悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(・大・)<遅くなりましたが、2021年初投稿です。


極振り防御と〈UBM〉。さがしたい。

アルター王国西部 【城塞盾士(ランパート・シールダー)】メイプル・アーキマン。

 

 

ランドウィングの背に乗っての王国の旅。旅は道連れ。連れは堕天使に友達、男の人。すたすた駆けて、王国の旅。

 

(よく考えたら、アルター王国はまだギデオンと《旧レ―ヴ果樹園》以外に行った事無いっけ)

 

初日からのゴタゴタで、私のプレイ目標はすっかり路線変更してしまった。

始めはこの世界のいろんな場所を気ままに旅したいと思っていた。けど、PKに襲われてトラウマを植え付けられ、そいつらへの復讐心で一度は私の中はいっぱいになった。

そこからレイさん達と会って、一緒にギデオンに行って、テロに巻き込まれて……。リアルの時間で累計するとまだ2週間弱なのに、色々大変な目に遭って来た。

 

「そろそろ森に入るよ」

 

サリーの呼びかけで物思いに耽っていた私が我に返る。いけないいけない。こんなことじゃお目当ての相手は手に入れられない。早く特典武具を手に入れたい――そんな思いが自然とランドウィングの手綱を握る手に力が込められていって、集団から頭一つ抜き出るように足早になる。

 

「あれ?」

 

後ろで同行者の男の人が訝し気な声を上げる。

 

「どうかしました?」

 

「もうそろそろ森が見えても可笑しくないんだけど、まだなのか?」

 

同行者の男の人の呼びかけで、私は改めて前を見る。

もうすぐ目的地に届くはずなのに、一向に森が見えてこない。

 

 

――あそこは消し飛んだはずだ――

 

 

ふと、クロムさんのそんな言葉が頭をよぎる。

まさか、もう誰かが倒して……?

いや、それよりも前にグローリアとの戦闘に巻き込まれた?

そんなことを考えると私の顔からさぁっと血の気が失せ、手綱を握る力が籠められる。

 

「メイプル、急ぎすぎ!」

 

サリーのそんな言葉も置き去りに、一番乗りに渓谷に差し掛かった。

直後に、ランドウィングが宙を蹴ったような、いきなりの浮遊感に襲われた。

 

「――え?」

 

私の思考回路を置き去りにして、私と、私を乗せたランドウィングの身体が重力に従って落下していく。

すぐに斜面に足を着けたランドウィングは、今の私とは対極的に冷静な脚捌きで転倒することなく滑り降りる。数分もしないうちに斜面の終わり付近、崖の底の辺りと思われる場所にまで到着した。

 

「おい、メイプル大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「メイプルー!」

 

ヒドラが紋章から出てきて私に声をかけると、クレーターの外側で、同じように2匹のランドウィングが滑り降りて私と合流してくる。サリー達だ。

 

「……ここが、〈ノヴェスト峡谷〉」

 

合流した私達は改めてぐるりと周囲を見渡す。

目的地である〈ノヴェスト峡谷〉は、すり鉢状のクレーターが内側から一望できた。

――いや、違う。クレーター()()見当たらない。

人も、自然も、モンスターも、動物も、何もかもが存在しない。まるでスプーンか何かでそこだけをくり抜かれたように、抉れた地形は何も残っていない。

クロムさんが言っていた、「もう生物が住める場所じゃない」という言葉が脳内でリピート再生される。同時に私は納得し、疑問も浮かび上がった。

――峡谷、どこ?

 

「い……いったいどんな奴が戦ったらこんな有様になるっていうの……?」

 

サリーの愕然とした呟きに、私も無意識に戦慄してしまう。

クレーミルという所を消し去り、多大な犠牲と共に3人の〈超級(スペリオル)〉の手によって討たれた〈SUBM〉グローリア。

その戦闘の跡が、地域を丸ごと一つ消し去るほどの大規模なものだと思うと頭がくらくらしてくる。

 

「おい、今はやられたグローリアじゃなくて、グランディオスだろ?」

 

ヒドラの一言で我に返った私達は、ひとまず分かれて捜索することになった。

私と男の人はクレーターを中心に、サリーとジュリは外側の森もどきを捜索していく。

 

 

 

 

「んー、なかなか見つからないね」

 

「うじゃうじゃいたら希少性も減ったくれもねぇし、ゴロゴロ襲って来て貰いたくもねぇがな」

 

それも一理あるけど、正直もう少し楽に見つけられればいいんだけどなー。

それにしても巨大なクレーターだ。軽く見積もっても東京23区が丸ごとすっぽり覆ってしまいそうなほどの広さはある。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

何も無いはずのクレーターの中で、人影が見えた。がっしりとした屈強な体躯の大柄な男性だ。ドラグさんとそう大差無いけど、年齢は彼より上に思える。

ローブのような簡素な服をしているけど、腕の太さは歴戦の戦士を思わせる。多分この人、相当強い。

 

「あの、こんなところで何をしてるんですか?」

 

私の声に気付いた大男はこちらに振り返る。その時に気付いたけど、左腕でトイプードル程度の小さなドラゴンを抱えていた。

少しその子ドラゴンに対して可愛いと思ったけど、大男の声で我に返る。

 

「こんな所に何の用だ?」

 

「あ、えっと……」

 

「クエストでここに来たんでね。しっかし、初めて来たから、こんな有様になってたのは思いもしなかったけど」

 

私をかばうように前に出たヒドラが適当なことを言ってはぐらかしつつ、警戒を怠らない。

 

「……大層な物好きもいた者だな」

 

「あなたは何しに来たんですか?」

 

相手も私とヒドラを視界から逸らさず、こちらの出方を伺っているみたいだ。

相当戦闘を積み重ねたのか、素人目でもこの人の強さが嫌でも感じられる。

 

「……気配だ」

 

気配?

 

「妙に巨大な気配を感じてここに来た」

 

この人事態、かなり妙な気もするけど発言も奇妙なものだ。

こんな生物の住めそうにない場所で、いったい何の気配を感じたの?

 

「ともかく立ち去れ。興味本位で立ち入っていいものではない。奴の餌になりたくなければ尚更だ」

 

「わ、わかりました……」

 

一先ず大男の警告を受けてその場から離れる私達。

子ドラゴンはちょっと可愛いかったけど、あの人はかなり怖かった。

 

「メイプル」

 

まだ心臓の音がバクバクうるさく脈打つ傍らでヒドラが小声で話しかけてきた。

 

「あいつ、多分ティアンだ。紋章が無かった」

 

「うん。左手は私も見たよ。右のほうも一応見たけど、なにも無かったし」

 

「……何もなかった?」

 

私の何気ない一言にヒドラは声を上げて足を止める。

確かにあの時、少し目線を下げてお男の手の甲を見たけど、両方とも何もなかった。けど、それがどうかしたの?

 

「メイプル。お前とサリーがこっちに戻って来た時、ルークはわざわざ待ってくれて、そのままオードリーの背に乗って移動したんだよな?」

 

「そうだけど……あれ?」

 

ヒドラに言われて私にもヒドラの疑問に気が付いた。

オードリーは亜竜級の【クリムゾン・ロックバード】で、サイズも現実の鳥類ではありえないほどの巨体だ。

待っていたって事はどこかの宿屋にいたのかもしれないけど、街のど真ん中に構えている宿屋であれだけのサイズでも泊まれるような広さは無いはず。それで3日間騒ぎになってないなんてちょっと変な話じゃないかな。

 

「【ジュエル】だよ」

 

「え?」

 

「テイムモンスターを扱う職業(ジョブ)には【ジュエル】っていうモンスター専用の格納庫が必須らしい。あの男にはそれが無かったんだよ」

 

「じゃあ盗まれた!?って、それだとあの子も相当嫌がってないと説明がつかないよね?それだと盗まれたってのも無いかも……」

 

「考えられるとしたら……2つかな?1つはあのドラゴンの親を倒した後で偶然孵化直後のあいつを見つけ、罪悪感から【従魔師(テイマー)】ギルドに引き取ってもらおうと考え、そこへ行く途中俺らと出くわした」

 

なるほど。あり得ない線じゃないね。

で、2つ目は?

 

「何かの経緯で卵を手に入れ、つい最近孵化。まだ幼いから【ジュエル】は買っといたが、入れる必要も無いと判断して王国中を旅している……って所かな」

 

「どっちもどっちであり得そうだね」

 

暫くしてやっと大男の姿が見えなくなると、そろそろサリーと合流しようかと斜面に手を掛けた。

 

「――うん?」

 

次の瞬間、崩れるような音と共にべしゃっと地面に身体を打ち付けた。

 

「あたた……何なのいったい……?」

 

「メイプル、あれ!」

 

起き上がると、私の目の前にぽっかりと大穴が開いていた。自然洞のような穴は奥行きは十数メートルやそこらではない。奥へ奥へと続くような漆黒が奥に続いている。

 

「……これって、ダンジョン?」

 

「……みたいだな」

 

こんな横穴、クロムさんは一言も言っていなかった。見落としていた、っていうのがあり得そうだけど。

 

「ともかく急いで戻って、みんなに知らせよう!」

 

ともかく知らせなくては。待機させていたランドウィングへと戻っていく為に私は駆け足気味にクレーターを走って行った。

この時ほど、平時のステータスが戦闘ステータスに影響されないのが本当に良かったって思っている。

 

 

 

 

アルター王国領内〈ノヴェスト峡谷〉【大闘牛士(グレイト・マタドール)】サリー・ホワイトリッジ

 

 

メイプルと同行者と別れた私は、ジュリエットと一緒に森――訂正、元・森――の探索に出ていた。

 

「生き物らしきものが見当たらないわね……」

 

「頂点に君臨し魔獣を超えるには、紋章を携えた頂点をぶつけるのみ。されど聖戦の余波は生ける者達の希望を奪い去るパンドラの災厄となった」

 

「……どういうこと?」

 

「グローリアは〈超級〉達の手で倒せたけど、戦闘の余波で生き物がすめるような場所にならなくなっちゃったの」

 

わざわざ解説どうも。私はメイプルみたいになんとなくで翻訳なんてマネはできないからね。

改めて探索を続けてはいるが、あるけどあるけど石と地面ばかりしかない。かつては木々が生い茂っていたであろうが、そうだったかと思えば信じられない。

 

「ん?」

 

死んだ森の中で、明らかに異質なものを見つけた。前方5メートル弱。大きな岩の下に転がっていたそれらを拾い上げる。

 

薄い鉄板状のようなそれは所々割れていて、まるでジグソーパズルのピースのようだが、市販品のそれと比べると難易度は大したことは無い。すぐに割れ目を合わせるように置くと、長方形の形が出来上がった。

まるで盾のようだけど、私の《鑑定眼》を使っても【錆びた破片】としか表示されない。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、ジュリエット。これ何か解る?私の《鑑定眼》じゃ解析できなくて」

 

丁度そこにジュリエットが来た。折角だし、彼女にこのアイテムの鑑定を頼んでみる。超級職は8つの基本ジョブ構成に含まれないから、《鑑定眼》スキルを持った職業を持っているか、スキルを得ているかもしれない。

 

「……栄光の残骸」

 

「ごめん、わかりやすくお願い」

 

「其は、王都を守るべく立ち上がった騎士の成れの果て。己の命を燃やし、民を護り、主を喪いしかつての栄光」

 

……あー。ひょっとしてこれは、『昔めっちゃ強いティアンの騎士が王都を守る為にこの場所で戦って命を落として、この破片はその時の鎧や剣の残骸が長い年月で錆びちゃった』って事で合ってる?

それにしても私にはいまいちジュリエット語を理解しきれていない。ジュリエット語専用の翻訳語録があれば私でも何とか解読できると思うけど。

 

「それよりもこれ」

 

話題を変えようとしたジュリエットが取り出した握り拳大の石を見せる。別にここらで拾った石だろうと一瞬私は思ったのだが、それに残された痕跡で気が付いた。

 

「……誰かいるの?」

 

その推測にジュリエットはうなずく。

その石は普通に拾ったのではありえない、溶けた痕跡が見つかったのだ。それもごく最近のものが。

フィールドとして完全に死に絶え、誰も立ち寄らなくなったこの地だが、発想を逆転するとここは誰にも邪魔されず、目撃もされない絶好の練習場所でもあるということ。

そしてその石から推測できることはただ一つ……。私達のほかに、〈マスター〉がいる。多分硫酸のアイテムを使うようなヤバい奴が。

 

「場所は?」

 

「日(いず)る地の果て」

 

「普通に西って言ってね?」

 

ともあれ【かつての栄光(ジュリエット命名)】と名付けた錆びた破片をアイテムボックスに入れ、ジュリエットの後を追っていく。

西に数分、大体300メートル近く走った後で岩陰に隠れると、確かに誰かいる。

一人は背の高い大人。大体30代くらいだろうか。雨でもないのにオリーブ色のレインコートと厚手の長靴とゴム手袋。そして下水作業や、テレビで見た池の水を抜き取る番組で使うような似たような色合いのエプロンを装備している。顔は……マスク――というより仮面のような被り物を着けていた。目と、口の位置にある直角を着けた線。それだけのシンプルなデザインの仮面だ。

もう一人は顔は見えないけど、これまた明るい緑色のレインコートに水色の長靴、黄色いゴム手袋とこちらも雨天ファッションに身を包んだユイちゃんマイちゃんくらいの背丈の子供だった。多分あの2人が、あの溶けた石の原因だろう。

 

(確か、テレパシーカフスFは通話相手をフレンドの中から選択できるんだよね)

 

早速ジュリエットに連絡先を切り替える。

 

【――ジュリエット、聞こえる?】

 

【――聞こえる。で、どうする?】

 

【――そうだね……。まず私が出て様子を伺ってみる。ジュリエットは顔も知れてるんじゃない?】

 

【――うん。私は後方で呪術の準備をしておく】

 

即興の作戦を立てて私が前に出る。

 

「すいませーん」

 

私の呼びかけで、2人もこちらに気が付いた。

あくまで「クエストの為にここに来た一般〈マスター〉を演じる事」。不用意に武器に手を取って警戒心を煽るような真似はしない。

 

「おや、こんな所に人なんて珍しいね。君も〈マスター〉か?」

 

「ええ。ここにはクエストで。あ、私はサリー・ホワイトリッジと言います」

 

「私は……ジョージ・ハミルトンです。こちらは息子のヘイグと言います」

 

『よろしく』

 

良かった。向こうも害意は今のところ無いみたい。

 

「こんな所で何をしてるんですか?」

 

「私のスキルが存分に使えるから、トレーニングがてらここに来てるんです。誰も立ち寄らないから巻き込む必要も無いからね」

 

どんだけ広範囲なスキルを使うんですか?

とはいえ、ちょっとこの人に対して疑問が出てきた。スキルを試すんだったら闘技場でも構わないはずだし、あそこの結界が易々と壊れるはずがないと思う。シュウさんのパンチ並みの威力がある訳じゃあるまいし。

 

「いや、どうも闘技場は好きにはなれないからね。多少遠くとも、こっちのほうが落ち着くんだ」

 

「ああ、そうですか」

 

“多少”か。大体ギデオンから30キロメートルは超えてそうな距離を徒歩で来ると?見た目もそうだけど行動も奇妙な人だ。

 

「サリーーーーーー!!!!」

 

そんな時にメイプルの声が飛び込んできた。

いきなりの大声に全員クレーターのほうを見る。その先にはランドウィングを駆るメイプルの姿だった。

 

「友達かい?」

 

「はい。メイプル、どうしたの?」

 

「うん!それがね――うわった!?」

 

慌てて降りようとして落鳥――ランドウィングだから――しかける。けど何とか持ち直したメイプルは一息つくと、興奮気味に切り出した。

 

「見つけたんだよ!〈UBM〉の手掛かりが!!」

 

 

 

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