最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
ヘイブルグの襲撃を受けたアカデミーだったが、黒鉄やルクスの活躍もあり人的被害は出なかった。そんな中黒鉄は、今後の事を考えて戦力増強が必要だと考えていた。そして彼は、自らの住処であるアナザールイン、竜宮島から機竜を持ってくるとレリィに言い出したのだった。
今、黒龍モードの黒鉄が雲の上を飛んでいた。眼下には雲海が広がる中、1人進んでいく黒鉄、もとい黒龍。
やがて彼が進んで居ると……
「そろそろか」
ポツリと呟いた黒鉄。直後。
『ヴゥゥゥゥゥンッ』
雲海の中、何も無いはずの場所に、突如として空中に浮かぶ巨大な島が現れた。それこそが黒鉄と、彼と同格の女王のためにかつて存在した組織、『モナーク』が超技術の粋を集めて作り上げた『怪獣王』と『怪獣の女王』のための住まい、竜宮島だった。
竜宮島は、かつての文明の名残を残す町並みの人工島。その下を支える機械的で巨大な基地のようなパーツで構成されている。そして下部のパーツが発する重力波バリア、『ヴェルシールド』。最大で8層まで展開出来るヴェルシールド。その一枚のおかげで、人工島の周囲には海があり、中で魚たちが泳いでいた。
傍目から見ると、それは半球状の巨大な海の上に島が浮いているような形だった。
そして黒鉄が竜宮島へと近づくと、彼の来訪を受け入れるようにヴェルシールドが部分的に解除された。開いた穴へ彼が入り込むと、背後でシールドが閉じる。
そのまま黒鉄は、無数ある島の中でも、一番大きな島、本島の港へと降り立った。そして降り立った黒鉄が黒龍から人の姿へ戻ると、丁度1人の人影が現れた。
「お久しぶりでございます。王よ」
彼を出迎えたのは、タキシードを纏った黒髪の男性だった。見た目は20代後半、と言った感じだが……
「久しいな。『アドミニストレーター』」
彼は『人ではない』。人の形をした『機械の生命』。アンドロイドだ。≪管理者≫を意味するアドミニストレーター。それが彼の名だ。
そして、ゴジラである黒龍より、竜宮島の全権を与えられた存在でもある。
「お戻りになられたのは実に67年と2ヶ月6日ぶりとなりますが、これからどうされますか?お部屋へ参られますか?それとも、何かお入り用で?」
「うむ。実はお前に頼みたい事があってな」
「かしこまりました。では、立ち話も何ですしお部屋に案内を……」
「あぁ良い。このままで大丈夫だ」
案内を、と言い出すアドミニストレーターを制する黒鉄。
「時間は取らせない。それに急ぎの用で来たのでな。話すのはここで、このままで良い」
「かしこまりました。それで、用というのは?」
「あぁ。それについてだが、機竜の在庫はあるか?」
「在庫、でございますか?残念ながら、竜宮島では現在機竜を製造しておりません」
「む?そうだったか?」
「はい。現在の人類世界の軍事力に対する防衛設備としては数多の防衛システムや無人航空機、『ノルン』だけで十分対処可能と判断しておりましたので。それに、そもそもここには乗れる人間がおりませんでしたので。開発、生産などの設備と設計のためのAIはありますが……」
「むぅ。そうだったか」
「お役に立てず、申し訳ありません」
そう言って黒鉄に頭を下げるアドミニストレーター。
「あぁいや。頭を上げてくれ。こちらも急に押しかけて済まなかったな。……それより、もし今からワイバーン、ワイアーム、ドレイクと言った量産型機竜の生産を始めたとして、3機種それぞれ1000機ずつ揃えるとしたら、どれくらい時間がかかる?」
「3機種遭わせて3000機となると、早くとも1ヶ月はかかるかと」
「そうか。では、300ではどうだ?」
「300。それくらいであれば、今から可能な限りのリソースを機竜製造に向ければ、3週間は掛からないでしょう」
「そうか。では、今すぐ生産を始めてくれ」
「かしこまりました」
恭しく礼をしたアドミニストレーター。直後、彼の瞳が金色に輝く。
彼はどこに居ても、竜宮島の管理を任された者として島のシステムを動かす事が出来る。そして、下部のパーツの一角にある機竜生産プラントが稼働を開始。すぐさま機竜の製造を開始した。
「しかし、王よ。一つお聞きしても?」
「ん?どうした?」
「なぜ、機竜が必要なのでしょうか?王ほどの力があれば、神装機竜や『ディザスターウェポン』などに後れは取らないと思われますが?」
「確かにな」
ちなみに、彼の行ったディザスターウェポンとは、この世界で『アビス』と呼ばれる存在に過去存在した組織、モナークが付けた名称だ。モナーク側の正式名称は『広域殲滅用生物兵器』。あらゆる存在に見境無く襲いかかる事もあって、モナークはアビスをそう名付けていた。
更に言えば、モナークではラグナレクを『オーバーディザスター』。ディザスターウェポンの最上位個体としてそう呼んでいた。
「我の力を持ってすれば、あんな化け物共に後れは取らぬ。だが、今我はとある国の学園に通っていてな。そこの生徒達の自衛のために、機竜が必要なのだ」
「成程、そう言った理由が。分かりました。急ぎワイバーン、ワイアーム、ドレイクの生産を行います。300機まで製造が完了し次第、すぐに王へこちらからご連絡をいたします」
「うむ。頼むぞ」
「はっ。王の御心のままに」
そう言って頭を下げるアドミニストレーター。
その後。
「さて。幸いこれで300機ほど調達のメドが出来たが、どうするか。手ぶらで帰るのもレリィ学園長に悪いし、何か土産でもあれば……」
と、黒鉄が考え込んでいると……。
「王よ」
「ん?どうした?」
「機竜は今すぐ用意出来ませんが、一つ、ご用意出来る兵器がございます」
「む?それは一体なんだ?」
「かつて、恐れ多くも王の怒りを買って滅んだ企業、エーペックス社が開発していた航空機、『HEAV』にございます」
「ヒーヴ。確か連中が地上世界から地中世界へ行くために生み出したと言うあれか?」
「はい。両世界の柔軟な往来のため、エーペックス社崩壊後に技術を入手したモナークが改良型HEAVを開発。この竜宮島にも、全12機が配備されております」
「ふむ。しかし、あれは使えるのか?以前島に居る時にスペックを見たことがあるが、あれではとても機竜との戦闘には……」
「はい。確かに機竜との戦闘には向きません。ですがモナーク製の改良型HEAVはコクピットにパイロットを含めて4名。更に後部格納庫に人員を4人、あるいは物資などを積載しての運搬が可能なように調整がなされています。また、武装も旧HEAVを踏襲。多連装ミサイルランチャーと機体下部のターレットを引き続き搭載しております。また、こちらの情報によればHEAVと同程度の速度で飛行可能な、人員輸送に適した航空機は現代の人類社会には無い模様です」
「ふむ。つまり、ヒーヴを人員輸送車両、いや、航空機として使うと言う事だな?」
「さようでございます。如何でしょうか?」
アドミニストレーターの言葉に少し考えたあと、黒鉄は……。
「確かにそれは良い考えか。感謝するぞアドミニストレーター。良い提案だ」
「もったいなきお言葉、痛み入ります」
「それで?何機ほどならば持って行って構わぬのだ?」
「ここでのHEAVの役目は、人間の来客があった場合の足ですから、最低でも4台ほど残っておれば問題ありません。なんでしたら設計データがありますので、こちらで建造可能です。ですので、良ければ8機ほど、お持ちになっても問題ありませんが?」
「そうか。……いや、だが8機となると数も多いので目立つ。ここは、3機ほど貰って行こう。構わぬか?」
「はい。それはもう」
「ではそれで用意を進めてくれ。ヒーヴを3機、持ち帰る」
「分かりました。すぐさま整備用アンドロイドに機体チェックなどをさせますので、少しばかりお待ちください」
「うむ」
こうして、黒鉄は旧時代のテクノロジーである航空機、HEAVをアカデミーに持ち替える事になった。
その後、アドミニストレーターがHEAVの用意をしている間に、操縦マニュアルに目を通した黒鉄は、HEAVの1機を操縦する事に。他の2機は黒鉄が乗っているHEAVに自動操縦で付いて行く事になった。
「世話になったな」
「いえ。この島は王の家。我々はそれをもてなす為に造られた存在。またいつでも。お帰りをお待ちしております。それと、差し出がましいかもしれませんが。HEAV内部に下界の人の役に立つであろう道具などを搭載しておきました」
「そうか。助かる」
「いいえ。もったいなきお言葉、痛み入ります」
島の一角にある滑走路に並ぶ3台のヒーヴ。その傍で話す黒鉄とアドミニストレーター。
「うむ。では、機竜の数がそろったら連絡を頼む」
「かしこまりました」
そう言って、黒鉄はHEAVに乗り込んだ。操縦席に座り、システムを立ち上げる。そして彼が動かせば、HEAVの両脇、四つ足のようなパーツが青白い光を放ちはじめた。
そのままふわりと浮かび上がるHEAV。更に無人の他2機も浮かび上がり、3機のHEAVは青白い尾を引きながら飛び立った。
それを見送るアドミニストレーター。
「またのお帰りをお待ちしております。調和の神にして怪獣王、ゴジラ様」
そう、彼は1人呟くのだった。
一方、地上、アカデミーでは、今日は1日休みとなっていた。昨日襲撃された事もあり、生徒達の精神が不安定なままの授業は効率が悪いだろうとレリィが判断したためだ。と言うか、教師陣の方も後片付けや報告書の作成などで、授業どころではなかったりした。
そんな中で、シヴァレスのメンバーであるノクトやティルファーは、機竜を纏ってのがれき撤去作業に追われていた。
昼食休憩をはさんで午後も行われる撤去作業。戦闘と比べればマシ。尚且つ機竜を使っているのでそこまでの重労働ではないのだが、やはり何時間も作業を続けていると疲労もたまると言う物だ。
「あ~~~。疲れた~~~」
「ティルファー、まだ作業は残ってますよ?手を休めないでください」
「え~~~!?でも疲れたよ~!ノクトは大丈夫なの~?」
「NO.私だって疲れてます。でも仕事を途中で投げ出す訳にはいきません」
「う~~。そりゃそうだけどさ~」
ハァ、とため息をつくティルファー。
「あ~あ~。クロっちどこ行っちゃったんだろう?レリィ学園長は、今日中には戻ってくる、とか言ってたけど」
「そうですね。……クロガネさん、どこへ行ったのでしょうか?」
朝起きて、探してみたら出かけた後だった。2人とも、彼がどこに行ったのかとても気にしていた。そしてそれは彼女たちだけではない。キャロルを始め、大勢の女子たちが黒鉄の不在に戸惑い、不思議がっていた。
と、その時だった。
「ッ、何か、近づいてきますっ」
「うぇっ!?」
索敵能力が高いドレイクを纏っていたノクトが、アカデミーに近づいてくる飛行物体を捕えた。
空を見上げるノクト。彼女はこちらに近づいてくる黒い3つの点らしきものを見つけた。
「上空に謎の物体を確認っ!」
「な、なんかこっちに来てないっ!?」
2人は戸惑いながらも、念のためにと用意されていたブレスガンを構える。更に他の機竜を纏っていた女子たちも武器を構える。が……。
「待て待てっ、撃つなっ、我だっ!」
「「えぇっ!?」」
突如として謎の物体、HEAVから響いた黒鉄の声に彼女たちは気づいた。
「そ、その声っ!クロっちなのっ!?ってか、何乗ってるのっ!?」
「すまぬが詳しい話はあとだ。こいつを着陸させるのでな」
そう言って彼女たちの上空を通り過ぎていく3機のHEAV。すると……。
「ちょぉっ!?待ってよクロっちぃっ!」
「あぁっ!ティルファーっ!どこへ行くんですかっ!作業はまだ終わってませんよ!?」
慌ててHEAVを追いかけていくティルファーのワイアーム。それを追うノクトのドレイク。更に、それに続く形で殆どの女子たちが機龍を纏ったままHEAVの後を追った。
やがて、HEAVは機竜用の格納庫の傍に並んで着陸した。そしてその周囲には、大勢の生徒たちが集まっていた。皆、瓦礫の撤去作業の手伝いとして外に居た為、空を飛ぶHEAVが敷地内に降りてくるのを見ていたからだ。
女生徒たちは、戸惑いながらもHEAVを見つめている。と、その時ウチ1機のハッチが開き、中から黒鉄が降りてきた。
「く、クロっちっ!これどういうことっ!?」
その時、人混みをかき分け、機竜から降りた装衣姿のティルファーとノクトが駆け寄ってくる。
「おぉティルファーにノクトか。先ほどの所を見るに、瓦礫の撤去作業中だったようだな。すまぬな、脅かしてしまったようで」
「あ、えぇとまぁ、別に良いけどさ。…………ってじゃなくてっ!!」
「クロガネさん。貴方が今し方乗ってきたこの黒い空飛ぶ箱は一体?」
戸惑うティルファーと問いかけるノクト。
「あぁ。これは……」
と黒鉄が説明しようとした時。
「クロガネ君っ!」
「クロガネさんっ!」
「おいっ!何だこの騒ぎはっ!」
無数の声が聞こえてきて、レリィ、ルクス、更にリーシャと彼女に続いてクルルシファーやセリスに、フィルフィやアイリまでやってきた。何気に大勢の面々が集まったが、皆、謎の黒い物体を前に戸惑っている様子だった。
「おぉ、レリィ学園長。今帰ったぞ」
「え、えぇっとクロガネ君?あなた、それは何?」
微笑を浮かべながら帰還報告をする黒鉄に対し、レリィは頭を抱えている。
「我の居城のる、んんっ」
ルイン、と言いかけて、流石に不味いかと咳払いをする黒鉄。
「あぁいや、我が家の管理者に言って、アカデミーへの土産を用意させた。これがその、HEAVだ」
「「「「ヒーブ???」」」」
「そうだ」
「あの、クロガネさん?クロガネさんに家があるのは驚きましたが、何故そこへ?」
「ん?まぁ今後の保険という奴だ。ここ最近は何かとトラブルも多いからな。いざと言う時のためにある物を取りに行った」
と、ルクスの疑問に答える黒鉄。
「しかしお目当ての物は備蓄がなくてな。かといって手ぶらで帰って来るのもどうかと思い、居城に配備されていたこのHEAVを持ち帰った、と言う訳だ」
「そ、そうなんですか」
「しかし、何なのだこれは」
苦笑気味のルクスを後目に、HEAVに興味津々のリーシャ。
彼女はHEAVに歩み寄り、見て回っている。他の生徒達も興味津々の様子だ。
「こいつはロストエイジ、つまり機竜を生み出した時代の人類の、とある企業が生み出した航空機だ」
「成程。……………ん?」
黒鉄の説明に頷いたものの、すぐに疑問符を浮かべるリーシャ。
「それを別の組織が改良したのがこれだ。厳密には改良型HEAVと言った所か」
「ちょ、ちょっと待てクロガネっ!今なんと言ったっ!?これは、旧文明の航空機だとっ!?」
「む?そうだが?」
「それはつまり、機竜のように空を飛ぶと言う事かっ!?」
「当たり前だ。と言っても、このHEAVに機竜ほどの戦闘力は無い。出来る事と言えば、搭載された武装による自衛と、ある程度の物資と人員の移送くらいだ」
「いやっ、それでも十分凄いぞっ!と言うかこれ、動くのかっ!?」
「当たり前だ。我がここまで飛ばしてきたのだ。大体、我がそんなガワだけの贈り物を持ってくる訳がなかろう?もちろんちゃんと整備された新品だ」
そう言って、リーシャの言葉に首をかしげる黒鉄。
「こいつは正真正銘、ロストエイジの兵器だ」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?!?!?!?」」」」」
黒鉄の言葉に女子達が絶叫する。それもそうだ。そんな気安く、土産とか贈り物と言って持ってこられる物ではない。それも新品で、だ。どう考えても一個人が簡単に用意出来る物ではない。
「と言うか、クロガネはこれを家から持ってきたと言ったが、何なのだお前の家はっ!お前はルインに住んでるとでも言うのかっ!?」
突然のオーバーテクノロジーを前にして混乱気味のリーシャ。ちなみに彼女の発言が大正解だからか、黒鉄は苦笑を浮かべている。
「はいはい皆。色々驚いたと思うけれど、お願いだから落ち着いて頂戴」
その時、レリィが彼女達と黒鉄の間に立って、彼女達を落ち着けようとした。
「え~っと、とりあえずクロガネ君には詳しい事を聞きたいから学園長室まで来て。それと、念のためにセリスさん、それとリーシャ様も来て下さい」
「はい」
「承知した」
と言う事で、話し合いは黒鉄を含めた4人で、学園長室で、となったのだが……。
「あぁレリィ学園長。少し待って欲しい」
そう言って黒鉄が彼女達を呼び止めた。
「何かしら?」
「実はHEAV以外にも土産がある。我が居城の管理者が加えてくれた物なのだが、先にそちらを確認しておきたい」
そう言うと、黒鉄は他のHEAV二台のタッチパネルを操作し、後部ランプを開けた。1人でに開くランプに、周りの女子達は戸惑っている。
それを一瞥しつつも中に入る黒鉄。
「あぁ。成程。これの類いであったか」
そう言って黒鉄が中から引っ張り出してきたのは、大きな箱だった。ロックを解除し、蓋を開ける黒鉄。するとリーシャ達が中をのぞき込んだ。
「なっ!?」
そして真っ先にリーシャが驚きの声を上げ、目を見開いた。
「く、クロガネお前っ!こ、これは機竜用のパーツじゃないかっ!」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
リーシャの言葉に回りの女子達が驚いている。
「しかも、どれも貴重な心臓部や関節部のパーツばかりっ!それに、どれも新品なのかっ!?」
「当たり前であろう?これは補修用にアドミニストレーター、我が居城の管理者が、気を利かせて用意した物だ。中古品な訳がなかろう?しかしとなると……」
と言ってもう一台のHEAVの中に入った彼は、同じような箱を持ってきて彼女の前で開いた。
「ふむ。どうやらこっちも、補修用のパーツだな」
「こっちもかっ!?い、いやしかしそれ以前に、これらはっ!?」
「うむ。我からアカデミーへの土産だ。好きに使ってくれ」
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!」」」」」」」
再びの絶叫。しかし彼女達が驚くのも無理はない。
「ほ、本当に良いのかクロガネっ!?どこから入手してきたか知らないが、この箱1つで、一体どれだけの価値がある事かっ!?」
「うむ。それは理解出来るが。日頃アカデミーで世話になっておるからな。その謝礼代わりだ。まぁ、このような無骨な礼で申し訳ないのだがな」
「い、いや。それは良いのだが……」
戸惑いながらも、リーシャは箱の中身に目を向けている。
「んんっ!」
その時響いたレリィの咳払い。
「リーシャ様。クロガネ君?」
2人の視線がレリィに集まる。今の彼女は、笑みこそ浮かべているが、笑っては居なかった。それは『早く来なさい』と2人に示しているようだった。
「りょ、了解した」
「うむ」
まだ色々疑問や驚きはあったが、渋々と言った感じで彼女の後に続くリーシャと、頷き同じく後に続く黒鉄。
結局、ルクスやクルルシファー、アイリやノクト達は、呆然としたまま彼女達を見送る事しか出来なかった。
そして場所は変わって学園長室。
「はぁ~~~~~~~~~~~」
そこでレリィは、3人を前に長い長いため息をついた。
「確かにね、今後の事が色々心配なのも事実で、クロガネ君が皆のためにって持ってきてくれたのは分かってるわよ?分かってるんだけど……。どうせならもうちょっと目立たない形で持ってきて欲しかったな~~~!」
自分で頼んだ手前、怒るのも大人げない。しかしかといって目立ちすぎているのも見過ごせない。レリィは今実に微妙な心境だった。
「しかし、何なのですかあの黒い物体は?航空機、と言って居ましたが?」
「そうだ。HEAVとは、過去に存在した文明の一企業が開発した特殊な航空機だ。人類の歴史上、初めて反重力航行システムを搭載した航空機。あれはそれを別の組織が改良した物だ」
「反、重力?航行?」
「まぁ、早い話、HEAVに搭載されているのは、機竜に搭載されている飛行システムの雛形だ」
「「えっ!?」」
黒鉄の言葉に驚く2人。
「最も、雛形からかなり改良、発展を繰り返して機竜用のそれになった。HEAVのシステムを親とするのなら、機竜の物は親の孫の孫、更に孫の孫の孫。と言った所だ。大きさや能力など、比較にならん。現に、HEAVを安全に飛行させるのにシステムが4つ必要だ。かといってその1つが機竜にも匹敵するサイズだ」
「……とは言え、だ。私達は機竜の技術の一部の原点を手に入れた事になるのか」
「そうだ。最も、今のこの国の技術であれを真似て作る事は不可能だろう」
と、リーシャの言葉に返す黒鉄。
「不可能、なのですか?」
「そうだ。まだまだ技術レベルに差がありすぎる。……そちらを侮辱している訳でも、見下している訳でもない。だがはっきり言って、『話にならない』というレベルだ」
「……では、あのヒーヴとか言う乗り物を作るのに、どれだけの技術力が必要なのですか?」
「そうさの。簡単に数字で表すとして、HEAVを作るのに必要な技術力を500としよう。機竜は更にその上の1000だ。そして、今の世界の技術は、精々10か20と言った所だ」
「……低いですね。そこまで低いのですか?」
黒鉄の言葉にセリスは渋い顔をする。
「そうだ。こいつの言うとおりだ」
そしてそれに答えたのは、リーシャだ。
「私はこれまで機竜の研究をしてきた。そして機竜を見る度に、驚かされた。一体どうやったらこんな物を作れるのか?過去の世界は、どれだけの技術力を持っていたのか?そう、何度も驚かされた。そしてだからこそ分かる。今の私達の技術と、機竜やあのヒーヴとか言う物を生み出した時代の技術の差は、大きすぎる」
機竜の研究などをしているからこそ、旧文明の技術について、黒鉄を除いたこの場の3人の中で最も知識があるのはリーシャだった。そして彼女だからこそ、大きな壁、絶対的な技術力の差を誰よりも痛感していた。
「……しかし、だからこそ疑問に思う事がある。クロガネ、あのヒーヴの保存状態はどういうことだ?殆ど完璧な状態だ。とても長い間、何十年何百年と放置されていたとは思えない。定期的に誰かが整備をしなければ、あんなに綺麗に残る事はありえない。現存するルインで発掘された機竜だって、あそこまで保存状態の良い物は見た事が無いぞ。お前が土産と言って持ち帰った機竜用パーツもそうだ。……一体、お前はアレをどこで仕入れてきたんだ?」
リーシャは黒鉄に対し、睨み付けるような視線を向けている。対して、黒鉄はどこまでも落ち着いた様子だ。
「クロガネ、私はお前を友だと思って居る。何度も助けられたし、お前のおかげでアカデミーに居る生徒達も助かっている。王女として、友人として、感謝している。だがお前のその知識量はなんだ?なぜ旧文明の事にそこまで詳しい?……話してくれないか?……私は、友であるお前を疑いたくはない」
「それについては、私も是非聞きたいですね」
リーシャに続き、セリスも険しい表情で黒鉄を見つめている。
その様子を確認した黒鉄は、レリィに視線を向けた。するとレリィは……。
「……そうね。クロガネ君。君のお家の事以外は、教えてあげて」
と、彼に言い放った。お家、つまり竜宮島、ルインの事以外は話して良いと許したと言う事だ。
「……了解した」
頷くと、黒鉄は自分の事を少しだけ話した。
自分が、人知を越えた寿命を持つ、人の形をした人ならざる生命である事。それ故にロストエイジの時代を生きてきた事。だからロストエイジの事情に詳しい事。当時の知識を持っている事などなど。
これを聞いたセリスとリーシャは、揃って頭を抱えた。
「……どう思われますか?リーシャ様」
「何とバカな話を、と笑い飛ばしたい所だが、確かにクロガネは色々規格外だ。それも考えれば、こいつが人知を越えた人型生物と言われても納得出来るな。大体、素手でアビスや機竜を殴って倒せる男だぞ?むしろこいつが普通の人間と言われた方が信用出来ないぞ私はっ」
「た、確かに」
あきれ顔のリーシャの言葉に、流石の学園最強も苦笑し冷や汗を流しながら頷く事しか出来なかった。
その後、2人には黒鉄についてみだりに情報を漏らさないよう箝口令が敷かれた。もちろん黒鉄が色々持ってきた事で、生徒達は皆、驚き混乱していた。しかしそれについても、レリィの口から『クロガネ君のプライバシーに関わるので、本人が話しても良いと言ってくれるまで詮索禁止』、との指示が出された。
無論、事情を知らないルクス、ノクトやティルファーなどは話を聞きたがった。が、黒鉄本人から『いずれ話すので、待っていてくれ』と言われてしまったのだ。無理に聞き出す事も、黒鉄の強さを考えれば不可能なので、結局彼女達は彼自身が話してくれるのを待つしか無かったのだった。
そんなこんなで、襲撃から3日が経過したある日。まだ完全に施設の修理が完了した訳ではないが、既に授業は再開されていた。そんな中で、授業の合間の休み時間にお手洗いへと行っていた黒鉄。
ちなみにあれから、新王国の上層部はヘイブルグ共和国に抗議などをしたが、共和国からまともな返事は帰ってきていない。
そして、その話を聞いた黒鉄は……。
「……戦争が近い、のかもしれぬな」
1人廊下を歩きながらポツリと呟いた。
幸い周囲に他の生徒はいない。なので物騒な話題を聞いていた者も居ない。が、そんな中で彼は……。
『本来ならば、我が人間の一勢力に加担するのは良くないのだろう』
と、考えていた。
彼は、機竜を生み出した古代文明、ロストエイジに幕引きをした張本人、原初から頂点に立っていた一族の末裔にして、今や並ぶ者などほぼ居ない神と呼ばれるに足る超常の者。
知識も、戦闘力も、どれもこれも人間のそれを上回っている。彼の加勢とは言わば、『神の加護』。『怪獣王の寵愛』、と言っても良いのだろう。彼1人で、パワーバランスというものはひっくり返る。
だからこそ彼が1つの勢力に味方をするのは、人間世界の公平性を保つ上ではよろしくはない。勢力の拡大に伴う各国の国力の差は、人に由来するものであれば致し方ないとしても、神に等しい黒鉄の加勢は、敵からすれば理不尽以外の何者でもない。
だが……。
『それでも我は守りたい。ここで出会った友人達を。彼等との素晴らしき日々を』
彼には守りたい者が居た。だからこそ、今はここを離れる気は無かった。
「……ままならない物だな。頭では止めるべきだと分かっていても、心はそれを拒否し、皆を守りたいと願っている。……本当に、ままならない物だ」
そう言って彼は小さくため息をつくと、教室へと戻った。
それから数時間後。放課後。完璧ではないが、とりあえず瓦礫の撤去や応急修理を終えた演習場で全生徒が参加しての全校集会が行われていた。
理由は言わずもがな。来る国外対抗戦への参加者を発表するためだ。ちなみに、結局襲撃のゴタゴタでルクスとセリスの試合は勝敗が決まっていない。そもそも他にも試合が控えていたのだが、それもやっていない。つまり選抜戦は、中途半端な形で終わってしまったのだ。
やがて、集められた彼女達の前にあるステージにライグリィ教官が立ち、選抜戦の結果などを加味した対抗戦のメンバーが発表されていった。
メンバーは代表が10人。補欠に2人の合計12人となっている。
そしてメンバーの発表が始まった。選抜チームのリーダーは、セリス。更に神装機竜の使い手であるリーシャやフィルフィ。シヴァレスでの経験もあるトライアドの3人。更に、1名限りの留学生枠で、ユミル教国からの留学生であるクルルシファー。
そして、ルクスもまた。メンバーに選ばれた。
『『『『ザワザワ』』』』
もちろんその事実に彼女達は戸惑った。結局試合の結果はうやむやになっていたのだから仕方無い。
が、その喧噪と戸惑いを止めたのはセリスだった。
「私は、皆に謝らなければいけない事があります」
そう前置きをして彼女は語り始めた。
自分は最善を求め行動していた事。それが皆のためだと、自分の務めだと思って居た事。
しかし結果的にラグナレクの接近や、サニアがスパイである事を見抜けなかった事。
今回の事で、自分の未熟さと至らなさを痛感し、自分がシヴァレスの団長に相応しくないのではと考えている事。
だが、だからこそ皆の力を貸して欲しい、と。更に。
「そして、私とこの学園を救ってくれた彼等にも、協力を願いたいと思います」
そう言ってセリスはルクスと黒鉄に目を向けた。
「ルクス・アーカディア。今回の勝負において私は敗北を認め、あなたの願いを聞き入れます。そして、私から、もう一つのお願いです。これからの国外対抗戦で、あなたの力を貸して頂けますか?」
その問いかけにルクスは……。
「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします、セリス先輩」
笑みを浮かべながら頷いた。
このことについて、一部から不満が出るかに思われた。しかし元々1年や2年はルクスに好意的だったし、セリスが認めた、と言う事で3年生の女子達も納得したようだった。
「それと、クロガネ。あなたにもお願いがあります。ラグナレクさえ退けるその圧倒的な力を、どうか学園とここに居る皆を守る為に、振るってくれますか?」
「無論だ。この学園に厄災が降り注ぐと言うのなら、我の手で砕いてくれる。それだけだ」
黒鉄もそう言って、セリスの言葉に頷き返す。
こうして、2人はアカデミー在籍を許されたのだった。
が……。
「それと。ルクスは私に男性の事を色々教えてくれる事を約束してくれました。これも、あとで皆に報告させて頂きたいと思います」
『『『『『ザワッ!』』』』』
セリスの爆弾発言に、女子達はざわめき始めた。
考えてみて欲しい。年頃の男女2人で『男の事を教える』なんて聞いて、卑猥な方向に妄想しない者が居るだろうか?なので……。
「ま、まさかセリスお姉様とルクス君ってっ!」
「もうそう言う関係なのっ!?」
「じ、じゃあ、セリスの男嫌いが治ったのって……!?」
彼女達皆、顔を赤くしゴクリと固唾を呑んでルクスとセリスに視線を向けている。
「ち、違いますっ!決して卑猥な意味じゃなくてっ!捉え方の問題というかっ!発言の問題というかっ!!」
と必死に弁解するルクスだったが……。
「ルクス、人の色恋にどうこう言う気は無いが、お主も彼女もまだ若いのだから、節度を持ってだな」
「だから違いますってっ!?」
黒鉄が本気でルクスの今後について心配してたりした。
更に色々聞き捨てならない話になって、ルクスに詰め寄るリーシャやクルルシファー。
やがて色々ワーワーと騒いでいた彼女達だったが……。
「んんっ!」
そこに響くライグリィ教官の咳払い。
「お前達っ、まだ話は終わっていないぞっ!」
との事で、再び整列する女子達。
「あ~~。メンバーは先ほど述べた通りの12名だが、ここに1人、12名の補佐役として同行する者が居る。それがお前だ、黒鉄」
「む?我もか?」
「そうだ。ただし黒鉄はサポートだ。仕事は基本的にメンバーの体調管理などだな」
「了解した」
と、黒鉄も同行することになったのだが……。
「あの~~。何故にクロっちは補佐なんでしょうか~?」
と、ティルファーが問いかけた。更に周囲の女子達も頷いている。
彼女達からすれば、黒鉄の参戦は勝利確定に近い行為なのだが……。
「いや。黒鉄の出場は認められない」
「どうしてですか?」
「…………強すぎるからだ」
ポツリと呟いたライグリィ。そう呟いている彼女は、どこか無気力な笑みを浮かべていた。
「「「「「…………あぁ」」」」」
しかし彼女達もすぐさま納得した。
まぁ生身で機竜やアビスとやり合える輩が神装機竜モドキを纏ってやってくるのである。もはやチート行為顔負けである。
なので、下手したら参加国全てからクレームが来るかも知れない、と言うレリィの判断で黒鉄の参加は見送られた。
まぁ、実際には、黒鉄が目立って周辺国に目を付けられるのを防ぐためなのだが、彼女達にはそれを知る由も無かった。
こうして、無事にアカデミーに残る事になったルクスと黒鉄であった。
第17話 END
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