ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

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お祝い配信だ! [1]

画面には「祝 登録者5万人」の文字が掲げられたパーティ会場が表示されている。

コメント欄を見れば、既に多くの人が配信が始まるのを待っていた。リオは大量の酒をウキウキ気分で用意すると配信を始めた。

 

「みんな、うほうほ!」

 

リオは上機嫌に声を弾ませて言った。

 

うほ!

うほお!!

うほうほ!!

うほうっ!

 

リオの声に反応するコメント欄の猿たちも心なしかテンションが高い。

空気は楽しい予感で満ち溢れていた。

つまり本日は無礼講、素晴らしき祝いの席である。

 

「ってことでみんな来てくれてありがとう!!」

 

いえーい

始まった!!

待ってた

生きがい

 

リオは笑顔で言った。

記念すべき配信だけあって、若干いつもよりコメントが賑やかである。

リオはそれを眺めながら早速とばかりに、缶のハイボールに手を伸ばした。

 

「それじゃあみんな、酒か酒以外を持ってください持ちましたか持ちましたね 

はい、かんぱ~~い」

 

飲酒RTA

記録更新ですぜ姉貴

早速で草

かんぱ~~いっ

 

「ぐびぐびぐび ぷはあ~~ うまあ~~」

 

嗚呼~!お酒の音ォ~!

たまらねえなあ!!

美味いねえ

初手おっさん

 

リオは幸せそうに喉を鳴らした。

いつもの酒より3割増しで酒が美味く感じた。

というセリフが出てくる程には毎度配信で嗜んでいるリオである。

記念という言葉を口実に、いつもより美味しい酒がいつもより多く飲める。それだけでもこの配信の価値は大きい。

 

「そして今日はめでたいということでケーキも用意したよ」

 

酒とケーキ!?

酒飲めたら何でもいいんだろうな

普通にうまいよ

ケーキいいね

 

「ふふ 酒に合わない食べ物なんで存在しないんだよ」

リオはそういうと配信画面をいつもの2次元の映像ではなく、現実の映像を映すようにカメラに連動させて切り替えた。

リオが机の上にカメラを置く。

それによって映されたのは、机に乗っている飲み口が開けられた酒缶とその横で皿に乗せられた細長い三角形のチョコレートケーキである。

 

「どうだ とうとう次元を超えてみせたぞ」

 

なんか強そうで草

ええやん!

リアル配信嬉しい

美味そう

画面が綺麗だね

 

視聴者にそこそこに褒められているこのカメラ、実はリオが今日の配信のために買ってきたものだった。

前々から欲しいと思っていたものを、今日の配信の計画上、必要性が生じたので買ったのである。

 

「ちなみに私はチョコレートケーキ派」

 

は?抹茶だが?

俺もチョコ

普通にショート

チョコすこ

 

リオはそう言いながら、ケーキに巻いてある透明なフィルムを外した。

 

お手て~

これが生リオか

てこずってんねえ

これは長生きしますね

手相鑑定士いて草

 

「”手きれいで笑う” なにわろてんねんw」

 

ゴリラにしては毛が生えてないからなw

フィルム捨てるな

フィルム捨てないで食べろ

 

失礼なコメントに一言入れつつ、はがしたフィルムを捨てようとすれば一部のコメントで苦情が上がった。

曰く”食べろ”と。

なのでとりあえず食べてみた。

\クシャ クシャ/

フィルムを食べると乾いた音がする。

ヤギの気持ちが多少分かった。

 

「これで満足かい?」

 

何でやらせたんだよw

想像したら草

付いてるケーキ食えってことだろ

↑結局汚いww

 

リオはフィルムを捨てて、フォークを手に取った。そうして画面映りを多少気にしながら、ケーキの先端の崖部分をフォークで切り崩した後、捕まえた。

 

「いただきます」

 

偉い

召し上がれ

美味しそう

姉貴、左利き、キキキキキ

韻踏もうとすんなw

 

ちなみに右利きである。

ケーキを口に入れれば、じんわりと甘みが広がり美味であった。しかしリオは味を表現する能力を捨てていた。

 

食レポをどうぞ

 

「甘い そして美味しい」

 

www

Siriの方が上手い

姉貴もう少し頑張って

 

「茶碗蒸しぐらい美味しいよ」

 

舌バグってんのかww

なるほど

わけわからなくて草

もう頑張らないで

 

リオは要望には応えようと努力する女である。(答えるとは言っていない)

ちなみに茶碗蒸しは好物である。(聞いてない)

 

ケーキを食べる。酒を挟むを繰り返した。ケーキを食べ終えるころには缶を2つ開けていた。

まだ酒が回っているわけではないが、そこそこに気持ちの良い状態になってきていた。

 

「歌でも歌おうかな」

 

やったあ

リオの生歌!

きたあああ

盛り上がってまいりました

 

リオは立ち上がりながら思い付きで言った。

影沼ヒトリの歌声が記憶にあったせいかもしれない。

あそこまで上手くは歌えないが、歌を歌うのは好きだった。

 

「何歌おうか」

 

ボカロとか

俺ら東京さ行ぐだ

好きな曲でいこう

何でもいいよ

 

「それじゃあ・・・」

 

リオは知っているジブリの曲を歌っていくことにした。

カラオケを流して歌い始める。

 

「”~~~~ ~~~”」

 

人前では久々だったが、気持ちよく歌えていた。

ふとコメント欄を見れば『演歌っぽい』だの『こぶしがすごい』などと流れていた。

リオはソレを見て過去の記憶を思い出す。

昔、リオの友達はこれを”粘り気がすごい”と称していた。

そのときリオは”納豆が好きだからだよ”と返していた。

 

「ってことがあったんだよね」

 

www

会話のデッドボールするなw

リオは昔からリオなんだなって

わけわからなくて草

 

過去の君へ!今なら”私は本当にお餅だったのかもしれないね!?”なんて洒落の効いたワード(癒えない傷)を堂々と言い放つことが出来るよ!(出来ない)

ともかくとして、リオは自分が気持ち良く歌うとそんな風に自然となっちゃうのである。

そうして段々と熱が入っていき、やがて声量を抑えるも忘れていった。

 

\ドンッ/

 

「ひっ!?」

 

壁ドンきたあ

怒られちゃったねえ

これはよくない

 

ポニョポニョしていたら、とうとう隣人に壁ドンされてしまった。

 

「トトロの方が良かったかな?」

 

そういう問題ちゃうやろ

”黙れ小僧!”で一発よ

絶対違うだろ

土下座案件

 

「冗談だよ 後で謝りに行こ・・・」

 

リオは沈んだ声で言った。

 

リオは時計を見て現在の時刻を確認すると、配信画面をリアルから「祝5万人」が掲げられたパーティ会場の背景とカラスの擬人化でおなじみ時雨リオが表示されている画面に戻した。

そうしてPC前の席に着いた。

 

「皆、今からこのパーティ会場にお客さんが来るかもしれない!」

 

リオは期待のこもった声で言った。

実はリオは事前に、”通話ソフトを利用してお祝いの通話をしていただけませんか?”と自分の所属する事務所を通じて、その所属Vtuber達に頼み込んでいた。

そしてもし、それを承諾してくれていた場合、今の時間帯に通話がかかってくることになっていたのである。

ただこれは可能性としては、誰もかけてこないということも十分にありえる事である。

そのためリオは視聴者とくだらない話をしながらも、半ば祈るような気持ちで誰か通話してくれるのを待っていた。

 

「来ないな・・・」

 

なかなか来なかった。

 

ぼっちで草

凸待ち0人ってま?

みんなに怖がられてるんだろきっと

可愛そう

 

「可愛そう言うな いや・・・誰かくるさきっと」

 

哀愁がすごい

悲痛で草

こないよー^^

今までの行いがな~

 

リオは視聴者のコメントを見て、今までの行いを振り返る。

直近で言えばRUBG配信。あれを切り抜いた動画がニヨニヨ動画にいくつか上がっていて、更に何故か伸びていて、”壊れたインコ”だの”動く災害”だのと騒がれていた。

全く否定できない。

しかしもしそういった切り抜きを見て時雨リオを知った場合、その第一印象はやべえVtuberになるのだろう。

・・・やはり否定はできない。

そうしてリオは誰も来なかったらしょうがないと諦めかけていたのだが、しかしそれは不意にやってきたのだった。

 

「みんな誰か来たあああ」

 

やったぜ

いらっしゃいませえええ

よかったねー

どうせ武士だろw

 

光るアイコン。

リオは逸る気持ちで通話をした。

 

「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」

「りおちゃあん、きたわよん」

「おふっ」

 

画面に映る青色坊主。

果たして現れたのは先輩オカマVtuber山田ゴライアスであった。

 

「みんなお初う~ 山田ゴライアスよ~」

 

出たああww

濃いのがきたなあwww

いらっしゃいませえ

 

「じゃあ挨拶のキッスをあげるわ いくわよ!チュ!」

 

おえええ

ぶひいいいいいい

チュ!!

お帰りくださいませえ

 

ゴライアスの精神攻撃にコメント欄は阿鼻叫喚であった。

 

「ってことでリオちゃん!会いたかったわあ!」

「ありがとうございます 初めまして、時雨リオです」

「あら忘れん坊さん、久しぶりでしょ」

「そ・・・そうでしたね」

 

リオは困惑しながら返事をした。

思い返すのは先日の配信である。山田ゴライアスは超人的な勘の良さでリオが配信を見ていることに気づいたのだった。

武士といいゴライアスといい、人類は不思議がいっぱいである。

 

「とにかく5万人おめでと!お酒でも呑みましょう」

「え、やったあ 酒酒え!お酒を呑みましょう!」

 

リオは酒と聞いて声を弾ませた。

お酒さえあれば人間の距離など簡単に埋まる。(暴論)

 

「「かんぱ~~い」」

 

また飲むのかよww

血液とアルコール入れかえよう

かんぱ~い

いいね!

 

「「ぐびぐびぐび ぶはあ~」」

 

ハモるなww

汚いww

無礼講だぜ

おっさんしかいないww

 

おっさん二人が幸せのハーモニーを奏でた。

 

「ところでリオちゃん!私、貴方のファンなのよん!」

「ありがとうございます」

「だ・か・ら~ ”キッス”私にチョーだい?」

「なっ!?」

 

オカマの突然の申し出に、リオは驚きの声を上げた。

いや、リオはピュアピュアなわけではない。

リオにだって今まで恋人ぐらいいたことがあったのでキスが何たるかは知っている。

キスは好きな人に贈るものである。

 

「まだじゃない!?」

 

なんか間違えた。

 

リオ×ゴラ

違う、そうじゃない

イチャイチャすんな

 

「あら、海外だったら挨拶でするところもあるわよ」

「ここ海外じゃないですよね」

「そうかしら 同じVtuberをやっていても遠く離れている私たち これはもう海外よね」

「そっか」

 

”そっか”じゃないがww

そっか(思考停止)

駄目だこの子www

そうだよ(迫真)

 

ほどほどに酒が回ってきたリオは、思考能力が落ちていた。

今のリオは気分が良い。

 

「いきますよ」

「待って ”キスしよっか”でチューするのよ」

「分かりました じゃあいきます」

 

物わかり良くて草

ふわふわリオちゃん

録音準備い!

ざわ・・・ざわ・・・

 

「ねえ、キスしよっか」

 

\チュ/

 

「ぐっ」

 

嗚呼ああああああああ

えっっっっっ

もう死んでいい

最高すぎる

かっこいい可愛いかっこいい可愛いかっこいい可愛いk

ぐはあっ(吐血)

 

リオはキスをした。

その破壊力はすさまじく、コメント欄は歓喜の悲鳴を上げて、仕掛け人であるオカマさえも思わず潰れた声をもらした。

投げキッスではない。本物のキスだった。

リオは投げキッスなんて人生でしたことがなかった。そのためスピーカーから流れたのはリオの口先から漏れ出た微かな吐息と、水気を帯びて空気に溶けるようなリップ音だった。

それは普段の残念イケメン苦労人リオのイメージとはあまりにかけ離れた、艶美で妖美な響きだった。

多くの者はギャップで死んだ。

生き残った者は悶えていた。

 

「あれ・・・みんなどうしたの?」

 

強者の風格である。

 

「んんっ なんでもないわ」

「あ、そうだゴライアスさん筋トレ好き? あのね・・・」

 

すぐに通常モードになり、図らずも皆を落ち着かせるところはやはりリオである。

このまま通話を終えるまで、二人は他愛もない話で盛り上がっていた。

 

そうして通話を終えて一人目のお客さんは満足そうに帰って行った。

(投げキッスってあれで合ってたっけ・・・?)

リオは心の中で密かに自問した。

 

 

 

 

 

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