最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
朝の鍛錬をしていた黒鉄。そして偶然にも
それを目撃してしまったシャリスや
ティルファー。更に無数の女子達。やがて
黒鉄が鍛錬を終え、リュックに入れていた
タオルで汗を拭き、服を着ると、シャリス
とティルファーが彼に近づいた。
「おはようクロガネさん」
「あぁ、おはよう。シャリス、ティルファー」
と、2人をファーストネームで呼ぶ黒鉄。
彼はこれまで、親しくない相手はフルネーム
で呼んでいたが、シャリスたちトライアドの
3人に対しては普通に呼んで良いと彼女達が
言った事もあり、今では名前で呼び合う間だ。
「それにしてもどうして2人がここへ?」
「っと、そうだった。実は黒鉄さんを
探していたんだ」
「ほう?我を?」
「あぁ。実は黒鉄さんの部屋が決まったの
でね。それを知らせにな」
「そうであったか。しかし、我の部屋は
どこになるのだ?」
「あぁ、それについてだが、女子寮の
一部屋をあてがう事になったんだ」
「……何?」
シャリスからの言葉を聞き、黒鉄は
怪訝そうな表情を浮かべる。
「女子寮の一室をあてがうの言ったのか?
しかし我は男だぞ?女生徒たちの寮に
男の我が居座るのは、色々不味いのでは
無いか?反対意見なども出そうだが……」
「まぁ、確かに3年生などから、少なからず
反対意見もある。しかし、それでも
1年や2年、それに多少、と言う程度だが
3年からも肯定的な意見が出ている
のさ」
「ほう?しかし、なぜだ?我はここに
来てまだ数日だぞ?」
「やはり、例のアビスの一件が大きいの
だろうな。何せ、素手でアビスを
倒すほどの人だ。皆興味がある。
それに、接してみて分かった事だが、
クロガネさんは良い意味で実直だ。
裏表が無いというべきかな?」
「確かに。クロっちってストレートに
言う時あるよね」
シャリスの言葉に頷くティルファー。
「それに、やはり皆年ごろなのだろう」
「どういう意味だ?」
シャリスの言葉に、黒鉄は首を傾げた。
「異性に興味がある、と言う事さ。
ルクス君は、どちらかと言えば
美少年の部類だ。一方の黒鉄さんは
筋骨隆々のタフガイ、と言った所
だろうか?そんな異なる二人の
異性に、皆興味があるのだろう」
「成程」
『確かに、今の年ごろの子供ともなれば、
多感な時期か』
と、心の中で納得する黒鉄だった。
その後、黒鉄は二人に案内されて女子寮の
一角にある部屋に通された。
そこは女子寮の隅にある、他の部屋に
比べて狭い部屋だった。
「ここが我の部屋か」
中を見回す黒鉄。部屋の中にあったのは
机と椅子にベッド、あとはタンスや
クローゼットだけと、質素な部屋だった。
「すまない黒鉄さん。こんな部屋しか
用意できなくて」
その時、突然シャリスが頭を下げた。
「む?なぜシャリスが謝るのだ?」
「いや、実はこの部屋はこの間まで
倉庫だったんだ。元々、大掃除で
中にあった物を新しい倉庫に移して
どうしようかとみんなで話し合いに
なっていたのだが……」
「そこに我らが来て、我の部屋になった
と言う訳か。……しかし、謝る事は
無い。むしろ、こちらが感謝している
くらいだ」
「え?」
黒鉄の言葉にシャリスは首をかしげる。
「元々野宿もしていたので慣れては
いたが、流石にずっと屋根のない生活
ではな。小さくともベッドにテーブル、
椅子など家具も揃えられている。
シャリス達が頭を下げる必要などない。
むしろ、急な編入をしてきた我に、
このような部屋を与えてくれたのだ。
頭を下げるのは、我の方であろう。
……ありがとう」
そう言って、黒鉄は優しい笑みを浮かべ
ながら頭を下げた。
「「ッ!!」」
2人はその行動に驚きながらも、しかし
黒鉄の優しい笑みに顔を赤くしていた。
「そ、そっか~!あじゃあ私!フィルフィ
起こしてくる!あの子お寝坊さんだから~!」
「あっ!?待てティルファー!」
恥ずかしさから、その場を後にするティルファー。
彼女はシャリスの制止を振り切ってそそくさ
と行ってしまった。
「朝から元気だなティルファーは。
む?」
彼女を見送る黒鉄だったが、彼は目の前の
シャリスの顔が赤い事に気づいた。
「どうしたシャリスよ?顔が赤いぞ?」
「え!?い、いや、これは、その」
そのことを指摘され、彼女はますます顔を
赤くしながら必死に言い訳を考えていた。
しかし……。
「風邪か?少し前にアビスの襲撃があった
ばかりだ。体調を崩すのも無理は無い」
そう言うと、黒鉄はシャリスの額に自分の
手を当てた。当ててしまった。
「ッ!?ッ~~~~~~!?!?!?」
突然異性に触られた事で、シャリスは
声に為らない悲鳴を上げながら更に顔を
赤くする。
「ふむ。少し熱がありそうだな。
シャリス、今日は休日なのであろう?
部屋で休んではどうか?」
そう言って黒鉄はシャリスを気遣う。
まぁ、黒鉄のせいでシャリスは真っ赤
なのだが。
「あ、あぁそうだな!そうさせて貰う!
それではっ!」
そう言うと、シャリスは顔を真っ赤に
しながらその場を全速力で後にした。
「ふむ。あの様子ならば、少し休めば
落ち着くであろう」
走り去っていくシャリスを見送りながら
ポツリと呟いた黒鉄は部屋に入り、改めて
中を見回した。
「今日から、ここが我の部屋か」
黒鉄は感慨深そうに部屋を見回した後、
持っていたリュックを床に置き、ベッド
に腰掛けた。
「しかし、今日は休みか。……そう言えば
朝食もまだであったな」
ポツリと呟いた黒鉄。しばし間を置いてから、
彼は立ち上がり部屋を出た。
のだが……。
「ねぇみんな大変~~~~!!」
「あ~~~~!!!待って待ってぇ!」
「……学園は今日も騒がしいなぁ」
直後、寮の中にティルファーとルクスの
絶叫が響くのだった。
そして、それを聞いていた黒鉄は
誰にいうでも無くポツリと呟くのだった。
その後、食堂で合流したルクス、アイリ、
ノクト、そして黒鉄は一緒のテーブルに
座っていた。
「そうか。では、我が送り届けた部屋が
フィルフィ・アイングラムの部屋だった
のか」
「はい。朝、気がついたら部屋にフィーちゃ、
フィルフィが居て、そしたら……」
「ティルファーが来て、今朝の騒ぎか」
「はい」
黒鉄の言葉に、項垂れてため息をつくルクス。
「全く。何をやってるんですか兄さんは」
更に、そんな彼にアイリもまたため息をつく。
「転校早々幼馴染みの部屋にお泊まり
だなんて」
「いや、すまないアイリ。ルクスをあの
部屋に運んだのは我だ。あの時
ルクスは眠っていたのだし、あまり
責めてやるな。むしろ非は我にある」
そう言って黒鉄はルクスを擁護する。
「確かに、黒鉄さんの言い分は
分かります。ですが、それと兄さんが
幼馴染みの部屋でお泊まりしていた
事は別問題です。大体、どうして
廊下で眠ってしまうんですか兄さんは」
しかし、アイリはそう言ってため息をつく。
「うぅ、ごめん。でもホントに疲れてた
んだよ。それで、その、意識が……」
「そうですか」
ルクスの言い分に、アイリはどこか
呆れ気味に頷く。
「それで、お部屋の方はどうなった
んですか?」
彼女にしてみれば、兄であるルクスが
幼馴染みとは言え女子と同じ部屋で
生活すると言うのが、不安でしょうがない
様子だった。
「それが、その事をレリィ学園長に
相談したんだけど。何でも空き部屋が
もう無いみたいで」
「そうですか。所で、クロガネさんの
方はどうなのですか?」
「我の方は元々倉庫だった小さな部屋を
あてがって貰った。小さいが生活する
のに問題は無い」
ノクトの問いかけに答える黒鉄。
「それで?ルクスは学園長に相談したの
だろう?どうだったのだ?」
「それが……」
そう言って話すルクス。彼、正確には
レリィ曰く『妹のこと、よろしくね』と
言っていたそうだ。
「はい?!」
「お姉さん公認、ですか」
まさかの言葉に驚くアイリと、ノクトも
小さいながらも驚いている。
「まぁ、2人が幼馴染みであるが故の
配慮なのやもしれぬな。全くの初対面
で慣れない相手よりは、まだ親しい友人
知人の方が落ち着ける。
そう言う配慮から、フィルフィ・
アイングラムがルクスのルームメイト
になったのやもしれぬな」
「とはいえ、色々誤解を招きそうな
のは間違い無いですね」
黒鉄の言葉にそう応えるノクト。
実際、先ほどまでティルファーが色々
騒ぎまくったもんだから、学園内では
ルクスとフィルフィについて色々な
噂が飛び交っているのが現状だ。
「ハァ。既に学園は、兄さんの色んな
噂で持ちきりですよ」
「ホントに!?」
「えぇ、それはもう色々な噂で、ですよ」
「まぁ、得てして噂とは尾ひれが付く物
だからなぁ。仕方無いと言えば、
それまでなのだがなぁ」
アイリの言葉に頷く黒鉄。
「もう行きます」
そう言うとアイリは席を立ち、ノクトも
それに続く。
「一緒に朝食でもと思ったのに………」
と、残念そうなルクス。だったが……。
「だって、これ以上一緒にいると、もっと
一緒に居たくなってしまいますから」
「え?」
小さく囁かれた言葉に首をかしげるルクス。
「冗談ですよ兄さん!」
アイリはそう言ってすぐに否定するが、
黒鉄は内心……。
『ふむふむ。2人は仲の良い兄妹だなぁ。
まぁ、良きことだ』
と、彼等を見守りながらそんな事を
考えていた。
しかし……。
「それと、≪例の件≫。くれぐれも気をつけて
くださいね?」
「あぁ、分かってる」
何かを念押しするアイリと、どこか決心した
ような表情で頷くルクス。黒鉄はそんな
2人の横顔を見守りながら、ルクスには
何か、『為さなければならない大きな事』が
あるように感じていたのだった。
その後。
「ルクスよ。少し良いか?」
共に朝食を済ませたルクスと黒鉄だったが、
廊下に出て少し歩いた所で黒鉄の方から
ルクスに声を掛けた。
「はい。何ですか?」
足を止め振り返るルクス。
「我に、例の件とやらを深く追求する気は
無い」
「ッ」
黒鉄の言葉に、ルクスは静かに息を呑んだ。
「あの、クロガネさん?」
「分かっている。余計な詮索はしない。
……だが、もし自分でどうしようも
無い事に直面したなら、我を頼れ。
それだけ言っておきたかったのだ」
「え?で、でも、クロガネさんは、その、
無関係、ですよね?それがどうして」
「確かに。我は無関係かもしれぬ。
だが、困っている友人が居たならば、
それを助けるのは当たり前だと我は
考えている」
そう言うと、黒鉄は小さく笑みを浮かべた。
「こんな成りでも、面倒見は良い方だ。
何かあれば、我を頼れ。ではな」
そして、彼はそれだけ言うとルクスの
頭を撫で、歩き去って行った。
ルクスは、撫でられた頭に手を置きながら、
歩き去って行く彼の背中を見つめていたの
だった。
その後、ルクスは仕事があるのでそちらを
優先し、黒鉄は暇な事もあって、仕事を
探すべくレリィの元を訪れていた。
「え?仕事を?」
「うむ。食事を提供して貰い、住まう部屋
まで用意して貰ったのだ。恩返しも
かねて何か我に出来る事は無いかと
思ったのでな。こうして聞きに来た
次第だ。まぁ、我自身じっとしている
よりは体を動かす方が好きなのでな。
何か我に出来る仕事は無いだろうか?
体力には自信があるが?」
「ま、まぁ確かにクロガネ君はアビスと
素手でやり合うくらいだから体力面は
心配してないんだけど」
そう言って苦笑を浮かべるレリィ
だったが、やがて彼女は困り顔を
浮かべた。
「そうねぇ?どうしようかしら。
クロガネ君って、お掃除とか雑務って
出来る?」
「む?まぁ人並み程度には出来るが」
「そう。まぁ人手が足りないからって
ルクスくんを呼んだんだし。
じゃあ、お願いしても良いかしら?」
「うむ。……しかし、言っておいて何だが
どのような仕事になるのか、出来れば
ある程度説明が欲しいのだが、構わない
だろうか?」
「えぇ。そうねぇ、クロガネ君には基本的
に生徒や教職員からの要望を聞いて貰う
って形になるかしら」
「うむ。しかし、教職員からはともかく、
生徒達まで、とはどう言う事なのだ?」
「それがねぇ?この前リルミットさんが
ルクスくんの仕事依頼を受ける箱設置
したの、知ってるでしょ?」
「うむ。かなり人気があるのは知っている」
学園初の男。それも美少年と呼べる部類の
ルクスへ依頼が出来るとあってか、初日から
かなりの依頼が飛び込んでいるらしい。
「でもねぇ、ルクスくんは1人でしょ?
明らかに彼1人じゃ捌ききれない量の
依頼が来てて彼も私も困ってたのよ」
「成程。大体は読めたぞ。我にその依頼を、
ルクスの代わりに消費して欲しいと言う
事だな?」
「えぇ。その通りよ。って事で、さっき
もうクロガネくんの箱を設置してきたから。
悪いけど確認してきてね?」
「うむ。分かった」
その後、箱の場所を教えられたクロガネは
そこに向かっていた。
『と言うか、学園長は本人に無許可で
箱を設置したのか?我が仕事をしたい
と言わなかったらどうするつもり
だったのか。……それとも我が仕事
を探していると、自分の所に来るのを
察していたのか。読めない女だ』
と、考え事をしながら歩いている黒鉄。
『しかし、我はルクスと真反対の存在。
そうそう女子達が我に何かを求める
とも思えんが。む?』
通路を歩いていた黒鉄だが、角を曲がった
所で、通路の一角に女生徒達が集まって
いるのに気づいた。
『あそこは、確か我とルクスの箱を
設置した場所。成程、ルクスへの
依頼書を入れに来たと言う訳か。
とは言え、我の方の依頼書を回収
せねばな』
「すまぬ。少し良いか?」
『『『『『『ビクッ!?』』』』』
黒鉄が声を掛けると、彼女達は驚いた
ように体を震わせて慌てて振り返った。
「あ、あれ!?クロガネ先輩!?
どうしてここ、こちらに!?」
「いや何。我の依頼書の箱も設置された
と学園長に聞いてな。何か入っている
のか確認と、あるならば回収にと
来たのだ。通して貰っても構わぬか?」
「え?!ど、どうぞ~」
と言うと、彼女達は左右に避けて黒鉄の
道を空ける。
「さてと。まぁ入っているとは思わぬが、
一応確認を……」
と、黒鉄は箱に近づいて中を開けたのだが……。
「む?」
中を見て、内心驚いた黒鉄。そこには
二桁は軽く超えるだけの枚数の依頼書が
入っていたのだ。
「これは。……まさか我に依頼が来るとは」
中に入っていた依頼書を取り出して箱を
閉じ、数枚の依頼書の内容を確認する
黒鉄。
「あ、あの~。クロガネ先輩」
「む?あぁすまぬ」
そこに女生徒が声を掛け、黒鉄は自分が
箱の前に立っていて邪魔なのだろう、と
思ってすぐにその場から退いた。
「邪魔してしまってすまぬな」
「あ、いえ。そう言う事じゃなくて」
「む?」
違う、と言われ、首をかしげる黒鉄。
やがて、顔を赤くした女生徒達が
ゆっくりと黒鉄の前に立つ。
「あ、あのっ!良ければこの依頼書も!
お願いしますっ!」
そう言って、両手で依頼書を差し出す
女生徒。黒鉄は戸惑い、目をパチクリ
させながら彼女と依頼書の二つの間で、
視線を行ったり来たりさせていた。
「これを、我にか?ルクスにでは無く?」
「は、はいっ!」
「そ、そうか」
正直、自分に依頼が来るとは思って
いなかった黒鉄は戸惑いながらも
依頼書を受け取った。
「む?」
そして、彼は依頼を確認して首をかしげた。
「これは、『人生相談をして欲しい』?
本当にこんな事で構わぬのか?」
今受け取った依頼書の持ち主に声を掛ける黒鉄。
「はいっ!わ、私、男性とお話した事
無くて。ちょっと、相談したい事が
ありまして」
頬を赤くしながら何とか説明をする女生徒。
ちなみに、彼女にしてみれば、初めての
男性である黒鉄と2人っきりで話がしたい
と考えており、実際依頼の人生相談も、
半分ホントで半分嘘だ。
加えて、その魂胆は周囲の女生徒達には
バレバレである。と言うか彼女達も
大体似たり寄ったりなのだが……。
「ふむ、人生相談か。それならば今から
でも良いぞ?」
「「「「「えぇぇっ!?!?」」」」」
黒鉄の提案に、依頼主の女生徒だけでなく
周囲にいた女生徒まで驚いたような声を
上げる。
「わ、我は特にこの後予定も無いのでな。
相談くらいならば、今すぐでも
構わんが?」
何故依頼主以外が驚くのか黒鉄は理解
出来ず、戸惑いながらもそう答えた。
『ガシッ!』
「ぜひっ!お願いします!私の部屋で
二人っきりでっ!」
彼女は目をキラキラさせながら黒鉄の
手を取った。
そしてその周囲では、他の女生徒達が
目をギラギラさせていたのだった。
『……女心は何時になっても分からぬ
ものだなぁ』
黒鉄は1人、内心そんな事を
考えていたのだった。
その後、依頼主である彼女の部屋へと案内
された黒鉄。
女生徒は椅子に腰を下ろし、黒鉄は体格的に、
椅子に座ると椅子が壊れそうだったので、
床の上に胡座を掻いて座っている。
「それで、人生相談という事だったが、
何を相談したいのだ?」
「あ、え、えっと、実はその、私、
まだ1年で、授業とかに付いていくの
が精一杯で、それで少し、自分に
自身が持てなくて」
と、彼女は咄嗟に呟いた。
しかしその問題は彼女自身が真摯に
悩んでいる問題でもあり、今は男の黒鉄
と同じ部屋にいるからテンパってしまった
結果、戸惑って上手く喋れなくなって
しまっているのだ。
「ふむ。成程。いくつか聞きたいのだが、
構わぬか?」
「はい」
「では、授業に付いていくのが精一杯
との事だが、特に苦手な分野はあるのか?」
「はい。座学はまだ大丈夫なんですが、
機竜の操作。特に武器の扱いには、
全然馴れて無くて」
「ふむ。ここに来る前に、剣術などの戦い方
を誰かに教わっていた事は?」
「いえ。そもそも、私はクーデターが起きた
時まだ10歳程度でしたし、その当時は
その……」
「そうであったな。すまぬ、悪い事を聞いた」
5年前のクーデターでアーカディア帝国が崩壊
するまで国内では男尊女卑の思想が蔓延して
いたのだ。とすれば、今この学校に通う
生徒達は大体11~13歳程度の少女であった
事は予想が付く。そのような状況で、女が
武術を学ぶなど、まず周囲が許さなかった
だろう。
『しかし、そうであれば彼女はここに来る
まで武術を習った事など無い訳か。
であれば……』
「話を聞いて思った事を正直に言わせて
貰えば、その歳で、ましてアカデミー
に入学してまだ数ヶ月。しかも武器を
扱った経験が無いとなれば、それが
精一杯なのも無理は無かろう」
「そう、思いますか?」
「無論だ。……人は誰しも生まれながら
武器や道具の使い方を知っている訳
ではない。例えば裁縫に例えよう。
これとて、熟練者と呼ばれる者達も、
最初は針で自分の指を突き、傷を
作りながら歳月を重ねて技術を磨き、
身につけてきた。それは機竜も
同じ」
「じゃあ、私も、もっと頑張れば
凄いドラグナイトになれますか?」
「それについては、お主の努力次第だ。
……我の祖国、東の国に一つの
諺がある。『雨だれ石をも穿つ』、
と言う物だ。これは建物の軒先から
落ちる小さな水滴が時間を掛けて
穴を開ける事を言う。転じて、
小さな力でも努力し続ければ
いずれ大きな成果となる、と言う
意味だ」
「雨だれ石をも、穿つ?」
「そうだ。何か一つの道を究めるという
のは、決して容易ではない。先ほど
例に裁縫を挙げたが、熟練者と
呼ばれるくらいにまで上り詰める
には、年単位の時間と努力が
必要だ。お主は、自分の腕に対して
自信が無いと言っていたが、それは
当たり前だ。まだお主は真っ白な紙だ。
これから様々技と技術を吸収し、
真っ白な紙に色を付けていくのだ。
真っ白なままでは出来ない事があって
当然であろう」
「そう、ですか?私、まだ操縦とか、
全然ダメなんですけど、それでも、
良いんでしょうか?」
「無論だ。むしろ、そのダメな物を
出来るようにするためにお主達は
ここにいるのであろう?
なればこそ、学ぶ事が大事なのだ。
そしてまだお主達は学び始めたばかり」
と、そう言うと、黒鉄は立ち上がって
椅子に座る彼女の頭を優しく撫でた。
「あっ」
頬を真っ赤にしながら小さく声を漏らす女生徒。
「出来ない事を恥じる必要はない。
そこを、お主が気に病む必要は無い。
まだまだ、これからなのだからな」
「は、はひっ」
「焦らず、時に失敗してもそこから
学び、次に生かす事だ。努力を
続けた先には、必ず何かがある。
……今は自分を信じて、多くの
事を学べ。そして学び続けて、
それでも自分に自信が持てなければ、
また我に相談すると良い」
と、それだけ言うと黒鉄は撫でていた
手を離した。
「あっ」
すると、彼女はどこか名残惜しそうな声を
漏らした。
そして、そこまでして自分がやらかしたか?
と思う黒鉄。
「すまぬ。頭を撫でられるのは嫌だったか?」
「あっ、そ、そんな事、無いです」
「そうか。それは良かった。……所で、
相談の方は、もう大丈夫か?
まだ話を聞くことは出来るが?」
「あっ!も、もう大丈夫です!
アドバイス貰えてすっきりしました!」
彼女はそう言って顔を赤くしながら笑みを浮かべる。
「そうか。では、また何か心配事が
出来た時は、呼んで欲しい。
こんな男でも役に立てれば幸いだ。
ではな、失礼した」
「は、はひっ!ありがとうございましたっ!
クロガネ先輩!」
そう言って部屋を出て行く黒鉄を見送る
女生徒。
そして、黒鉄が出て行ってから数秒後。
「あ~~~~~~!」
顔を茹で蛸のように真っ赤にしてその場
に蹲った。そして……。
「と、年上の魅力、舐めてたかも」
顔を真っ赤にしながらそんな事を
呟いているのだった。
その後、黒鉄は女生徒達からの依頼で
部屋の片付けを手伝ったり、最初の
生徒と同じように人生相談を受けたり
と言った事をしていた。
そしてお昼休み。
最初に人生相談をしていた少女の元に
多くのクラスメイトたちが集まっていた。
「ね!ね!クロガネ先輩と話したんでしょ!?
先輩、どんな感じだった!?」
と、クラスメイトから早速質問攻めに
あっていた。
「あ、え、えっと、実はその……」
一方の彼女は頭を撫でられた事が恥ずかしい
のか、何やらモジモジしていた。
やがて、彼女は顔を赤くしながら手招きを
してクラスメイト達の顔を近づけさせると、
撫でられた事を耳打ちしたのだが……。
「「「「「え~~~~!?頭を撫でられたぁぁっ!?」」」」」
「声が大きいってば~~!」
叫ぶクラスメイト達のせいで耳打ちも意味が
なくなってしまったのだった。
「ま、マジで!?どういう経緯でそうなったの!?」
「うっ!?そ、それは、ちょっと不安がある
から相談したら、色々応援みたいな事
言って貰いながら、頭撫でて貰って……」
「それで!?それで!?どんな事言われたの!?」
「えっと、今は自分を信じて多くの事を
学べ、とか。出来ない事を恥じる必要は
ない、とか。色んな応援みたいな事
言われて、言われながら頭撫でて
貰って……」
少女は、あの時の事を思いだして顔を
真っ赤にしながら語った。
「それで!?それで!?どうだった!?
クロガネ先輩はどうだったの!?」
そして聞く少女達も顔を赤くしていた。
彼女達も、士官候補生とは言え多感な年頃
の少女。やはり色恋にはどうしても興味が
出るお年頃なのだ。
「その、年上の魅力、舐めてました。
凄く優しくてかっこよかったです」
「「「「「きゃ~~~~~!!!」」」」」
顔を真っ赤に染めて語る少女に、周囲の
乙女達も顔を赤らめながら黄色い悲鳴を
上げるのだった。
こうして、黒鉄の人気が、本人の
与り知らぬ所で上昇していたのだった。
そして夕方。
「ふぅ、こんな物か」
機竜関係の重たい荷物を運び終えた黒鉄
は、運び先の倉庫を出て周囲を見回した。
「もう夕暮れ時。仕事はここまでか」
そう言うと、彼は寮の方へ向かう。
が、その道中で黒鉄は、道脇のベンチに
腰掛けているルクスを見つけた。
「あれは、ルクス?」
黒鉄は彼の方に近づくが、肝心のルクスが
何やら深刻そうな表情をしていた事から、
黒鉄も表情を引き締め、歩みを進めた。
「ルクス」
「あっ。クロガネさん」
黒鉄は声を掛け、そのままルクスの隣に
腰を下ろした。
「どうした?浮かない顔をしていたが、
何か悩み事か?」
「……。分かり、ますか?」
「うむ。深刻そうな顔をしていた。
我に出来る相談であれば聞こう。
悩みは、1人で抱えていても答えが
出ないからこそ悩みなのだ。
我に答えられる事であれば、少しは
アドバイスが出来るかもしれぬが?」
静かに語る黒鉄。やがて……。
「実は……」
ルクスもまた静かに悩みを口にした。
今日の昼間、リーズシャルテと街中へ
出かけた際、彼女から王女とは何なのか
聞かれた事を話した。
彼女の下腹部に、旧帝国の所有物、言わば
奴隷である焼き印が押されている事などを
隠した上で。
「……正しき王女とは、何なのか、か」
「クロガネさん。僕には、答える事が
出来ませんでした」
「それも致し方あるまい。簡単な問題
ではない。しかし、王とは何か、か」
そう言うと、黒鉄は立ち上がった。
「理想を言えば、王とは国家の象徴の
一つであり、市井の人々の心の拠り所
のような物だ。王の不安な態度は人々
の不安を煽り、延いては国への信頼を
失墜させる。逆に自信と勇気、知性ある
王は、誰からも信頼と尊敬を集める。
だが……」
「そんな王様って、居るんですかね?」
ポツリと呟くルクス。
「居ないだろう。そのような王が居れば、
その国は良き国として名声を世界に
轟かせていてもおかしくはない。
だからこその理想なのだ。
語ることは容易く、しかし実行する
事は不可能に近い。……彼女は
正しい王女のあり方を模索していると
言ったそうだな。だが、世間一般の、
大抵の『正しい』という言葉は、
理想だ」
「正しいが、理想?」
「そうだ。先ほど我の言った王の理想像と
同じ。言うのは簡単でも実行するのは
極めて困難。言わば、口先だけだ。
どんなに道徳を重んじる人間の心
にも、悪意の種は存在する。その逆も
然り。理想によって塗り固められた正しい
王の姿は、もはやただの『虚像』だ。
その理想を体現出来る者など、世界を
探しても、どこにも居ない」
「じゃあ、リーシャ様の言う、正しい
王女って言うのは……」
「酷な事を言うかもしれないが、それは
虚像だ。理想だ。周囲は簡単に、その
理想を彼女に要求する。しかしその
要求を完璧にこなせる者などいない。
……時々思うが、人々は時に上の者
に様々な事を求めすぎる。
その要求は大きな重しとなって、
最後は人を、こうあれと求められた
人物を押しつぶす。そうなれば、
もはや王家の血筋など、ただの
呪いに等しい」
「呪い、ですか?」
「そうだ。『王族なんだから』、『王女
なんだから』と人々は王に様々な事を
求める。それが簡単な求めではないと
知りながら。まるで、王族は人より
上位の存在であると勘違いしている
ようで、見ていて腹立たしくなるときが
あった」
「クロガネさん」
ルクスは、沈み行く夕陽を見つめながら語る
黒鉄の横顔を見つめていた。普段にも
まして真剣に、王について語る黒鉄の姿は、
ルクスの目に焼き付いていた。
彼自身、どうして目が離せないのかは
分からなかった。だがルクスは、無性に、
彼の言葉を聞きたいと思って居たのだ。
「王と言えど、その人物が人である事に
変わりは無い。人なれば、失敗も
するし、限界に押しつぶされそうになる
事もある。泣きもすれば怒りもする。
だが、人々はその事に目を背けながら、
王に理想の姿を体現する事を要求する。
それが、どれほど無茶で身勝手な事か」
「王も、人」
ルクスは、彼の言葉を自分の中で何度も
反芻していた。
そして……。
「ルクス、少しこちらへ」
「え?はいっ」
黒鉄に呼ばれたルクスは、近くの、土の
地面の所へ向かった。そこでは黒鉄が
しゃがんで地面に何かを描いていた。
「あの、クロガネさんこれは?」
地面に描かれた何かを見て首をかしげる
ルクス。
「これは、我の祖国でもある東の国の
方で、過去に発達した文字の体系、
漢字と呼ばれる文字の一文字だ。
これで『人』という意味がある」
そう言うと黒鉄は、今度は近くに
あった木の棒二つを組み合わせて、人の
文字のような形を作り、地面の上に
立てた。
「ルクス。もし仮に今、我がこの木の棒の
片方を取ったとする。そうすれば、
もう片方はどうなると思う?」
「え?それは、当然支えを失うから
倒れますよね?」
「あぁ、その通りだ。そして、それは
この人という字も同じなのだ」
「え?」
「人という字の成り立ちは、二つの棒が
互いを支え合う事で成立しているそうだ。
それが転じて、この字には、『人は
1人では生きていけない』という意味が
込められているそうだ」
「それは、確かにその通りです。僕や
アイリ。皆が暮すこのクロスフィード
だって。誰かの仕事の上になりたってます」
「そうだ。男だけでも、女だけでも、
新しい命を生み出す事が出来ないように。
人は1人では生きていけない。そして、
それは王も同じだ」
そう言って、黒鉄は立ち上がり、再び
夕陽に目を向ける。
「誰しも、誰かに支えられているものだ。
人間というのは。そして今、彼女は
1人では耐えきれない重みに苦しんでいる。
だからこそ……」
そう言って、黒鉄はルクスの肩に手を置いた。
「彼女にはルクス。お主が必要だ」
「え?僕が?」
「そうだ。恐らく、このアカデミーで
お主以上に彼女が心を許している者は
居ないであろう。だからこそ、もし
ルクスにその気があるのなら、
彼女を支えてやれ」
「そ、そんな。こう言うのはあれです
けど、僕は旧帝国の王子です。
そんな僕が、リーシャ様の隣に、
居て良いんでしょうか?」
「傍目から見ればおかしいだろう。
だが、その問題の答えを持つのは、
リーズシャルテ・アティスマータ。
彼女1人だけだ。……彼女自身、
もう分かっているのかもしれぬな」
「え?」
「いや。ただの独り言だ。それより、
我の言葉は、少しはアドバイスに
なっただろうか?まぁ、まとめて
言ってしまえば、理想を求めるのは
虚像を現実にしようとする程
不可能に近いことであり、そして
その虚像の重さは、人を簡単に
押しつぶす。だからこそ、誰かが
傍で支えてやる必要性があるのだ。
と、まぁこんな所だな」
「あっ、はい。ありがとうございます。
相談に乗って貰って」
「いや。良い。……王とは楽な物では
無いからな。それは我も知るところだ。
だからこそ、ルクスから彼女に
伝えておいてくれぬか?
いざと言う時は我も力を貸すぞ、と」
「はい。必ず伝えます」
「そうか。……では、我はそろそろ戻る。
ではな」
そう言って歩き去ろうとする黒鉄。
だったが……。
「あのっ!」
その時ルクスが声を上げ、黒鉄を止めた。
足を止めて振り返る黒鉄。
「さっき、クロガネさんが言ってた理想
の王になる事って、出来るんでしょうか?」
「……それは、不可能に近いだろう。理想
とは、そう言う物だ。理想の王も、その
中の一つに過ぎない。しかし……」
黒鉄は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「理想を追う覚悟があるのなら、追って
見れば良い。出来ないからと最初から
諦めるのは簡単。追いかけるのは至難の業。
……どちらの道を選ぶかは、ルクス。
お主自身が決めろ」
「はいっ」
それだけ言うと、黒鉄はその場を後にし、
ルクスもまた、沈み行く夕陽を見つめた後、
その場を後にしたのだった。
第4話 END
次回はまたバトル回になると思います。
感想や評価、お待ちしてます。