山田ゴライアスは台風のような人物だった。
場を一気に賑やかにして、ふらりと立ち去っていった。
尤も、最大瞬間風速を叩きだしたのはリオがキスしたときだったわけだが本人は全く気付いていない。
「何か賑やかだったね」
これが無知シチュですか
ゴライアスマジ感謝
あのオカマやり手だわ
「あ、そういえばあの人気配でイケメン分かるらしいから、みんなの中でも狙われてる人がいるかもしれないねww」
何それこわ
脅しですか?全く怖くないです
↑お前とは仲良くなれそう
リオは和やかに話をしながら一息入れる。
何はともあれ山田ゴライアスの襲撃により、誰にも祝われないという絶望を回避することは出来た。
もし誰にも祝われなかったら、いくらゴリラの子と噂される時雨リオでも傷付いていたことだろう。
ちなみに武士は”侍はライバルを祝ったりしない!”とよく分からないことを言っていた。しかもその後”侍ジョークで候!おめでとう!どうだキレ味はああ!?”などとぬかしきたので、「なまくらだばーか」と吐き捨てておいた。
とはいえリオも、自分と接点のあるVtuberが大声侍しかいないことを知っていたので、この先は本当に誰も来ないだろうと諦めていた。
しかし突然に通話はやってきた。
リオはかなり驚いた。
「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」
「夢野雫です」
「・・・すいませんもう一度お願いします」
「夢野雫です」
「・・・れえええええええええええええっっっ!!」
雫!?
きたあああ
リオ、いくら積んだんだ?
通話の相手は夢野雫だった。
リオは感激のあまり目を見開いて声を上げた。
リオは夢野雫のファンであり、その声を聞いただけで一気に感情が沸き上がるのを感じた。
「えっ え、なんで? 夢野雫? え、死んだの私?まじか」
リオは混乱のあまり自問自答を繰り返した。
「死んでないですよ」
「そっか死んでないか 死んでない、死んでないのか~よかった~~ ところでどちら様ですか?」
「夢野雫です」
「ふぁああああああああ」
そらしどおおおおおおお
↑それ楽しいか?
無限ループすんな
壊れちゃった
落ち着けやww
リオは興奮のあまり感情が高ぶって一瞬壊れてしまった。
その後すぐに自分の気持ち悪さに気が付き正気を取り戻したが、心拍は上昇したままである。
あれ?夢野雫が何しに来たんだ?
リオはふと疑問に思った。
憧れを目の前にした人間は、時として思考が正常に働かないものである。
「あの、何しに来たんですか?」
「登録者5万人のお祝いに来ました」
「そうですよねえええ」
リオの顔は青くなった。
先ほどからころころと感情が変わり、表情筋は大忙しである。
「あらためて、時雨リオさん登録者5万人おめでとうございます」
「あああありがとうございます(裏声)!!」
リオは雫のファンだったんだな
キモオタムーブやめいwww
裏声で草
「ちょっと深呼吸しますね」
リオは自分を落ち着かせるために深呼吸をした。
そうして少しの間PCから視線を外して、ただの壁を見つめる。
なんとか平静を取り戻した。
「すみません お待たせしました」
「いえ 私、リオさんのファンなんです」
「へあ!? ありがとうございます」
少しウルトラマンが出たが、平静である。
「実はこうやって他の人の配信にお邪魔したことはあまりないんですよね」
「そうなんですか じゃあ、今度コラボとかどうですか?」
ゴリオ発情すんな
パワープレイやめろ
出会い系みたいで草
Vtuber界の陽と陰
リオはとてもとても平静なので、考えなしに突然コラボを申し込んだ。
「それは是非お願いします 嬉しいです」
何故か通った。
やったああ
絶対見るわ
えええええ
「え、ああ、ありがとうございます え、ありがとうございます」
リオは自分で言っておいて相当に慌ててしまった。
コメント欄は大騒ぎである。
リオの心中も大騒ぎである。。
断られることを前提にちょっとした冗談として言ったのだが、本当に受け入れてもらえるとは思ってもいなかった。
「私、リオさんの今までの動画全部見てます メリカとかRUBGとか」
「あ・・・まじすか・・・」
公 開 処 刑
Oh・・・
罰ゲームでもさせられてたんか
リオは自分の過去動画を思い返してみても、碌な物が無いことを知っている。
だから好き好んで見る人は、変わり者だと思っていた。
「リオさんの動画、全部見てます。何度も見てます。暇さえあればずっと見てます。そのくらいリオさんのことが好きです」
「・・・ありがとうございます」
キマシタワ~
嗚呼~(尊死)
ぬっ
リオは夢野雫にここまで自分の動画を好いてもらっていたことを嬉しく思った。
しかし同時に、背筋にうっすらと寒気が走るのを感じた。
理由はよく分からなかった。
夢野雫が帰った後、リオはいつかできるであろう彼女とのコラボ配信を想像した。
共通の話題とか絶対ないがゲームだったら盛り上がれるだろう。さて、どんなゲームをやろうか。
妄想に夢を膨らませていたら3人目の訪問者が現れた。
リオはもはや驚きすぎて驚かなかった。(哲学)
「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」
リオは決まり文句を読み上げた。
「影沼ヒトリです よろしく・・・お願いします」
「ヒトリ君!?」
果たしてやってきたのは、以前に配信にお邪魔した際に美しい歌声を響かせていた影沼ヒトリであった。
「みんな聞いてよ!ヒトリ君は私の数少ない後輩の一人なんだよ!!あ、初対面なのにヒトリ君とか馴れ馴れしくしちゃったけど、嫌だったらほんとごめん」
「いえ・・・嬉しいです はい・・・」
「それなら良かった」
リオ姉貴怖いよね
後輩いたんだな
落ち着いた子だな
脅すなよ
「脅してないよ!」
影沼ヒトリは少し詰まりながら話していて、喋り慣れていない様子だった。
リオは彼が口下手なことは事前に知っていたために、別段驚くことは無かった。
ただ自分の配信で喋っている時と比べて、多少緊張している様子であることはリオも気づいた。
「緊張しなくていなくていいからね ここにいるの皆、猿だから」
うほおお!
うほっ(うほっ)!!
うほ~っほ
「ふっ 面白いですねw」
彼はリオの配信を見ていた。コメント欄を見て少し笑った。
緊張をほぐすには猿を使う事は効果的なのである。
ボス猿は上手くいったと笑みを浮かべた。
「あの、登録者5万人おめでとうございます」
「ありがとう!!」
「あの、前にコメントいただけて・・・あれすごく嬉しかったです ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ 歌すごかったよ 感動した」
影沼ヒトリは丁寧に感謝の意を伝えた。
リオは以前彼の配信を訪れて、コメントを残していた。
リオとしては心を揺さぶられる歌を聞けて自然と漏れ出たコメントであった。
だから感謝されるようなことではないのである。
「そういえばヒトリ君、私と武士の配信見てくれてたんだっけ」
「はい 面白かったです」
それを聞いて、リオはふといたずら心が沸いた。
「私パンTって言ってたよね」
「・・・はい」
「どう思った?」
この先輩最低である
このゴリラ野生に返そう
年中発情期
「ただのアンケートだよ!」
ただのセクハラである。
影沼ヒトリはたっぷりと沈黙した後、満を持して答えた。
「・・・おもしろパンTでした」
よく頑張ったよ
えらい
気使われてて草
「・・・そっか」
何で聞いたんだww
後輩を困らすな
う~ん、パンT
リオはさっきまで面白い質問だと思っていたのだが、今は何も面白くなかった。
過去のパンTを殴りたかった。
リオがくだらないことを考えている間に、彼はギターを手に持った。
「あの、祝いの場ということで・・・一曲歌ってもいいですか?」
「え!ほんとに!?ありがとう!!」
「いえいえ」
リオは彼の歌声が大好きである。
「何歌ってくれるの?ジブリ?演歌?」
「ハッピーバースデーのやつです」
「ええと、トューユーするやつ?」
「トューユーします」
誕生日で草
ビバハピバ!
誕生日おめでとう
意外な選曲だった。
ちなみにリオの誕生日は1月、現在は7月なので誕生日まだ先である。
あと誕生日は美味しく酒が飲める良い日である。
「ちなみにそれは、どうやって決まったの?」
「視聴者の人がリオさんが”毎日誕生日気分で最高だぜ!”って言うのを聞いたと」
「そんな馬鹿っぽいこと言わないよ!!」
合ってんだろwww
よおバースディパンT!
リオはいつも楽しそうだからな
間違ってないww
「ああ、すみません やめますすみません」
「いやいやいや せっかく準備してくれたわけだし歌ってよ!全然聞きたい!ああ歳取った!ほら歳取った!酒が美味いから、歳取ってるよ!」
「・・・それじゃあ歌わせていただきます」
リオは必死に酒を飲むことで、歳をとった。(?)
彼の歌が聴ければそれで良かったのである。
彼の歌声は相変わらず綺麗で繊細でとても素晴らしいものだった。
コメント欄にも感動している人がたくさんいた。
そうして彼は皆の心を温めて帰っていった。
彼が帰ったのちに息付く間もなく、次の通話がかかってきた。
まるで急かすようにアイコンが点滅していた。
リオは正直、もう少し歌の余韻を味わいたい気持ちもあったが、せっかくのお客さんを待たせるわけにもいかないのですぐさま通話に答えることにした。
「お越しいただきありがとうございます どなた様ですか?」
「某がああああああ 駿河b」
\ブチッ/
リオは”某があああああ”の爆音で驚き、”駿河”と聞こえた段階で反射的に通話を切った。駿河武士は事前にリオにおめでとうの言葉を継げていた。つまりわざわざ通話をかけてくる必要はないのである。
彼の意図を図りかねていると、再び通話が来た。
「要件をどうぞ」
「視聴者に”リオが誰にも祝われていない”と聞いてなあああ 某が嗚呼あああ直々にいいい祝いに来てやったのだああああ」
「祝ってもらったわ」
「え?左様か?」
「左様だ」
「某は・・・騙されたのか!?」
「左様だ そしてさようなら」
リオはスピーカー越しに武士が騒ぎ出す気配を感じて迷いなく通話を切った。
この行為は恐らく災害対策に該当するため、失礼には当たらないだろう。
よくやった
しょうがないね
ちょんまげ喉に突っ込みたい
ほら、コメント欄も喜んでる。