最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
アビスを操り侵攻してきた旧帝国の残党。
出撃していたリーシャは果敢に戦うも、
撃墜されてしまう。しかし駆けつけた
ルクスのバハムートと黒鉄の活躍によって
事なきを得たのだった。
戦いから数時間後。バハムートを使った反動
で気を失ったルクス。満身創痍のリーシャ。
そして一方で無傷で疲労の色を見せない黒鉄。
この3人は無事に帰還していた。
しかし、色々ボロボロな2人は今治療を
受けており、ルクスに至っては眠ったまま
今も目を覚まさない。
そして、黒鉄は今、ルクスの事情を知る
アイリと共に、学園長室でレリィと話を
していた。
話は、まずルクスが5年前のクーデターで
活躍した黒の英雄である事だった。
「そうであったか」
「クロガネさんは、余り驚いていない
ようですが、もしかして兄さんの事、
知っていたのですか?」
「いや。確証があった訳ではない。ただ、
神装機竜のソードデバイスの色は、その
対応する神装機竜と同じ色をしている。
リーズシャルテ・アティスマータの
ティアマトがそうであったようにな。
なのであの黒いデバイスは、黒い
神装機竜の物なのだろうとは思って居た。
この新王国で黒の神装機竜と言えば、
噂で聞いた黒の英雄のバハムートしか
思い浮かばなかったのでな。半信半疑
と言った程度であった」
「そうですか。……あの、クロガネさん。
この事は」
「無論承知している。みだりに広げて
ルクスやアイリ達の迷惑を掛けないよう
気をつけよう」
「ありがとうございます」
そう言って黒鉄に頭を下げるアイリ。
「じゃあ、次はクロガネ君の番ね。
単刀直入に聞くけど、アイリちゃん達が
見た機竜みたいな姿って、何?」
「あれは、我の中にある力を制限した
上で顕現させた物、とでも言えば良いか」
「制限し、顕現?」
首をかしげるアイリ。
「うむ。我が普通ではないのは2人とも
理解しているであろうが、我の本気は
あんな物では無い、と言う事だ。
……詳しい事を話せないからこそ、
2人には歯痒い思いをさせてしまうかも
しれぬが、今の我に言える事はそれくらいだ」
「……力をセーブした上で顕現させた、と
言っていたけど、じゃああれは機竜
じゃないの?」
「うむ。違う。全くの別物だ。そもそも
あれは纏うのではなく、一時的に
肉体そのものを全く別の存在に
変質させている、と言った方が
正しい」
「それってつまり、クロガネ君は自分で
自分を変えられる。もっと言えば今と
別の姿に変化する事が出来る。
って事よね?」
「うむ。その認識で間違い無い」
レリィの言葉に頷く黒鉄。そして彼の
言葉が、彼女の中である一つの疑問を
持たせた。
「そう。でもそれって、言い換えれば、
『今のあなたの体』が、『本来の姿』
じゃないかもしれないって事よね?」
レリィの言葉に、アイリはハッとなって
隣の黒鉄を見上げた。
「ふぅ。……その通りだ」
そして、彼は息をついてから否定する
事なく頷いた。
「今の我の体は、元からこうであった
訳ではない」
「それって、つまりあなたは人間じゃ
無いの?」
「それは肯定も否定も出来ぬ。この体は
間違い無く人と同じ構造をしている。
力の辺りは、我本来の姿の力もあって
常人離れしているが、それでも今の
姿は、間違い無く人と同じ」
「でも、あなたは複数の姿を持っている
事から、人じゃ無いと言う言葉を
肯定することも出来るし、否定する
事も出来る、と?」
「そうだ」
と、黒鉄が頷くと、レリィは長い、
長~~いため息をついた。
「ホント。色々人外みたいだとは思って
たけど、まさかホントに人外だった
なんてねぇ」
「……恐ろしいか?我のことが?」
苦笑するレリィ。しかし黒鉄は真剣な
表情で彼女に、鋭い視線を送っている。
「確かに、びっくりはしたわ。でも
まぁクロガネ君が悪人じゃないのは、
生徒達の反応を見ていれば分かるし」
「そうか」
レリィの反応を見た後、黒鉄はアイリの方
に視線を向けた。
「アイリはどう思って居るのだ?」
「確かに。私も驚きはしましたが、
クロガネさんが誠実な男性である事は
見ていれば分かりますから。別段
気にしては居ません」
「そうか、ありがとう」
そう言って小さく頭を下げる黒鉄。
「けどまぁ、クロガネ君の、例の機竜
モドキの姿は余り使わない方が賢明かも
しれないわね。アビスを瞬殺出来る力
なんて、色んな所から目を付けられちゃう
だろうし」
「うむ、確かにもっともな意見だ」
「幸い、その姿を見た人はアイリちゃん
を含めて少数なんだし。大体が口の硬い
人だから大丈夫よ。それ以外で知っている
のは私だけ。だからクロガネ君の
機竜モドキの事も内密にします。ルクス
君のバハムートのようにね」
「すまぬ。迷惑を掛けてしまったな」
そう言って頭を下げる黒鉄。
「良いのよ気にしなくて。実際、あなたと
ルクス君のおかげで反乱軍も殆ど
壊滅状態。パニックになって逃走し、
追撃部隊に発見された兵士達も、
殆ど戦う気力を無くして投降。
おかげで無傷の機竜をいくつか奪還
出来たし。リーシャ様やルクス君、
シヴァレスの何人かが負傷して
しまったけど、死傷者は出てない
んだし。本当に、2人には感謝して
いるわ。それを思えば、これくらい当然よ」
「感謝する」
「ただぁ」
頭を下げた黒鉄だが、続くレリィの言葉に
再び視線を上げた。
「助けて貰ったし感謝もしてる。でも、
こちらとしては少しばかり情報が欲しい
のよね。口止め料、って訳じゃないけど」
「情報?もしや我のか?」
「えぇ。少しで良いから、開示をお願い
出来ないかしら?」
その言葉に、黒鉄はしばし迷った後。
「分かった。今はまず2人にだけ、少しは
話しておこう。ただし、まだ他人に
漏らすことはダメだ。例えルクスや
フィルフィ・アイングラムと言った
兄妹でもだ。構わぬか?」
「えぇ」
「はい。分かりました」
「では、改めて伝えるが、はっきり言って
しまえば、我は機竜やアビスを生み
出した超古代文明を『知っている』」
そう、黒鉄が言うと、2人は数秒して
言葉の意味を理解し、愕然とした。
「恐らく、2人ならばこの言葉の意味
が分かるだろう。……我は、その
超古代文明が栄えた時代、言わば
ロストエイジに生きていたのだ」
「ち、ちょっと待ってクロガネ君!?
超古代文明って言ったら、何千年も
昔の……!?」
「そう。だが、我はその悠久に等しい時間
の中で生きてきた。以前、皆に歳を
忘れた、と言ったが、あれは比喩でも
何でも無く、長く生きすぎて自らの
歳を忘れたと言う意味なのだ」
「嘘、でしょ」
これには流石のレリィも呆然となった。
「あ、あの。もしクロガネさんがその
ロストエイジと呼ばれる時代を生きて
いたのなら、どうしてかつての文明が
崩壊したのかも、ご存じなんですか?」
「うむ。『知っている』。時にアイリ。
お主は文明崩壊について何か聞いた事は
あるか?」
「は、はい。新王国の領地にある
ルインの一つ、『方舟(アーク)』。
それには凄まじい威力を誇る兵器が
搭載されており、それが使われた事
で文明が滅んだ、と言う説を耳に
した事があります」
「そうか。しかし、それは間違いだ。
……お主達がルインと呼ぶ存在の
大半は、要塞や基地の一つであり
内部でアビスや機竜の生産を行い
つつ『ある敵』と戦う為に作られ
使われた施設なのだ」
「ッ!?ある、敵……!?」
「左様。先ほどの戦いで我々が回収した
笛。あれはアビスに現地で指示を
出し、より細かい作戦行動をさせる
物だ。しかし、アビスは長らく指示が
無ければ自立行動プログラムが発動し、
自動で移動、索敵、発見、攻撃を
するように作られており……」
「ちょっ!?ちょっと待って下さい!?
クロガネさんはどこまで知ってるん
ですか!?」
2人は、黒鉄の言葉に驚きながらも、
アイリが黒鉄の言葉を遮って
問いかけた。
「どこまで、と言われても。何故
アビスや機竜、ルインと呼ばれた
ロストエイジの『兵器』が作られた
のか、と言った経緯は大体知って
おるが?」
と言うと、アイリとレリィは同時に
頭を抑えた。
「私、頭痛くなってきました」
「奇遇ねアイリちゃん。私もよ」
げんなりした様子の2人に、黒鉄は
首をかしげた。
やがて……。
「でも、クロガネ君。古代の人々は
アビスや機竜を生み出す力があったの
でしょう?それでも、その敵に
負けたって事?」
「そうだ。……かつての人類は、自らを
生命の頂点、霊長類とまで自称するほど
思い上がった種族であった。そして
その思い上がりの結果、人類は増長し、
この星の、大地を、空を、海を
汚した。結果、その敵と言う存在の
怒りを買い、この星の覇権を争う戦い
の末に敗れ、文明は崩壊。僅かに
生き残った人々が再び0から文明を
築き上げ、そして今に至る。
と言う訳だ」
「その、生き延びた人々が私達のご先祖様、
と言う事?」
「うむ。当時の人間の大半は、自らが
この星の覇者だと驕っていたが、何も
それが全員だった訳ではない。人間の
中にはその敵を、神と崇め共存の道を
模索していた者達もいた。現に、彼等
だけはその敵の攻撃を受けること無く
生き延びた。最も、その共存を望んだ者達、
『共存派』と呼ばれる派閥と、彼等が神
と崇める敵を倒しこの星を支配しよう
とした『殲滅派』の数の差は圧倒的で
あり、当時の人間の7割以上が殲滅派
であった。だが、殲滅派は神の前に敗れ、
その神と戦う為の生み出した機竜や
アビスがルインに保存されたまま
忘れられていき、そして現代に生きる
者達が再びそれを手にしている。
と言う事だ」
と、いろいろな話を聞いていた2人だった
が、やはり頭の理解が追いつかず今は
気怠げにため息をついている。
「何だか、どっと疲れました」
「私もよアイリちゃん。まぁでも、この際
詳しい話は、やっぱりまた今度に
しましょう。と言う訳でごめんなさい
ねクロガネ君。折角話して貰ったのに。
正直、今の私達じゃとても……」
「うむ。まぁ信じられぬのも無理は無い。
我の話したことは好きに受け止めて欲しい。
ただ、機会があれば、証拠を交えてまた
この話をするだろうから、頭の片隅にでも
留めておいて欲しい」
「えぇ。分かったわ。アイリちゃんも
それで良い?」
「はい」
こうして、3人の話し合いは終わり、黒鉄
はルクスの様子を見てくる、と言って
学園長室を後にした。
その後、残された2人は……。
「ねぇアイリちゃん。どう思う?クロガネ
君の話」
「正直、半信半疑です。でも、クロガネ
さんの存在自体が信じがたい事です
から、正直に言えば分からないの一言
に尽きますね」
「そうよねぇ」
「「ハァ」」
2人は揃ってため息をついた。結局、
今は聞いた事を忘れようと言う事で
2人は同意した。
話が終わり、アイリはルクスの見舞いに
行くため部屋を後にした。
しかし、忘れようとしても2人の中で
ある一つの疑問があった。
『『かつての文明を滅ぼした敵、神って一体』』
2人は、答えの出ない疑問に悩まされるの
だった。
やがてしばらくして、ルクスが目を
覚ました。
シャリスやティルファーを始めとした
シヴァレスの面々。フィルフィや、
『クルルシファー・エインフォルク』
などが彼の見舞いにやってきた。
そして、そんな中で1人やってきたのが
黒鉄だった。
「どうだルクス。体調の方は」
「まだちょっと鈍痛がありますけど、
それ以外は問題ありません」
「そうか。それは何よりだ」
そう言って笑みを浮かべる黒鉄。
「しかし、まさかルクスが『彼』だったとはな」
「……。すみません、黙ってて」
黒鉄の言う彼が、黒の英雄、つまりバハムート
のドラグナイトであった事を指すのは
ルクスでも分かった。
「なに、謝る事ではない。我も自分の事
を色々隠している身だ。正直、黒い
ソードデバイスを持っていたことから
まさか、とは思って居たが。
その感が当って驚いている程度だ。
それに、我もあの姿を隠していたのだ。
お相子と言う奴だ」
「それって、あの姿の事ですよね?
あれもクロガネさんの力に関係して
いるんですか?」
「あぁ。今はまだ言えぬが、我が力の
一部だ」
「あれで一部ですか。本気じゃなくて?」
「うむ。一部だ。あのような雑魚の群れ。
我が本気を出すまでも無い」
そう言って鼻を鳴らす黒鉄にルクスは
苦笑するが、すぐに苦痛で少し顔を
歪めた。
「おぉ、大丈夫かルクス」
「す、すみません。外傷とかは無いんです
けど、あれを使うと負担が凄くて」
そう言って、ルクスは部屋の壁に立てかけて
あるバハムートのソードデバイスに
目を向け、黒鉄もそちらに一旦視線を
向けた。
「最弱の無敗と呼ばれたルクスをして、
ここまで消耗させる程の機体か。
かなりのじゃじゃ馬だな」
「えぇ。実際この有様ですから」
「そうか。まぁ今はゆっくり休むと良い。
万が一、敵やアビスが攻撃してきたならば
我が殲滅する故、安心して療養に
努めよ」
「あ、ありがとうございます。心強いです」
と、黒鉄の言葉に苦笑しながら頷く
ルクス。
それから少し話した後、黒鉄は部屋を後にした。
そして通路を歩いていると……。
「む?」
「お?」
角を曲がった先で、黒鉄はリーシャと遭遇した。
「リーズシャルテ・アティスマータか。
もう動いて大丈夫なのか?」
「あぁ。……と言いたい所だが、まだ体の
あちこちが痛い」
「そうであったか。ならば今は休め」
「いや。そうは言うが私は新王国の姫
として、この程度で休むわけには……」
そう言いかけたリーシャだが、直後
にフラついた。
「むっ!?」
咄嗟に彼女の肩に手を伸ばして支える黒鉄。
「あまり無理をするな。あの規模の
大部隊と戦ったのだ。体にたまった
疲労は相当な物だろう。良いから
休め。無理をして倒れられては
ルクスが心配するぞ」
「うっ。……わ、分かった」
ルクスの名を出された事もあってか、
リーシャは黒鉄の言うとおり部屋に
戻る事にした。とは言え、まだ少し
フラついていたので、念のため
黒鉄が付いていった。
その道中。
「なぁ、クロガネ」
「む?」
「ルクスから聞いたよ。お前がルクスに
色々アドバイスした事」
「そうか。……正しい王女への悩みか」
「……お前なら、その悩みへの答えを
出せるのか?」
静かに会話する2人。幸い、今の周囲に
人影は無い。
「……出せない」
そして、黒鉄がそう呟くとリーシャは
足を止めて黒鉄も続くように足を止めた。
「……そうか」
しばし俯いて小さく呟くリーシャ。
「リーズシャルテ・アティスマータ。
お主自身以外、その答えを出せる者
はいない」
「え?」
「例え誰かが、模範的な王女のあり方を
説いたとする。だがその答えでお主は
納得出来るのか?」
「そ、それは……。分からない。
正しい王女のあり方も分からない私には、
模範的な回答をされても、それが
正しいのかどうか……」
「いや、そうではない」
「え?」
「……正しい王女の姿を、一体誰が
決めた?理想か?歴史か?それとも
貴族か?人間か?……我に言わせれば、
理想とは人が思い描くだけ、
即ち星の数ほどあるのだろう。
リーズシャルテ・アティスマータ。
だからこそ、お主が納得出来る理想の
王女の姿は、お主自身にしか
見つけられない」
「私自身?」
「そうだ。人が語る理想の王女は、所詮
そいつの理想。模範的であるかも
しれぬが、それを全て受け入れているだけ
では、自分が本当になりたい王女にはなれない」
「ッ」
「誰しも、納得出来る答えを用意出来るのは
自分自身だけだ。だからこそ、我では
お主が納得出来る答えを用意してやる事は
出来ない。精々、人生の先輩として
アドバイスを送り、或いは友人として
力を貸す事くらいだ」
「……私が納得出来る答えを出せるのは、
私だけか」
「うむ。……ルクスから少し話を聞いた。
大切な皆に認められたい、と。お主が
そう言って居たと」
「……あぁ」
「我は、それで良いと思う」
「え?」
リーシャは、黒鉄の言葉が以外だったのは
呆けた声を出してしまった。
「世に言う暴君というのは、大体が自分
の好き勝手に暴れている者達だ。
自分の選択を後悔もしなければ、
問題があっても他人のせいにする。
そういう自己中心的な思考しか出来ない
王が居る国は、いずれ廃れていく。
逆に、民に寄り添い、国のために努力
を惜しまない王こそが、名君と
呼ばれるのだ。そして、それ故に
名君は悩む」
「名君が悩む?どういう意味だ?」
「例えば自分の行動が正しかったのか?
もっと良い方法があったのではないか?
あの時あぁしていれば。そうやって
悩む。悩んで、考えて、経験して、
そして次へと生かす。これは勉学や
技術を身につけるのと同じだ。
何事も、経験して、時に失敗しな
がらも学んで、次に生かす。
同じ失敗をしないように努力出来る。
そして、何よりも誰かのことを
考えてやれる。……そうやって、
悩んでいる者の方が良い王でもある。
……考え無しの、頭が空っぽな
感情で動く暴君より、よほど良い。
まぁ、これも我の考え方でしかない
のだがな。お主はどう思う?
リーズシャルテ・アティスマータ」
「……。私は、悩んでも良いのだろうか?」
「うむ。それが人生という物だ。
悩んで、悩み抜いて、自分が納得出来る
理想の王女の姿を思い浮かべる事が
出来たのなら、それがきっと、お主の
なりたい王女という事なのだろう」
「……そうか」
小さく頷くリーシャ。
「まぁ、とはいえ理想を実現するのは
簡単ではない。1人ではな。だからこそ
周囲を頼っても罰は当らないだろう」
「え?いや、しかし私は……」
「ルクスに言ったが……」
反論しようとするリーシャを遮る黒鉄。
「王もまた人だ。そして、人が1人で
出来る事にも限界はある。だからこそ
周囲を頼れ。王女だからと1人で
頑張っていても、1人で出来ない事は
ある。だからこそ頼れ。周囲を。
友人を。……我やルクスを」
「……。私は、頼っても良いのだろうか?
お前や、ルクスを」
「我は一行に構わんぞ。年下の面倒を
見るのも、年上の役目だからな」
そう言って笑みを浮かべる黒鉄。
「それに、あのお人好しのルクスの事だ。
お主が拒んだ所で、ピンチになれば
助けに来るやもしれぬぞ?」
「ふふっ、確かにな。確かにルクスなら
どんな時でも助けに来てくれそうだ」
そう言って頬を赤らめるリーシャ。
やがて、リーシャの部屋の前まで
たどり着いた。
「悪いな、送って貰って」
「気にするな。怪我人が1人で歩いている
方が心配だからな。では、今は
ゆっくり休め。リーズシャルテ・
アティスマータ」
「あぁ。そうさせて貰う。……っと、
そうだクロガネ」
「む?」
「私の事はリーシャで良い。お前は
親しい人以外はフルネームで呼ぶ
そうだが、私はお前の友人なの
だろう?だからリーシャで良い」
「そうか。ではなリーシャ。しっかり
休めよ」
そう言って笑みを浮かべる黒鉄。
「あぁ、お前もな、クロガネ」
対してリーシャも笑みを浮かべると
部屋へ入っていった。
それを見送った黒鉄は、その場を後にした。
しかし数秒して、窓の前に立つとすっかり
夕暮れになり始めた空を、鋭い視線で
見上げていた。
そしてしばらくしてから、彼は再び
学園長室を訪ねていた。
「失礼する」
「あら?クロガネ君。何か用?」
「あぁ、少しな」
呟きながらも周囲を見回す黒鉄。
部屋に居るのは学園長のレリィだけだ。
「今日の事件の事で、少し気になった
のでな」
「ッ。……どういうこと?」
彼の出した話題に、レリィは表情を
引き締めた。
「今回の反乱で使われた、アビスを
操る笛。十中八九、ロストエイジの
道具だ。だが、それがあるのはルイン
内部。かといって、表向き新王国に
属していたあの男が隙を見てルイン
に何度も赴いて探索し発見した。
と言うのは考えにくい。となれば、
奴にあの笛を渡した存在がいる
はずだ」
「確かにそうね」
「そして、ルインに潜入してアビスと
戦いながら探索を出来る程の力が
あるのは、各国軍に他ならない」
「ッ!クロガネ君!?それは……」
彼の言い分に驚くレリィ。もし黒鉄の
予想通りだとすれば……。
「それって、つまり……」
「あぁ。今回の騒動。それは『旧帝国
残党を利用した他国からの侵略行為』に
他ならない」
彼の言葉に、驚き立ち上がったレリィは
静かに椅子に腰を下ろした。
「……。クロガネ君は、どうして
そう思ったの?」
「今言った通りだ。あの笛は、烏合の衆
の残党風情が簡単に手にできる物
ではない。そして、今言ったように
ルインに出入り出来るのはそれを
管理している各国軍だけ。盗賊風情が
入る事自体考えられぬ。故に、あの
笛を盗賊がたまたま入手し、
たまたま闇のオークションなどに
かけられそれをたまたまあの男が
入手した、と言うのは虫が良すぎる話だ。
となれば、どこかの軍がルイン内部で
発見したアレをあの男に与え、そして
そそのかしたとも考えられる。残党に
してみれば今の新王国は仇敵。そして
笛を与えた国。仮にXとしよう。Xの
目的が新王国の壊滅なのか占領なのかは
分からぬが、仮に残党が王国を占領
出来れば、残党を傀儡政権として
この国を支配する事だって出来よう」
「……。それってつまり……」
「前回のガーゴイル襲来は恐らくあの男に
よる笛のテストの結果。そして今回
その力で王国を占領するべく動いた。
と言う訳だ。だが、これでXが新王国
に対する工作や攻撃を止めるとは
思えん。……今日という日の戦いは、
ただの前哨戦なのかもしれぬ」
「……本当に、頭が痛いわ。それって
つまり今後も事件が起るって事?」
「全てにXが関わっているとは思えぬが、
今後、何かしらの怪しい事件の裏には
Xが存在するかもしれぬ。そして、
恐らく遠くない将来、Xと戦う事に
なるかもしれぬ」
「……ただでさえ人手が足りないって
言うのに。正直、クロガネ君の予想は
外れて欲しいけど……。何だか
凄く当りそうな、嫌な予感がするわ」
そう言って額に手を当てるレリィ。
すると……。
「いざとなれば、我も新王国の者として
手伝おう」
「え?」
「今の我は、ルクスと同じくここに
仮入学という形になっていたはず。
ならば、曲がりなりにもこの国で
暮している者として、そして、
ルクス達の友人として、この国を
守る為に尽力しよう」
「そ、それはありがたいけど。
でもクロガネ君はどこの国にも
属したりしてないんじゃ」
「これまではな。……だが、すぐ傍で
友人達が困っているのを見捨てては
おけん」
彼の言葉に、レリィはしばし押し黙った。
「正直、クロガネ君が味方してくれるのは
ありがたいわ。単独でもガーゴイルクラス
のアビスを圧倒する力。黒の英雄にも
匹敵する戦闘能力。……信じても、良いの?」
「……今後、行動で示す。今も監視下にある
我にはそれしか出来ぬ」
しばし、2人は鋭い視線で互いを見つめる。
やがて……。
「分かったわ。なら、皆のこと。お願いね?」
「全力で、ルクス達を助けると約束しよう」
レリィの言葉に、黒鉄は決意の籠もった表情
を浮かべながら静かに頷いた。
その後、部屋を後にする黒鉄。
本来、彼はこの世界の人間たちの争いに
介入しないようにしてきた。
それは、一度は崩壊し、しかし時間を
かけて再生した人類文明が、どのような
道を辿るのかを見守るためだった。
彼は、黒鉄は、調停の神でもある。
古来より世界を見守り、かつて存在した
男をして、自然界の調和を保つ力と
された『かつての黒鉄』。
すなわち、ゴジラこそがこの星を
見守り星のバランスを保つ存在。
つまり『調和の神』である。
故に、彼は積極的に人の争いに介入したり
どちらか一方に肩入れすることはこれまで
して来なかった。精々戦況を観察し、
争いに巻き込まれそうになった民間人を
助けた程度だ。
その彼が今、これまでと打って変わって
新王国側に参戦すると言うのだ。
そして、その理由は……。
『嫌な予感、と言う奴か。この胸の奥
でざわめく、小さな不安感は』
黒鉄自身の直感であった。
そして、彼自身も知る由が無い事で
あるが、その嫌な予感は当っていた。
後に、黒鉄やルクス達もまた、思い知る
事になる。
今回の反乱軍騒動は、戦いの序章でしか
無かった事を。
今、戦いの足音が、静かに彼等へと
迫っていた。
第6話 END
次回はアニメ第3話辺りがベースです。
感想や評価、お待ちしてます。