最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
ちなみにですが、アニメ版では、『リエス島での強化合宿』って事ですぐさま島に
行っていますが、こちらでは小説版の物語である、『校内選抜戦の話』をベース
にしていくつもりです。
真夜中に行われたバルゼリットとクルルシファー
の結婚を賭けた決闘。最初、クルルシファーは
1人で片をつけるつもりだったが、黒鉄の
乱入や、遅れて登場したルクスの活躍もあって
決闘に勝利。更に様々な容疑でバルゼリットは
逮捕され、無事に婚約は破談となり、代わりに
ルクスがクルルシファーの結婚相手の候補に
なってしまった。
そんな中でルクスは、黒鉄より、また新たな
歴史の真実を聞かされるのだった。
バルゼリットの戦いから、数日が過ぎた。
そんな中で黒鉄はレリィ、アイリと話し合いを
していた。
その話題というのが……。
「バルゼリットの後ろに、黒幕がいる?」
先日のバルゼリット関係の話題だった。
「うむ。奴はルクスや我との戦いの中で、
ガーデン調査中に出現したディアボロスが
自分の策略だと言っていた。しかし奴の
屋敷などを捜索しても、例の角笛は発見
されなかったそうだな」
「えぇ。私もそう聞いてるわ」
黒鉄の言葉に頷くレリィ。
「ここで考えられるのは、バルゼリットが
発見を恐れて処分したか、或いは奴
とは別に笛を持つ協力者がいるか、だ。
だが野心家の奴が、そう簡単にアビスを
操るあの笛を捨てるとは考えにくい。
そうなると、後者、つまり協力者がいた
可能性がある。最も、本当に協力関係
だったのかは怪しい所だが」
「つまり、バルゼリット卿は踊らされていた。
クロガネさんはそう考えてるのですね?」
「うむ。可能性として、奴はその大きな
野心を利用されたとも考えられる」
「でも、だったらどうしてバルゼリット卿
はわざわざクルルシファーさんを?」
首をかしげるアイリ。
やがて……。
「本人の許可も無く話すのは少し不味い
気もするが、2人には、念のため話して
おこう」
「「え?」」
突然の事に驚いた2人に、黒鉄は
クルルシファーがルインの鍵である事を
教えた。
「じ、じゃあバルゼリット卿は、その、
鍵としての力を持つクルルシファーさん
を狙って?」
「うむ。それを奴が、ルクスが来る前に
語っていた。しかも奴は、結婚に
かこつけて彼女を手に入れるつもりだった。
つまり、彼女が鍵であると、誰かが奴に教え、
そして知ったが故にバルゼリットは
クルルシファーを手に入れるために動いた、
と言う事になる」
「た、確かに。……しかし、一体だれが」
首をかしげるアイリ。そんな中でレリィは
黒鉄を見つめ……。
「もしかして、クロガネ君には相手の見当
がついてるのかしら?」
「……うむ」
「えっ!?」
その言葉に、アイリは驚いて隣の彼に目を向けた。
「……以前、レリィ学園長には話したが……」
そう前置きをした黒鉄は、以前の反乱軍騒ぎ
で存在を仄めかした敵国、『X』の存在を
アイリにも教えた。
「敵性国家、『X』、ですか」
「うむ。双方の事件に関係している角笛。
そこから見えてくる敵の目的は、まだ
はっきりした訳ではないが、恐らくは
ルインかもしれぬな」
「クロガネ君がそう思う根拠は?」
「一番の根拠は、今回狙われたクルルシファーだ」
静かにそう語る黒鉄。ちなみに彼も、あの
決闘の一件で活躍した事から、彼女より
名前呼びで良いと言われていたのだ。
で、話を戻して……。
「恐らくXの目的は、バルゼリットを利用
して彼女を手に入れるか、或いは奴を
介して間接的にクルルシファーを操るため
だったとしたら、Xが求めそうなのは
彼女の鍵としての力、そして延いては
この新王国にあるルインの可能性が高い。
そう推理してみたのだが……」
「では、前回の反乱も?」
「恐らく、Xにとって邪魔になる新王国を
排除しルインを手に入れるために、或いは
威力偵察的な意味で旧帝国反乱軍が
利用された可能性はある」
「ここに来てまたXの登場。ホント、頭が
痛いわぁ。ただでさえラグナロクの事も
問題になってるのに」
「……ラグナロク」
レリィの言葉を聞き、ポツリと呟くアイリ。
ラグナロクは、言わば最上位のアビスだ。
1匹でも国が総力を挙げて迎え撃つレベルの
存在だ。それをバルゼリットが倒す予定
だったのだが、肝心の奴は諸々の罪状で
逮捕、投獄されている。
どうしたものか、と言わんばかりに
頭を抱えている2人。だが……。
「ラグナロク、などと言っても所詮
『生き残りの1匹』であろう?
大昔の戦争ではあれが数百匹はいたが、
群れで挑もうが神の足下にも及ばなかった
のが現実。ならば、今の我でも1匹
程度余裕であろう」
そう語る黒鉄。
しかし2人には耳を疑う単語があった。
「えっと、クロガネ君?聞き間違いじゃ
なければ、数百匹のラグナロクって
言ったかしら?」
「む?あぁ。そもそもラグナロクも、元々は
神と戦う為に作られた存在だ。
まぁ、それを数百匹投入した所で
神の放つ光に秒で焼き払われたが……」
そして、サラッと聞こえる話に、2人は
数秒の間を置いてから長い、長~~い
ため息をついた。
「アイリちゃん」
「そうですね学園長。神様ですもんね。
ラグナロクだろうと瞬殺出来るんじゃ
無いですか?」
どこか遠い目で話す2人に、当のクロガネ
は首をかしげる事しか出来ないのだった。
で、2人とも正気に戻った頃。
「まぁ、そういうわけでラグナロクはいざと
なれば我が倒す。それより問題はXだ。
仮にこれまでの2度の事件が全てXに
よるものだとしたら、この事件の黒幕
はあまり冷静では居られないだろう」
「まさか、仕掛けて来る、とか?」
「そこまでは分からぬが、狙いをルイン
から、邪魔物の排除を優先するよう
変更する可能性はあるだろう」
「そう」
静かに頷くレリィ。
「……もしもの時は、クロガネ君。
お願いね?」
「無論だ。その時は、全力で敵と戦おう」
こうして、彼等の話し合いは終わった。
その後、相変わらずの学園だったが、
国別対抗戦の、代表決定戦が近いと
あって生徒達はいつも以上に黒鉄に
教えを受けていた。
そんなある日の夜。
黒鉄は学園の敷地内を歩き回っていた。
その理由は、数日前に遡る。
「学園の敷地内に、変質者だと?」
その日の夜、黒鉄の部屋を訪れたトライアド
の3人。
「YES。ここ最近、学園の周囲に現れて
いるそうです」
「……仮にも国の施設であろう?そこに
入るなど。……怖い物知らずの阿呆
なのか、或いは……」
「或いはって、どうかしたのクロっち?」
「あぁいや、何でも無い」
首をかしげるティルファーにそう言って
答えを濁す黒鉄。
『……もし、その変質者というのが、
変質者を装ったスパイだったとしら。
前回バルゼリットを倒した事を考えれば、
その手下達が逆恨みで学園を憎んでいる
可能性もあるし、Xが寄越した刺客という
可能性も0ではない、か』
「それで、どうして我にその話を?」
「あぁ。実はクロガネさんにもパトロール
をお願い出来ないかと思ってね」
彼の言葉に応えるシャリス。
「一番の理由は、やっぱりクロガネさんが
頼りになりそうと言う事かな」
「YES。クロガネさんは、機竜抜きで考えた
場合この学園最強とも言える存在ですからね」
「実際、クロっちって運動神経とかヤバいし。
いざとなったら素手でだって機竜を倒せるし」
三者三様にそう言って黒鉄を押す3人。
「そうか。ならば分かった。可能な限り
夜のパトロールをしておこう。ただ、今は
我も皆を教える立場として色々やらねば
ならない事があるからな」
そう言って、黒鉄は近くのテーブルの上に
置かれたノートに目を向ける。
「ん?なになに?そのノート何か書いてあるの?」
興味津々、と言う感じでテーブルの方に歩み
寄るティルファー。
「なに。大した事ではない。我がこれまで
教えた生徒達の名前と学年、後は各自の
得意な戦い方や克服するべき苦手。更に
チーム戦を組んだ時、どういった戦いを
得意とする仲間と組むべきか。そして模擬戦
で上手い連携が出来た相手などを
一通りまとめてある」
と、彼は言うが肝心の3人は驚いて目を
見開いている。
「え?って事は、これってもう全生徒の
データベースみたいなもんじゃない?」
「あ、あぁ」
戸惑った様子のティルファーの言葉に
頷くシャリス。
「ちなみにクロガネ先輩。これって一体
何人くらいの人が載ってるんですか?」
「む?もう100人は軽く超えてると思うが?」
ノクトの言葉に首をかしげながら応える黒鉄。
「えぇっ!?」
決して少なくない数に驚いているティルファー。
「ち、ちなみにだがクロガネさん?これを
誰かに見せた事は?」
「む?それであれば、ライグリィ教官に
何度か。我からだけでなく、教官からも
彼女達に対する認識を聞いておきたかった
のでな」
「あの~クロっち?その時教官、何か
言ってなかった?」
「む?う~む」
ティルファーに聞かれ、しばし考える
黒鉄。
「そう言えば、『本気で学園の教師を
やる気は無いか?』と何度も真顔で
聞かれた事があるのと、あとは、
確か『お前がこの国の人間だったら
どんなに嬉しいか』、などと言っていたな。
2つ目はどう言う意味か良く分からなかったが」
と言う黒鉄の言葉に、3人は苦笑を浮かべた。
「まさか、本職の先生が本気で勧誘する
レベルか」
「YES。実際、クロガネさんの教えでみんな
日々強くなっています。個人的に言って、
教師向きなのではないでしょうか?」
「まぁクロっちは色々凄いからね~。
それもあるんじゃない?」
何やら話をする3人に対して首をかしげる黒鉄。
「まぁ、ともあれ夜の警備をすれば良いの
だろう?こちらもできる限りやっておこう」
「すまないクロガネさん。何というか、最近
は本当に皆クロガネさんに頼ってばかり
で、些か悪い気もするのだが……」
「気にするなシャリス。確かに忙しいが、
我にしてみれば心地よいとも思って居る。
頼られて悪い気はしないし、それに
我の教えが、皆の生き延びる一助と
なれればな」
そう言って、黒鉄は窓の外に目を向けた。
「戦争というのは過酷な物だ。いや、そんな
表現で表しきれないほど苛烈で残酷な
場所だ。そして、我は旅人。いずれは
ここを離れるかも知れないし、皆と
いつでも同じ場所に居る事は出来ない。
そして、そんなとき我は彼女達を
守ってやる事は出来ないかもしれぬ」
「クロガネ先輩」
ノクトがどこか悲しそうな表情で声を
掛ける。
他の2人も似たり寄ったりの表情だ。
「だが、だからこそ今の我に出来る事で
彼女達を鍛え、強くする。どれだけ
傷つこうと諦める事の無い、心を支える
柱としてまずは技術を教え、戦い方を
教える。……我は元々旅人だ。だが……」
彼は小さく笑みを浮かべながら語った。
「彼女達が、笑って家族や大切な人の所へ
戻る事の一助となるのなら、この程度の
忙しさなど、どうという事はない。
我はただ、彼女等が、その愛する人達の
元へ戻れるように、出来る事をするだけだ」
その言葉と笑みに……。
『『『キュンッ』』』
乙女3人は顔を赤くしながら胸を高鳴らせた。
その後、3人は顔を赤くしたまま黒鉄の部屋を
後にしたのだが……。
「はぁ、相変わらずクロガネさんは色んな意味
で心臓に悪い」
「うぅ、私まだ心臓ドキドキしてるよ~」
「あれがクロガネ先輩の魅力、と言う事で
しょうか?」
「そりゃぁねぇ。イケメン、優しい、強い、
頭も良い。
この前のバルゼリット卿みたいに顔は良い
けど性格最悪な男なんてたくさんいる
しねぇ。それに比べたらクロガネさん
ってイケメン中のイケメンじゃん?
そりゃぁライバル多い訳だよ~」
「YES。はっきり言って、クロガネさんは
色々魅力的過ぎです」
顔を赤くしながら語るティルファーとノクト。
「何だ2人とも?もしかしてクロガネさん
の事が好きなのか?」
そう言って笑みを浮かべるシャリス。
「うぇっ!?そ、それはその~!」
顔面を真っ赤にするティルファー。
ノクトも、否定する事も忘れそっぽを
向いてしまう。
「って言うかシャリスだってどうなのさっ!
稽古にかこつけて結構な頻度でクロっち
と一緒に居るよねっ!?」
「うっ!そ、それはその……」
からかうつもりが、思わぬ反論に顔を
赤くするシャリス。
それから色々言い合いになりながら
歩いていたが、やがて……。
「ま、まぁ、この件は置いておくとして。
……やっぱりライバルは多い、か」
露骨な話題逸らしであるが、しかし
それはティルファー達からしても気になる
話題だった。
「そりゃぁねぇ。そもそもルクっちの
周りにはリーシャ様だったりフィルフィ、
クルルシファーさんまでいるし。
だから余計クロっちの方にも流れてきてる
んじゃない?」
「YES。そしてそれを差し引いても、クロガネ
先輩には人として十分な魅力があるのも
懸念材料です」
等と話していた3人は最後……。
『『『ハァ、ライバルは多いな~』』』
と心の声をハモらせるのだった。
で、時間は戻り現在、夜。
黒鉄は学園の周囲を見回っていた。
『特に怪しい気配は無し、か』
ある程度見回りをし終え、部屋に戻るか、
と考えた時。
「ッ」
彼の常人を超えた気配察知能力が異質な
気配を捉えた。
考えるより先に大地を蹴って疾走する黒鉄。
そして、強く踏み込み大きく跳躍する黒鉄。
眼下を見下ろすと、街灯に照らされた薄暗い
学園の一角で、何やら森を見つめる1人の
少女。そして、その後ろにゆっくりと近づく
不審者の影。
だが生身では重力を操る術を持たない黒鉄。
今からでは自由落下をしている間に少女が
変質者に捕らわれるのは目に見えていた。
なので、黒鉄は先ほど、走りながら拾って
おいた小石を全力で投げた。
『ブォンッ!!』
明らかに人が石を投げただけでは絶対に
ならない音を出しながら飛ぶ小石。
黒鉄の胆力から放たれた小石は、もはや
銃弾以上の威力を持つ。
「ッ!?」
どうやら変質者もその音に気づいたのか
咄嗟に後ろに飛んだ。刹那。
『ドゴォンッ!』
「うぇっ!?」
小石が地面に激突し、煙と爆音が上がる。
『少女』は女性らしくない声を出しながら
慌てて振り返る。
と、その時彼女の眼前に黒鉄が降り立った。
「えっ!?く、クロガネさんっ!?」
「む?」
黒鉄は、一瞬だけ後ろの少女を見つめ、
小首をかしげるがすぐに視線を前に向けた。
そして更に右手で少女を庇う黒鉄。
「……貴様か、ここ最近、学園に出没
していると言う変質者は」
「……」
目の前の変質者は、何も答えずただナイフを
抜くだけだ。どうやら戦うつもりらしい。
対して、黒鉄も両手を構え、いつでも殴り
掛かる気だ。
だが……。
「それは認めません。私の判断は
不許可です」
突如として、黒鉄の後ろの林の中から
飛び出した人影が、手にしていた剣で
不審者のナイフを弾き飛ばした。
その人物、と言うのは、金髪の
ロングヘアに、レイピア型のソード・
デバイズを持った少女だった。
『あの剣、汎用機竜とは違う。
まさか神装機竜持ちか?』
不審者を警戒しつつも、黒鉄は新たに
現れた少女の事を観察していた。
「大人しく投降することを許可します。
あなたに拒否権はありませんが」
そう言ってレイピアの切っ先を突き付ける
少女。
だが、不審者は咄嗟に懐から取り出した球を
地面に叩き付け、煙幕を展開すると逃げ出した。
突然の煙幕に咳き込む2人の少女。
黒鉄はその煙の中でも変質者の気配を
追っており、まだ持っていた小石で
変質者の足を狙撃して貫き、動きを封じる
つもりだった。
「ッ!」
しかし、一矢報いる気だったのか、煙の
中から金髪の少女に向かってまだ隠し
持っていたナイフを投げつけてきた。
「ッ!危ないっ!」
咄嗟に、もう1人の少女が彼女を庇って
前に出た。
結果、ナイフが腕を掠り、怪我をしてしまう。
そこに更に、追い打ちで投げ込まれる数本の
ナイフ。
しかし……。
「ぬっ!」
それは黒鉄が自分の腕を盾とする事で
防いで見せた。
数本のナイフが黒鉄の腕に刺さるが、
肝心の黒鉄は意に介した様子も無い。
しかし、今の一瞬で変質者には逃げられて
しまった。
『あの動き、明らかに覗き狙いの素人では
無いな。と言う事は、可能性としては
この国か或いは学園に害意を持つ敵の
密偵、か』
逃げられた事に警戒心と構えを解き、
腕に刺さったナイフを抜いて投げ捨てる黒鉄。
だが……。
「そこのあなた。男性がここで何を
しているのですか?」
次の瞬間、突き付けられたレイピアの切っ先
に黒鉄は瞬時に反応し、彼女と距離を取った。
「あなたは一体何者ですか?私の質問に
答える事を許可します」
「……初対面の相手に剣を突き付けて
許可、か。随分上から目線だな」
相手が少女とは言え、放たれる警戒心に
黒鉄も自然と反応し、拳を構えてしまう。
正に一触即発。下手をすれば一難去って
また一難、な状況になりそうだ。
だが……。
「ま、待って下さい。クロガネさんは、今は
学園に籍を置いている人です。怪しい人
ではありません」
先ほどナイフを受けて怪我をした少女が
そう言って黒鉄を庇った。
「え?男性が、学園にですか?」
「は、はい。共学化に向けたテスト生、
と言う事らしいです。っ」
と、黒鉄を庇っていたが、腕の傷が
痛むのか若干顔をしかめる少女。
「ッ、そうでした。あなたは怪我を。
急いで医務室へ」
そう言って、金髪の少女は黒鉄を放置し、
その少女を連れて医務室へと向かった。
残された黒鉄は、彼女達が去って行くと
ため息をつき、とりあえずレリィの元へと
向かった。
そして、さっきの事を話す黒鉄。
「密偵、ですって?」
「うむ。身のこなしと、投げナイフの
正確な技術、煙幕弾なぞを持つ装備の
良さからして、素人では無い。恐らく
潜入工作の訓練を受けた、正規の軍人
か何かであろう」
「そう。それで?」
「生憎、逃げられてしまった。すまない」
「そう。でもありがと。それにわざわざ
教えにも来てくれて。ホント、色々
忙しいのに」
「気にするな。我が好きで請け負っている
のだ。……ともかく、例の変質者の
正体はどこかの軍人である可能性が
高い。しばらくは警戒をしておいた
方が良いだろう。奴は恐らく、斥候の
類いだろうから……」
「近々、敵が仕掛けて来るかも、って?」
「うむ。用心に越したことは無いからな」
「分かったわ。当面は警戒心を強めておく
よう、衛兵の人達やトライアドの3人、
それとシヴァレスの子達にも伝えておく
わね」
「うむ」
と、それだけを話し、黒鉄が部屋を後にした。
『っと、そうだ。『彼奴』は無事だろうか』
途中である事が気になり、医務室へ向かう
黒鉄。すると、先ほどナイフを受けて怪我
をした少女が廊下で佇んでいた。
「あぁ、そこの」
「はひっ!?」
黒鉄が声を掛けると、少女はびっくりした
様子で振り返った。
「あ、あぁぁぁクロガネさんっ!
こ、こんばんわっ!」
彼女、いや『彼』は、必死に何かを誤魔化そう
としていたのだが……。
黒鉄は周囲を見回して、近くに人の気配が
無い事を確認すると……。
「お主、何をやっているのだ?『ルクス』よ」
「え、えぇっ!?く、クロガネさん、
僕の事分かるんですかっ!?」
名前を呼ばれたルクスは、嬉しいような、
しかし複雑な様子で驚いていた。
その後、場所を黒鉄の部屋に移す2人。
「それで、なぜルクスは女装なぞしているのだ?」
「うっ。実は……」
そう言って、ルクスは黒鉄と同じように見回り
をトライアドの3人から頼まれた事。そして
敢えて変質者をおびき寄せるため、とか
言って3人に面白半分に女装させられた事を
話した。
「全く、あの3人は」
あきれ顔で息をつく黒鉄。
「それにしても、クロガネさんはどうして僕
だって分かったんですか?じ、自慢じゃ
無いですけど、会う人全て僕だって
気づいていませんでしたよ?」
と、どこか男としてのプライドからか、
遠い目で語るルクス。
まぁ、男としてクラスメイトにすら見抜けない
ほど完成度の高い女装をしている事には
色々と複雑だろう。
「ふむ。確かに我もあそこにたどり着いた
直後は首をかしげたが、身長や体つき、
それと腰に下げていたバハムートの
ソードデバイスでもしや、と思い。
後はルクスの気配や匂いで気づいた、
と言う所だ」
「に、臭いってっ!?ぼ、僕臭かった
ですか?」
「む?いやいや、そう言う臭いではないぞ?
臭い云々ではなく、ただ単純に、そうさな。
温かく優しい匂い、とでも言えば良いのか?
そんな匂いをいつもルクスより感じていた。
そして同じ匂いと気配がしたからこそ、
我はお主がルクスだと気づいたのだ」
と、真顔で話す黒鉄だが……。
「そ、そうですか」
『ぼ、僕の匂いって何っ!?いや、
温かく優しい匂いって褒め言葉だと
思うけど、クロガネさんいつも僕の
匂い嗅いでたのっ!?いやいや、
クロガネさんは色々人外だから
意識なんてしてないかもしれないけど、
でも僕の匂いって何っ!?いや、
クロガネさんに褒められたのは嬉しい
けど……。じゃなくてっ!
と言うか、異性に見抜かれなかった女装を
同性のクロガネさんに見抜かれる
なんて……。ちょっと複雑』
ルクスは、顔を赤くし、内心そんな事を
考えながら小さく呟くように頷く事
しか出来なかった。
と、その時。
「にしても、確かにこれでは女性と
言われても信じてしまうかもしれぬな」
そう言って、黒鉄がルクスに手を伸ばし……。
ゆっくりと彼の頭を撫でた。
更に……。
「不謹慎かもしれぬが、よく似合って居るぞ、
ルクス」
「あっ」
頭を撫でられ、優しい声色に褒められたルクス
は、その顔を真っ赤にしていた。
その後。
「そ、そうですかっ!あ、じゃあもう夜も
遅いですしっ!失礼しま~~す!」
そう言ってルクスは逃げるように黒鉄の
部屋を後にした。
そして彼は顔を赤くしたまま自分の部屋に
急いでいた。
『うぅ、なんでクロガネさんに撫でられて
顔赤くしてるんだろ僕。と言うか僕も
クロガネさんも男でしょっ!?男同士
ってそんなのっ!これは一時の気の迷い!
そうっ!きっと女装のせいだっ!
そうに違いないっ!』
と、同性に頭を撫でられ、顔を赤くする
ルクスはそう自分に言い聞かせながら部屋
へと戻った。
そして、ようやく落ち着き、眠りに落ちる
その刹那。
『あ、そう言えば、クロガネさんに
あの人のこと、話しておけば良かった』
と、あの時自分が庇った女性の事、
『セラスティア・ラルグリス』の事を
黒鉄に話しておけば良かった、と考え
ながら静かに眠ってしまうのだった。
翌日。昼。黒鉄は1人教室で、パンをかじり
ながらノートと睨めっこしていた。
ちなみに……。
「……お主は良いのか?キャロルよ」
その隣には、何故かキャロルが座っていた。
黒鉄にしてみれば折角の休み時間なのに、
自分の隣で何やら自分を見ているのが謎
だったのだ。
「何がですか?」
「いや。折角の昼休みなのだから、友人達と
談笑でもしていれば良い物だろうに。
なぜ、我の隣に?生憎、話し相手には
なれそうに無いが?」
「良いんです。私はクロガネさんと一緒に
居たいんです」
「ふむ。まぁお主自身がそう言うのなら、別
に止めんが」
そう言うと、黒鉄は手元のノートに視線を
戻した。今は、代表決定戦が近い事もあって
普段以上にアドバイスや指導を行なっている
黒鉄。今は黒鉄が1人1人に出来るアドバイス
をまとめている所だ。
そして、キャロルはそんな仕事をこなす黒鉄
を横から、頬を赤く染めながら見守っていた。
『クロガネさん。やっぱり、カッコいいなぁ』
ぽ~、っと頬を赤くしながらそんなことを
思って居るキャロル。
初めて出会った時は助けられ、同じクラスと
なって一緒に勉強をしていたはずが、
今では教師と遜色ないことをやってのける。
心技体、全てを兼ね備えた大男。
優しさと強さを兼ね備えたカリスマの塊。
そんな彼にキャロルを始めとした多くの
女生徒達が恋心を寄せ始めているのは、
既に殆どの生徒達が知っている事だ。
と、その時。
「あっ、クロガネさん」
「む?」
不意に掛けられた声に、視線を上げる黒鉄。
見ると隣に、薄い赤色の髪をポニーテール
にした女生徒が立っていた。
胸元のタイの色は青、つまり3年生という訳だ。
で、その3年生というのが……。
「あぁ、マリーナか。我に何か用か?」
『マリーナ・クロックリア』。3年生の1人で、
今の黒鉄の教え子の1人だ。
マリーナはバルゼリットとの戦いの前の、
いけ好かない男性ドラグナイト3人の事件の
後から、黒鉄より剣術の指南を受けている
生徒で、シャリスに次ぐ頻度で黒鉄の指導を
受けている。今では名前を呼ぶ事も許されて
いる間柄だ。
「えぇ。実は、クロガネさんにどうしても
伝えておきたくて」
そう語るマリーナは、どこか申し訳なさそう
な表情をしていた。
「……何があった?」
まさか問題が起きたのか?と考え黒鉄も
表情を引き締めた。
「実は、昨日の夜セリスが帰還したんです」
「えっ!?それって、学園最強って
言われてるセラスティア先輩ですよね?」
マリーナの話しに驚くキャロル。
「セラスティア、と言うと確か、3年生
で学園最強。そして、大の男嫌いという
噂の彼女か?」
「はい。そしてセリスが戻ったことも
あってか、彼女の妹分のような存在
でもあるサニアと言う女生徒が、
男子生徒、つまりクロガネさんと
ルクス君を追い出そうとして周りを
煽っているんです」
「そう、か。……それで3年生の様子は
どうなのだ?」
「正直に言って、半々、ですね。3年生の
中にも、私のようにクロガネさんの指導
を受けている人も多いですから。指導を
通して私もクロガネさんの人となりを
知りましたから。今の所、クロガネさん
の指導を受けた生徒は全員、擁護派と
言って良いかもしれません。ですが、
3年生の中心的存在であるセリスの
発言次第だと、中立的立場の生徒達も
反対派に向かってしまう可能性がある
かもしれません。それに、サニアが
何やら悪い噂を流しているようで。
もちろん私達は信じていないのですが」
「そうか。……ともあれマリーナ。
知らせてくれてありがとう。
すまないな、折角の休み時間に」
そう言って小さく頭を下げる黒鉄。
「い、いえっ。私も普段クロガネさんに
稽古をつけて貰っている身ですし、
これくらいのお礼は当然ですよっ!」
するとマリーナは顔を赤くしながら頷いた。
ちなみ、黒鉄を挟んだ反対側ではキャロルが
面白く為さそうに頬を膨らませていた。
そんな中で黒鉄は……。
『男嫌いの学園最強、か。また波乱の予感
がするのだが』
そんな事を考えながらも、目の前のノートに
集中を戻すのだった。
その翌日。朝。しかも早朝。黒鉄の部屋に
来客があった。ルクスだ。
更に彼からの話、と言うのが……。
「何?ルクスが罠に嵌められそうになった、だと?」
「はい」
そう語るルクス。
彼の話だとこうだ。
昨夜、リーシャの工房にて、彼女やトライアド
の3人やクルルシファー、アイリと共にセリス、
3年生の動向や対策などを話し合っていた
と言う。そんな中、『寮長がルクスを呼んでいる』
と呼ばれ、寮に戻ると、途中で声を掛けられ、
ある生徒の介抱をして欲しいと頼まれたそうだ。
頼まれたので、と言う事で部屋に入って見れば、
そこに居たのはあのセラスティア。
ルクスは何とか、彼女と初めて出会った
日の女装セットを持っていたので、これで
何とか切り抜けたと言う。
しかし部屋を出て待っていたのは、介抱を
頼んだはずの、褐色肌の女性。しかし
それも、様子を見に来ていたクルルシファー
のおかげで事なきを得たと言う。しかも、
彼女が確認したところ、寮長はルクスを
呼んでいない、と言う。
「……成程。ルクスを追い出すだけ、に
してはやる事が些か度を過ぎているな。
これではもはや、排除と言っても
過言では無いだろう」
「そう、ですよね?」
「うむ。しかも悪い事に、誤解とは言え、
その、ルクスには女風呂を覗いた前科が
あるから、であろうな。それは悪い意味
で、ルクスを追い出そうとする動きの
追い風になってしまうかもしれぬ」
「うっ、そうですよね」
声を詰まらせ、俯くルクス。
と、その時だった。
『ドンドンッ!』
部屋のドアが勢いよくノックされた。
「お~いクロっち居るっ!?ルクっち
も探してるんだけど知らないっ!?」
「む?ルクスならここに居るぞ」
外から聞こえるティルファーの声に応える黒鉄。
「えっ!?マジでっ!だったら話しは早いよ!
2人とも急いで来てっ!大変なのっ!」
2人を急かすティルファーの声に、2人は
顔を見合わせた後、すぐに彼女に付いていった。
急ぎ足で駆ける3人。
そんな中で黒鉄は……。
『また、大きな騒ぎにならなければ良いが』
一抹の不安を抱えていたのだった。
第12話 END
って事でセリス編のはじまりです。小説を読んだことの無い人
のためにも色々分かりやすく、簡単にまとめながら書いていく
つもりですので、よろしくお願いします。
感想や評価、お待ちしてます。