悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
アルター王国〈ウェズ海道〉。
「――……はぁ!?あの強そうなモンスターを倒すぅ!?」
「何考えてるんですか!?始めて10日やそこらのルーキーに何ができるっていうんですか!?」
「大丈夫ダヨ。私の知り合いにも〈UBM〉とタイマンで勝った人知ってるネ。1対1でもできたんだから2対2でも別に――」
「その人と私達を一緒にしないで!!!」
あまりにも唐突に告げられた内容に目を白黒させながら反論する2人。
〈UBM〉の前だというのに、その2体の猿は3人の空気から外れてしまったが、やがて疑問に思った白猿が挙手をしながら訊ねてきた。
「のぅ、仮に某らがそこの小娘を始末すれば、お主は手は出さぬというのか?」
「そうダヨー」
レイレイのあっけらかんとした返答に2匹は考え込む。
ここまで簡単に見逃してくれるというには逆に何かあるのかと警戒が強まるが、彼女と面を向かって対峙するのはそれこそ自殺行為だと本能が告げている。
「……よし、受けよう」
「本気!?」
〈UBM〉側がまさかの受諾にまたもや目を白黒させる。
「ほらほら、向こうも承諾したんだし、さっさと準備しなヨー」
「「んぎぎ……」」
まるで流れるようにとんとん拍子で戦う流れになってしまった。
このまま逃げてしまおうかと2人は考えたが、レイレイが「にぱー」という笑顔を見せているのを見て、「逃がす訳ナイヨー?」という意図が嫌でも読み取ってしまう。
「レイレイさん、どうしてこんな真似を?」
「知る訳無いでしょ」
片や伝説級〈UBM〉が2体、片やレベル20少々の【
ともすれば自殺行為としか呼びようのない対戦カード。
流石に文句を垂れることなく修行に励んでいたマイも、この時ばかりはレイレイの心境に対して疑問を抱くほどだった。
「さぁてさてさて。先手はお主らに譲ろうかのう」
ウキョウの挑発に眉間がピクリと動く。
相手は完全に自分を下手に見ている。
確かに自分達はまだ格下と呼ばれる存在だろう、〈UBM〉相手に敵うかどかは……否寄りだ。
「……やるよ」
「……珍しく気が合ったね。仲よくしようって事?」
「そんなんじゃないわよ」
見下されてばかりで大人しくしていられるはずがなかった。
そもそも彼女らは、抑えることをまだ理解しきっていない子供である。
(とはいっても、2対2よりも2対1にしたほうがマシになるかもね……)
(〈UBM〉と2対2ってのも勝てるかどうかわからない。やっぱり2対1になったほうが良いよね)
だが同時に、幾分か冷静さを保って相手を見る。
「ほれほれ、2対2でも2対1でもワシにとっては問題は無いぞ?」
そして同時に思う。
――2対1で先に相手にするのにあたって、どちらを優先するか?
「だったら――」
「まずは――」
武器を構えて、同時に駆け出す。
狙いは――、
「「あの口うるさい白いお猿さ……んぎゃっ!?」」
同時にウキョウへと駆けだし、肩と肩がぶつかって体勢を崩した。
そこに生じた隙を逃さなかったサキョウがマイに貫手を放つ。
ユイが一瞬だけマイに気をとられた瞬間にウキョウに絵里首を掴まれ、放り投げられる。
木の幹に叩きつけられたユイ、貫手を食らったマイから、それぞれ【身代わり竜鱗】が1枚破壊される。
「ちょっとなんで同じ相手に挑もうとしてんの!!あれは私が倒すつもりだったのに!!」
「それはこっちの台詞だよ!あっちを倒しなよ!!」
「おいおい、いきなり仲間割れか?連携のいろはも知らぬとは呆れて言葉も出ぬわ」
活舌なウキョウと同様にサキョウも同意するように頷く。
「ともかく、邪魔しないでよ!」
「そっちこそ!」
喧嘩腰であるが、改めて2体の〈UBM〉に挑むために立ち上がる。
さっきのは偶然だ。そうそうに起こるはずもないだろうと今のを軽く流してポーションを嚥下。回復した2人は、改めて武器を構える。
「やあやあ我こそは遠き黄河の地にて産まれし勇猛果敢なる白き猿の鬼、またの名を【猿門白鬼ウキョウ】也!いざ西の地の〈ますたぁ〉よ!あ、いざ尋常にいぃぃ~~~~!」
「まだべらべらと……!」
再び喋るサキョウに目を向ける。
次の瞬間、いつの間にか正面から肉薄していたサキョウの膝蹴りがマイの腹部を直撃。ユイは一瞬だけ気をとられたが、まっすぐにウキョウへと肉薄する。
迫るユイに対しオーバーアクションで上半身を捩じりながら手刀を繰り出す。
戦闘の素人でも簡単に防げそうな攻撃だ。ユイはそれを左へ飛んで避ける。
直後、反対の手でルイーゼの柄を掴まれた。
「――え!?」
「敵に咄嗟に掴まれていきなり得物を放すほどできてはいない……ようだなッ!」
手刀を形作っていた手も、順手と逆手で柄を握り、両手で力任せに地面に叩きつける。
また、【身代わり竜鱗】が1枚砕け散る。
「かはっ――!」
「ほれほれどうしたぁ!?こっちは素人相手でも容赦せんぞぉ!!」
追撃の踏みつけにユイは地面を転がって回避する。
起き上がってもまだウキョウ、サキョウの攻撃は続く。
貫手と手刀、蹴りを交えた打撃を繰り出すサキョウにマイは防御を繰り返し、掴みかかろうとするウキョウの手を、ルイーゼを紋章に戻したユイが必死に回避する。
(また……!さっきからあのモンスターに気をとられ過ぎている!)
(1回目も2回目もあの白いモンスターは喋っていた。喋ってるあのモンスターに気をとられて、前から来ていたモンスターに気付かなかった……)
必死に回避しながらも思考を巡らせ、戦闘を思い返す。
思えば2回とも、ウキョウが喋っている間にこちらが攻撃に回っていた。そしてサキョウに気付かずに彼に迎撃された。
「喋ってる間、意識を自分に向けさせる?」
「ほほう、童にしては鋭いな。ちと説明を入れさせてもらうぞ」
マイの指摘に頷き、そしてウキョウが説明を始める。
ウキョウのスキルには〈舌劇の白猿〉というパッシブスキルを持っている。
自身が喋っている間は敵対者の意識が集中されやすくなるだけのものだ。
そしてサキョウの持つ〈沈黙の黒猿〉はその対極。言葉を発しない限りは自分への意識が散漫になる。
それらは〈UBM〉としては脆弱な部類として分けられるだろう。
お互いのスキルが相乗効果を出さない限りは。
サキョウのスキルが発動すればウキョウのスキルがより顕著に影響が現れる。
より存在を翳し、より存在を陰らせる。
お互いがお互いのスキルを高め合うという、他の〈UBM〉の相乗効果という、偶然の産物。
「要するに、相乗効果でスキルが強力になっているというものだ。分かったか?」
「なんでそれを話すの?」
長々とした説明を終えたウキョウにマイは疑問に思う。
これがPvPだった場合、自分の手の内を曝すという馬鹿げた行為以外に説明の仕様が無い。
その質問に答えたのは、長々と説明を終えたばかりのウキョウ。
「何、スキルの都合上位置から説明したほうが手っ取り早いのでな。不意討ちしても良かったのだが?」
あえて煽るような言葉をつなげるが、それもスキルの使用上の都合だろう。
喋っている途中で攻撃するのも手だが、サキョウがそれを許さないだろう。ただでさえ意識を散漫させるスキルにウキョウに意識を注目させたうえで認知されづらい攻撃が突き刺さる。
回避不能と呼ぶに値するほどの、貫手の攻撃が。
「だったら……!」
ユイが直接サキョウを潰そうと駆け出す。
「阿呆が。先に兄者を潰すか、スキルの根源たるワシを2対1を選ぶ。それを赦すほど甘くは無いわ」
ユイにサキョウの回し蹴り、マイの顔面をウキョウが掴み、そのまま背後の樹木に叩きつける。その衝撃で更に【身代わり竜鱗】が砕け散った。
「おごっ……!」
「これであと1回。そして――」
倒れた2人に追い討ちと言わんばかりに、踏みつける。
「これで身代わりの類は全て失せた」
その攻撃を食らい、【救命のブローチ】も砕け散り、これで2人の命を守る術は全て絶たれてしまう。
踏みつけられて無理矢理肺の中の空気を吐き出され、思わずむせ返る。
「ぐぇっふ!げほっ、ゴホゴホッ!!」
「えほッ、えほッ、えほげほっ!!」
最後の回避手段を潰され、次に攻撃を食らえば確実にデスペナになるだろう。
「どうする?このまま馬鹿正直に突っ込めば確実に死ぬぞ」
「ッ……!」
これでウキョウとサキョウは低ENDの【壊屋】相手にあと1撃当てればいい。
対してユイとマイはあと1撃喰らえば終わりの崖っぷち。
2匹にはもう勝負は決したと言わんばかりに語りかける。
――諦めろと。
「……」
「……」
重くなった身体を押し上げるように身体を起こす。
「もう……なんで言う通りに動かないのさ!?」
「そっちだって邪魔してるでしょ!?」
そして投げられる、お互いへの怒声。
連携もへったくれも無い。ただパワーを振り回すだけの素人戦術故にお互いが影響せずとも相手に責があると思い込む。
「おいおい。とうとう喧嘩に発展してしまったぞ……」
「……」
状況が状況だけに喧嘩している場合ではないのに、この2人ときたら完全に目の前の自分らを無視している。
それでも2人の少女の怒声は激しさを増していく。もはやレイレイの卒業試験なんてお構いなしに声を荒げていく。
ウキョウがこの2人を放っておいて逃げようかと思った矢先、喧嘩に横槍を入れる者が現れた。
「――いい加減にせぬか貴様らぁぁッ!!!」
他でもない、サキョウだった。
「あ……兄者……?」
思わぬ怒号に2人は喧嘩を思わず中断し、弟のウキョウすらあんぐりと口を開けて唖然となる。
「折角の
「で、でも――」
「でももへったくれもあるかバカ者!!己の得物もロクに振り回せぬ輩が勝てると思うか!?悔しかったらこの身に一撃当てて見せてみろ!そのずさんな連携でなぁ!!」
息もつかせぬ怒涛に思わず戦闘中をも忘れて立ち尽くした。
言いたい事を言い切ったのか、サキョウはふしゅう、と息を吐き、怒声を上げる前と同様に落ち着きを取り戻した。
「……」
「……」
サキョウの怒声の後、2人はさっきの喧嘩が嘘のように静まり返っていた。
2人に身代わりの類はもう無い。
次に受けるダメージが、文字通り回避不可の致死ダメージ。
「……ねえ、まだやれるよね?」
「……言われるまでも無いよ」
「……こんなに馬鹿にされて、黙ってられる?」
「……そんな訳無いでしょ。解ってる癖に」
「……ここまでズタボロのされたのも、初めてかも」
「……ここまでされて、あそこまで言われて、何にもできずに泣き寝入りなんてしたくないよ」
ふらふらと立ち上がった2人は、それでも向き合う2匹に眼光を向ける。
小学生とは思えぬ鋭い眼光が、2匹を貫く。
「……兄者」
「……応」
「彼奴等、本気で挑むぞ」
あの姉妹は、どことなくお互いと出会わなかった自分自身の未来と重なっていると。
あの時、お互いあの谷で見かけて居なければ、たった独りでこの世界を彷徨い、放浪の果てに朽ちるか、冒険者に討伐されていただろう。
兄に、弟に会っていなければ、お互いが連携するなんてことは想像しなかっただろう。黄河からカルディナを超えて、アルターまで来ることは無かっただろう。
それ故に、彼は自然と憤りを蓄えていき……爆発した。
「……」
「カカ、やはりそうであろうな。本気で挑むのはいつ以来だろうかのう」
ふぅ、と息を吹くウキョウが、流石に言い過ぎたか?と言わんばかりに頬を掻く。
改めて2人のほうへと面と向かう。
そして、吠える。
「よく聞け、娘ども!」
ウキョウの声に2人が思わず身体をびくりと身体を震わせる。
「我が名は【
そして我が右隣に佇むは【
いざ尋常に、児戯という名の死闘にて、貴様らを葬らん!
不死なる益荒男なりし小娘共よ、破滅を受けて泣き寝入るか、我らを超えて行くか、己が誇りを胸に翳して来るがいい!!」
吠え猛るウキョウと無言で佇むサキョウ。
2人はまるで硬直したように動けなかった。
圧倒された、というのが正しいだろう。
歌舞伎の大立ち回りの如く、見る者を、聞く者を圧倒する。
「私は確かに、この世界に来てから間もない初心者だよ。だけどね……」
「だからってこのまま、何にもできずに負け続けるってのは嫌なんでね……!」
言葉を返す2人は呼応するように、自らの得物を2匹へと向ける。
白い両手鎚は白き猿を、黒い斧のような両手鎚は黒き猿へと向ける。
無意識かどうかは知らない。
「「私は、あなたを絶対に倒す!!」」
意識はしていなかった。だが今この時、2人は初めて一致していた。
狙いが一致していた。
目的が一致していた。
心が、一致していた。
【条件を達成しました。スキルを解放します】
その時、突如2人の目の前にウインドウが現れた。
(・大・)<今週は豪華3話投稿。
(・大・)<感想はまだ待って。
〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?
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『thunder storm』
-
『ラピットファイア』