし近くにいるならどんな人がいるんだろうと会話が弾んだ。トラウマによって起きかけた吐き気ももう消えた。

レイさん、シュウさん、ユイちゃんにマイちゃん、カスミ、カナデ……。ちょっと思っただけでも候補がこれだけ思いつく。

 

「……ん?」

 

その時、あるショーウィンドウの前にいる少女を見つける。

黒い髪を肩まで下げた、私達と同い年の女の子だ。背丈は私と変わらない。いや、私よりちょっと低いかも。

スマホで日付を確認してみると、今日は終業式の2日後、つまり春休みは始まったばかりだ。卒業したばかりの私達には関係ないけど。

何か気になったので、暫く木の影から観察を続けてみる私と理沙。

 

「ねえ、あの子知ってるの?」

 

「あー……知らないけど、なんかどこかで会った気がするんだよね」

 

「本当?どこで?」

 

「んー……それがどこなのか思い出せない」

 

どうも最近会った気がしてならない。でも現実であんな子と会った?

その女の子は店の中に入ると、受付の人とやり取りをして晴れやかな顔をして店を出る。

 

「あ……」

 

その顔を見て、私の中に確信が来た。

幸いすぐに信号が青になったので、理沙と共に女の子の所へ駆けつける。

 

「ちょっと楓、どうしたの?」

 

「あ、あの!」

 

「!?な、何か?」

 

女の子も理沙も戸惑っている。特に女の子はいきなり呼びかけられて警戒心が高まっている様子だ。

 

「あ、あの……違ってたらごめんなさい。あなた――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュリエットさん、ですよね?」

 

「……え?」

 

 

 

 

とあるカフェ 黒崎樹里。

 

 

「メイプル・アーキマン、だとぉッ!?」

 

しまった。ショックのあまりどこかのOTONA見たいに言ってしまった。

現在私はロングヘアの子とショートヘアの子に連れられてあるカフェに連れ込まれた。

そこで黒髪の子は自分をメイプルだと明かして今に至る。となると隣にいるのはサリー・ホワイトリッジか!?この子らリアルの漆黒の盟友(友達)か!?

 

「まさか本当にリアルで会うとは思ってなかった……」

 

「……確かに」

 

よもやこんな近くに住んでるとは思ってませんでした。

家もその気になれば行けない距離じゃない。

え?こんなご近所さんとも呼べなくない距離だったの?

 

「んじゃあ改めて自己紹介ね。私は白峯理沙。デンドロじゃサリー・ホワイトリッジって名乗ってるわ。でも驚いたよ。てっきり私より年上かと思ってたのに」

 

「それは……」

 

それはこっちもだよ、と言いたい所だけど言葉が出ない。元来の性格を今日ほど呪ったことは無いと思う。

デンドロでの2人――特に本条さんの容姿の背丈は現実の私とほぼ変わりない。それで私は同い年かと思ってたら、今年高校生になるところらしい。

見かけによらないとはこのことか。

 

(…それにしても、随分やつれてるなぁ……)

 

私の目に留まったのはメイプル――もとい本条さんの姿。

アバターでの容姿はいかにも健康体だったけど、今目の前にいる彼女は今まで病床に伏せていたのか少しやつれていて、伸ばした髪も毛先が色が抜け落ちたように白い。

とはいえ幾ら気になったとしても、多分そこは私が踏み入れちゃいけない領域だ。

 

「……あの、何か?」

 

「ああ、ごめんなさい!考え事してて……!」

 

やっちまったあああああああああああああああ!!!!

何やってんの私は!?そりゃこっちじゃクラスメイトの輪に入れずにぼっちかましてて、デンドロでも決闘ランカーくらいしか知り合い居ないってのにここで好感度下げるなんて自殺行為にもほどがあるでしょ!?

馬鹿なの!?死ぬの!?今日死んじゃうの!?世界の終末戦争でも始まるの!?

 

「ああそうだ。昨日ヒドラが変な奴って言ってごめんね。なんか気にしてたみたいだったから」

 

「ヒドラ?」

 

「楓の〈エンブリオ〉よ。アポストルとアームズの複合だって」

 

アポストル……デンドロにもあったのは聞いたけど、あれだったのか。

あれってどんな条件で覚醒するのか良く分かってないんだよね。どういう心境で覚醒したんだろうか?

……まあ、それも踏み入れちゃならない領域なんだろうけど。

 

「それにしても、VRゲームってあんなにリアルなことができたんだね。……まあ、リアルすぎるのも問題だけど」

 

ふと楓がため息交じりに感想染みた言葉を漏らす。あ、これ完全に<Infinite Dendrogram>のリアルさに辞めた人あるあるな心境だ。

余りのリアルさに、現実と同じ描写で設定したプレイヤーの中にはそれが原因で最初の戦闘などのグロテスクさやモンスターへの恐怖に陥るケースが多々あるというのを聞いた事がある。

多分彼女はそれと同じようなものを抱えているんだと思い、同時に凄いと思った。

そんな状況であるにも関わらずに、果敢に格上の相手に挑み、倒せないまでもティアンを守り抜いたのだから。

“黒紫紅蓮を纏いし光と闇合わさりし勇者”(レイ・スターリング)とまではいかないけど、私よりは賞賛されるべきだと思っている。

 

「そうでもないよ。デンドロより前のは初期のころは特に酷い物だらけだったし」

 

白峯さんの言葉に「そうなの?」と意外そうに返す本条さん。

相槌を入れるならここだ。

 

「はい。〈NEXT WORLD〉は特に……」

 

〈NEXT WORLD〉は人類初のVRMMOだった。勿論当時に<Infinite Dendrogram>なんてのは無かった。

前評判を上げておきながらいざプレイしてみると……プレイヤーからの失笑を買い、落胆された。プレイ中、プレイ後の健康を害して病院に運ばれる人も現れたという。

これらの事情で開発会社は訴訟でも大敗。開発会社の倒産でこの騒動は終わりを迎えた。

それからいくつかダイブ型VRMMOは販売されたけど、成功と呼べるゲームは一つも無い。

 

それからしばらくして〈New World Online〉というVRゲームが発売された。

〈New World Online〉は<Infinite Dendrogram>以前に販売されたVRMMOの中では、先人たちの失敗を教訓に、細心の注意を払いながらも作り上げてきた逸品である。前評判をでかでかと叩きだすような真似はせずに、ただ一心に、課題をひとつずつこなしていった。モンスターも万人受けを狙ってファンシーな初心者用モンスターから強力な力を持ったドラゴンなど、多種多様。そして幾つもの階層をこしらえたステージ。

デンドロのように情報は抑え、大体的な宣伝はしなかったのが功を奏して興味を惹かれる人も多かった。

そして発売日を迎えたのだが……肝心のゲームの難易度が高く、レアスキルの情報も本人のプレイ次第だとか。ハードな難易度を楽しみたい人だったのならまだしも万人受けはできず、レビュアーも次の言葉を記載した。

 

 

 

――『夢に近付けることはできる。それでも誰もが納得のいくクオリティには至らない』。

 

 

 

それでも30年後半代のVRゲームとしては、ある種一番人気であり、<Infinite Dendrogram>のブーム到来と共に円満にサービス終了した。

約5年。10万に近いユーザーがプレイした、長いようで短いそのVRゲームの軌跡は、ゲーム業界では『最も夢に近付けたゲーム』として語り継がれているとかいないとか。

 

「所で、樹里ってどこ通ってんの?」

 

「え?あ、え……F中です……」

 

いきなり話題を振られてびっくりした。

 

「割と近いんだね。私も楓も今度からK高に入学するんだ」

 

「私はしばらく休校だけどね」

 

確かK高って、私が通うF中と割と近い所にあるんだよね?

となると春休みが明けると毎日通学路を通うのかもしれない、と……。

 

……そっかー。通学と下校で談笑しながら通うのかもしれないのかー。

 

(これは俗世で言う“漆黒の盟友”なのではッ!?)

 

ヤバい。

産まれてこのかた友達らしい友達はロクにいなかった私に、これはまるで〈NWO〉最終階層級の難易度をやらせられてるようなものッ!!やったこと無いけど〈NWO〉!

いやいやまてまて待ちなさい。私にとってこんな苦難は一度だって無いよ。曼殊沙華死音との決闘でも、最近知り合ったグレート・ジェノサイド・マックスという新参決闘ランカーとの激戦も、こんなに苦戦することは無かったよ?

 

「そうだ。後で向こうに行ったらフレンド登録する?」

 

「……はい?」

 

今なんて?

私と、フレンド登録?

トドメに更に難易度上げるつもり?

もうこっちはBERRYHARDモードだよ?その上って何?壊滅級か何かでもやれと?

 

「気にしないで。楓はこれでも人懐っこいから」

 

「人をワンちゃんみたいに言わないでよ~!」

 

茶化す理沙に不機嫌になる本条さん。

ああ、これが私に存在しないものだったのか……!

と、そこで楓も気付いたのか、私に手を差し伸べ、笑顔を向ける。

 

「――これからもよろしくね、樹里」

 

――あっ、今わかった。

この子就いてるジョブが【盾士(シールダー)】じゃなくて【天使】なんだ。

 

 





(・大・)<♪~(ドラクエのレベルアップ音)

(・大・)<樹里は漆黒の盟友(仮)を手に入れた!

〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?

  • 『thunder storm』
  • 『ラピットファイア』
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