悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(;・大・)<初の神造ダンジョン回のはずなんだけど……。


(;・大・)<いろいろやってたら1万字まで行ってしまった……。


〈超級殺し〉と〈墓標迷宮〉。

 

 

アルター王国〈墓標迷宮〉 【記者(ジャーナリスト)】マリー・アドラー

 

 

さて、こちらは〈墓標迷宮〉前。お弟子さん3人とミザリーさん、そしてサリーちゃんを加えた6人メンバーで参加することとなりました。

サリーちゃんが頼っていたメイプルちゃんは、なんかレイ君達と一緒にミィさんに連れていかれてしまいました。その時の彼女の顔は完全に希望を打ち砕かれて思考が困惑している時の顔をしてました。どんだけ行きたくないんですか。

 

「……帰りたい」

 

肝心のサリーちゃんは今、枯れ木にしがみついたまま意地でも動かないといわんばかりに離れようとしません。

どんだけホラー苦手なんですか。レイ君からの〈墓標迷宮〉の話を聞いた時のネメシスちゃんも大概でしたけど。

 

「大丈夫だって。ここゲームなんだしそんなに怖がる必要なんてないよ!」

 

「ゲームだろうと映画だろうとホラーは嫌!!」

 

説得してもこのザマですよ。

なんでこの子【許可証】を手に入れちゃったんですか。

 

「仕方ありませんね。イオちゃん、バカ力で無理矢理引っぺがしちゃってください」

 

「おっけー!ほぅら来いー!」

 

「いやああああああー!!!」

 

がっちりと右足と右腕を掴み、無理矢理枯れ木から引っぺがされました。

はいはい、悪あがきもそこまでにして、とっとと入りましょう。

 

「いーーーーやーーーーーだーーーーーー!!!!!」

 

嫌がるサリーちゃんを連れて、いよいよダンジョン探索開始です。

 

 

 

さて、この王国最大の神造ダンジョン〈墓標迷宮〉。

ここに足を踏み入れるには、所持者の名前を記入した【許可証】のほかに、王国所属であることが必須条件とされています。そうそう、王国所属でジョブが【聖騎士(パラディン)】か【協会騎士(テンプルナイト)】であることに限って前者は省略されます。あのクマは戦闘スタイル上知らなかったようですが。

私は今まで無所属だったのですが、最近王国に腰を据えることにしました。取材の為にもね。

いえね、普段からこう所属を変えられませんよ?

最も楽な方法は亡命イベントや先のドライフのように兵士募集に乗るか、長くて面倒だけれど重要な審査と手続きを受けるか、その国の有力な貴族から推薦を貰うかってところですかね?思いつくのはそんなあたりです。

あの女の場合は……推薦や審査は通らないでしょうね。誰も自分から爆破寸前の爆弾を抱えたくないのは良く分かります。

ちなみに私はギデオン伯爵からの推薦です。

 

 

 

 

入って早々目に入ったのは、墓地の地下とは思えないほど整備された地下通路でした。

肩幅の広い人が10人くらい横並びになっても余裕のある通路。多少の戦闘を、運営が想定されているのかもしれませんね。

 

「墓標、という割には意外と整っているんですね」

 

どうやらミザリーさんは初見だったらしいですね。お弟子さんも同じようなリアクションをしています。

フィールドや自然ダンジョンとは異なり、自動でモンスターがリポップし、ダンジョンの外には出ないといういかにもゲームみたいな場所です。

先の戦争も皇国がこのダンジョンを目当てというのも含まれています。それほどの労力を要さない〈墓標迷宮〉は、他国からすれば無限に湧き出る宝物庫を抱えているようなものです。

この迷宮は5階層ごとに出現するモンスターの種類が異なり、地下1階から5階まではアンデッド系の住処です。

因みにあの脳筋、フィガロは普段から闘技場かここにいますからね。攻略サイトにも載ってない階層まで。マラソン感覚で。

 

「しっかりしてください。きっとモンスターもホラーが苦手な人でも対応できるような姿をしています」

 

「そ、そう……?――そっか、よし!そうとなれば一応大丈夫かもしれない!」

 

まだ足ガタガタですけどね。

おっとそうでした。

 

「一応ボクの今のジョブ【記者】の《ペンは剣より強し》は、パーティメンバーの経験値を増やす代わりにボク自身戦闘ができません」

 

「はぁ!?それって一番頼れる人が一時的に役立たずになるって事!?」

 

「一番の役立たずは貴女じゃないんですか」

 

ふじのんさんの鋭い指摘ですね。

 

「そんなことより、もう来てますよ」

 

「え?」

 

ほら、ぞろぞろやってきましたよ。

ホラーゲームなんてなんのそのってレベルのリアルすぎるゾンビ――【ウーンド・ゾンビ】の群れが。

 

「……ッ!?」

 

「おぉ~!ねぇねぇリアルすぎるゾンビたちだよ!あれって噛まれたらこっちまでゾンビになっちゃうのかな?ふじのん試して――あでッ?!」

 

「馬鹿言ってないで戦闘準備」

 

グロテスクなゾンビを前にしても怯まず、お弟子さんたちは準備万端です。

私は【記者】として傍で見守っていましょうか。

 

「よーっし!行くよゴリン――」

 

 

 

――ガツッ!!

 

 

 

「……あれ?」

 

――問題です。

この〈墓標迷宮〉の通路の幅は約3メートルちょい。

イオちゃんの〈エンブリオ〉、【武装転輪ゴリン】の基本形態、モード「断砕」は5メートル強。

この状況で五輪を展開した場合、どうなるのでしょうか?

 

「ちょっ、まっ、つっかえた!?」

 

「なにやってんですか!?」

 

正解はこちら。

イオちゃんが目の前のゾンビどもを粉砕してやろうとゴリンを展開したところ、ものの見事につっかえて使い物にならなくなりました。

慌てる私達を他所にゾンビは奥からぞろぞろと湧いて出てきます。

 

「ふじのーん!魔法はー!?」

 

「今準備中です。けど、この数は……!」

 

アルマゲストを装備して魔法を《詠唱》を飛ばしてスキルを発動するふじのんさん。

霞ちゃんは【バルーンゴーレム】のバルルンを召喚していますがまだ時間がかかりそうです。

 

「サリーちゃん、突っ立ってないで応戦してください!」

 

「……」

 

「あれ?サリーちゃん?」

 

さっきから微動だにしないサリーちゃん。

あれだけホラーに耐性が無いと騒いでいたのに、ゾンビを前にした途端水面を打ったように静まり返っています。

不審に思った私が彼女の顔を覗き込んで、その理由がわかりました。

 

「……」

 

「きっ、気絶!?」

 

この子、立ったまま気絶してました。ご丁寧に【気絶】、【恐怖】がパラメータに表示されています。

いや、器用すぎやしませんか?DEX極振りですかこの子?

なんて言ってる場合ではありません。迫るゾンビに半ばパニックを起こしていて戦線が崩壊しかけています。ここはひとまずジョブを【記者】から【絶影】に変え、あのゾンビどもを殲滅するほかありません。出し惜しみしてたら折角のお弟子さん達がなすすべなくデスペナになってしまうでしょう。

すぐに判断した私は、ポーチからジョブを変更する【ジョブクリスタル】を取り出して――。

 

「《イノセントヴェール》!」

 

【ジョブクリスタル】を使う直前、光の幕が展開されました。

迫っていたアンデッドの群れは光の幕に怯えるかのようにその歩みを止めます。

確かこれは【司教(ビショップ)】の奥義の一つ……。

 

「イオ、貴女の〈エンブリオ〉でこの場で取り回せるものはありますか?」

 

「へ?あ、モード爆砕なら使えます!」

 

「霞ちゃん、召喚準備は?」

 

「か、完了して、ます!」

 

「ふじのんはそのまま魔法を発動してアンデッドの足止め、霞ちゃんは魔法の範囲外にいるアンデッドをお願いします。イオさんは爆砕で目の前のゾンビを粉砕してください。なるべく多く、1体でも倒して!」

 

ビシバシと的確にお弟子さんたちに指示を出したのは、【司教】ミザリーさんです。

VR系に限らず、MMOの類での回復役(ヒーラー)は、単に回復だけではありません。パーティやレイドの全体を見て、個々のステータスを管理したり、指示を飛ばしたりなど指揮系統のプレイヤースキルを求められます。因みに【指揮官(コマンダー)】系統のジョブはパーティメンバーの強化やパーティ上限を増やすことに特化していて、こういうスキルとは関係はありません。

そういった点では《円卓決議会》で一部隊を任せていたので、それで鍛え上げられた賜物でしょう。

そんなことを言っている間にふじのんちゃんの魔法が発動。石畳の通路が突然泥のように柔らかくなり、アンデッドの脚を捉えて動きを制限します。

 

「おぅら、吹っ飛べ!!」

 

直後、バズーカとなったゴリンが火を噴きます。

密閉された空間で爆発が巻き起こり、耳をつんざく轟音と共に爆煙が私達までも覆い隠します。

 

「サリーちゃん、早く起きてください!戦闘ですよ!」

 

バシバシと叩きながらサリーちゃんを起こそうとします。けど、マネキンになったかのように全然起きてくれません。

 

「UGAAAA!!」

 

と、イオちゃんが討ち洩らしたアンデッドの1体がこちらに迫ってきてました。

《イノセントヴェール》の中にいるとはいえ、後衛3人ではこれからの攻略に支障が出てしまいす。

 

「不味いですよ。一旦退却しますか?」

 

「……確かに有利とは言いかねますね。3人とも、撤退の用意を――」

 

ダンジョンに向かないアームズ、後衛3人を含めたパーティ。ホラー耐性皆無の役立たずに置物の私。

〈墓標迷宮〉攻略に向かない6人で、これではまともに進めません。

レイさんの《聖別の銀光》なら、5階まであっさり踏破できるはずですが……生憎彼はミィのクエストと同行している最中です。

ミザリーが撤退を指示しようとして――ふいにすべてのアンデッドが切り裂かれて消滅しました。

 

「……え?」

 

「い、今のは……?」

 

イオちゃんたちには何が起きたのかわからなかったでしょう。

けど、私はすぐに誰がやったのかわかりました。

 

「やれやれ。まだ撤退には、早いです、よ?」

 

「……サリー?」

 

さっきまでとはうって変わって、抜刀した【氷結のレイピア】を鞘に納めつつ冷めた目でこちらを見ています。

その雰囲気で、私達は否応なしに理解しました。彼女はサリー・ホワイトリッジではないと。

 

「……あなたは?」

 

「ああ、待って、ください。私、〈マスター〉の〈エンブリオ〉、です」

 

突き出した両手をぶんぶん振って敵対の意思がないことを伝えています。

彼女の言葉を聞くに、どうやら今サリーちゃんは気絶していて、肉体は彼女の〈エンブリオ〉のカーレンが操作しているとのことです。よく見たら確かに【気絶】が消え、【肉体操作権限剥奪】の状態異常が見受けられました。

 

「ともかく、私も、戦線に出られ、ます。探索を、続け、ましょう」

 

「いいねいいね!前衛が増えるのは心強いよ!」

 

「そうですね。イオが役立たずな分戦える前衛がいるのは助かります」

 

「…私も、5階までは行こうかなって……」

 

お弟子さん達はすぐに引き返すつもりは無いようですね。ミザリーのほうを振り向くと彼女も頷いたので、私もお弟子さんたちと同行していくことにします。

……カーレンに敵対の意思はないとは言え、一応最悪の事態に備えて【ジョブクリスタル】は懐に隠していましょう。

 

 

 

 

その後は私の警戒が杞憂にだったと言わんばかりに順調に進み、4階までたどり着きました。

地属性をメインに操るふじのんや召喚術を駆使する霞がアンデッドの動きを封じ込め、サリー……もといカーレンがそこに斬り込んで討伐していきます。私とミザリーを除けば、この中では唯一の上級職。この程度のアンデッドなら一撃で粉砕です。因みにドロップアイテムは碌に売れそうにないので全スルー。

イオちゃんが道中、「もう1回!モード爆砕なら撃てるからもう1回お願い!」と懇願していましたが、「これ以上地下でバズーカをぶっ放すバカがどこにいるんですか」というふじのんちゃんのツッコミと、「これ以上やったら本当に生き埋めになりかねませんよ?」というミザリーの指摘に論破されてしまいました。

そういやレイさん、〈ゴゥズメイズ山賊団〉のアジトで《煉獄火炎》ぶっ放したそうですが、あれはセーフだったんでしょうか?

 

「ところでサリー……ああいや、カーレン、ちゃん?で良いのでしょうか?」

 

「今は、カーレン、です」

 

「下に降りる度に何か飲んでるのですが、それ何ですか?」

 

私が質問してきたのは、飲み干したばかりの小さなポーションです。

手持ち無沙汰とはいえ、漫画のタネを探す観察眼は結構あるほうだと自覚しているんですけどね。

 

「これは、【MP持続回復、ポーション】、です。メイプル様が、作ってくれました」

 

ひょっとしてその憑依スキル、MPを消費するのでしょうか?

大闘牛士(グレイト・マタドール)】は基本MP補正皆無です。それを飲んでMPを持続回復しつつ、スキルの時間を延ばしていったのですね。

そういや【ホーンテッド・スピリット】にはかなり距離を取っていたり、速攻で潰していたりしていたのですが、それも原因でしょうか。だってあれMP吸い取る攻撃しかしてきませんし。

閑話休題。

 

 

 

その後も大したアクシデントは発生することなく、ボスの前へと到達しました。

カーレンも、ボス討伐までは行けそうです。

 

「それではバフを掛けますね。《純血の加護》」

 

ミザリーさんが早速杖を掲げます。

すると赤い液体の入ったボトルの一つが吸い込まれるようにその中身を減らしていきます。反して杖の先端から赤い水がスプリンクラーのようにお弟子さん達とカーレンに降り注ぎました。

これがミザリーの〈エンブリオ〉、【鉄血聖杖ディンドラン】の能力です。自分の血をコストに用いることで、バフの時間延長や範囲拡大にも使えるのはフランクリンのゲームで知っていましたが、単体でもこのようなバフスキルがあるとは。

バフによってステータスを強化した後、ボスの部屋に突入しました。

遮蔽物も何もないだだっ広い部屋の中、1体のモンスターが6階への通路を阻んでいるかのように立っています。

体長は10メートル以上。スケルトンのように骨だけの細い身体。けれど今までの【シビル・スケルトン】とは異なり3対の腕……もとい鋭い刃状に加工された骨、頭部には頭蓋骨の代わりに脊髄のように連結された骨が蛇のようにうねって、こちらを睨むかのように、先端にも付いている刃がゆらゆら切っ先を揺らしています。

これが〈墓標迷宮〉最初のボス。【スカルレス・セブンハンド・カットラス】です。

 

「これを倒せば5階はクリアです」

 

「それじゃあ今度はあたしも行くよー!」

 

ボスまでほぼ役に立たなかったイオちゃんがゴリンを担いで前線に出てきます。

前に出て6本の刃からなる斬撃のラッシュが繰り広げられます。その攻撃に対して、カーレンは跳び越えたり身を屈めたりして回避し、イオちゃんは攻撃をゴリンで受け止めます。

 

「…《召喚》、バルルン。《多重召喚》、ボムムン……!」

 

壁モンスターを召喚して自分とふじのんちゃんの防御を確立させた後に召喚した爆発モンスター、【エクスプロージョン・エレメンタル】で援護をしてみますが、ボスは頭部の刃をしならせ、ボスに届く前に切り裂かれて爆発してしまいました。

カーレンが刃を掻い潜り、レイピアの攻撃を叩き込みますが、そうダメージは多くありません。イオちゃんはカーレンほど動きは機敏じゃありませんので6本の刃に苦戦しています。

 

「問題は首の刃物ですね」

 

不規則にうねるそれは蛇が狙いを定めて鎌首をもたげるようです。しかも振るわれる速度は高速。迂闊に手を出せば真っ二つは確定的でしょう。

一応彼女らは【救命のブローチ】を持っていますし、いざとなれば私が手を出しますが、そんな状況になってしまっては育てる側からすれば元も子もありません。

 

「カーレン、前!」

 

跳びあがったカーレンを待ってましたと言わんばかりに頭の刃をカーレン目掛け高速の突きを繰り出しました。

空中での高速攻撃は余程の手練れでなければ回避は難しいでしょう。上級の【大闘牛士】でも空中回避は想定されていないはずです。

 

「……ッ!!」

 

確実に直撃するであろう攻撃を、カーレンはレイピアを右から左に持ち替え、反時計回りに身体を捻りました。

直後に高速で迫る頭部の刃がレイピアを削り、揺れる髪の一部を一房千切り、地面を突き刺しました。あれを避けますか。

 

「見事ですねー」

 

「けど、決定打は、まだです。強い一撃を、お願いします」

 

「ならば私が動きを止めましょう」

 

決定打を与えられない実情に霞さんが召喚したバルルンの後ろで、ふじのんさんが己の〈エンブリオ〉、アルマゲストを掲げます。

 

「《星写し(スタースプリンター)》三重展開」

 

宣言の直後に彼女の足元に、合計4つの魔法陣が一つの惑星と、それの周囲を回る3つの衛星のように展開されました。

展開した直後、ふじのんが《詠唱》に入りました。

 

「――我が声に応じ、その威を広げよ

 ――汝が腕は地上の何者をも包む

 ――来たれ、我が魔導」

 

詠唱でした。それもRPGとかで30年前から使われてるマジもんの詠唱でした。

加えて説明すると、《詠唱》というスキルは基本MPの加算による威力上昇や範囲拡大を主としており、別にふじのんさんのように呪文を唱える必要はありません。

早い話、《詠唱》が完了するまでの空白は無言だろうと《詠唱》に分類されるスキルの宣言でも、素数やアルファベットの並びだろうと構いません。

 

そんな説明の間に地面が盛り上がり、巨大な腕が骸骨の、その骨体を握り潰さんと襲い掛かります。

地属性下級拘束魔法《グランド・ホールダー》。本来ならこの程度の魔法で拘束されるとは思えません。

1つだけなら。

 

起動(クリック)、起動、起動」

 

次々と3つの衛星魔法陣が弾け、本来の魔法の他に複製されたものも含めた8本の腕が羽交い絞めにせんと伸ばしてきます。

【スカルレス・セブンハンド・カットラス】も腕に対して反撃に出ました。半数が斬り崩されましたが、残る4本に抑えつけられます。

 

「イオ」

 

「おっしゃー!」

 

拘束された直後、跳び上がったイオちゃんがゴリンを大きく振りかぶらせます。

その大斧がその姿を変え、斧からトゲ付き鉄球へと変化しました。

 

「今まで暴れられなかった分と思うように戦えなかった分と地下だからってバズーカぶっ放せなかった不満とその他諸々も含めて!おんどるぅぃやあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

巨大モーニングスターが頭部を直撃し、そのまま全身骨格を砕き、地面をも穿ちました。フランクリン製のモンスターを叩き潰すレベルです。骨体ではひとたまりもないでしょう。

骨体は見事なまでに粉砕され、辺りに破片を転がして消滅。同時に正面の門が開きました。

 

「よっしゃー!撃破!」

 

「お疲れさまでした」

 

「これで、終わり、ですか?」

 

「ええ、とりあえずは」

 

「そうですか。それは……よかっ――」

 

一息吐いたカーレンが突然糸が切れたように倒れ伏します。

お弟子さん達が何事かと戸惑っていると、不意にサリーさんが突如顔を上げます。

 

「――!みんな、ダンジョンはどうなったの?」

 

「あ、戻りましたね。もう終わりましたよ」

 

どうやらMP切れを起こして今の今まで気絶していたサリーちゃんの意識が表に出たようです。

すっかり【肉体操作権限剥奪】の状態異常も消えています。

 

「お、終わった?」

 

「ええ、カーレンが頑張ってくれたので」

 

「あぁそっか。なんかごめんね、私だけ散々足引っ張っちゃって」

 

「ふふん、この借りは身体で返してもらおうかな?――あでしッ!」

 

「馬鹿言ってないで帰りましょう」

 

「…それじゃ、お先に……失礼します……」

 

まずお弟子さん達が【ジェム】を使い入り口へと転送されます。

残ったのは私とミザリー、サリーちゃんのみとなりました。

 

「どうします?今度は3人で潜ってみますか?」

 

「……いや、いい。ここだと本当に私足手まといになるから」

 

「いえいえ、アンデッド層はここまで。次からは別のモンスターの根城になりますよ」

 

私からのアドバイスもとい攻略サイトの情報を提示した途端、サリーさんは一瞬後ろ髪を引かれている顔をして奥へと続く扉へと振り向きます。そして散々唸った後、バン、と床を叩いて立ち上がりました。

 

「よし!帰ろう!正直私のSAN値もガリガリ削られまくったし!」

 

「そうですね。次の攻略はまた日を改めましょうか」

 

「お二人がそこまで言うならボクも止めませんよ。【ジェム】があれば6階からスタートですからね」

 

二人も〈墓標迷宮〉の攻略を切り上げることを決定し、3人分の【ジェム】を起動して入り口へと戻っていきます。

その後、入り口の雰囲気にいたたまれなくなってしまったサリーちゃんがあらぬ方向へ逃走していくのを私が必死に抑える追走劇がありましたが。

 

 

 

 

アルター王国 王都アルテア中央広場。

 

 

〈墓標迷宮〉の探索の後、〈旧レ―ヴ果樹園〉でのモンスター調査に当たっていた3人のメイデン&アポストル使いとルークと合流したサリー達。

突然ミィに引っ張られて〈墓標迷宮〉の探索をすっぽかしてしまったメイプルは、食って掛かるサリーを宥めるのに必死だった。それでもやっと落ち着いた後、お互いの近況を報告する。

 

メイプルはヒドラの第3形態のスキルが完全に把握できたこと。

 

サリーはカーレンのおかげで〈墓標迷宮〉まで到達できたこと。また機会があれば6層以降からチャレンジしたいとのこと。

 

「それじゃあ帰りましょうか」

 

いつの間にか会話を弾ませていた。このままではだれも止められなくなるのではないかとレイが思い始めた時、マリーのその一言で二人とも我に返る。

一言謝罪を入れつつギデオンへと帰ろうとした。勿論行きと同じくオードリーとバルルンの空の旅だ。

 

「メイプル、置いてくよー?」

 

「ああ、待って」

 

街並みを見回しながら、いつの間にか歩みを遅めていたメイプルが急いで一行へと走る。

 

 

――ドンッ!

 

 

「わたっ!?」

 

と、不意に誰かとぶつかってしまい、尻もちを付いてしまった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、ありが――」

 

「――!」

 

不意に顔を上げた途端、メイプルは息を呑み、ヒドラも足を止める。

相手はなんてことはない、眼鏡を掛け、巨大な盾を獲物にしている女性〈マスター〉だ。

 

「――おい、何やってんだ!!」

 

振り返ったヒドラが女性に怒声を上げながらメイプルの元へと駆け寄る。そのまま女性との間に割り込み、メイプルを護るように身構える。

いきなりの行動に全員ギョッとメイプルのほうを振り返ったが、やがてサリーがメイプルの異変に気付いて彼女の元へ駆け寄る。

 

「メイプル、大丈夫?」

 

サリーが彼女に駆け寄るも、メイプル自身は彼女に全く気付いていない。

一方のメイプルはガタガタと震えだし、遠目から見ても異常と言えるほどに脂汗を流す。目を見開き、過呼吸を激しく繰り返し、明らかに普通じゃない。

 

「メイプル、しっかりして!どうしたの!?」

 

「あの、どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!!コイツは――」

 

 

 

――シュン。

 

 

 

ヒドラが言い切る前に、メイプルが世界から消失した。同時にヒドラもその姿が忽然と消失する。

 

「……え?」

 

「メイプル!ヒドラ!?」

 

突然の消失にレイがメイプルのいた場所に駆け寄る。

彼女がいた場所を見渡すが、落ちているアイテムはどこにも無い。デスペナの類ではないことは判断できたが、そうでないとしたら何が……?

 

「――強制ログアウト」

 

沈黙の中、ルークが呟く。

確か〈Infinite Dendrogram〉の専用ハードは心身の異常によって強制的にログアウトされる機能が付いている。

つまり、メイプルの消失はトラウマによる強制ログアウト――。

 

「私、様子見てくる!3日は空けるから後宜しく!」

 

「待って下さい!何が――」

 

サリーが急いで開いたウィンドウを操作し、ログアウトしていった。

状況に取り残されていた女性〈マスタ―〉が、慌てて呼び止めようとするがその前にサリーはこの世界から焼失した。

 

 

 

 

現実。本条家。

 

 

「楓!」

 

ログアウトした後、理沙は脇目も振らず楓の家へと走って行き、彼女の部屋の扉を開ける。

 

「あ……あぁ……!」

 

そこにいたのは、ベッドの上で強制ログアウト寸前と遜色ないまま過呼吸を繰り返す楓だった。

恐怖に駆られ、不安に潰され、トラウマに苛まれ――今にも爆発しそうな恐怖心が楓の中で暴れまわっている。

 

「落ち着いて、楓……!」

 

「り……理沙……?どこ?どこなの……?」

 

まるで視界が機能していないかのように振るえる体を精一杯に動かして親友の姿を探す。

その姿に理沙の脳裏には、あの時の光景がフラッシュバックされる。自分の過失で彼女に自分の死を脳裏に焼き付けてしまい、拭いきれないトラウマを与えてしまった後悔が。その光景を刻ませた所為で楓を壊してしまった事を知った日が。

不意に思い出した光景に一瞬胸を締め付けられ、まるで鎖に縛られたような感覚に襲われる理沙だったが、それらを振り払わんと楓に抱き着いた。

 

「……ッ!」

 

「大丈夫。私はここだよ。ここにいるよ」

 

優しく背中を撫で、宥めるように囁く。

あの時とは違う、知らずに立ち尽くしていた自分ではない。

 

「ぁ……はぁ……はぁ……」

 

親友の手が、声が、体温が楓の不安を取り除いていく。

 

「り……さ……」

 

「大丈夫だよ。私がいるから……」

 

不安が消え去るまで、理沙は楓を抱きしめる。

やがて呼吸が、脂汗が治まって……弱々しい手で抱き返す。

 

「ありがと……ごめんね……」

 

機械のようにその2つの言葉をか細い繰り返す。

何が起きたのか問い質す気は無い。ただ一言、楓を落ち着かせる言葉があればいい。

 

「ううん。謝る必要なんてないよ」

 





(・大・)<次回、いよいよUBM討伐編開始。

(・大・)<残る決闘話は追々書けたらと思ってます。

〈K&R〉の部隊として、どっちを出す?

  • 『thunder storm』
  • 『ラピットファイア』
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