悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(・大・)<待たせてすまぬ。

(・大・)<今回は短め。


極振り防御と〈UBM〉。たのみたい。

 

アルター王国:〈ウェズ海道〉

 

 

「なんダ。結局出番は無かったのカ」

 

迅羽がぼやきながら鉤爪で器用に頬を掻く。

 

「こんなに人、いたんだ……」

 

周囲を見渡すと、あの戦いで生き残った多種多様な〈マスター〉が驚愕を絵にかいたような表情でこちらを見ている。

今の今までメイプル達はグランディオスの体内に居て、外の状況なんてろくに知るはずが無かった。

 

「まあ、土塊ごと消滅したのであれば問題は無いなら良かったよ」

 

「ルーキーで古代伝説級討伐なんテ、前代未聞だヨ。大体、王国の〈UBM〉の登場回数おかしくないカ?」

 

「……確かに」

 

現状、2体の〈UBM〉に遭遇したレイが頬を掻く。恐らく周囲の〈マスター〉の誰もが、「お前が言うな」と思っただろう。

 

「それより、MVP特典を見せてよ!」

 

「う、うん!」

 

サリーに促されてメイプルは早速宝櫃を解放する。

緊張と期待の2つの感情が渦巻きながら宝櫃を解放すると――、

 

「……え?」

 

その中身に唖然となった。

強力な武器でも、強靭な防具でもない。高さ1メートル弱、体長3メートル半のサイズにまで圧縮されたグランディオスの躯だった。

 

「な、なんだこれは?これが特典武具か?」

 

「【ウキョウ】や【サキョウ】とはだいぶ違いますよね……?」

 

「というか、これって武具っていうより……」

 

「……素材?」

 

ネメシス、ユイ、マイ、レイの順でメイプルのMVP特典をまじまじと見る。

 

「い、いや待てって!ひょっとしたらじつは着ぐるみでした、ってこともあるだろ?試しに《鑑定眼》使ってみろよ」

 

否定するようにヒドラがフォローを入れる。

彼だって否定したかった。肝心のMVP特典がこんな使い道のない亡骸なんてあんまりだ。

メイプルが夢であってほしいという一心で《鑑定眼》を発動する。

しかし――、

 

 

 

【霊峰山亀の超圧縮遺骸】

古代伝説級素材(エンシェントレジェンダリー・マテリアル)

 

霊峰の如き地竜の親子の成れの果ての力を秘めた古より伝わる伝説の素材。

武具を作るにはこれだけでも十分だが、鎧を作る場合はこの武具に見合うべき素材が無ければ難しい。

 

 

 

いつだって現実は、形は違えど残酷な事実を突きつける。

当のメイプルががっくりと跪く。あれだけの苦労で手に入れた特典が、何の役にも立たない巨大な亡骸のみ。こんなものが一体何の役に立つというのだろうか。

その空気に感化して、次第に沈黙が広がっていく。

 

『……メイプル、討伐した時のメインジョブは?』

 

その沈黙を破ったのは、ライザーからの質問だった。

 

「……え?【城塞盾士(ランパート・シールダー)】ですけど……」

 

『……案外、それが原因かもしれないな』

 

一言呟いた彼は、続けて周囲に向けて声を張り上げた。

 

『誰かこの中に【完全遺骸】をドロップした〈マスター〉はいるか?』

 

「……俺、ドロップしたけど」

 

ライザーの質問に答えたのは魔術師風の〈マスター〉だ。彼を筆頭にぽつりぽつりと自分もドロップしたと報告する〈マスター〉が現れる。その数は少なく、100人近い中でも最初に答えた〈マスター〉を含めても2、3人程度しかいない。

 

『まだ憶測の域は出ていないが、その素材は加工を前提とするアイテムだ』

 

「加工を前提?」

 

『理由はギデオンで話すよ』

 

話をしながらヘルモーズにサイドカーを取り付け終えたライザーは抱えたメイプルとサリーを雑にサイドカーに乗せると、自分も搭乗してギデオンへと走らせるのだった。

置き去りにされた一行の中、レイが首を傾げながら疑問を口にする。

 

「所で、加工とギデオンってなんか関係があるのか?」

 

「みんないったいどうしたの?」

 

そんな折、細目を丸くしているような声を上げた人物が現れる。

声のした方角を一斉に見ると、誰もが「やっと来たか」と言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「遅かったナ。あのバカでかい〈UBM〉はついさっきやられたゾ」

 

「そうか。あの地響きは〈UBM〉だったんだ」

 

遅れてやってきた人物、フィガロは納得したように頷く。

 

「フィガロさん、ひょっとして〈墓標迷宮〉に?」

 

「うん。ダンジョンに潜っている時に妙な地響きを感じたんだ。潜ってた階層よりずっと上だったから、気になって探索を切り上げたんだけど、やっぱり今回は【エレベータージェム】を使ったほうが良かったかな」

 

「あー、そうしたほうが良かったですね」

 

今更後悔しても、もう後の祭りだということは、誰もがこの上なく理解できてしまうのだった。

 

 

 

 

決闘都市ギデオン〈DDC:アルター支部〉前。

 

 

「……で、なんでここに?」

 

『そりゃ、加工してもらうためだ』

 

「加工とあの亡骸と、何か関係があるんですか?」

 

ヘルモーズでギデオンに到着したメイプルとヒドラとサリー。まずギルド協会に行って討伐の証拠である【超圧縮遺骸】を見せた後簡易的な功績の説明をして報酬を受け取った。

そしてその後〈DDC〉へとやってきて、3人は連れてきた当人に説明を促す。

 

『さっきも言ったが、あれは加工を前提としたMVP特典なんだ』

 

「つまり……加工をしなきゃただのゴミって事か?」

 

『ゴミって……まあ、そのままじゃ使えないのは事実だけどな。多分、【城塞盾士】として戦闘を続けた結果がそれになったかもしれない。それに関しては憶測でしかないがな』

 

つまり、加工をしなければならない段階を挟まなければならないが、それでも使えないことはないとのことらしい。因みに、先の【フランクリンのゲーム】で切り札として投入したモンスターにも〈UBM〉討伐時の特典武具――もとい素材を材料にしたものもいたとか。

 

「にしても、やけに詳しいですね?」

 

『当然だ。俺もMVPで素材を受け取ったからな。その特典素材が出た時にはもしやと思ったんだよ』

 

経験者故の推測で、使い物にならないと断定できなくなったメイプルは軽くなった足取りで店の中に入る。

 

「あら、ライザーにメイプルちゃん、サリーちゃんまで。いらっしゃい」

 

『イズか。丁度良かった。加工を依頼したいんだが……』

 

「加工?別に今すぐ修理を要求する必要はなさそうだけど?」

 

「あ、そうじゃないんです。これを……」

 

カウンターにのめり込むように前に出たメイプルがアイテムボックスを操作して【超圧縮遺骸】を取り出した。

テーブルの上に置かれた特典素材は、取り出さ柄た途端テーブルが重量に耐え切れず全身に亀裂を巡らせ、粉々に崩れてしまった。

 

「ちょっ、これってMVP特典!?なんでこんなものが!?」

 

『この子がMVPになった。以上』

 

「説明短ッ!」

 

「あー、それが……」

 

仰天するイズに、サリーが簡易に経緯を伝える。

話を聞いて漸く状況を飲み込めたイズは、超圧縮遺骸の甲羅に手を置く。

 

「――なるほど。で、これを使うって事」

 

「そういうことです」

 

「……一つ良いかしら?」

 

「はい?」

 

「どうして私に頼んだの?」

 

イズからの質問に、メイプルもヒドラも揃って首を傾げる。

 

『俺の知る限り、王国の生産職の中じゃアンタが一番だ』

 

「そうじゃないわ」

 

代わりに返ってきたライザーの答えをぴしゃりと叩き落とす。

暫くの沈黙。

頭を抱えたり唸ったりしてたっぷり考えた後、イズに向けて自分の答えを出した。

 

「イズさんだから、かな?」

 

「は?」

 

今度はイズが目を丸くする番だ。

 

「サリーから、自分の防具を作ってくれたのがイズさんだったって聞きました。だから、私も装備品を作ってもらう時にはイズさんに頼もうって思ったんです」

 

「そういうことだ。鍛冶なんて俺らの専門外だし、そういうのはその道に詳しい奴に任せるべきだろ」

 

メイプルもヒドラも、初対面であるはずのイズに対しての信頼を持っていた。

だが、それでイズの疑問が消失するとは限らない。

 

「良いの?もしかしたら酷い性能になるかもしれないわよ?」

 

「それもそうですけど、イズさんはそんなことはしないと思うんです」

 

再びの沈黙。

やがてイズのほうから溜息を吐いて、

 

「OK降参、降参よ。作ってあげるわ」

 

依頼を了承した。

 

「――!ありがとうございます!」

 

「ただ、私でもこれだけじゃ難しいわ。最低でも古代伝説級金属と同等の素材が無いと……」

 

『オリハルコン級、か……』

 

要求の素材は、メイプルの手元には当然無い。クランのストックでお望みのアイテムはあるのだが、それだと費用がかさむ。

かさんだ場合の費用を見せて貰ったが、直後にメイプルは崩れ落ちた。

 

「か、かさむ前のほうがまだギリギリいけたのに……」

 

「グランディオスの賞金でも無理じゃねぇか……」

 

「素材って、これは使えないんですか?」

 

崩れ落ちたメイプルを他所にサリーが〈ノヴェスト渓谷〉で手に入れた鉄片を見せる。

その欠片を受け取ったイズが《鑑定眼》を使った途端、思わず言葉を失った。

 

「……驚いたわ。これ、私が考えてた必要な素材が使われてる。一度インゴットにすれば素材として使えるわ」

 

「え、これそんなに凄い金属なんですか?」

 

いまいちピンとこないサリーにイズは頷きながら説明を加える。

 

「当り前よ。経年劣化で壊れちゃったみたいだけど、それでも繋ぎとしては十分過ぎるわ」

 

「じゃあ、これでできるんですね!?」

 

「ええ。一週間ほど時間は掛かるけど、良いかしら?」

 

「構いません!」

 

「それじゃあ……全員清聴!」

 

声を張り上げると、工房内の〈マスター〉達が一瞬だけイズのほうへと視線を移す。

 

「全員今の仕事が終わり次第、特典素材の製造に取り掛かるわよ!」

 

全員イズの顔は見なかった。代わりにいつものように声を上げて、いつもより力強い声で応じた。

特典武具の製造に取り掛かる。〈マスター〉でも重要な瞬間に貪欲なのはいつの時代にも変わら無いものだ。

 

「じゃあまずはデザインから決めるわよ!格好悪いものじゃ締まらないでしょ?」

 

「あ、私デザイン程度なら描けます!」

 

そう言って仕事中にも関わらず製作に熱中するメイプルとイズだった。

デザインが仕上がれば、いよいよメイプルにも特典武具が手に入る。そんな未来にメイプルも興奮を抑えられない。

 

「さあ、早速取り掛かるわよ!」

 

イズもまた、鍛冶師としての血を抑えるかの如く拳を掌に打ち付けた。

 

 





(・大・)<閑話を挟んでいよいよお披露目。

(・大・)<もう勘付いてる方もいらっしゃると思うのでここで暴露しちゃうと……

(・大・)<出来上がる姿はまんま黒薔薇の鎧です。
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