時雨リオの配信は、大体くだらない話で盛り上がる。
それがまさしく彼女の魅力なのである。―ココ・ドコヤ(オランダの思想家 1301~1402)
「みんなたい焼きって何味が好き?」
リオは皆に問いかけた。
リオは今日も雑談配信をしていた。これと言って話すことが決まって無い雑談配信では、リオの素朴な疑問も立派なテーマとなりうる。
そのためリオの頭の中でのんびり泳いでいたたい焼きは、本日の主役に選ばれた。
「まあなんでも美味いよね」
つぶあん
アンパンマン
クリーム
チョコ
「なるほど、あんこが多いのか 特にこしあん」
リオはひとり納得した。
ちなみにリオはあんこなら”こし”だろうが”つぶ”だろうがどうでもいいと思っていた。
テレビでやたら報道される有名人の不倫と同じくらいどうでもいい事柄である。
「じゃあどこから食べる?」
尻尾かな
すぃっぽですかね
頭じゃろ
「これは若干頭が多いのかな」
しかし味は一緒である。
それでも頭から食べたくなるのは、動物の本能によるものなのか。
「ちなみに私は腹から食べます」
かっこいい
中身出ちゃうじゃん
ゴリラの方が綺麗に食べそう
「嘘だよwwww そんな猫じゃあるまいしww」
みゃーー
にゃおーーん
ニャースでニャース
「え?」
何故かいっぱい猫が鳴いていた。
「ちょっと猫多くない!? 皆ゴリラの皮被った猫だったのか(?)」
ねこねこ~
みゃーん
びえええええええええ
「まあでも猫可愛いよね いつか一緒に暮らしたいって思ってるんだ 一緒にベッドで寝たりとかよくない?」
孤独には癒しが必要
↑あ・・・(察し)
リオは猫の集会に出そう
寝ぼけて絞め殺しそう
「失礼な ということで、自分は猫だよっていう人~」
わに~
がお~
きり~ん
「何でいなくなるんだよ!」
ネコは逃げるようにしていなくなってしまった。
代わりに野性味の強い動物が集まってきていた。
「ひとりもいないじゃん! しかもアフリカじゃん!」
しましまひひーん
かばーん
ぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱお
「めっちゃ主張してる象いるし 何言いたいのか全然わかんないけど!」
「ただのヤバい人だ!」
www
お前が呼んだんだぞ
かわいい
コメント欄に現れる変人。
リオは他の配信者と比べて、自分の視聴者は結構変な人が多いと気が付き始めていた。
それがリオの何でも受け入れる順応性と対応力に惹かれた輩であり、加えてそのカオスの中心がリオであることは残念ながら気付いていないのだが。
ともかくとして、リオは突っ込みの名手である。
「”モンゴル人の家って意味です”・・・だから何だよ!」
「言ってないわ!」
「やかましいわ!」
wwww
毎回泣き叫んでるな
もう特技じゃん
目覚ましにしてます
リオは疲れたので一息ついた。
そのときふと思い出したのが簡易メール”もっちー”の存在である。
他の配信者も使っていて、何か面白そうだった
とすればやらないわけにはいかない。
面白いことには目が無い、時雨リオである。
「そういえば今度から”もっちー”を取り入れるから みんな好きなだけ”もっちー”してくれていいよ」
いっぱい送るわ
いと嬉し
くそ餅送るわ
リオはそうして配信を終えた。
「どうして↑怪文書→ばかり↓届くんだ↑!!」
このアクションゲームのコマンドみたいな矢印はイントネーションを表している。
これが翌日の配信における第一声であった。
そのイントネーションの不安定さから、彼女の情緒の乱れが読みとれる。
挨拶も何もかも差し置いて言ったことから、彼女の相当の熱量が窺がえる。
Q.何が起きたのですか
A.彼女はつい昨日、もっちーを送るよう皆に呼びかけた。そしてその要望に応えるように、たくさんのもっちーが送られてきた。
中身は「文章から真意を読み取ることが難しい」でおなじみの怪文書ばかりだったよ!
「どうしてだ・・・ 皆、いやお前ら、私を楽しませようというfunnyで素晴らしい善意は持ち合わせていないのか!?」
お前のことが好きなんだよ!
送れと言うから送ったぞ
もっちもち~
「違うんだよな~」
リオは嘆いた。
リオが期待していたのは「好きなお肉は何ですか?」とか「好きなゴリラの仕草は何ですか?」とかそういった雑談に華を添えられるような話題性のあるやつである。
なのに送られてきたのは怪文書。もう360度違う。あ、一周したわ。
「まあとりあえず紹介するよ ええと最初のもっち―はこれかな
” ゴジュー円を握りしめて
リンゴを買いました。
ラスベガス産です
すごいでしょ?
きみにはあげない。”
「何の報告だよ!」
全くもって意味不明である。
お手本のような怪文書で草
ラ ス ベ ガ ス
縦読みじゃね?
縦に読んでみ
縦?
「ええと・・・”ゴリラすき” ああそういうことか!なんだいいやつかよ!ありがとう!」
とうとうゴリラ認めたなwww
回りくどいのすこ
謎解きかよww
リオは素直になれない視聴者だと思い、素直に喜んだ。
もちろんからかわれているだけである。
「それなら他にもいいやつがいるかもしれないな! よし、次のを読もう!」
ざわ
どんどん読もう
楽しい予感
いでよベガス
「ええと”ラスベガスでりんご農園やってます^^”・・・さっきのお前がつくったんか!!」
wwww
やっぱりww
日 米 貿 易
よかったねー^^
「なんでうちの配信で国際交流してんだよww もういいや、次い
”美味しかったです”・・・だから会話すんなや!」
何を見せられてるんだww
成り立ってるの草
リンゴ育てる配信しよう
生産者と消費者が海を越えて結ばれるという奇跡を目の当たりにした。
素晴らしいことではあるが、リオが欲しいのはもっと別のものである。
リオは気を取り直して次のもっちーを読むことにした。
「はい次、
”キーボードの「4」と「G」の右下に書いてある平仮名を読んでください”
ああ、これ知ってる!ごめん知ってる!これあれだ「すき」って言わせるやつでしょ 夢野雫さんがやってたよ!」
残念
次はもう少し上手くやってくれ
惜しい
「いやいや読むよ 求められたら答えるのが私の主義だ!」
イケメンだあ』
音しよう
ありがてえ
あれ?でもこれ・・・
「ということで「4」と「G」の右下は・・・「う」「き」?・・・うき? ウキッ!?」
頭で猿が笑っていた。
「サルの鳴き真似させたかっただけじゃねえかああ!!」
草
wwwww
天才かよwww
録音しました
「く゛そ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ 何゛て゛今゛何゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
草
草
ノルマ達成
い つ も の
おめでとう!!
リオを嬉しくも悲しい複雑な感情を叫び声で轟かせた。
前回の武士コラボでチャンネル登録者数は良いペースで伸び続けていたのだが、記念すべき5万人の瞬間、リオは猿になっていたのだった。
せめて人でありたかった・・・
リオの届かぬ願いである。
「ま・・・まあ、めでたい事には変わりないっ 次の放送は5万人記念放送にしよう!」
おめでとさん
やったぜ姉貴!
リオちゃん、こんなに大きくなって・・・
絶対行くよ!
「それじゃあ またな!」
低音さんきゅ
またな
またなっ
またな
そうしてリオはこの日の配信を終えた。
次の配信のことを思い、リオは自然と笑みを浮かべた。