悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<お待たせしました。最新話です。
(・大・)<にしても、投降までの間がほぼ3ヶ月って……。
(;・大・)<間開けすぎだろ……;
決闘都市ギデオン 冒険者ギルド:【
私の口からクラン〈楓の木〉が結成した翌日。
私達は今、クランの存在を揺るがす大きな問題に直面していた――。
「それで、クラン活動はどうするの?」
「……あ」
事の発端は、カナデからの発言だった。その一言で、私は目が覚めたように思わず声を上げてしまった。
よくよく考えたらクランを作ったは良い物の、どんな活動をメインにするのか全く持って決めていなかったっけ。
クランホームはまだなくても良い。
「そうだね……。まぁ、私としてはみんなで楽しく暮らしていこうって考えてるんだけど……」
「いや誰も考えてないんですか」
冒険者ギルドに足を運んでいたマリーさんにも横から呆れ交じりにツッコミを入れられた。
「今、採取系のクエストが結構ありますよ」
「んー……まずは採取系の簡単なものからやろうかな……?」
「いやに消極的だな」
いきなり討伐系というにもエンジンがかからないし、今は先の【フランクリンのゲーム】で倒壊した建物の修復の為の素材を収集するクエストが多い。私もそれを受ける予定だ。
そこにヒドラがクエストの書かれた用紙を手に戻って来た。
って、なにそれ?
「討伐クエストの依頼書だ。ほら、この間ポーラっつう奴の隣にあったのがそのままだったから、試しにどうかなって」
「ああ、ありがと」
ヒドラに礼を言って、改めて手配書に目を通してみる。
【魍魎船団】――罪状はティアンの大量虐殺に加えて、クラン活動による町村の破壊。
船長と呼ばれるクランオーナー、ヴァルデュームはその筆頭で、【大死霊】のスキルで次々とティアンをアンデッドに変えていった。
町単位を潰すのは日常茶飯事。アイテムを根こそぎ奪い、平気で人を物言わぬ骸へと変える……。
とても、とても許せる相手じゃない……。
「おいメイプル。どうした?」
「――っと、ごめんごめん」
危なかった。ヒドラに声を掛けてたから我に返ったけど……。
気を取り直して改めて手配書を見る。確かこういった手配書には今の拠点も記されているから、前々から移動したということにならなければ大体の居場所が――。
「あれ?」
「今度はどした?」
「あのさ、確か船団って船の集団……って事だよね?」
「そうだな」
「それで、この場所って……思いっきり陸地だよね?」
アルター王国の地図と照らし合わせて確認してみたけど、場所はニッサ伯爵領というギデオンから更に南の領土であり……船が絶対に航行できない陸の上にいる。
……いや、船だよね?船団じゃなくて山賊団の間違いじゃないの?
「いえ。船団で合っています」
混乱する私に助け舟を出したのはマリーさんだった。
同時にますますわからなくなってくる。陸の上で舟って移動できないよね?
「リーダーの〈エンブリオ〉が巨大な船らしいのです。けど、航行能力が皆無らしくて専ら建物として使っているようですよ」
要するに、チェルシーさんのような感じって事?あの人のクランホームも元は海賊船だったし。
「船の癖に水の上に浮かべないとか、とんだでくの坊じゃねぇか」
イメージとしては船、というより倉庫のイメージのほうが近いかな?
「じゃあ、私達のクエストはこの【魍魎船団】の潰滅。これで良いかな?」
7人に最終確認をし、全員が頷いたのを見て私はギルド職員に手配書を見せて受注してもらう。
「あ。確かニッサ領って資材調達のクエストで記されていた場所です。案外レイさん達に会えるかもしれませんね」
「案外到着した傍からであったりして」
案外冗談に聞こえないようなことを言い交した後、私達は早速自然都市ニッサへと向かうのだった。
†
「ふわぁ……」
馬車で進むこと数時間。深い森に入った私は思わず声を上げた。
天を衝くかのように伸びる木々、枝に乗って羽を休め、鳴き声を奏でる鳥たち。時折こちらを見て、目線があった途端に逃げ出す動物。
見慣れたギデオンの景色から深い森林へと変わっていく景色は、私にとって新鮮なものだった。
「ニッサから先はすぐ国境になってて、そこから向こうがレジェンダリアだ」
クロムさんの説明を受けた時には、もうニッサの門が見えてきた。
門の前で人だかりができていて……人だかり?
「何あれ?」
なんで門の前に人だかりが?門の前で立ち往生してるみたいだけど……?
†
「まさか、本当に鉢合わせるとはね……」
「いや、まったくだ」
採取系が多かったとはいえ、まさか本当に鉢合わせるとは思わなかった。
商人風のティアン5人のほかに、レイさんとルーク君。フレデリカさんとマルクスさんとドレッドさん。それから同じように依頼を受けた〈マスター〉数名。
いやいや、どれだけ偶然が重なったらこうなったの?
「まさか、資材の採取と犯罪者狩りのクエストで場所が被るとはのぅ」
レイさんやルーク君を中心とした十数人の〈マスター〉は街の修理の為の資材調達。私達は《魍魎船団》の討伐。それらの場所がニッサ近辺で行われるなんて思わなかった。
とはいえ、資材調達に来たティアンの人達は何やらニッサの門番といざこざが起きてるらしく、言い争いが絶えない。
「何かあったの?」
「聞いてみたのですが、身内の問題だからの一点張りで答えてくれませんでしたよ。最も――」
ちらりとルーク君は門番を一瞬だけ見て、そして私達に視線を戻す。
「何か問題があったのは確かなようです」
確信したかのようにそう言い放ったルーク君に、私は思わず息を呑んだ。
「私も話に立ち合おう。何か隠しているかもしれない」
「カスミ、良いの?」
「私の〈エンブリオ〉の能力は、メイプルが身をもって知っているだろう?」
不安そうに聞いた私に、カスミはそう返して門番と商人とのいざこざの場へと歩いて行った。
傍に鞘ごと刀を突き立てた後、カスミ刀の向かい側に移動してから仲介に入る。
「少し失礼する」
「貴殿は……〈マスター〉か。申し訳ないが、今は何人もニッサに入ることは許可できない!」
「だからなんで許可できないんだ!?こっちはクエストで資材を調達したくてニッサの領主に許可を貰いたいだけなんだぞ!」
「何か問題でもあるのか?」
「駄目だ駄目だ!第一問題があったとしても、我々で対処できる!〈マスター〉の手を借りる必要などない!」
頭ごなしに門番が怒鳴る中、言い切った直後に突然カスミの刀が一瞬だけ震えたと思いきや、ひとりでに抜刀。流れるように門番の脳天目掛けて振り下ろされ――受け止められた。
「なッ、なんだ――ッ!?」
「おい何やってんだ!?下手したらアンタ指名手配に――」
いきなりの光景にカスミ以外の全員が驚愕した。
「すまない。だが止めなければこの男の頭が、兜ごとかち割れていたぞ」
刀の切っ先を掴んでいた腕は、肘から先がおよそ人の物とは思えないような赤黒い有様になっていた。
未だに獲物に飛び掛からんと小刻みに震える刀を無理矢理抑えるように鞘に押し込める。
数秒間カタカタと震えていた刀は、次第に血抜きされた魚のように震えが治まっていき、やがて何事も無かったように動きを止めた。
「どういうことだ?」
「キヨヒメの特性は、【嘘の感知】と、【嘘を吐いた相手に対しての強力な呪い】の2つだ。今のように私の手から離れていても、ひとりでに鞘から飛び出し嘘を吐いた相手を斬る。どこへ逃げようとも、再び鞘にその身を納めるまでな」
「つまり、今のを嘘だとすると『ニッサの兵士たちだけでは対処できない。〈マスター〉の助力を頼みたい』って事でいいんだよな?」
レイさんの憶測に門番が言葉を詰まらせる。
明らかに図星のようだ。
「確か清姫って、和歌山の伝説じゃなかったっけ?」
「日本の伝説の一つだ。かみ砕いて説明すると、一目ぼれした相手に騙された挙句嘘を吐かれて怒り狂った姫の復讐譚という内容だ」
「よくよく考えると、嘘を吐かれて激怒するとはよほど短気だったのだな」
伝説とか神話とか現代人目線だと大概オーバーなんですよネメシスさん。
「訳を話してくれるな?嘘偽りを語ってもキヨヒメには効かない。中身の無い冗談でも、相手を想うが故の嘘でも、嘘と判断した瞬間キヨヒメはあなたを斬ることを重々承知して頂きたい」
「……どうやら、あなた方の手をお借りしなければならないようですね」
後ずさる兵士の後ろでそう言ったのは、スーツを着た初老の老人だった。
気のせいだと思うけど、人間にしては血色が無さすぎるような……?
「あなたは?」
「私はキュオン伯爵に仕える家令です。キュオン様は問題の解決と心労で現在は顔を出す事はできないことをご容赦頂きたい」
「やっぱり何か問題があったのですね?」
「そうですね。状況を端的に説明すれば……」
「ニッサが占領されました」
「……え?」
家令の人からの言葉に、私達は一瞬だけ呆けてしまった。
†
話を纏めるとこうだ。
今から数時間前、現実で言う拡声機能付きの携帯と同じ機能の魔法アイテムから、一言ニッサを占領したと告げられた。
アンデッドを街に潜入させ、要求に応じなければ順次アンデッドの体内に仕掛けた爆弾を爆発させるという。そして要求は――ニッサの住民のティアン1千人と、『清浄のクリスタル』10個。
当然ニッサの領主を含めた有力者は揃えて首を振るつもりだ。短い会議でそう決まった瞬間、有力者の一人の側近が爆発した。幸い離れていたので全員大した怪我はなく――それが警告だということも理解した。
「この街にいる〈マスター〉に依頼し、《看破》で使ってみたのですが……アンデッドは見つけられませんでした」
「となると、種族まで偽装できるかなり上位の〈エンブリオ〉のスキルを使った可能性が高いということね」
「そんなの相手にどうやって見分けを着けようっていうのさ?」
納得したように家令の老人からの話をまとめたフレデリカさんに続き、マルクスさんが頭を抱えながら疑問を口にする。
《看破》も聞かないようなスキルを持った相手にどうやって……?
「……そうだ!だったらカスミのキヨヒメのスキルを使えば、誰がアンデッドか分かるんじゃない?」
「確かに不可能じゃない」
そんな折、アイデアを思い付いたサリーがカスミに話しかける。
カスミは一度サリーの提案に同意するようにうなずいた。けどすぐに「だがな」と加える。
「問題は【魍魎船団】の手の者と、そうでない者の見分けを点ける為の質問が無いということだ。仮に偽装されたアンデッドが自覚していなければそれはキヨヒメからすれば『真実』と捉えられる」
「だったら『爆弾を体内に入れているか?』って尋ねたらどうですか?」
「無駄だ。さっきも言ったように自覚が無かったり、当人が知り得ていないことを訊ねても、コイツはうんともすんとも言わない。端的に説明すのなら、より鋭くなった《真偽判定》みたいなものだ」
要するに最低条件が『当人が放った言葉が嘘であると自覚している』ことらしい。
敵の〈エンブリオ〉の能力が自身がアンデッドであると自覚していない代物だったら、こっちとしては完全に立ち往生だ。
「……いっそ、俺が《銀光》で虱潰しにティアンを小突いて確かめるしかないかもしれないな……」
レイさんが本当にやりかねない手を思いついて、私達が若干引いた時、
「確か【魍魎船団】は、〈マスター〉だけで構成されたクランだったな」
ふと、クロムさんが思い出す様に言葉を漏らす。
私達【楓の木】も〈マスター〉だけで構成されているし、【AETL連合】や、そこから離別した【リリアーナFC】もティアンと〈マスター〉の複合クランも存在する。
けど、それが今回の事と何の関係があるの?
「……ああ、なるほど。そういうことか」
「え?どういうこと?」
「おそらくアンデッドをニッサに紛れ込ませたのは〈エンブリオ〉のスキルだろう。恐らくチャリオッツのハイエンド、アドバンス型だ」
「アドバンスは強化パーツ型だ。偽装にステータスを割り振ってるなら、自己防衛程度の戦闘力しかないだろう。残る問題は……」
「偽装者の本物が生きてるかどうか、でしょ?」
カスミ、クロムさんの憶測のあと、カナデが指摘した。
「じゃあ急がないと!本当にアンデッドにされかねない――」
「ちょい待ち。これを持ってって」
早速と言った矢先、カナデが手にしていた地図を渡してきた。
横からサリーが広げたマップを見てみると、山岳地帯とほど近い三輪地帯が赤く塗りつぶされた部分がある。
「なんですかこれ?」
「ニッサはレジェンダリアから意外と近いんだ。まあ南下し過ぎることは無いと思うけど、森林地帯はレジェンダリアにいる〈超級〉の縄張り。山岳地帯は【編集部】で聞いた〈UBM〉の縄張りだよ。連中もデスペナを嫌って安全地帯を選んだっぽいね」
「あー。確かに危険地帯にクランを置こうとは、普通考えませんからね」
「指名手配なら、なおさらですからね」
指名手配された〈マスター〉が死んだら次のログイン地点は【監獄】に自動的に送られる。
デスペナのリスクを背負って危険な場所に陣取る必要なんてわざわざ向こうは持ち合わせていないはず。
「あなたは領主に、事情を説明してニッサにいる全ティアンを集めて頂きたい。老若男女問わず」
「はっ」
家令の人がカスミの指示に応じた瞬間、一瞬で姿を消した。
「レイと私は街の方で準備に取り掛かる。人質のの状況が分かり次第、連絡を入れてくれ」
「助っ人に行かなくていいのか?」
「それだと過剰戦力だ。レイは《聖別の銀光》でアンデッドの消滅を手伝ってもらいたい。メイプルとヒドラは、爆発してしまった時の為にレイやネメシス、住人を守ってほしい。レイ、ゴゥズメイズ山賊団と違ってかなり手を挙げ辛いがな」
「僕は街に行って〈マスター〉に事情を説明して、奴隷をジュエルに戻すように呼び掛けるよ」
カナデとレイさん、カスミもそれぞれの行動に移る。
私も準備を急がないと。
「じゃあみんな。軒並みなセリフだけど、頑張って行こう!」
「「「「「応!」」」」」
私の台詞にみんなが答えて、私達は行動を開始した。
†
〈ニッサ伯爵領〉:とある洞穴。
「何?〈マスター〉が来ただと?」
アンデッドの〈マスター〉のみで構成されたクラン【魍魎船団】。
その頭領たる【
「我々の要求を拒むどころか、逆に我々を討たんと出たか」
「彼らが掴んだ情報では、【
「ゲーム?って事はあのガキも居るのか?」
「……いいえ。どうやら街に残っているようですね」
【大死霊】の一人がその報告で、忌々し気に短杖を床に投げつけた。
「あのガキ、今度会ったら絶対にただじゃ置かねぇ……!」
「【VIK】とかいう自分の傑作を台無しにされて苛立つのもわからんでもない。だがな、今は奴らに集中すべきではないのか?」
「あぁ?」
「まずは奴らをこの場所におびき寄せる。我がナグルファルに蓄えた配下を目印の石代わりに使え。その後貴様の能力で各々を、だ」
「あいあい。カミーユはどうせ街に出でて遠隔操作できる距離から爆弾を起動させるんだろ?」
「片腕の禍々しい身なりをした〈マスター〉も存在しないとなると、奴らの対処に出たのだろう。奴らには銀光対策を施してある。他の連中に対しても、こちらの対抗札は十分」
「無駄に慎重なんだなぁ、オーナーは」
「ハッ、エバーミンよ。慎重と蓄えは大げさ過ぎるほどが丁度良いと言うだろう。無駄口を叩く暇があったら、罠の準備でもしておけ」
皮肉めいた返答に【大死霊】エバーミンは罠を仕掛けるべく行動に取り掛かった。
彼の後姿を眺め、その姿が見えなくなった頃に舌打ちした。
「フン、生意気な彫刻家モドキめ。他の連中も超級職になるのを当初の目的と思って躍起になって……」
つかつかと悪態を吐きながら、一枚のメモを取り出す。
(……この【
くつくつと、誰も居なくなった洞穴の中でヴァルデュームの笑いが洞窟の壁を反響して響きわたらせた。
†
???
――あいつのにおいが消えかけてる。そう易々と消えるものではないと思うのだが、早く急がなければ。
――自分の住処を奪っのはどこの誰かは知らないが、落とし前は点けさせてもらう。
――においの先がいつもの狩場だったのは不幸中の幸いだ。あそこなら一番ヤバい2ヵ所を除けば熟知している。
「Kiki?」
――おい、なんだお前は。何故急に立ちはだかったりした?邪魔だ。そこをどけ。
「Kikyaaaaaaaaaaaaa!!」
――なんだ、やる気か?喰えないような奴め。住処を追われた奴の腹の虫の居所の悪さ、その身をもって思い知らせてやる。
【邪教主、魔教について】
(・大・)<いわゆるアンデッド系専用の【司教】系職業。
(・大・)<ジョブの話をすると、下級の【死祭】は呪術師+司祭の複合系。両方のジョブスキルをコンプ+最大レベルで解放。
(・大・)<本来アンデッド系や【
(・大・)<因みにジョブを取っても種族は人間のままなので、アンデッド以外に専用の回復魔法を使ったら呪術を受ける羽目になります。
【アンデッド化するジョブについて】
(・大・)<原作ではメイズのような【大死霊】や、迅羽の【僵尸】のほかにも拙作限定で、
(・大・)<物理系ゾンビの【
(・大・)<肉類(食肉や腐肉を含めて)の捕食で自己強化や回復を行うことができる、タンクとアタッカーを担ったジョブです。
(・大・)<アンデッド生成や呪術が使えない分ステータス面で優秀。
(・大・)<上級は【
(・大・)<そしてタンク性能に特化したのが【
(・大・)<因みに屍鬼系が攻撃>耐久、創屍系が攻撃<耐久となっています。
【最後の何?】
(・大・)<UBMの話に出たアイツです。
(・大・)<……いや誰だよ。