悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(・大・)<ようやく投稿。

(・大・)<長らく待たせて申し訳ございません。


極振り防御とアンデッド退治:らうんど2。

 

「よし……」

 

森林の中、キャスパリーグから降りるフレデリカ。

周囲はすっかり濃霧に覆われ、右も左も分からない。視界の変化と言えば、時折通り過ぎる木々くらいだ。

 

「あとは……」

 

すっと右手の手袋を外す。その甲にはひし形の薄い宝石のようなものが貼りついている。

 

「――《喚起:チェイサー・ハウンド》」

 

薄い宝石に向けるようにスキルを発言。すると宝石が光を発しそこから何かが飛び出した。光が晴れるとそこにはドーベルマン風の一匹の犬が現れた。

 

「頼むよ」

 

血の付いた四角推をその召喚獣の鼻に近付けた。

ひくひくと鼻を動かすと、カッと目を開いて弾かれるように駆け出した。

 

「あとは……」

 

そう呟いて、キャスパリーグを送還。そして同じように魔法陣を描き、キャスパリーグの装具を中心に置く。

再びMPを注ぎ、召喚魔法を行う。

 

(相手はAGI型。こっちもそれなりに対策を用意しとかないと)

 

 

 

 

「範囲1キロとは言ったが、半分の距離でも十分じゃなかったのか?」

 

一方、エリックのスキルで脱出したベンジャミンは再びジャック・ザ・リッパーの濃霧を展開し、たった今それを終えた所だった。

 

(もう一度奴に奇襲を仕掛けて、今度こそ仕留める……!あのガキどもはエリックに任せれば良いか。調子に乗って甚振ってなければもうカタが付いてるだろう)

 

弓に矢を違え、フレデリカに再び奇襲を仕掛けようとした時だった。

 

(なんだ?生体反応が3つ?一つは人間。あとの2つは……召喚獣!?あの女か!)

 

すかさずその場から駆け出した。霧の中を駆けつつ、やがて見失うであろう獲物に対していつでも矢を放てるように構える。

 

(まあいい。奴らが霧の中を彷徨いだすのも時間の問題。見失った所で間髪入れずに奴の喉笛に矢を貫いてやる!)

 

ある程度走った所で振り返り、弓を引き絞る。

普通に突っ込めば確実にやられるだろう。

 

 

 

――バチッ!

 

 

霧の中で一瞬、《ダズリング・サンライズエレメンタル》のものとは異なる光が走る。

――刹那。

 

 

 

「――がふぁあっ!?」

 

いきなり胴体を貫かれ、大きく吹っ飛ばされた。

 

「な、なにが……!?」

 

上下逆転した視界で背後を見ると、そこには細くしなやかな体躯を持った猫型の生物――一見すると豹に近いだろうが、その体躯を構成しているのは時折紫電が走っていることから、雷属性のエレメントの召喚獣だろう。

 

「まさか……」

 

「どうだった?キャスパリーグの形態変化の感想は?」

 

フレデリカがつかつかと、満身創痍に近いベンジャミンへとドーベルマン風の召喚獣を連れ歩み寄る。

 

「な、居場所が分かった……?」

 

「そんなもの使ってないわよ。私は単に、本来生物が持つ感知能力を使っただけのこと」

 

「馬鹿な!この霧の中で探知スキルは一切通用しない!そんな能力が使えるはずが……」

 

「だーかーらー、スキルじゃなくて、元々持っていたもの。五感の内の一つ、嗅覚を使ったのよ。この子のね」

 

そう言いながらフレデリカは先導していたチェイサー・ハウンドの頭を撫でた。

 

五感。聴、視、嗅、触、味からなる人や動物が外界の感知に用いる古来からの5つの感覚。

そして先程フレデリカが召喚した《チェイサー・ハウンド》は《暗視》や《生体探知》、《対象補足》など、獲物を追尾するスキルに長けている。

が、それらはジャック・ザ・リッパーの前では無意味。しかし問題はそこではない。この《チェイサー・ハウンド》の持つ《嗅覚強化》は厳密にはステータス強化であり、探知系スキルではない。早い話、《嗅覚強化》だけであの重しに付着したベンジャミンの血の匂いを追っていったという訳である。

 

「それに……あの召喚獣にあんなスピードは無かったはず……」

 

「うーん。そこは遊戯派の言葉を借りるなら、『裏ワザ』、みたいな?」

 

ふふん、と悪戯っぽいにやけ顔を浮かべる。

キャスパリーグの《ブタから産まれた呪いの猫》にはいわゆる隠し要素がある。

そのスキルで装備するエレメントの属性で、その性質が変化することができるのだ。

炎属性エレメントで構成し、ステータスバランスの取れた基本形態『モデル(タイガー)』。

地属性エレメントで構成し、物理攻撃、防御に特化した『モデル牙虎(ジャガー)』。

雷属性エレメントで構成し、超スピードを誇る『モデル(レオパルド)』。

 

これまでフレデリカはエレメント召喚獣を用いたキャスパリーグの性能を調べ上げ、3つの特性変化を知ることができた。

 

「あんまり時間を掛けたくないからね。介錯は監獄で、ね」

 

《フレイムランス》を出現し、矛先をベンジャミンに向ける。

 

「クッ……クククククク……」

 

「何がおかしいの?」

 

「まさかお前、俺がこの場所に何の考えも無しに来たんじゃないだろうな?」

 

「――?」

 

「最後の一手……指し切れなかったようだな!!!」

 

愉快そうに叫んだ次の瞬間、地面を突き破って展開されていた箱がベンジャミンを隠す。

 

「しま――ッ!?」

 

一拍遅れ、フレデリカが《フレイムランス》を突き刺したがもう遅い。

 

「ァ……アァ……」

 

焼かれ砕かれた箱からは既に別のアンデッドに変えられ、箱諸共に消滅する。

 

「ヤバい!逃げられた!」

 

この霧の中、はぐれてしまえば合流は困難になる。

ましてや再び見つけ出すなんてよほどのことが無い限りそう簡単には見つかりっこない。

 

(あの箱、複数用意できる可能性があったのを完全に失念していた!ゾンビどもにあの2人が合流したら、ユイちゃんとマイちゃんも流石にヤバい!いや、落ち着け。この霧の中はスキル頼りだと絶対に合流できない。だったらさっきみたいに五感を使えばいい!チェイサー・ハウンドが追い付けたのは実証された。まだ追えるはず!)

 

再びチェイサー・ハウンドに重しを近付ける。

全会は痕跡頼りに進んでいたが、今回はワープで一気に別の場所に転移しているのだ。

とても難しいと思っていたが、チェイサー・ハウンドが周囲に鼻を向けてしばらくすると、見つけたと言わんばかりにひと吠え上げた。

 

「――見つけたのね」

 

チェイサー・ハウンドがフレデリカに応えるように頷くと駆けていき、フレデリカとキャスパリーグもその後を追っていった。

 

 

 

 

その頃、ユイとマイがエリックのゾンビと対峙している場所では……。

 

「うらああああああっっっ!!」

 

「――ふぅッ!!」

 

ハンマーの一撃で二足歩行のライオンゾンビが吹っ飛ばされ、斧を頭に受けた猪ゾンビは真っ二つに両断される。

次々とゾンビを叩きのめして光の粒子と化していく。

 

「まだ霧は晴れてないの!?」

 

「通信もできないから、多分探すのに手古摺ってるんじゃない?」

 

「じゃあこのゾンビたちを全滅させても構わないってことだよね!?」

 

自らを奮い立たせ、再びゾンビを倒していく。

 

「貴様ら……人の作品をべキバキベキバキベキバキバキバキ台無しにしやがって!《脱出劇の幕開け》!」

 

痺れを切らしスキルを発動した途端、地面から飛び出した箱がユイを閉じ込める。

 

「しまった――!」

 

すかさず斧で叩き壊すが、その中にユイの姿はない。次の瞬間、マイの後ろでユイがどたりと地面に叩きつけられる。

 

「ユイっ!?」

 

「『デッドマンズ・バインド』!」

 

「『パラライズ・エッジ』!」

 

振り返った瞬間、三重状態異常を産み出す凶悪な弱体化魔法がユイに掛けられ、マイは背後からダガーの一閃を食らい、【麻痺】を受け倒れてしまう。

 

「遅かったなベンジャミン。てっきりやられたかと思ったよ」

 

「誰が。あんなのでやられるかよ」

 

「こいつで終わりだ。『ラスト・カウントダウン』!」

 

【拘束】、【脱力】、【呪縛】の3つを受け、更に【死呪宣告】を受け、完全に動けなくなった2人を見下ろすエリックは愉悦に顔をゆがめる。

 

「ハッハハハハハ!いい気味だ!さて、あのガキには目の前でNPCがアンデッドになっていく様を見させてやるとするか」

 

「NP、C……?」

 

「ティアンの、こと……?」

 

「驚いた、まだ動けたのか?あのガキ――メイプルだったか?奴には【VIK】の件で世話になったよ。その礼として、ニッサのNPCを奴の目の前でアンデッドに変えていく。あれだけの数、俺が【死霊王】になるには十分なアンデッドが溜まる。無力に打ちひしがれながらアンデッドに変えられる様を見せつけられたら、さぞ良い顔をするだろうなぁ?」

 

「おい、何やってる?とっとと始末しやがれ」

 

けらけらと笑いを上げるエリックに姉妹の脳裏にはある言葉が反響する。

何をしたっていい。最初に来た時、チュートリアルに現れた管理AIの言葉だ。

その時は何も考えず聞き流しも同然だったが、今この時初めてその言葉に疑問を持った。

 

――ゲームだからと言って、そんな非道が赦されるのか?

 

そんな単純な質問に対して、管理AIは口を揃えて「その通り」と答えるだろう。

まだ幼い少女である彼女らの疑問は一つの結論に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――こいつは、絶対にここで倒さなきゃならない。

 

 

 

「うぐっ……」

 

「ぐぅ……」

 

鈍重な身体を必死に動かし、エリックの足にしがみつこうとする。

 

「なんだぁ?そんな状態でまだやろうってのか?あぁ?」

 

「見たら……分かる、でしょ……?」

 

「絶対、に……あなたを、倒す……!」

 

「――寝言スカしてんじゃねぇよガキどもが!」

 

姉妹の一言にキレたエリックがマイを踏みつける。

 

「お前……!」

 

「今のテメェらに何ができる?そうやってはいつくばって死ぬのを待つのがお似合いなんだよ!」

 

ガシガシと踏みつけ、ユイも蹴り飛ばす。

 

「残りHPが消えるか、《死告》で終わるか。選べ」

 

見下すエリックに姉妹は再び必死に身体を動かそうともがく。その時、斧と鎚が交差する。

 

(何とかしないと……いけないのに……!)

 

(身体が、動かない……!)

 

頭では分かっているはずなのに、身体が動かせない。高い筋力値も【脱力】で半減され、【拘束】を脱せない。

 

(この人をここで倒さないと、もっと多くの人がゾンビにされる……!)

 

(メイプルさんが守った、ティアンの人達を……死なせない、為にも……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(絶対に、ここで倒さなきゃならないのに……!)

 

 

その時だった。

ユイとマイの目の前でウィンドウが表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【【合縁白槌ルイーゼ】の進化が完了しました】

【【奇縁黒斧ロッテ】の進化が完了しました】

 

【【スキル《小さな家族の大団円(フタリノロッテ)》を獲得しました】】

 

 

「これって……」

 

「必殺、スキル……?」

 

必殺スキル。第4段階――上級以上のステージに立った〈エンブリオ〉だけが持つ、〈エンブリオ〉の名を冠したそのスキルはいわば〈エンブリオ〉の集大成。

ジュリエットの《死喰鳥(フレースヴェルク)》、チェルシーの《金牛大海嘯(ポセイドン)》のように、凄まじい一撃を放つものもあれば、マスクド・ライザーの《悪を蹴散らす嵐の男(ヘルモーズ)》のような自己強化など、その効果は〈エンブリオ〉同様千差万別。

 

(ひょっとしたら……これを使えば……)

 

(この状況を、どうにかできる……?)

 

ウィンドウを操作して確認しようにも身体が思うように動かない。

どんなスキルなのかもわからないものに賭けられるだろうか?

 

「――やるよ」

 

「――うん」

 

「あ?」

 

――否、もう姉妹に迷いは無かった。

これを使えば、今の状況を打破できる。直感した姉妹は武器を交差させたまま、ウィンドウに表示されたその文字を叫ぶ。

 

 

「「――《小さな家族の大団円(フタリノロッテ)》!!」」

 

 

必殺スキルを叫んだ瞬間、姉妹から光が発せられる。

 

「なんだっ!?」

 

思わず下がったエリックに、ゾンビも本能で構える。

発せられた白と黒の光が2人を包み、大きい光の球となり、1つに溶けあうように交わっていく。

 

「な、なにが……?」

 

戻ってきたフレデリカも言葉を失う。

その間にも白と黒が渦巻く光の球体が霧散し――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その中から、一人の少女が姿を現した。

 




次回

「極振り防御と融合姉妹」
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