悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<改めて見たら4話あったので4話更新にします。
「な、なにこれ!?」
「私達の、〈エンブリオ〉が……!?」
ウインドウが閉じると同時、ユイとマイの〈エンブリオ〉が光を放つ。
パチパチと白と黒のスパークが走り、放つ光が増していく。
(何が起こった?今更力が覚醒したのか?)
サキョウは2人の〈エンブリオ〉の変化に戸惑っていた。
ついさっきまで思い鈍器を振り回す暇も無く一撃で仕留め、そして間を取るというヒット&アウェイの戦法を繰り返していた。
伝説級〈UBM〉と素人〈マスター〉という差はあるが、現に彼らは荷馬車を狙う山賊的行為を繰り返していたために、彼女らとのレベルはそう大差無い。
しかしステータスとしては2人を一撃で仕留めることは容易い。しかし、獣の本能が『今動くのは悪手』だと彼らにブレーキを掛けている。
やがて光が収まっていき、完全に消失すると同時に動き出した。
瞬間、ウキョウが駆け出した。
「何をしたかは知らぬが、要は力を振るわれる前に叩けば良いだけの事!」
ユイの頭部を掴まんと肉薄する。AGIの差故にユイのハンマーを避け、ユイすらも避ける。
腕を伸ばした先は黒い少女、マイの頭をがっちりと掴んだ。
「はっ、何も同じ手合いばかりを相手にすると思うたか!」
このまま握り潰す、はたまた投げてしまえば終わり。
放り投げようと力を籠め――異変に気付いた。
「んごぎッ!?」
反射的に掴まれた腕を引きはがそうとウキョウの手を握った瞬間、そこから骨の軋む音が聞こえてきた。
「……!」
次いでサキョウが駆け出す。
指の関節を曲げて猫の手を形作り、マイへと肉薄する。
叩き込もうとする寸前、ユイの気配を察知して迫るハンマーを受け止める。
「……ッ!?」
受け止めたのも束の間、凄まじい力によって吹き飛ばされる。
樹木に激突する寸前、受け身をとって衝撃を和らげて大したダメージは無い。
ウキョウも空いた片方の手の貫手でマイを貫こうとして、咄嗟に腕を振り払って避ける。
元から避けるつもりでの攻撃。貫く寸前に止めて飛びのいて回避し、距離をとる。
「――軽ッ!?」
「この、パワーは……!?」
2人にも変化が表れていた。
全体にまで及んでいたくすみは完全に消え去って本来の輝きを取り戻し、今まで以上に〈エンブリオ〉が軽く振り回すことができる。
さっきまでは外見以上の質量と重量が支配していたが、今では小枝を振り回すように軽い。
そして圧倒的で異様なほどのパワー。
攻撃特化の【壊屋】でも、カンストしていない状態ではたかが知れている。それがまるで、一気に10倍以上にまで跳ね上がったようだ。
慌ててウインドウを開いて確認しようとした時、ユイにウキョウの膝蹴りが飛んできて咄嗟に身をかがめて避ける。続けて手刀での連撃をハンマーで防ぎつつ、下がっていく。
続けてサキョウの蹴りがマイを襲う。その攻撃を斧で受けつつ、一歩一歩下がっていく。
ドンッ!
不意に、ユイとマイが背中をぶつけた。
その衝撃でわずかに現れた隙を見逃さず、ウキョウとサキョウが攻撃を仕掛ける。
「「……!!」」
刹那、ぐるりと互い違いに振り返って2匹の攻撃を防いだ。
反撃に2人が肉薄し、重量級の武具を振り回す。毛を擦れただけの攻撃は地面を叩くと小規模のクレーターを作る。
ユイがサキョウと、マイがウキョウと、そしてウキョウとユイ、サキョウとマイへと代わる代わる戦闘の相手を繰り返す。
「化ァァァ!!!」
ウキョウの咆哮と衝撃音をBGMに、繰り返される白と黒の2組のダンス。
一進一退。
互いの命を削る舞踏。
両者の戦いは――まさに互角。
2人の武具、2匹の拳撃と蹴撃がぶつかり、そして互いに距離をとる。
「…はぁ、はぁ……」
「…ぜぇ、ぜぇ……」
2人のHPは既に1ケタになっていた。
もうとっくにHP回復の為にポーションを嚥下する。
「……もう終いも近いのかもな」
「……」
2匹も決着が近いことを悟っていた。
戦闘経験の多さ故に直撃は避け、防いでいた。
それでもHPは減少していないとは言い難い。
攻撃を受け止め、掠っただけの攻撃も十全にHPを減らされていた。
「……不可解よのう。本来なら一方的に潰されるはずだ。それ故に不可解なんでな」
確かに〈UBM〉はとんでもない初見殺しの能力を持つ上に、大抵のティアンや〈マスター〉では太刀打ちできない。
相性のかみ合わせが悪いと、〈
【無限連鎖】のフィガロも下級職の頃、〈UBM〉と戦ったが、彼の〈エンブリオ〉の特性『戦闘時間に比例した強化』と『装備数に反比例した装備品の強化』という汎用性の高い物であった。
ユイとマイの〈エンブリオ〉には勿論そんなスキルは無い。
それでも無意識に2人の連携が2匹の〈UBM〉と互角に張り合えるほどの力を生んでいた。
「……どうする?このままじゃ埒明かないよ」
「……一応考えがあるんだけど、聞く?」
「本当は絶対嫌なんだけどね」
「――…………ってこと」
「なるほどね」
「……どうする?」
「……良いよ。好きにしたら?」
「……ウキョウ」
「どうした?」
「……次で決めるぞ」
「……承知した!!」
腰を据え、正拳突きの構えをとる2匹。
次の攻撃で決着が着く。この場に傍観者がいれば、否応なしにそう感じられるだろう。
対する2人も、ゆっくりと腰を据えて力を溜める様に武具を構える。
「(あれは……確か《破城槌》とかいう技か)そっちも次で決めるつもりか」
ウキョウの投げかけた言葉に2人は睨んだまま答えない。
だが、向けられた眼光は鋭く、言葉よりも多くを物語っていた。
「臥アァァァァァァァアア!!!」
――吠える。
そして2匹の猿が、2人の少女へと駆ける。
得物の範囲へと足を踏み入れた瞬間、
黒猿が弾かれたように真横へと移動し、白猿が跳躍して頭上を跳び越えて背後を取る。
「貰ったァァァアアア!!!」
背後と真横。2か所からの同時攻撃が襲い掛かる。
恐らく、サキョウの姿は既にスキルの相乗効果で2人の視界から消え失せているだろう。
ウキョウの攻撃は捌ききれるだろう。だが同時攻撃のサキョウの攻撃はほぼ確実に食らう。
肉薄する直前、マイがウキョウの向かう背後へとぐるりと、時計回りに無理矢理身体を捩じる。
「やはりこちらへ向かうか!だがもう遅いわ!」
攻撃を当てられれば確実にこちらが倒される。
しかし、これまでの戦闘経験から2人の攻撃をダメージ最小限で受け止めることは容易い。
攻撃を受け止め、そして反撃を叩き込む。
このままいけば、2人のデスペナルティは確実だった。
――ユイがウキョウに肉薄していなければの話だが。
「んなッ!?」
予想外の行動に思わずウキョウに隙が生じる。
僅か数拍の隙だったが、戦闘においてはそれが重要なものになる場合も珍しくない。
ユイの狙いは最初からウキョウだった。
マイは最初からサキョウの動きのみに集中し、見失ったとしてもユイと同じタイミングで叩き込む。
それが、たった数秒のやりとりで産んだ計画だった。
「「ハアアアァァァァァァアアアア!!!!」」
2人のフルスイングは的確に2匹に直撃した。
サキョウの拳を形作った腕ごと粉砕して骨と臓器を砕き――、
ウキョウの肩甲骨と脊髄を同時に粉砕し――、
2つの轟音が〈ウェズ海道〉に轟いた――。
(・大・)<ダブル〈UBM〉戦、
(・大・)<決着。
〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?
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『thunder storm』
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『ラピットファイア』