悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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第1章:極振り防御と私の可能性(アポストル)
極振り防御と癒えない傷痕


2045年 3月7日(水) 白峯理沙。

 

 

 

 

「え、楓が無断欠席、ですか?」

 

「ええ。こんなことこれまでもなかったのに……」

 

翌日、中学最後の1週間の2日目になっても関わらず、楓は顔を出さなかった。

普段なら風邪でも引かない限り学校を休まなかった楓が、しかも理由が無断欠席だということに私はわずかながらに面食らった。

でも流石に1日だけならショックも抜けないだろう。明日になればコロッと忘れて、「理沙おはよう!」と元気に言ってくるだろう。

 

その日は授業を終えて帰宅すると、<Infinite Dendrogram>のデスペナルティ期間が残り2時間を切っていた。

 

「とはいってもなぁ……」

 

またあんな奴らと出会うのであれば今は控えたほうが良いかもしれない。

改めて<Infinite Dendrogram>に関するニュースを検索した。

昨日の事件の記事はすぐに見つかった。

私達の惨劇は<Infinite Dendrogram>界隈の掲示板で一大ニュースとなっていたからだ。

 

〈サウダ山道〉以外の3か所でも、同じくプレイヤーが狩られ続けていた。しかもアルター王国の王都周辺のみ。

明らかに一クランというレベルではなく、一定の組織のバックアップが伺えた。あの鎧が率いたPKグループも、「1人1万リル」と口を滑らせていた。その組織が奴らと同じように莫大な報酬と引き換えに初心者狩場を制圧していたのはわかった。組織のほうも相当数の財力を有しているのも。

王国所属のプレイヤーも黙っておらず、有志のプレイヤーが何人か討伐に向かったが……圧倒的な戦力差で4か所すべてで敗北。

 

それからしばらくして、デスペナ期間が終了した。けど私は王都周辺のPKが鎮圧されるまで<Infinite Dendrogram>から離れることにした。

 

 

 

 

暗い空間の中、一人の少女が泣き叫ぶ。

 

――嫌だ。いやだ。いやだ。やめて。助けて。

 

叫ぶ先は脚を折られた親友。幾ら助けようと伸ばしても、届かない。

そして現れる、天を覆わんばかりに巨大な鎧。自分の親友を殺した、自分の畏怖の対象。

鎧は嗤いながら、ウジ虫を潰すかの如く親友をその大盾で叩き潰した。

目の前の現実を受け入れる前に、鎧は再び盾を、ビルの如き腕を振り上げる。

 

――逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。

 

生命の危機による脳からの命令に反して、脚が凍り付いたように動かない。迫る死の絶望に完全に体が動かない。

そして涙と絶望に顔を歪められた楓を見下ろした鎧はまた笑いながら、その腕を振り下ろした。

 

 

 

 

「――!」

 

その直前でガバリと起き上がる。

身体から昨日と同じくらいの汗を流し、呼吸もひどく乱れている。

時間は午前2時。悪夢にうなされた彼女の起きる時間は大体これくらいだ。

 

「また……」

 

このまま脱水症状になってしまうのかといわんばかりの量の汗まみれの手を見る。ふと、さっきの夢を思い返す。

 

「私が……弱かったから……」

 

あの時自分の〈エンブリオ〉は孵化の兆しすらなかった。

もし孵化していたらあの鎧達から理沙を守れたかもしれない。自分も助かったかもしれない。

なんでこんな結果になったの?なんで私の〈エンブリオ〉は孵化しなかったの?なんで理沙を見捨てたの?

 

 

――お前が弱かったからだよなァ?

 

 

耳から聞こえてくる、いるはずのない奴の、聞きたくもない嘲笑。

恐怖に駆られた楓は布団にくるまり、枕で耳をふさぐ。聞きたくない奴の声を聞かないために、恐怖の対象から、少しでも逃げるように。

夜が明けるのは、まだ早い――。

 

 

 

 

2045年 3月14日(水) 白峯理沙。

 

 

あれから1週間。結局楓は終業式の終わったその日まで姿を見せなかった。

7日連続の無断欠席したとなれば教室内でもざわめきが感じられる。

私も流石に奇妙に思い、担任に相談して私が楓の家に行くことを頼んだ。担任も私を指名しようとしていたらしく快くその提案を受けてくれた。

早めの終業式を終えて帰宅した後、私は楓の家に向かっていった。

 

「楓、いる?」

 

「いい…よ…」

 

小学生の頃は何度も通ったことのある楓の部屋。

返ってきた返事は妙に弱々しいものだったが、私は気にせず扉を開けた。

 

そこで目の当たりにした光景に絶句した。

 

「か…楓、なの……?」

 

「理沙……来て、くれた……?」

 

私を部屋で迎えてくれた楓は、1週間前

ボブカットの黒髪の先端が所々色を失い、目を見ても分かるように生気の大半を削がれている。

当然肉体にも顕著な変化があった。幼さを残しながらも健康さを思えた面影はかろうじて残っているものの、必要最低限の働きしかできないような筋肉で、あと数か月もすれば衰弱死してしまうだろう。

私に触れる手も、指も、骨の上に皮を被せたようにか細く、弱々しい。

 

「な……何があったのよ!?どんな事をしたらこんな――」

 

激情に駆られるままに私は叫ぶが、途中で言葉を止めた。その原因がすぐにわかったからだ。

 

「わた、し……?」

 

原因は、私だ。

私が<Infinite Dendrogram>を無理に勧めたから、楓が苦しんだ。

私が<Infinite Dendrogram>で狩場に行こうと提案しなければ、楓を傷つけることは無かった。

私が<Infinite Dendrogram>で自分も楓も助かる道を選択していたら、今の楓にはならなかった。

 

 

後悔に苛まれる中、楓はたどたどしい口調で経緯を説明してくれた。

 

あの日からあの惨劇が悪夢に現れるようになったこと。

その翌日に診断して貰った結果、PTSDを発症し、併合して拒食症も患ってしまったこと。

見る見るうちに食欲が失せていき、今に至るまで4日も掛からなかったこと。

食事はできるものの、摂取する量より嘔吐で吐き出す量が多い事も拍車をかけていた。

そして、今も在宅治療がやっとの状態だということ。

 

「ごめん……!私が、私がこのゲームに誘ったばっかりに……!」

 

「…理、沙。泣かな、いで……」

 

楓が私を宥めるように頭を撫でる。

――違う、私の所為だ。私の好奇心が楓の心に深い傷を負わせたんだ。私が楓に慰められる資格なんて無い。

事情を聞いた私は、5分ほど彼女の不安を和らげるために居座った後、私は逃げるように帰っていった。

 

それから私は、またデンドロをする気にはなれなかった。楓を壊しかけた、あのゲームに入ることを躊躇っていた。

それが例え、私の身勝手な自己満足だとしても――。

 

数日後。デンドロを引退する前に開いた例の掲示板で、あるニュースを目撃する。

 

 

【王都周辺のPKテロ、王国の〈超級(スペリオル)〉により完全制圧】

 

 




ここで原作(アニメ)の3話辺り。
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