悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
とある〈マスター〉の独白。
私の現実は、ちょっと前までは有能なインテリアを主力にした鍛冶職人だった。
女として産まれた私は、幼いころから連れられて見学した工芸品に興味を持って、将来にしたいと思っていた。
学生になって、本格的な技術を学ぼうとしていた私だったけど、周囲の職人の私を見る目は口に出さずとも語っていた。
――女の癖に、って。
私自身、その時はあまり気にしていなかったし、私の腕を目の当たりにした職人はその手際に脱帽せざるを得なかった。
といっても、最初から器用にできたわけじゃない。
虜になった瞬間から、私はその技術を目指して必死に身に着けていった。
課題をそつなくこなし、鍛造技術を磨いていった高校生活。
その卒業課題として、私の高校は海外の工芸品のコンテストに参加することとなった。
優勝を目指していた私は、私の持てる全てをつぎ込んで作り上げた。
そしてコンテスト当日――結果的にコンテストは中止となった。
コンテスト会場で自爆テロが起きたからよ。
数日前から予告していたのに、主催者はてんで相手にせず、開催を強行した。
結果的に死者は出なかったわ。そう、死者は。
自爆に巻き込まれた私が意識を取り戻した直後に視界に映ったのは、
人差し指と中指が根元から消えていた。
そこから先は覚えていない。利き手を喪った事でパニックになって、記憶が曖昧になったらしいの。
次に私が覚えているのは、病室のベッドの上だった。
あの後、見舞いに来た警察の話によると、主催者は責任を問われて表舞台から姿を消したらしい。被害を受けた人たちには後でその人から賠償を受けるらしい。
けどその時の私には、賠償なんてどうでもいい。手術で指はつながったものの、その後の鍛造では自分の納得のいくものが作れなくなった。
職人たちは「最高の出来だ」と言ってくれた。
それでも、私自身が納得のいくものは創れなかった。
創ることができなかった。
それからというもの、人生の全てに落胆し、引きこもって日々を過ごしていた私に、ある時同級生が箱を抱えて私の部屋に乗り込んできた。
それが〈Infinite Dendorogram〉との出会いだった。
それが「本物」を提供してくれるという謳い文句は私も知っていた。
頭では、所詮ゲームはゲーム。気を紛らわす程度でしかないと半ば疑っていた。
けど、彼女の熱心な説得についに折れた私は、球体を繋げただけの芋虫モドキの案内の中、私はそれに一つ質問した。
――“私のこの手を元に戻せるの?”と。
その問いに、芋虫モドキはあっさりと私の手が修復される前の姿のアバターを見せてくれた。
それを見て私は狂ったように笑ってしまった。私の手が元に戻った。そんな簡単なことが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
そうしてカルディナ、もといコルタナでイズ・フローレンスとして始めた私は、早々にドラグノマドへと移動。ジョブも勉強がてら興味があった【
【鍛冶師】の〈マスター〉としてデンドロを続けていた〈DDC〉というクランに入った私は、アルター王国支部に移籍。王国に移ってそこで武具鍛冶を生業としてきた。
†
決闘都市ギデオン〈DDC:アルター支部〉製造工房 【
「全く……どんだけ硬いのよこれ」
デザインが決まった2日後。私達鍛冶チームはやっと暗唱を乗り越えた。
盾のほうはすんなりと加工することはできて、今は保存用アイテムボックスに保存されている。
暗礁の理由は、特典武具でもある【超圧縮遺骸】。
とんでもなく頑丈で融点も高く、中々加工が進まない。
これなら同格の
丸3日鍛冶チーム総出で加工に挑み、今朝やっと完成した。お陰で私以外は全員グロッキー状態よ。
「なんだよ、この素材……特典武具で言うなら、神話級辺りか?」
「流石にそれは……憶測は幾つかあるわ。一つ、グランディオスの体内に鉱脈が紛れて、それが全体に行き渡っていった。一つ、魔力か何かで圧縮され、地質が自然と向上している。一つ、朽ちた遺骸が土壌の質を高めていた」
最も、どれも憶測でしかない。
ただでさえオリハルコンは
最も、それはティアン限っての話で、私も加工難易度は高いけど、ヒヒイロカネも不可能って訳じゃ無いわ。成功率3割程度だけど。
「それにしても、昔のティアンも良く作れたわねあんな最高傑作」
私の関心は特典素材よりも、メイプルちゃんが提供してくれた盾の残骸だったインゴットだ。
私も加工特化の第4形態でヒヒイロカネの加工やそれを使った武具の生産に成功したけど、この盾は〈
正直尊敬に値する。これだけの装備品を素材に使うなんて私自身赦せるものじゃない。
けど今回は別。あの素材を最高の逸品にするには、どうしてもこの盾が必要だった。
「さて、と……」
次はこの金属と加工した【圧縮遺骸】と合成して、それを鎧に加工。そうしてやっと完成する。
「ほぉら、さっさと起きなさい!次は加工金属同士の合成で合金にするわよ!」
倒れているクランメンバーを叩き起こし、加工合成に取り掛かる。
別に焦っている訳じゃ無い。けど、私がここにいる時間はそう残されていないのも事実。その時間が来るまでに完成させて、手を打っておかないと。
「精が出るね」
そんな折、工房の入り口からオーナーが声を掛けてきた。
この人は〈DDC:アルター支部〉のオーナーのウェルネンという〈マスター〉だ。
「あ、オーナー」
「特典素材の生成かい」
「ええ。漸く本格的な生成に取り掛かれます。有休有眠で4、5日あれば納得のいくものになるかと」
「そうかい。ま、これまでの素材も成功できたんだ。しかも今回は第6形態になってレベルもカンスト。必殺スキルも手に入れて、今度ばかりは最高の仕上がりになるんじゃ無いかもしれないよ」
「かもしれない、じゃありませんよ」
加工された素材を見ながらそう言ってきたオーナーの言葉を、私は否定する。
確かに私がMVP素材から特典武具を作ってきた機会は何度もあった。
それまで私の手掛けた特典武具は、デンドロ内でのジョブや〈エンブリオ〉のレベルの低さもあって、中々自分の納得のいくものはできなかった。
「創るんですよ。最高傑作を」
けど今は違う。必殺スキルを手に入れ、レベルも最大値まで高めた今の私なら、私自身が望む最高傑作に仕上がる自信がある。
私の持てる全ての力と全身全霊の魂と共に、このMVP特典を最高の鎧へと加工するだけだ。
その前に、この2つの金属を混ぜて合金にしないとね。
†
あれから更に3日後。
やっと合金ができあがった。正直、この過程はよく覚えていない。これが俗にいうプロダクション・ハイって奴なのかしら。
それでも10個近い合金を見て、感慨深い思いに浸ってしまう。これまでの過程は、本当に長く感じた。古代伝説級の素材を使ったのは、今回が初めてだったこともあるかもしれない。
それでも私は気持ちを改め、第1形態である鍛冶場へと姿を変えて加工した素材を並べる。
「――《
必殺スキルを発動して、最後の大詰めを開始した。
(・大・)<次回、いよいよ特典素材が特典武具に。