最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~   作:ユウキ003

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お待たせしました。第7話です。


第7話 争奪戦

旧帝国残党のクーデター未遂事件から数日が

経過した。あの後、ルクスと黒鉄は正式に

アカデミーの生徒として迎え入れられた。

 

ちなみにルクスは、少数とは言え自分が

黒の英雄である事を知ってしまった人が

いる、と言う事からアカデミーにいられなく

なるかも、と思って居たがそんな事は無く、

彼のバハムートもこのアカデミーの敷地内

に運び込まれている。

これには彼も最初、予想外過ぎて驚いていたが。

 

とまぁ、いろいろ合ってここで生活する

ようになった2人。

 

そして、今日も今日とて彼等には依頼が

舞い込んでいたのだった。

黒鉄の方は主に人生相談や勉強を教えて

欲しい、などの簡単な物から、体を

動かすのに付き合って欲しいと言われ、

さながら運動部のコーチのように、

主に2年生や1年生の生徒達の運動など

にも付き合うようになった。

 

ちなみに、まだ黒鉄サイズの制服が

出来上がっていないので、彼は今も私服の

ままだ。

 

そしてある日の朝は……。

「はっ!」

「ぬっ!」

 

カンカンッと、軽く何かがぶつかり合う音が

寮から少し離れた森林の中で響いていた。

その音の元は木剣だった。まだ起きてくる

者も少ない早朝。森林の中で木剣を持つ

2人、黒鉄とシャリスが打ち合っていた

のだ。黒鉄はいつも通り。シャリスは

動きやすい格好で、木剣を使い戦っていた。

 

「はぁっ!」

繰り出される突き。しかし黒鉄はそれを

刀身で受けて逸らす。

シャリスは剣を引き戻そうとするが……。

『ビュッ!』

「うっ!?」

カウンターで喉元に突き付けられた木剣の

切っ先に、彼女は動きを止めた。

 

「ま、参ったよクロガネさん」

「うむ」

彼女の言葉に黒鉄が頷くと、剣を

下げた。

 

その後、用意していたタオルで汗を拭う2人。

「いやはや、相変わらずクロガネさんには

 敵わないな。自分でも少しは剣の腕

 が上達したと思ったのだが……」

「心配する事は無い。シャリスの剣の

 腕は確実に上がりつつある。とは

 言え、そう簡単に技術が身につくもの

 でもない。これからも鍛錬を続ければ

 今よりも強くなれるであろう」

そう言って笑みを浮かべる黒鉄に、

シャリスは頬を赤くしていた。

「そ、そうか。ではなクロガネさん!

 私はそろそろ行くよ!」

「うむ。ではまたな」

足早に駆けていくシャリスを見送った

黒鉄。

 

 

はたまた他にも……。

「そこの式はこの公式を使ってだな」

「成程」

 

ある日、黒鉄はノクトの依頼で彼女に

勉強を教えていた。しかも2年生の範囲をだ。

やがて勉強が終わると、ノクトは凝った

体をほぐすように伸びをした。

 

「ありがとうございましたクロガネさん。

 教えて頂いて」

「なに。これ位の事お安いご用だ。

 しかし、よかったのか?これは

 まだクラスで教わらない、先の範囲で

あろう?」

「YES。ですが、だからといって学ぶ事を

 怠って良い理由にはなりませんから。

 変ですか?」

首をかしげる黒鉄に答えるノクト。

 

「いや、むしろ我は感心している。確かに、

 まだクラスで習っていないから、と言う

 のは良い訳に過ぎんな。自分から進んで

 勉強に励むと言うのは存外簡単ではない。

 それが出来るのはノクトが優秀な証だと

 我は思うぞ?」

そう言ってノクトの頭を撫でる黒鉄。

すると、彼女は一瞬驚いてからすぐに

目を細めた。

 

やがて……。

「はぅ」

思いのほか、黒鉄のなでなでが気持ちよく、

ノクトは頬を赤らめながらそんな声を

漏らしてしまった。

 

「むっ、すまんノクト」

すると、黒鉄は彼女が嫌がっているのでは?

と考え手を離した。

「その、嫌であったか?」

「の、NO。そんな事は無いです。

 むしろ、何というか。クロガネさんに

 褒められて撫でられるのは、嫌い

 ではないので」

「そうか。それならばよいのだが」

と、黒鉄はノクトの言葉に安堵した表情

を浮かべていた。

 

一方で……。

『く、クロガネさんに勉強を教えて貰った

 クラスメイトが、『褒められて頭撫でて

 貰ったら何か凄い幸せだった』、とか

 言ってましたが、これは、確かに』

などとノクトが考えていたのだが、当の

黒鉄にそれを知る由も無かった。

 

更に……。

「ここはこうして、だな」

「あ~成程~」

今度はティルファーからの依頼で料理の

手伝いをしていた。

今は2人並んでオムレツを作ろうとしていた。

黒鉄が見本を見せ、それを真似るティルファー。

 

で、出来上がった料理なのだが、ティルファー

の方は黒鉄に比べて形が少し崩れていた。

「う~。同じようにやったはずなのに~」

「いやいや。見ただけでここまで真似る事が

 出来れば十分であろう。しかも初めてなのだ

 から、それを考慮すれば十分に合格点で

 あろう?」

と言う話の後、実際に食べてみたのだが……。

 

「う~~!やっぱりクロッちの方のが

 美味しいよ~。女子として負けた

 気分だよ~!……ってかなんで

 クロッちって男なのにそんなに料理

 出来るの!?」

「む?そうだなぁ。やはり長く一人旅を

 していたから、であろうなぁ。

 町で店などに入りでもしない

 限り食事は基本自分で何とかしていた

 のだが、随分昔は簡素な物ばかりを

 食べていたが、次第に飽きてきてな。

 だから、だろうか。自分で料理をする

 ようになったのは」

「へ~~。だから料理上手いんだ~。

 あ~あ、私もクロッちみたいに美味しい

 料理作れるようになれるかな~」

と、悲観的なことを言うティルファーは

そのまま机に突っ伏してしまった。

「そう悲観するなティルファー。確かに

 お主の腕はまだまだだが、初心者が

 突然プロ並みの腕前で料理出来て

 しまえば、プロのシェフ達の面目

 丸つぶれであろう?」

「そうだけどさ~。ちなみにクロッち

 はそれくらい料理出来るまで、

 どれくらいかかったの?」

「む?そうさの~。おおよそ1年と

 半年、と言うくらい、か?

 まぁ毎日料理をしていた訳ではない

 ので、多く見積もって2年ほど、

 であろうな?」

「う~~。そんなにか~」

2年という数字に、先は遠いと実感する

ティルファー。やがて……。

 

「ねぇクロッち。クロッちは私が上手に

 料理出来るようになるまで、色々

 付き合ってくれる?」

「あぁ。もちろんだ。ティルファーが

 満足出来るまで、我はいくらでも

 付き合ってやろう」

と、黒鉄は彼自身普通の事を言ったつもり

だった。

 

しかし、今の発言は場合によっては、

付き合って下さいと言う告白みたいな事を

言って、OKされたようにも思えるわけで……。

「ッ、ッ~~~~!」

ティルファーもそれに気づいて顔を真っ赤に

してしまった。

 

「あ、あああ、ありがとクロッち!

 それじゃあ今度もよろしくねっ!」

ティルファーは、そう言うと残っていた料理

を急いで食べ、すぐさまその場を後にした。

 

残された黒鉄は……。

「我は、何か失礼なことを言っただろうか?」

と、首をかしげながら独り言を呟いていた

のだった。

 

で、なんやかんやで周りから頼られる事も

多くなっていた黒鉄。

 

ノクトのように勉強を見て欲しいと言う物。

その強さからか、シャリスのように稽古を

付けて欲しいと言う物。

それ以外にもティルファーのように料理を

教えて欲しいと頼む物や人生相談などなど。

 

色々な事で生徒達を助けていた黒鉄。

 

そんなある日のことだった。

 

黒鉄はルクスと共に学園長室に呼ばれていた。

 

「いらっしゃい2人とも。早速だけど、

 どう?学園での生活には慣れた?」

「我の方は問題無い。皆、良くして

 貰っている」

「僕の方も何とか。最初はどうなる事かと

 思いましたけど」

レリィの言葉に、黒鉄、ルクスの順で

答えた。

 

「そう。それは良かったわ。……でも、何て

 言ったら良いのかしら。実は私の所に

 2人に対して不満の声が届いてるのよねぇ」

「何?」

「えぇっ!?」

レリィの言葉が、予想外で有り驚く2人。

すると彼女はどこからか大量の紙束が入った

箱を机の上にドンッと音を立てながら置いた。

 

「これは……」

その紙束の中から数枚の紙を取る黒鉄。

内容を確認するが、それはルクスと黒鉄

への依頼の書類だった。

ルクスも黒鉄の隣からそれをのぞき込んで

確認している。

「もしやこの紙の山、全て我とルクスへの

 依頼書か?」

「えぇ。そうなのよぉ。今のところ、ルクス

 君には優先度の高い依頼を選んで受けて

 貰って、クロガネ君の方も好きに選んで

 貰ってるんだけど、それでもご覧の通り。

 依頼はたまっていく一方でね。それで 

 生徒達から不満の声が出てるの。

 『自分の依頼は何時受けてもらえるのか』

 って」

「と、言われても、我もルクスも1人しか

 居らんし、受けられる依頼にも限りがある。

 我としては頼られて悪き気はせぬが、

 1日にこなせる依頼にも限りがある。

 それを彼女達にも理解して貰わねば……」

「そうよねぇ。実際、2人だって受けられる

 依頼は限りがある訳だし。でも女の子達

 は貴方達に依頼を受けて欲しい。

 ……そこで、一つ解決策を用意しました」

そう言って不敵な笑みを浮かべるレリィ。

 

首をかしげる黒鉄だが、レリィとは古くから

の知り合いであるルクスは理解していた。

『あの笑みは絶対何か企んでる笑みだ』、と。

そして彼の予想は当ってしまった。

 

「その解決策が、これよっ!」

そう言ってレリィが取り出したのは、赤い

2枚の依頼書だった。それぞれには黒鉄用、

ルクス用と名前が書かれている。

「それは?」

依頼書を見つめながら首をかしげる黒鉄。

「これはね、言わば『特別依頼書』。これの

 内容はね、一週間だけ相手に、優先的に

 依頼を頼める書類。これが、学園の女子達

 の不満解消の為に私が用意したイベン、

 んんっ!解決策よ」

「今イベントって言いかけましたよねレリィさん!?」

咳払いをするレリィにツッコむルクス。

 

と、その時学園のあちこちから女生徒達の

歓声が聞こえてきた。しかも声がどんどん

学園長室の方に近づいてきている。

「あら?早速来たみたいね?」

「来たみたいね、じゃないですよ!」

「じゃあサクッとルール説明。今からこの紙 

 を2人に預けるから、制限時間の1時間

 以内に、その紙を持っていた人が

 優先的に依頼を出せる訳。2人とも

 それがいやなら、1時間頑張って逃げ切ってね?

 あっ、ちなみに機竜は使用禁止ね?あと、

 皆に怪我をさせないよう気をつけてね?」

 

「そ、そんな無茶苦茶な~~!」

「では、逃げるとするか」

叫びながら部屋を出るルクスと、それに続いて

出て行く黒鉄。

 

こうして、学園中を巻き込んだ男2人VS

女生徒数十人の鬼ごっこが始まった。

 

その後、最初は一緒に逃げていたルクスと黒鉄

だったが、女子たちの包囲網に分断されて

しまった。

「さ、さぁクロガネさん、大人しく紙を

 渡して下さいっ!」

皆、どこか嬉々とした表情を浮かべながら

黒鉄を取り囲んでいた。

 

「そんなにこれが欲しいのか?」

そう言って、黒鉄は上着のポケットから

赤い用紙を取り出した。

「「「「欲しいですっ!!」」」」

すると、女子達が声を揃えて叫んだ。

 

「……そうか」

女子達の雰囲気に戸惑いながらも、黒鉄は

紙を再びポケットにしまう。

「とは言え、我もこれを簡単に渡すわけ

 には行かぬ。誰か1人に渡して、

 彼女をえこひいきしていると思わ

れるのは心外だ。なので、お主達が実力

で奪いに来い」

 

黒鉄は、拳を開いた状態で構えを取った。

「逃げるのは性に合わん。拳でも武器でも

 縄でも機竜でも、好きに来るが良い」

そう言って、挑発とも取れる発言をする

黒鉄に、周囲の女子達は、むしろチャンスと

考えた。

 

如何に黒鉄と言えど、この数で包囲されて

しまえば逃げ場など無い。だったら囲んで

数でせめて、書類を奪おう。

 

大勢の女子達がそう考えた。

しかし、その考えが甘かった事を、彼女達

は直後に思い知る結果となった。

 

「そこぉっ!」

1人の少女が黒鉄に後ろから掴みかかった。

「甘いっ」

だが、黒鉄はそれをステップで回避する。

「まだまだっ!」

更に別の女子が手を伸ばすが……。

「遅いっ」

それも黒鉄の手に叩かれ、あらぬ方向へ逸らされる。

 

そうやって、黒鉄は襲いかかってくる彼女達の

力を避けつつ外へ外へと逸らし続けた。

全方位から掴みかかっても、その並外れた

跳躍力で包囲の輪の外へと逃げられ、慌てて

包囲し直して掴みかかっても、何十、何百と

受け流される。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。ちょっ、クロガネ、

 先輩。マジ、強すぎ」

「あ、ありえないでしょ。これだけの数、

 裁き続ける、なんて」

黒鉄の周囲では、既に息の上がった生徒達が

地面や膝に手を突いていた。一方で、汗一つ

かかず、涼しい顔をしている黒鉄。

 

その時。

「やはり、クロガネさんならばこの程度

 簡単に捌くか」

そこに木刀を持ったシャリスが現れた。

「皆、下がってくれ。近くにいると 

 木刀が当って怪我をしてしまうかも

 しれないからな」

彼女の言葉に、黒鉄の周囲を囲んでいた

女生徒達が下がる。

 

「次はシャリスか」

「あぁ。その紙があれば、私も一週間、

 付きっきりでクロガネさんに手合わせを

 お願い出来るからな。やはり欲しいさ」

そんな彼女の言葉の1つ、付きっきりと言う

単語に女生徒達は反応して顔を赤くしていた。

 

しかし2人はそんな周囲を無視して黒鉄は

拳を構えた。

「ならば来いシャリス。武器もありと言った

 のは我自身だ。我は拳だけで十分だ」

「そうか。ならば……」

木刀を構えるシャリス。

 

2人はしばしにらみ合い、周囲の生徒達が

固唾を呑んで見守っていた。

と、その時、吹いていたそよ風が止んだ

次の瞬間。

「ッ!!」

シャリスが前に出た。上段から振り下ろされる木刀。

『ドゴンッ!』

しかしそれを、片手で受け止め防ぐ黒鉄。

明らかに生身の人間が喰らったら、腕を

たたき折られそうな音がしたが、黒鉄は

表情一つ変えない。

 

「はぁっ!たぁっ!」

そのままシャリスは何度も木刀を打ち込むが、

黒鉄はそれを腕で受け止めるだけだ。

だが……。

 

「くっ!?」

攻撃が効かない事にシャリスが戸惑った

次の瞬間。

「っ!」

黒鉄が前に出て、木刀を手刀で弾き飛ばす

と、流れるように彼女の服を掴んだ。

「なっ!?」

「せぇいっ!」

そしてそのまま、背負い投げでシャリスを

投げ飛ばしてしまった。

 

もちろん、落ちるギリギリで彼女の服や腕を

引いて、強く体を打ち付けないように配慮

していた黒鉄。やがて、彼女の腕を引いて

立たせる黒鉄。

「うっ、くっ。流石は、クロガネさん

 か。武器と素手でも、こうも圧倒

 されるとは。しかもまだまだ手加減

 しているとようにも見えるが?」

「うむ。確かに手加減をしている」

「くくくっ、そう面と向かって言われる

 と、自分がまだまだだと自覚させらる

 よ、黒鉄さん」

「焦ることはない。日々鍛えていれば、その

 分だけ強くなる事は出来る。時間を掛けて

 技術を身につけていくと良い」

「そうだな。では、私はそろそろ失礼する。

 これではいくら挑んでも無理そうなのでな。

 それにこの後用事もある事だし。ではな、

 クロガネさん」

「うむ」

 

黒鉄が頷くと、シャリスは去って行った。

 

「さて、と」

すると黒鉄は周囲を見回す。相変わらず、

周りを取り囲む女性陣。

そして彼女達は、息が荒い者もいるが、

変わらず黒鉄に挑む気なのか立ち上がる。

 

「さぁ来い。まだ時間はあるぞ?」

その言葉をゴングとして、彼女達は黒鉄に

襲いかかった。

 

しかし、相変わらずの超人的な力と読みに

よって黒鉄は悉く彼女達の攻撃や掴みかかり

を回避し弾いていく。

 

そして時計の針は確実に進んでいき、ついに

残すところあと数分となってしまった。

その頃には、彼女達は皆、息も絶え絶えで

多くが地べたに手と膝を突いていた。

 

「こんな所か」

と、周囲を見回しながら汗一つ掻かずに

呟く黒鉄。

 

と、その時。

「あ、あのっ!」

1人の少女が黒鉄に声を掛けた。

そちらを向く黒鉄。相手は、クラスメイトの

キャロルだった。

「キャロルか。どうした?」

「クロガネさんっ!私とじゃんけんで勝負

 してくださいっ!」

「じゃんけん?」

「はいっ!私には、クロガネさんから実力で

 用紙を奪う力はありません。だからっ!

 じゃんけんで勝負してくださいっ!」

 

キャロルの言葉に、周囲の生徒達は驚いた

様子だった。じゃんけんは運の要素が強い

勝負だ。だから勝つ可能性はある。

『それがあったか』と言わんばかりの

表情の女子達。だが問題は、黒鉄がこの

勝負を受けるかどうかだった。

 

そして彼の答えは……。

「良かろう。その勝負受けよう」

潔く勝負を受けた。元々黒鉄は勝負から

逃げるような性格でない事は、この場に居る

者達は理解していた。していたが、運に

任せた勝負を受けるとは、思って居なかったのだ。

 

お互い正面から対峙する2人。

そして……。

「い、行きますっ!」

「うむ」

お互い、握った拳を前に出す。

 

「さいしょはぐー!じゃんけん、ぽんっ!」

 

キャロルの声に合わせて手を動かす黒鉄。

最初はお互いパー。つまりあいこだ。

「あいこでしょっ!」

更にキャロルは挑む。しかし次は

グーのあいこ。周囲の女子達も固唾を呑んで

2人の勝負を見守っていた。

「あいこでしょっ!」

もう一度繰り出す手。しかし再び

チョキのあいこ。

 

「こ、これならもしかしてっ!」

「えぇっ!行けるかもっ!」

「頑張れキャロ~!」

すると周囲の女子やクラスメイト達が

キャロルを応援し始める。

 

しかし、これは黒鉄の演技であった。

なぜなら彼の動体視力と反応速度を

持ってすれば、出される直前の手の動きを

見て、何を出そうとしているのかを理解し

同じ物を出す事が出来たのだ。

 

そして……。

『彼女に、花を持たせてやるとするか』

黒鉄はそう考えた。実際、もう終了の鐘が

鳴るまで秒読みだろう。

 

そして……。

「あいこで、しょっ!」

 

繰り出されたキャロルの手は、グー。

 

対する黒鉄は、チョキ。

 

つまり、キャロルの勝ちだ。

 

その瞬間、周囲の女子達も静まりかえった。

 

『ゴーンゴーンッ!』

 

と、次の瞬間、ゲーム終了の合図である鐘が

鳴り響いた。

それは、まるで勝者であるキャロルを

祝福しているようだった。

 

「ふふっ。どうやら我の負けのようだ」

そう言って黒鉄は小さく笑みを浮かべると、

ポケットから赤い用紙を取り出し、目の前の

キャロルに差し出した。

 

「え?あ」

それを前に、呆然としているキャロル。

彼女は黒鉄の顔と用紙を交互に見つめている。

 

「どうした?受け取らぬのか?」

「あ、え、えと。良いんですか?私、

 じゃんけんで勝っただけなのに」

「うむ。形はどうあれ、我はお主の勝負を

 受け、敗れた。ならば敗者として、これを

 お主に渡すのが道理。……さぁ、受け取れ

 勝者よ。これはお主の物だ」

そう言ってもう一度用紙を差し出す黒鉄。

 

キャロルは、恐る恐ると言った感じでそれを

受け取った。

「く、クロガネさん。ありがとう、

 ございますっ!」

「ふふっ、礼を言うのは早いのではないか?

 これから一週間、我はお主の依頼を優先的

に受けるのだからな。とは言え、あまり

無理難題を言ってくれるなよ?」

「は、はいっ!分かってますっ!」

「うむ。ではなあとでな」

そう言うと、彼はその場を後にした。

 

その日のうちに、キャロルが黒鉄の用紙を

ゲットした事。

 

そして、クルルシファーがルクスの用紙

をゲットしたことは、瞬く間に学園全体へと

広がるのだった。

 

同日・夜。学園敷地内の図書館。

その地下に設けられた、半ば隠された研究室に

レリィ、アイリ、そしてルクスと黒鉄が

集められていた。

 

レリィはまず、ルクスに近々ルインの調査が

ある事。ルクスには、先日の一件で回収した

アビスを操る笛、『角笛』を持ってこれに

同行して欲しい事。現在において、世界各地

のルインは第2層までしか進入出来ておらず、

レリィたちはこの角笛が、第3層への鍵、

或いはアビスから身を守る道具になるのでは、

と考えており、研究も兼ねてこれを持って

いけ、との事だった。

 

 

「と、これが『当初』の予定だったの」

「え?当初の?」

レリィの言葉に首をかしげるルクス。

「今となっては、これが何なのか。この

 角笛が鍵なのかどうか、ぜ~んぶ

 分かっちゃってるの」

そう言って、お手上げ、と言わんばかりに

肩をすくめるレリィ。

 

「ど、どういうことですか?分かってるって?」

理解出来ずに?を浮かべるルクス。

すると、黒鉄が箱に入っていた角笛を

取り出した。

 

「これはただの、アビスに命令を送る

 簡易命令装置のような物だ。本来、

 アビスはルインの司令室から命令を

 受け、敵の探索や攻撃を行う」

「え、えぇっ!?く、クロガネさん、

 何でそんな事知ってるんですかっ!?」

「……そうだな。まずはルクスにそのことを

 話さなければならんな」

 

そう言うと、黒鉄は、『レリィ学園長と

アイリには話したが』と前置きした後、

アビスが古の時代、ロストエイジの文明

が生み出した兵器である事。

ルインがロストエイジ文明の基地である事。

本来機竜もアビスも、彼等が敵とする神と

戦うために作られた事などなど。そして、

自分がそのロストエイジよりも更に昔

から存在している事も。

 

いろいろな事を話した。

 

「え、えっと、ちょっと待って下さい?

 もし今の話しが本当なら、クロガネさんは

 数万年体位で歳を取ってるって事です

 よね?」

「そうだな。ゆえに、我は『人』ではない。

 人の形をした『全く別の存在』と言っても

 過言ではない」

「ッ!」

 

彼の言葉にルクスは一瞬息を呑んだ。

「これが、我の持つ異常な力に対する

 簡単な回答だ」

「人、ではないんですか?クロガネさんは」

「それについては、否定も肯定も出来ない。

 今のこの姿は紛れもなく人である。

 しかし我には本当の姿もある。改めて

 言えば、人の姿も持っているし、そうで

 無い本当の姿も持っている、と言う事だ。

 そしてこの話を聞いた上で、ルクスに

 問いたい」

「ッ、な、何ですか?」

「我を怪物と知ってどうする?」

 

「え?」

彼の発言が予想外だったのか、ルクスは首をかしげた。

「知っての通り、我はこの世界において

 国の重鎮でさえ知り得ない過去を知っている。

 力も人間の常識を越えた存在。化け物と

 呼ばれても否定出来ない。だからこそ

 今聞いておきたいのだ。我の素性の一端を

 知って、どうするのだ?ルクスよ」

 

「……どうもしませんよ」

しばしの沈黙。しかしルクスはそう言って笑み

を浮かべた。

「短い時間とは言え、クロガネさんと接して、

 何て言うか、父性に溢れる、頼れる男性

 だって分かりましたから。……それに、本当の

 化け物って言うのは、人を欺いて、簡単に

 殺してしまうような奴だと、僕は思います。

 だから僕は、クロガネさんを怪物だとは

 思ってません」

 

そう言って笑みを浮かべるルクス。

 

「そうか。……ありがとうルクス。何時か、

 恐らくそう遠くない日、本当の我について

 話すときが来るだろう。その時全て、

 必ず話すと約束しよう」

「はい。お待ちしてます」

 

その後、この事実を、黒鉄の正体と彼から

もたらされた情報を隠したまま、表面上は予定

通り角笛の研究を兼ねてこれを持ったまま

ルインへ行く事になった。

 

のだが……。

 

「にしても、これが鍵じゃないとなると、

 ルインの第3層に入る鍵って一体

 何なのかしら?クロガネ君は知ってる?」

「少しは、と言ったくらいだが知っては居る。

 ルインの鍵、それは特定のDNAコードだ」

「で、DNAコードって、何ですか?」

 

「DNAとは、言ってしまえば人の設計図の

 ようなものだ。例えば分かりやすいのは

 人の髪色。これは親からの遺伝、つまり、

 特徴として引き継ぐものだ。例えば

 親子で顔が似ている、と言う話しがある

 であろう?これも同じ。親と子のように、

 近い者であれば、それだけ親に似る。

 そして、過去の文明の技術力であれば、

 生まれる前の子供に、人為的に手を加える

 事も可能だった」

「ッ!そんな事まで出来たんですかっ!?」

「うむ。我が知っているのは、その特定の

 DNAを持つ人間こそが鍵である事だけだ」

「つまり、鍵は人間だって事ですか?」

「うむ」

ルクスの問いかけに頷く黒鉄。

 

「じゃあ、もしかして今回の遠征って、

 無駄足に終わる可能性が高い?」

「残念ながらな」

レリィの言葉にそう呟く黒鉄。

「しかし、いざとなれば我が扉をぶち破って

 やるから安心すると良い。それに、古代語

 は我も読めるからな」

と言う彼の言葉に、3人は苦笑していた。

 

その後、4人は解散となって黒鉄はルクス達

よりも先に部屋へと戻るために夜の学園を歩いて

いた。

 

「ルイン、か」

やがて彼は足を止めて、星空を見上げた。

 

『かつて栄え、しかし驕り故に滅んだ人間達の、

 過去の遺産。そこに眠るのは、兵器やアビス

 と言った負の遺産。……ままならない物だな。

 ロストエイジを『滅ぼした』我が、そこに

 赴き、調査や発掘を手伝うと言うのだから』

 

そう呟きながらも、黒鉄は自虐的な笑みを浮かべて

いた。

 

だが……。

 

『しかし』

 

彼は不意に笑みを消すと、一つの覚悟をしていた。

 

『もし仮に、ルイン内部に、この世界を歪め

 かねない危険な兵器が眠っているのだと

 したら……。破壊する。この手で』

 

それは、かつて文明を滅ぼし、人間社会を

リセットへと追い込んだ、ゴジラとして、

この星の王として、調停の神としての責任

であった。

 

『ルクス達には悪いが、それをこの世界に

 解き放つわけには行かぬ。我には、

 この世界を見守る義務があるのだから』

 

そう考えながら、黒鉄は歩く。

 

願わくば、ルクス達と対立しないで済む

事を祈りながら。

 

     第7話 END

 




次回は、小説準拠となる予定です。一応アニメ視聴の方にも分かるように
書いていくつもりですので、ご安心下さい。

感想や評価、お待ちしてます。
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