最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~   作:ユウキ003

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遅くなりましたが最新話です。


第14話 来訪者

バルゼリットの問題も片付けたルクスたちだったが、そんな中、学園最強と謳われるセリスティア・ラルグリスが演習より戻ってきた。男嫌いで有名なセリスは、ルクスと黒鉄に対して学園から出ていくように迫る。しかしルクスにも理由があるためこれを拒否。結果、近々開催される国別対抗戦の出場者を決める試合、選抜戦を舞台としてセリスとルクス、それぞれの主張を通すために戦いが行われる事に。そして序盤、セリスと当たった黒鉄はこれを撃破するが、黒鉄の特異性などもあって、セリスは今後も試合に出場する事になるのだった。

 

 

1日目の試合が終了した後、教室には多くの生徒達、ルクスと黒鉄のチームの女生徒たちが集まっていた。彼女たちの前の黒板には、今日の試合で得た双方のチームの点数が表示されている。結果としてはセリス率いる3年生チームの方が勝っているが、それでも点数の差は10点も無い。お互い40前後の点数だ。そして、その立役者が黒鉄だった。

 

理由はもちろん、初戦でセリスとサニアのペアをほぼ一方的に蹂躙した事だ。学園最強と言われた彼女を黒鉄は歯牙にもかけず撃破した事で、3年生チームの士気は下がり、逆に1・2年生チームの士気が向上した結果だ。だがそれだけではない。黒鉄はこれまで生徒達の教練を受け持っていた。彼の教えが彼女たちの力となった、と言う訳だ。

 

「皆、初日の奮戦。見事だった。結果として相手側が上を行っているが、それでも十分に競っていると言える状況だ。この点数からしても、この戦いは決して無謀な賭けなどではない。十分に勝率のある戦いだ」

黒鉄は、そう言って女生徒たちを労い、鼓舞するような演説を行った。これはリーシャが味方を鼓舞するために黒鉄に依頼したからだ。

 

その後、黒鉄はルクスたちと集まって話をしていた。

「初戦にしては随分善戦した方だが、ホントに良かったのかクロガネ。あのセリスティアを復活させて。正直、私としては早々に退場させた方が今後のためだと思うのだが」

と、リーシャは難しい顔をしながら黒鉄にそう問いかけた。しかし彼女の言う事は最もだ。あの試合でセリスが以後の試合の出場権を失うのは大きい。相手の士気を下げ、味方の士気を上げる意味でだ。

 

「リーシャの言葉も最もだと我は思う。しかし、この戦いはセリスティア・ラルグリスとルクス、2人のそれぞれの意思を通すための物。当事者同士が戦わずに終わるのは、些か禍根を残すのでは?と考えた結果だ。お互い、後腐れの無い戦いをした方が良いだろうと思ってな」

「むぅ。……まぁ、クロガネがそう言うのなら良いが」

そう語るリーシャだが、やっぱりどこか不満がありそうだった。

 

「案ずるな。この話を勝手に受けた見返り、という訳ではないが我は出られる限り全ての試合に出よう。そして、圧勝する事で皆の士気を高められるように努力するつもりだ」

そう言って、グッと拳を握りしめる黒鉄。そんな彼を前にして、ルクスやリーシャ達は苦笑を浮かべる事しかできないのだった。

 

そして、試合2日目。ほぼ互角の状況だけあって、生徒達は戦う意思を失ってはいなかった。更に1年・2年チームの士気を上げる事があった。それはルクスがワイバーンでサニアを撃破した事だった。サニアはシヴァレスの団員でしかも3年生だ。彼女は射撃を中心とした手数の多さで戦うドラグナイトだった。そのため、防御に比重を置くルクスにとってはやりずらい相手かに思われた。しかしルクスは、リーシャが試作開発し完成させていた、障壁を刀身全体に発生させる特殊なブレードを用いて、相手の攻撃を跳ね返し、更に相手の攻撃の力を利用して相手の武装を破壊する『極撃』と名付けられたカウンター技を駆使してサニアのワイバーンの武装全てを破壊してしまい、サニアは降伏を宣言。更に黒鉄に負けた訳ではないのでサニアは今後の試合の出場権をこれで失う形になった。

 

そこから更に、ルクスは他の2試合もこの極撃を生かして勝利。チームの士気向上にも貢献していた。

 

が、それよりも更にすごかったのが黒鉄だ。

 

今度は2on1。相手はシヴァレスの3年生が2人。どちらもワイバーンを装備していた。対する黒鉄も黒龍を纏って臨戦態勢だ。

 

「それではっ!バトルスタートッ!」

 

と、審判役のライグリィが叫んだ次の瞬間。

 

『ドゴォッ!』

黒龍が地を蹴って砲弾のように飛び出した。突然の突進に2人は対応できない。そして……。

『『ガガッ!』』

黒鉄は左右に並んでいた2人の頭を掴んで……。

『『ドゴォォォンッ!』』

 

そのまま大地に叩きつけた。それだけで2人のワイバーンは地面に半分は埋まってしまう。そして今の一撃だけで、ドラグナイトの女子2人は気絶。それだけで、生徒達の大半は茫然となり、ライグリィも驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

 

『むぅ。……少しやり過ぎたか?』

と、彼が内心戸惑っていると……。

「あっ!しょ、勝者っ!クロガネッ!」

ようやく我に返ったライグリィが勝利を宣言した。黒鉄は、それを聞くと地面に埋もれた2人を回収して、待機していた医療チームのスタッフに引き渡し、悠々と戻って行った。

 

その後も、更にもう1試合黒鉄の試合があったのだが、相手の2人は戦う前から完全に恐慌状態に陥って行った。

『完全にやり過ぎたな、これは』

と、2人の様子を見て黒鉄は内心反省していた。

 

「あ、あぁすまぬが……」

「「ひぃっ!?ごめんなさいごめんなさいっ!降伏しますぅっ!」」

「………」

黒龍フォームの黒鉄が声をかけただけでこの様である。そのため内心黒鉄は、『やはりやり過ぎたかっ!』と、叫んでいたのだった。

 

その後、2日目の試合もつつがなく終了。結果としては両チームの得点差は広がらず、お互いに善戦した形となった。

 

そして翌日。試合は無く休日になっていた。試合は5日間行われるが、連日試合漬けでは皆疲労がたまってしまう。なので間の3日目は休日になっているのだ。

 

そしてその休日。ルクスは1人、女装した姿であるルノに扮してセリスと以前から約束があったデートに行くことに。何故こうなったのかと言うと、以前、ルクスはサニアによって嵌められ、セリスの元に送り込まれた。ルクスはその際、持参していた女装道具一式で上手く場を切り抜けたのだが、この際にセリスとデートの約束をしてしまったと言う。困ったルクスは妹であるアイリやノクトに相談した所、もう一度女装しルノとしてセリスとデートをすることになってしまったのだ。

 

と言う事で休日の朝、セリスと共にルノとして町へ向かうルクス。

 

一方の黒鉄は、休日だと言うのに朝から敷地内で鍛錬に勤しんでいた。するとそこへ。

「休日にも訓練か?クロガネさん」

ラフな格好のシャリスが現れた。

「シャリスか。おはよう」

黒鉄は声を掛けながらも、シャリスの服装に目を向ける。

「そう言うシャリスも、朝からランニングか?」

「あぁ。と言っても、軽い物だけどね」

「そうか」

 

と、話をしていたとき、黒鉄はふと思った。

「シャリスよ。お主はセリスティア・ラルグリスが男嫌いになった理由を聞いたことは無いか?」

「む?どうしてその事を?」

「いや。正直気になってな。ルクスもそうだが、我もあそこまで拒絶されたとなると、相当男という存在に敵対心を持っているのではと疑いたくなってな。何か理由は知らぬか?」

「すまないクロガネさん。私から言える事は、恐らく無い。私も本人から聞いたわけでは無いのでね」

「む?そうなのか?」

「あぁ。彼女の知人から『セリスは幼少期から男が嫌いらしい』という話を聞いただけなんだが……」

「ちょっと待ってくれ。それは本人から聞いた話ではないのか?」

「ん?あぁ、そうだが……」

 

その言葉に黒鉄はため息をついた。

「え?く、クロガネさん?」

「シャリスよ。我も確証がある訳ではないが、本人以外から聞いた事をあまり鵜呑みにするのはどうかと我は思うぞ?」

「それは、分かるが。ではクロガネさんはセリスの男嫌いが嘘だったとでも?」

「いや。これまでの態度から、男に拒否反応を持っている事は間違い無いだろうが、もしかすると、何かの話が間違って伝わったのかもしれぬな」

「間違って、と言うと?」

「うむ。例えば……。男が嫌いなのではなく、苦手だった、とか。噂というのは尾ひれが付きやすい物であるからな。その可能性も0では無かろう」

 

「そ、それは確かにそうかもしれないが。いや、しかしクロガネさん。それでは彼女がルクス君をあそこまで学園から排除しようとする意味が分からない」

「確かに。それもそうだ。……彼女について、色々知りたい所だが、男であり今は敵対している関係もある。聞く事はまず出来んだろう」

「なら、もし良ければ私の方で少し話を聞いてみるが?」

「いや。そこまでする必要は無いシャリス。我が今言った可能性も、所詮可能性の話。シャリスが知人から聞いたと言う男嫌いの噂も、事実である可能性があるのだ。それに、下手に彼女の事を詮索すれば、我やルクスと友人関係にあるお主にいらぬ嫌疑を掛けられかねん。だから良いのだ、シャリス」

 

「そうか。クロガネさんがそう言うのなら。……しかし、セリスはどうしてあそこまでルクス君を学園から排除したがるんだ?仮にクロガネさんの言うとおり男性が嫌い、なのではなく男性が苦手なのだとしたら、少しやり過ぎな気もするが」

「ルクスが旧帝国の王子だから、と言う可能性もある。事実旧帝国時代は男尊女卑が横行していた。その中心であった帝国の王子ともなれば、悪感情を持っても可笑しくは無い」

「むぅ。やはりそうなのだろうか」

と、首をかしげるシャリス。やがて……。

 

「まぁ、ここで我々が考えていても仕方が無い。いずれ真実を彼女に聞くにしても、今は試合に勝つ事を考えなければな」

「そうか。……時にクロガネさん。あなたはどうなのだ?」

「む?と言うと?」

「正直に言えば、私は、いや。私だけじゃない。ティルファーやノクト、それに大勢の生徒達がクロガネさんに、学園に残って貰いたいと思って居るはずだ。だが、聞いた話ではクロガネさんは、ここに残る事の是非を生徒達の意思に任せると言ったそうじゃないか」

 

「確かに。我はあの時、確かにそう言った」

「……だから、かな。私達は不安なんだ」

その時、シャリスは普段見せない不安そうな表情を見せていた。

 

「クロガネさんは元々旅人だ。だから色んな場所を訪れては去ってを繰り返していたかもしれない。……だから、学園に愛着を抱かず、いざとなればすぐに去ってしまいそうで。私達は不安なんだ」

「そうであったか」

 

シャリスの告白を聞いた黒鉄は……。

「すまなかったな。皆を不安にさせてしまった」

そう言ってシャリスの頭を優しく撫ではじめた。そして彼は、まるで父親が娘を心配するような、そんな表情で彼女を見つめる。

 

「だが、安心してくれ。今の我に、学園を去るつもりは無い。確かに、あの時生徒達の総意ならば学園を去ると言った。だが、本心として我はここに残りたいと思っている」

「そう、なのか?」

「無論だ。ルクス、アイリ、学園長たち。そして、ノクト、ティルファー、シャリス。更にはキャロル達と言った、大勢の友人達とここで出会えた事、我は深く感謝している。その出会いを、我は大切にしたいと思って居る。だから、今はここを去るなど考えては居らん」

「そう、か。……正直、その言葉を聞けて安心したよ」

「それは何よりだ」

そう言うと、黒鉄はシャリスの頭を撫でていた手を離す。

 

「本当に、クロガネさんは不思議な人だな。力もそうだが、優しさなども兼ね備えた、本当に不思議な人だ」

「ふふ、良く言われる事だ」

そう言って、2人は笑みを浮かべ合う。それからしばらくして2人は別れ、黒鉄は自分の部屋に戻った後、食堂へと向かった。そこで朝食を取るのだが……。

 

「う~~。疲れた~」

「は~~~。一日でも休みがあるってありがたいわ~」

彼の周囲では、1年生らしき生徒達がため息をついていた。どうやら選抜戦の疲れがたまっているようだ。対して黒鉄は、疲れ知らずのタフネスさもあって別段問題無いのだが……。

 

「ふぅむ」

疲れた様子の彼女達を見て、何かリフレッシュを、と考えていたのだった。

 

 

~~~~

その日のお昼過ぎ。ノクトは部屋で休んでいたのだが、喉が乾いた事もありお茶でも飲もうかと、食堂を訪れた。のだが……。

 

「な、何ですか?これは?」

見ると、食堂の席の殆どが女子生徒で埋め尽くされていた。しかもタイの色からして、1年生をはじめ、2年生、3年生の姿もある。皆、それぞれの席に座りながら談笑し、甘いお菓子を食していた。

『変です。食堂でこんなにお菓子を振る舞うなんて、私は聞いていないのです』

と、内心困惑しているノクト。すると……。

 

「あれ?ノクトも来たの?」

そこに、大量のお菓子を載せたお盆を手にしたティルファーが通り掛かった。

「てぃ、ティルファー……?!これは一体何事ですか……!?」

「え?何ってノクト、知ってて来たんじゃないの?」

「NO。私はお茶を飲みに来たつもりでした。しかし、これは一体?」

「あぁそっか。ほれ、あそこ」

そう言って、視線を向けるティルファーに続いて、ノクトもそちらに目を向けると……。

 

「く、クロガネさん……!?」

食堂の奥の方で、普段着にエプロンとマスク、白い帽子を被った黒鉄が何か作業をしていた。その姿に驚くノクト。

「ど、どうしてクロガネさんが?」

「いや~。私もよく分かんないんだけど、クロっちがね、『疲れてるときは美味しい物を食べてのんびりするのが一番だ』とか言ってたわけ。で、クロっちが食堂の厨房借りて、色々お菓子を作ってるの。……折角だからノクトも食べれば。私も色々おかわりしてきた所なんだ~♪」

そう言うと、ティルファーは空いている席を探しに行ってしまった。

 

1人残されたノクトは、厨房の黒鉄の所へと向かった。

「クロガネさん」

「ん?おぉ、ノクト。お主も来たのか?」

「い、YES。偶々ですが。……しかし、クロガネさんは何を?」

「なに。皆、この二日間の戦いで疲れているようだったのでな。かといって部屋でゴロゴロしているだけ、と言うのも味気ないであろうから、少し菓子の類いを作って振る舞っていたところだ」

そう言うと、黒鉄は出来たお菓子を大きめの皿に盛り付け、皆が取れる位置に置く。

 

「それは?」

「これは『トフィー』。別名『タフィー』とも言う菓子だ。バターと砂糖を加熱して作る、飴のような菓子だな。中にナッツとレーズンを混ぜてある。食してみるか?」

「で、では、いただきます」

 

そう言って、一口サイズに砕かれていたトフィーを手に取り、口に含むノクト。すると……。

 

「あ、甘いです♪」

普段のクールなノクトらしからぬ、蕩けた笑みを見せた。

「そうか。それは何よりだ」

そう言って黒鉄もクツクツと笑みを浮かべる。

 

それからしばらく、ノクトは厨房が見える席でお茶と少しのお菓子を食べながら、黒鉄を見つめていた。やがて、彼女はクロガネの傍に行くと……。

「今更ながら、ですが。クロガネさんは本当に面倒見がいい人ですね」

「ん?そうか?」

突然の言葉に首をかしげる黒鉄。

 

「YES。けれど、どうしてクロガネさんはそこまでするのですか?みんなが疲れているからといって、ここまでする人なんてそうそういません」

「そうか。……まぁ、我も元々面倒見が良かった訳ではない。だが、旅を続ける中で我の力を頼る者たちは多かった。……そんな中でな、何度も見て来たのだ。自分達ではどうする事も出来ない状況で、我に頼るしかない者たちを。……我はそれを、見捨てる事が出来なかった。それから、であろうな。積極的に人を助けるようになったのは」

「そうなんですか」

 

ノクトは静かに黒鉄の背中を見つめていた。

「クロガネさんは、これまでたくさんの人を助けて来たんですね」

「そうなのかもしれんな。まぁ、我自身頼られたから勝手に助けている程度の感覚だ。それに、困っているときはお互い様、という言葉もある事だ」

そう言いながらも黒鉄はお菓子を作りづける。

 

「まぁそれでも……」

「?」

「初めて人助けをした時、涙ながらに喜んでくれた者たちの顔が、忘れられなかったから、かもしれぬな」

「ふふ、そうなんですか」

照れくさそうに語る黒鉄を見つめながら、ノクトも笑みを浮かべていたのだった。

 

 

その後、引き続き菓子を作っていた黒鉄だったが……。

 

『ピクッ』

彼は何かの気配に気づいて眉を顰めるとすぐさま視線を窓の外に向けた。そして手にしていた料理を手近な場所において駆け出そうとしたが……。

 

『ッ。この気配は……』

もう一つ。新たな気配を感じ取ると、彼は踏み出そうとしていた足を止めた。

 

「クロガネさん?どうしました?」

そこに、あの後手伝いを申し出てくれたノクトが声をかけて来た。

「あぁいや。なんでもない」

そう言ってクロガネは彼女の言葉に答えると作業に戻った。その時。

 

「感謝するぞ、モスラ」

 

誰にも聞こえないように、彼は小さくそう呟いたのだった。

 

 

場所は変わり、時間は少しさかのぼる。黒鉄が食堂で生徒達にお菓子をふるまっていた頃、ルクスはルノとしてセリスと街中を歩いていた。最初はセリスがルノ(ルクス)を案内しようとしていたのだが、結局ルノであるルクスが慣れないセリスを案内する事になった。

 

そしてルクスは、彼が密かに発見していた庭園へとセリスを連れてきた。ここは元々貴族の別荘予定地だったが、事情で工事は中止。庭だけが完成し、土地も売りに出されたのだが誰も買い手がいない。なので庭だけが放置されていた。そしてそれを見つけたルクスが、密かに落ち着ける場所として使って居た。

 

そこでルクスは昼食を彼女と取りながら、セリスの話を聞いていた。セリスは貴族として、学園の騎士団長としての使命を重んじている事。

 

セリスは『強者は絶対の孤独の耐える者だ』とか言っていたが、ルクスは初めてセリスを見かけた時、思いっきり野良猫と話をしていた事を思いだし、それを聞いて顔を赤くしたり戸惑うセリス。

 

そんな話をしていたルクスはセリスに対して思った事があった。それは、『彼女は実は不器用で寂しがり屋なのではないか』、と。

 

 

その後、ルクスの隠れ家を離れた2人は町に戻った。しかし、突如として2人の耳に響いた不協和音。セリスは分からなかったが、それはルクスの知る音、アビスを呼ぶ角笛の音だった。そして突如として町中に現れたアビス、獅子の頭、山羊の胴、蛇の尻尾を持つ中型アビス、『キマイラ』。それが平和だった町中の広場に突如として現れた。

 

咄嗟にパニックになる市街地。セリスが咄嗟にリンドヴルムを召喚し、戦おうとした。

 

だが……。

 

『バッ!』

「ッ!?」

その時、ルクスは建物の上から人影がキマイラ目がけて跳躍するのを目撃した。そして、その人影は……。

 

「はぁっ!!!」

 

『ドゴォォォォンッ!』

 

踵落としをキマイラの頭に見舞った。爆音を響かせながら、キマイラの頭が地面のアスファルトを粉砕しながら、その下の土の地面にめり込む。

 

「なっ!?」

突然現れ、人外じみた攻撃をした人影に戸惑うセリス。ルクスも彼女の傍で呆然としていた。そして、その人影がキマイラの頭を蹴って距離を取った時、その体に纏っていたローブが風でめくれ、人物の顔が露わになった。

 

「え!?女性っ!?」

そして現れた女性の顔にルクスは戸惑いを隠せなかった。彼は最初、あの人物を黒鉄と疑った。生身でアビスを撃退出来るなど、黒鉄以外に考えられ無かったからだ。

 

しかし現れたのは、青い瞳に鮮やかなオレンジ色の髪を持った女性だった。その女性は、近くで倒れていた子供へと歩み寄り、その子に手を差し出した。

「君、大丈夫?」

「う、うん。ありがとうお姉ちゃんっ」

「いいえ。さぁ、ここは危ないですから離れて下さいね」

「うんっ」

 

彼女に促され、広場を離れる少年。と、その時。

≪ギィィエァァァァァァッ!!≫

 

頭部を粉砕されたはずのキマイラが再び起き上がり、女性に襲いかかった。

「危ないっ!」

咄嗟に叫ぶルクス。が、しかし……。

「あら?頭を砕いたはずなのですが……」

女性はキョトンと首をかしげながらも、襲いかかるキマイラの前足を掴んで……。

 

『ドゴォォォォォォォンッ!!!』

 

背負い投げのようにしてキマイラを背中から道ばたに叩き付けてしまった。

 

「あっ、なっ……!?」

まさかの事態に開いた口が塞がらないルクス。どう見ても、あんな事が出来るのは黒鉄だけと考えていたルクスにとって、第2の黒鉄とも言える女性の登場は驚愕以外の何者でもなかった。更に……。

 

「念のためっ!」

『ボキッ!』

 

そう言って女性は掴んだままのキマイラの前足を1本、へし折った。

≪ギィィエェェアァァァァァァァァッ!?!?!?!?≫

途端に悲鳴を上げ暴れるキマイラ。女性はそこから飛び退き、偶々ルクス達の近くに着地した。

 

「ほっ、っと」

「ッ、貴女、何者ですか!?」

するとセリスは咄嗟に女性にソード・デバイスを突き付けた。

「え?私、ですか?う~ん、旅人、で良いと思いますけど?」

「ふ、普通の旅人は素手でアビスを殴ったりしませんっ!」

 

至極真っ当な意見を述べるセリス。と、その時。

 

≪ギィィィッ!!!≫

へし折られたはずの足を元に戻しながらキマイラが立ち上がった。

「ッ!?ありえません、キマイラにあのような再生能力がある訳が」

セリスの言うとおり、キマイラにそこまでの回復能力は無い。

 

「ふむ。となると何者かに強化を施されている可能性がありますね」

冷静に分析する女性。すると再びキマイラが女性に向かってくる。

 

「き、来ますっ!」

叫ぶルクス。しかし女性は落ち着いた様子で、独特な構えを取る。

「スゥ、ハァ」

 

そして呼吸を整える。向かってくるキマイラ。後数秒で激突する。そう思われた直後。

 

『ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!!』

 

女性の踏み込みから放たれた一撃、正拳突きがキマイラの顔面を捉えた。人並み外れた腕力から繰り出された一撃。その衝撃はキマイラの頭を粉砕し、肉体の中を伝いアビスの心臓であるコアをも粉砕してしまった。頭の無くなったキマイラがその場に崩れ落ち、最後は体が謎の発火現象を起こし、黒い灰となって燃え尽きてしまった。

 

「ふぅ。まさかちょっと寄っただけでアビスに遭遇するとは。私も運が無いのでしょうか」

そう言って首をかしげる女性。

「でもまぁ無事討伐出来ましたし」

女性はそう言って笑みを浮かべるとその場を後にしようとしたが……。

 

「待ちなさいっ」

セリスが彼女の眼前に立ち塞がった。

「あなたは、何者ですか?ただの旅人が素手でアビスを討伐出来る訳がありません」

「う~ん。それはまぁ確かにその通りなんですが、私に関しては人間の常識の外側に居る、と思っていただければ良いので」

「そんな返事で納得出来るとでも?」

「出来る出来ないはともかく、納得していただかないと……。あら?」

 

しかし女性は、何かに気づいた様子でルクス、つまりルノを見つめる。

『じ~~~~~~』

顔を近づけ、そんな擬音が聞こえてきそうな目でルノを見つめる女性。

「な、何でしょうか?」

『近い近いっ!顔が近いっ!なんでっ!?』

と、内心テンパるルクス。すると……。

 

『スンスンッ』

何と女性はルクスの匂いを嗅ぎ始めたではないか。

「なぁっ!?」

「なっ!?は、破廉恥なっ!何をしているんですかっ!」

突然の事に顔を赤くするルクスとセリス。すると……。

 

「あぁ、やっぱり王様の匂いですね。もしかしてと思いましたけど、あなたから王様の匂いがしました」

「お、王様?」

何かにうっとりしたような表情の女性に対して、首をかしげるルクス。

 

「はい♪王様は王様です。えっと、確か今は黒鉄と名乗っているはずですが……」

「えっ?!黒鉄さんの事、知ってるんですかっ!?」

思わぬ名前に戸惑うルクス。

「はい、それはもう。何せ私が唯一の王と認める相手ですから」

 

そう言って、うっとりした様子で語る女性。すると……。

「って、私を無視しないで下さいっ!」

涙目で声を掛けるセリス。どうやらルノ(ルクス)と親しそうに話をしつつ無視されているのが寂しかったのだろう。

 

「もう一度聞きます、あなたは何者ですかっ!?」

「う~ん。……見たところ王様も、なぜ自分が王なのか告げていない様子ですし。であれば私があなた達に素性を話すわけには参りませんね。ではっ!」

 

そう言うと、女性は一瞬で建物の上に飛び上がる。そして女性は2人を一瞥すると常人離れした脚力でどこかへと去って行ってしまった。

 

結局、2人は呆然とそれを見送る事しか出来ないのだった。

 

 

その後、日も暮れてきたので学園に戻る2人。しかしその道中、2人の頭からあの女性の姿が消える事は無かった。

 

「あの女性、黒鉄というあの男性の知り合いのようでしたが。彼に説明を求めるべきか」

そう呟くセリスの横顔を見守るルクス。その表情は、戸惑っているようにも見えた。

 

「あの、セリス先輩はやっぱり男性が苦手なんですか?」

「え?」

「何というか、黒鉄さんの所へ行くのを迷ってる感じでしたから」

「ッ。こ、これはその……」

指摘され、しばし迷った様子のセリス。ルクスが『どうしたんだろう?』と首をかしげていると、セリスは話し始めた。

 

「実はその、私は男嫌いなどではないのです」

「えっ!?で、でも学園では黒鉄さん達に挑戦的な態度だって聞きましたけど……」

「うっ。そ、それはその。……恥ずかしいのですが、私は歳の近い男性にどういった態度を取って良いのか分からず。それにシヴァレスの団長として威厳のある態度で接するべきかと思ってしまって。それに、以前から周囲に男性が苦手だと言っていたら、いつの間にか男性嫌いの噂が広まってしまって。……本当は男性に憧れと興味があるのですが、今更そんな事も言えなくなってしまいましたし」

頬を赤く染めながら説明するセリスにルクスが思った事は1つ。

 

『この人、不器用過ぎではっ!?』だった。

 

「以外でした。セリス先輩って、男性に興味とかあったんですね」

「えぇ。お恥ずかしながら。…………でも、今は男性に恋心を抱くことは出来ません」

「え?」

「今の私はラルグリス家の長女でありシヴァレスの団長。だからこそ、私は誰かを頼る事は出来ません。甘えることは出来ません。それは男性であろうと女性であろうと同じ事です。……もう、二度と失敗しないために私は、立ち止まるわけにはいかないのです」

『失敗、って?』

 

ルクスは彼女の言う失敗が気になった。しかし、彼にその事を問いかける事は出来なかった。だから話題を変えようとしたルクスだったが……。

 

「セリス先輩って、憧れの人とか居るんですか?」

「憧れの人、ですか?」

「は、はい。セリス先輩ほどの人が憧れる人って居るのかな~って」

咄嗟にそんな話題を振るルクス。すると……。

 

「えぇ。居ます。いえ、居ましたと言うべきですか」

「あっ。すみません、もしかして……」

過去形である事から命を落としている事を考えたルクスは咄嗟に謝る。

 

「いえ。気にしないで下さい。私が憧れていたのは、『ウェイド・ロードベルト』先生です」

「えっ?」

 

セリスの口から語られた言葉に、ルクスは息を呑んだ。

 

なぜならその名は、ウェイド・ロードベルトはルクスの母方の祖父なのだ。そして、ルクス達が宮廷から追いやる原因を作った存在だった。

 

何故セリスからその名が出るのか。ルクスにその理由を知る由は無かった。

 

今は、まだ。

 

セリスの事やウェイドの事、突如現れたアビスと女性。様々な事が絡み合う中、悪意の足音がクロスフィードに迫っていた。

 

     第15話 END

 




感想や評価、お待ちしてます。あと、登場した女性は大体の人が分かってると思いますが、擬人化した『ドハモス』です。

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