たったっらたらー♪
時雨リオは陽気に鼻歌を歌いながら、PCの前の席に勢い良く座る。
そのまま背もたれにもたれかかって、目をつぶれば、思い出されるのは昨日の自身の初配信の様子であった。
実は配信が始まる前は、かなり緊張をしていた。
さらけ出した自分を否定される未来を想像して、不安になっていたのだ。
しかし、いざ配信が始まれば、トラブルこそあったものの視聴者とは楽しく会話することが出来た。リオは自分を受け入れてもらえたことに喜びを感じた。
リオは目を開けて姿勢を戻すと、今日も楽しくできればいいなと期待に胸を膨らませながら配信を開始した。
早速コメントが流れる。
うほおおお(挨拶)
うほおほっ(うほおほっ)
うほおーーほ(こんにちわ)
うほおっおっおっ(初見です)
うほお!?
猿がいっぱいいた。
「いや、なんでだよww」
リオは思わず笑い声を上げた。配信画面の横にあるコメント欄では、今もたくさんの猿の鳴き声らしきコメントが流れている。
また、それに時折混じる初見の人などの人語が、猿語とのコントラストを生み出してカオスな様相を見せていた。
「みんな、これはそういう挨拶ってことでいいのか? これでいいのか?」
うほお(賛成)
これはひどいwww
うほお!
動物園で草
うほおっおっおっ(うほおっおっおっ)
↑森へお帰り
「ああ、うん じゃあ好きにしてw」
うほほほおっ
バナナはいつ食べればいいですか
ちょっと黒くなってるのが美味しいんだよ
ありがとう
うほおお(歓喜)
おっおっおっ
本来Vtuberと視聴者の間で共通の挨拶を決めるのがお決まりの流れとして存在する。それは一種の遊びのようなもので、リオもその流れに沿ってゴリラの鳴き真似を挨拶とすることにした。
楽しそうなコメント欄を見て、リオは満足そうに笑みを浮かべた。
「改めまして時雨リオだ よろしくっ! そういえばみんなに言ってなかったけど、私ゲーム結構好きなんだ」
すまぷらとか強そう
対戦のこと試合って呼びそう
「あ~すまぷら楽しいよね でも今日やるのは これ」
そう言うと、リオは用意してきたゲームを起動した。
すると、リオの配信画面には一面ゲームタイトルが映し出され、同時にゲーム内キャラのメリオによるやたら甲高い声のタイトルコールが行われる。
\メリオカートッッ/
「やばっ」
!?
!?
!?
記号のコメントが加速する。
予期せぬことに、スピーカーから音が割れるほどの轟音が繰り出された。ゲームの音量がでかすぎたのだ。驚いたリオは慌てふためく。
タイトルコールはまだ途中であり、このままではみんなの鼓膜が死ぬ。
リオは最悪な未来を一瞬の間に想定して、顔色を真っ青にしながら瞬時にマウスを動かしてゲームの音量を下げる。この間わずか0.5秒
(ええええいいいいいと)
音量バーを下げると同時に続きのタイトルコールが行われた。リオは咄嗟に音量を0にしていたので後半のタイトルコールは聞こえなかったが、そのおかげで視聴者の鼓膜は守られた。
リオは安堵の息を漏らした。
鼓膜死にかけた
音でかすぎて草
反射神経ないすう!
なんも聞こえんが
↑鼓膜崩壊ニキ久しぶり
やばっ(迫真)
「私、みんなを・・・守ったよ・・・」
名台詞みたいにすんなwww
壮大で草
音量を下げるだけで世界を救う女
イケメンヴォイスあざす
リオは少しふざけた調子を見せながらも、内心では心臓がバクバクだった。リオは視聴者に迷惑をかけることだけは絶対にしたくないと思っていた。
「ごめん みんな いや本当にごめんなさい」
ミスはまれによくある
本日の情けないボイスいただきましたあ!
録音しましたあ!!
有能
「すまん それじゃ気を取り直していくよ」
リオは流れるコメントに励まされ、気持ちを切り替えた。
「みんなもう気付いていると思うけど、今日やるのはメリオカート8だよ」
解説兄貴サンキュ
めちゃくちゃ早口で言ってそう
ありがてえ
さんきゅ
飲酒運転じゃん
「大丈夫、今日は飲んでないから それじゃあ早速キャラクター選ぶよ」
そう言ってキャラクター選択画面に進めば、たくさんのキャラクターが表示される。
プレイヤーはその中から一人、操作キャラを選ぶことが出来るのである。
モンキーコングおるやん
うほおっ!!
親戚がいますよ
ゴリオ!?
「悪いみんな 赤好きだからメリオにするわ」
さっきの犯人じゃん
声帯取ろう
俺も全身真っ赤だからリオに好かれる!?
血だるま先輩は病院行って
メリオ!?
得意のくそ寒ギャグですね(笑)
「ギャグじゃないから!」
リオは心の中で確かにギャグじゃんと密かに思いながらキャラを選び終えると、次にコースを選択した。対戦人数はぴったり12人集まり、対戦コースは山のステージに決まった。
ロード画面を挟んだ後で、画面は山のステージに切り替わる。それぞれのプレイヤーが操作するキャラクターが、スタート地点の前に一斉に並んで居た。
3・2・1 \GO/
画面に表示されたカウントを合図にプレイヤーは一斉にスタートする。
「おっしゃあああああ みんないくぞおおおおおお」
おおおおおお
リオ・・・兄貴?
かっけえ
戦じゃああああああ
惚れる
リオは先ほどまでのテンションとは違って、画面の前でも身を乗り出して、威勢の良い声を張り上げながらスタートを切った。リオはゲームは上手でも下手でもないが、とにかく全力で楽しむことをモットーにしていた。
最初のプレイヤーが群がる団子状態を抜け出したところで、現在の順位は10位。後ろから2番目なので良い順位ではない。
リオは目の前に見えてきた、アイテムボックスをぶち破る。アイテムボックスはアイテムを手に入れられる箱で、手に入れられるアイテムはルーレットで選ばれる。
「良いの来い 良いの来いっ! 良いの来いっっ!!」
命かけてんのかこいつ
競艇とかでよく見るやつwww
賭博黙示録リオ
アイテムを威圧する女
\スター/
「いえええええええすう」
リオは喉を震わせた。出たのは触れた相手プレイヤーを蹴散らす事のできるアイテムだった。
ただスター出しただけだぞ
ポケモンの鳴き声かな?
これはギャラドス
猫が起きました
↑おはよう
リオは早速手に入れたアイテムを使うと、目の前を走っていたキノコのキャラに突撃しに行った。
「おりやああああああ」
きのびお逃げてえええ
これは怖い
当たり屋だあ
低い声好き
リオは車体を上手く当てて、キノビオを見事に吹き飛ばした。さらに何人かのキャラも跳ね飛ばし、順位を8位まであげた。
スターのアイテムが無くなったタイミングで、ちょうどよく見えてきたアイテムボックスを破る。出てきたのは狙って投げた相手に自動追従して当たる、赤い甲羅であった。
「おっしゃああああ」
犠牲者が出るぞ
目の前にいるのキノビオ先輩じゃんwww
ま た お 前 か
逃げろおお(歓喜)
先ほどスターで跳ねられたキノビオだったが、気付くと再びリオの前に躍り出ていた。
リオは手にした赤甲羅を躊躇せずにキノビオにぶつけた。
「ごめん、キノビオ 悪気はないんだ 転がる甲羅が悪いんだ」
投げたのお前だろwwww
キノコに何の恨みがあるんだ・・・
アレルギーかな?
リオの前に立つのが悪い
俺にもぶつけてください
アイテムに恵まれたリオはそのまま順位を1位にまで押し上げると、安定した走りを見せた。そうして大きな変動のないままに、レースは残りコース1週となっていた。
現在、リオの手には緑甲羅が握られていた。緑甲羅は赤甲羅とは違って、相手を自動追従せず直線的に飛び壁に当たると跳ね返る性質を持つアイテムである。
「これ勝ったんじゃない?一位きたんじゃない!?」
嫌な予感がする
きましたねえ、2位が
後ろ来てるぞ
前、草だぞ
「あっ やば」
油断していたリオは車道横の茂みに突っ込んでしまった。すぐに車道に戻ったが、後ろから来たプレイヤーに抜かされ順位を3位に落としてしまった。
「ま、まだ、大丈夫だよ うん、大丈夫」
あ ほ く さ
声震えてるよ
リオ今日もかっこいいよ
甲羅当てろ
「よし 甲羅当てるわ」
リオはそう活きこんで2位のプレイヤーの背中に狙いを定めた。
「お゛らっ」
リオが気合と共に投げた緑甲羅は、しかしプレイヤーには当たらずに横に逸れた。
そしてそのまま壁に当たると反射して、リオ目掛けて飛んできた。
「うそお!? まってまってまっt ぐうっ!!」
リオの投げた甲羅は、見事にリオに命中した。
バチが当たったんだろ
めちゃくちゃ情けない声で草
アザラシを締め上げたような声で鳴くな
ぐうっ
好き
「やばいやばいやばい 抜かされる抜かされる」
甲羅が当たり走れなくなっている間に、後ろから次々とプレイヤーがやってきてリオは6位に順位を落とした。
すぐさまアクセルを踏みなおすも、走り始めはスピードが遅く恰好の的になってしまう。
光ってるぞあいつwww
逃げてえええ
スターだあああ
のろのろと走るリオの後ろに、スター状態のキノビオがぐんぐんと迫ってきてた。
リオは横に逸れて何とか逃げようとしたが、あっという間に距離を詰められてしっかりと跳ね飛ばされた。
「ぐへええっ」
カエルの潰れたような声を上げるリオだったが、更に運の悪いことに弾き飛ばされた先は崖になっており、リオは真っ逆さまに奈落へと落ちていく。
「なんでえええええ いやだああああああ」
断末魔で草
死刑でも決まったのかwww
因 果 応 報
リオは芸人だったんだなって
芸人ゴリラ
奈落に落ちたリオの車は大幅な時間ロスと共に回収されて、コースに引き上げられた。現在の順位は11位。
せめてゴールはしようと、リオは再び車を走らせようとした。しかしそれは叶わなかった。
\サンダー/
リオの車体に誰かが使用したアイテム、サンダーが落とされた。サンダーを落とされたプレイヤーはすぐには動けないだけでなく、小さくなってしまうのである!
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛」
\パンパンパンパンパンパン/
リオはコントーラーから手を放し、咆哮を上げながら手で膝を激しくたたいた。
もうぐっちゃぐっちゃだよ
お膝パンパン
あぁ~!膝の音オ~!!
恐竜みたいな声を出すなwwwww
フルコンボだドンッ!!
人 生 逆 転 ゲ ー ム
ボコボコで草
絶叫がプロwww
リオを襲った惨劇に、コメント欄はかつてない賑わいを見せた。
最終的にレースはリオ以外の他のメンバーがゴールしたことにより順位が確定し、リオがゴールすることさえ許されずに幕を閉じた。