悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<という訳で虹ヶ咲とは全く関係ない更新です。
アルター王国〈ウェズ海道〉
「本当にもうあったま来るなぁ!何様のつもりなのよ!!」
これまでの不平不満を吐き出しながらユイは一人王都から西へと進んでいった。
ここから先にはホロロ村、そして港町キオーラがある。
だが、不思議なことに自分の〈エンブリオ〉が、王都から離れるほどに重く感じている。
奇妙な感じは抜けてないが、それでも戦闘に支障が出るレベルではなく、出会ってきたモンスターは襲ってきたところを反撃で一撃粉砕。戦闘になる前に潰してしまえばいいという判断をしたユイは、今のところ戦闘向きではない【壊屋】で、最小限のダメージで進んでいっている。
「〈ウェズ海道〉……。海、か……」
正直、ユイの行きたい場所は東西南北のどこでも良かった。
西を選んだ理由は、なんとなくだ。
なんとなく海を目指したくなって、そしてふと思い返す。
(そういえば、小1のころからだったな、あの光景を夢で見るようになったの)
ユイは小学校に入学――ひいてはリアルでマイと会った頃から同じような夢を見ていた。
どこかの浜辺が見える遊歩道、隣り合う自分の父親と見知らぬ女性、2人分のベビーカー。
そしてその中にいる、外見がそっくりな2人の赤子。
「……やめやめ。こんなの考えてたらキリ無いや」
どうしてあんな夢を見るのか、どうして自分の父親の隣に女性が居るのか、どうしてあのベビーカーには2人の赤子が居るのか。
ユイには皆目見当もつかない。
思い当たる節の無い夢への思考を放棄し、西の海道を進んでいく。
距離的に大体王都から30メテル以上離れた所でユイは重大なことに気が付いた。
「しまった、ログアウトの事もあったんだった」
王国の〈超級〉の2人――特に元
一応明日は土曜なので学校の心配は無いが、流石にキリの良い所でログアウトしたいのもあった。
それなのに激情任せに出ていったせいで、肝心のログアウトの方法は良く知っていないのだ。レイレイが師匠になってからは毎回王都のセーブポイント前でログアウトしていたのもユイにとっては痛い。
暫く考えていたが、やがてある方法を思いついた。
「あ、他の人からログアウトの方法を聞いたら良いんだ」
思えば何十万人ものスケールでプレイされているこの〈Infinite Dendrogram〉。自分以外の〈マスター〉も王国にはゴロゴロ転がっているのだ。
左手の紋章を見せればティアンかどうか見分けられる。思いの外悩んでいた解決策が出来て助かった。安心した所である一団が目に入った。
「ん?おい、そこで何してる?」
「あの、すいません。ログアウト方法を聞きたいんですが……」
「あぁ?【
「いや、だからログアウトを――」
「帰れ帰れ。ろくな経験値にもならねぇルーキーが出しゃばんじゃねぇ。ととととログアウトして帰んな」
「だから、とっととログアウトする方法を聞いてるんですよ!!」
厳つい風貌の中年男性の〈マスター〉に声をかけたが、中々話を聞いてくれない。
やっとの思いで怒声を張り上げながら説明すると、やっと彼の目的と異なっていた事に気付く。
「なんだ、違うのか」
「ったく、ログアウトしたいだけなのにどうしてこんなに疲れなきゃいけないのよ……」
「まあいい、情報が洩れてなかっただけでも良しとするか」
「情報?」
「テメェにゃ関係ねぇよ!オラ、とっとと行け!」
中年〈マスター〉に追い払われたユイは一旦は引き下がるものの、その顔は明らかに不服そうだ。
「お頭、良いんですか?」
「あ?」
ユイが離れた後、手下風の〈マスター〉が中年の男に尋ねる。
そして別の手下が尋ねてきた。
「もしあのガキがアイツを討伐しちまったら、折角のアレが台無しになっちまいますぜ」
「はぁ?お前そんなこと心配してるのか?たかがレベル20の【壊屋】に何ができるってんだ?精々捨て駒にすぎねぇよ」
中年の〈マスター〉――あるクランのオーナーは手下の不安に対してにやにや笑いながら答える。
「大方あのガキは自分以上の強い奴には手は出さねぇ」
「けど、先に行った奴はどうしやがるんですかぃ?」
「ああ、弱った〈マスター〉を先に潰して、それから悠々と俺様が倒すんだよ」
中年〈マスター〉の計略に手下である2人の〈マスター〉も納得したようにうなずいた。
彼らの見据える先、そこには今何十人もの〈マスター〉があるモンスターを討伐している最中である。
早い話、漁夫の利狙いということだ。
一方、何かあるのかとメニュー画面から『マップ』を開いてみる。
「……この先は割と普通だと思うんだけど、何か強いモンスターでも出たのかな?」
普通のゲームならモンスターの生息地区に別の強力なモンスターがいることは無い。
もしそうだったとしても、海道から少し外れるがそこを避けて通ればいいだけの事。
そう、
「うぎゃッ!」
「ぎぇッ!」
「がはッ!?」
「ん?」
背後から3人の短い悲鳴が聞こえた。
何事かと振り返った瞬間、息を呑んだ。
「……」
身長2メートル台の黒い猿が、先程の3人を光の塵に変えていた光景だった。
リアルの図鑑で見たどんな猿よりも強靭な四肢を持つその猿は、よく見れば鱗でできた防具を纏い、籠手や具足も付けている。
猿はその鋭い目つきで〈ウェズ海道〉の先を見据え、そして駆け出す。
「……狙ってたのって、あれの事?」
幸い、ユイは茂みの陰に隠れていたために難を逃れていた。
†
王都アルテア〈天上三ツ星亭〉
時は少し遡る。
「すいませんでした。その、勝手なことをして」
「気にしないでヨー。こっちもこっちで無理させちゃったみたいだし」
ユイが出ていった後、店の片づけをしていたマイとレイレイ。
喧嘩の被害は、幸いレイレイが直前に止めてくれたので大事には至らなかった。
ダルシャンは明日用事があるので、看板を『CLOSED』に裏返し、今日の分の皿を洗っている。
「ちょっとは仲良くなると思ったけど……まさか逆効果になるなんてね」
「正直あいつと一緒にいてイライラしていたのは同じだったんですけどね」
「あはは……悪い事しちゃったネ」
片付けもひと段落し、ダルシャンが2人に水を渡す。
「……心に届いて響くような歌があっても、相手を理解しないと意味ないってことが更に思い知らされたヨ……」
「え?」
「いやいや、こっちの話ダヨー」
何かと気にはなったが、あえてそこはスルー。
差し出された水を飲み干した所で、ダルシャンが切り出した。
「なぁ、今思ったんだが」
「ん?」
「嬢ちゃんの〈エンブリオ〉、くすみが酷くなってないか?」
「そうなんです。なんか、最初に見た時より酷くなってるし、重く感じてもいるんで……すッ!」
マイの〈エンブリオ〉は見た目の変化だけではない。最近では斧を振るうのにも一苦労だ。今はバーベル挙げのように持ち上げるのがやっとである。
まるで〈エンブリオ〉自身が力を使うことを拒絶しているように、マイにもリアルでの本来のSTRで、見た目以上の質量と重量を持った塊を振り回しているように重い。
「一向に進化しないってのもおかしいよな。今頃もう第2形態に進化してるはずなのに」
「……本来の使い方をしていない、ということ?」
「本来の使い方?」
「ロッテ、ルイーゼ……〈エンブリオ〉の元となった話のように、何かあるのね」
「何かって?」
「それは――」
レイレイが切り出す前に、店に入ってきた。
やれやれといったリアクションをするダルシャンからして、おそらくこの〈マスター〉は彼の知り合いだろう。
「おい、もう閉店だぞ?」
「悪い。それよりも大変だ!ティアンからの情報なんだが、〈ウェズ海道〉に2体の〈UBM〉が現れたんだ!」
「何だって!?」
「護衛の〈マスター〉がやられて、俺らはティアンと一緒に逃げられたけど……」
息を切らして説明する〈マスター〉に、ダルシャンが思わず声を張り上げる。
「〈UBM〉ってそんなに強いんですか?」
「強いヨ。最上級クラスだと複数の〈超級〉でも、相打ち覚悟で挑まなきゃ勝てないレベルダヨ」
レイレイの言葉にマイの背筋が凍る。
そして同時に嫌な予感も感じた。
「あの、〈ウェズ海道〉ってどっちに行けばいいんですか?」
「どっちって、王都の西側をまっすぐに進めばすぐだよ」
「……私、そこに行ってきます」
すぐにマイが弾かれるように〈天上三ツ星亭〉から出る。
しかし、元々【壊屋】の
現状、全速力で走っていてもたった10メートル弱しか進んでいなかった。
「……って、遅ッ!?」
「そりゃそうだろ」
「……乗って!」
次の瞬間、レイレイが風のように駆け出し、マイを引っさらって背負うとそのまま高速で〈ウェズ海道〉へと駆けていく。
†
「それで、どうして〈ウェズ海道〉に?」
「……なんとなくだけど、アイツもあそこにいるって思ったんです」
「なんとなく?」
「夢で出てきたんです。お母さんと知らない男の人と、ベビーカーに乗ってる2人の赤ちゃんの光景が」
「心当たりは?」
「……いいえ」
「……それって、昔の記憶なんじゃないカナ?」
「え?」
「自分の記憶からも忘れてしまうほどの遠い記憶。けど、多分〈エンブリオ〉が影響するほどの大切な記憶なのかもしれないヨ」
「大切……」
「おっと、そろそろ着くヨ!」
「早い!」
「これでもそれなりに場数踏んでるからネー!」
†
〈ウェズ海道〉
(あの猿みたいなの……間違いない)
茂みの影から覗き見ていたユイは、その先の相手に確信を持った。
息を切らしている2人の〈マスター〉と対峙している白い猿。背丈は黒猿と同じ。纏う鎧も黒猿とほぼ同じだ。頭上には【猿門白鬼ウキョウ】と銘打つ、普通のモンスターとは一線を画す存在感を放っている。
そこに黒猿が鉢合わせてきた。よく見れば彼の頭上にも【猿門黒鬼サキョウ】と銘打つ名が表示されている。
「おう兄者、そっちは終わったのか」
「……うぬ」
「う、嘘だろ!?〈UBM〉が2体!?」
「なぁ!?ひ、卑怯だぞ!2体がかりなんて!!」
「それを言うなら無勢に多勢で意気込んだお主らが言える台詞ではあるまいか?」
「この野郎!!」
自棄になった一人の〈マスター〉が剣を手に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、その攻撃はあまりにも単調。ウキョウはあっさりと彼の手首を掴み、片腕で頭上へと放り投げる。
「ほれ、返すぞ」
「え?」
放り投げられた〈マスタ―〉を片手で受け止め、そのまま投球フォームをするようにもう一人の〈マスター〉に放り投げた。
弾丸の如きスピードに、もう一人の〈マスタ―〉も為す術なくデスペナルティとなってしまった。
「いやぁ片付いた片付いた。これで全員か?」
「…………否」
「そうか……鼠はそこか?」
「――ッ!!」
ぐるりと振り返り、デスペナされた〈マスター〉の得物をそこに放り投げる。
得物はユイの目の前にの地面に突き刺さる。
「カッカカカ!1人でやってくるとは面白い小娘よのう」
「…え、えーっと……」
「何、言うまでも無い。こそこそ見繕っている所を見ると、大方興味本位で突っかかってきたのであろう」
「……それじゃあ見逃してくれるって事は?」
「なぁに、ワシはともかく……兄者は容赦はせぬようだ」
「え?」
後ろから妙な気配がした直後、いつの間にかサキョウが自分の背後に回っていた。
ユイが振り返った時には黒猿の手刀が迫ってきていた。
「――……!!」
「兄者!」
刹那、手刀が届く前に黒猿目掛けて何かが飛来してきた。
高いAGI故に飛び退いて回避。そしてサキョウがいた場所――丁度頭があった所を何かが通過し、奥の木に突き刺さる。それはナイフだった。
「到着ダヨーッ!!」
到達したのは、レイレイと彼女の背に乗せられたマイだった。
「れ、レイレイさん!?どうしてここに!?」
「フフッ、マイちゃんが『女の子1人で〈UBM〉のいる場所なんて危険すぎる!何が何でも助けなきゃ!』って言って、飛び出したんダヨー」
「言ってない!!」
レイレイの説明の直後にマイが張り裂けんばかりの大声で否定する。
「それにしても……〈UBM〉が2体もいるなんてネー。予想外ダヨー」
「……いやはや、先程とは立場が逆になってしまったな」
思わず2匹の猿が拳を構える。
その顔には敵わない相手と会敵してしまったような感情もうかがえる。
「うーん、確かにパワーレベリングってのはちょっとこっちでもルーキーの伸びしろが縮んじゃうから、嫌なんだけどナー」
「ほぅ、それで見逃してくれるとでも?」
「だからと言って、こっちもきっかけが欲しいんだよネー。かといって、長々と修行だーとかって事になったらまた暴れだすかもしれないし」
うーん、と考え込むレイレイ。ユイとマイも、ウキョウとサキョウも構えたまま動かない。
やがて考えがまとまったのか、レイレイがポン、と手を叩いて閃いたように切り出した。
「よし!これが一番の解決策ネ!2人とも!」
思いつくや否や、2人に幾つかのアイテムを放り投げて渡す。
アクセサリーの【救命のブローチ】1つ、【身代わり竜鱗】3枚。それぞれを2人に渡した。
「ちょっ、なんのつもりですか?」
「簡単な話ダヨー。今の手持ちのアクセサリー全部を2人に渡すヨ。それらが尽きる前に――」
「あの2体の〈UBM〉、2人で倒してみナ♪」
爆弾発言を通り越したバックドラフト発言という名の無茶ぶりを提示してきた。
〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?
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『thunder storm』
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『ラピットファイア』