悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
※6/8:特典武具【霊峰黒鎧グランディオス】のスキルと説明文を一部改変しました。
決闘都市ギデオン・3番街 【
イズさんに【超圧縮遺骸】を渡してこちらの時間で一週間。
大規模な戦闘を終わらせた私は、精魂尽き果てたといった感じで戦闘関係から暫く離れて、ギデオンを観光したり、模擬戦を見に行ったり、騎士団の人たちの戦闘訓練に参加したり、ジョブクエストでジョブスキルを上げたりして時間を潰していた。
4番目の過程で、ポーションを中心に生成していた時に【霊薬術師】という
「……んで、今日もスローライフを満喫か?」
「あれだけ大規模戦闘があったからね。暫くはのんびりしていたいよ」
まあ、戦闘の勘を無くさないためにも騎士団の訓練には参加してるし、たまに模擬戦に参加してもいるけど。
「なあ、ひとつ突拍子もないことを聞いていいか?」
「うん?」
「あのデカブツを斃した後はどうする?」
「……あ」
本当に突拍子もないことだった。
でも言われてみれば、今の目的はあの大鎧を斃す事。けど、確かにそれを終わらせてからの事は考えてもいなかった。
サリーは多分続けるとは思うけど……。
「……悪い。今のは忘れてくれ」
「……そうだね」
そんな先の事は、今の私にはどう答えたらいいかわからない。
ただ今は、目の前の目標に集中することしかない。
そんな事を考えていたら、扉からノックが聞こえてきた。
「メイプルちゃん、良いかしら?」
ドア越しにイズさんの声がした。
5日ぶりに聞いた声に、私は思わず期待が膨らんで、駆け足気味に扉を開けた。
「イズさん!ひょっとして……!」
「ええ。そのひょっとして、よ」
イズさんの言葉に私も顔を輝かせて、そしてきょとんと眼を丸くした。
イズさんは全くの手ぶら。アイテムらしいものは何もない。
「あの、特典武具は?」
「ちゃんとあるわよ。ひょっとして荷台か何かを持ってくると思ってたの?」
そう呆れつつもアイテムボックスを取り出した。この中に入っているのが
「おぉ……」
思わず短観の声が漏れる。
この中に特典武具が入っているとなると、自然と私の期待も高まってくる。
「ところで何か悩みでもあったの?」
「え?」
「だって、ノックする前にヒドラと話していたのが聞こえててね」
聞いてたんだ……。そう思うとちょっと恥ずかしいな……。
「……イズさん。少し話を聞いて貰っても良いですか?」
ここまできて誤魔化すのもどうかと思う。私は目標の後の話を切り出した。
「なるほど。今後の事で……」
「引退ってのもアリかもしれないけど、なんか煮え切らないっていうか……」
「確かに引退ってのもアリね。目的が終わってやることが無くなっちゃったらやってる意味無いし」
イズさんの言うことも最もだ。やる必要のない、やりたくもないゲームに誰が好き好んで過ごすというのか。
私の中では今、そんな正論に頷く
2つの私の中で板挟みにされて、答えを見出せない。
「メイプルちゃん。一応方法はあるにはあるわ」
「方法って?」
首を傾げる私とヒドラを他所に、イズさんはその用件を話し始めた。
†
第3闘技場。
「よし、今回はここまでにしようか」
「あ、ありがとうございました……」
闘技場では今日も決闘ランカーたちによる模擬戦が行われていた。
今回の対戦はレイと、チェルシーが紹介したグレート・ジェノサイド・マックスという決闘ランカーのルーキーによる10本勝負。
天地からやってきた彼女は、自身の〈エンブリオ〉のイペタムの必殺スキルによる、全方位からの攻撃の圧力と刃を利用した高機動力という、天地らしさを前面に生かした戦術は、レイにとって未体験の相手だった。
元から強力な個による相手を得意としたアームズのネメシスと、無数の刃を標的に向けて射出されるイペタムとでは、性能面からすればネメシスが最も苦手とする相手。お陰で7回は黒星を刻まれた。
だがそれでもレイは諦めなかった。まさに“
8戦目。ジュリエットとの決闘では掠り傷からの《ブラッド・カース》で浮遊刃に呪縛を与えて攻略したのに対し、レイは攻撃を受けつつも回復魔法で無理矢理回復させつつカウンターを叩き込むという荒業に打って出た。それでもHPが足りず、マックスの速度に追いつけずに敗北。
9戦目、10戦目はネメシスの的確な指示と、蓄積されたダメージが全てイペタムにあると分かり、猛攻を凌いでイペタムを撃破、続けてマックスも撃破して勝利。10戦目はマックスの大技を《カウンターアブソープション》の連続使用で凌ぎきって勝利した。
「だいぶ戦闘技術が板に付いて来たな」
クロムが仰向けで倒れているレイに話しかける。
これまでの模擬戦で、レイの戦闘技術は格段に上がっていた。
レイだけではない。ユイとマイもサリーも、この模擬戦に参加し、ベテランランカーとのアドバイスもあってルーキーの中では地力が格段に上がっている。
特にサリーは時間制限込みの模擬戦ではチェルシーやビジュマルは1ダメージも与えられていないとか。因みに今ジュリエットは討伐クエストに行っている。
「おーい!」
そんな折、一行の元に元気な声が飛んでくる。
「どうやら、完成したみたいだね」
『みたいだな』
予期していた2人、フィガロとライザーは声の主に見当がついていた。
『……しかし、一週間か。腕の良い〈マスター〉は作るスピードも違うもんだな』
経験者たるライザーの武具は1か月近く掛かった。
ティアンの職人が多い時期と現在。その時間差に時代は変わったんだとしみじみ思いながら、声の主がやってくるのを見守っていた。
†
「それが前に言ってた、メイプルの特典武具なんだね」
「えへへ」
くるりと、ファッションショーよろしく装備している軽鎧をくるりとお披露目する。
黒を基調とし、赤い薔薇のレリーフとラインが程よいコントラクトを作り、武器形態のヒドラとも十分にマッチする。
【錬金術師】の服装とはうってかわって重厚さが伺える逸品だ。
「わざわざ鎧に合う防具まで作ってくれるなんて太っ腹だな」
『いや、違うな』
じっくり眺めて述べたレイの感想をシュウが隣で切り捨てた。
「どういうことだ?」
「一つの特典武具に合わせたんじゃない。あの鎧そのものが特典武具なんだよ」
「……つまり、クマニーサンの着ぐるみと同じように、あの装備品も複数の装備枠を要しているということか?」
「そういうこと」
一斉にネメシスの憶測を肯定したイズへと、一同は視線を向けるのだった。
†
【真造炉心ブリギット】。
ケルト神話に登場する医学、芸術、鍛造を司る女神の名を関する〈エンブリオ〉。その特性は【アイテム、武具の創造】
形態に応じてそれぞれ武具生産、加工品生産、消費アイテム生産に特化した工房へと姿を変えるTYPE:フォートレスの〈エンブリオ〉。
イズの持つ『鍛造による創造意欲』をパーソナルとして読み取って産まれたその特性は、『鍛造による生産物強化』。
パッシブスキルの《創造司る炎》は鍛冶による武具の生産の性能を引き上げ、第2形態限定のアクティブスキル【姿変えし創造の炎】でメインジョブが〈鍛冶師〉系統なら、加工時限定でDEXと微量のSTRを上昇させて加工をサポートし、第3形態限定のアクティブスキル《インボルグの創造祭》で素材に応じた一定の性能を持つ消費アイテムの大量生産。
そして必殺スキルたる《
例えば能力の無い【スティールソード】でも、上級前衛職の〈マスター〉(超級職抜きでレベルカンスト済み)がメインウェポンに匹敵する性能へと強化することも可能だ。
更に性能を代償にスキルを入れることも、【ブレイズアックス】のようなスキルを持った武器のスキルを消して、性能を引き上げることも可能。
ただしその必殺スキルを使用した場合、必ず何かしらの制限が施されてしまう。今言った【スティールソード】の場合、装備する為に合計レベルは300は下らないだろう。
こうしたこともあって、イズは今まで必殺スキルを最大パワーで使うことは無かった。下手に使うと依頼人が使えないレベルにまで陥ってしまう可能性もあるからだ。
だが使う素材が特典素材ならどうだ?MVP当人にしか使えないだけで、レベルの制限が無いなら加減する必要も無い。
事実、MVP特典素材をセフィロトの〈超級〉が持って来た時、「持てる全力で生成できるか」と言われ、彼女自身も試したことの無い領域での製作に挑むことになり、結果的に双方満足のいく出来になった。
そして今回。メイプルの為にカンストした自身の最大限の力を発揮し、必殺スキルを用いた鍛造でこれまで以上の最高傑作を作り上げた。
その鎧の名は――【霊峰黒鎧グランディオス】。
†
【霊峰黒鎧グランディオス】
《
【霊峰山亀の超圧縮遺骸】から作り上げた黒き鎧。
重厚な輝きを放つ鎧は、機動力を犠牲にあらゆる不条理を跳ね返す。
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし
・装備箇所
胴体上下、手套、靴。
・装備補正
END+100%
防御力+700
機動力-50%
・装備スキル
《重界踏破》
《霊峰の残滓》
《辿威武包》※現在使用不可。
《重界踏破》
パッシブスキル。
重力の加重、減少の影響を完全に遮断する。
《霊峰の残滓》
パッシブスキル。
霊峰竜の僅かなオーラによって装備者に対して外部からの呪いを弱められる。
SPを消費すれば呪術を更に弱められる。
※外部の呪術による弱体化成功率を10%軽減。追加でSPを最大2000消費することで2分間30%まで上昇。
《辿威武包》
発動条件不明。現在使用不可。
「……すっげぇ」
シュウから借りた、《鑑定眼》スキル込みの虫眼鏡越しに見たレイの感想がそれだった。
彼がこれまで手に入れた2つの特典武具を軽く上回る性能を持っている。
「兄貴、【城塞盾士】って、カンストしたらどれだけ防御力が上がるんだ?」
『そうだな。前に編集部の〈マスター〉が検証してな。レベル100の防具サブジョブ抜きで、END3千はあったらしい』
「因みに山道を塞いでいたクランのオーナーも、大体それくらいだったよ」
それはつまり、ジョブの構成次第では5桁にも届きかねないということに同意するということ。これ以上上がったら流石に倒せるかどうか難しいかもしれないと、レイは背筋を凍らせる。
それに対し、フィガロは腕を組んで考えていた。
『どうしたフィガ公』
「うん。今考えたらメイプルちゃんが手に入れたMVP特典って、特典のルールに沿っていないって思ってね。近くに生産職が居たってのも、あのテロの時に会ったきりでしょ?」
『そういやそうだな。まさか、俺と同じように運営が仕組んでるんじゃねぇのか?』
人間範疇生物が特典武具を得たMVPには大まかなルールが存在する。一つは『〈UBM〉の元となったスキルや名前を持っていること』、もう一つは『MVPが必要とする道具であること』の2つ。特別なルールで『MVP自身、またはMVPとなった者の身近な人間範疇生物に生産系の職業に就いている者がいる』というルールで生産用に用いられる『特典素材』が手に入るのだ。
メイプルの場合、一応ルール1の『MVPの元となっているスキルを持っている』を有しているとはいえ、フィガロからすればイレギュラーに近い。
最も、目の前に6年以上もその状態が続いているイレギュラーがいる訳だが。
「で、スキルは試したのか?」
「ううん。これを試そうと闘技場に来たのもあるんだ」
「いや、つっても俺達もついさっき模擬戦を終わらせて……」
「なら、俺で試すか?」
説明するレイを遮って、ドラグが名乗り出てきた。
「最近見回りだけで退屈していたからな」
「ありがとうございます」
ドラグの〈エンブリオ〉もテロの時以来で、ちゃんと見たことはない。
良い経験なので、メイプル側も快く承諾した。
(・大・)<長くなったんで今回はここまで。
(・大・)<次回はメイプルVSドラグ。
( ・大・)<……特典武具の性能、こんなんで良かったかな……?