ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

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オ・カマバーだ![終]

占い婆とアロハおじいさんが店から出て行くのを見送ると、残りの客たちは何ともなしに顔を見合わせる。一瞬漂った妙な緊張を破るかのように、「飲もう」と誰かが言った。すると他の客もまるで示し合わせたかのように「飲もう 飲もう」と喜々として続いた。

出会った記念というやつだ。(記念じゃなくても勿論飲む)

武士もリオも当然含めて客たちは、酒を片手に盛大に飲み交わし、飲み狂い、酔いを深める。

何が面白いのか分からないことに笑い合ったり、勢いだけで歌ってみたり、寿司屋のケツを叩いてみたり。無礼講の楽しい宴に、実際の様子を見る事の出来ない視聴者も、耳から入る喧騒からその空気を楽しんでいた。

どんちゃん騒ぎはしばらく続いた。

 

 

楽しい宴にも終わりは来る。閉店の時刻である。

ゴライアスがそのことを告げれば、賑やかさは波のように引いていき、宴から日常へと客たちの意識が緩やかに戻った。そうして一人、また一人と名残惜しそうに言葉を残して席を立つのだ。

お開き。

会計を済ませた客たちの背中をゴライアスが手を振って見送った。

やがてほとんどの者は店を出たのだが、しかし全員が店を出たわけでは無かった。

まだ二人残っていた。

武士とリオである。

ただ嫌がらせをしようという事でもなく、そんな特別な事情があるでもなく。

もっと単純な話。

このリオという女、すっかり寝やがっているのである。

 

「起きないわねえ」

「起きないで候」

 

リオの隣に座る武士と向かいからカウンターに頬杖をつくゴライアスは、酔いつぶれたリオを眺めながらに呟いた。

リオはカウンターテーブル上に組んだ腕を乗せて、それを枕代わりに眠っている。

その横顔にはふにゃりと浮かぶ笑み。

夢の中で宴の続きでもやっているのかと思わせる表情である。

 

「ムニャムニャ・・・ クラエッアルコールゥビィィィィーームゥー グヘヘヘヘ・・・」

 

やってた。(有罪)

 

「リオちゃーん 閉店よ~」

 

言いながらリオのほっぺを人指し指でつつけば、柔らかなほっぺは大福のように”ふにぃ~”と沈み込んでいく。

 

「あらあ~ やらかいわ~ カワイイわ~♡」

「カワイイというよりカワハギだのお」

「顔の話じゃないわよ」

 

感触の話である。

 

wwwwww

酔いつぶれたのかww

ゴリラにもカワハギになれる女

水陸両用で草

 

配信画面には、口を半開きにして静止したアホっぽいリオの立ち絵が表示され、それは長らく動く気配を見せていなかった。配信者が絶賛くたばり中なので当然のことである。

置物へと転生してしまったVtuber。

絵面としては退屈極まりないし、ともすれば放送事故とも言われかねないが、それについて騒ぎ立てる者は少ない。

むしろ ”い つ も の” というコメントが合言葉のように流れる程には、視聴者も慣れた様子を見せている。

リオの口から言わせれば”もの好きな視聴者”たちである。

しかし正確に言うのであれば”もの好き”というよりも、毎度何かしらのイベントを起こすリオに慣れて、遂にはそれを楽しむ事こそがリオの配信の醍醐味であるとした剛の者たちであるのだが、今のリオが知るわけもない。

さらには ”そのうちやらかして、ムキムキ火だるま焼きゴリラになりそう” などと噂されていたりもして、ともかくその予想外の配信が魅力となっているのだが、やはり今のリオが知るわけもない。

だって寝てるし。

 

「困ったわねえ~ このままじゃお店閉めらんないわよお」

「今日はこのまま開けておくとか如何で候?」

「その髭、剃り落とすとかいかがかしら~?」

「殺す気か!?」

「殺す気よ♡」

 

殺す気wwww

お前・・・死ぬのか・・・?

本体は髭だからね

武士と髭は一心同体♪俺の嫁は半導体♪YEAH♪

特殊性癖兄貴も見てます

 

ゴライアスは”それにしても・・・”と呟きながら、リオの肩に手を置く。

そしてそのまま前後左右に激しく揺らすも、リオは全く起きる気配がない。

ただひたすら、体がゆらゆらと揺れるのみである。

 

「リオちゃん、ぷるぷる~」

「ゼリーのようじゃな」

「リオちゃん、ゼリゼリ~」

「プリンのようじゃな」

「リオチャン、プリプリ~」

「・・・もうないで候」

「腐腐腐 豆腐よ」

「しくじったあああ」

 

なんこれw

深夜テンション好こ

茶碗蒸しもあります

リオちゃん、ちゃわちゃわ~

 

起きないリオにゴライアスは手を止めると、リオのスマホに目を向けた。未だに続く配信画面にはたくさんのコメントが流れている。

 

「リオちゃんだーい好きなあんたたちなら、リオちゃんの起こし方知ってるでしょ? 教えてくれたらご褒美にキスしてあげるわよん!! チュっ!!チュっ!!」

 

もうしてるじゃねえかww

リオが潰れるのは滅多にないな・・・

一回寝落ちしてたな

↑寝言で住所言ってたやつか

↑あれ東武〇物公園の住所な

↑ふぁ!?

 

どうやらリオを起こすのは難しそうだとゴライアスは理解する。

 

「皆教えてくれないのね~ も~う恥ずかしがっちゃって~ ぶちゅう!!!」

 

ゴライアスはサンキュー情報提供とばかりに盛大な投げキッスをプレゼントした。(範囲攻撃)

 

おえええええ

ぐはあ(吐血)

デバフかかりそう

死にます

ファーストキスやったー

ワーストキスで草

 

こうか は ばつぐんだ!

 

流れる阿鼻叫喚のコメントを見て、いたずらな笑みを浮かべるゴライアス。リオは依然、気持ちよさそうな寝息を立てているが、しかしこのまま置いておくわけにもいかなかった。

ゴライアスは武士に視線をずらした。

 

「ということで武士ちゃん、リオちゃんをタクシーまで運んでね」

「某かああ!?」

「他に誰がいるのよ あたしは店を閉めなくちゃのよん」

 

さらりと投げかけたゴライアスの言葉に、武士は口元を引きつらせた。

嫌という事では無かった。

 

「某も酒が回りまくりで気持ち悪いというかなんというか・・・」

「あら武士ちゃん、さっきトイレでリバースしてきたじゃないの」

「セカンドリバースがいと近し」

 

ダム崩壊の危機である。

 

「男は何度もリバースを経験して強くなっていく者なのよ」

「初めて聞いたで候」

「初めて言ったもの」

 

リバース理論

リバースをぶっかけてでもリオを運べ!

ゲロで道しるべ作ろう

”ノンベエとゲローデル”

 

「それじゃ、私タクシー呼んでくるわね~」

「あ、まtt」

 

テーブルに勢いよく手をついて席を立ちながら何か言いかけた武士であったが、その言葉を遮るようにゴライアスは言葉を残し、スマホを耳に当てながら店の奥へと姿を消した。

武士は少しの間ゴライアスの背中を呆然と見送っていたが、やがて小さく息をつくと、隣のリオへと体を向けた。

武士はリオの背中に手を当てて揺らす。

 

「リオよおおお 某がわざわざ肩を貸してやろおおおう さあ、腕を肩に回すがいいいいい」

「ん~」

 

うっさ

声でけえ

そういえばゴライアスって先輩か

”ん~”激カワなんだが

録音したよ~武士を

・・・

 

武士は先輩のゴライアスの前では多少自分を抑えるので、その反動で大きな声が出た。

”侍は身分を重んじることが大切で候・・・”

彼の自論である。そしてその自論に則れば、リオは同期であり対等な存在である。

故に、いくらでもイキってよし!!

 

「ほれ哀れなリオよおお 腕を差し出すがよい リオよおおお」

「んん」

「聞こえていないのかああリオよおお」

「んんn」

 

リオの曖昧な返事を聞いて、武士はにやりと笑みを浮かべる。

 

「や~い、ビビリ~ ビビリオ~!」

 

リオの顔を覗き込むようにしながら、クソガキムーブをかましていく。

 

小学生かな?

クソガキで草

良い大人が何やってんだwww

ホラゲーでびびってたリオちゃん好こだった

↑あのギャップよな・・・

 

配信ならまだしもリアルだと煽った時に少し怖い。そのために意識のないまさに今を狙って、ここぞとばかりに煽りにかかる。

 

「ぬうん」

「ぬうんとは?ぬうんとは! 全くリオともあろう人間が、こうなりゃ貧弱よのおおおお!」

「ぬうん」

「かかかかか!貧弱貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!・・・貧弱とぬうん?・・・貧乳ん!?」

 

あ・・・

死んだわ

じゃあのノ

 

武士がかっと目を見開いて天才的な閃きをみせた刹那、その首の後ろを振り抜くようにリオの片腕が伸ばされた。

武士が何事かと後ろを振り返るのと、その腕がそのまま首を巻き込む形で、勢いよくテーブルの方へと倒れるのは同時のことであった。

首元に近づくリオの腕が、武士の瞳にスローモーションのようにコマ送りに映る。

引き締まった、、筋肉質の、、腕が、、近づく、、

そして・・・

 

╲ばああんっっ!/

「ぐへえ!?」

 

武士は後ろを振り向くときの体がねじれた体勢のまま、テーブルへと頭を思いっきり叩きつけられた。

顔は天井を向けられたまま、首元にはアトラクションの安全バーのごとくリオの腕が乗っかっている。というか首へと圧がかけられている。

これぞ時雨流ラリアット!!

武士の最後に発された言葉がきっかけとなって、無意識のリオをここまで突き動かしたのだ。

すごいぞ時雨流ラリアット!!

 

「死ぬう!! 死ぬでおまっ!!」

 

テーブルと腕に首を圧迫される息苦しさで、武士は顔を真っ赤に染めながら、仰向けの姿勢でばたばたと暴れた。

 

何が起きたんだwww

すげえ苦しそうで草

これぞ天罰

↑リオはアマテラスだった!?

よく分かんないけど自業自得やろ

 

抵抗など諸共しない!強いぞ時雨流ラリアット!!

酸素不足の武士の頭はいよいよその意識を薄れさせて、代わりに幻想を映し出す。

 

三途の川で犬かきする某ぃ・・・マジ卍ぃ・・・

 

そうして泡を吹く武士の元へ、電話をかけ終わったゴライアスが戻ってきた。ゴライアスは予期せぬ光景に目を見開く。眼前にあるのは、カウンターテーブルに頭を乗せて痙攣する武士の姿と、その首元に重しのように腕を乗せるリオちゃん。しかも寝てる。

ゴライアスはカウンターに頬杖をついて、その物珍しい光景を少しの間鑑賞して楽しんだ後、とりあえずでリオの腕を持ち上げた。(ゴライアスは鍛えてるから持ち上げられるぞ!)

 

「ぶはあ、ぶはあ、死ぬかと思ったで候」

「武士ちゃん、何かしたんじゃない?」

「なんにもしてないで候」

「コメントちゃんたち~」

 

疲れて身動きを取らずに天井を向いたまま喋る武士を差し置いて、ゴライアスはスマホの画面に呼びかける。

 

ひんにゅう

貧乳と言っていました

貧乳パワーです

ひんひんがにゅうにゅう

 

「言ったかしら?」

「言ったで候 でもそれはただのギャグで、リオとは何の関係も!」

 

早口でまくし立てる武士であるが・・・

 

「ギルティ」

「ぶしいっ!?」

 

ゴライアスが持ち上げていた腕を離し、再び武士の首元に時雨流ラリアット炸裂。

武士は奇妙な鳴き声を上げて、もがき苦しみ始める。

 

「あんたたちのボスは強いわねえ~ 片腕一つで武士ちゃんをぶしぶし言わせてるわよ~」

 

なにそれ見たーい

リオちゃんつおーい

さすがボス猿

この世には二種類の人間がいる リオかそれ以外か

 

「イケメンってのがまた罪よね~」

 

ゴライアスは死にかけている髭を横目に、リオのスマホの画面に向かってまったり話しかけていた。

 

「って、のんびりしてる場合じゃなかったわね」

 

途中でタクシーを呼んだことを思い出した。呼んでおいて待たせるのは申し訳ない。ゴライアスはもう一度リオの腕を持ち上げて、今度こそ武士を苦しみから解放してあげた。

 

「三途の川を三往復したで候」

 

武士はゆらりと立ち上がると、頭をぐるぐると回して異常がないかを確かめる。

 

「タクシーは近くの駅前のロータリーにいるらしいわ そこまで運んであげて」

「あいわかった」

 

武士はもはや抵抗の気力すら起きなかった。吐き気など生命の危機で吹っ飛んでいたし、煽れば次は首が吹っ飛ぶ。武士は少し腰をかがめて、ターゲットを失ってだらんと降ろされているリオの片腕を、自らの肩に回しながらつぶやく。

 

「というかまだ寝ているのかリオは」

「ムニャ・・・オンブ・・・オンブシロォ・・・」

「寝てるんだよなああ!?」

 

おんぶをご所望だぞ♪

リオをおんぶとか何という役得

ゴリラじゃなくてコアラだったんだな

いとうらやま

 

「ああもう、どうにでもなるがいい・・・」

 

武士が吐息のような声でつぶやく。

精神が摩耗した今は従順なしもべに成り下がっている。

武士がリオの隣に背を向けてしゃがみ込めば、リオは不思議と吸い寄せられるように武士の首に両腕を回し、武士が立ち上がればその腰に両足も緩く絡めた。

 

敵は本能寺にあり・・・リオは本能の女なり・・・

 

武士は考えるのをやめた。

 

「あら、そういえば忘れてたわ」

 

ゴライアスはそう言うとリオのスマホを手に取った。

 

「あんたたちもお別れよ」

 

そんなあああ

もうちょっとだけえ

ゴライアスの姉御おお頼むうう

せめて朝まで!

 

「だめよん 良い子は寝る時間なの♡ それじゃあ、おやすみのちゅううっ!!」

 

おえええええ

またきたあああ

寝ます

永眠します

オカマは二度刺す

 

ゴライアスの特大の投げキッスにより、配信主不在の雑談は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

時刻は深夜の3時程。

武士はリオをおぶって、駅前の大通りを歩いていた。この時刻になると車もそれほど走っていないし、明かりの漏れる店も少ない。

町はお休みモードである。

武士は歩道の脇に一定の距離間で並べられている街灯に照らされながら、駅前のロータリーに向かって黙々歩く。

 

「ねえ武士」

 

リオが唐突に口を開いた。

 

「なんぞ」

「何か悩みがあるかって最初に聞いてきたじゃん」

「左様」

「悩みっていうか、呟きなんだけど・・・」

「Tmitterか」

「そんな感じ」

 

黙々歩く。

 

「人間ってやりたくないことずっとしてたらさあ」

「ああ」

「いつか壊れちゃうよね」

「・・・そうかもしれぬな 知らないが」

「正直者」

「侍は正直者なのだ」

 

街灯が作り出す二つの影も、二人に付いて黙々歩く。

 

「やっぱそうだよね・・・」

「そうだな・・・」

 

すると武士は突然に立ち止まった。そうしてリオの脚を支えていた腕を離した。

 

「うわあっ」

 

リオは驚いた声と共にふらつきながら着地する。

 

「急に何するんだよ!」

「起きたのなら歩くで候!」

「いいじゃん!武士タクシーにも乗せてよ!」

「某、正直者なのでな! ああ、乗車賃払うなら乗せてもよいがあ?」

「けちっ 雑魚っ 貧弱ぅ」

「お主、最初から起きてたな!?」

 

もうすぐ夜が明ける。

 

 

 

 

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