ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

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罰ゲームだ! [2]

「見てください! これが本日の主役、ポッキーです!」

 

雫はそう言って片手に持った銀紙の袋を破り、中からポッキーを一本取り出した。

雫はそのポッキーをリオが良く見えるように彼女の眼前に差し出す。

 

「懐かしいな・・・」

 

リオがポッキーを見るのは、実に小学生ぶりだった。

いくら有名なお菓子でも機会が無ければ食べないものである。

リオは久びさのポッキーとの再会を喜び、顔を近づけてその姿をしげしげと観察する。

13.5cmの細い棒状の見た目をしていて、持ち手となる部分を3cm程残してその身を真っ黒にコーティングしている。

リオがすんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅げば、甘い香りに鼻腔がくすぐられた。

その黒は魅惑のチョコレートである。

それは見ているだけで脳内にとろけるような味わいを容易に想像させる。

リオは段々噛り付きたくなる衝動に襲われたが、理性でそれを押さえつけた。

 

危ない危ない これは私たちにとっては単なるお菓子じゃない もはや戦場だ もうすぐ私たちが戦う場所なんだ だから食べちゃダメだ!

 

リオはそう自分に言い聞かせながらも、そのスリムボデー(棒切れ)に魅了されてポッキーから目を離せないでいた。

その姿は、ショーケースに張り付いて中のおもちゃを見つめる子供のようである。

雫はそんなリオの姿を見て愛おしく思うのと同時に、ポッキーにあまりにも熱心な視線を注いでいるリオにちょっとした意地悪を仕掛けたくなった。

雫はポッキーを持った指を左に少し傾ける。

するとリオの顔も同じく左に傾く。

今度は右に少し傾ける。

するとリオの顔も右に傾く。

リオは集中するあまりポッキーを無意識に目で追っていた。

それならばと雫は、今度は左右に連続して一定の速度でポッキーを振る。

やはりリオの顔はそれに合わせて左右に振れ始めた。

リオ=メトロノームの完成である。

 

「嗚呼~ 可愛い!」

 

可愛いいい

リビングに置きたい

100円ショップに売ってそう

 

 

雫は歓喜の声を上げた。

リオの無表情で黙々と首を振るその姿は、マスコット的な愛らしさを周囲に振りまいていた。

雫はリオ=メトロノームを存分に堪能すると、多少の口惜しさも感じつつも手を止めて、ポッキーをそのまま口へと運ぶ。

リオの視線が雫の指を追っていた。

 

「もぐっ」

「あ・・・」

 

雫がポッキーを口を含むと、リオは名残惜しそうに声を漏らした。

 

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

 

ぽかんと口を開けて見つめるリオの顔に、雫は少しの罪悪感と大きな悦を感じながらポッキーを平らげていく。

細かく齧りながら食べるその様子はウサギにそっくりであった。

やがてポッキーを食べ終えた雫はもう一本ポッキーを取り出すと、リオの顔の前に差し出した。

 

「食べますか?」

「いいです」

 

雫は笑いながら問いかけたが、リオは首を振って断った。

リオには神聖なるポッキーに口をつけて汚すわけにはいかないという厳然たる意志があった。

それはまさしく武士道。

和の精神である。

いとおかし。

まじまんじ。

雫はリオの前に差し出した棒切れを見てあることを思い付いた。

 

「この状態で催眠術にかけるみたいのよくありますよね」

「確かにそうですね」

「やってみましょう!」

「かかるわけないじゃないですか」

 

リオが呆れるのをよそに、雫は期待のこもった瞳をリオに向けている。

そうして雫はポッキーの先をリオの顔に向けながらくるくると回し始めた。

トンボを捕まえる要領である。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

 

雫はおまじないのように唱える。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「そんなの意味ないですって」

 

リオはポッキーの先を瞳だけでくるくると追い回しながら呟いた。

ポッキーは回り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「本当に無駄ですって」

 

雫の呑気な声と、リオの呆れた声が対照的に発せられる。

ポッキーは回り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「もう・・・やめま・・・しょう・・・うほ」

 

気付けばリオの言葉は途切れ途切れになり、語尾には猿の鳴き声を上げた。

言葉には抑揚が無く、まぶたも少し落ちてきている。

先ほどまでとは明らかに様子が違う。

雫がリオにかけようとしている催眠術は対象の意識を一点に集中させることで、意識レベルを低下させそこに暗示を入れることで催眠をかけるものである。

つまり催眠術が効き始めていた。

ポッキーは周り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「うほ・・・うほお・・・うほっ・・・」

 

リオはとうとう猿の鳴き声以外をあげなくなった。

口元も少し突き出している。

雫はそれを確認すると手の動きを止めた。

ポッキーの動きも止まった。

雫はポッキーをまるでマイクのようにリオの口元に差し出すと、期待のこもった声で尋ねた。

 

「あなたはお猿さんですか?」

 

返事は・・・

 

「うほっおおっおおっっっ!!!」

 

鳴き声だった。

更にその場で勢いよく立ち上がると、思いっきり広げた両腕で胸を叩き始めた。

 

「うほほほほおおおっっ」

\ポコポコッポコポコッポコポコ/

 

特徴的で力強い鳴き声。

聞いた者の腹に響く見事なドラミング。

この瞬間に証明された。

リオはまさしく、、ゴリラになった。

 

「上手くいきましたっ!」

 

来たああああ

まじかよ!?

ゴリラだああああああ

ゴリオきたあああああ

 

雫は立ち上がったリオを見上げながらはしゃいだ声を上げた。

リオは辺りをきょろきょろと見渡すと、正面の机の上にPCが置かれていることに気が付いた。

 

「うほ」

 

興味深そうに声を上げる。

ゴリラになったリオには目に映った物全てが新鮮に映り、興味をそそられる物である。

リオは早速PCに近づくと、そのあちこちに好奇心の赴くままに触れ始めた。

 

「これはPCですよ」

「うほおっ」

 

雫の言葉を理解しているのかいないのか、リオは楽しそうに声を上げながらPCをいじっている。

 

「これがキーボードで、こっちがマウス」

「うほおおおおっ」

 

雫が一つひとつ指で指し示しながら説明をすると、リオはそれを手当たり次第に触れていく。

キーボードを無作為に叩き、マウスを不規則に動かす。、

雫はそれを微笑ましく見守りながら、PCのフレームに取り付けられたWEBカメラを指さした。

 

「あとこれがカメラです」

「うほお!」

 

リオは興奮した声をあげて、カメラのレンズ部分を手で覆ってみたり、顔を近づけてレンズの向こうの景色を覗こうとしたりする。

カメラを気に入ったらしかった。

雫が傍らでリオの様子を静かに見守る。

不意にカメラをバシバシ叩いた。

画面に映る映像が乱れる。

 

「うほほほほほっっ」

「リオさん叩いちゃだめです!」

 

何だ!?

地震で草

リオちゃんやめてー^^

ゴリラ落ち着け

 

雫は慌ててリオの手を掴んで止めた。

急いで動作を確認すれば幸いにも壊れていないようで、雫は安堵の息をつく。

しかし今のリオはゴリラである。

人間界の常識は通用しない。

今の彼女には未知なる食材への探求心がある。

リオは雫が少し目を離した隙に、カメラ向かって大きく口を開けた。

”あーん”とその口から漏れ出た音で雫はリオの方へと振り向き、リオがカメラを食べようとしていることに気が付いた。

雫は目を丸くしたのは一瞬、すぐさまリオの両肩に手を置いて自分の方へと引っ張り、カメラと口を遠ざける。

リオがカメラを食べるために思いっきり閉じた歯が空気を噛みながら合わさり、辺りに小気味の良い音を響かせた。

雫はリオを振り向かせると、目を合わせる。

 

「リオさん カメラは叩いちゃだめです 食べても駄目です」

 

雫が幼い子に言い聞かせるように注意をするが、リオはそれを見て何を思ったのか両手を頭上に挙げてぱちぱちと手を叩いて見せた。

さらに笑顔を浮かべていてその様子から楽しい気持ちであることが読み取れる。

そして言葉を理解してはいないことも読み取れる。

 

う~ん・・・ せっかくお猿さんになっていただいたリオさんですが、戻っていただいた方がよさそうです

 

雫はリオを元に戻すことを決めた。

そうなればまず必要なのは、再び催眠をかける要領で人間に戻るように暗示をかけることである。

雫は正座に座りなおすと、リオを自分の正面に座らせる。

そして机の上に置いていた銀の紙から再びポッキーを取り出し、リオの眼前へと差し出した。

 

「このポッキーの先っぽを見ていてくださいね」

 

リオにそう言うと、雫はポッキーの先端をぐるぐると円を描くように回し始める。

リオは興味深そうな目でポッキーの先端を追い始めた。

雫は初めにリオに催眠をかけた様子を思い出し、今のリオもこのままいけばすぐに催眠にかかるだろうと予期し、そして期待した。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「うほお・・・うほお・・・」

 

雫の言葉に呼応するように、リオは鳴き声を呟いている。

リオはポッキーの先端に集中している。

ポッキーを回す。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「うほお・・・うh・・・ぬう・・・」

 

リオが言葉尻に人の言葉を発したのを、雫は確かに聞いた。

催眠が解けてきている証拠である。

雫はすぐにでもリオが元に戻ることを確信した。

ポッキーが回る。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「ぬおおおおっっ・・・ぬおおおおっっ・・・」

 

リオはもはや猿の鳴き声を出さなくなった。

代わりに聞こえるのはリオにしては珍しく、やたらと大きくいつもよりさらに低めの声である。

さらに右手で顎を撫でていることもまた珍しい。

ともあれリオはゴリラではなくなった。

未だリオの声をはっきりと聞いていない雫とその視聴者は、彼女が喋り始めるのを待ち望んでいた。

そこで雫はリオに質問をすることにした。

雫は聞き慣れた声が帰って来ると信じていた。

だから尋ねた。

 

「あなたは誰ですか?」

 

返事。

 

「ぬおおおおおおおおっっ 某がああああああ 江戸の大剣豪おおおおおお 駿河武士だああああああああ」

 

!?

え!?

はっ!?

うっさ

武士い!?

 

部屋中に響く轟音。

紛れもなく駿河武士の自己紹介だった。

 

「え?あれ?リオさんじゃないんですか?」

「駿河武士だああああ」

「・・・どちら様でしょうか?」

「同期だあああああああああ」

 

認知されてなくて草

リオと武士は同一人物!?

武士はどこからでも生えてくるんだ

キノコかな?

でもリオの声っぽいぞ

 

見た目は変わらず時雨リオだが本人が駿河武士を主張している。

雫はまだ絡んだことが無いが、一応、駿河武士の存在は知っていた。

今のリオを雫が知っている武士情報と照らし合わせてみても、声の大きさ以外は全く該当しない。

顔も体も時雨リオのままである。

雫は訳が分からず困惑した。

さて結論から言えば、今の時雨リオは催眠が失敗しその潜在意識に眠る駿河武士の記憶だけが表面に浮上してきた状態である。

髭を撫で、声がでかいのは、それがリオの思う彼のアイデンティティ―であり、それ以外はアウトオブ眼中ということである。(彼に対する認識は髭と声だけである事を意味する)

つまり人にはなったが、リオにはならなかった。

 

「ここはどこだああああああああ」

「事務所なのでお静かにお願いします」

 

武士リオの大声に雫は苛立ちを覚え始めていた。

雫は今の武士リオのことを”理由も原理もよく分からないが、どうやったか駿河武士という存在が乗っ取った”という風に捉えた。

雫にとってその事実は不快である。

時雨リオはありのままの存在であり、外部からの余分因子はその価値を貶める。

その純粋さが雫にとっては何よりも大切なのである。

故に不快である。

そのため雫は、武士リオに何としてもご退場願うことにした。

 

「すみません”駿河武士”さん リオさん出していただけますか?」

「何を言っておるのだああああああ 某は嗚呼あああ駿河武士以外の何者でもないぞおおおおお」

「では催眠をかけなおすので、もう一度催眠にかかっていただけますか?」

「だが断るううううう」

 

雫は武士リオに今一度提案したが、にべもなく断られてしまった。

説得による穏便で平和的な解決は不可能。

ともすれば雫が次に取る行動は、肉体言語による強引な解決である。

 

 

「すみませんスピーカーが駿河武士さんの大きな声で調子が悪くなってしまったようなので、一旦ミュートにしますね」

 

wwwww

スピーカー破壊してて草

流石だわwww

今どんな状況なの?

 

 

「すみません スタッフさんがすぐに直してくださるので少々お待ちください♪」

 

はいいい!

可愛いいい

いかないで

一生待ちます

プロポーズかな?

 

雫はそう言って配信をミュートにした。

しかしスピーカーが壊れそうだからというのはテキトーに考えた理由に過ぎない。

実際はこれからアイドル系Vtuber夢野雫のイメージを崩しかねない行為をするからである。

ミュートにさえしておけば、後は立ち絵が画面に表示されているのみで何をしているのかはまるで分からない。

そのための武器として、雫はポッキーを片手につまむ。

隣では武士リオが部屋中をきょろきょろと見回して、現在地の把握に努めている。

今なら不意をつけると雫は思った。

 

「駿河さん」

「何だああああああ」

 

武士リオが呼ばれて振り向くと同時に、雫は武士リオに勢いよく抱き着いた。

それはまるでタックルである。

武士リオは雫を受け止めきれずに、そのまま雫と共に後ろへと倒れる。

武士リオが突然の事態に目を白黒させているうちに、雫はその身体へと馬乗りになった。

蛍光灯を背にする雫の影が武士リオの顔を黒く染めている。

武士リオを見下ろす雫の瞳と、未だ驚いた様子の武士リオの瞳が交差した。

 

「どうしたああ!? 某のファンかああ!?」

「うるせえよ」

 

怒気と嫌悪を孕んだ底冷えするような鋭い声。

憎しみを詰め込んだ人も殺せそうな鋭い瞳。

今までの雫とはまるで違う真っ黒な雰囲気を放つ雫がそこにいた。

雫はにやりと笑みを浮かべると、そのまま身体の力が抜けたように武士リオの顔に向かって勢いよく倒れ込んでいく。

そして武士リオにぶつかる直前に、左腕をその顔の横の床に音を立てて思いっきり突いた。

壁ドン高低差バージョンである。

雫の顔と武士リオの顔は触れる直前、数センチ単位の接近をしていた。

雫は上目遣いで武士リオの瞳を睨み上げている。しかし武士リオはその瞳に目を合わせることが出来ないでいる。

眼球を正面から動かせないでいる。

視界に映るのはポッキーである。

雫が右手につまんだポッキーを武士リオの左目に触れるギリギリに垂らし、その眼球を貫かんとするかのように指にキリキリと力が込められている。

武士リオは額から汗を流した。

 

「そんなに難しいことは言ってないでしょ ただリオさんから離れてって それだけ」

「駿河武士はあああ駿河武士だあああああああ」

 

武士リオは雫の顔を見ずに正面を向いたまま叫ぶ。

瞳を人質に取られた武士リオは、恐怖で雫の顔に視線を下ろすことが出来ないのである。

そのために誰もいない空間に向かって言葉を発するしかない武士リオの姿は、雫の目には滑稽に映る。

 

「どうしても戻ってくれないの?」

「戻らんぞおおおおおお」

 

雫はうっすらとほほ笑んだ。

 

「残念」

 

雫は体を起こすと左手を机の上の銀紙の包みに伸ばして、握れる限りの大量のポッキーの手に掴んだ。

 

「残念とはいったい何が残・・・むっ!?」

 

左手を豪快に振り下ろして武士リオの口の中に、束になったポッキーを丸ごと全部突っ込んだ。

口いっぱいにポッキーを詰め込まれ喋れなくなった武士リオは、何やらもごもごと言っている。

雫はさらに武士リオの鼻をつまみ、塞いでしまった。

口も鼻も穴をふさいだ。

これにより武士リオは呼吸が出来なくなった。

雫は苦しそうにしている武士リオの耳に口元を寄せる。

そして瞳に突き付けたポッキーをぐるぐると回しながら、呟く。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「んんんんんっっ」

 

武士リオが恐らくは抗議の声を上げている。

 

「うるさいな~」

「もがっ!?」

 

喚く武士リオを黙らすように、雫が鼻をつまむ左手の手首で口から生えたポッキーたちをトンッと奥へと押しこんだ。

武士リオはしゃべらなくなった。

 

「黙って聞いていていてね リオさんをこれ以上汚しちゃだめだよ」

 

囁き声で鼓膜を揺らす。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「・・・」

 

眼球が回る。

ポッキーが回る。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ」

「・・・」

 

酸素が回らず意識が落ちる。

ポッキーが回る。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「・・・」

 

目の前の景色が暗くなる。

 

「おやすみ」

 

武士リオは意識が深い水底へと落ちていく中、誰かの別れの言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

「リオさん、乱暴なことをして本当にごめんなさい」

 

雫はリオの顔に手を添えながら謝った。

雫が少々やり過ぎたために、リオは意識を失っていた。

 

「リオさんはリオさんのままが素敵です」

 

雫は眠るリオに呟く。

 

「リオさんはありのままが素敵です」

 

 

 

 

 

雫が配信のミュートを解除すると、待っていた視聴者たちのたくさんのコメントが流れた。

 

「皆さんお待たせしました♪」

 

おかえり

まってた!!

きたああああ

直ってよかったね

 

「スタッフさんがスピーカーを直してくださっていた間、私がリオさんにもう一度催眠をかけたのでリオさんは今眠っています」

 

今度は何になるんだ?

どうせゴリラになるぞ 

おかまじゃね

ごり・・・ごり・・・

 

「大丈夫です!! ”元に戻~れ~”って暗示をかけましたから!」

 

あ・・・

それ大丈夫なのか?

リオ、必ず戻ってこい!!

フラグをたてていくう

 

 

「絶対大丈夫です!!」

 

雫と視聴者がそれ本当に戻んのか論争を繰り広げていると、リオがとうとう意識を取り戻した。

寝ぼけ眼で辺りを見渡している。

 

「みなさん、リオさんの目が覚めました!」

 

きたあああああ

おはよおおお

おはうほ!

うほおっ(気軽な挨拶)

 

 

コメント欄が盛り上がる。

雫もようやくリオと会話できると思い、喜んだ。

雫は弾んだ調子で声をかけた。

 

「リオさんおかえりなさい!」

 

もうこれで三度目の正直である。

雫はリオの声で”ただいま”が返って来ることに疑いを持っていなかった。

視聴者も皆、期待をしていた。

誰もが時雨リオを待ち望んでいた。

しかしこの世には二度あることは三度あるということわざがある。

 

返答。

 

「うほっ?」

 

ゴリラだった。

ゴ リ ラ だ っ た。

 

「何でですかーーーーーー」

 

ゴリラだよー^^

知 っ て た

もう見た

またかよwww

ゴリラ限定ガチャ

どう頑張ってもゴリラ

 

”元に戻れ”という暗示により元に戻った(ゴリラ)だけである。

予想外に表れたゴリラに雫は肩を落とし、頭を垂らした。

そうして雫が落ち込んでいる隙をついてゴリラは部屋の扉へと走り出す。

 

\きーっ/

 

「へ?」

 

雫が不意に聞こえた音に反応して頭を上げれば、視線の先では閉まりかける扉とその隙間から微かに見えたリオの背中があった。

 

\ばたん/

 

扉が閉まった。

静寂が広がる。

雫は閉まった扉を見つめたままに数秒間停止した。

ようやく状況を飲み込んだ。

リ オ が 脱 走 し た。

理解した途端に身体から冷たい汗が流れ出す。

雫は血相を変えて立ち上がると扉へと駆け寄る。

しかし、扉を開けて部屋から出る直前に、視聴者の存在を思い出してPCの前へと戻ってきた。

 

「すみません みなさんリオさんが脱走しました」

 

何でえ!?

急展開で草

動物園かな?

普通にヤバくて草生えない

マジ草

 

「捕まえてきますので少々お待ちください」

 

雫はそう言い残すと、急いで部屋から飛び出した。

 

\ぽこぽこぽこぽこ/

 

聞こえてくるのは響きのあるドラミングの音。

雫が音の方向へと素早く振り向けば、伸びる廊下の奥の方でこちらに背を向けながら走っているリオの姿を捉えた。

雫はその後ろ姿を確認するとすかさず追いかけ始める。

視線の先、廊下の両脇では道を開けるようにして何人かのスタッフが立っていた。

 

「すみません!捕まえてください!そのリオさんゴリラなんです・・・じゃない、そのゴリラ、リオさんなんです!!とにかく捕まえてください!」

 

雫が走りながらに、スタッフたちに助けを求めた。

しかしスタッフからすればまるで意味が分からない。

前方から、胸を叩きながら廊下を走ってくる女と、それを追いかけてゴリラだなんだと頓珍漢なことを言っている女である。

スタッフたちは意味が分からずただ突っ立っていた。

その横をリオと雫が通り過ぎていく。

リオはとにかく足が速かった。雫がどんなに全力で走ってもその差は縮まるどころか開くばかりである。

さらに困ることと言えば、

 

「リオさん、危ないので降りてきてください!!」

 

リオが廊下の天井に等間隔で配置された蛍光灯にぶら下がりながら進んでいくことである。

まるで公園にある”うんてい”のように器用に掴みながら軽々と伝っている

蛍光灯は熱くないのでしょうか?

握力がすごすぎないでしょうか?

普通に走った方が早くないでしょうか?

天井抜けないのでしょうか?

いろいろと考えたが、とりあえず”リオさんってやっぱりすごい!”に収束した。

雫は広まる差にもめげずにリオのことを追っていたのだが、曲がり角に差し掛かったところでとうとう見失ってしまった。

荒い息が吐き出され、もう追いかけることもできそうになかった。

雫はただ闇雲に追いかけても無駄だと判断し、作戦を立てることにした。

 

雫は部屋へと戻ってきた。

片手にはバナナ一房が握られていた。

 

「みなさん連れ帰ってきました」

 

やったあ

おかえり!

やるやんけ!

おかえり飼育員

 

「ばななを」

 

ふぁ!?

バナナ!?

なんでだよwwww

リオとバナナ間違えるの割とよくある

↑ねえよw

 

雫はPCの前に座る。

 

「みなさんにはリオさんの立ち絵が見えていると思います」

 

見えてますね

ずっと動かないよ・・・

リオとDIO

ずっと目が半開きだよ・・・

不細工で草

 

 

「そこにバナナが置いてあります」

 

ばなな!?

何故そこに置いたのかw

結局バナナじゃねえか!

リオはバナナだったんですね

 

 

雫は隣にバナナを置いて座っていた。

作戦名”BANANA”。

バナナでリオを部屋におびき寄せる作戦である。

雫も内心では上手く行くと信じているのが半分、お祈りが半分である。

それほどまでにリオの身体能力がすさまじく、人間に捕まえるのが不可能だと雫は悟ってしまっていた。

 

「追いかけてみて気が付きましたがリオさんは運動神経が素晴らしいですね」

 

筋肉でごり押してるだけだぞ

ごりおして・・・リオ!?

ごりお!?

ごりごりお!?

↑却下

 

雫が祈るような気持ちで待っていると部屋の廊下から騒がしい音が聞こえてきた。

 

\うほうほうほうほ/

 

「皆さんこのゴリラ音が聞こえますか」

 

\ゴ リ ラ 音/

聞こえるわwww

元気に鳴いてんねえ

目覚ましにしよ

 

「りおさんです」

 

でしょうねえ!

知ってた

”りおさんです(キリッ”じゃねえよww

にしてもマジでゴリラの鳴き真似うめえなwww

 

作戦は奇跡的にうまくいった。

開け放たれている部屋の扉から漏れ出たバナナの匂いが、リオの鼻にも届いたのだ。

ゴリラだから届いたのだ!

リオは鳴き声を上げながら部屋へと入ってくると、バナナを見つけた。

 

「うほおっ!」

 

途端に上機嫌になり、雫の隣に近づいてきて置かれたバナナを手に取る。

雫は今からもう一度催眠をかけなおすことになるのだが、今回のゴリオさんは落ち着きがない。

雫は確実に催眠にかけるためにもまずはリオと仲良くなることにした

リオは手に取ったバナナを興味深そうに見つめると、一つもぎ取り、その皮に歯を当てた。

 

「うっh うう うh」

 

せっかく手に入れたバナナであるが、皮を剥ぐのになかなかに苦戦しているようだった。

単純にゴリラの食べ方を人間でしても難しいという事なのだが、今のリオにそれを理解することはなかなか難しい。

そこで雫は床に転がる房からさらにもう一本バナナをもぎとると、リオの前でバナナの皮を剥いて見せた。

するとリオは、お目当ての中身が露になった雫の持つバナナを凝視した。

そうして次に雫の顔に視線を移す。またバナナ。そして雫の顔。バナナ・・・

リオはバナナを欲しがっていた。

雫もリオの仕草を見てすぐにそれを察した。

リオに向かって剥いたバナナを差し出す。

 

「このバナナどうぞ」

「うほおおおお」

 

リオは大喜びの声を上げながら、バナナに食らいついた。そうしてバナナを一本食べ終わると、追加でもう一本バナナを房からもぎ取り、期待の眼差しを向けて雫に差し出した。

 

「おかわりですか?」

「うほおっ」

「仕方ないですねえ・・・」

 

餌やりでもしてんのかwww

餌付けで草

飼育員過ぎるww

これは・・・おねごり!?

新ジャンルで草

 

雫がそうしてバナナを与えれば、もう一本またもう一本とリオは要求をする。

雫はバナナが無くなるまで、リオにバナナを与え続けた。

 

 

 

 

 

 

気付けば雫の膝を枕にして、リオが眠っていた。

バナナをたらふく食べたリオは眠くなったようで、雫の膝の上に倒れ込み眠ってしまったのだ。

雫はその寝顔を覗き込み、頬を限界まで緩める。

リオの寝顔は普段の凛々しい表情とは違い(からかえば可愛くなるが)、口元をゆがませてあどけない少女のような表情を見せていた。

すーすーと立てている寝息もまた愛らしい。

 

「今リオさんに膝枕してるんですよ!」

 

うらやま

俺も膝枕してほしい

↑俺ので良ければ

↑ありがとう

よそでやれw

 

「視聴者の皆さんに見せられないのがもったいないくらい可愛いです!!」

 

あああああ

見えなくても分かるかっわいい

うらやましすぎる

声からだとかっこいい感じだけどな

かっこかわいいリオちゃんやったー

 

 

雫はリオの髪を優しく撫でる。

 

「髪がふんわりと柔らかく、さらさらしています!」

 

雫が夢中になって髪の毛を撫でていると、リオの頭が動き、お昼寝から目覚める気配を出した。

雫がゴリオに再び催眠をかけて戻す過程を想像していると、リオが目を閉じたまま、腕を組んで頭上へと思いっきり伸びをした。

気持ちよさそうな声が漏れる。

そうして身体をほぐし終えたリオがぱっと目を開ければ、目の前に映るのはリオを見下ろす雫の顔である。

リオと雫の目が合う。

リオは一瞬フリーズした後、みるみる顔が赤くなった。

 

あ、もしかして・・・

 

雫はそう思ってリオに声をかける。

 

「もしかしてリオさんですか?」

「え、あ、はい そうですリオです」

「やっと会えましたあああ」

「え、いやあの、この状況はなんでしょうか!?なぜ私は雫さんに膝枕されているんでしょうか!?」

「伸びしてる姿可愛かったです!」

「ううっ」

 

来たああああああ

本物きたああああ

お前を舞ってたんだよ!

リオガチャ成功したな

 

リオはようやく元の時雨リオへと戻った。

リオは体を起こすと、PC画面を見た。

コメント欄ではリオの帰還に大騒ぎである。

しかしリオにはどうしてそんなことになるのか、全く身に覚えが無いので困惑した。

記憶を思い返してみても、ぼんやりとしていてどうにもはっきりとしない。

膝枕されるまでに何をしていたのかリオは思い出せなかった。

 

「雫さん、私さっきまで何してましたっけ?」

「特に変わったことはしてませんでしたよ」

「いや、それなら視聴者の人たちがこんなに賑わっているのは一体・・・」

 

リオは首をひねった。

机の上を見れば大量にバナナの皮が置かれている。

更に首をひねった。

 

「このバナナの皮は何ですか?ゴリラでも来たんですか?」

 

お前じゃい

お前じゃい

よおゴリラ^^

さっきまで来てた

今もいるだろ

 

「え?私!? 雫さん本当に私何してたんですか!?」

「特に変わったことはしてませんでしたよ」

「もう・・・視聴者の人たちも教えてよ!私何してたの!?」

 

雫ちゃんが言うなら何もしてないってことよ

カメラ食べてた

コンビニ行ってきます

近所のファミマが潰れました

 

「なんでこういうときだけ何も言わねえんだよ!いつもうるさいだろ!雫さんの視聴者の人はごめん!」

 

wwww

可哀想なリオちゃん可愛い

愛ゆえに

 

 

「雫さん本当に教えてくださいよ!教えてください!本当に!教えてよ!教えろよ!!教えろーー」

 

段々口調荒くなるの草

教えないよー

アーカイブ見て恥ずか死しそう

リ゛オ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛あ゛

 

「それよりもぽっきーゲームしましょうか♪」

 

ポッキーゲームしましょうね。

 

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