悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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閑話:〈UBM〉、その始まり。

 

そのモンスターは、黄河の山中に産まれた。

洞穴の陰鬱な習慣により、外界との接触を可能な限り拒んでひっそりと生き延びていた。

黒毛の猿の群れの中、彼だけがその因習に嫌気が刺し、長に抗議した。

それが長の逆鱗に触れ、側近の猿に袋叩きにされてしまい、挙句谷底へと捨てられた。

 

何故だ……何故こんなことに……。

 

血に飢えた小鬼から必死に逃げる中、黒毛の猿には理解できなかった。

ただ一言、長に意見しただけだった。

それなのに、この理不尽な仕打ちは何だ?何故こんな目に遭った?

長は洞穴の中での群れの統一のみを考え、相応の平和を保っていた。

彼は長にとって異物だった。

 

逃げて、逃げて、逃げて。

逃げ続けて生きる気力も消えかけ、満身創痍だった彼の目の前に、“何か”が落ちていた。

いつから落ちていたのか、光ってもいないそれは彼の眼には姿を捉えられない。どうにか表現するとしたら……黒い宝石。

既に正常な判断もできないでいた彼は、食料かどうかも判断することも無く、ズタズタの肉体を引きずって近付き……口にした。

丸薬を飲みこむように、そのまま嚥下する。

 

刹那、身体に衝撃が行き渡るかの如く、莫大な変化が生じた。

 

 

 

 

 

【デザイン適合】

 

【存在干渉】

 

【エネルギー供与】

 

【設計変更】

 

【固有スキル《縮地法》付与】

 

【固有スキル《黒猿の闘気》付与】

 

【死後特典化機能付与】

 

【魂魄維持】

 

【〈逸話級UBM〉認定】

 

【命名【猿門黒鬼サキョウ】】

 

 

全く持って理解できなかった。彼が聞いた事の無い無数の言葉が、脳裏を駆け巡った。

そしてその言葉が脳裏から消え去った時、……身創痍だった彼――【猿門黒鬼サキョウ】は、復活していた。

 

「……」

 

復活したその身でまず向かった先は、住処の洞穴。

 

『何をしに来た?』

 

人間の言葉に直訳すればそんな風に聞こえる言葉を発した。

しかし彼は答えず……直後、近付いていた側近の胸を貫手で貫いた。

それを合図に、虐殺が始まった。

長、側近、友人だった者、肉親だった者、年若い子――それらを次々と首を撥ね、骨を砕き、胸を貫く。

10分にも満たない虐殺の中、洞穴の中でただ一人立っていた彼を除いて、全員が血を流し倒れ伏していた。

しかし、倒れている者全員が死んだ訳ではない。骨を砕かれた者――長や側近、そして肉親はまだ生きていた。

彼はあえて生かしておいた者を引きずり、自分が落とされた谷へと捨てた。

皮肉にも、猿共は頑丈だった。

それ故に小鬼らからすれば餌が降ってきた。猿からすれば明確な死が迫っていた。

そうして黒猿はその場から去ろうとする。

 

「ハーーーーッハッハッハァ!!!小鬼共ぉ!天の恵みじゃあ!こぞって奪い合えぇい!!!」

 

その時、反対側から耳をつんざくような声が聞こえてきた。

驚いて振り返ると、自分とよく似た風貌の、白毛の猿が同じく白毛の猿を放り投げている所だった。

どかどかといきなり降ってきたそれに、しぶとく生き残っていた長は運悪く直撃を受け、それから動かなくなった。

色も性格も、全く異なるやかましい猿。

 

「ふぃぃぃ……。これで幾分かすっきりしたであろう――ん?」

 

ふと白猿がこちらに気付いた。

サキョウは思わず森の中へと消え入り、その日は二度と白猿と会うことは無かった。

 

 

それからしばらくして、サキョウは一人でティアンの行商やモンスターを襲っていた。

行商への襲撃は最初は失敗続きだったが、自分の存在が気付かれにくいというのを知った後は、行商の襲撃も成功してきた。

〈マスター〉と呼ばれる護衛も、一瞬で仲間がやられたことに混乱し、最後には矢鱈滅多に振り回すも、彼にとっては赤子の手をひねるより楽な相手だった。

 

「おぉ!やっと見つけた!」

 

その日の行商への襲撃も成功し、一人で荷を漁っている所をあの時の白猿に声をかけられた。

気配も決して人街から離れた山中で、気付かれることは無いと思って悠々と荷物を漁っていた所に現れた。

サキョウは完全に失念していた自分を呪った。

それでもこの猿を始末してしまおうと構える。

 

「いや待った待った!別に上前を撥ねようとは思ってはいない!ちと話を聞こうと思っていただけだ!」

 

白猿は両手を上げて戦闘の意思は無いことを示し、彼もまた構えを解いた。

聊か不用心かもしれないが、何故か彼にだけは警戒を解いてしまった。

 

「ほぅ。やはりあの谷におったのはお主だったか」

 

荷物の中の干し肉を肴に白猿の話し相手になる。というか、サキョウはほぼ聞きに回っているが。

聞く所によると、白猿――【猿門白鬼ウキョウ】は自分の住処だった洞穴の反対側の山に住んでいた。

その山の因習により、自分と同じく外界との接触を拒んでいた。

そんなある日、その山から程近い山村の祭りを彼は目にした。そこから興味を示し、それが炎のように燃え上がった。

その翌日――サキョウが〈UBM〉となった日――にウキョウは里山から出ていこうとして、長達に止められた。

――引くのであれば、手は出さない。

その警告をウキョウは……跳ね除けた。

投げ飛ばし、叩きつけ、彼を止めるべく牙を剥いた群れの9割を返り討ちにしたのだ。

彼が里の同胞を殺したのは恨みによるものではなく、結果としてそうなったのだ。しかし同胞を殺してしまったという罪悪感はこれっぽっちも感じていない。

里に死体を放置するのもどうかと思い、結果として谷に放り捨てた。

常人であるならばツッコミを入れる点がちらほら見えるが、サキョウはたいして気にしなかった。

この活舌な白猿が、どことなく自分と似ていたからだ。似たような境遇の異物として生まれ、周囲から拒絶され、そして周囲の奴らを葬った。

妙な親近感を感じ、お互いが惹かれたのだ。

 

「……ん?おぉ、酒か。丁度良く杯もある」

 

ふとウキョウがサキョウが奪った荷の中から酒と杯を見つける。

何を思ったのか、杯の一つをウキョウに投げ渡した。

 

「……?」

 

「ハハハ、わからん顔をしているか。実は某も良くはわからんが、人間の間では杯を交わせば兄弟になると聞いてな」

 

その推測にサキョウはただ首を傾げるだけだった。

その間にもウキョウがサキョウと、そして自分の盃に酒を注ぐ。

 

「では、これより我らは兄弟となる。よろしく頼むぞ、兄者」

 

「……ん?」

 

思わず声に出してしまった。なぜ自分が兄なのかと。

 

「ん?いや何、ワシは兄というものには性に合わんというものだと思ってな」

 

そこは単にウキョウの、弟の我儘だった。

それをサキョウは疎ましく思うことは無く、杯を掲げる。

 

「では改めて、よろしく頼むぞ、兄者」

 

「……応」

 

ここに、この〈Infinite Dendrogram〉の歴史上他に類を見ないであろう、管理AIですら予想だにしていなかった〈UBM〉の兄弟が誕生した瞬間だった。

 

〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?

  • 『thunder storm』
  • 『ラピットファイア』
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