最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
サブタイトルは、アジ・ダハーカのアジ、が蛇って意味から
取りました。
国家代表による対抗戦が近づきつつある中、
アカデミーでは代表選抜のための選抜戦に
向けた演習が行われていた。そこにやって
きた男達の態度に激怒した黒鉄によって、
男達は倒され、逆に黒鉄が女生徒達を
指導することに。そんな合間の中で黒鉄は
一週間の優先権を持つキャロルと一緒に
街へ繰り出し、そこで彼女へとエールを
送るのだった。
その後、改めて街中を散歩していた黒鉄とキャロル。
時間は既に日暮れ時。町や空がオレンジ色に
染まり始めている。
そんな時だった。
「む?あれは」
「黒鉄さん?どうしました?」
何かに気づいて足を止めた黒鉄。キャロルも
足を止め、彼の視線の先へ注目した。
見ると、私服姿のルクスとクルルシファーが
並んで歩いているではないか。
「うぁ~!ルクス君とクルルシファーさん。
何て言うか、本物のカップルみたいですね!」
2人の姿を見つけたキャロルは、やっぱり
女子として色恋沙汰に興味があるのか
少し興奮気味だ。
「うむ。まぁそれも分かるのだが……。
あっちはどう思う?」
「ほえ?」
黒鉄に指摘され、彼が指さす方を見ると、
建物の角には変装のつもりなのか、
伊達眼鏡のフィルフィと、黒い眼鏡に帽子を
したリーシャの姿があるではないか。
「り、リーシャ様。何してるんだろう?」
自国の王女がストーカーまがいの事を
していると知って、キャロルは苦笑を浮かべ
ている。
と、その時。
「む?」
黒鉄は、優れた感覚で『それ』を捉えた。
『それ』は、一般人どころか、軍人でも
容易く感じ取ることの出来ない、僅かな
『気配』だった。
『この気配。そして僅かに香る鉄の臭い。
まさか機竜か?だが姿は見えない。
……光学迷彩の類いか。しかも、この
感覚。狙いは、リーシャか?……いや、
違う。追っているのは、ルクス達の方か!』
「キャロルッ!」
「ふえっ!?は、はいっ!」
「すまぬが、我は行く。お主はここにおれっ!」
そう言うと、砲弾並みの速度で駆け出した黒鉄。
彼は路地に入っていった2人を追っていった。
そしてその視線の先では、ルクスとクルルシファー
が5機の機竜、ドレイクに囲まれていた。
ドレイクは、特装汎用機竜とも呼ばれており、
直接的な戦闘は得意ではないが、いくつかの
独特な能力を持っており、先ほどまで
男達はその一つ、迷彩の力で隠れていて、
ルクス達の隙をうかがっていたのだ。
最も、2人や一般人の事は騙せても、黒鉄まで
騙すことは出来なかった。
そして……。
「ふぅんっ!」
黒鉄は進路上にあった樽を掴むと、それを
ドレイクの一体に向けて投げつけた。
「ッ!?何だっ!?ぐっ!?」
それに気づいてパイロットの男は咄嗟に
構えていたブレスガンで樽を防いだ。
が、その速度から来る威力によって、
僅かに体が揺らいだ。そしてそれが
隙となる。
それを見逃さずに地面を蹴って飛び出し、
一気に距離を詰める黒鉄。
「ふぅんっ!」
『ドゴォォォォォォォッ!』
そして振るわれた剛腕が、防御を物ともせず
ドラグナイトの脇腹に打ち込まれる。
「ごはぁっ!?」
吐瀉物をまき散らしながら機竜ごとパイロット
は地面に音を立てて落下した。
「なっ!?何だこいつっ!?素手で
機竜をっ!?」
「怯むなっ!相手は1人の上に拳だっ!
囲んで一斉射撃で蜂の巣にしろっ!」
1人が狼狽えるが、すぐにリーダー格の男
らしきドラグナイトが叫んだ。そして男達は
指示に従い、黒鉄と距離を取ってブレスガンを
構えた。対して黒鉄も着地と同時に拳を
構え直すが、直後彼は、こちらに近づく
気配に気づいて、僅かばかり緊張を緩めた。
直後。
『ドゴォォォォォンッ!』
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
また1人、ドレイクが突如として襲いかかって
きた攻撃によって吹き飛ばされ空き家の壁に
激突した。
「こ、今度は何だっ!?」
男達が戸惑う中、現れたのは……。
「ふぃ、フィルフィっ!?」
紫色の陸戦型神装機竜、『テュポーン』を
纏ったフィルフィだった。
「私も居るぞっ!」
更に続いて、キメラティック・ワイバーンを
展開したリーシャも現れる。
「こ、このぉっ!」
その時、残った3機の内の1機がテュポーンに
斬りかかった。
テュポーンは見たところ武装を持っていない。
だからこそ近接戦で一気に仕留めようとしたの
だろう。だが……。
「えい」
間延びした声とは裏腹な、洗練された格闘術の
動きでもって相手を撃退するフィルフィ。
「ほう?」
それを見ていた黒鉄は、フィルフィに対する
認識を改めていた。
『普段はどこかおっとりというか、のんびり
した印象のフィルフィ・アイングラムで
あったが、まさかあれほどまでに武術に
秀でていたとは。人は見かけによらん、
と言う事か』
それを見守っていた黒鉄。残りは2機。
だがそれも、もう1機が撃墜された事で
残りはただの1機のみ。
「く、クソッ!?」
残った1機は逃げようと機体を翻す。
だが……。
「≪竜咬縛鎖(パイル・アンカー)≫」
その時、テュポーンの腕から放たれた太い
アンカーが逃げようとする1機を捉え、
猛スピードで引き戻していく。
「あれって?!」
「テュポーンの特殊武装よ。全身から
あんな風にアンカーを射出し、範囲内の
敵を捉える武装らしいわ」
驚いているルクスに説明している
クルルシファー。ルクスはアカデミーに
来てから、未だにフィルフィがテュポーンを
動かしているところを見た事が無かったので、
それも仕方無い。
「ちょっと、やりすぎた、かな?」
カウンターを構えていたフィルフィだったが、
相手のあまりに怯えた表情に気づいて、
彼女はカウンターの構えを解くと、更に
パイル・アンカーの拘束も解除。しかし
猛スピードだけは殺しきれず、ドレイクは
テュポーンの脇を通り過ぎて空き家の壁に
激突し、動かなくなった。
その様子を見ながらも、黒鉄は倒した男達を
ドレイクから引きずり出して捕縛していた。
『相手を捉え、強引に自らの得意な距離、
つまりクロスレンジに引き込む特殊武装。
格闘戦に優れたパイロットが乗れば、
なお輝く機体、と言う訳か』
と、黒鉄はテュポーンの観察をしていたが……。
「ッ!おいっ!1人逃げたぞっ!」
最後の最後で、壁に激突したドレイクに
乗っていた男がドレイクを捨てて、走って
逃げようとしている。
「あっ!?待てっ!」
黒鉄の叫びに気づいて咄嗟に後を追うルクス。
更に黒鉄も、当て身で捕縛した男を気絶
させると彼の後を追ったが……。
そこでは、執事らしき黒い服装の女が、
残った1人を倒していた。
すると、そこに後ろからクルルシファーも
追いついてきたのだが……。
「お久しぶりです、お嬢様。相変わらず
お元気そうで」
「あなたもね。アルテリーゼ」
「ぬ?お嬢様?」
彼女はクルルシファーに向かって、お嬢様と
呼んだ。
「身内か?」
と、首をかしげる黒鉄。
「えぇ。私の家、エインフォルク家の執事よ」
「え?それじゃあ……」
「そっ。彼女が私の様子を見に来た、って訳」
驚くルクスに説明するクルルシファー。
「成程」
『しかし、様子見、だと?どういうことだ?
ただ単に、定期的に様子を見に来ている
と言う訳でも無さそうだが?』
と、黒鉄は内心首をかしげるのだった。
その後、キャロルが連れてきた衛兵によって
男達は捕縛され、その後。
ルクス、黒鉄、リーシャ、クルルシファー、
フィルフィ、キャロルの合計6人は、
クルルシファーとアルテリーゼの話しに
同席することになり、学園にほど近い
酒場に入っていた。
そして話し始めたのだが、クルルシファーが
『余計な気遣いはいらない』、と言うと、
彼女は真っ先に、先ほどの事件の事を
口に出した。
「もう少しお気をつけ下さい。お嬢様の体は
エインフォルク家のものなのですよ?」
『ピクッ』
アルテリーゼの発言に、黒鉄は僅かに反応を
示した。
今の発言は、まるでクルルシファーが
家の所有物だと言っているような物で、
黒鉄が嫌悪する類いの発言だ。
「ところで、そちらのお二人は?アカデミーは
女性士官候補を育成する場のはずですが?」
やがて、話題は黒鉄とルクスに向いた。
「この二人は今、将来的な共学化に向けて
学園に通っている私の級友よ?
こちらの筋骨隆々の男性がクロガネさん。
それと、対照的で可愛らしい銀髪の
少年が、ルクス・アーカディア」
「アーカディア?では……」
「えぇ。旧帝国の王子様。そして、今現在
私の恋人よ?」
そんなクルルシファーの発言に、好意を
寄せているリーシャが反論しようとしたが、
それは肝心のルクスによって止められて
しまった。
「お嬢様。実は……」
更に、ルクスが恋人、と紹介された
アルテリーゼが何かを言おうとした時。
「これはこれは。私も見くびられた物だな」
そこに突如として現れた金髪の男性。
格好からして、貴族である事は黒鉄でも
分かった。
のだが……。
『いけ好かない目をしているな。この男』
出会って早々、黒鉄は目の前の男に敵意を
抱いた。彼の第六感が、目の前の男とは
相容れないと、黒鉄に訴えていた。
そうこうしている内に、現れた男は
クルルシファーを『未来の我が妻』とまで
言い切った。
そして更に、『バルゼリット・クロイツァー』
と名乗ったのだが、その名を聞いたリーシャ達
や周囲に酒場の客達までもが、驚いた
様子だった。
が、しかし元々旅人であった黒鉄は相手が
誰だか分からない。
「キャロル。この男は新王国では有名なのか?」
と、本人の前で語る黒鉄に、バルゼリットが僅かに表情を歪める。
「は、はい。バルゼリット卿は、旧帝国
時代から続く四大貴族の一つである
クロイツァー家のご嫡男で、王都の
コロシアムで行われた去年の公式模擬戦でも、
第3位の成績を収めています。その事から、
王国の覇者とも言われるお方です」
と、キャロルは本人を前にして萎縮しながら
も黒鉄に説明をしていた。
「ほう?」
と、驚嘆とも呆れとも取れる言葉を呟く黒鉄。
バルゼリットは、それを驚嘆と
取ったのだろう。だが……。
『高々3位程度で覇者、か。笑わせてくれる』
黒鉄は内心、呆れていた。
彼に言わせれば、覇者を名乗る位なら1位を
取れ、と言う事だった。
黒鉄が黙って話を聞いていれば、
アルテリーゼは明日、バルゼリットと
クルルシファーを会食させ、そこで婚約
させるつもりだったらしい。しかし
クルルシファーはルクスがいるから、と
それを拒否。一方のバルゼリットは、
そのルクスを没落王子と侮辱していた。
そして更にリーシャが割って入り、ルクスは
自分のパートナーになる予定の男だ、と宣言
したのだが、対してバルゼリットは嘲笑を
浮かべ、これからの時代、求められるのは
他国やアビスに負けない機竜を扱い勝利する
力と指導者としての力が求められていると
話した。
すると、クルルシファーはルクスが最弱の
無敗として力があると反論し、結果的に……。
ルクス&クルルシファー VS バルゼリット&アルトリーゼ。
と言う形で3日後の夜に決闘が行われる事
になってしまった。
そして、アカデミーへの帰り道。
「……気に入らんな」
ルクス達と少し離れて歩いていた黒鉄と
キャロル。その時、ポツリと呟いた黒鉄。
「クロガネさん?」
「あのバルゼリットとか言う男の、
クルルシファー・エインフォルクを見る目。
あれはまるで……」
言いかけ、言葉を区切るクロガネ。
「まるで、何ですか?」
「……まるで、人として彼女を見ていない
ような。そんな感じであった」
「え?そ、それって……」
「そうさな。典型的な男尊女卑主義者のそれだ。
実際、この前のあの3人の男性軍人共も
そうであった」
「……」
彼の発言に、キャロルはしばし黙り込んでしまう。
「……クルルシファーさん。大丈夫でしょうか?
決闘だって。いくらルクス君が最弱の無敗
って言われてるとは言え、それってつまり、
ルクスは負けないけど、勝ちもしないって
事ですし」
「大丈夫だ」
二人を心配するキャロルに、黒鉄は優しく笑みを
浮かべながら彼女の頭を撫でた。
すると
彼の言葉なら、と安心したのか安堵した表情
を浮かべるキャロル。
しかし……。
『だが、あの男の視線。少し気になるな。
単純な男尊女卑主義だけとも思えん。
……何か裏があると考え、警戒しておいた
方が賢明か』
そう、黒鉄は考えながら、既に暗くなった
夜空を見上げているのだった。
その翌日、クルルシファーは用事がある
から、と言う事でルクスは珍しく一人
であり、お疲れの様子だったので、
メイドさんの格好をしたリーシャや
フィルフィ、ティルファーからもてなし
を受けたりしていた一方、黒鉄は……。
レリィに呼び出されていた。
「ごめんなさいね、生徒達の指導をお願い
してるのに、呼び出してしまって」
「構わぬ。学園長の呼び出しとあれば、
今は生徒の立場にある我が応じぬ訳
には行かぬからな。それで、用件は?」
「うん。実はね、この前話した、明日のルイン
調査の件なんだけど、その時のために
聞いておきたい事があるの?
クロガネ君のあの姿、黒龍、だった
かしら?あれは使える?」
「うむ。問題無く使えるが、何か
問題が?」
「あぁううん。問題とかそう言うんじゃ
無いんだけど。……正直、あの機竜を
持っているルクス君がいるから、万が一
が起きても大丈夫、だとは思いたいん
だけど」
と言うレリィの言葉。黒鉄は、あの機竜が
バハムートの事を指しているのは理解
出来ていた。
「……それはつまり、ルクスの素性を
バラすことに他ならない、か」
「えぇ。だからこそ、彼は容易にあの剣
を抜くことが出来ない。そこで、と言って
はなんだけど、あなたを頼りたいの。
クロガネ君。あの英雄と同等の力を
持ち、尚且つ今だ限界を見せていない
あなたに」
「そうであったか。ならば分かった。調査
の時には黒龍を使おう」
「そう言って貰えると助かるわ。
でも、良いの?あの姿が機竜でない
事は、恐らく見ていれば分かる。
肉体の変質なんて普通じゃないから、
下手をすれば周りの皆に、なんて言われるか」
彼女の言葉に、黒鉄はしばし押し黙った後。
「……別に構わん。元々我の素性は、皆
分かっていないのが現状だ。いざと
なれば、奥の手や切札だ、とでも言って
何とかする。……それに、今の我の
周りには、ルクスのように守らねばならぬ
親族も居らん。彼奴に比べれば、この
程度大した事は無い。それに、我が
手を抜いた結果、誰かが怪我をするのは
何よりも許せぬ。だから気に病む必要は
無い。何より、我自身の選択なのだ。
学園長は心配せずとも良い。
調査隊は必ず、我が全員無事に
連れ帰って見せよう」
「ありがとう。……本当に頼もしいわ」
そう言って、レリィは優しい笑みを浮かべた。
そして翌朝。格納庫に集められたルクスや
リーシャを始めとした今回の討伐と調査の
ための騎士団のメンバー達。ルクスや黒鉄
は、レリィからの推薦という形で参加する
事になっている。
今回の任務は、ルイン周囲を徘徊する大型の
アビス、ゴーレムの排除と、その後、可能で
あれば第6の遺跡、『箱庭(ガーデン)』の内部
を調査する手筈になっている。
黒鉄以外、全員が装衣を纏って、今は
ライグリィから説明を聞いていた。
そして、その中で変更点がいくつかあった。
それは留学生であり、祖国であるユミル教国
からの指示で危険な戦闘への参加を控えるよう
言われているはずの、クルルシファーの参加。
更には、あのバルゼリットまでもが急遽
参加すると言ってきたのだ。
アカデミーの生徒であるクルルシファーなら
まだしも、完全な部外者であるバルゼリットの
参加にはリーシャを始め、皆驚いていた。
彼女がその真意を問いただすと、彼は
手助けだと言ってのけた。だが、あからさまに
トーナメント3位の記録を持ち出し、剰え
彼女達を『か弱い少女達』と言い、盾役を
買って出た事を喜ぶべきでは?とまで言っている
始末だ。
更に反論したリーシャだが、レリィの許可も
ある、と言う事で、結局バルゼリットは
彼女達に同行することになった。
更に……。出発直前。
「おやおや。君は一体どうしたんだい?」
全員が機竜へと搭乗する中、自身の神装機竜、
『アジ・ダハーカ』へ乗っているバルゼリット
が黒鉄に目を付けた。
「装衣も纏わず、まさか生身のまま調査に
同行するとでも?」
あからさまに黒鉄を見下したような発言。
そのことにシャリスが何かを言おうと口を
開いた直後。
『ブワッ!』
黒鉄の足下に魔法陣が展開され、それが
上昇すると、黒鉄の姿は黒龍に変わっていた。
「……これで満足か?」
「あ、あぁ」
どこか怒気を滲ませる黒鉄の言葉と黒龍の
威圧感に、流石のバルゼリットも畏怖し、
それを必死に隠すように笑みを浮かべていたが、
その表情は引きつっていた。
しかし一方で、初めて見る黒鉄の黒龍形態に
戸惑うシャリスやティルファー達シヴァレスの
面々。
「え?えぇっ!?クロッちなのっ!?
どうしたのその姿っ!?」
「ま、まさか、神装機竜っ!?いやだが、
その姿はっ!?」
ノクトは以前見ていたが、2人や他の
団員達は初めて黒龍を見たのだから、驚くのも
無理はなかった。
「その姿は、クロガネの切札だそうだ」
その時、彼女達に声を掛けたライグリィ。
「私も詳細は知らんが、その姿のクロガネ
は普段の時よりも強いそうだ。本人から
の希望で、詮索はしないで欲しい
そうだ。まぁ、心強い味方だと想って
安心すれば良い」
と言うライグリィの言葉に、生徒達は
とりあえず落ち着いた様子だ。
その後、出撃した彼等は城塞都市から約
20キロほどの地点にある遺跡、箱庭を
見下ろしていた。
それは一言で言えば、山岳部にめり込んだ
立方体、と言う印象だった。目的は、
その箱庭周辺に現れるアビスの撃破だ。
そして、それが現れた。
『ゴーレム』。鋼鉄の巨躯と、その巨体に
見合った力、防御力を持つ大型のアビスだ。
速度は遅く、行動も単純。しかしそれを
おして余り有るパワーの一撃は、一発で
機竜を破壊する、防御不可能な攻撃だ。
だが、そんなゴーレムも、クルルシファー
の神装機竜、『ファフニール』の特殊武装、
着弾点を凍らせる弾を放つ『フリージング・
カノン』と、相手の攻撃を自動で防御する
『オート・シェルド』の2つ。そして、
相手の行動を予知する神装、『ワイズ・
ブラッド』を完璧に使いこなす彼女の
前に、呆気なく敗れた。
そのことにシヴァレスの女子達が喜んでいた
が、直後クルルシファーはルインの中へ
行くと言い出したのだ。事前の予定では、
ルクス、黒鉄、リーシャと、トライアドの
3人の、合計6名だけがルイン内部に
入る予定だった。
何故そこまでルインに拘るのか。黒鉄が
警戒しつつ周囲を見回していた時。
彼とノクトのドレイクのレーダーが、その
反応を捉えたのはほぼ同時だった。
「総員気をつけよっ!新手のアビスが来るぞっ!」
黒鉄がすぐさま全員に警戒を促し、両腕の
ブレードを展開する。
すると、先ほどの戦闘で発生した砂煙の中
から、異形の悪魔と形容出来そうな怪物が
姿を現した。
「あれは……」
「ディアボロスですっ!1体で小都市を
滅ぼすとさえ言われている、強力な
アビスですっ!」
黒鉄の言葉に応えるシャリス。
『ギィエァァァァァァァァッ!!!!』
直後、ディアボロスは咆哮を上げ、彼女達に
向かっていった。だが……。
『ゴアァァァァァァァァァァァァッ!!!!』
ディアボロスの叫びを上書きするほどの
大音量の咆哮が……。
『ゴジラの咆哮』が響き渡った。
すると、その咆哮を前に、ディアボロスが足を
止め、黒鉄の黒龍のみを、一点に睨み付けている。
そして、宙に浮いていた黒龍が僅かに前に出る。
「総員、下がっていろ。奴の相手は、
我1人で十分だ」
「だ、大丈夫なんですかっ!?クロガネさんっ!」
「問題無い」
ルクスにそう答える黒鉄。
「それに、奴はずる賢く、そして何よりも早い。
なればこそ、一対一の方が、やりやすい。
リーシャ、お主は皆を率いて、迫って
きた時は射撃だけで応戦しろ。
奴に接近戦は分が悪い。機竜用のソード
など、奴に掛かれば一瞬で破壊されるぞ」
「しょ、承知した。皆っ!少し下がれっ!
総員射撃兵装用意っ!良いかっ!
不用意に奴へ近づくなよっ!」
彼女の指示に従い、ルクス達が距離を取る。
そして、次の瞬間。
『『ドウッ!!!』』
大気が震えるほどの加速でもって黒龍と
ディアボロスが突進。
『『ガギィィィィィィンッ!』』
盛大な音と共に、ディアボロスの爪と黒龍
のブレードが火花を散らす。
だが、すぐに放たれた黒龍の蹴りが
ディアボロスを大きく吹き飛ばす。
すると、空中で数回回った直後、
ディアボロスは体制を立て直し、黒龍を
迂回するようなルートでリーシャ達へと
迫る。そして、その刃がノクトのドレイク
に届きそうになる。
「ッ!?」
早すぎて対応出来ず、息を呑むノクト。
が……。
「我を無視か。良い度胸だ。雑兵ッ!」
『ドゴォォォォォォォンッ!!!!』
追いついた黒龍の蹴りが、ディアボロスを
大きく吹き飛ばし、眼下の地面に叩き付けた。
「大丈夫か?ノクト」
「は、はい。ありがとうございます、クロガネさん」
肩越しに振り返る黒龍に、ノクトは驚き
ながらも答える。
と、その時。
「良い的だっ!悪魔めっ!」
バルゼリットが落下したディアボロス目がけて
アジ・ダハーカの両肩に備えられている砲塔、
『デビルズグロウ』からビームを発射した。
だが、射線上にはシヴァレスの機竜も居て、
命中こそしなかったが、明らかな危険行為だ。
しかもディアボロスは直前に飛び上がって
ビームを回避している。
「各員撃ちまくれっ!」
直後リーシャからの指示で、全員がブレスガン
を撃ちまくりディアボロスの接近を何とか拒む。
黒鉄は咄嗟に、攻撃に巻き込まれそうになって
いた少女達の元へと近づく。
「大丈夫か?2人とも?」
「は、はい」
「だ、大丈夫です。近くを通過しただけ
ですから」
そう言って2人とも気丈に振る舞うが、
味方のはずのバルゼリットから、撃墜され
掛けた事に恐怖し体を震わせている。
『ギリッ!!!』
内心、黒鉄は強く奥歯をかみしめた。
そして更に、彼の怒りを煽る発言を、
バルゼリットはしてしまった。
「どうだ没落王子?この俺と勝負をして
みないか?」
「え?」
突然のバルゼリットの発言に戸惑うルクス。
『何だと?』
そして、黒鉄の中では、より大きく怒り
が燃えていた。
「あのアビスをどちらが先に倒せるか。
お前が勝てば、あの決闘の約束は
取り下げよう」
そう言って笑みを浮かべているバルゼリット。
今の奴には、この勝負に勝てるだけの
自身があったのだ。
だが、ルクスが答えるよりも早く。
リーシャが窘めるよりも早く。
『のぼせ上がるなよ、雑兵……!』
おどろおどろしい声、とでも表現出来る
ような、普段の黒鉄からは想像も出来ない
ような、圧倒的なまでの怒気を滲ませた声に、
その場に居た女子達は体を震わせ、肝心の
怒りを向けられているバルゼリットも表情が
引きつっている。
「命がけの場で、何を呆けたことを
言っている。……邪魔はしないと言った
のはそちらだぞ?ならば……」
「大人しく黙っておれっ!」
圧倒的なまでの怒り。誰もが、黒鉄の怒りに
体を震わせ、リーシャやルクス、更に
クルルシファーも動けなかった。
戦場は、命を賭けて戦う場所。そこで
下らない事をしようとするなど、黒鉄
には許せない事だった。
「貴様、四大貴族の俺に向かって、雑兵
と言ったのか?」
対して、バルゼリットも平静と余裕を
装いながらも、内心では眉をひそめていた。
と、その時。
『ギィエァァァァァァァァッ!!!』
ディアボロスが叫びを上げながら黒龍の
背後へと回り込み、掴みかかるが……。
『ドゴォォォォォォンッ!!!』
裏拳一発。それだけで大きく吹き飛ばされ
再び地面に叩き付けられるディアボロス。
「……公式戦第3位如きで、のぼせ上がった
貴様など、雑兵以外なんだというのだ」
黒鉄は怒りを滲ませながらその鋭い眼光を
光らせる。
一方で、バルゼリットもその表情を
怒りに染めている。
2人とも、今にも相手を殺さんばかりの
殺気だ。
「いい加減にしろ2人ともっ!今は
アビスを倒すのとルイン調査が優先
だろうがっ!」
しかし、そんな2人の間に割って入り
止めるリーシャ。
すると、黒龍が彼女達の方に背を向け、
直後にその背鰭が青白く光を放ち
始めた。
するとそれを見たディアボロスがまるで
逃げるように慌てて飛び上がる。そして
彼等とは別方向に逃げだそうとした。
だが……。
『カッ!』
閃光。
『ドウッッ!!!』
更には爆音。
青白い閃光が黒龍の口から放たれる。
そして黒龍から放たれた必殺技、ヒート
ブラストがディアボロスに追いつき、その
肉片の1つまで残すことなく、破壊し、
塵も残さず消滅した。
誰もが、黒鉄の、黒龍の圧倒的な力を前
にして戸惑っていた。
小都市を滅ぼすと言われていたディアボロス
でさえも、歯牙に掛けぬ力。戦闘力。
だが、一方でその体から滲み出る怒気の
オーラを前に萎縮していた彼女達。
もちろんそのオーラは彼女達ではなく
バルゼリットに向けての物だが、それでも
余り有る、他者を畏怖させる程の殺気と怒気。
やがて、リーシャの発言もあり、ルインの調査
をする事になり、生徒達も気分を切り替えた。
そして、予定の6人とクルルシファーがルイン
の中へと入る事になったのだが……。
「……リーシャ。すまないが残りの面々は
先に都市へ戻した方が良いのではないか?」
「ん?それはまた、何故だ?」
「理論的な考えがあるわけではないが、
ただの感だ。だが、ディアボロスが突如
現れた事も少し気になってな。我々がルイン
に入った直後に同型、或いはそれ以上の
アビスが出てきて戦闘になっては不味い。
いざとなれば、我があのルインの壁を
ぶち破って救援に来る事も出来るが、
それは些か不味いであろう?
我も、神装機竜を持つ二人も中に
入ってしまうのではな。無い、とは
想いたいが最悪の事態は予想しておく
べきだからな」
「む、むぅ。……そうだな」
しばし悩んだ後、黒鉄の発案に頷くリーシャ。
「よし。皆は先にクロスフィードに戻ってくれ」
「よろしいのですか?」
彼女の言葉に団員の1人が声を掛ける。
「大丈夫だ。私やルクス、クルルシファーに、
それにこのクロガネも居る。ディアボロス
相手に善戦どころか圧倒したこいつが
居れば何の問題も無いだろう。お前達は
戻ってゴーレム討伐の報告と、
念のためディアボロス出現の情報も
伝えておいてくれ。小都市を壊滅させる
程の奴が出たんだ。伝えておくに越した
事は無いからな」
「分かりました」
と言う事で、残っていた3年生の団員を
臨時のリーダーとして、外に残る予定
だった団員達はクロスフィードに戻る事に
なった。
「そういうわけだ。お前もとっとと戻れ、
クロイツァー卿」
「承知した。ならば俺は戻らせて貰おう。
だが最後に、そちらがルインの入るのを
見届けるくらいは構わないだろう?」
「ふん。勝手にしろ」
吐き捨てるようなリーシャの言葉のあと、
7人は並んでガーデンへと降下していった。
本来なら、ガーデンは一定周期で門が開閉する。
門は、開くと外に居る者を中に引き込み、
逆に中に居る者を外に放り出す。と言う仕組みに
なっていた。なので、降下しそのサイクルが
来るのを待つ予定だった。だが……。
『カァァァァァァァッ!』
彼女達がルインの前に降り立ったのとほぼ
同じタイミングでルインが光り輝き始めた。
「ッ!?な、何だっ!?」
リーシャ達が驚いたのも束の間。7人は
瞬く間に光の中へと取り込まれるように
して消えてしまった。
その事に呆然となる残っていたメンバー達。
だからこそ、気づかなかった。
バルゼリットが、狂気じみた笑みを浮かべている事に。
第9話 END
次回はルイン、ガーデン内部のお話です。
感想や評価、お待ちしています。