悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
メイプルを洞穴に隠した私は手近な小石を投げつけ、3人のPKに気付かせる。
「いやがったぞ!」
「野郎、完全におちょくってやがる!」
さっきの閃光で逆上しているのが手に取るように分かる。
そこから間もなく、丁度洞穴の正面20メートルの所で開けた場所で囲まれる。
これで計画の肝心部分に踏み込んだ。ここからは、私の頑張り。そして、こいつらとの騙し合い。
今ので“4秒”経った。
「メイプル!あと“30秒”私が時間を稼ぐから何とか頑張って!」
「!!やっぱりログアウトが目的ね!」
「だったらテメーを捕まえてお友達の場所を白状してから
振り返って雑木林のほうへ叫ぶ。それに伴い剣を持ったギャングう風の男が襲い掛かる。
けど、
「ッ!?」
大丈夫。激情の分単調になった攻撃なら熟練のPK相手でも避けられる。
次々と迫る攻撃、一撃受ければ確実にデスペナルティを受けるだろう。
当たれば、の話だけど。
「何してるの、遊んでる暇は無いのよ!」
「わ、わかってる!」
「どけ、私が仕留めてやる!」
ギャング風の男から女PKが鞭で攻撃を仕掛ける。
だったら――。
「《流転》!」
「えっ、がっ!?」
くるりと闘牛士が猛牛を華麗に避けるように、鞭を避けて肉薄。すれ違いざまに首の動脈目掛け切りつける。
当然ダメージは無い。けど、相手は切りつけられた感覚で思わずたじろいだ。
「な、なんだ今の?」
「どけ!俺が消し飛ばしてやる!《フレアブラスト》!」
続くモヒカン頭の男が魔法を仕掛ける。何発もの炎の弾丸が迫る。
「《誘いの円舞》!」
僅かに身体を動かして相手の軌道からずれて、魔法を避ける。
背後の木や茂みが炎に当たって爆発し、炎を焚き上げる。
「なんだ、魔法の軌道が逸れた?」
「だったら一斉にやっちまうぞ!」
上手くいってる。痺れを切らして一斉攻撃されるのも想定内。なんとか行ける。
後“15秒”を切った。
『テメェら何をしてやがる!!』
PKのリーダーの鎧が合流してきた。
あと少しだというのに、こんな厄介な奴が……!
「おカシラ!このガキとんでもねぇチートスキルを引き当てたらしくて攻撃が……!」
『チートだぁ?……なるほど。で、どっちを向いて叫んでた?』
「え?あの雑木林ですけど……」
何かPK連中と話をしている。
でも、私の中の本能が警鐘を鳴らしているのが感じられる。
『――ハッタリに乗せられすぎだバカ共が!!お前らもう一人のチビの居所を探せ!』
――気付かれた!!
やばい、この鎧脳筋に見えて相当頭が切れる!
後ろの3人が慌ててメイプルを探しに森に入っていく。
止めなきゃ。前に出て3人を追おうとする私の前に鎧が立ちふさがる。
『俺達を騙そうとするなんざ、大したルーキーだな』
近くで見てそいつから放つ威圧感に潰されそうになる。
けど、ここで逃げだすチャンスを与えるほどこいつは生温い奴じゃない。
現に、周囲を見ると茂みの陰から逃がさないように奴とつるんでると思われるPKが獲物を手に待機している。
『テメェらは手ぇ出すな。チマチマ避けられて時間を稼がれたら厄介だ』
手を出すな、か。
見た目だけならあいつは防御を相当高めているはず。
攻略サイトでも防御力を高めたり、ダメージを軽減するスキルをちらっと見たことがある。
そうでなくとも傷一つ負わせるなんて今の私には不可能だ。
『臥ァ!!』
「ッ!」
鎧が盾を剣のように振るう。かろうじて避けられたが、あんなのを喰らったら確実に体が真っ二つになる。リアルじゃないのがせめてもの救いだ。
けど見立て通り、防御を高めた分機動力は低い。攻撃も昔のレトロゲームにあった、巨大生物を狩る狩人が大剣を振るう動作のように大振りのものが多い。
あと“7秒”。このままいけばメイプルを逃がせ――。
『《
刹那、私の身体が地面にめり込んだ。
な、なんなのこれ?身体が、全身の隅から隅まで鉛のように重く……!?
『お前、そのバケモンじみた回避力は、相手が“個”や“群”だったら相当力を発揮するだろ?』
動けない中、鎧が私を見下す。その口調は悪漢そのものだが、言葉には知性が感じられる。
『だが“面”の、俺のエンブリオ【大天蓋 アトラス】のように壁や結界のように、そこに作用する能力を行使する奴とは相性が最悪だ。逃げられるのも面倒だから範囲を3倍重力の10メートルにしといて正解だった。――もう姑息な回避はできねぇぞ?』
その言葉にはまるで勝利の愉悦を感じられない。むしろ今の言葉から感じられたのは、“屈辱”。
自分たちをコケにした私に対する、“怒り”だった。
『ぶっ潰れろ小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
鎧が私めがけて盾を振り下ろす。
こんな状況じゃ回避なんてできやしない。
でも30秒経った。時間は稼げた。今から探してももうメイプルがPKされることは無い。
ざまあみ――――。
【メイプル・アーキマン:ログアウトによりパーティ解散】
【致死ダメージ】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
†
時は、“7秒前”に遡る。
「あと7秒……」
ログイン画面を見て、洞穴でメイプルが呟く。
「サリー、まだ来ないのかな?」
幸い、この洞穴までは鎧――バルバロイ・バッド・バーン――の射程から離れていたためにログアウト待機時間が中断されなかった。
「……!」
そこで、見てしまう。
サリーが地面に突っ伏したまま動けず、今まさに鎧のPKに叩き潰されそうになっている場面を。
「――!」
声を上げようとした。けど、声を出したら気付かされてしまう。
ログアウトまであと3秒。
そして――。
『ぶっ潰れろ小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
鎧が持つ盾がサリーを潰し、血と肉片を撒き散らすのを目の当たりにし、
「理沙ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!」
メイプルの悲鳴と共に、
【ログアウト準備時間経過】
【またのご帰還をお待ちしています】
メイプルは
†
【
生意気な小娘を
場所はここから正面といったところか。まいったな。あいつを潰すことに夢中になりすぎた。
「すいやせんおカシラ!あのチビにログアウトされました!茂みと影に紛れた洞穴を使ったみたいです!」
『そうか』
「……テンション低いですね?」
確かに思う存分PKできて昨日は特にハツラツだった。ルーキー1人につき1万。最高の仕事だった。初日だけで100万リル――つまり100人
今日も大体同じくらい稼ぎだ。だが今日はどうも腑に落ちない。俺達があのガキにまんまと一杯食わされた感が、墨汁の汚れのように抜け落ちねぇ。
「でも妙だな。あいつの台詞からだとあと3秒くらい残ってた筈なんだが……」
台詞?
ゴローがぼやいたその言葉が引っ掛かった。
事情を聞くと、奴が振り返って叫んだのを吾郎だけじゃなく他の2人も聞いたと証言している。相手に触れるだけならそれだけあれば十分だが……。
――なるほど。
『お前らあのルーキーに嵌められたって事か』
その言葉で晩ブル、ゴロー、モヒカンXが面食らってた。他の連中も3人を嗤うよりも訝し気に眉間にしわを寄せてやがる。
とりあえず順を追って説明する。悪役ロールはそのままに思考だけリアルに戻しとけ。
『奴の算段はあのチビを逃がすことだった。その為にお前らを挑発しつつ偽のスキルを使って時間を稼いだ』
「ふーん……ちょっと待った、偽のスキル?」
晩ブルが鳩が豆鉄砲食らった顔で聞き返す。
<Infinite Dendrogram>のエンブリオはとてつもない力を持っている。
だがそれは余程の例外を除けば第4以上に進化したものだ。俺のエンブリオも第6だしな。
こいつらが翻弄された《流転》と《誘いの円舞》はただの出まかせ。ハッタリだ。そのスキルは【闘牛士】にも存在しなかったはず。
「じ、じゃああれは!?スキルじゃなかったらチートとか?」
それは無いな。今の所俺はチーターに会った事は無いが、運営がそんな馬鹿げた奴を見落とすとは思えない。そもそも〈
だがひとつだけ、あの人外級の回避に説明できるものがあった。
『あれはチートやエンブリオでもない、リアルから持ってきた技術だ』
今度は俺以外の全員がどよめいた。
が、それ以外に確固たる確証も無いのも事実。だが相当なゲーマーであることは確定した事実だ。じゃなきゃあんな反射神経はどうやって鍛えたという。リアルはサーベル一本で銃弾飛び交う戦場を駆け抜けて敵兵士を殲滅した大総統……なワケ無いよな。我ながらアホらしい。
恐らくVRやオンラインの類は<Infinite Dendrogram>が初めてじゃないという感じだ。ただのルーキーなら最初の時に喚いて逃げ出して、機転を働かせる思考力なんて無いはずだからな。
『……』
ふと、奴が潰れた場所を見る。
血や肉片は光の塵となって消えたそこに数ミリの円形の陥没の中で、刀身が真っ二つに折れたショートソード。
数秒前に死んだ奴の顔。あれはこれまで
『私の勝ちだ』『どうだ、お前らから友達を逃がしてやったぞ』。という勝利の笑み。
俺はあいつを
だが……。
『――あいつ、いつかリベンジに来るぞ』
「え?なんでそう思ったんですか?」
『あ?それはだな……なんでだ?』
理由はわからんが妙に予感した。
あいつはいつか俺達の――俺の前にやってくる。
『とりあえず今日はあと何人か
その戦利品を拾い、俺達はまた次の獲物を探しに散開した。
†
2045年 3月6日 地球
「理沙ッ!!」
<Infinite Dendrogram>からログアウトした楓は反動的に起き上がる。
全身から汗を流し、呼吸も悪夢から覚めたばかりのように荒れていた。
やっとのことで呼吸が整うと、我に返った楓は震える手で携帯を操作して理沙に連絡する。
『もしもし、楓?』
「理沙ッ!大丈夫なの!?」
切羽詰まる気迫で叫ぶ楓。
電話越しの理沙も思わず携帯から耳を遠ざける。
『大丈夫よ。デスペナされても丸1日ログインできないだけ――』
「何言ってるの!!」
思わず楓が叫ぶ。電話越しににも分かるように、嗚咽交じりだった。
「私……私、理沙が本当に、ひっく、殺されたかと思って……!」
『ご、ごめん……明日は学校があるからまた明日ね』
「あ、理沙……!」
『ん?』
「……死なないで」
理沙の後ろ髪を引くように、離れてほしくないという願いを込められたその言葉を当時の理沙はあまり気にしていなかった。
『うん。また明日ね』
それを期に通話が途切れる。理沙が生きていた事に、風船の空気が抜けるように安堵する楓だった。
だが、ログアウトした彼女に訪れたのは安堵では無かった。
――おい。
聞きたくない声が聞こえて、思わず身を震わす。
声の先は僅かに空いたクローゼットの中。
――また会ったなァァァ……。
「あ……ああ……!」
誰もいないはずのクローゼットの扉に手をかける。
人と呼ぶには太すぎる鎧と金属の擦れる音を耳で聞きながら。この世界にいないはずの〈マスター〉が現れる。
――テメェをぶっ殺せるなんてなぁぁぁああああああああ!!!
「いやあああああああああああああああああああああ!!!!!」
PROLOGUE:BADEND.
【呪転舞踊 カーレン】
TYPE:アームズ。
紋章:バレリーナ風の女の人(少女)
能力特性:回避によるステータス底上げ。呪怨変換。
モチーフ:グリム童話の【赤い靴】。
備考:
サリー・ホワイトリッジが覚醒した〈エンブリオ〉。ステータス特化。
サリーの『回避特化になる』という目標から発現した。
戦闘及び普段は赤いスニーカーだが、場所や時期に応じて自ら草履やヒール、長靴にもなる。意思でも持ってんのか。
ステータス補正はSPとAGIはCだがそれ以外オールG。回避特化に不要なものを容赦なしに断捨離した結果である。
因みにサリーの好きな色と違っていた事に関してショックを受けていた。やっぱ意思みたいなのあるよね?
スキル:
《
その戦闘ごとに攻撃を避けた回数を参考にSTRを、ダメージを負わなかった時間を参考にAGIを底上げする。時間は秒間1%上昇し、最大100%。回避回数も1回につき1%上昇して最大100%。
その戦闘が終わると強制的に解除され、上昇したステータスも元々の数値に戻る。
パッシブスキル。
《疲労軽減&拘束耐性》Lv1
消費SPを10%固定で軽減。また、疲労感も若干和らげてくれる。
更に【拘束】と【麻痺】、【呪縛】耐性を共に5%上昇。
パッシブスキル。
平凡だがサリーにとっては便利なスキル。だがバルバロイとのエンブリオの差によってあっさりやられてしまう。
《流転》
近接攻撃を避けて肉薄しつつ攻撃する反撃系アクティブスキル……というのはメイプルをログアウトさせるためにサリーが吐いた嘘。
現状、上記の2種類しかないために時間稼ぎの為に偽のスキルを演じた。ふつうにすごい。
《
相手の遠距離攻撃を弾道予測線とは僅かなズレを生じさせ、相手に魔法がズレたと思わせるアクティブスキル……というのはサリーが吐いた真っ赤な嘘。
ただの反射神経頼りのスレスレ回避とそれに伴う体捌き。サリーすごい。
因みにたまたまこの戦いを観戦していたハンプティダンプティも「あれ?こんなスキルあったっけ?」と一瞬疑問に思ったが、カーレンを確認したことで嘘だと判明した。