最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
実は神装機竜の小説を最後まで読み切ってる訳じゃないので、所々違うかもしれませんが、ご容赦下さい。
かつて、武力を持って世界の5分の1をも
手中に収めた国があった。
名を、『アーカディア帝国』と言う。
アーカディア帝国の力に周辺諸国は、
戦うか、その軍門に降るかの二択を迫ら
れる程の物であった。
しかし、帝国内部の実情は酷い物であった。
政治腐敗の横行。男尊女卑思想の蔓延。
更には非人道的な人体実験まで。
上げれば切りが無いほどの闇を抱えていた。
そして、たまりに溜まった鬱憤が爆発する
ように、とうとう帝国内部でクーデターが発生。
当初は数で勝る帝国側が有理かと思われ
たが、それを覆した存在が居た。
人々はその人物を、畏怖と尊敬を込めてこう呼ぶ。
『黒の英雄』、と。
黒の英雄の活躍によって、帝国軍の戦力
の大半が撃破された事も手伝って、
クーデターは成功。皇族の大半は死に、
生き残りの数人が新しい新王国によって
捕縛された。
クーデターの首謀者、アティスマータ伯
は戦いの中で死亡し、その妹が女王
として国を治める事になった。そして
帝国は、『アティスマータ新王国』と
名を変え、新たな国として生まれ変わった。
そして、クーデターから5年後。
十字型にも見える城塞都市、『クロスフィード』。
そんなクロスフィードにある公園のベンチに
座り、昼間だと言うのに大きめの外套を
纏って体全体を覆い、更にフードで顔を
隠した人物が屋台で購入したアップルパイ
を食していた。
「中々に美味だな」
静かに呟きながらも食事をする人物。
その見た目は少々怪しいが、道行く人々
は僅かにその人物を一瞥するだけで、
すぐに興味を失って、歩みを進めていた。
その時。
「あれは……」
彼の視界に、白を基調とした制服。紺色
のスカートを履いた数人の少女達の姿が入った。
『……あれが『アカデミー』の生徒か』
その人物は、彼女達を一瞥してからそう
納得し、食事に戻った。
アカデミーとは、『王立士官学校』の通称だ。
そのアカデミーはこのクロスフィードの
中に建てられている。
なので、休日ともなれば制服や私服を
問わず、アカデミーの生徒達を町で
見かける事など普通だ。
しかし……。
「ん?」
件の人物は、そのアカデミーの生徒達の
後方、とある建物の角に目を向けた。
見ると建物の間の影に、彼と同じ
ような外套を纏ってスカーフで口元を
隠した男達が数人居て、生徒達、
3人の女生徒を尾行しているかの
ようだった。
アカデミーとは、現在この世界において各国
の主力となっている『兵器』のパイロット
を養成するための施設だ。そして、
その『兵器』を扱う上で男女を比較した
場合、理由は不明だが女性の方が、適性
が高いのだ。故に、アカデミーは士官学校
とされているが、内情は女学園と呼んでも
差し支えないような場所だ。
そして、アカデミーに通う女生徒の殆どは
貴族の娘たちだ。士官候補生という立場
とは言え、まだ本格的な戦闘など
知らない少女。
貴族の娘ならば身代金目的で狙われる
可能性も高い上に、かつて旧帝国時代に蔓延
していた男尊女卑の風潮。それが、主力
兵器の適性によって変わりつつある。
旧帝国の時代、男尊女卑の風潮の中で良い
思いをしてきた男達にとって、その変わり
つつある風潮は目障りであり、女が
その兵器に乗る、と言う事自体に我慢
ならない、と言う事だ。
つまり、彼が見つけた男達の目的は、誘拐
か女のパイロット候補生に対する恨みに
よる復讐の、どっちかの可能性が高い、
と言う訳だ。
「……行くか」
そしてベンチに座っていた彼は、アップル
パイを食べ終えると、包み紙をゴミ箱に
投げ捨て、側に置いていたリュック
を左肩に背負うと、歩き出した。
「ねぇねぇ、本当のこっちであってるの?」
「う~ん、そのはずなんだけど……」
先ほど、彼が見つけたアカデミーの
女生徒たち3人は、今は少々薄暗い
裏路地を歩いていた。
「本当にこんな所に美味しいデザート
のお店があるの?」
彼女達は噂で聞いた、美味しいデザート
のお店とやらを探していたのだが、
どうやら迷ってしまったようだ。
と、その時。
『バッ!』
彼女達の前方の路地から、男が6人ほど
飛び出してきた。
「動くなっ!」
「え!?」
突然の事に驚く女生徒。見ると、男達は
全員がナイフを握りしめていた。
「な、何っ!?」
アカデミーの生徒とはいえ、彼女達にはまだ
咄嗟の判断力と、行動力など無かった。
故に驚き、呆然となって、動けなくなって
しまった。
「お前等、アカデミーの生徒、貴族の娘だな?
大人しくしろ。そうすりゃ丁寧に扱って
やるぜ」
リーダー格と思われる男が、ナイフを手に
ジリジリとにじり寄ってくる。
そして、女生徒達は、リーダーの言葉を聞いて、
男達の目的が誘拐であるとようやく理解
した。
数歩後退る女生徒達。しかしその時、一人の
女生徒が道の出っ張りに躓いて尻餅をついて
しまった。
「きゃっ!?」
「キャロッ!?」
その事によって、他の二人の視線が躓いた
茶髪ボブカットの少女、キャロへと向いてしまう。
「今だっ!捕まえろっ!」
そして、それを好機と見たリーダーの指示に
従い、男達が突進してきた。
大人の男と子供の女。しかも数では相手が上。
簡単に組み敷かれしまうだろう。
だが、その時。
『ゴウッ!』
突進してきた男達目がけて、少女達の頭上を
通過して何かが投げ込まれた。
それは木製の樽だった。樽が凄まじい速度で
空を割いて飛んできたのだ。
『ドゴッ!』
「ぐぁっ!?」「ぐへっ!?」
投げ込まれた樽によって、向かって来ていた
5人の内、2人が樽によって弾き飛ばされた。
「え?」
突如として後ろから飛んできた樽に驚くキャロ。
「やれやれ。6人も居るのなら前後を包囲。
退路を断つのが定石だろうに。バカな奴らだ」
と、その時後ろから声が聞こえた。余裕綽々と
言わんばかりの声に、キャロを含めた3人の
女生徒が振り返る。
見るとそこには、先ほどベンチに居た彼が
コツコツと足音を石畳の道に響かせながら
歩み寄って来ていた。
しかし問題は見た目だった。
「何だテメェ!?こいつらは俺らの獲物だ!
横取りする気か!?」
そう、見た目があの6人と大して変わら
ないため、男達は彼の事を、同業者。
キャロ達は別の誘拐犯かと疑いだしたのだ。
彼女達は、前後を挟まれ更に狼狽し、震える。
と、その時。
『バッ!』
後ろの男が一瞬腰を落としたかと思うと跳躍。
彼女達3人を飛び越え、背を向ける形で着地した。
「え?」
突然の事に呆けた声を出すキャロ。
同じように他の二人も呆然としていた。
「そこで大人しくしておれ」
そう言って、彼は肩に掛けていたリュックを
地面に落とすと、ゴキゴキと指の骨を鳴らす。
「ちぃっ!?邪魔すんじゃねぇクソがぁ!」
次の瞬間、残っていた3人が正面。
左側11時の方角。右側1時の方角から一斉に
突進してきた。
だがそれは、愚策だった。
「ふんっ!」
男達が彼の間合いに入った次の瞬間、
彼の回し蹴りが繰り出され、ナイフが届くより
も先に、彼から見て右側から順に、サンドイッチの
ように重なりながら左側の壁目がけて吹っ飛ば
された。
ドゴォッという音と共に、壁に激突する男達。
その勢いによって、彼のフードが後ろにずれる。
露わになったのは、『男らしい』という言葉が
似合いそうな、少々日に焼けた肌と、キリッ
とした目元。横一文字で結ばれた口元。
キャロ達は、そんな彼の顔を、回し蹴りの
勢いで回転する一瞬、目にしていた。
一回転し、残った一人のリーダーを睨み付ける青年。
「この程度か。歯ごたえのない連中だな」
そう言って青年はふんっと鼻を鳴らす。
その視線は、リーダーや周囲でのびている
男達への侮蔑の意思が込められていた。
「ふ、ふざけやがってぇ!」
青年の態度に怒りを覚えたのか残っていた
リーダーの男は、脇に下げていた剣を抜いた。
「ッ!?あれは!」
その剣、『機攻殻剣(ソード・デバイス)』は
彼女達ならば見慣れた物だ。問題は、それ
を相手が持っている事だ。
「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が
剣に従い飛翔せよ!≪ワイバーン≫!」
男が魔法の詠唱のような言葉、『詠唱符
(パスコード)』を高らかに、宣言するように
叫んだかと思うと、男の背後で鎧のような物
が召喚され、男の体を覆っていった。
青を基調としたカラーに流線型のフォルム。
人の形をした、機械の鎧。右手には専用の
銃火器。左腕には両刃の剣が握られていた。
「ど、『装甲機竜(ドラグライド)』!?」
キャロの友人の一人が、具現化したその鎧、
ドラグライドに驚きながらその名を呟く。
装甲機竜、ドラグライドとは。
それは世界各地に存在する『遺跡(ルイン)』
から発掘された古代兵器の一種だ。この
ドラグライドの出現は、これまでの銃や砲
を主力とした戦争の様相を一変させ、
今やドラグライドが戦争の主力となった。
そして、そのドラグライドを操縦する
パイロットを『機竜使い(ドラグナイト)』と呼ぶ。
ドラグライドは、ソード・デバイスに
よって普段は格納庫に置かれている機体
を転送と言う形で召喚する。
「はっはっはっ!?どうだガキ共!俺には
ドラグライドが、ワイバーンがある!
分かったら大人しくしろ!」
そう言って、ワイバーンを纏った男は
右手の『機竜息銃(ブレスガン)』と呼ばれる
銃火器を構える。これは従来の銃とは違い、
ドラグライドのエネルギーを使って打ち出す
兵器だ。ドラグライド同士の戦いならば、
大した威力にはならない。しかし人間相手
なら、その体をバラバラに吹っ飛ばすのに
十分な威力を持っている。
向けられるブレスガンの銃口に、キャロ達
は怯え、震えている。
しかし……。
「ハァ。何を出すかと思えば」
青年の方は、とてもつまらなそうにため息を
漏らした。そして更に、彼は周囲に聞こえない
ように小さく呟く。
「『失われた時代(ロストエイジ)』の量産型
汎用兵器か」
青年は、ワイバーンを、いや、ドラグライド
を『知っていた』。それは普通かもしれない。
だが、正確に表現するなら、彼は『昔から』
知っていたと言うべきかもしれない。
そして、だからこそ彼はワイバーンと言う
種類のドラグライドの『弱さ』を知っていた。
「何をブツブツ言ってやがる!さっさと
両手を挙げて、地面に膝を……!」
『ドウッ!』
男が喚きだした次の瞬間、青年は地面を
蹴って砲弾並みの速度で突進した。
そして、人間離れしたその行動に、男は
対応出来なかった。
『ドゴォッ!!』
「うっ!?げぇぇぇぇぇぇっ!?」
青年の拳から放たれたボディブローが、男の
腹部に突き刺さった。ボキボキと肋骨が
折れる音も聞こえる中、口元から血の
混ざった吐瀉物をまき散らす男。
そして、男はそのまま前のめりになり
ながら気絶し、同時にドラグライドの装着も
解除された。
「ちっ。外套が汚れたわ」
倒れた男を一瞥すると、青年は男の吐瀉物
で汚れた外套を脱いだ。
その下から現れたのは、上下共に黒を基調と
するズボンと半袖の上着に身を包んだ青年の
体だった。
それを見ていた少女達は、外套を脱いだこと
で露わになった体に見惚れていた。
その体もまた、男らしいと言う表現が
ぴったりなほど、鍛えられていた。袖を
パンパンに膨らませるほどの筋肉。服の上
からでも分かる引き締まったボディ。身長
も180を超えている。
正しく、『漢』と表現出来そうな体つき。
キリッとした目元、短く切りそろえられた黒髪
なども、彼の男性としての魅力を引き立てていた。
そんな彼の姿に、キャロ達3人は見惚れて
いたのだ。彼は汚れた外套を捨てると、
3人の方を一瞥し歩み寄って来た。
「おい、大丈夫か?」
彼が声を掛ける。しかし3人は呆けたまま
彼を見つめているだけだ。
彼女達が放心しているのも無理は無い。
そもそもドラグライドは、生身の人間が
拳一つで撃破出来るような物ではない。
ドラグライドに人間が勝てるとしたら、
それは同じドラグライドを纏ったドラグ
ナイトだけだ。
それを、青年は拳一つで撃破したのだ。
ましてやドラグナイトとなる為に
アカデミーで日々ドラグライドを扱って
いる彼女達だからこそ、その力を一般市民
より理解している。だからこそ一般市民
よりも感じるのだ。青年の『異常性』を。
「……。おい、大丈夫か?」
3人が驚いたままなので、青年がもう一度
声を掛けた。
しかしやはり反応が無い。
「全く。……おい、おいっ」
青年は呆けている3人の前にしゃがみ込む
と、その眼前で手を振った。
「あっ!」
そして、やっとこさ正気に戻った3人。
だが直後、3人は思い出したかのように体を
震わせた。まぁ無理も無い。未知と呼べる強さ
に加えて、かつて帝国では男尊女卑の思想が
蔓延していた。加えて、彼があの男達とただ
単に獲物である自分達3人を奪い合った
だけ、と言う考えが、彼女達の頭の中に
あったからだ。
怯える彼女達に対し、青年は深くため息
をついた。
「ハァ。おいっ」
青年が声を掛けるだけで、3人はビクッ
と体を震わせる。
その姿に、青年は再びため息をつき
ながら頭をボリボリと掻く。
「何を勘違いしてるか知らんが、我は
貴様等を助けただけだ。取って食う
などとは考えておらん」
そう言って立ち上がり、青年は道ばたに
落ちていたリュックサックを肩に掛ける。
だが……。
「分かったらさっさと……」
「そこまでだっ!」
不意に、3人とも青年とも違う声が響いた。
見ると、少女達3人の後方に、3人と同じ
制服を纏い、しかし彼女達とは違い左腰に
帯剣していた少女の姿が、これまた3人。
「最近クロスフィードで怪しげな男達が
目撃されていると聞いて、念のためにと
パトロールをしていたら、まさか犯行
現場に居合わせるとはな」
そう言って、リーダー格と思われる中央の
青い髪の少女が腰元の剣、ソード・デバイス
の柄に手を添える。
「待て。主らは何かを勘違いしておる。
主らの言う男達というのは、そこに
転がっている男達の方だ」
そう言って青年は周囲に転がる男達を
指さす。
「成程。だが、その男達が貴様の仲間で
はないと言い切れるか?」
「証明出来る訳がなかろう。全員気絶
しているのだぞ?我が言ったところで、
主らは聞く耳を持たんのだろう?
まぁ、証人はこの娘らだな」
そう言って、青年はすぐ傍でへたり込んで
いるキャロ達3人に目を向けた。
「この娘たちは一部始終を見ていた。彼女達
に聞けば全て分かる」
「成程。確かにその通りだな。では、彼女達
から事情を聞く間、大人しくしていて
貰える、と言う事で良いのかな?
でなければ……」
そう言って、デバイスの柄を握りしめるシャリス。
しかし……。
「無論だ。やましい事も無く、それで無罪
だと分かって貰えるのなら構わん」
「え?そ、そうか」
帰ってきた返事が予想外だったのか彼女は
一瞬戸惑いながらも頷いた。
彼女にしてみれば、怪しさ満載の青年が
逃げるために言い訳でもするか?と警戒
していたのだが、実際はそんな事無かった
ので戸惑っていたのだ。
その後、『ティルファー・リルミット』という
少女が壁際の樽に座って目を瞑っている青年を
見張り他の二人、『シャリス・バルトシフト』、
『ノクト・リーフレット』がキャロ達から
事情を聞いていたのだが……。
「素手でワイバーンを倒しただと!?」
キャロ達の話を聞いて、驚き声を荒らげる
シャリス。その声に青年を見張っていた
ティルファーも驚いた様子で振り返る。
シャリスは慌てた様子で口をつぐみ、
咳払いをする。
「本当なのか?」
「は、はい。私達、見たんです。あの人が
素手でワイバーンのドラグナイトを
殴って気絶させるの。……一瞬だった
ので、よく見えなかったんですけど……」
「一瞬で?」
そう呟きながら、シャリスは周囲を見回す。
そして、ソード・デバイスを持っていた男の
立ち位置と、3人を庇ったと言う青年の
立っていた場所を確認する。
『この距離を一瞬で、それも生身で詰めたと
言うのか?正直、信じがたいが……』
「ノクト、お前はどう思う?」
「YES。正直信じがたいです。ドラグライド
は生身の人間が勝てるような存在では
ありません。ですが……」
「あの男は現にソード・デバイスを所持
していた。そして、地面に残っていた
僅かな足跡からしても、ワイバーンを
召喚した事までは本当のようだ」
「YES。つまり、『誰か』がワイバーンを
撃破した事になります」
「そしてその誰か、と言うのは彼女達の話
から察するに、あの男性という事らしいが。
やはり信じられん」
そう呟きながら、シャリスはティルファー
が見張っている青年に目を向ける。
そして、彼女は徐に彼へと歩み寄る。
「ちょっと良いか?」
「む?何だ?」
「……彼女達から聞いたが、本当に生身で
ワイバーンを倒したのか?」
「無論だ。我が倒した」
と、青年が答えるがシャリスや傍に居た
ティルファーは困惑気味だ。
「あ~。え~っと、あのね。ドラグライドは
普通の人が素手で倒せるようなもん
じゃないよ?分かってる?」
「……だったら我が主らの言う『普通』では
無かった。それだけの事であろう?」
青年は、ティルファーの言葉にそう返すだけだ。
到底信じられないが、しかしワイバーンを召喚
した事までは間違い無い。現に倒れていた男の
一人はソード・デバイスを所持し、ワイバーン
を召喚した跡もある。しかし、そこから先が
到底信じられないシャリスたち。
繰り返しになるが、ドラグライドは生身の
人間が拳一つで倒せるような存在ではない。
流れを考えれば、ドラグライド、ワイバーン
が倒されていると言う結果は理解出来るが、
その過程が現実離れし過ぎているのが問題
なのだ。
「どうする?」
「どうって」
首をかしげるティルファーにシャリスも
困り顔を浮かべてから、ティルファーと共
に一旦青年から離れる。
「正直私達じゃ判断に困る。ワイバーンが
召喚され誰かがそれを倒したのは事実だ。
しかし、その過程がどうにも信じられん」
ため息交じりに呟くシャリス。
「う~ん。あの人が誘拐犯とグルで一芝居
打った、とか?」
「それも可能性の一つかもしれないが。
う~ん。判断材料が少なすぎる」
ティルファーの言葉に言い淀むシャリス。
「そんなお二人に提案です。ここは、私達
よりも偉い人の判断を仰ぐのはどう
でしょうか?」
悩む二人に提案するノクト。
「偉い人、って言うと学園長?」
「あぁ。今はセリスも長期の任務で学園を
離れているからな。問題は……」
そう言って、シャリスは青年の方に眼を
向ける。
肝心の青年は欠伸をしながら暇そうに
している。
「彼が付いて来てくれるかどうかだな」
「YES。大人しく付いて来てくれると言う
保障はありません」
「……一応、聞いてみるか」
ため息交じりに呟くと、シャリスは青年の
傍に歩み寄る。
「む?話は纏まったのか?」
「あ、あぁ。……その、すまないのだが、
貴方には我々に同行して貰いたい」
「ほう?」
シャリスの言葉に眼を細める青年。
それに一瞬戸惑うが、彼女は咳払いを
するとすぐに平静を装う。
「勘違いしないで貰いたいのだが、我々は
貴方を罪人とは考えていない。しかし、
機竜を素手で倒したと言う話には
信憑性が無く、信じるに足る物的証拠
も無い。なので申し訳無いのだが、
貴方の身柄を一時的にではあるが
拘束したい。無論、嫌疑が晴れれば
即解放する事を約束する」
「ふぅむ」
青年は、顎に手を当て考える。
一方のシャリスは、断られた時は
どうしよう、と内心悩んでいた。
やがて……。
「ふぅ。……良かろう。どこへでも
連れて行くが良い」
「え?い、良いのかい?」
息をつくと青年は頷いたので、シャリス
は戸惑いの表情を浮かべた。
「嫌疑が晴れれば即解放、なのだろう?
今ここでお主たちから逃げれば、まるで
ありもしない自分の罪を肯定するような
もの。ならばいっそ、罪など無いと
正々堂々証明すれば良いと考えただけの事。
それに、犯してもいない罪で犯罪人の
そしりを受けるのは気に食わん」
そう言うと、青年は腰掛けていた樽から
離れて立ち上がった。
「さぁ、どこへでも連れて行くが良い」
「あ、あぁ。分かった」
その後、落ち着いたキャロ達と共にまずは
男達を拘束して然るべき所に突き出した後、
道中で新しい外套を新しく買って纏った青年
を連れて、彼女達は学園へと向かった。
「そう言えば、貴方の名前は?」
「ん?あぁ。名乗っていなかったな。
我の名は『黒鉄』だ」
「クロガネ、さん?変わった名前だね。
そう言えば昔、東方の島国があったって
聞いたけど、そこの人?」
「まぁ、そんな所だ」
青年はティルファーに曖昧に答えるだけで、
否定も肯定もしなかった。
やがて学園にたどり着いた一行は、まず
青年改め黒鉄を一時的に牢屋に入れ、すぐ
さま学園長である『レリィ・アイングラム』
の元へ行き、6人揃って報告を行った。
「素手で機竜を撃破した男性、ねぇ」
彼女達の話に、レリィは困ったような
表情を浮かべる。
まぁ無理も無い。普通に考えれば機竜を
素手で撃破するなど、与太話の類いに
思えてしょうが無いのだ。
「学園長の困惑も仰る通りです。我々も、
この3人から話を聞いた時は驚き、
困惑しました。しかし現に盗賊達は
ワイバーンのソード・デバイスを
所持しており、尚且つ召喚を行った
痕跡もありました」
「つまり、ワイバーンが出現した事までは
貴方達も本当だと分かっているのね?」
「はい。しかし、その後の事、クロガネと
名乗った彼がワイバーンを撃破した
と言う事実なのか嘘なのかが、
分からないのです。情けない話ですが、
我々には判断が付かないので学園長の
判断をこうして仰いでいる所存です」
「そう。……とはいえ、信憑性の無い話では
私も判断が出来ないわね。だからこそ聞く
のだけど、そのクロガネという青年を
前にして、貴方達はどんな印象を持った
のかしら?」
「印象、ですか?そう、ですね。我々は彼を
犯人と疑った訳ですが、別段怒るような
姿勢も見せませんでした。むしろ、
彼女達に話を聞いている間も大人しく
していました」
「YES。我々が同行を求めても、自らの身の
潔白を証明する為だと言って付いて来て
くれました」
「う~ん。何て言うか、落ち着いてる感じ?
見た目はごついけど悪い人じゃなさそう
って感じかな?」
シャリス、ノクト、ティルファーの言葉に
レリィはしばし考え込む。
「そうね。……こうなってくると、彼の
人となりを見ない事には何とも判断
出来ないわ。とはいえ、今日はもう
遅いわ」
そう言ってレリィが窓の外に目を向けると、
既に空が夕陽でオレンジ色に染まっていた。
「そのクロガネ君には申し訳無いけど、
今日の夜は牢屋で過ごして貰う事に
なるでしょうね。話を聞くのは、
明日という事で」
「分かりました。では、私がその事を
彼に伝えてきます」
そう言って手を上げるノクト。
「えぇ。お願いね」
「では早速。失礼します」
そう言うと、ノクトは部屋を後にして黒鉄
がいる牢屋へと向かった。
そして中では……。
「……すぅ……すぅ」
牢屋の中だと言うのに、落ち着いた様子
で黒鉄が壁に背中を預けて眠っていた。
「……普通に寝ていますね。一応囚われの
身のはずですが」
ノクトは呆れと関心が混じったような声色
で呟く。
「とにかく、起こさないと話しが出来ま
せんね。もしも~し、起きて下さ~い。
クロガネさ~ん」
ノクトが呼びかけること数回。
「ん、む?」
身じろぎをし、黒鉄は目を覚ました。
彼はくぁぁと大きな欠伸をすると体をブルリ
と震わせた。
「む?お主はあの3人の。何か用か?」
「YES。実は貴方についてですが、学園長が
クロガネさんと話をしたいとの事でした。
ですが、今日はもう遅いので、明日に
して欲しいとの事です」
「……つまり、我はこの牢屋で一晩過ごせと?」
その声は静かだったが、ワイバーンを素手で
破壊したと言う事を考えれば、ノクトは
今に一人で、それもソード・デバイスを
持たずに来たことを後悔した。
「い、YES。そう言う事です」
『クロガネさんが怒りませんように……!』
頷きながらも、ノクトは内心そんな事を
考えていた。
すると……。
「ハァ。良かろう。野宿よりはマシだ」
「え?」
予想外の言葉にノクトは戸惑う。
「い、良いのですか?」
「どうせ一晩であろう?ならば、寝て待つ。
我は高々数時間待てぬ程、短気ではない。
ゆえに、寝て待つとしよう」
そう言うと、黒鉄は再び壁にもたれかかり
ながら眠り始めてしまった。
「……。不思議な人ですね」
ノクトにしてみれば、牢屋にいる時間が
伸びた事を知って暴れたり怒ったりする
だろうと思って居たのが、実際は違った
事に戸惑いを覚えていた。
そして彼女はそれだけ呟くと、牢屋を
後にした。
その時はまだ、彼と直に出会ったノクト達や
キャロ達を始め、誰も彼の力や素性を理解
してはいなかった。
「……。やはりあの頃より、随分文明は後退
しているな」
周りに誰もいなくなった牢屋の中で、ポツリ
と呟く黒鉄。
そんな彼の脳裏に蘇るのは人々が創り上げた
『現代文明』の街並みを『蹂躙』する自分。
「……東方の島国か。もはや『日本』という
名も消え去ったか。……そう言えば、我の
名も、日本に由来してお主が付けた物
であったな」
黒鉄は、懐かしむように上を見上げながら
呟く。彼は、天井の先、黒くなり始めた
空に向かって、『その名』を呟く。
「のぉ。『芹沢』よ」
それはかつて、自らを『友』と呼んだ、
たった一人の人間だった。
黒鉄は静かに瞼を閉じ、眠りにつく。
かつて自分を友と呼んだ人間の事を
思い出しながら。
今、世界を変えようと悪しき者達が動き
出そうとしていた。
しかし、この世界にはそれを許さない神がいた。
『彼』は人が栄える遙か以前からこの大地、
『地球』の頂点に立つ存在。
絶対的な覇者にして、古の王。
或いは、神話世界の神と表現出来るほどの存在。
そして、『彼』はかつての戦いを経てその
圧倒的な力によって人々の信仰を集め、
『彼』はやがて神となった。
『彼』は最古の王にして、この世界を
見守る神である。
『彼』は、世界を好き勝手に変えようと
する者達を決して許さない。
『彼』は、如何なる敵とでも戦う。
なぜなら『彼』は、『王』なのだから。
今、黒き英雄と、『黒の王』が出会おうと
していた。
その王の名は、『ゴジラ』。
世の理の頂点に立つ存在。獣の王、『怪獣』。
それら怪獣たちの、更に頂点に立つ存在。
人々は、彼を様々なあだ名で呼んだ。
『獣の王』、『生命の覇者』、『最古の王』、
『黙示録の獣』、『破壊神』。挙げれば切りが無い。
だが、そんな中で人々は『彼』をこう呼び、
恐れ、崇めた。
『怪獣王』、『怪獣王ゴジラ』、と。
プロローグ END
って事でプロローグです。楽しんで頂ければ幸いです。
感想や評価、お待ちしています。