最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
休息日も終わり、四日目と来て、迎えた選抜戦最終日の5日目。だが、セリスとルクスの試合の最中、敵が来襲した。ドラグナイトの部隊に、ラグナレクの一匹、ポセイドンの襲来。アカデミーは瞬く間に混乱に陥るが、黒鉄やルクス、セリスやリーシャ達の活躍もあって、何とか敵を退けたのだった。
戦いで半壊した演習場。そこに佇んでいた黒鉄は、敵将であるヘイズとスパイのサニアが逃げたのを確認すると、息をついて黒龍から人型へと戻った。
「……ヘイズ。貴様の名、しかと覚えたぞ。次、会ったときは貴様の柔首、この手でへし折ってくれる……っ!」
ヘイズへの敵意と殺意を滲ませながら、黒鉄は空を見上げる。
するとそこへ、同じく機竜を解除したルクスやリーシャ、クルルシファー、そしてセリスが歩み寄ってくる。
「クロガネさん」
「ルクス、それにリーシャ達も」
そしてルクス達が声を掛けてくると、黒鉄も気持ちを切り替えた。
「皆、怪我は無いか?」
「はい。少なくとも、大きな怪我は」
彼の問いに、4人を代表するようにルクスが答えた。
「それよりクロガネ、さっきの姿は何だ?お前真っ赤になっていたが」
「あぁ、あれは一時的な力の解放、パワーアップと言った所か。体への負担があるので長時間は使えぬが、あれの時はあらゆる物を焼き尽くす事が出来る」
「成程。……しかし、ラグナレクを消し去るとはな。お前はやっぱり色々規格外だよ」
そう言って苦笑するリーシャ。
「褒め言葉として受け取っておこう」
対して黒鉄も、笑みを浮かべながらそう返した。
その時。
「…………」
「あ、え、えっと」
セリスがジト目でルクスを見つめていた。
「不満です」
「え?」
「私を恨んでないと言ってくれたのは感謝していますが、まさかあなたがルノだったなんて。とても不満です」
「ご、ごめんなさいっ!でもあれは欺そうとした訳じゃなくてっ!事故と偶然が重なっただけと言うか、何というかっ!」
「なぁ黒鉄、ルノって何のことだ?」
話を聞いていたリーシャが黒鉄に問いかけるが……。
「う、うぅんまぁその、何だ。ルクスの尊厳に関わる事、だろうな」
「???」
流石に本人の承諾も無しにはバラせない、と思ったようで曖昧にぼかした。
「私、あなたに恥ずかしいところをいっぱい見られてしまいました。許せません。悔しいです。卑怯です。ズルいです。とっても不満です」
「ごめんなさいっ!ぼ、僕に出来る事だったら何でもしますからっ!」
「何でも、ですか?」
「は、はいっ!」
何を命令されるんだろう、と表情を強ばらせるルクス。すると……。
「じゃあ、あなたが私に教えて下さい」
「え?な、何を、ですか?」
ルクスが問いかけると、セリスはこれまでとは違う、自然な笑みを浮かべながら答えた。
「私は、人を頼る事を知りません。貴族としての立ち振る舞いも未熟です。それに、私は男の人との付き合い方も、どう接して良いのかも良く分かりません。だから、かつてあなたのお祖父様、ウェイド先生が教えてくれたように。あなたが私に教えて下さい。色々な事を」
「教えるって事は、もしかして……」
「はい。四大貴族、ラルグリス家の名の下に、ルクス・アーカディア。あなたがアカデミーに残る事、またシヴァレスに入団する事を許可します。それと……」
セリスは、そう言って黒鉄の方にも目を向けた。
「あなたもです。黒鉄」
「む?我もか」
「はい。今回の戦い、あなたがいなければ今よりももっと被害が出ていたでしょう。それに、知り合いから休息日に皆へお菓子を振る舞っていた事も聞きました。何でも、皆のためだとか」
「あぁ。皆、疲れた様子だったのでな。労いと言う事で菓子を作って振る舞った」
「そうやって皆の事を考えてくれた男性です。少女達に酷い事はしない方だと考えます。それに何より、ラグナレクから学園を守って下さいましたから」
「では、我もここに残って良いのだな?」
「はい。彼と同じように、我がラルグリス家の名の下に許可します」
こうして、ルクスと黒鉄はアカデミーに残れる事になった。
「良かったなぁルクスゥ!」
「わわっ!」
すぐさまリーシャがルクスに抱きつき、彼の首元に手を回した。
「おめでとう、ルクス君。これでこれからも一緒ね」
更にクルルシファーも彼の傍に歩み寄る。
「そ、それでその、早速あなたに命令があります」
「え?」
「その、ルノを通して知った事は全部、秘密にしてください。機密です。最重要機密です。バラしたら許しませんから」
「は、はい」
「おいルクス?なんだその秘密って。機密って何だ?お前、何を知ってるんだ?」
「え、えっとごめんなさい。それはリーシャ様でも教えられません」
「む~~」
教えられない、と聞いて頬を膨らませるリーシャ。
が、しかし。
「でも、あんな感じのセリス先輩の事、皆も知ったら先輩の事可愛いって思うかもしれませんよ?」
「ッ、か、可愛いとはどう言う意味ですかルクス・アーカディアッ!?」
「そ、それはセリス先輩の事です、けど」
「ッ、わ、私が、可愛い?そんなこと、男性から初めて言われました」
ルクスの言葉にポッと頬を赤く染めるセリス。だが、肝心のルクスは……。
「ル~ク~ス~!」
「い、痛いですリーシャ様っ!?えっ!?な、何ですかっ!?」
ギリギリとリーシャがルクスの頭にヘッドロックを掛けている。
「……」
『ムギュッ!!』
「い、痛いっ!く、クルルシファーさんまでっ!?」
ムスッとした表情でルクスの脇腹をつねるクルルシファー。
顔の赤いセリス、ムスッとした表情のリーシャとクルルシファー。困惑し涙目のルクス。それを見ながら黒鉄は……。
「やれやれ」
ため息を漏らしながらも、笑みを浮かべているのだった。
こうして、学園を襲った危機は去ったのだった。
その後、バハムートを使った事や連戦の疲れもあり、ルクス達はレリィによって自室で休むように言われたのだった。
ちなみに、黒鉄はと言うと……。
「ほっほっほっ」
戦いが終わったその日のうちに、瓦礫の撤去作業を1人でやっていた。
「え~っと、クロガネ君も休んで良いのよ?」
その作業現場にやってきたレリィはそう言って苦笑を浮かべている。
「大丈夫だ。我の体力はまだまだ残っておる。とりあえず、今日中に瓦礫の撤去を出来るだけやっておくつもりだ。瓦礫があったままでは復旧作業も出来ないであろうからな。瓦礫を集めるだけなら、楽な物、だっ」
そう言って成人男性数人分の大きさはある巨岩を片手で持ち上げる黒鉄。
「あ、あはは」
そんな馬鹿力とバカみたいな体力に、レリィは苦笑する事しか出来ないのだった。
それから、黒鉄は夜になるまで1人、瓦礫の撤去作業をしていた。
「ふぅ」
その後、黒鉄は軽く夕食を済ませ、風呂で汗などを流すと部屋に戻ろうとしたのだが……。
「ん?」
ふと廊下を歩いていると、自分の部屋の前に寝間着姿の大勢の女子が集まっている事に気づいた。そこに近づいていく黒鉄。
「皆、どうしたのだこんな時間に?」
「あっ!クロガネさんっ!」
「こんな夜更けに、我に用か?それもこんな大勢で」
「じ、実は……」
彼女は、何かを言おうとした。だが、直後にブルブルと震えだしてしまう。更に顔色も悪い。が、よく見るとそれは彼女達だけではない。他の面々の大半が、何かに怯えてるように震えながら枕を抱きしめたりしていた。
『そう言う事か』
その姿を見て、彼は察した。
彼女達は昼間、ラグナレクやドラグナイト部隊に襲われたのだ。しかも、男のドラグナイトの中には、黒鉄が粉砕したような、下心丸見えの下卑た悪意を見せる者もいた。
何より、ラグナレクのような強大な存在を前にして、年頃の、実戦経験の無い少女達が怯えるな、とは無理な話だ。
それに気づいた黒鉄は……。
「皆、眠れぬのだな?」
「はい」
「……部屋を暗くすると、昼間の事とか、思い出しちゃって」
「それで私達、眠れなくてどうすれば良いか、分からなくて」
「そうか」
彼女達の話を聞き、どうしたもんかと考える黒鉄。すると……。
「あの」
1人の少女が黒鉄の服を掴んだ。
「……迷惑だったら、ごめんなさい。でも、クロガネさん、強いから。傍にいて、欲しいんです」
彼女は、縋るような弱々しい声でそういった。だが彼女以外の他の女子達も、同じような表情をしている。それを前にして黒鉄は……。
「……レリィ学園長に少し聞いてくる。しばし待っててくれ」
そう言って一度レリィの所へ向かった黒鉄。で、どうなったかと言うと。
黒鉄はレリィの許可を貰い、校舎の中にある、集会用の大広間を借りた。そこに無数の布団と毛布を運び込んで広げ、並べる黒鉄。更に先ほどの少女達もそれを手伝っていたのだが。
気がつけばこの話を聞きつけた他の生徒達。更にキャロルや彼女の友人、更に3年生のマリーナといった、比較的彼と親しい生徒達まで集まってきたではないか。
「いや、マリーナは3年なのだからここに来る必要は無いのでは?」
「良いじゃ無いですか、別に。幸いスペースもある事ですし」
「むぅ、それはそうだが」
まぁしかし、彼女の言うとおりスペースは余っているので問題も無かった。
「随分人が集まったものだが、まぁ良いか。では皆、それぞれ好きな所で寝てくれ」
と、黒鉄は言うのだが、皆何やらその場から動こうとしない。
「む?どうした?」
「あ、あの、クロガネさんってどこで寝ますか?」
「む?」
何故そんな事を聞くのだろう。と彼は内心首をかしげていた。
「で、出来ればその、クロガネさんの傍が良いなって、思って」
「……そう言う事か。ならば、我は真ん中に寝るとするか」
そう言うと、黒鉄が中央辺りの布団の上に座り込む。すると、そそくさと女生徒達が彼の傍にやってきては腰を下ろしていく。
「とにかく、今日は色々な事があった。皆が寝るまで我は起きているから、皆、安心してゆっくり休め」
「はい」
「分かりました」
次々と少女達は毛布にくるまり眠りに付こうとしたのだが……。
「「「「「「ね、寝れない」」」」」」
彼女達は、周囲の人の気配、つまり他の女子達の気配の多さで中々寝付けなかったのだ。
そんな中だった。
「皆、寝付けぬのか」
それに気づいた様子の黒鉄。
「せめて何かしてやれれば良いのだがな。皆、何かして欲しい事は無いか?」
「「「「して欲しい、事?」」」」
異口同音を漏らしながら首をかしげる彼女達。
すると……。
「あ、あのっ!」
キャロルが黒鉄に声を掛けた。
「ん?どうしたキャロル」
「も、もし良かったら、クロガネさんに、そ、そそ、添い寝、して欲しいですっ!」
「「「「「「えぇぇぇっ!?!?」」」」」」
「ふむ?」
女子達が驚く中で、黒鉄は頷いたような、しかし首をかしげたような返事を返してしまう。
「聞きたいのだが、我のような男と添い寝などしたいのか?こんなガタイの良い筋肉質な男と?」
「そ、それでも良いですっ!」
「……そう、か。まぁキャロル自身がそれで眠れるのなら、別に構わんが」
「「「「「良いんだっ!?」」」」」
と、2人の傍で何度も愕然とする女子達。
「ならばほれ。近くへ来いキャロル。それとも我がそちらに行くか?」
「い、いえっ!い、今、行きますっ!」
そう言うと、イソイソと布団の上で胡座を掻く黒鉄の傍に来て、体を布団の上に倒すキャロル。
すると、黒鉄が彼女の横に体を倒す。更に黒鉄は、その大きな手で優しくキャロルの頭を撫でるのだった。
「はぅ」
キャロルは可愛らしい悲鳴を漏らしながらも頬を赤らめている。
「「「「「う~~~~っ!」」」」」
そして、そのすぐ傍で大勢の女子達が悔しそうな、羨ましそうな表情を浮かべていた。
と、そんな事をしていた時だった。
「クロガネさん」
マリーナがキャロルとは反対側に腰を下ろした。
「ん?」
「一つ、聞いて良いですか?」
「何だ?」
「クロガネさんは昼間にラグナレクを倒す程の活躍をしましたよね。正直、この事が新王国のお歴々に知れたら、是が非でも我が国に協力して貰うと、躍起になりますよ?」
「……そうだろうな」
「もし、そうなったらクロガネさんはどうしますか?」
「どう言う意味だ?」
「今よりも良い生活。用意出来るだけの贅沢を与えられたら。……クロガネさんは、ここを出て行ってしまいますか?」
「「「「「っ」」」」」
マリーナはそれまで普通に会話をしていた。だが最後だけは、どこか寂しそうな声で彼に問いかけた。そして、周囲の少女達も、その意味を理解して息を呑んだ。
単独でラグナレクを圧倒する存在。それを自国の兵士、或いは協力者に出来れば各国のパワーバランスに大きく影響する。当然、未だに問題も多い新王国にとって、是が非でも黒鉄を味方にしておきたいのは、当然の結果だろう。
そうなれば、新王国はあの手この手で黒鉄を引き留めようとする。となれば、アカデミーを黒鉄が出て行くかもしれない。それが彼女達にとって不安だったのだ。
すると、黒鉄は……。
「愚問だな、マリーナ」
「あっ」
そう言って笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でる黒鉄。頬を赤く染めるマリーナ。
「安心しろ。今の所、どれだけ金や物を積まれようとアカデミーを去るつもりなどない」
「本当、ですか?」
「もちろんだ。元々物欲や金銭欲はあまりない。そこそこ美味い食事や生活に困らない程度の金で各地を旅してきた身だ。豪遊や贅沢にも大して興味など無い。……生憎、我の心はそんな物で満たされる事は無い。むしろ、そんなので満足すると思われている方がよっぽど腹立たしい」
「じゃあ、クロガネさんはまだまだ、アカデミーに居てくれますか!?」
声を荒らげて問いかけるキャロル。
「無論だ。と言うか、一応我は士官候補生の扱いだからな。許可も無くここを離れるのは不味かろう?それに、折角セリスティア・ラルグリスに学園に居る許可を貰ったのだ。ここで出て行ってしまっては、それも無駄というものだ」
「そ、そうなんだ」
「良かった~」
彼の言葉に少女達は安堵した様子だった。と、ここで黒鉄が更に追撃をする事になった。
「それに、皆のことを頼むと、我はあの日レリィ学園長に頼まれたのだ」
「「あっ」」
そう言って、黒鉄は傍に居たキャロルとマリーナを抱き寄せる。彼の大柄な体に手を突く2人。
「例え、ラグナレクが立ちはだかろうと、守ってみせるだけだ。皆、このアカデミーで出会った大切な友人、友たちだ。例え何があろうと、何と戦おうとも、必ずこの命に替えても守ってみせる。それだけの事だ」
それは、実際にラグナレクを撃ち倒したからこその言葉だった。
何を敵としても、大切な存在を守る為に命がけで戦う。それが黒鉄の意思であった。
そして……。
「「「「「「「っっ!!」」」」」」」」
少女達はその、力強くも甘く優しい言葉に赤面していた。彼女達の心臓が高鳴る。
「ふふっ、その言葉を聞けて嬉しいです、クロガネさん」
マリーナも、顔を赤くしながら笑みを浮かべている。
「うむ。だからこそ、皆ゆっくり休め。このアカデミーは我が何が何でも守り抜く故、安心して眠ると良い」
「は、はひっ!」
顔を赤くし素っ頓狂な返事を返すキャロル。ただまぁ……。
『『『『『やっぱり眠れない……っ!』』』』』
彼女達はドキドキが収まらず、やっぱり寝られなかった。
しかし、試合など色々あって疲れ切っていた事もあり、1人、また1人と小さく寝息を立てていく。やがて全員が眠りに付いたのを確認すると、黒鉄も静かに眠りに付くのだった。
翌朝。一番で目覚めたのは黒鉄だった。隣のキャロルと、いつの間にか隣で寝ていたマリーナを起こさないように静かに立ち上がる黒鉄。
周囲を見回すが、皆疲れているのか今もよく眠っている。それを確認した黒鉄は、寝ていた場所にメモを残すと静かに部屋を出て行った。
一度部屋に戻り、身だしなみを整えてから着替えて、次に向かったのは学園長室だ。たまたま遭遇したラグリィからレリィの居場所を聞いて、そこだったためだ。
「失礼する」
「あら?おはようクロガネ君。どうかしたの?」
「朝早くに済まなぬ。そちらは、徹夜明けか?」
「えぇ。昨日の後処理とか、色々ね。それで、どうしたの?」
「実は、昨日の事で少し、話したい事があってな」
そう言って真剣な表情を浮かべる黒鉄。すると、レリィは手にしていたペンを置いた。
「……それで?」
彼女もまた、真剣な表情で問いかけた。
「今回の襲撃の首謀者、ヘイブルグ共和国の手の者らしいな?先ほど、すれ違ったライグリィ教官から聞いた」
「えぇ。報告によるとね。あの、ヘイズと名乗った人物が叫んでいたそうよ。サニア・ウェストがスパイである事、自分がヘイブルグの軍師で、彼女を送り込んだ事。自慢げに、セリスティアさんとサニア・ウェストが戦ってる時に、ね。最も、名前を出したのは余裕からだったみたいね」
「と言うと?」
「あの不思議な機竜とラグナレクがあれば、名前を聞いた者が生きて帰れる訳がないって。そう、ヘイズとサニア・ウェストが会話していたのをルクス君達が聞いてたのよ」
「……そう言う事か」
不機嫌そうな表情で、ふんっ、と吐き捨てる黒鉄。彼の中ではヘイズに対する怒りが今も渦巻いている。
「最も、それもルクス君とクロガネ君の力で阻止されたんだけどね」
「奴の好きにさせるのは癪だ。あのような下郎、次会ったら確実に息の根を止めてくれる……っ!」
怒りの炎を燃やす黒鉄。すると、レリィは少し戸惑った様子だった。
「む?どうした?」
それに気づいて問いかける黒鉄。
「あっ、ごめんなさい。クロガネ君がそこまで怒ってるの、あんまり見た事無かったから、ついね」
「そうか。……しかし、我にだって感情はある。それに、ここは大切な友たちが居る場所。それに手を出されて冷静で居られる程、我は我慢強くは無い。今言ったように、次会ったならば、二度とこんな事が出来ぬように確実に息の根を止めてくれるわ」
「そ、そう」
珍しく殺気を滲ませる彼に、レリィは苦笑を浮かべる事しか出来なかった。
「んんっ、それで、どうしてクロガネ君はここへ?」
「あぁ。そうだった。実はあのヘイズの去り際の言葉が気になってな。その辺りは……」
「えぇ。リーシャさんやクルルシファーさん達から聞いてるわ。クロガネ君とルクス君、目を付けられてしまったようね?」
「あぁ。そして、そうなると再び我らがいるアカデミーを狙って来る可能性がある」
「……そうね」
再びここが危険に陥るかもしれないと言う言葉に、彼女は難しい表情を浮かべた。
「そうなれば戦力の増強や防衛設備の拡充などを考えるべきだろうが、現代の戦闘の主力は機竜だ。が、それもルインからの発掘以外、まともな入手手段が無い」
「そうね。機竜はそう簡単に替えが効かないから。リーシャさんも色々研究して、成果を上げてはいるんだけど、新王国どころかまだどの国でも、機竜の生産は出来ていないのが現状よね」
「最低限、各自が自衛を出来るレベルまで鍛える事は可能だが、機竜も無しに機竜相手に自衛など出来る訳がない」
「えぇ。そんなのが出来るのは今の所クロガネ君だけ」
「仮に敵が来襲したのなら我は戦うつもりだが、数が多く、多角的に攻められると対応しきれない場合がある。そうなった場合を考えると、ますます機竜が必要だ。それも何十どころではない。何百、何千とだ」
「彼女達の事を考えれば、確かにそれくらいは用意してあげたいけど。でも、今のこの世界でそんな数の機竜を用意するなんて無理よ。ルイン内部からだってそんなに発掘出来ないし。出来たとしてもまず国の防衛力として回されるわ。こっちに少しでも流れてくれば御の字でしょうね」
機竜は欲しいが、簡単に手に入る物でも無い。……『普通』なら。
「なので、少しだけ外出の許可が欲しい。『住処のルイン』で機竜を『数千機ほど』、『用立ててくる』」
「そうね。それが出来るのならお願い。………………………ん?………………へっ!?」
会話をしていたはずのレリィ。しかし、徹夜のせいか、クロガネの言っている『突拍子も無い事』を理解するのに、少し時間が掛かった。
「分かった。では失礼する。今日中には戻ってくるので、皆に聞かれたら伝えておいて……」
「ちょちょちょちょちょtっ!ちょっと待ってっ!!!」
出て行こうとする黒鉄を慌てて呼び止めるレリィ。
「く、クロガネ君っ!?今サラッとお願いしちゃったけど、何か凄い事ポンポン言ってなかったっ!?」
さっきまでのシリアスはどこへやら。レリィは驚いた顔で黒鉄に詰め寄った。
「住処のルインってっ!?数千機の機竜ってっ!?それに用立ててくるってっ!?そんなお野菜を買ってくるみたいなノリでっ!?お願い説明してっ!?」
「ふぅむ。なぜ、と言われてもなぁ。我の住処はルインで、そこに機竜の生産設備があるから、としか言えんなぁ」
「えぇっ!?クロガネ君、家がルインなのっ!?で、でもクロガネ君は世界中を何年も旅してるってっ!?」
「そうだ。しかし、我とは別にルインを管理する者がいてな。ルインの管理は全て彼の者に一任している」
「そうなのっ!?って、でもルインじゃっ!?危ないんじゃないのっ!?世界で発見されてるルインは各国軍の監視下にあるから、下手に近づいたら危ないんじゃっ!?」
「ん?何を言っている学園長。我の住むルインは未だ人間には発見されておらぬぞ?」
「えぇっ!?どうしてっ!?」
「どうして、と言われてもなぁ。ルインには人の目に見えないように『偽装鏡面』と言って姿を隠すシステムがある。それのおかげで『地上から』人間がそのルインを見る事は出来ぬ」
「そ、そうなの?…………って待って。今、地上から、って言った?それってもしかして……」
「うむ。我の住処たるルイン、本来のルインの役目とは全く異なる≪
「えぇぇ……?」
まさかの話に戸惑うばかりのレリィ。それからしばし、彼女は頭を抱えた。が……。
「うん、分かった。……確かにこれから先、何があるか分からない以上、機竜は一機でも多い方が良い。でも、これだけは言わせて。そんな数の機竜をここに持ち込んだら、確実に新王国上層部にばれる。下手をしたら、四大貴族が君を取り合うかもしれない。ただでさえ単独でラグナレクを討伐出来るのに、加えてルインという居城を持ってるなんてっ!あぁそうだ、聞きたいんだけど、そのルインって、ちゃんと機能してるの?」
「うむ。数十年前に帰ったときは、管理者の管理が行き届いているので、特に問題もなかった。数千年前から修復を繰り返しているし、あれから数十年で問題が出たとも思えぬな。問題があれば主である我の元に何らかの形でメッセージが来るようになっていたはずだが、それも無い。……少なくとも各地の劣化したルインよりはしっかりしているであろう」
「それじゃあますます皆クロガネ君を欲しがるわ。完全なルインなんて発見されてないから、文字通り宝の山だもの」
完全な形で、しかも機竜の製造プラントが生きている。そしてその主が黒鉄だ。そんな黒鉄を味方に付けることは、世界のパワーバランスを大きく変えられる事になる。
レリィはそんな黒鉄の存在を味方として心強く思う反面、戸惑っていた。下手をすれば彼自身が火種になりかねないからだ。そしてその不安を黒鉄は見抜いていた。
だからこそ……。
「心配するな、レリィ学園長」
「え?」
「我が機竜を与えるのあくまでもアカデミーの防衛や生徒達の安全のためだ。確かに我は今、新王国のアカデミーに籍を置いている。が、だからといって新王国の命令に従うつもりはない。奴らが何かをしてくると言うのならはね除ける。アカデミーの生徒に手を出そうと言うのなら潰す。それだけだ」
「……国家を敵に回す、って事?」
「我はそれも辞さない。ここで出来た友を守る為ならばな」
黒鉄は確固たる様子で頷く。それを前にしたレリィは……。
「ハァ」
ため息をついた。実際、黒鉄の場合は相手が国家だろうが敵と判断すれば、徹底的に叩き潰すだろうと分かってしまうからだ。となると、祖国がバカな事をしようように、自分が折衷役になるしかないのか、なんて考えてしまうレリィだった。
「じゃあクロガネ君。もし、もしもよ?私を通して新王国が機竜を買いたいって言って、それが今後クロガネ君やアカデミーの皆に何もしないって条件だったら、呑める?」
「ふぅむ。まぁそれくらいならば致し方あるまい。それでアカデミーの皆の安全が守られるのなら良かろう」
その言葉にレリィは安堵した。
「OK、その答えが聞けたから少し安心出来たわ。機竜が供給されれば彼等だってあまり強くは出られないはず。下手に君を怒らせたら、それこそ機竜を買えないんだもの。とにかく、今の言葉を聞けて安心したわ」
「そうか。では、我は今からルイン、竜宮島に上がる。今日の午後には戻ると思うので、皆には出かけていると伝えておいてくれ」
「えぇ。分かったわ」
そう言って学園長室を後にする黒鉄。そして、数秒して残されたレリィは……。
「ハァ~~~~~~~」
長い、長~~~~~いため息をついた。
「私、もしかしてとんでもない子を学園に招いちゃったのかも」
かつて黒鉄を学園に招いた事について、良かったと思う嬉しさ半分、不思議でありえない存在という困惑半分と言った様子で、彼女は誰にいうでも無くポツリと漏らすのだった。
第16話 END
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