最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
しかし、仕事が忙しくて殆ど時間が作れません。
しかもシフト制なので休日がランダムで。
自分は一昨日から7連勤ですよ。
愚痴ってすいみませんが、仕事に殺されそうです。
ガーゴイル襲来騒動の翌日。朝。
あの戦いでルクスは、リーズシャルテに認め
られ更に彼女の方針で、仕事として学園で
働くのではなく、『生徒』として学園に通う
事になった。
学園長であるレリィも、『将来共学化に向け
た試験入学』、と言う事でOKサインを出し
ていた。
「ハァ、なんでこんな事に……」
ルクスは昨日空いている部屋が無かった為
応接室で寝る事になったのだ。
それも……。
「しょうが無いであろう?既に決定した事だ」
黒鉄も一緒だったのだ。
相部屋の黒鉄が用意された制服に着替え
ているルクスの様子をぼーっと見つめながら呟く。
「それはそうですけど……。って言うか
クロガネさんは良いんですか?」
「む?監視しやすいから学園に居ろ、と
言う学園長達の提案か?まぁそれで我が
犯罪者ではないと信じて貰えるので
あれば、安い物だろう。我も旅をしている
とはいえ、特に差し迫った目的などは
ない。強いて言えば、世界を回っていた
だけの事だ。犯罪者呼ばわりされてまで
急ぐ旅ではない、と言う訳だ」
「そ、そうなんですか?」
「うむ」
ルクスは制服に着替えると、鏡の前で
身だしなみをチェックする。
「まぁ、僕としてはクロガネさんが
居てくれた事には感謝しているん
ですけどね」
「ほう?それはまた何故だ?」
「ここは、僕とクロガネさん以外男が
居ませんからね。男が僕一人だけだと、
正直場違いな気がして落ち着かないと
思うんですよね、僕。実際、働くのには
慣れてしまったんですけど、これだけは
どうも慣れなくて」
「そうか。……っと、もうそろそろ時間か」
黒鉄は壁に掛け立った時計を確認する。
外では案内の為にライグリィが待機して
おり、ルクスと黒鉄はアカデミーの2年生
になる事になった。
ルクスは年齢的な物を鑑みた結果だが、
黒鉄は本人曰く『年齢を忘れた』との事で、
大まかに年齢は20前後とされたが、ルクス
も同性の黒鉄が傍に居た方が安心する
だろう、と言うレリィの配慮によって
ライグリィが担任を努める2年のクラス
に籍を置くことになった。
揃って部屋を出るルクスと黒鉄。
「む?着替え終わっ、ていないな。
クロガネ。制服はどうした?」
出てきた二人を見て、ルクスは制服を
着ていたが、黒鉄が黒い私服姿のまま
だった事に疑問を持ち問いかけるライグリィ。
「すまないが、あれは我のサイズに
合わなかった。あれでは着る事が出来ん」
「何?」
首をかしげるライグリィに証明するため、
黒鉄は部屋に戻って、『袖と裾の部分が破けた
制服とズボン』を持ってきた。
「…………」
それに絶句してしまうライグリィ。
「この通り、腕を通そうとして袖が。足を
通そうとしてズボンの裾が、それぞれ
破れてしまった」
「……わ、分かった。ならば仕方が無い。
当面は私服での授業出席を許可しよう。
では、行くぞ」
先を歩くライグリィの後に続く二人。
ちなみに……。
『何て言うか、こうしてクロガネさんと
並ぶと、自分が小さいって分かるな~』
並んで歩く黒鉄の背丈を見上げながら
感慨にふけるルクス。
ある意味、二人の背格好や体つきなどは、
対極に位置していると言えた。
ルクスは華奢で整った顔立ちは、正しく美少年
と呼ぶに相応しい物。
対して黒鉄は、がっしりとした肉体にその身長。
正しく『男』、いや『漢』と表現しても過言
ではない、逞しい出で立ちだ。
ふと、ルクスは自分の二の腕を触る。
決して軟弱ではないルクスだが、それでも
ムッキムキの黒鉄の肉体を見ると、
自信を喪失してしまいそうになる。
『って言うか、この制服もサイズは女子のと
あんまり変わらないよね?それを普通に
着れる僕って一体……』
と、そんな事を悩むルクスであった。
「と言う訳で、今日からこの学園に通う事に
なったルクス・アーカディアとクロガネだ。
事前に説明があったと思うが、彼等は
将来の共学化に向けた試験のためにここに
いる。男性がいる事に慣れない者も多い
と思うが、よろしく頼む」
教室に案内され、教壇の脇に立たされる
ルクスと黒鉄。
教室には、リーズシャルテの姿もあった。
しかし問題は、それ以外の生徒達のルクス
と黒鉄に対する視線だ。
「見て。あの銀髪の子でしょ?姫様と一緒
になってガーゴイルを倒したって言う」
「え?じゃあ隣の大きな人は?」
「何でも、素手でシャリス先輩の
ワイバーンと戦って、更に襲ってきた
ガーゴイル2体を倒したそうよ?」
「えぇ?それって流石に法螺話じゃ……」
「いやいや。実際に見た人が何十人も
居るんだよ。何でも、素手でガーゴイル
の首をへし折ったとか」
「え?私が聞いた話だと、ガーゴイルの
首を食いちぎったって聞いたけど?」
と、黒鉄とルクスの話題で盛り上がる女子達。
「な、なんかクロガネさんの方は凄い事に
なってますね」
「まぁ、色々非常識な存在であるからな、我は。
それも致し方あるまい」
教壇で静かに話すルクスと黒鉄。
「んんっ!」
やがて、女生徒達の喧噪はライグリィの咳払い
によって収まった。
「え~では、二人とも自己紹介を。まずは、
ルクス・アーカディア」
「あ、はい。……えと、改めまして。
ルクス・アーカディアです。
……よろしくお願いします」
多数の女子達の視線を受け、ルクスは
ぎこちない挨拶を述べる。
「次は我か。我の名は黒鉄だ。生まれは
遙か東方の島国。元々は旅人であったが、
縁あってしばらくここで皆と共に勉学に
励む事になった。無知故に世話を掛ける事
もあるかもしれぬが、これからよろしく頼む」
そう言って、軽く会釈をする黒鉄に、生徒達
は戸惑い、隣のルクスはその反応に苦笑を
浮かべた。
『やっぱり、クロガネさんって見た目と
真逆で礼儀正しい人だよな~』
と、考えているルクスだった。
「では、二人とも空いている席に座りなさい」
「はい」
「うむ、分かった」
ライグリィに促され、空いている席を探す
二人。
『出来ればクロガネさんと一緒に座りたい
なぁ』
ふとそんな事を考えるルクス。
ここにおいて二人の知り合いと呼べる異性は、
精々リーズシャルテ、もといリーシャ(ちなみ
にルクスは愛称の『リーシャ』と呼ぶ事を昨日
の話で許されていた)とクラスメイトであった
ティルファーくらいだ。
後はほぼ全員が初対面であり、今のルクスでは
もし仮に相手が初対面だったなら、緊張で
まともに授業が受けられない、と言う謎の
自信があった。
しかし、居たのだ。このクラスには。
ルクスの『幼馴染み』が。
「あれ?ルーちゃんだ」
「え?」
不意に聞こえた声に足を止め、ルクスは声の
主の方へと視線を向ける。
声の主は、桜色の髪をツインテールにした、
どこかおっとりとした感じの少女だった。
「え?もしかして、フィルフィ?」
「うん。久しぶり、だね」
戸惑うルクスの言葉に頷く、フィルフィと
呼ばれた少女。
「む?ルクス、知り合いか?」
「あ、えと、はい。彼女は『フィルフィ・
アイングラム』。僕の幼馴染みなんです」
首をかしげる黒鉄に答えるルクス。
「何だ?知り合いがいたのか。ならば
そこの席が良いんじゃないか?」
「あ、はい。そうします。……あっ、でも……」
ライグリィの言葉に頷くルクスだったが、
それでは黒鉄の方に視線を向ける。
「すみませんクロガネさん」
「む?何を謝る必要がある。良い良い。
見たところ久しぶりの再会のようだし、
我がいては邪魔であろう?他を探す」
そう言って、更に奥の段に向かう黒鉄。
『さて、と。どうしたものか?』
と、周囲を見回す黒鉄。教室の机と椅子は
長方形で、一つに2人~3人は腰掛けられる
作りになっており、それがいくつかある。
しかし、そのどれにも最低1人は座っており、
空きのある椅子は無い。
『しかし、我の風貌と噂から考えて
怯えられている可能性もある。
どうするか?』
と、悩んでいた時。
「あ、あの……」
「む?」
不意に声を掛けられたので、そちらを
向く黒鉄。見るとそこには、どこか
見覚えのある茶髪の少女の姿があった。
「む?お主は確か、先日の……」
「はい。一昨日助けて貰いました。
『キャロル・メリーサム』と言います。
あ、それで、その、良かったら隣、
良い、ですよ?」
先日、賊に襲われていた所を黒鉄に助け
られた3人の内の一人、キャロルはそう
言って自分の隣に座るように促す。
「そうか、すまぬな。では……」
キャロルに促された黒鉄は彼女の傍に腰を
下ろすが……。
「…………」(ちょこん)
「…………」(ズシッ!)
何というか、キャロルもまぁまぁ小柄な方
なので、ガチムチ巨体の黒鉄と並ぶと
めちゃくちゃシュールだった。
実際、周囲で見ていた者は、そんな擬音
が聞こえて来るような錯覚に見舞われていた。
ちなみにルクスはと言うと、フィルフィが
自分の事を昔のように『フィーちゃん』と
呼ぶように迫ったり、逆に『ルーちゃん』と
呼ばれていたことが周囲にばれたりして、
顔を紅くするハメになっていた。
そして、授業が終わり、その間の小休止の時間
になれば、二人の元に女子達が集まる。
ルクスの方は幸か不幸か、痴漢云々の噂が
すっかり消えそこそこ好意的に受け入れられて
いる。そしてお昼休み。相も変わらずルクス
の所にやってくる女子達。
対して黒鉄の方も……。
「ねぇねぇ。クロガネ君って何で私服なの?」
「制服は渡されたのだが、サイズが合わずに
着られなかったのだ。バルハート教諭からは
当面私服で居る事を許可されておる」
「クロガネ君、今までどこの国に行ったの?」
「一通りの国は回った経験があるな。
ここクロスフィードに立ち寄ったのは
一昨日が初めてだが、新王国には何度か
来たことがあるぞ」
「見た感じ一人旅だけど、危なくないの?」
「いや、危険はあるぞ。山賊に獣。危険は
たくさんある」
「え~?それって大丈夫なの?」
「無論だ。だからこそ今ここにこうして、
五体満足で居ると言う事だ。柔な
鍛え方はしておらん。そんじょそこら
のごろつきや熊等は余裕だな」
「へ、へ~~」
と、このようにクロガネは女生徒一人一人
の質問に順番に答えていた。
その脳筋な見た目を真っ向から否定する
態度に驚いている生徒もいたが、その
礼儀正しさもあってすぐに打ち解けた。
……熊を余裕で倒せると聞いた時は若干
皆引いたが。
ちなみに、その傍ではルクスが雑用王子
と呼ばれ仕事を受けている事から、ルクス
に女子達が依頼を頼もうとしたり、
リーシャがやってきてルクスに
『従者になって欲しい』と話しをしたり、
更にはフィルフィがそれを止めに
入ったりと色々大変な事になっていた。
「まぁ待て待て」
静かに白熱する二人の論争を見ていた黒鉄が
席を立ち、二人を止める。
「問題の中心はルクスであろう?ルクスよ、
お主の意見はどうなのだ?」
「え!?」
黒鉄が止めに入り、渦中の人物であるルクスに
話を振る。するとルクスに視線が集まり、
彼は冷や汗を浮かべる。周囲の女子達も、
『どっちを選ぶのかしら?』なんて言って
ルクスの選択に興味津々だ。
「あ、え~っと、その……」
対応に困っていたルクス。しかし……。
「ちょっと良いかしら?」
不意に聞こえた凜とした声。その主は、
蒼い髪のロングヘアの少女だった。
少女は、『学園長の用でルクスを連れてくる
ように言われた』、と言ってルクスを連れて
行ってしまった。
それを見送った黒鉄だったが……。
「すまぬがキャロルよ。一つ聞いても良いか?」
「あ、はい。何ですか?」
黒鉄は席に戻ると、彼女に声を掛けた。
「先ほどの蒼い髪の少女、もしや神装機竜を
持って居るのか?」
「はい、そうですけど、なんで分かったんですか?」
「いや。我も汎用機竜のソード・デバイスは
何度か目にしたことがあるのでな。彼女が
下げていたデバイスは、汎用機竜のそれと
異なる物だったので、もしやと思った
のだ」
「あぁ、成程。それで」
キャロルは黒鉄の説明に頷くが、肝心の
黒鉄はソード・デバイスについて少し
考えていた。
『神装機竜のソード・デバイスは普通の
物と少々作りが異なる。先ほどの
少女は青いレイピア型。リーズシャルテ・
アティスマータは赤い両刃剣。
そしてならば、ルクスが携えている
あの黒いもう一本のデバイスは?
デバイスの色は機竜の色を現している。
もしそうなら、あのデバイスの機竜は
黒い。……まさかな』
黒鉄はそこまで考えて思考を中断するの
だった。
ちなみに、昼食はパンをかじっていた
黒鉄だったが、食べる機会を
逃して居たルクスに残りをこっそり
渡すと感謝された黒鉄だった。
そして、その日の夜。
放課後になるとルクスの元に女生徒たち
から大量の依頼が舞い込んできた。
また、依頼は学園側からも出ており、
今も本日最後の依頼、女子風呂掃除を
こなしているルクス。
そして、その傍には黒鉄の姿があった。
「すみませんクロガネさん。
手伝って貰っちゃって」
「良い良い。流石にあの数の依頼を
こなすのは大変であろう?
我も手持ち無沙汰のだ。これ位
の手伝い、ちょうど良い。
それに、『働かざる者食うべからず』、
と言う諺もあるからな。
我も少しは働かねば」
そう言って、黒鉄はルクスの掃除を
手伝っていた。
ちなみに、黒鉄は『濡れるから』と
言ってズボンの裾をまくり、上は
何も着て居らず、上半身裸だ。
そして更に、改めて黒鉄の裸体を
間近で見たルクスは、同性だと言うのに
その厚い胸板と見事なシックスパック、
脂肪というものをそぎ落として作られた、
筋肉だけの見事な肉体美に顔を赤く
していた。
と、その時。
「む?ルクス、誰か来たぞ」
「え?えぇ!?」
黒鉄の言葉に戸惑うルクス。そうこう
しているうちに戸口に人影が。
「あっ!ちょっ!待って!今
掃除中ですから!」
咄嗟に叫ぶルクス。しかし、短いノック
の後、扉が開かれた。
入ってきたのは、制服を着ていたアイリ
とノクトだったが……。
「全く。兄さんはもしかして、裸の
女性でも期待して、っ!?」
開口一番に皮肉を言おうとしたアイリ。
しかし、そこに上半身裸の黒鉄がいるのに
気づくとアイリ、更にはノクトまで
顔を真っ赤にして扉を閉めた。
「ちょっ!?なんで裸なんですかクロガネさん!」
「む?裸?我は服を着ているが?」
そう言ってズボンに目を向ける黒鉄。
「下のことじゃありません!上です上!
何で何も着ていないんですか!」
「い、YES!その通りです!破廉恥です!」
「我はただ、風呂掃除をしていただけ
なのだが。まぁ良い」
そう言うと、黒鉄は脱衣所に向かう。そこ
に服をおいてるのだから仕方無い。
すると、脱衣所から女子2人が顔を
真っ赤にして入れ替わるように風呂場に
入ってくるのだった。
それを見ていたルクスは、苦笑する事
しか出来ないのだった。
その後、アイリとノクトから、掃除が
終わったら黒鉄を連れて寮の大広間に
来るように言われたルクスは、言われた
通り黒鉄を連れてやってきた。
その後、大広間で待って居たアイリに
連れて行かれたのは食堂だった。
そして……。
「「「「2人とも、編入おめでとう!」」」」
そこには、多数の生徒達がいて、テーブル
の上には無数の料理が並べられていた。
「え?」
「ほぅ、これは……」
理解が追いつかないルクスと、周囲を
見回しながら笑みを浮かべる黒鉄。
「改めて、私達は君たち2人を歓迎する
よ。ルクス君。クロガネさん」
そこに、2人に声を掛けるシャリス。
ルクスはその事実に驚き呆然としている。
「我々のために。良いのか?」
「もちろんだとも」
黒鉄の問いかけに頷くシャリス。
そして黒鉄は静かに隣で呆けているルクス
の肩に手を置く。
「あっ」
「折角の彼女達の好意だ。いただくと
しようではないか、ルクス」
「は、はい。いただきますっ」
黒鉄に促され、ルクスは我に返った。
そして、2人は彼女達に歓迎されながら
料理を堪能していた。
そんな中で……。
「む?」
黒鉄の目に、少々焦げて形の崩れた料理
が映った。
「これは……」
皿を手に取る黒鉄。
「あぁ、それは私の奴だから」
その時、ティルファーが彼に声を
かけた。
「ごめんね、出来たには出来たんだけど、
ちょっと失敗しちゃってさ」
そう言って笑うティルファーだが、
黒鉄の目は、彼女の傷ついた指に
張られた絆創膏を見逃さなかった。
『……怪我をしてまで作ってくれた
料理。この皿には、それだけの
想いが込められていると言う訳か。
ならば、いただくとしよう』
そう考え、黒鉄はフォークで料理を
口に運び、咀嚼して飲み込んだ。
「ちょっ!?クロっち!?私のは
あんまり美味しくないと思う
けど!」
若干戸惑い気味のティルファー。
「ごくんっ。……ふむ、確かに、
味はまだまだだ」
そしてその言葉に、ティルファーは
一瞬息を呑み、周囲の者達も静かになる。
ルクスは冷や汗を流している。
だが……。
「しかし、それでもお主が一生懸命
作ってくれた料理である事には
他ならぬ。このパーティーで料理を
出してくれた、という事は我ら
2人を歓迎してくれている、という
事で良いのであろう?」
「そ、それはそうだけど……」
戸惑い気味に頷くティルファー。
「なればこそ、この料理を無駄にする
訳には行かぬ。お主が我らのために
作ってくれたのだ。どうして無駄に
出来ようか」
そう言うと、黒鉄は更に二口、三口と
ティルファーの料理を食していく。
「え、で、でも、美味しく無いんじゃ……」
「まぁ、確かに味はまだまだである。
しかし、それだけが全てでは無かろう?
料理に込められた想い、無駄には出来んよ」
そう言って、黒鉄は笑みを浮かべながら
ティルファーの料理を食べていた。
ちなみに……。
「…………」
そのすぐ傍では、ティルファーが顔を
赤くしていたのだった。
そして更に………。
「あ、あれは、もしかして……」
「YES。これは恋の予感です」
その様子を見ていたシャリスとノクトが
コソコソと話をしていたのだった。
更に……。
「く、クロガネとやら」
パーティーの中で、リーズシャルテが
黒鉄に声を掛けたのだ。
「む?我に何かようか?」
「あ、あぁ。その、なんだ。以前、学園長
室でお前を嘘つき呼ばわりした事、
まだ謝罪できていなかったからな。
この場を借りて謝罪しておきたい。
申し訳無かった」
そう言って頭を下げるリーズシャルテ。
周囲の者達がザワザワとざわめく。
すると……。
「その事はもう良い。我も自分が非常識
である事は分かりきった事。言葉だけ
では信じられないのも無理は無い。
あの時は少々怒りを感じたが、もはや
過去の事だ。頭を上げて欲しい」
「そ、そう言って貰えると助かる」
こうして、黒鉄とリーズシャルテは無事に
和解することが出来た。
そんなこんなでパーティーは続いたが、
その終了後、ルクスと黒鉄には問題があった。
「大丈夫かルクスよ?」
「ごめん、なさい。クロガネさん」
黒鉄はルクスを片手で支えながら一緒に
歩いていた。
実は今朝まで使って居た応接室が手入れ
の関係で使えないのだ。更に言えば、
アカデミーに男子寮など無い。つまり
ルクスと黒鉄には今夜の寝床が無いのだ。
パーティーの席にいたライグリィに
相談すれば良かった、と後悔する
ルクス。
やがて、疲れやら満腹感から来る眠気で
限界だったのか、ルクスは黒鉄に腕を
引かれながらそのまま寝落ちしてしまった。
「おい、ルクスよ。このような場所で
寝る物ではないぞ。風邪を引くぞ。
ルクス、ルクスよ」
呼びかける黒鉄。だがルクスはもう
眠ってしまったのか返事が無い。
「うぅむ、どうしたものか?」
と、黒鉄が悩んでいると……。
「あ、ルーちゃんとクロガネさんだ」
「む?」
後ろから声が聞こえたので振り返る
黒鉄。見ると、そこにはルクスの
幼馴染みであるフィルフィがいた。
「お主は確か、ルクスの幼馴染みの。
フィルフィ、だったか?」
「うん、そうだよ。……所で、
ルーちゃん、どうしたの?」
そう言って首をかしげながらルクスに
目を向けるフィルフィ。
「あぁこれか。どうやら疲れなどが
溜まっていたようでな、ルクスが
眠ってしまったのだ。しかし今夜
の我々には泊る部屋が無いのだ。
我は最悪野宿でも良いのだが、
ルクスも野宿、と言う訳には
行かんだろう。フィルフィとやら。
どこかに空き部屋などは無いか?
最悪、ルクス1人が泊まれれば
それで良い」
「分かった。なら、付いて来て」
そう言って歩き出すフィルフィ。
黒鉄は眠っているルクスをお姫様抱っこ
で抱えると彼女に続いて歩き出した。
ちなみに、この時の姿を女子生徒数人
に目撃されており、のちのち女子達の
間で、BでLな話題が取り沙汰されるの
だが、それはまだ先のお話。
その後、フィルフィに案内された部屋
のベッドにルクスを寝かせた黒鉄は
部屋を出て、寮の外へ。そして、
夜のアカデミーの敷地内を歩き回ると、
敷地内に小さな池を見つけ、そのすぐ
そばにあったベンチに体を預けると、そこ
で外套を毛布代わりにして眠りにつくの
だった。
翌朝。シャリスはティルファーと共に
学園のあちこちを歩き回っていた。
理由は黒鉄を探していたからだ。
「クロガネさん、一体どこにいる
んだ?」
「寮にはいなかったね~」
あちこちを歩き回っている2人。
その時。
「ん?」
シャリスは、大勢の女生徒達が何やら
茂みの前に集まっている事に気づいた。
「……何をしてるんだ?」
「さぁ?」
シャリスの言葉に首をかしげるティルファー。
念のためそちらに向かってみる。
「君たち、こんな朝早くに、こんな場所
で何を……」
『何をしている』、と聞こうとしたシャリス
だったが、その声は途切れてしまった。
隣に居たティルファーも、無言で『その
光景』に目を奪われてしまった。
そこでは……。
「89、90、91、92……」
上半身裸の黒鉄が、樹の枝に左手一つで
ぶら下がり、懸垂のように左腕の力だけ
で自分の体を持ち上げている。右手は
腰元に当てており、使って居ない。
やがて、数えていたカウントが100に
なると、左手と右手の位置を切り替え、
また1からカウントを始めた。
その後も、枝に足を引っかけてコウモリ
のようにぶら下がると、腹筋の力だけ
で体を起したり、地面に降りると片手だけ
で腕立て伏せをやったりして鍛錬に
余念が無い黒鉄。
女子達はそんな黒鉄の、逞しい肉体に
見惚れていたのだ。引き締まった筋肉。
厚い胸板。見事なシックスパック。
彼女達は昨夜のルクスのように、彼の
完成された肉体に見惚れていたのだ。
そして、それはシャリスやティルファー
も同じだ。士官候補生として、軍人を
目指す彼女達だが、彼女達の生まれや
歳を考えると、男の裸などまず見た事が
無いのが普通だ。
そんな男が彼女達の視線の先で
半裸でトレーニングをしている様は、
彼女達に衝撃を与えるには十分であった。
やがて黒鉄は地面に座り、柔軟を始めた。
それは言わば『ヨガ』だが、それを
知っている者は居ない。なぜならそれは
『旧文明』の文化だからだ。
やがて……。
「……先ほどから見ているようだが、
男の半裸だぞ?」
黒鉄は振り向く事なく、シャリスや
ティルファー、大勢の女子達が
いる茂みに声を掛けた。
直後、彼女達の体が震える。
『怒られる!?』とでも考えたのか、
何人かが逃げ出そうとするが……。
「我のトレーニングなぞ見ていて
面白いのか?まぁ邪魔をせん分には
好きにせよ」
肝心の黒鉄は怒った様子もなく、1人で
ストレッチに集中していた。
彼の、好きにせよ、と言う言葉に逃げだそう
としていた女子たちは思いとどまり、
彼のトレーニングを見守り始めた。
やがて、黒鉄はヨガストレッチを終えると、
今度はシャドーボクシングを始めた。
素早いステップで動き、繰り出される拳は
空を切る度に風を切る音が彼女達の耳に届く。
その動きに、無駄の二文字は無く、鋭い
パンチに彼女達は驚きながらも、切れのある
動きにどこか惚れ惚れしていた。
かつて男尊女卑が横行した新王国では、
男に対する良い認識を持たない女性も多い。
今アカデミーにはいないが、アカデミー最強
とされる3年生の女生徒も、男嫌いで有名だ。
そんな中で現れた彼は、アビスを素手で
圧倒する力を持ちながらも、どこか
優しく器の大きな男だった。
だからこそ、彼女達は黒鉄に興味を持った
のだった。
一方で……。
「……やはり、強いな。クロガネさんは」
1人ポツリと呟くシャリス。
「そりゃぁガーゴイルを素手で倒すような
人だからねぇ」
そんな彼女の独り言に相槌を打つティルファー。
「それもあるが……」
と、シャリスは呟きながら彼女はクロガネ
の動きに注目していた。
『速く、鋭く、重い一撃。体格に見合わ
ない軽やかな動き。……一体、あれ
ほどの強さを手にするために、どれだけ
の時間を費やしてきたのだろうか』
騎士の名門であるバルトシフト家の娘
だけあって、彼女もある程度剣術などを
嗜んできた。だからこそ、武道を極める
事の難しさ。そして、黒鉄レベルに
至るまで、どれだけの修練が必要なのか、
彼女は分かってしまったのだ。
彼女は改めて、黒鉄の『強さ』を理解する
のだった。そして、同時に……。
『しかし、ならば何故クロガネさんの名前
は世に広まっていない?あれほどの
強さを持っていれば、名前など簡単
に広まりそうな物だが……』
彼女は疑問に思った。しかし今の彼女に
その疑問の答えを見つけ出す術は無い。
『クロガネさん。あなたは一体、何者
なんだ?』
シャリスは静かに、鍛錬を続ける黒鉄の
背中を見つめるのだった。
彼女はまだ、その疑問の答えを知らない。
『今は』、まだ。
第3話 END
仕事をしているので投稿スピードが遅いですが、楽しんで
いただければ幸いです。
感想や評価、お待ちしています。