最弱無敗の神装機竜~~黒き英雄と黒の王~~ 作:ユウキ003
ルクスと黒鉄に対する依頼を優先的に出来る
用紙を巡る争奪戦の翌日。
黒鉄は朝に、キャロルから依頼として、
一週間勉強を教えたりして欲しい。
もっと言えば、『自分が頼ったら出来るだけ
協力して欲しい』という依頼を出した。
黒鉄がそれを快諾すると、キャロルはとても
喜んだ様子だった。
ちなみに、ルクスの方は、クルルシファー
と一週間、彼女の恋人になると言う契約を
したと言う話を、朝本人から聞いていた黒鉄。
そして、その日の午後、ルクスや黒鉄たち
はとある演習に参加していた。
実はアカデミーは2週間後に『校内選抜戦』
と言う模擬戦がある。
現在、世界各地にある謎の存在であるルインを
調べるためには、『国別対抗戦』と呼べるような
各国代表による試合で、良い結果を出す必要が
あるのだ。なぜなら、その良い結果を出した国
に優先的に調査権が与えられるからだ。
そしてその国家代表を決める選抜戦が近々ある
からこその演習だった。
だが、そこに予定外の客が来ていた。
『男のドラグナイト』だ。
臨時講師、と言う事で正規軍から来た
ドラグナイトは3人。
しかしこの臨時講師など生徒達は一切
知らされて居らず、困惑していた。
そして彼女達の会話から、男達が
何かに理由を付けていきなりやってきた
事を察する黒鉄。
しかも、男達は、女子達に向かって……。
『女に甘い新王国の体制に依存してぬるま湯
のような訓練をしている』だとか。
『適性が高くても本来女が男に勝てる道理など無い』。
更には……。
『二週間前の王都での軍事演習で調子に
乗られては困る』、などと言っている。
それを少し離れた所から、並外れた聴覚で
聞いていた黒鉄からすれば……。
『最初から講師として何かを教える気は
無い、と言う訳か。そもそも使える国の
体制への批判。男尊女卑主義。加えて
私怨丸出しの発言。……どこにでも
腐った者がいるのは変わらない、か』
そうこうしている内に始まった機竜を使って
の演習での、その男達の態度は目に余るもの
があった。
黒鉄の考えていた通り、彼等に教える気
などサラサラなく、士官候補生である
彼女達をいたぶり、悦に浸っているようだった。
それこそが、旧帝国の残滓たちのやり方だ。
かつてドラグナイトは男が主流であり、そして
更にこの国では男尊女卑主義が横行していた。
つまり、あの男達はその時の事が忘れられない、
新王国に使えている、旧帝国の亡霊のような
者だったのだ。
そして、遂にはその男達の危険な行動に
よって、演習中に生徒の1人が墜落。
それに対して怒った別の女子が攻撃を
仕掛けるが、流石に経験の差までは
埋められず、簡単にいなされてしまった。
そして武器を弾き飛ばされてしまい、
怯える彼女に男がブレードを振り下ろそう
としたその時。
『ガキィィィンッ!』
「ぐっ!?」
驚異的なスピードで男と女生徒の間に
割り込んだ黒鉄の振るった、機竜用の
ブレードが男のブレードを弾き飛ばした。
ちなみにこの時、ルクスも飛びだそうと
していたが、黒鉄に先を越される形と
なっていた。
「え?く、クロガネさん?」
「大丈夫か?」
「は、はい」
突然現れた黒鉄に、理解が追いつかない彼女。
しかし彼は優しい声で彼女を気遣う。
彼女は、蒼くしていた顔を赤くしながら、
小さく頷いた。
「な、何だ貴様っ!」
ブレードを飛ばされた男の、手下の1人が
黒鉄に向かって怒鳴った。
それによって黒鉄の意識が3人の方に向く。
「なぜアカデミーに男が居るっ!?」
「……貴様等に、我が答える義務があると
思うか?」
「な、何だとっ!?」
黒鉄の言葉に、もう1人の手下が憤怒の表情で
睨み付けてくるが、むしろ怒っているのは
黒鉄の方だ。
「……貴様等の行為は、講師、演習という
名目で行われたただのいじめに他ならない」
「いじめだとっ!何を言うっ!俺達は将来、
そこにいるお嬢様たちが実戦で戦えるように、
指導してやっただけの事っ!それとも、
実戦で『そんな攻撃の対処法など教わって
いない』と敵に言うつもりかっ!」
男の言葉に、黒鉄は一瞬黙り込む。が……。
「確かに。実戦であればそんな言い訳は
通用しない。教わっていない、学んでいない。
そんなものは戯れ言だ」
「であればっ!」
「だがっ!!!」
何かを言おうとする男。しかしそれを遮る
黒鉄の怒号。
「では貴様たちは講師として、彼女達に何か
技術を授けたのか?技を教えたのか?
戦い方を教えたのか?」
そう言うと、黒鉄は鋭い視線で男達を見回す。
「何もしては居ない。ただ痛めつけ、実戦の
恐怖を教えただけ。……貴様等が講師だと
言うのなら、彼女達に教えるべきは実戦で
生き残る知識と技術。敵に打ち勝ち、自分や
仲間。そして大切な人を守る技と勇気。
だが、お前達は何も教えては居ない。そんな
貴様等に、講師を名乗る資格など、
ありはしないっ!」
『ザンッ』という音と共に大剣が地面に
突き刺さる。
「……即刻、この場から消えろ。
今なら見逃す。我の気が変わらぬ
内に、失せろ……!外道が……!」
黒鉄の放つ怒気のオーラは凄まじく、正に
『逆鱗に触れる』という奴であった。
教える気のない者が講師を名乗り、いたぶる。
他者を見下し、痛めつけ、悦に浸る。
黒鉄が最も嫌う、人間の醜い側面。
その醜い側面によって、学園の生徒達が、
更には友人達が痛めつけられている現実を、
彼は良しとはしなかったのだ。
なぜなら、演習でしごかれている中には、
キャロルやクラスメイト達。更に以前、
彼に依頼をしてきた生徒達もいたからだ。
それ故に圧倒的な怒気を放っていた。
だが、男達のちっぽけなプライドは、
引くことを拒否した。
「こ、このっ!機竜を纏えもしない
男の分際でぇっ!」
その時、手下の1人が黒鉄に斬りかかった。
「クロガネッ!」
それを見ていたライグリィ教官が叫ぶ。
だが、黒鉄はどうじない。
「死ねぇぇぇぇっ!」
斬りかかってくる男。だが……。
『スッ』
黒鉄はいとも容易く、男のワイバーンが
振るったブレードを回避し……。
『ドゴォォォォォンッ!!!!』
「うっ!?ごえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
その脇腹に必殺のボディーブローを放った。
男は血と胃液と昼食の混じった吐瀉物を
無様にぶちまけながらその場に倒れた。
「……こんな者か。この国の軍人というのは」
そう呟くと、黒鉄は男のワイバーンを掴み、
そのまま演習場の隅へと放り投げた。
「き、貴様っ!我々は正規の軍人だぞっ!
それにこんな真似をしてっ!」
その時、もう1人の手下が喚いていた。だが……。
「真似をして、何だ?」
「ひっ!?」
一瞬で距離を詰めた黒鉄の怒気と圧迫感が男に
襲いかかる。
「こ、この化け物めぇっ!」
男は咄嗟にワイバーンの腕で黒鉄を殴りつけた。
だが……。
「ふんっ!」
黒鉄は、そのワイバーンの腕を掴み、更に勢い
を利用し……。
「せぇぇぇぇぇぇいっ!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
ワイバーンを背負い投げで投げ飛ばして
しまった。地面に背中から思い切り叩き付け
られた男は、その衝撃で気を失った。
残ったのは、3人組の中のリーダー格ただ1人。
「……まだやるか?それともここから、
今すぐ消えるか」
黒鉄は、残った1人を睨み付ける。
だが、男はある事に気づくと、黒鉄に対して
ブレスガンの銃口を向けた。
「動くなよ貴様っ!動けば、分かるな?」
そう言って勝ち誇った笑みを浮かべる男。
黒鉄は肩越しに振り返る。後ろには、機竜
を纏っているとは言え、生徒達が居る。下手に
黒鉄が良ければ、彼女達に攻撃が当ってしまう。
「……貴様、それでも軍人か」
「そうだな。俺は軍人だ。そして軍人にとって、
勝利こそが全てだ。そして、勝った奴こそ
が正義なんだよ」
そう言って、汚い笑みを浮かべながら男は
狙いを黒鉄の頭に定める。
「哀れな奴だ。女なんかの味方をしていな
ければ、こうはならなかった物を。
……死ね」
そして、男が引き金を引いた。
ドォンッという音と共に放たれた
エネルギー弾。誰もがまさかを予想した。
だが……。
『パァンッ!!!』
そのエネルギー弾を、黒鉄は正拳突き
一発で粉砕した。
「なっ!?」
これには驚かざるを得ない男。
だが、それでも無傷とは行かず、黒鉄の手
から赤い血が滴り落ちる。
と、その時。
「兵士とは……」
黒鉄は静かに語り始めた。
「自らが生まれ育った祖国に迫る敵を倒し、
そこに暮す人々を守るために力を
振るう者たちの事を指す。彼等は時に
血を流しながらも戦う。それは自らの意思
で、守りたい人や物、場所があるからだ。
だが……!」
黒鉄は鮮血の滴る拳を握りしめる。
「貴様のような外道に、一体何を守る
覚悟があると言うのかっ!他者を愚弄し
嘲笑いっ!痛めつけ悦に浸るっ!
貴様のような奴に、命を賭けて誰かを
守る覚悟があると言うのかっ!!!」
兵士とは、時に命を賭けて守るべき者の
為に戦い、血を流し、そして時に命を
落とす。それでも彼等は戦う。守るべき
大切な存在のために。自己犠牲を覚悟で。
それこそが、英霊と呼ばれるに相応しい兵士達
の姿だ。
そして、彼は世界のために、自己犠牲を厭わず、
世界を救った男を知っている。
『芹沢猪四郎』。
自らの命を賭けて、かつての自分を救い、
そして『偽りの王』から世界を救うために
自らの命を投げ出した男。
黒鉄にとっての、『最初の友』だ。
そして、今目の前に立つ男は、そんな英霊たち
の顔に泥を塗る存在。それが、黒鉄の男に対する
評価だ。
そして、それ故に黒鉄は憤る。
芹沢猪四郎と同じ男でありながら、ここまで
腐った男に対する憤り。
「貴様に兵士と強さのなんたるかを語る
資格はないっ!」
一歩、憤怒の表情を浮かべながら黒鉄が前
に出る。すると男は更にブレスガンを
撃ちまくる。だが、それは黒鉄の拳に
弾かれて霧散する。
そして、ついに黒鉄は男の傍まで歩み寄る。
「くっ!?こ、この、化け物がっ!」
黒鉄の怒気に飲まれた男はほぼ恐慌状態だ。
それ故に、無意識で振るったブレード。
だが……。
『パシッ』
黒鉄はそれを片手で受け止める。
「ッ!?は、離せっ!?このっ!」
男はブレードを引き抜こうとするが、黒鉄の
握力もあって、ブレードは微動だにしない。
そして……。
「歯をっ!」
「ひっ!?」
黒鉄の、血に濡れた右手が引き絞られる。
「食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
『ドゴォォォォォォンッ!!!』
男の腹に突き刺さる拳。
「ぐはぁっ!?」
男は血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、演習場の
壁に激突した。
そして、そのまま気を失った。
その後、事態を見守っていたライグリィはハッと
なってすぐさま医療班を要請した。
そしてやってきた者達が担架に男達を
乗せて居た時。
「待て」
黒鉄がその者達に声を掛け、伝言を頼んだ。
「その男達が目を覚ましたら伝えて欲しい。
『今後この学園に近づき、彼女達に
余計な事をすれば、この程度では
すまいぞ』と。そう伝えてくれ」
「は、はいっ!」
未だに僅かに怒気を滲ませる黒鉄の言葉に、
言づてを預かった者達は戦々恐々と
しながらも、男達を運び出した。
そして、それを見ていたルクスとクルルシファー。
「あなたの出番、取られちゃったわね」
と、笑みを浮かべながらルクスに語りかける
クルルシファー。
「そう、なんでしょうか?でも、クロガネさん
は大丈夫でしょうか?正規のドラグナイトに
手を出してしまった訳ですし」
「そこは大丈夫なんじゃない?あの男達の
リーダーの最後の銃撃、あれは後ろに
生徒達がいるのを承知の上だったわ。
あれは十分な危険行為だし。そもそも
あの人の言うとおりあの3人は講師
としての職務を殆ど果たしていなかった。
それを責められて逆上して、あの人が
正当防衛、って感じになるんじゃない
かしら?」
「そうだと良いんですけど……」
と、ルクスは心配しながらも、黒鉄の
背中を見つめていた。
「……あなたは、彼の事をどう思うの?」
「え?」
「ちょっと、聞いてみたくてね。で?
どうなの?」
「え、えっと……」
突然のクルルシファーの言葉に、ルクスは
戸惑いながらも答えた。
「クロガネさんは、とてもいい人です。
僕が困ってるときに相談に乗って
くれたり。いつでも協力するって
言ってくれたり。力だけじゃない。
優しさも、知性も備えている人。
そんなあの人は、そうだな。僕に
とっても目標、ですかね?」
「目標?」
「はい。僕も、あの人みたいに強くて
優しい、童話の中のヒーローみたいに
なりたいなって思います」
そう言ってルクスは、憧憬の眼差しで
黒鉄の背中を見つめていた。
のだが……。
「もしかしてルクス君って、同性愛者?」
「え?……へっ!?な、何を言うん
ですかいきなりっ!?」
「だって君の今の熱い視線。女の子が
好きな男性に向けてるみたいな、
情熱的な視線だったわよ?」
「そ、それは違いますよっ!尊敬の
眼差しですっ!」
「あらそう?でも、そこまで必死に否定する
のも逆に怪しいわね?」
そう言って笑みを浮かべるクルルシファー。
『こ、このままじゃ変な噂が広まって、
またアイリに何を言われるか』
「ほ、本当に違うんですってば~!」
「うふふ。なら、そう言う事にして
おきましょう」
そう言って笑みを浮かべるクルルシファー。
「で、でも、クルルシファーさんは、何で
そんな風に思ったんですか?ぼ、僕が
その、クロガネさんをそんな風に
見てるって」
「あぁそれ?それはね、現在進行形で、
彼をそんな目で見てる子達があそこに
いるからよ」
そう言って女生徒達の方に目を向ける
クルルシファーと彼女に続いて自分も
視線を向けるルクス。
そこでは、女生徒達が頬を赤くしながら
黒鉄の背中に見惚れていた。
その後。
「申し訳無いライグリィ教官。演習の邪魔を
してしまった」
そう言って、黒鉄はライグリィに頭を下げていた。
しかしこれに戸惑っているのは彼女の方だ。
「居候の身で、出過ぎた真似をしたのは
自覚している。必要ならばどんな罰でも
受ける。だからどうか責めるのなら我だけ
に……」
「ちょ、ちょっと待てクロガネ」
彼を慌てて止めるライグリィ。
「ハァ。安心しろクロガネ。私にはお前を
どうこうしよう等とは思って居ない。
むしろ、あの3人を止められなかった私
にも責任がある。だからお前がそこまで
謝罪をする必要は無い。だから頭を
上げてくれ」
そう言って黒鉄の頭を上げさせるライグリィ。
と、そこへ。
「クロガネさんっ!」
周囲の女生徒達が彼の元へと集まってきた。
「クロガネさんっ!ありがとうございましたっ!
あの人達をやっつけてくれてスカッと
しましたっ!」
「あっ!クロガネさん怪我してるっ!
早く手当しないとっ!」
「これくらい平気だ。すぐに出血も止まる
だろう。それより、怪我は無いか?」
「は、はいっ、クロガネさんが守ってくれた
おかげですっ!」
彼女達は、顔を赤くしながら笑みを浮かべて
いる。
しかし……。黒鉄は真剣な表情を浮かべていた。
「皆に、一つ言っておきたい事がある。
確かにあの3人は講師には相応しくない
男達だった。だがしかし、実戦では
『教わっていない』、等という言葉は
通用しない。そこだけは、あの男達の
言葉にも一理ある。あの男達は
いけ好かない存在だが、そこだけは、
どうかはき違えないで欲しい」
「た、確かに、あれは、まぁ、そうだよね」
「う、うん。そうだね。クロガネさんが
言うんだし」
彼女達も、そこには同意出来るのか、
静かに頷いている。
「……戦いとは、非情な物だ。だからこそ、
生き残る為に、お主達はここで戦う術を
身につけなければならない。生き残る
ために。誰かを守るために。そのための
努力を怠ってしまえば、それは
手痛い代償を払わされる結果となる
だろう。そのために、精進しなければ
ならない」
戦いを知る先達としての言葉が、彼女達の
中へと染みこんでいく。
その時。
「あ、あのっ!じゃあ、私達をクロガネさん
に鍛えて貰う事って、出来ますかっ!?」
「む?」
「クロガネさんは、凄い強いから。だから、
もしかしたら、少しでもクロガネさん
から教えて貰えたら、強くなれるかなって、
思ったんです」
どこか大人しめの女子の言葉に、周囲の女子
たちはざわめき、やがて黒鉄本人の意見を
求めるかのように、彼女達は静まりかえった。
「……ライグリィ教官。貴方の意見は
どうだろうか?」
「どう、とは?」
「我は立場上、今はここの生徒、と言う事に
なっている。その生徒が教師の真似事を
して良いのだろうか?」
「そうだな。私は、率直に言って良いと
思うが?」
彼女の言葉に、女子達は驚きながらも
笑みを浮かべている。
「理由を聞いても構わぬか?」
「そうだな。理由は、やはりお前の強さだ。
異常とも取れるその力。正直、安易に
学び模倣する事が出来るとは思えないが、
それでも、いろいろな場所を旅して
豊富な知識を持つお前なら、彼女達に
いろいろな事を教えてやれるのではないか、
そう考えただけだ」
「ふむ。そうか」
彼女の言葉に頷いた黒鉄は、女子達の方を
見回した後。
「分かった。我なんかの教えで良ければ、
いくらでも教授しよう」
彼がそう言った直後。
「「「「「やった~~~~!」」」」」
女子達の歓声が響き渡り、黒鉄は驚いた
あと、苦笑を浮かべるのだった。
その後、休憩を挟んだ後、早速黒鉄が彼女達に
色々教える事になった。
ちなみに……。
「うぅむ。これではキャロルとの時間が取れぬが。
キャロル、お主は構わぬか?」
一週間の優先権があるため、キャロルに確認を
取る黒鉄。
「は、はい。大丈夫です。そ、それに私も、
強くなりたいので」
と言うキャロル本人の意思もあって、黒鉄は
早速、彼女達にいろいろな事を教えた。
まずは自分の長所と短所を知る事。
出来る事と出来ない事を自覚する事。
自らが相手となり、機竜を使って、
射撃と近接戦のどちらかが得意なのかを
彼女達に理解させた。
その上で『長所を伸ばしながら苦手を
ある程度克服する』、と言う訓練の仕方を
彼女達に課した。
更に彼は座学を行って、戦闘技術だけ
ではなく、戦術も教えたりしていた。
それだけではなく、更に剣の腕もそこそこ
ある黒鉄は、相手に合わせて自分の力量を
調整して戦う事が出来るので、生徒達に
対する仮想敵、言わばアグレッサー
としても演習の相手をしていた。
文字通り、数万年を生きて知識というものを
その身に詰め込んできた黒鉄の教えは
彼自身の経験もあって的確であり、そのために
彼女達はメキメキと実力を付けていった。
例えば、剣技の演習では……。
「良いか。剣を振るう時、大ぶりは絶対に
避けなければならない。なぜなら大ぶり
の一撃はそれだけ隙が大きく、そして
隙を見せれば落とされてしまうのは
分かりきった事だからだ。だからこそ、
必殺の一撃を学ぶのは、まだ先で良い。
今はまず、素早く剣を振り、的確に
相手の攻撃を剣で裁ける技術を
身につける事が最優先だ。そうすれば、
相手を倒す事は出来ずとも、足止めや
自分の身を守る事は出来る」
「「「「はいっ!!」」」」
「よし。まずは仲間の技量を知る意味でも、
お主等が1対1で打ち合ってみよ。
組み合わせは我が考えてある」
と、学園の教師たち顔負けレベルの教えを
していた黒鉄。
更に、彼の教えを受けた事で、生徒達が
確実に強くなっている事を聞きつけた別の
生徒達が彼の教えを請うようにまで
なっていた。
操縦技術に関しては、彼がドラグライドに
乗らない事もあって専門的な事は教え
られていないが、黒鉄が提案した、
『遊びによる学習』と言う方法。
黒鉄は、機竜を使っての『鬼ごっこ』を
やらせた。生徒達は最初戸惑ったが、
遊びとは言え機竜を操縦しながらの全力の
鬼ごっこは、彼女達の操縦技術向上にも
一役買っていた。
それ以外の射撃や格闘、更に戦術などの
講義は専門職の教官達と遜色ないレベルで
あった。
そのため、黒鉄のすごさを生徒達がより一層
認識するきっかけとなった。
更に……。
「クロガネ先輩っ!少しアドバイスが欲しい
んですけどっ!」
「クロガネさん。模擬戦の相手をお願い
出来ますか?」
「あ、あの、クロガネ君。ちょっと、
教えて欲しい事があるんだけど……」
「うむ。では順番にな」
黒鉄は、彼女達1人1人に対して真摯に
対応していた。それこそが、彼女達からの
好感度を更に高める結果となっていた。
キャロルが許可した事もあって、最近
黒鉄は女生徒達の演習相手をしている事が
多い。しかしその結果、黒鉄のプライベート
な時間は夜くらいしか無い。あるとき、その事
を気にした生徒が聞いてみたのだが……。
「問題無い。我程度の教えで、皆が強くなり、
そして無事に戦いから生きて帰る事の
助けとなれるのなら、我も本望だ」
そう言って笑みを浮かべる黒鉄。
ちなみにこの台詞のおかげか、黒鉄の
人気は更に爆上がりしたと言う。
そんなある日の事。
とある放課後。黒鉄はキャロルと一緒に
街中を歩いていた。
理由は、これまで演習ばかりしていて
彼女の依頼を殆ど受けられていなかった
からだ。
最初キャロルは、気にしていないから
良いと言っていたのだが、黒鉄が
何か埋め合わせをしたい、と言うので、
『それじゃあ』と、2人で町にある
とあるスイーツ店にやってきた。
そこは、元々黒鉄とキャロルたちが
出会った時、彼女と友達が行こうと
していたお店だった。
そこで一緒になってスイーツを食べていた
2人なのだが……。
『やはり我は浮いてるなぁ』
ガチムチの漢である黒鉄のミスマッチさが
極めてシュールだった。
しかしそれでも、黒鉄も甘いスイーツを
堪能した後、キャロルと一緒に街中を
歩いていた。
「すみません黒鉄さん。こんな事に
付き合って貰って」
「気にするな。むしろ、一週間優先的に
依頼を受けると言っておきながら、
ここ数日、まともに話も出来なくて
すまなかったな」
「そ、そんな事無いですよっ!むしろ、
私なんかが黒鉄さんを独占しちゃって
良いのかなって思ってて」
そう言って、苦笑を浮かべるキャロル。
そんな彼女の様子を見ていた黒鉄が……。
「あまり自分を卑下するものではないぞ?
キャロルにも、良い所はある」
「え?そ、そう、ですか?」
「うむ。例えば模擬戦時、3対3の戦いを
した時の事を覚えて居るか?」
「うぅ、はい。あの時私、後ろから攻撃を
受けて、落とされてしまいました」
「それは確かに事実だ。だが、キャロルは
あの時チームメイトに迫る攻撃を射撃で
牽制しカットしていた。結果的に、それが
隙となって撃墜判定を受けてしまったが、
あの時の射撃は仲間を庇ってのこと。
あの時、咄嗟にそれが出来たのは十分に
凄い事だと我は思うぞ」
「そ、そう、ですか?」
「うむ。加えてキャロルはどちらかと言うと
何か一つに秀でている、と言うよりは
全てをある程度、そつなくこなすタイプだ。
これは言わば、特化した才能を持つ者達
には劣るが、逆にどんな事でもある程度
出来る可能性がある、と言う事に他
ならない。こう言った存在は、チームで
戦う時に力を発揮するタイプだな」
「そ、そうなんですか?」
「うむ。射撃による牽制役。格闘による足止め
と可能ならば撃破する役。状況を良く観察
しての指示役。それらを臨機応変に切り替え
立ち回る事が出来れば、十分に強い存在に
なれるであろう。特に、キャロルの、あの時
の咄嗟の判断で味方を援護したことからも、
周囲の状況を把握する力に優れている
ようだ。こう言う能力は指揮官を務める上
でも重要だ」
「そ、そうなんですか?」
「うむ。味方の位置、状況、体力。敵の
位置や数、状況。そう言った物を即座に
見極め、味方の様子を見て退避させるのか、
まだ戦えると判断し戦線に残すのか。
そう言った判断を一瞬でするためにも
指揮官には、『見る力』が求められる。
そしてキャロルには、あの時、味方の
状況を見て、それを助ける為に自分に
出来る事で、事実味方を守って見せた。
まだ芽生えてこそいないかもしれないが、
立派な才能の芽だ」
そう言うと、黒鉄は隣を並んで歩く
キャロルの頭を撫でる。
「あっ……!く、クロガネさん」
「お主には、まだまだ才能がある。
可能性がある。だからそんな風に
自分を卑下するな。これまで多くの
事を見てきた我の言葉。信じるか
どうかはキャロル次第だ。だが、
その才能は、磨けば必ず光り輝くだろう」
「ほ、本当に、私は強くなれますか?」
キャロルは、頬を赤くしながらも黒鉄を
見上げる。すると彼は撫でていた手を
退かし、真剣な瞳でキャロルを真っ直ぐ
見つめている。
「楽ではないだろう。強くなると言うのは。
時に怪我もするし、辛い思いもする。
強くなるための鍛錬をすると言う事は、
肉体を追い込むと言う事だ。楽でも
平坦でもない道を進み続けなければ
ならない。……そして、キャロルの
傍には、もしかしたらお主以上の才能を
持つ者もいるかもしれぬ。機竜も、
恐らくはリーシャたちのような、
神装機竜を与えられる可能性は低い。
それ故に、自らと比べ、劣等感に
苛まれる事も、恐らくは少なくは無い
だろう」
それが、現実というものだった。
いくら頑張った所で、自分と他人を
比べて、自分の悪い所ばかりに目が
行ってしまう事も、あるかもしれない。
その事実に、キャロルは静かに目を伏せる。
だが……。
「それでも」
「?」
黒鉄の言葉に、キャロルはもう一度、視線
を上げる。
「悩み、悔し涙を流し、時に折れそうに
なりながらも、立ち向かう事の出来る
者こそが、『真の強者』となるだろう。
……そして、そのチャンスとは、この
世界に生きる者達に、等しく与えられて
いる」
「じ、じゃあ……」
期待と不安に満ちた目で黒鉄を見上げる
キャロル。その時、黒鉄が優しく彼女の
額に人差し指を当てた。
「挑み続けよ。それこそが、お主が強者
となるために必要な事だ。自分の
限界に挑み続けた者だけが、自分の
限界をぶち破り、強くなれるのだから」
そう言って、彼は優しい笑みを浮かべる。
「わ、私、強くなりたいです。皆を
守れるように。……でも、きっと、多分、
色々悩んだり、泣いたりする事も、あると
思います。でも、それでも……」
不安を口にするキャロル。すると……。
「大丈夫だ」
黒鉄は、優しい声色で語りかけた。
「キャロルが折れそうになったその時は、
我を頼れ」
「え?」
その時の黒鉄は、正しく『人の上に立つ者』
としての、『王者の風格』を纏っていた。
「友が困っていると言うのなら、我が
いくらでも支えて見せよう。我が力と
知識、全てを持って、キャロル。
お主を支えると約束しよう」
あらゆる者達を受け入れ、支える傑物
としての風格。
力も、知恵も、優しさも、全てを備えた
王者としての風格を纏う黒鉄。
そんな黒鉄に、キャロルは見惚れていた。
優れた存在は、それだけで周囲の人々を
引きつける。ましてや黒鉄の如く、あらゆる面
で力を持ち、他者を思いやる優しさを
持っているのならば、当然のことであった。
そしてキャロルもまた、そんな彼の姿に
心を惹かれた1人であった。
しかし、彼女も黒鉄も、知る由はない。
また新たな事件が、起ろうとしている事には。
第8話 END
次回はアニメ第3話あたりばベースです。
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