と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お
絶望に突き落とされ、その悲しさを感情のままに泣き叫ぶ声が部屋中に響いていた。
聞いた者には”ギャンブルで大金でも失ったのか”と錯覚させるような、重みのある声。
この低音で轟音な声の持ち主は間違いなく時雨リオである。
しかし部屋には時雨リオの姿はない。
それにもかかわらず、リオの声が警報のように繰り返し繰り返し部屋に響いている。
ではそれの出所がどこかと言えば、それは置き時計である。
置き時計は、ベッドの上で絶賛睡眠中の誰かさんの枕もとに置いてあった。
このセンス、普通ではない。それは恐らく正しい。
そしてここが普通の部屋ではない。それも恐らく正しい。
部屋に時雨リオ本人がいないことは先述の通りだが、しかし時雨リオはたくさんいるのである。
それはもうあちこちに。
例えば壁に貼られたでかいポスター。
それにプリントされているのは一人のVtuber。
紺色のショートカットに睨むような目つき、
上にサイズがでかめの黒いパーカーを着て、下は太ももを若干見せた黒のニーソックス。
パーカーのポケットに両手を突っ込んでいる気だるげな女。
まさしく時雨リオである。
続いては抱き枕。約1m程の長い枕の形状で、その表面には笑顔を浮かべる時雨リオの顔がプリントされている。
その他にも、ファイルやうちわといった小物が多数見られる。
尚、公式で販売されているわけではないのでグッズは全て持ち主の手作りである。
つまりどういう事かと言えば、この部屋の主は熱狂的な時雨リオのファンなのである。
と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お と゛う゛s
\ぱしっ/
けたたましくアラームを鳴らしていた置き時計だったが、頭をはたかれて沈黙した。
んん~っ
部屋の主が目覚めた。
眠りから覚めた誰かは、気持ちよさそうに体を伸ばしながら声を漏らした。
リオさんとのコラボ楽しみだな~
柔らかな声でつぶやく。
果たしてこの部屋の主とは、アイドル系Vtuber夢野雫その人であった。
リオは事務所に来ていた。今立っているのはどこかの部屋の前である。スタッフからは事前に、部屋の中に既に夢野雫がいる事を伝えられていた。
しかしリオはなかなか部屋に入ることが出来ずにいる。
この扉を開ければ夢野雫がいるのにである。
リオは彼女のファンのひとりであり、彼女の姿を想像するだけで胸の鼓動は急速に早まっていた。
この状態でもし本物に出会ったら心臓が限界突破して、爆発して、この建物は無くなることだろう。
これはよくない
リオは一旦目をつぶり、心落ち着かせることにした。
リオは強く念じる。
今から会うのはおかまオカマおかまオカマおかまオカマ・・・
”たべちゃうわよお!”
ぬっ!
強烈な印象を持つゴライアスは念じればいつでも本物のような生々しさを持って現れる。
脳内に現れたオカマはリオの耳元で囁いた。
リオはその衝撃に身体をびくりと震わせる。
これがゴライアスのおまじない(呪い)である。
心臓が軽く止まりかけたので、準備は整ったといえる。
リオはとうとう扉を開いた。
部屋に入ればまず目に入るのが、いくつか置かれた白の丸テーブルである。
そのうちの一つには、テーブル前の椅子に座る夢野雫の姿があった。
夢野雫もこちらに気づく。
リオと夢野雫の目が合う。
瞳の大きさに驚いていると、彼女は突然立ち上がった。
そうして満面の笑みを浮かべると、リオ目掛けてとっしんをくりだしてきた!
「りおちゃああああんんん」
「へ!?」
笑顔で迫りくる猪お姉さんにリオはただただ困惑した。
状況が飲み込めず慌てている間にも、彼女は確実に距離を詰めてくる。
リオは早々に避けることを諦めた。
去る美女追わず、来る美女拒まず。
リオは両手を広げて受け入れる体勢を作った。
「りおちゃああああん」
「いらっしゃいませええええ」
「りおちゃあああんん」
「ぐっ!!」
リオは見事に衝突した。
そのまま受け止めきれずに、勢いのままに後ろに倒れた。
仰向けになったリオが目を開ければ、馬乗りになってこちらを見下ろしている天使がいた。
「すみません、故郷の風習なんです」
「絶対嘘だろ!」
そんなものは聞いたことが無い。
それよりもリアル夢野雫が目の前にいることである。
映像越しの存在が触れられる距離にいるという事実はリオの心を昂らせた。
そしててんぱらせた。
とりあえず挨拶しよう。仰向けのまま。
「おはようございます」
「グーテンモルゲン♪」
「ドイツゥ!?」
「ナマステー♪」
「インドゥ!?」
「ウグルーニー ミン♪」
「知らん!?」
彼女は外国の挨拶が好きらしかった。
彼女は立ち上がるとリオに手を差し伸べた。
リオがその手を見つめると彼女はにこりと笑った。
こんなことされたら誰だって立つのを手助けしてくれるもんだと思うだろう。
リオもその例に漏れずに、その手を掴んで立ち上がろうとした。
「えい」
「ふぁあ!?」
彼女は何故か掴んだ手をそのまま後ろに引いた。
それによりリオは前傾姿勢のまま体勢を崩し、彼女の胸元へ一直線に飛び込んでいく。
「何でですか!?」
「そういう風習なんです!!」
「じゃあ仕方ないですねえええ」
リオの顔は彼女の豊かな胸元へと見事に不時着した。
「ぎゅー」
さらに彼女はリオの頭に両手を回して、胸元に顔を押し付けるようにしてきた。
「くぁwせdrftgyふじこlp」」
「髪いい匂いですね~ シャンプーは”~”ですね~」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
翻訳すると”やばい息できない 死ぬう 死ぬう 胸に溺れて死ぬう”である。
しかしやがて暴れても無駄なことに気が付いた。
興奮と息苦しさでハイになっていくリオの脳内にはある映像が浮かんできた。
\うほほおほほほ うほほほほほ/
リオの母親と父親がアマゾンでドラミングをしていた。
ママゴリラとパパゴリラは実に楽しそうである。
これが人生最後に見た景色かあ、いとおかし。
人生を嘆いているとようやく頭が解放された。
「死にかけましたが」
「故郷の風習なんです」
「どこですか?」
「モンゴルです」
「モンゴルです!?」
速報 夢野雫はモンゴル出身
いや嘘やろ。
リオは先程までの記憶を辿る。
1、すごい勢いでぶつかってくる。
2、相手を倒して床に転がす
3、姿勢を崩して膝をつかせる
あれえ?これあれじゃん、完全に立ち稽古じゃん、やっば。
リオは、もしかしたら夢野雫は本当にモンゴル出身なのかもしれないと思った。
いやでも体型めっちゃスリムだな。(胸は除外)
というか大きな胸が気持ちよかったです。(セクハラ)
「いっぱい食べろって両親に言われたんですけど、胸だけ育っちゃったんですよね」
「ああ、そうなんですね・・・」
「だからリオさんうらやましいです」
「ああ、ああ?」
ひん・・・控えめなリオからすると羨ましい限りである。
そして悪気のない言葉が一番攻撃力が高い事を今知った。
それよりもいつまでも立ち話をしているのは忍びないということで2人は席に着くことにした。
まず夢野雫が席に着いた。
そして身体をリオの方に向けた。そうして自らの膝をぽんぽんと叩いた。
「リオさん、はいどーぞ」
「はいどーも」
リオは席に座った。夢野雫の膝の上に。
「いやなんでだよ!!」
「いいじゃないですか あったかいし」
「そういう事じゃないでしょ」
「は!?もしかして私の胸が肩甲骨に当たって嫌でしたか!?」
「それは嫌味か何かですか!」
どこに膝上に大人を座らせて話し合いする人がいるのだろうか。
リオはやれやれと首を振りながらようやく席に着いた。
そして夢野雫もまた席に着いた。リオの膝の上に。
「だから何で!?」
「リオさん座り心地がいいですね 特に背もたれがいいです」
「だれが背もたれだ!」
「平らで良い感じです」
「ぐはあっ!」
ダイレクトアタックでライフをめちゃくちゃに削られている。
言葉は用法用量正しく守って使われるべきである。
そうしてようやく二人は向かい合って席に着くこととなった。
「とりあえず自己紹介をしましょうか」
彼女は言った。
「いいですね」
「じゃあ私から 私の名前は夢野雫です ええと、四股名は・・・」
「四股名!?」
「朝〇龍です」
「適当だろ」
何で四股名があるんだとか、四股名ってそういうやつじゃないよ、とか言いたいことはたくさんあったが今までのことから彼女には恐らく常識が通用しないので諦めた。
モンゴルは恐ろしい場所である。
「じゃあ今度はリオさん 私がいくつか質問するから答えてください」
「形式変わってますよ!?」
「リオさんのことなら大体知ってますからね」
「・・・え」
彼女は今までと声音を変えて、若干低めのつぶやくような声でそう言った。
雰囲気が一瞬変わった気がしたのだが、すぐに戻ったのでリオは気にしないことにした。
「まず一問目 プレゼントは何が欲しいですか?」
「ニンテンドースイ〇チ」
「ほうほう」
彼女はなにやらメモ帳に書き出していた。「ギリ買えるかな・・・」などのつぶやき声が聞こえてきたが意味はよく分からない。
「では二問目 デートするならどこがいいですか?」
「北海道」
「ほうほう」
やっぱりメモをしていた。「飛行機代は・・・」などのつぶやきが聞こえた気がするが意味はよく分からない。
「では3問目 キスされるならどこがいいですか?」
「おでこかな」
「はい ありがとうございました これで質問は終わりです」
そう言って彼女は質問タイムを終わらせた。
最後の質問はメモを取っていなかったみたいだが本当によく分からない。
「何か疲れたのでおやつでも取ってきますね」
「多分9、5割貴方のせいですよ」
「雫と呼んでください」
「え?」
「呼んでください」
「雫・・・」
「よく言えました!」
彼女は笑顔を咲かせた。
そうして席を立った。全く、話し合いを何もしていないのに既に疲れているとは全く。
リオは休憩しようと背もたれにもたれかかって目を閉じた。
おでこに柔らかい感触を感じた。
「へ?」
「どうでした?」
彼女がおでこにキスをしていた。
「ななななにしてるんですか?」
「ききききすですよ」
「いや、え? ああ、え?」
「さっきおでこが良いって言ってたじゃないですか」
「それ、好きな人からされるならの話ですよ!」
そう言うと夢野雫の空気が明らかに変わったのをリオは感じた。
「私のこと・・・嫌いなんですか・・・?」
「あ・・・いや・・・もちろんすきですけど・・・そういうことじゃなくて・・・」
リオはたじろいだ。
しかし彼女はリオの”すき”の言葉を聞くとすぐに何事もなかったかのように様子が戻った。
「じゃあ、私お菓子持ってきますね」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
リオは改めて自分の状況を考える。未だにあの夢野雫と普通に会話していることが信じられないでいた。いや普通じゃない気がするが。
しかし時折彼女が見せる、あの暗い雰囲気はどういった意味があるのだろうか。
リオには分からなかった。
「戻りました ポッキーです」
彼女はざるにポッキーの袋をいくつか入れて持ってきた。
机の上に置かれたざる。
彼女は早速とばかりにポッキーを食べ始めた。
その食べ方は少し変わっていた。
「ウサギみたいに食べるんですね かじるみたいにもぐもぐって」
「ああ名残ですかね」
「へえ~」
彼女はモンゴル育ちで元うさぎで力士に育てられた豊乳ウーマンである。もう疲れた。
「はい」
彼女がポッキーを食べている様子をぼんやりと眺めていると、ポッキーを一本差し出された。
そのポッキーは丁度机の真ん中上空を漂っている。
そしてひらひらと動きリオを誘っている。
「んんっ んんっ」
リオはそれに食らいつこうとした。本能なので仕方ないことである。
ネコが猫じゃらしに反応するのと同じである。
リオは猫である(?)
しかし首を伸ばしても届きそうになったところで雫がポッキーを離してしまうので、ぎりぎりで食べられないままでいた。
「んんっ んんっ」
「ふふふ♪」
彼女はそんなリオを見つめてニコニコほほ笑んでいた。
リオはだんだんと腹が立ってきた。
「んんっ!! んんっ!!」
「ふふ♪ 怒らないでくださいね」
「んん!」
「はいどーぞ」
ようやくポッキーが差し出された。しかし首を限界まで伸ばしてようやく先っぽに届くぐらいの場所である。
そのためリオは歯を何度もカチカチと鳴らして何とか先っぽに食らいつこうとする必要があった。
そうして開閉を繰り返すリオの歯が開いたときに、雫はポッキーを突っ込みそしてまた離すを繰り返していた。
結果少しずづ、ポッキーの先っぽがかじられていく。
彼女はどうやらリオの口をシュレッダーのように見立てて遊んでいるらしかった。
屈辱だ。
ポッキーも食べ終わるとようやく何のゲームをやるかという話になった。
「それじゃあリオさんFPSかホラゲーの2択にしましょう」
「なるほど」
そういうと彼女は、机の上に手の平を上にした状態で両手を差し出した。
「FPSなら左手にホラゲーなら右手に手を置いてください」
彼女の言動は理屈を考えないのが得策である。
FPSは武士と一緒にRUBGをやったからな・・・
でもホラー苦手なんだよな・・・
でもまあ仕方ないか。
「ホラゲーで」
「右手にどうぞ」
「はい」
リオは左手を彼女の右手の手の平に乗せた。すると彼女は空いている右手の手をリオの左手に乗せた。
そうしてリオの左手は彼女の両手に挟まれた。
「暖かいですね」
「これ必要でした?」
「赤ちゃんは体温が高いんですよ」
「私、赤ん坊じゃないですよ!?」
「でも、赤ちゃんみたいに可愛いですよ」
彼女は不思議な人である。