悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<ドラグVSメイプル。
アルター王国《決闘都市ギデオン》第3闘技場。
「準備は良いな?」
「はい。いつでも」
大盾となったヒドラを装備するメイプルと、巨大な両刃斧たるサグラモールを担いでいるドラグが決闘場で対峙する。
既にカウントは終了し、いつでも戦闘が開始される。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
すっ、と静かに大盾を前に翳し、いつでも攻撃して来いと言わんばかりに構える。
「んじゃ、挨拶代わりに……《アックスチャージ》!」
ドラグが早速挨拶代わりの武器スキルによる突進を繰り出した。
まるで猪の如き突進は、10メートル以上の距離を一気に詰め寄り、メイプルを結界まで吹き飛ばした。
「おいおいどうした?今のは軽いジャブ程度だぞ。もうKOか?」
「――まだまだッ!」
「流石に頑丈だな」
壁に手をかけ、起き上がるメイプル。
あれだけの攻撃なら大ダメージは必須かと思われたが、実際のダメージは彼女の最大HPの2割程度にも満たない。
(《キネティック・レジスト》がぎりぎり間に合ったのか。にしても、スキル込みで1割とは恐れ入るよ)
ドラグ自身のショックは小さい。彼自身がスキルを使いつつ攻撃を入れた直後、【看破】で相手のステータスを確認していた。
最初のジャブの後、ドラグは再びサグラモールを構える。
(あれだけの防御力なら、炎属性や闇属性くらいしか有効打を与えられないかもな。物理オンリーの奴と互角でも1対1なら弱点を突かれない限り倒れないだろうな)
現状、ドラグもその物理オンリーの相手に該当する。
属性防御のスキルも一通り覚えられる。物理、魔法に対する防御力に関してはトップクラスの防御力と、それを生かした防衛戦術を得意とするのが【城塞盾士】の大きな特徴でもある。
「まだこれからですよ!」
「ああそうかい!」
一撃目のジャブが終わり、近接特化の2人がぶつかり合う。
大斧を大盾となったヒドラで防ぎ、短剣で僅かな隙を突いて刺突を繰り返す。無論、《死毒海域》の発動を忘れずに。
(……メイプルの奴、立ち回りがうまくなっている。クロムとの模擬戦をやってた経験が身についてるんだな)
ヒドラとしてはここ最近模擬戦にも行っていないから戦闘の勘が抜けているのかと思っていたが、案外杞憂に終わったようだ。
しかし、ベテランとの経験差は大きい。次第にメイプルが押され気味になっていく。
(やっぱりドラグさん、強い……!あれだけ大きい斧だから、密接してる状態は苦手かと思ったけど、全然気にしてない……!)
まるで斧の重量を感じていないかのように軽々と振り回す立ち回りに、次第に隙らしい隙も無くなってくる。
(あのスキルは……まだ使えないか。だったら、このアイテムを試してみるか)
それでもメイプルの手札はまだ残っている。そのうちの一つを使う為にも、ドラグの攻撃を防ぎつつ一旦距離を置く。
そして腰に下げたポーチから、飴玉大の大きさの粒を口の中に放り込んだ。
「なんだ?」
ドラグが眉をひそめた途端、メイプルが盾を構えて突進してきた。
(《シールドチャージ》!間合いを詰めてきたか!面白ぇ!)
斧を構えて真正面から迎え撃つ。
2秒後、両者が激突し、甲高い金属音が闘技場を一瞬だけ響き渡った。
「――なるほど。これがフレデリカの言ってた毒状態になる自己
「ぐううぅぅぅぅ!!」
「良いねぇ、なかなか面白い!」
短剣と両手斧。見るからにパワーもリーチもメイプル側に不利な武器で、対等に渡り合っている。
「さっき食ったのは毒入りの自己強化の固形ポーションかぁ?」
「……!!」
「答える余裕はねぇってか!」
ドラグは小枝を振るうかの如く巨大な斧を振り回し、メイプルはスキル《
どちらも一進一退での立ち合いが続く中、ドラグのフルスイングがメイプルの脇腹に直撃して大きく後退する。
「……まだまだッ!」
しかし、メイプルはその攻撃を受けてもダメージは殆ど無い。
ドラグが《看破》で見てみると、メイプルのHPは2割も減っていない。
「凄い……メイプルちゃん、ドラグさんと、互角だなんて……」
「おぉーッ!あんな痛そうな攻撃を受けてもビクともしてないよ!確か【
「止めておきなさい。イオの性格では試験に入る前の条件で失敗します」
見学に来ていた霞、イオ、ふじのんの3人が順に感想を述べる。
「ねーねー!メイプルちゃんすっごい頑張ってるよ!」
「そうでしょうか?」
隣に座っていたルークに訊ねてみたが、ルークは対照的に視線をフィールドに向けたままそっけなく答えた。
ルークだけではない。レイもシュウも、そして闘技場の常連たちは静かに観戦している。
いや、ただ観戦しているという訳ではない。この戦いを分析しているような、そんな雰囲気だ。
「……あの、何か……?」
『……行動のハンデか』
「は?」
「ドラグさん、さっきから右からの袈裟斬りと左からの袈裟斬りの2種類の行動しか起こしていません。角度を変えて誤魔化していますが、攻撃もメイプルの攻撃をいなす時に同じアクションを繰り返しています」
探偵と怪盗、異色の両親を持つ少年、ルークは既にドラグの行動を分析し終えていた。
彼だけではない。この闘技場で何度も激戦を繰り広げた〈マスター〉ならば、ドラグが手を抜いていると嫌でも解るだろう。
「行ける……これなら……」
その中で一人、メイプルは気付いていなかった。
メイプル自身も、この防御力に惚れていた。
ひょっとしたらあの大鎧にも勝てるかもしれない――。
「――戦闘中に余所見してんじゃねぇよ」
若干トーンの下がったドラグの呼びかけで我に返る。
メイプルとヒドラが見たドラグの表情は、まるで先程の自分を窘めるように、先程から雰囲気を一変させている。
「忠告しとく点がいくつかある」
『注意点?』
「一つ、その防御力は見事だが、その気になれば対策のしようはある」
「……例えば?」
「固定ダメージ、窒息、溺殺、絞殺、衰弱、炭化……軽く見積もってもこれくらいだ」
『おい、最初以外レパートリーがエグくねぇか?』
レジェンダリアには防具の強制脱装とか、対象の幼児化とか、嫌悪生物化などのよりえげつないものがあるが、そこは割愛しておく。
「一つ、【城塞盾士】には呪術や闇属性の対策はあっても
「な、なるほど……」
「一つ、そしてこれが最も重要なものだ。――《怒れる形相は猿魔の如し》。《
最後の一つを告げる前に、スキルの一つと必殺スキルを発動。次の瞬間には一気にメイプルに肉薄した。2つのオーラが尾を描くほどのスピードで。
「ッ!?」
「レベル差形態差ステータス量技術戦闘勘応用力!」
嵐のような猛攻はメイプルに一切の隙を与えない。口早に告げる言葉を聞き取れる余裕もない。
「そして何より……実戦経験が足りない!!」
横薙ぎの大振りが繰り出され、更にメイプルが吹っ飛ばされる。
「お前、今あの鎧野郎に勝てるって思っただろ?」
「……え?」
「奴は王国の五指に入るPKだ。ステータスは元より、技術も経験もお前とは比べ物にならねぇ。そんな奴相手に、たがだか特典武具1つでどうにかできると思ってんのか?思い上がりも大概にしやがれ」
「お、思い上がりって……」
「いいか?俺はそう言った奴とは何人も戦ってきた。ティアンも〈マスター〉もな。そう言った連中は大抵直後に痛い目を見たもんだ。お前みたいにな」
ぐぉん、と両手斧をメイプルに向ける。
彼女にはまるで、オーラの揺らめきが、ドラグの怒りを示しているように見えた。
「そう言った連中を見ていく内に、一つ思ったんだ――自惚れの芽は、早い内に断ち切るべきだってなぁッ!!!」
吹き飛ばされそうになる怒号と同時、ドラグの表情にも変化する。
あの時の【円卓議決会】の〈マスター〉を薙ぎ払った時に浮かべていた――バーサーク状態の狂気の形相に。
「……ッ!?」
†
ドラグの〈エンブリオ〉【激情激斧サグラモール】。その特性は2つ。その内の1つ、『自己強化』。豪快な戦闘スタイルを好むドラグ自身を反映した、自己強化を突き詰めたスタイルだ。
フィガロの持つ特典武具【不縛足アンチェイン】ほどではないが、行動制限を緩めるパッシブスキルの《若き屍は狂気に生きる》。
自身のAGIを10分間3%上昇させる《風を切る様は鼬の如し》。
自身の攻撃力を10分間5%上昇させる《怒れる形相は猿魔の如し》。
自身のSTRとVITを10分間5%上昇させる《逆巻く怒号は餓狼の咆哮の如し》。
そして必殺スキル《
ここまで説明して気付いた人もいるだろう――時間と自己強化の量が割に合わないと。
由来たる円卓の騎士サグラモールは、勇猛な騎士として描かれており、カムランの戦いでアーサー王の実子たるモルドレッドの手によって討たれるまで、アーサー王の元で戦い抜いた騎士の一人でもある。
その騎士は勇猛果敢さもさることながら、同時に戦闘の中では逆上しやすい騎士としても有名だ。
そう、ドラグの〈エンブリオ〉のスキルの真価は狂化状態の最中に現れる。
自己強化スキルの説明欄にはまだ続きがあるのだ。
――『発動中、狂化状態になった時、スキルの項目が「狂化状態発動から3分間、能力上昇を表示数値の10倍に変更する」』に変更される。
3%上昇するAGIが30%に、それぞれ5%上昇させる攻撃力とSTR、ENDが一気に50%も加算される。多少の行動制限があるにしろ、十分すぎる能力上昇だ。
そしてそれがサグラモールのもう一つの特性『狂化状態の自己強化能力の上昇』である。
ドラグの現在の身体ステータスで【
†
その後の模擬戦は、十数秒で決着した。
結果から言うと、ドラグの圧勝だった。
《フィジカルバーサーク》圧倒的なパワーアップによる怒涛の猛攻により、反撃する間も無く倒されてしまった。
「……」
「ドラグさん……」
「あ?何か問題でもあったか?」
「フィガロさんと言い、ドラグと言い、王国の〈マスター〉もかなり容赦無いんだな……」
「何言ってんだ。これくらいの容赦の無さ、天地じゃざらに居るぞ」
「天地とアルターを一緒にすんな。おーいてて……」
その結果に観客も一部を除いて全員引き気味である。
普段冷静なルークですら目が死んでるので相当だ。
「シュウならどれくらいでいける?」
『そうだな、大体20%もあれば十分クマ』
「2割であの要塞のような硬さを誇るメイプルを斃せるというのか」
『鎧抜きなら3%もあれば十分クマ』
「やっぱ化け物だったか」
そんな中、いつもの調子の王国の《
閑話休題。
「ほんと、コテンパンにされたわね」
「……うん」
「……大丈夫?」
「大丈夫だよ」
完敗したメイプルは地面にあお向けて倒れたままだ。余程先程の敗北が効いたのだろうか。
「……やっぱ私、まだまだなんだね」
「メイプル?」
叩きのめされたというのに、メイプルの表情はどこか晴れやかだった。
「ドラグさんが言ってたんだ。私が思い上がってるって」
「思い上がってる?」
起き上がりながら呟いた言葉に、サリーが思わず首を傾げる。
「この鎧ができた時に、私思ったんだ。これがあればあの大鎧を斃せるかもしれないって。多分それが、ドラグさんの言っていた思い上がりだったんだと思う」
「なるほど。でも私達、まだまだこれからでしょ?」
「うん。まだまだこれからだよ」
差し伸べられたサリーの手を掴み、起き上がるメイプル。
そんな時、ある疑問が浮かぶ。
「そういえば、最後のスキルは何だったんだ?使えなかったみたいだけど」
「ええ。私のスキルでも外すことができなかったのよ。まあ、武具のレアリティが高いほど私のスキルに制限が掛けられているけど」
残る一つのスキル。
遠巻きにそんなやり取りを見ていたシュウは、唐突にイズに質問をする。
『んで、今日ここに来たのはメイプルの装備のお披露目か?』
「いいえ。実はね――」
「イズさん、ここからは私が」
イズが説明しようとした時、メイプルが彼女を遮った。
「それで、説明って?」
「それはね……」
「私、クランを作ることにしたの」
【霊峰黒鎧グランディオス】
イズたち《DDC:アルター支部》の職人の手で【霊峰山亀の超圧縮遺骸】から作られた特典武具。
本来スキルは5つ存在したのだが、シンプルに防御力と強度、耐久性重視をコンセプトにした予定であり、イズの必殺スキルで不要なスキル3つを取り除いて性能を底上げした。
【真造炉心ブリギット】
(・大・)<武具製造、素材、消費アイテム生産、強化鍛錬の3つに重点を置いたキャッスル型。
(・大・)<必殺スキルはざっくり言うとスキルをコストに性能を上げるが、性能をコストにスキル枠を増やすかのスキル。
(・大・)<能力は全て生産能力に全振りしているために、追加ステータスはアポストルとほぼ同様。
【激情激斧サグラモール】
(・大・)<自己強化と狂化状態のバフ強化に特化した〈エンブリオ〉。ステータス重視型。
(・大・)<自己バフは狂化状態でなければ重複も可能で、狂化状態になるとバフの時間が3分に短縮され、10倍になる。
(・大・)<アンチェイン程ではないが、一応制御は可能。
(・大・)<必殺スキルはかなりの自己強化を得られるが、終了すると【飢餓】、【頭痛】、【倦怠】の3つの解除不可デバフを受ける(解除するには総ログイン時間で10時間要する)。