FGO/Cosmos_in_the_Lostbelt《BFG_Edition》   作:変種第二号

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『これは運命(Fate)だ』


『奴等が罪を贖う番だ』


『このまま進むならば、貴様は天の裁きを下す者となろう』


『孤独なる者よ』


『奴等は最早、救うべき同胞に非ず!』




『Hell on Earth』

藤丸 立香の旅路は、苦難に満ちたものだった。

心身に膨大な傷を負いながら特異点を制し。

多くの英霊や現地民との絆を結びながらも、彼等の犠牲無くして人理修復は成らなかった。

生きていて欲しかった、共にありたかった者たち。

その殆どが自身の存在を未来への礎として捧げ、自分達に希望を託して去り逝く様を眼の奥に焼き付けてきた。

決して彼等を忘れまい、その犠牲を無駄にすまいと。

胸の奥より滲み出す血も、刻々と死へ近付く自らの身体も無視して、7つの特異点を駆け抜けたのである。

 

彼女の旅路を助けるべく、手を差し伸べた英霊は多かった。

特異点で絆を育んだ者。

敵対し全てを掛けて戦った者。

その旅路に胸打たれ馳せ参じた者。

興味本位で召喚に応じた者。

動機こそ百人百様であるものの、皆が藤丸 立夏という少女の背を支え、時に手を引いて導いた事は紛れもない事実。

彼女自身の底抜けの純粋さと人の良さもあり、カルデアの英霊たちと爆破事件を生き延びたスタッフ達は、皆が家族の様な絆を結ぶにまで到っていた。

皆に支えられ、時に英霊さえも支え、対等の立場で笑い合っていた立香。

 

だが、人知れず彼女の胸中で常に燻っていたのは、特異点での別れだ。

結んだ縁を辿り、多くの英霊がサーヴァントとしてカルデアに来訪した。

泣き、笑い、怒り、慈しみ。

友人の様に、兄弟の様に、姉妹の様に、親子の様に。

皆と絆を深め、此処まで歩んできた。

 

しかし、その彼等には特異点での()()()()()

()に登録された彼等の本体には、特異点に於ける()()や、分霊の記憶は引き継がれない為だ。

ごく稀に例外はあれど、基本的にこの定めが覆る事は無い。

共に戦い絆を結んだ者たちと()()()として再開する度に、立香が胸の奥に引き裂かれる様な痛みを覚えていた事は確かだ。

 

縁を辿ってカルデアに来てくれた彼等に、思う所などある筈もない。

彼等と結んだ信頼は疑い様の無いものであり、大切な絆だ。

だがそれでも、何時かの記憶が甦ってくれればと、ふと思う時がある事は否定できなかった。

共に特異点を駆け抜けた彼等が、異聞帯の住民、或いは唯の分霊として消えてしまったのだと、認めたくはなかったのだ。

 

だから、願わずにはいられなかった。

どんな形であれ、彼の時の記憶を取り戻してはくれないだろうか。

或いは、特異点での彼等に()()する事は叶わないだろうかと。

人間というものは底無しに欲張りで、一度でも願ってしまえば次から次に願い事が湧いて出てくる。

英霊の皆だけでなく、特異点で出会った数多の人々。

死んでしまった人々も、生き延びて特異点と共に消えてしまった人々も。

もしも、万が一、億が一の奇蹟の果てに、何らかの形で再会できたのなら。

或いは再会叶わずとも、あの記憶を持った彼等が、冥界なり()()なり、何処かで幸せになっていてくれれば。

それは、どんなにか素敵な事だろう。

そう、願わずにはいられなかった。

 

だから、()()は喜ぶべき事なのかもしれない。

億どころか、兆が一ともいえるだろう()()の果てに、身に余る願い叶った身としては。

幾ら望もうと、求めようと、決して届かないと知っていた、諦めていた、見果てぬ夢叶った身としては。

感謝し、嗚咽し、狂喜すべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

こんな奇蹟(悪夢)なら、叶わない方がマシだったけれど。

 

 

 

 

 

「……何が起こった?」

 

 

異変は【虚ろの穴】への突入直後に起こった。

ストーム・ボーダーが、強烈な衝撃に襲われたのだ。

鳴り響く警告音と、延々と続く真面に立つ事もできない程の衝撃。

ネモは直ちに状況把握を試みようとしたが、そんな猶予すら与えない程の凄まじい衝撃だった。

それこそ巨大なハンマーに殴り付けられたかの如く、ストーム・ボーダーは翻弄され続けた。

座席にてベルトで身体を固定していた数名を除き、誰も彼もが床や壁に打ち付けられ痛みに呻きを零す中、無数の警告音が響き渡る艦内。

10秒ほど続いたそれが収まった後、漸く復帰した観測機器群より齎された外部の光景に、誰もが絶句した。

 

 

「何だ……これは?」

 

 

身を起こし、状況を把握するにつれ、サーヴァントを含めたほぼ皆が混乱を来し始める。

モニターに映る外の世界は、漂白された人理とも、これまでに目にしてきたどの異聞帯とも異なる、あまりに異常なものだった。

 

 

「燃えている……」

 

 

その世界は、全てが()()()()()

地も、海も、空でさえ、業火が渦巻き荒れ狂っていた。

ストーム・ボーダーは何時の間にか()()へと座礁していたが、それは観測可能な範囲全てに於いて続く一面の荒野。

その表層を這う幾筋もの川を流れるのは、水などではなく燃え盛る溶岩らしき何か。

空には幾つもの巨大な岩塊や石碑が浮かび、どういう仕組みか内部より無尽蔵の溶岩らしきものを地表へと注ぎ続けている。

そして何より不気味なのは、空一面を覆う巨大な、或いは宙に浮かぶ幾つもの石碑の周囲に展開された、赤黒く輝く正体不明の魔法陣である。

これまでの旅路で目にしてきた如何なる時代、如何なる文明のものとも明らかに異なる、異様なそれ。

それが展開されている目的こそ不明ながらも、凡そ良からぬものである事だけは明確に感じ取れる。

そして、センサーが順次回復してゆく中で、額からの出血を拭いながらもモニタリングを続けていたムニエルが叫んだ。

 

 

「本艦の後方、約4km! 地表に人工建造物を確認!」

 

 

すぐにスクリーンに表示される景色が切り替わり、その建造物を映し出した。

誰の想像をも超える、途方もない代物を。

 

 

「お城……?」

 

「にしてもデカすぎるだろ……」

 

 

それは、半ば朽ちかけている様にも見える、巨大な城塞だった。

その常軌を逸した規模は、ムニエルが報告した4kmという距離が、感覚的には全く理解できない程。

すぐ目の前にあるのではないかと錯覚する程の巨大さだった。

幾層かの外殻に分かたれて建造されているらしき円錐状のそれは、更に多層構造であるのか上部へと向かうにつれて細くなっている。

それでも、センサーの数値を見る限り最上部でも直径は600mにも達し、最下層に至っては8kmを超えているだろうとの事だった。

訳が解らない事に、城塞の最上部からは赤い光の筋が天へと延びていて、空を覆う巨大な魔法陣の中央を貫き、渦巻き燃える厚い雲の向こうへと消えている。

あまりに非常識な建造物の存在に呆気に取られた一同だったが、マシュがある事実に気付くや、一気にブリッジの空気が動き出した。

 

 

「待って下さい! あの城塞の向こう……街がありませんか?」

 

「街? ちょっと待って……本当だわ。城塞の更に後方、無数の建造物が……えっ?」

 

「な……」

 

 

オクタヴィアが画像を拡大、映し出された物を見るや、今度こそ誰もが絶句した。

ホームズやネモ、ブリッジに駆け付けたダ・ヴィンチでさえ、言葉も無くスクリーンを見つめるばかり。

其処には、在り得ざるものが映り込んでいた。

 

 

「うそ……」

 

「あれ……あの建物って……」

 

 

それは、決して忘れる事などない、記憶の奥底にまで刻まれた建造物。

7つの特異点の中でも、特に多くの絆を結び、多くを喪い、それでも止まる事なく駆け抜けた記憶。

誇り高き賢王と、避け得ぬ滅びを前にしても底抜けに明るく、王と希望を信じ戦い抜いた民。

そして、立香達に未来を託し、戦い散って逝った英霊たち。

 

 

()()()……!?」

 

 

バビロニア、ウルク。

その、決して見忘れぬ威風堂々たる神殿が、其処に在った。

但し、見るも無残に破壊され、今にも崩れ落ちそうな遺跡同然の姿となって。

 

 

「そんな……何でウルクが此処に!?」

 

「神殿だけじゃありません、街まであります! いえ、ウルクだけじゃない……あれはクタの……!」

 

「待て待て、あれって()()()()()()じゃないか!?」

 

「帆船? それに、あれはローマの……」

 

 

騒然となる艦橋。

ウルクだけではなかった。

炎と溶岩に覆われた荒野、その先に鎮座する無数の建造物。

その何れもが、何処かしらで目にした記憶があるものばかり。

 

 

「まさか……これって……」

 

 

そうだ。

15世紀のフランスで。

1世紀のローマで。

16世紀のオケアノスで。

19世紀のロンドンで。

18世紀のアメリカで。

紀元前のメソポタミアで。

過去の特異点で目にした光景が、無残に破壊された姿で其処にあった。

否、それだけではなかった。

 

 

「クレムリン……!?」

 

「インド……北欧も……秦まで……」

 

「何だ、何なんだ此処は!?」

 

 

消滅した異聞帯、其処に存在していた建造物までもが、特異点のそれらと入り混じる様にして点在していたのだ。

在り得ない、あってはいけない光景。

誰もが唖然と見つめる中で、()()を見付けた立香が呆然と呟く。

 

 

()()()()()……」

 

「えっ?」

 

「見間違いじゃない……あれ、東京タワーだ……」

 

「な……」

 

「あれは……()()か!?」

 

 

別の異常な代物を見付けたネモの声。

それを皮切りに、次々に見付かったのは20世紀から21世紀(現代)の構造物だった。

半ばより折れた東京タワー、横倒しになった米海軍原子力空母、崩壊したシドニー・オペラハウス、松明の様に炎上するクライスラー・ビルディング。

折れたビルが倒木の様に重なる上海、全てのビルの半ばより上階が消し飛んだカナリー・ワーフ、上層より滝の様に溶岩を溢れさせるモスクワ・シティ。

無残な骸となって折り重なる、汎人類史(現代)を象徴する建造物の群れ。

 

 

「何故だ……汎人類史は漂白された筈だ! 何故こんな物が!?」

 

「座標確認! そもそも此処は何処なんだ!」

 

「不明です、該当データがありません! ただ、さっきまで我々が居た海上でない事だけは……」

 

「ええい、落ち着かんか!」

 

 

混沌とする艦橋に響く一喝。

その発生源たるゴルドルフへと集中する視線。

彼は蒼褪めた顔色でスクリーンを睨んだまま震える声で、それでも矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。

 

 

「先ずは現状の把握だ! 艦の状況は?」

 

「あ……艦艇部外殻に損傷、航行に影響はありません。艦内からの報告も順次確認中です」

 

「外部環境!」

 

「大気組成問題なし、気温……79℃!?」

 

「霊脈確認できず……いえ、大気中のマナ濃度が異常に高い! アトランティスを超えています!」

 

()()はどうだ?」

 

 

そう言って、ゴルドルフが指したのは城塞。

その頂上部より伸びる赤い光、天を覆う巨大な魔法陣の中央を貫く光の奔流だった。

 

 

「此処から観測できる限りで良い、あれも魔力(マナ)かね?」

 

「お待ちを……え?」

 

 

コンソールを操作していたクラウディアが、すぐに声を上げた。

虚を突かれた様な、戸惑いを含んだそれ。

 

 

「どうした?」

 

「いえ、それが……」

 

 

更にコンソールを操作すること暫し。

クラウディアは、愕然とした様に報告を返す。

 

 

「……検出できません」

 

「何だと?」

 

「検出できないんです。あの光からだけは、不自然に……まるで、マナが()()されているみたいに」

 

 

沈黙。

奇妙な、余りにも奇怪な事実だった。

逆ならば未だしも、神代を超えるマナ濃度の中で、しかも明らかに魔術的な儀式が用いられていると解るあの光から、マナが検出されないとは。

これは、どういう事か。

 

 

「……失礼、キャプテン」

 

「幸い、これだけマナ濃度が高ければ、どうにか無理が利く。艦の周囲を()であると概念付けできれば、移動は問題ない。だとしても時間は必要だけどね」

 

「その間に偵察を行う必要があるね。あれがオリュンポスとどういう関係かは不明だけど、今は少しでも情報が欲しい。済まないが、立香ちゃん……」

 

「駄目だ」

 

 

ホームズ、ネモ、ダ・ヴィンチ。

カルデアの頭脳たる3名の遣り取り、其処に割り込んだのはゴルドルフだ。

またも視線が集中する中、彼は断固たる口調で告げる。

 

 

「マスター及びサーヴァントの出撃は許可できない。別名あるまで艦内で待機だ」

 

「しかし……」

 

「キャプテン、今すぐに運用可能なドローンの機種と数は?」

 

 

ゴルドルフの問い掛けに、ネモは我が意を得たりとばかりに頷く。

その表情は、何処か満足気だ。

 

 

「長距離偵察用の飛行型が4機、地上歩行式中距離型が6機、建造物侵入型の小型が12機あるよ」

 

「全部出したまえ。こんな訳の分からん状況で、サーヴァント付きとはいえ生身の小娘を外に出せるか!」

 

 

高圧的な言い方に反し、環境内の空気が幾分か和らぐ。

すぐにドローンの発艦準備に掛かる周囲を余所に、しかし立香は呆然と立ち竦んでいた。

そんな彼女の背後から、恐る恐るといった体で掛けられる声。

 

 

「……先輩?」

 

「ん……マシュ、どうかした?」

 

「その、大丈夫ですか?」

 

 

そう言って立香を気遣うマシュの表情は、何処か不安気だ。

心配させてしまったと反省しつつ、しかし立香の表情は優れない。

これではいけないと、無理矢理に笑みを形作る。

 

 

「……私は大丈夫だよ」

 

 

それでも。

言葉ではそう返しつつも、立香の胸中に膨れ上がるのは別の感情。

心の何処かで目を背けていた、しかし逃れられぬ現実として突き付けられてしまった、その光景。

 

日本(故郷)もまた、失われてしまったのだと。

この時代の世界は、本当に破壊(漂白)されてしまったのだと。

眼前に突き付けられてしまったが故の絶望。

 

 

「先輩……」

 

「本当に大丈夫だから……でも」

 

 

そして、もうひとつの予感。

根拠など無いが、しかし確かに意識の何処かで鳴り響く警鐘。

まるで、数多の犠牲者の血に塗れた刃物を、喉元に宛がわれているかの様な悪寒。

 

 

「でも?」

 

「……あそこ、()()()()()()……!?」

 

 

瞬間、我に返った様に口元を押さえる立香、目を剥くマシュ。

それは、如何なる過酷な特異点、或いは異聞帯を前にしても、彼女が一度も口にした事の無い拒絶の言葉。

知らず口を突いて出たそれに、立香自身が愕然とし、マシュもまた驚愕している様だ。

 

 

「あの……」

 

「私……今、なんて?」

 

 

恐る恐る尋ねる立香に、しかしマシュも返す言葉を持たない。

双方が呆然とする中、ムニエルの報告が耳を打った。

 

 

「ドローン各種、射出準備完了!」

 

「よし、出せ!」

 

 

立香は気付かない。

その感覚が根拠なきものなどではなく、自らの霊基より齎されたものだと。

神代を超えるマナ濃度の影響により鋭敏となった彼女の霊基が、嘗て記憶した()()()()()に反応しているが故の感覚だと。

その()()()()()が存在している場所こそが、スクリーンに映る城塞の内部なのだと。

 

気付けば何が変わっていたか、という訳ではない。

救いといえば、彼女自身が其処に向かう必要は無い、行ってはならないと、その様に判断が下された事か。

判断の理由こそ問題の真髄とは異なれど、それは藤丸 立香の(尊厳)を護る決断に他ならない。

 

しかし結果として、科学と神秘の混成たる機械の目を通じて、彼女が、マシュが、この場の全ての者が()()を目にする事は避けられなかった。

生きとし生けるもの全てが目を背け、知覚する事すら拒絶し、知ってしまえば如何なる手段を用いてでも否定しようと試みるだろう、その光景。

誰もが拳を握り締め、刃を高く掲げ、銃を手に取るだろう、その真実。

それを目にしてしまった以上、もはや逃れる道などありはしなかったのだ。

 

 

「ドローン、城塞上空に達し……え?」

 

 

カルデアも、クリプターも。

人も、そして()でさえも。

逃げ込む場所など、何処にも無かったのだから。

 

 

 

 

 

真っ先に()()を感知したのは、全能たる大神ゼウス。

次いで、都市の生産設備を統括するデメテルだった。

僅かに遅れて、アフロディーテが続く。

 

 

「これは……?」

 

「侵入者だ。しかし汎人類史の者ではない」

 

「……増産塔2番、6、7、16、17と、20番台全て、32と39番が機能停止、崩壊を確認……外部および内部からの同時攻撃です」

 

 

ほぼ同時に機能を停止する、都市の生産機構。

破神同盟という叛乱勢力が存在する以上、破壊工作はこれまでにもあった事ではあるが、今回は規模が段違いだ。

オリュンポスの民の監視状況は万全であり、しかし実行犯が都市外部からの侵入者である事以外には取り立てて有用な情報が無い事を訝しみつつ、ゼウスは詳細な状況の把握に努める。

そして直ぐに、事態の異常性を認識するに至った。

 

 

「これは……」

 

「どうされましたか?」

 

「民の生命反応が()()している。クリロノミアが機能していない」

 

 

そのゼウスの言葉とほぼ同時に実態を把握したのか、目に見えて肌を蒼褪めさせるデメテル。

アフロディーテもまた、真体より得られる情報から都市の惨状を把握したらしく、表情を強張らせる。

しかし民の間で錯綜する情報から、侵入者が極めて多数かつ生命体である事は確認できた。

よってゼウスは、現状への対処に最も適任であろうアフロディーテへと指令を下す。

 

 

「アフロディーテよ。直ちに出撃し、敵性体群を殲滅せよ。対知性体霊子情報攪乱戦開始」

 

「はっ、直ちに……ッ!?」

 

 

主神よりの下命に、直ちに応を返すアフロディーテ。

しかし、すぐにその表情が凍り付き、言葉が途絶えた。

その様に違和感を覚えたか、デメテルが問い掛ける。

 

 

「どうしたの?」

 

「……駄目、できない」

 

 

答えつつ、見る見る内に血の気が失せてゆく美貌。

単に情報戦に失敗した、それ以上に想定外の事態が進行している事を窺わせる反応。

 

 

「敵性体群への対知的生命体情報強制介入、攪乱に失敗……何よ、これ……こんなの、生物なんかじゃ……」

 

 

振動、轟音。

オリュンピアマキア集結より幾千年、一度も揺らぐ事の無かったオリュンポスの地が、揺れていた。

明らかに人為的な現象と判る、破壊的な衝撃。

愕然とするデメテルと、一層に美貌を強張らせるアフロディーテ。

 

しかし、美の女神の表情を凍り付かせているのは、自らの領域での戦闘が失敗に終わった事でも、神聖不可侵の地が攻撃を受けているという事実でもなく。

知性体教導用大型端末、並びに霊子情報戦型攻撃機である彼女をして、全く理解できない程の感情を察知したが為。

オリュンピア(神々の地)を闊歩する、破滅(DOOM)そのものの存在を知覚したが為だった。

 

 

「こんな……こんなに、狂った()()なんて……!」

 

『おい! あのイカレ野郎は何処のどいつだ!?』

 

『誰の事よ!?』

 

 

遂に、明確に響き渡る爆発音。

危険因子として要監視対象としていた人間達(クリプター)、その焦燥の滲む会話がゼウスの意識に響いたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

『あいつだよ! 化け物相手に()()()()()()ぶっ放してる、戦車(Tank)みてえな野郎だよ!』

 

 

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