最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~   作:ユウキ003

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って事でバトル回です。あと、補足なのですが、前回でルクス達の母親が生きてると書きましたが、間違いではありません。そこから既に原作ブレイクです。


第2話 試合と戦い

シャリスとの模擬試合に勝利した黒鉄は、今は

観客席に腰を下ろし、ルクスの試合が始まるの

を待っていた。

 

しかし、そんな彼には周囲から恐れを含んだ

視線が浴びせられていた。

今彼の傍にいるのはアイリ、ノクト、

シャリス、ティルファーの4人だけだ。他

の生徒達はシャリスが黒鉄を連れてくると、

慌てた様子で彼女達の傍を離れた。

皆、生身で機竜とやり合った彼を恐れての

事だ。しかし黒鉄はそれを当たり前の反応、

と思っており、別段気にしたそぶりも無い。

 

しかし、そんな彼女達もルクスとリーズ

シャルテの戦いが始まればそちらに意識を

向けた。

 

ルクスは先ほど黒鉄が戦ったのと同じ

ワイバーンを纏って戦っている。

 

対してリーズシャルテが纏っているのは、

発掘された機竜の中でも1機だけ存在が

確認されている特殊な機体。それが

『神装機竜』だ。ルクスやシャリスが

使ったワイバーンとは異なり、特殊武装

と呼ばれる兵装と、神装と呼ばれる

特殊能力を持つ機竜だ。しかしその

スペックから、神装機竜を扱うのには

相応の技量が求められる。

 

そしてリーズシャルテは今、その神装機竜

の一機である紅き機竜、『ティアマト』を

纏ってルクスと戦っていた。

 

リーズシャルテはティアマトの遠隔投擲兵器、

『空挺要塞(レギオン)』と高威力の主砲、

『七つの竜頭(セブンスヘッズ)』の二つを

使いルクスを追い詰めていく。

 

 

そして、その様子をシャリスら4人と共に

見上げていた黒鉄。

「あっちゃー!もう無理だよ!先生に言って

 止めさせないと!」

そう言って席を立とうとするティルファー。

「止せ。その必要は無い」

「え?」

しかし、それを黒鉄が止める。

 

「な、何言ってるのクロっち!この

 ままだと王子様が危ないよ!」

「そうだぞクロガネさん。このままでは、

 最悪彼の命に関わる」

「YES。ここは即刻試合を止めるべきです」

ティルファー、シャリス、ノクトにして

みれば、痴漢騒ぎが起こった際に機竜を

纏ってルクスを追いかけ回していたのだが、

それが事態を大きくしてしまったのでは、

と3人は少々後悔していた。

 

「分かっている。しかし、ここで試合を

 止めればどうなる。最悪の場合、ルクス

 は監獄行き。果たしてルクスはそれを

 望むか?それに、見てみよ。彼奴の目を」

黒鉄は、二人の戦いが行われる中でも

しっかりとルクスの表情を、目を見ていた。

 

「ルクスは、まだ諦めてなど居らん。

 それを外野の我らが止めるのは、

 無粋であろう?」

「しかし……」

「ご心配には及びませんよ、シャリス先輩」

黒鉄の言葉に反論しようとするシャリスを、

アイリが制した。

「あの一件は兄さんのお人好しが招いた

 自業自得です。今回の戦いだってそう。

 周りに相談も無く勝手に話を進めるから 

 あぁなるんです。それに……」

と、微笑を浮かべながら語るアイリ。

 

「クロガネさんの言うとおり兄さんは

 まだ諦めていません。あんな兄でも、

 私が認めている事が一つだけあります。

 それは、一度決めた事は必ずやり遂げる

 事です」

呆れの中にも、信頼の籠もった視線で戦う

兄を見上げるアイリに、シャリスたちは

戸惑う。

 

「それに、お主達もよく見てみよ。ルクスの

 戦いぶりを」

「戦いぶり、ですか?」

黒鉄の言葉に上に視線を向けるノクト。

そこでは、ルクスがあらん限りの技量と武装を

使ってティアマトの攻撃を防いでいた。

「お主達には、どちらが有利に思える?」

「どちらも何も、どう見てもリーズシャルテ様

 の一方的な試合だ。彼は防ぐ事で精一杯の 

 ように見えるが……」

それは、誰の目にもリーズシャルテが圧倒

しているように見えた。

「そうだ。一件、ルクスは防戦一方に見える

 だろうが、それはリーズシャルテ・

アティスマータが『攻めあぐねている』、

もっと言えばルクスを『倒せずにいる』、

 と言う事ではないか?」

「ッ!言われてみれば、確かに……」

 

黒鉄の指摘に、シャリスは上空の戦いに目

を向ける。

「レギオン、セブンスヘッズの攻撃を受けて

 も、ルクス君は落ちていない。

 考えてみれば、汎用機竜で神装機竜と

 戦うなど、こうして攻撃を捌き続ける

 だけでも異常だ」

「確かに、見たままならばリーズシャルテ・

 アティスマータが有利だろう。しかし存外、

 今一番戸惑っているのは彼女では無いか?」

そう言って、上空のリーズシャルテに視線を

向ける黒鉄。

 

そして、それは正解だった。リーズシャルテ

はこれだけ攻撃しても落ちないルクスに

疑問を抱いていた。そして、彼女はついに

神装機竜であるティアマトの持つ特殊能力、

神装、『天声(スプレッシャー)』を発動する。

 

これは重力を操る神装であり、直後にルクス

のワイバーンが地面に落下する。何とか

着地したが、ワイバーンの足が地面にめり込み、

立っているのがやっとの状態だ。

レギオンがルクスの周囲を飛び、逃げ場を奪う。

セブンスヘッズの砲口がルクスへと向けられる。

 

「終わりだ。没落王子」

「くっ!?」

『このままじゃ負ける!でも、僕は負ける訳

 には!』

ルクスは、腰に下げていた『もう一本』の

黒いソード・デバイスを抜く覚悟を決める。

 

しかし、直後にティアマトの体勢が揺らぎ、

レギオンがデタラメに動き始め、ルクスを

押さえ込んでいたスプレッシャーの圧も

消滅する。

 

「あれは……。まさか暴走?」

試合を見守っていた中でポツリと呟く

アイリ。

「暴走?アイリ、それはどう言う意味だ?」

「あ、暴走と言うのは、神装機竜が

 ドラグナイトの制御から外れる事です。

 神装機竜は、ワイバーンなどの汎用

 機竜と違い、操縦難易度が高く、

 操縦者が極度の疲労状態になってしまう

 とそのコントロールが上手くいかずに、

 操縦者の意思に反した動きをしてしまう

 んです。それが暴走です」

「そうか。しかし、となれば彼女もルクスも

 危険だな。制御不能の力ほど危険な物は

 無いぞ」

そう言って、黒鉄はどこか二人を心配する

ように試合に目を向ける。

 

その時、憔悴の色が表情に浮かんでいた

リーズシャルテがソード・デバイスを

振るった。するとルクスの周囲に滞空して

いたレギオンが、まるで糸の切れた人形の

ように地面に落下した。

『レギオンへの力をカットし、

 そちらに回していた集中力を

 別に回すか。合理的な判断だ』

冷静に戦況を分析していた黒鉄。

 

「わたしが負けるかぁぁぁぁっ!」

リーズシャルテは咆哮にも似た叫びを

上げながらセブンスヘッズの銃口を

ルクスのワイバーンへと向けた。

 

上昇しつつ斬りかかろうとするルクス。

上がってくる彼に狙いを付けるリーズシャルテ。

 

誰もが試合の行く末を見逃さないように

二人の動向に注視していた。

 

『ッ!!!』

その時。彼だけが気づいた。

 

迫り来る『敵』の気配に。

 

「全員!!今すぐここから逃げろぉっ!!!!」

 

直後に響き渡る黒鉄の叫び。

彼の叫びに、ルクスとリーズシャルテの

集中が一瞬途切れ、二人は揃って意識を

そちらに向けた。

 

更に、傍に居たシャリスが突然叫んだ黒鉄の

真意を問おうとした時。

 

 

「ギィィィィィェェェェェァァァァァァッ!」

 

どこからともなく、耳をつんざく、

恐ろしき悪鬼の声のような咆哮が響き渡った。

 

そして、彼等の前に、『それ』は現れた。

 

『幻神獣(アビス)』。

それは、この世界において機竜と同程度の

戦闘力を持つ、謎の化け物だ。

遺跡、ルインから発掘された機竜と同じように、

時折ルインから現れては、人や動物を見境無く

襲う、謎の怪物。それがアビスだ。

アビスが何故ルインから現れるのか等、アビス

について分かっている事は少ない。ただ、

はっきりしているのは、複数の機竜で相手を

しなければならない相手だという事だ。

そしてそれ故に、各国に存在するルインの周囲

には関所などが設けられている。このクロス

フィードもまた、王都とルインの間にある

城塞都市なのだ。しかし、その前にも

関所などはあり、いきなりクロスフィード

にアビスが現れるなど、前代未聞だ。

 

そんなアビスの中でも知能が高いと言われる

ガーゴイル型。

 

その総数、3体。それが今、彼女達の前に

現れた事で、生徒達はパニックになった。

咄嗟に教官たちが落ち着けようとするが、

殆ど効果が無い。

 

その時、ガーゴイルの1体が演習場を覆う

障壁を展開していた機竜に襲いかかった。

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

如何に王立士官学校の生徒と言えど、

所詮は実戦経験など殆ど無い女子。

加えて、汎用機竜でアビスと戦うのならば

上級のドラグナイトが最低でも3人は

必要だ。それが3体。普通に考えれば、

上級ドラグナイトがこの場に10人は

必要になる。

 

つまり、彼女達が対等に戦える相手では

無かった。

 

恐れ、怯え、動けず、悲鳴を上げる女生徒の

機竜の迫るガーゴイル。

 

しかし……。

 

「させぬっ!!!」

次の瞬間、駆け出す黒鉄。

「バカなっ!?ダメだクロガネさん!」

咄嗟に止めるシャリス。しかし黒鉄は

その警告を無視し、跳躍した。

 

向かう先はガーゴイル。

「貴様の相手は我だ!」

そして黒鉄は叫び、ガーゴイルの注意を引く。

黒鉄に気づいたガーゴイルは狙いを彼に変え、

向かっていく。

 

「クロガネさん!」

それに気づいて彼の方へ向かうルクス。

しかし間に合いそうにない。

誰もが、黒鉄がガーゴイルの爪に

切り裂かれる姿を想像してしまう。

 

黒鉄に真っ直ぐ向かっていくガーゴイル。

このガーゴイルは、はっきり言って黒鉄を

舐めていた。実際ガーゴイルは自由自在に

空を飛ぶことが可能なのだ。しかし相手、黒鉄

はそうは行かない。しかも武装していないのだ。

だからこそ、ガーゴイルは策など考えず

真っ正面から黒鉄と相対する。

 

手を伸ばせば届くと言う距離で右手を

振り上げるガーゴイル。

対して、黒鉄もその右手を振りかぶる。

両者の一撃が激突した。刹那……。

 

如何に超常的なポテンシャルを持っている

黒鉄でも負ける。誰もがそう思った。

 

『ドパンッ!!!!!!』

 

ガーゴイルの右腕が派手な破裂音と共に『吹き飛ぶ』までは。

 

ぶつかり合った拳と爪。普通なら、鋭利な

爪が勝つと誰もが予想するだろう。

しかし、黒鉄の拳はガーゴイルの爪を砕き、

更にその腕まで粉砕して見せた。

 

「ギィィェェェェァァァァッ!?!?」

 

右腕を砕かれたガーゴイルが悲鳴のような

咆哮を上げる。

しかし、黒鉄はそれだけでは無かった。

殴った勢いを利用して体を回転させ、その

ままソバットのような蹴りをガーゴイルの

頭に見舞ったのだ。

 

ゴキャッと言う鈍い音と共に、ガーゴイルの

頭が真後ろに向く。

如何にアビスとは言え、首を折られれば

それまでだ。

動かなくなったアビスの死骸が、誰もいない

観客席に落下し、黒鉄はその傍に着地した。

 

 

誰もが、その光景に唖然となっていた。

ほんの少し前まで、生身で機竜とやりあって

いた男が、今度はアビスと戦いしかも

勝ったのである。

驚くな、と言うのが無理な話だ。

 

「えっ?嘘、勝っ、た?」

ティルファーはこんな状況だと言うのに、

戸惑い自分の目を疑っているのか、瞼を

手の甲でゴシゴシと擦る。

「ねぇ、もしかして私達って、夢でも

 見てる?」

「残念だなティルファー。これは現実だ。

 もっとも、現実離れし過ぎているとも

 言える状況だがな」

こんな状況だというのに苦笑している

シャリス。

 

他の生徒達も呆然と立ち尽くし、ガーゴイル

の死骸の傍に立つ黒鉄に目を向けている。

 

しかし、ここにはまだ2体のガーゴイルが居る。

黒鉄は相手に手の甲を見せるように右手を

掲げ、ガーゴイルを挑発するように笑みを

浮かべながら指先をクイックイッと動かす。

 

「ギィィェェェェェェァァァァァァァッ!」

すると、残っていた内の1体が咆哮を上げて

黒鉄に攻撃を開始した。

同族を倒された怒りか、或いは黒鉄を強敵と

判断し排除しに掛かったか、もしくはその

両方か。

それは分からないが、2体目のガーゴイルが

放つ光弾が黒鉄に襲いかかる。

 

「はっ!?」

そして、今になって教官、『ライグリィ』は

我に返った。

「皆、今すぐ校舎に退避するんだ!ノクト、

 シャリス、ティルファーたち『三和音

 (トライアド)』は彼女達の避難誘導を!」

「了解しました!」

シャリスとティルファーはすぐさま避難誘導を

開始する。

 

しかし、それが残っていた1体のガーゴイル

の注意を引いてしまった。

「ッ!?危ないっ!」

それに気づいて警告を発するリーズシャルテ。

 

「ギィィェェェェァァァァァァッ!」

次の瞬間、翼人型のガーゴイルの背中の翼から、

羽根型の光弾が発射され、生徒達へと

向かっていく。

 

『間に合わないっ!』

タダでさえ消耗している今の彼女では対応

する事は出来なかった。

だが……。

 

「ハウリングロア!!」

ガーゴイルと生徒達の間に滑り込んだルクス

のワイバーンが放った、衝撃波を放つ

ドラグナイトの基本スキル、『機竜咆哮

(ハウリングロア)』が光弾を逸らし、人の

居ない方向へと飛ばす。

 

その時。

「ルクスっ!!!」

ガーゴイルを抑え込んでいた黒鉄の声が響く。

ルクスはガーゴイルを警戒しつつもそちらに

目を向ける。

「こちらは任せよ!残りの一体、お主で

 どうにか出来るか!?」

それは、端から見れば無理な提案であった。

アビスは上級ドラグナイトでも3名以上で

相手をするのが基本の敵。それをルクス一人

に任せると言うのだ。

 

しかし……。

「はいっ!任せて下さい!」

彼は迷う事無く頷き、リーズシャルテとの

戦いで半ばから折れたブレードを構える。

「ならば、任せるぞ!」

闘志を失わない彼の姿に黒鉄はふっと笑みを

浮かべると、目の前のガーゴイルに集中する。

 

この時、真っ先に動くべきだった者達は

動けなかった。

奇しくも、部外者である二人の男が、

彼女達を守る為に立ち上がった。

 

そして、それ故に彼等の戦いは鮮烈に、

少女達の目に映るのだった。

 

 

ルクスが機竜同士の通信、『竜声』を使って

リーズシャルテに手短に作戦を伝えると、

ガーゴイルと戦い始めた。

 

一方の黒鉄も、遠距離から羽根型の光弾を

撃ち込んでくるガーゴイルを相手していた。

最初の1体が倒された事で学習したのか、

ガーゴイルは決して近距離、つまり黒鉄の

拳が届く距離には近づこうとはしない。

更に言えば、黒鉄の後方では今も生徒達が

避難している。

そのため黒鉄は放たれる光弾を素手で弾き、

次々と空に撃ち返していく。

 

今の黒鉄では、遠距離攻撃の方法が、精々

瓦礫や岩を投げるだけだ。それではガーゴイル

を撃破出来ず、更に今防御を止めてしまえば、

後ろにいる生徒達に死傷者が出かねない。

だからこそ、黒鉄は動けなかった。

 

「急げ!クロガネさんが時間を稼いでいる

 内に早く校舎へ避難するんだ!」

「早く早く!こっちだよ!」

そして、彼の意図を察したシャリスや

ティルファーたちが生徒達の避難誘導を

行う。

 

一方、アイリはノクトと共に、上空のルクス

の戦い。更には地上の黒鉄の戦いを見守っていた。

拳で攻撃を弾く黒鉄。

ブレードを使って攻撃をいなすルクス。

どちらも防戦一方だった。

 

が、戦いの均衡は突如として崩れた。

 

ガーゴイルの隙を突いたルクスの折れた

ブレードによる一撃がガーゴイルの胸に

刺さったのだ。

 

悲鳴を上げたガーゴイルは、ルクスを警戒

する。しかし、ルクスの耳に届いた増援到着

の連絡。ガーゴイルはその一瞬の隙を突いて

ルクスの横をすり抜け、観客席への砲撃を

行おうとする。

黒鉄は、もう一体の攻撃を捌くのが限界で

対応出来ない。

 

咄嗟に止めようと追いかけ、ブレードを

振り上げ斬りかかろうとするルクス。

しかし、ガーゴイルはそれを待っていた

かのように、振り返った。

 

ガーゴイルは知性の高いアビスだ。

ゆえに、生徒を守ろうとしていたルクスの

隙を誘うために、敢えて生徒を狙ったふりを

したのだ。

その誘いに引き込まれたルクスの剣戟が

空しく空を切り、その隙を狙って放たれた

ガーゴイルの爪がワイバーンの右腕を

切り飛ばし、斬撃がかすったルクスの体から

血の飛沫が飛び散る。

 

だが、隙を晒したのはガーゴイルも同じ。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁっ!」

次の瞬間、地上に待機していたリーズシャルテ

のティアマトの、セブンスヘッズから放たれた

紅きエネルギーの奔流がガーゴイルを飲み込み、

消滅させた。しかし、れで撃ち止めだったのか、

ティアマトの巨体が地に膝を突き、パイロット

であるリーズシャルテも荒い呼吸を繰り返す。

 

「なるほど、そういう、事か」

彼女は、先ほどのルクスの話を思い出していた。

ルクスは、リーズシャルテに、『自分が

ブレードを振りかぶったのを合図に

ガーゴイルを攻撃して欲しい』、と言う旨の

頼み事をしていた。

 

つまり、ガーゴイルがルクスの隙を引き

出す為に、敢えて生徒を狙うと言う事

自体、彼は分かった上で作戦を立てて

いたのだ。

そして、それを今理解するリーズシャルテ。

 

と、その時。

 

「ギィィィェェェァァァァァッ!」

残っていた最後の1体のガーゴイルが、

落下するルクスへと狙いを定めた。

「ッ?!しまったっ!」

まだもう一匹居た事を思い出した

リーズシャルテが対応しようとするが、

もはや限界を超えているため、体と

ティアマトが思うように動かない。

 

ルクスも、既に限界なのかガーゴイルが

向かってくると言うのに動こうとしない。

「不味いっ!」

咄嗟にシャリスがソード・デバイスを抜き、

機竜を纏おうとするが、到底間に合いそうに

無い。

 

だが……。

 

「ほう?我に背を向けるとはな」

ルクスに向かうガーゴイル。そのすぐ後ろで

声が聞こえた。

ガーゴイルは咄嗟に振り返る。

 

「良い度胸ではないか。雑魚が」

そこには、既に拳を振りかぶった黒鉄の

姿があった。そして……。

「ふんっ!!」

 

『ドパァァァァァァンッ!!』

繰り出された拳の一撃が、その頭を粉砕する。

頭を失ったガーゴイルの体が演習場に落下し、

黒鉄は自由落下中のルクスのワイバーンを

お姫様抱っこの形で回収すると、そのまま

着地した。

 

着地し、ワイバーンを地面に横たえた黒鉄は、

ルクスの様子を見る。

先ほどの爪の一撃で出血こそしているが、傷

は浅く、かすり傷などはいくつかあるが、

それ以外に目立った外傷は無い。

「クロガネ、さん。アビス、は……」

「喋るな。もう大丈夫だ。3体とも撃退に

 成功した。周囲に他の敵の気配も無い。

 よくやった。後は任せて、今は休め」

「は、い。ありが、とう、ござい、ま、す」

 

彼の言葉を聞くと、ルクスは眠るように

意識を手放した。

「クロガネさん!」

そこに、シャリスたちとノクト、更には

教官であるライグリィや学園長のレリィたち

が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫かクロガネさん!それに彼は!

 ルクス君は!?」

「落ち着け、シャリス・バルトシフト。

 我も彼も無事だ。我は怪我も無い。

 ルクスは少々傷を負っているが、致命傷

 ではない。眠ってはいるが、疲労と

ダメージが蓄積した結果だろう」

そう言うと、黒鉄はワイバーンからルクスを

離し、お姫様抱っこで抱える。

 

「ルクスに怪我の治療を受けさせてやりたい

 のだが、構わないだろう?」

「えぇ。もちろんよ。医務室に案内させるわ」

彼の言葉にレリィが頷き、彼女の案内で

黒鉄はルクスを医務室へと運んだ。

しかしこの時、リーズシャルテがルクスの事

を見つめながら笑みを浮かべていた事に、

黒鉄は気づかないのだった。

 

 

突然のガーゴイル襲来の混乱も収まり、ルクス

の傷の処置(と言っても消毒して包帯を巻いた

程度だが)が終わると、黒鉄はライグリィに

よってレリィの待つ学園長室へと呼ばれた。

 

そこには、レリィ、ライグリィ、そして黒鉄の

3人だけが集まっていた。

 

「さて、クロガネ君。このたびは生徒達を

 守ってくれた事に感謝するわ。あなたが

 いなければ、どれだけの被害が出ていた

 事か」

「礼は良い。アビスの危険性は我も理解して

いる。それが3体も現れたのだ。見過ご

してはおけん」

「そう。……それにしても、凄いのね

 クロガネ君は。まさか生身でアビスを、

 それも2体も葬れるなんて」

 

直後、レリィの表情から笑みが消える。

「あなたって、何者?」

 

先ほどまでの柔和な笑みを捨て、レリィは

警戒し、探るような視線で黒鉄を見つめる。

ライグリィはレリィの隣で僅かに冷や汗を

流す。

なぜなら目の前に生身でアビス相手に互角に

戦う黒鉄がいて、更に自分達はまともに

武装していないのだ。

下手に怒らせたらどうなるか、と言う不安が

彼女にはあったのだ。

 

「生徒を守ってくれた事には感謝しているわ。 

 ……けれど、素手でアビスを倒すなんて

 普通じゃない。だからこそ、貴方の事を

 疑ってしまう」

「そうか」

レリィの言葉に、小さく頷く黒鉄。

 

やがて……。

「まぁ、その反応は分かる。しかし、これは

 先ほどルクスにも言ったが我の正体を

 そう易々と他者に話す事は出来ない。

 今の我に言える事は、我はあくまでも

 放浪者であり特定の国家や組織の下に

 付き働いてなど居ない、と言う事だ」

「つまり、私達に、もっと言えば新王国に

 害をなすつもりはない、と?」

「無論だ。しかし、我の言葉に確たる証人は

 愚か証拠も無い。そちらが我の言葉を

スパイの妄言と一蹴すればそれまでだろう。

だが我には我自身の言葉を信じて貰う

以外、何も無い」

「確かに、ね。……正直な話をすれば、貴方が

 自分の事を語ってくれない限り、私達は

 貴方の素性を知る術は無い。どこの誰で、

 何が目的なのか。どうしてそのような

 人を超えた力を持っているのか。

 正しく、謎は尽きないって所ね」

 

「それで、学園の長としてそちらはどうでる?」

「正直に言えば、バルトシフトさんとの戦いを

 見て貴方が嘘つきでは無い事は、あの時理解

 したわ。試合が終わった段階では、解放しても

 良いと私は考えていた。正直驚異的だとは

思ったけど、試合の態度などから鑑みて、

悪人ではないと私は判断しました」

「そうか」

机に肘を突き、手を組み合わせ静かに語るレリィ。

そこに嘘偽りの様子は無く、彼女は黒鉄を解放

しても良いと考えていた。

 

黒鉄がアビスを素手で倒す姿を見るまでは……。

 

「……でもね、アビスを素手で倒したと言う事

は、少なくとも貴方一人で上級ドラグナイト

3人分の戦闘力があると言う事。それも

非武装の段階で。はっきり言って異常も異常。

普通じゃない。だからこそ、見逃す事は

出来ない。貴方の力は、大きすぎる物。仮に

新王国の敵となれば、私達の受ける被害は

想像を絶するでしょうね」

「それで?」

「本音を言えば、貴方を拘束すべきだと私は

 考えている。でもきっと、貴方はそんな

 私達の拘束をいとも容易く破るだけの

 パワーがある。だって、アビスを素手で

 撲殺出来るんでしょ?鉄の手枷なんて

 簡単に引きちぎれるんじゃない?」

「まぁな」

黒鉄のパワーを見てしまったレリィとしては、

どんな拘束も彼には無意味だろうと考えて

いた。そしてそれは事実だ。

 

どんな牢屋の壁も拘束も、黒鉄は破壊する

だけのパワーを持っていた。

「それに、少なくともクロガネ君には現時点

 で私達に対する敵意や悪意を感じない。

 ましてやここで私達がクロガネ君と対立

 し、貴方の敵と認識されてしまうことは、

 もっとも避けるべき事態」

そんなレリィの言葉に、ライグリィは

『確かに』と心の中で頷いた。

 

現在最上級生である3年生は演習のため

アカデミーを離れており、学園最強と

言われる3年生の神装機竜の使い手も演習

のためここには居ない。ここで黒鉄と

対立する事は、愚策中の愚策である事を

ライグリィは理解していた。

 

「だからね、クロガネ君」

 

理解していた、が、だからこそ次のレリィの

言葉が予想外だった。

 

「しばらく、この学園に滞在してくれない

 かしら?」

「えっ!?」

ライグリィは、レリィの言葉に驚き僅かに

上ずった声を上げてしまう。

「学園長!それは本気ですか!?ここは

 王国のドラグナイトを育成する場です!」

そして、黒鉄が何かを言う前にライグリィが

レリィに反論する。

 

レリィは、反論するライグリィを宥めてから

黒鉄に視線を向ける。

「どうかしら?」

「……我をここに滞在させる理由は?」

そう静かに問いかける黒鉄。その視線は、

静かに『嘘は許さん』と物語っていた。

 

「そうね。正直に言えば、『監視』。

 貴方が敵ではないと証明するために、

 私達が貴方を監視するためね」

「監視をすると言うのなら、ここである

 意味は無かろう?」

「そうかもしれない。でも、私達は貴方の

 力を見ている。だからこそ監視にも力が

 入ると言う物よ。それに、貴方を王都に

 送って監視下に置いた所で、逃げようと

 思えば逃げられるだろうし、王都で

 騒ぎが起こるのは不味いでしょう?」

「成程。王都から離れた場所で、尚且つ監視

 に適していると言う訳か、ここが」

「えぇ。それに、まだ学生とは言え

 ドラグナイトが複数人居るのもまた

 事実。最も、数を揃えただけじゃ

 クロガネ君を止めるのは無理そう

 だけど……。それで、どうかしら?」

 

「要は、お主達から敵ではないと信頼を

 得るためにここに留まれ。そう言いたい

 訳か」

「えぇ。その通りよ」

黒鉄は、レリィの言葉を聞き、しばし悩む。

「……もし仮にだが、我がここから実力で

 逃走すれば、やはり罪人の扱いは

 免れないのだろうな?」

「そうね。まず間違い無く、貴方は犯罪者

 として疑われるでしょうね」

 

「……ハァ」

黒鉄は、レリィの言葉にため息をつく。

「謂われのない罪で罪人扱いされるのは

 好かん。我の方は、まぁそちらの提案で

 納得しよう。好きに監視すればよい」

「あら?良いのかしら?貴方は放浪者

 なのでしょう?」

「これまではな。しかし、犯罪者

呼ばわりされてまで続ける旅ではない。

それに、少々気になる事があってな」

 

「気になる事?」

「うむ。今回のガーゴイル襲来。あれは

果たして偶然か?生徒達の反応から

しても、ここに直接アビスが現れた

と言うのは前例が無い様子。違うか?」

「……確かに、ここクロスフィードは

 ルインから出現するアビスを迎撃し王都

 を守る為の役割もある。けれどここより

 も前に関所などが点在しているから、

 いきなりここにアビスが現れると言うのは

 可笑しいわ」

「とすれば……。何者かが手引きした、

 と言うのも考えられる」

 

次の瞬間、黒鉄の言葉にライグリィは驚き

レリィの眉が僅かにピクつく。

「……そう考えた根拠は?」

「アビス、ルイン、そして機竜。これらは

 どれも超古代文明の遺産だ。そして、

 それらについて分かっていない事は多い。

 現に、機竜はどれもルインから発掘した

 物を使用しているだけで、自分達で

 作る事は出来ていない。つまり、お主等は

 旧文明について知らなさすぎる。ゆえに、

 お主等が『無い』と考える事が本当に

 『無い』と言い切るだけの確証が無い。

 例えば、アビスを操る装置のような物が

 ある、などな」

「……つまり、クロガネ君は今回の襲撃が

 人為的な物、だったと?」

「それについて確証は無い。しかし、アビス

 については謎が多い事からも、その点を

 留意しておいた方が良いだろうと我は

 考えている。そして、もし誰かが手引きした

 のだとすれば、今回の襲撃は単なる前哨戦

 なのかもしれぬ」

 

と言う黒鉄の言葉に、しばしレリィは

考え、そして……。

 

「だとすれば、単独でアビスと戦える

 クロガネ君は尚更ここに居て欲しいわね」

そう言って、隣のライグリィをチラ見するレリィ。

「ハァ。……分かりました。学園長がそう

 仰るのでしたら、私はもう何も言いません」

 

こうして、何の因果か黒鉄がアカデミーに在籍

する事になった。

 

「それで、クロガネ君には監視という事で

しばらくここで生活してもらう事になる

けど、どうしようかしら?用務員さんとか?

 ちなみにだけど、クロガネ君にドラグライド

 の搭乗経験なんてある訳……」

「む?ドラグライドならば何度か乗った事が

 あるぞ?」

「「え?」」

彼の言葉に戸惑う二人。

 

「以前、大規模な山賊に襲われてな。

 2機ほどワイバーンがいたが、問題無く

 ぶちのめしたのだ」

「そ、そう」

戸惑いながら頷くレリィの表情は、明らかに

引きつった物だった。

 

『問題無くワイバーン2機を撃破って。

 やっぱりと言うかこの子、もう立派に

 人外よね。まぁアビスに素手で勝った

 時点で十分だけど……』

と、内心思うレリィだった。

「その後、ふと機竜がどういう物か興味が

 沸いたのでな。ソード・デバイスを一本

 奪って纏ってみたのだ。まぁ飛べると言う

 意味では便利ではあったが、それ以外に

 対して魅力を感じなかったのでな。

 どこぞの野山に捨ててきてしまった」

「す、捨てた!?」

 

そんなゴミを捨てるみたいなノリでソード・

デバイスを捨てたと語る彼に、ライグリィ

は驚き目眩を覚えた。

「え~っと、ちなみにそれって新王国の

 内部での出来事、じゃないわよね?」

レリィも、戸惑い冷や汗を流しながら問い

かける。

「む?あれは確か……。ヘイブルグ共和国

 の領内だった気がするが?」

記憶を思い出しながら語る黒鉄に、二人は

安堵したようにため息をついた。

 

その後、黒鉄の今後について話を終えた後、

黒鉄は呼ばれてきたシャリスたちトライアド

の3人に案内されて学園長室を後にした。

 

黒鉄が去った後。

 

「ねぇ、彼の事、どう思う?」

「どう、とは?」

レリィに問いかけられたライグリィは質問の意図

が分からず問い返す。

「貴方の目から見て、あの子は善人?悪人?

 人となり、とでも言えば良いかしら?

 どんな人間性の人物に見えた?」

「は、はぁ。……正直、見た目に反して

 礼儀正しい人物だと思います。トライアド

 の3人から話を聞いた限りでは、牢屋に

 拘留されても、彼は『野宿よりはマシ』、

 と言ってさして怒る様子は無かったとの

 事です。何というか、懐の深い人物にも

 思えます」

「そう。とにかく、今は様子を見ましょう。

 今の私達には、それくらいしか出来ないわ」

「はい。分かりました」

 

その後、2~3話をした後部屋を後にする

ライグリィ。

一人残されたレリィは……。

 

「今回の襲撃が、単なる前哨戦かも

 しれない、か」

一人、ポツリと呟くのだった。

 

 

何の因果か、アカデミーに滞在する事に

なった黒鉄。

 

果たして、彼がここにいると言う事実が

何をもたらすのか。

それは、誰にも分からない。

 

     第2話 END

 

 




次回は編入のお話です。

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