悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と初クエスト。

2045年 3月18日(土) 白峯理沙。

 

 

 

ログインする前に開いた掲示板では、ある組織からの情報が掲示されていた。

その組織は〈デンドログラム・インフォメーション・ネットワーク〉通称DIN。デンドロ世界の新聞社らしい。

その掲示板には東西南北の狩場を占拠していたPKはすべて壊滅。当然私とメイプルが遭遇した〈凶城(マッドキャッスル)〉も、だ。

超級(スペリオル)〉の強さにあこがれるプレイヤーや、これで安心できるとプレイヤーたちは安堵していたが、私はどうも気に食わなかった。

 

「今更終わったところで……」

 

今更解決しても、メイプルのトラウマは刻まれたまま。

私もデンドロを引退するためとはいえ、最後に会ったあの人に話をして、<Infinite Dendrogram>から引退しようと、ログインを開始した。

 

 

 

 

同刻、2045年 3月18日(土) 本条楓。

 

 

 

ネットで見たアルテア周辺のPKテロの終結。

きっとこれを見た理沙は、また<Infinite Dendrogram(あの世界)>に行くだろう。

そしてまた、理沙はあの世界でモンスターに殺されるかもしれない。〈マスター〉に殺されるかもしれない。

起こりうる事実に、私の身体が震える。襲い来る恐怖が私の思考を塗り潰す。

 

「……収まれ、収まれ収まれ」

 

自分に言い聞かせるように、自らの身体の震えを抑え込む。

 

「収まれッ!!」

 

聞き分けの聞かない飼い犬を叱りつける様に叫ぶ。そうしてなんとか震えは収まったが、今度は胃からせり上がる感覚が襲い掛かる。

すぐに部屋から出て胃の中のものをトイレで全部吐き出した。

あの世界は理沙にとってはVRMMO、ゲームだと思っている。だけど、今の私にはあれがゲームとは思えない。

部屋に戻った時にはもう決心していた。

 

「また理沙が死んじゃうくらいなら……」

 

Infinite Dendrogram(あの世界)>は凄く苦しくて、凄く辛くて、凄く痛い。

でも、また理沙が死んでしまうのを甘受してしまうのなら、私はまた後悔に苦しむことになる。悲しい思いをしてしまう。

私は嫌悪と恐怖の対象とみなした<Infinite Dendrogram>に足を踏み入れる。

一番近くにいる私しか、理沙を守れないんだ。

 

 

 

 

 

アルター王国 王都アルテア 【闘牛士(マタドール)】サリー・ホワイトリッジ

 

 

 

ログインした直後、私の隣にいた楓――メイプルもログインしてきた。

現実の悲惨な姿を忘れ去ってしまったかのような、健康優良体の姿のメイプルが。

 

「楓、何を考えてるのよ!?これ以上この世界にいたら本当に楓自身が壊れちゃうかもしれないんだよ!?」

 

思わず現実での名前を叫びながらメイプルに食って掛かる。

これ以上メイプルが、楓が<Infinite Dendrogram>にログインし続けるなら、きっと楓の人格は壊れてしまう。

私のわがままでこれ以上楓を壊したくない。楓を傷つけたくない。必死に<Infinite Dendrogram>からログアウトするようせがむが、楓から返ってきたのは意外な返答だった。

 

「私のせいで、サリーのやりたいことを奪いたくなかったから……」

 

その答えに、私は言葉を失った。

――違う、楓は悪くない。悪いのは私だ。楓が無理強いをする必要なんてない。

そのことを口に出そうとして――。

 

「いたああああああああぁぁぁーーー!!!」

 

――横やりを入れられた。

 

 

 

 

アルター王国〈嵐牛亭〉 【闘牛士】サリー・ホワイトリッジ

 

 

「ほんっっっっっとぉぉぉにごめんッ!!!」

 

1ヶ月に会った女の人――フレデリカ・クーパーという名前らしい――がテーブルに頭を打ち付けてもなお謝罪する。

1ヶ月前のPKテロはこの人も私達と別れた直後にPKテロの事を知ったらしく、駆け付けた頃には私達はもうPKされた後だったと〈凶城(マッドキャッスル)〉のPKから聞かされていた。

 

「いや、もう良いですよ」

 

「それ、新人2人を地雷原のど真ん中に放置した人に言う台詞?」

 

事件の大本はPKクランだったが、フレデリカさんは元を正せば自分が原因だと必死に謝罪している。

あの後のことをざっくり話したら「もう他人事レベルじゃないじゃん!」と喚いていた。

 

「あいつを始末した後数日掛けて王都中を探し回ったんだけど全然見当たらなくて……ログアウトしてたんなら納得だけど」

 

現に初心者を中心に、これまで王都の〈マスター〉はログインを控えていた。商人系の職業に就いていた〈マスター〉ならちらほら見かけたが、それでもログイン量はPKテロ前よりも減っていたそうだ。

 

「で、こっちに来る前掲示板でテロが終わったって聞きましたけど……」

 

「そのことなら僕たちが説明しようか?」

 

また横やりが入る。

横やりを入れた相手は私の後ろのテーブルの2人組だ。

赤のキャスケットをかぶり、赤と黒のチェック模様のコートを着た私達と同年代の少年と、彼の正面の席に座る赤い鎧の男の人。

 

「貴方達は?」

 

「僕はカナデ・ベアトリス。この人はクロム・(ブレイド)・ワークス。どっちも王国所属の〈マスター〉さ」

 

「よろしくな」

 

こっちも自己紹介を済ませ、少年――カナデに尋ねる。

 

「こっちも〈DIN〉から買った情報だけど、4つのPK連合は4人の王国の〈超級〉に討伐された、が結論かな」

 

そう言ってカナデは事の巻末を教えてくれた。メイプルの事を軽く説明して、南だけ結末だけでお願いして。

東の〈イースター平原〉は、被害者の中に〈月世の会〉の信徒がいたらしく、クラン総出でPKクランの〈K&R(カアル)〉を壊滅させてしまった。流石の熟練PKクランも1千人規模のクランの物量戦には敵わなかったようだ。

西の〈ウェズ海道〉は、ティアンすら獲物にする野盗クラン〈ゴブリンストリート〉が“酒池肉林”のレイレイというプレイヤーの配達物を奪ったのが運の尽きだったらしく、ティアンの強盗殺人もあって大多数が犯罪者プレイヤー専用のエリア“監獄”へと送られた。

北の〈ノズ森林〉。ここはPKの実行犯も討伐に当たった〈マスター〉も名前が記されていない。唯一分かっているのはPKの実行犯はかつて一国レベルに匹敵するティアンの大量殺人犯“国絶やし”こと【疫病王(キング・オブ・プレェグ)】を葬った、通称〈超級殺し〉。片や討伐ランキング堂々の1位、【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】“正体不明”。だが北だけはその猛攻を掻い潜り、〈超級殺し〉は生き延びたという噂がある。

そして南。〈サウダ山道〉は、ギデオンへの通路を封鎖された事で【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】フィガロが一人でクラン1つを余裕で壊滅。契約書というアイテムもあってか、彼らは二度と〈サウダ山道〉にのさばることは無いだろう。

因みにカナデは北で、クロムさんは東でPKテロに巻き込まれてしまったらしい。

 

「それでこれからどうする?」

 

「……一つ、クエストを受けたらそこで辞めようと思っています」

 

メイプルが答える。けど周りには「クエストを一つ達成したらログアウトする」と受け取っていたらしい。

丁度フレデリカさんのパーティメンバーが承諾したものがあったらしく、私達も同行できないかと相談したら、その人も承諾した。

 

 

【クエスト【ギデオンまでの物資配達と護衛――ラングレイ・フォンベル 難易度:四】を受け付けました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 

かくして<Infinite Dendrogram(この世界)>での最初で最後のクエストに挑む。

攻略対象は難易度:四。

メイプルの選択による、私の最後のわがままをハッピーエンドで閉める為にも。

クエスト、スタート。

 

 

 

 

「サリー、武器は?」

 

「あっ、ロストしたみたい……」

 

「リルも私のと合わせてナイフを買えるかどうか位だけど……」

 

「……あたしが立て替えとくから武器揃えてね」

 

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