あひぃじょ。
「あっっっっはあーーーーーーーー」
まるで鳥の喉を締め上げたかのような、いやに甲高い誰かの声が辺り一帯に響き渡る。そこはVtuber紹介番組”ぶいぶいっ!”の収録を行うスタジオである。その収録スタジオを囲むようにして、たくさんのスタッフや機械が並んでいる。といっても視聴者の目には、そのようなごちゃごちゃは一切映ることはない。代わりに配信画面にあるのは、一面真っ白な景色と、横並びに置かれた2脚の椅子と、少し離れて向かい合うように置かれた縦長の台。それぞれが視聴者側へと向いている。
さて、その台。それは大人の身長より少し低くて、そして司会のための台。
ので、その後ろに立っている眼鏡の青年は、つまり司会のVtuberということである。
名前を”
放送事故ではない。壊れたわけでもない。配信は問題なく始まっている。”いつも通り”に始まっている。
15秒経過
頑張れ眼鏡
窒息するまで頑張って♪
コメント達が白い背景を横に流れていく。椅子よりも台よりも奥に行ったところの白い背景は、スクリーンのような役割になっていて、視聴者が書き込んだコメントが横にゆっくりと流れていくのである。
「ーーーーーーーーっっ ふうぅー」
苦しそうな表情を浮かべていた口ノ助であったが、とうとう声が出なくなり、大きく息を吐きだした。
最新記録じゃんw
おめでとう眼鏡
チャレンジ終了
傍から見れば勝手に始まり勝手に終わった
尚、意味などは全くない。ただ苦しいだけである。廃止しろ。
15秒超えると晴れになるらしいがしかし、今は生憎の土砂降りである廃止しろ。
口ノ助は息を整えると、下がっていた顔をぐっと持ち上げて視聴者の方に向ける。そうして真顔で一拍置いた後に、わざとらしく笑みを浮かべた。
「さあさあ皆さま!こんにちわ!始まりましたよぶいぶいですよ!ええ?元気かって?元気ですよ!恐ろしく元気ですよ!”やるき元気むっきむき”とか言って!ガリガリなのにムキムキとか言って!うひひひひひ」
噺家のような抑揚のある口ぶりに、胡散臭い笑い声。弧を描いた口元には片手が添えられ覆われているが、口角に引っ張られる口のラインが指の隙間から見えている。
相変らず長い
腹立つわ~
早くゲスト呼んで
口ノ助はVtuber界において相当のおしゃべり好きであり、自らを”口から生まれた系Vtuber"と自称するほどである。そうしてハロウィンの日には運営の悪乗りで、全身がでっかい唇だけの斬新な立ち絵に変身させられたこともあったが、本人は偉く気に入っていた。
曰く”いっぱい喋っても誰も文句は言わないだろ?”と。
それほどまでに喋ることが好きな彼だからこそ、言葉を発し続ける必要のある司会を任されているわけである。
口ノ助は後ろを振り返ると、背景にたくさん流れるコメントを見た。
「あはあ~っ 今日はゴリラとウサギさんがいっぱいいるわけだ!」
本日のゲストが夢野雫と時雨リオのため、コメント欄ではうさぎとゴリラが大量発生している。
「そうかそうかそうですか!いや~昔話みたいでいいじゃないですか~ってそれはウサギとカメだったか!、あっはあ!」」
口ノ助は口を大きく開けて、無駄に勢いのある裏声で笑った。ひとりでに会話を成立して楽しめる。
It's地産地消。
陽気だな~
陽キャ眼鏡
ウサギさんちーす
口ノ助は雰囲気が温まってきたのを確認する(温まってない)
「さて、それじゃあそろそろゲストさんを呼んじゃいますか!!!」
くるう
はよはよ
いらっしゃあい
「それではみなさんお待ちかね、本日のゲストさんでーす!!!」
口ノ助がはりきった声と共に腕を伸ばして、口ノ助が立つ位置からは真逆に当たる画面の右端を指し示す。視聴者が誘導されるようにそちらを見れば、画面端から夢野雫がひょっこりと顔を出して、覗き込むように視聴者に顔を向けた。
その顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。
可愛いいいい!!
雫ちゃあああんn
待ってましたあああああ
「うさぎさんもそうでない視聴者さんもこんにちわ~ 夢野雫です!」
ゴリラとウサギのハーフです!
あ゛あ゛あ゛あ゛
こんちっわああ
夢野雫は笑顔で視聴者に手を振りながらスタジオへと入り、画面の右側にある椅子の前へと立った。
「いやいやいやー よく来たよく来たお嬢様!!」
と両手をもみ合わせながらそう言って、
「待ってたんだよ~ なんたって俺も雫ちゃんのファンだからね!もう配信とかよく見てんだ俺は!」
と言って腕を組んでひとりでに頷く。
「え、本当ですか! ありがとうございます!」
「うひひひひ あ、座って座ってどーぞどーぞ!」
「あ、失礼しますぅ」
口ノ助は立ちっぱなしになっている雫に気が付くと、手の平で雫の後ろの椅子を指し示した。雫は、口ノ助と視聴者にぺこりと頭を下げながら座った。
「疲れるといけないからね!長くなるぜ~って言っても、ほとんど俺が喋ってるだけだったりして!あはあっ!」
「ふふふっ 吹聴先輩はお喋り上手な方ですもんね」
雫はニコニコと微笑みながら言う。
「いやあ~それほどでも~・・・あるか?あるかも!?あるなあ!!あはぁっー!」
愉快な百面相を披露しつつも最終的には”あはぁー!!”に終着する。口癖。病気。
「ああ、そうそう俺のことは好きに呼んでくれて構わないからね 口ノ助でもお喋り眼鏡でも、なんならイケメンこーちゃんとか!?まあもちろん冗談なんだけどぉねぇ!?」
前世がインコ
ラジカセの擬人化
しゃべる悪夢
う る さ い
「それじゃあ・・・こーさんとか、どうでしょう・・・」
「あっはあー 良いねえグッドグッド! 雫ちゃんの可愛さに"降参です"とか言っちゃってね!」
やけに力のこもった口ノ助の声。
「・・・」
「・・・?」
「「・・・」」
その瞬間時が止まった。
雫は微笑を浮かべながら無言で口ノ助の顔を見て、口ノ助も無言でそれを見つめ返した。
静寂があった。
「・・・今日はいい天気だなあ」
土砂降りの雨である。
それは無理だろwww
眼鏡もメンタルも硬いってか
酷い雨だよー^^
「さて今日はもう一人ゲストがいるんでね 早速呼んじゃおうかなと、思ったりしちゃったり!」
リオ姉貴ぃ~
助けてリオ
はよ呼んで
口ノ助は先ほどまでのことが何もなかったかのように、明るい声で言った。
「それではお待ちかね!もう一人のゲストさんの登場でーす どおぅぞー!」
そう言って口ノ助はもう一人のゲストー時雨リオーを呼んだ。
うほおお
うほっほきた
うほおおおー
コメント欄にはリオの登場を心待ちにする沢山のゴリラが沸いていた。雫とリオが本日の番組に出演すると聞いて駆けつけてきたゴリラ達である。さらには先に夢野雫が登場して、焦らされているゴリラたちでもある。
そんな猿どもの期待を一身に背負っている時雨リオだが、しかし彼女は視聴者たちの意に反して全く姿を現さない。
遅刻かな?
寝坊だろ
酒を置いたら来るよ
↑カブトムシかな?
コメント欄がざわつき始める。
すると少し経って、ようやく視聴者たちはその姿を目にすることとなる。
安堵の目?いや、驚愕の目。
彼らは目を見開いて確かに見る。
地 面 か ら 生 え て く る 時 雨 リ オ の 姿 を 。
「ああ、えと、どうも 時雨リオです」
「いらっしゃ~~い」
「りおさ~ん♪」
笑顔を引きつらせるリオ。彼女は困惑していた。
時雨リオは地面から、頭部を始めとして、床を通過しながらタケノコのようににょにょきと現れ、最終的には身体全体がスタジオの床より現れた。
それはまさに、生えたという表現が素晴らしい。
”あはぁ~!!”な口ノ助!
ヤンデレな雫!
タケノコのリオ!
「・・・じゃないんですけど!! なんで私、床から生えてきたんですか!?どんな演出何ですか!?」
きたああああああ
生えてきたねえwww
初手タケノコで草
りおちゃあああああん
リオは広げるように伸ばした腕の、両手の平を上に向けて、言葉のリズムに合わせて上下にぶんぶん。感情の昂るジェスチャーを交えながら、誰に言うともなく、しかしあえて言うのであればスタジオ全体にいた人に向けて尋ねた。
リオもこの番組が好きでよく見ていたわけだが、こんな風に床から生えたVtuberは今までに一度も見たことが無かった。
タケノコ系Vtuberなど見たことが無かった。
「いや~今までに一度も見たことが無い登場!誕生!お見事!」
「そうですよ!今までに一度も見たことが無い登場ですよ!ていうかVtuber史上最も稀有な登場シーンですよ口ノ助先輩!」
これは愉快と笑う口ノ助に気づいたリオは、口を尖らせながらにつかつかと歩み寄りながらに言った。
口ノ助は尚も笑いながらにこう返す。
「でも考えてみてよ、リオちゃん!この登場はこの番組の歴史の中で無かったそしてこれから先も恐らくない!つまり唯一ってことなんだよお!?」
「唯一・・・?」
口ノ助は大げさに言うが、そもそもこんな登場に唯一もくそも無い。
しかしリオは矛先を収める。言葉を吟味するリオ。内容よりも、その言葉の響きが彼女の心の天秤を揺らすのだ。
リオはお馬鹿。
その視線の先に口ノ助は指を一本突き出す。
「ナンバーワーン!」
やけにネイティブな発音と共に、指をメトロノームのように振る。リオはその指を頭を振って追いながら、口ノ助の言葉を反芻する。
「ナンバーワーンっすか・・・」
「ナンバーワーン!」
「悪くないですね・・・」
リオは存外単純な生き物である。
口ノ助英語うまw
遊ばれてるw
ナンバーワン!
「ナンバーワン!はい、言ってみて」
「ナンバーワン!」
「どう?」
「すぅー・・・有りっす」
「だろお!?」
「ですぅ!」
\イエーイ パチンッ/
リオは何故か口ノ助とハイタッチをした。
リオはアホの子
草
頭溶けそうwww
リオの顔に浮かぶのは笑顔である。
「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」
遂には口ノ助と踊り出しそうかというところで、リオの背後から声がした。振り返れば、そこに立つのは夢野雫である。
雫はリオと折角の共演なのに全然かまってもらえずに寂しくなり、リオと口ノ助の二人だけでずっと楽しそうにしているのを見て拗ねてしまい、そして居ても立ってもいられなくなってとうとう出てきたのだった。その証拠に、薄い桃色の頬は若干膨らんでいて、目がジト目である。
#かのぴっぴを返せ
「雫さん! こんにちわ 時雨リオです」
「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」
「あれぇ~? 雫ちゃん、俺の時とは声のトーンが違うねぇ~?」
\グルル~/
「噛みつく用意があります!」
「雫さん!?」
「恐いねぇ~」
煽るような口ノ助のことはさておいて、雫はリオの両手を握りしめると顔を近づける。
「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」
「おお・・・」
リオは迫る天使に感嘆の声を漏らす。
「その言葉・・・嬉しみが深みですね・・・」
「リオさんの嬉しみで私も嬉しみです」
「雫さん・・・」
「リオさん・・・」
「「えへへへへへへ」」
百合きたああああ
やっぱしずリオなんだよな~
キマシタワー
かのぴっぴ、奪還。
「あはあーーーっ 百合の香りぃっ!」
口ノ助、咆哮。
「かあーーーーこれがてぇてぇか!俺も混ぜてほしかった!!でも混ざりたくない!!あはあっーーこれがジレンマぁぁぁぁ!!!」
叩き割ってどうぞ
その口縫い上げるぞ
かがり縫いでどうぞ
傍観者代表吹聴口ノ助、百合の波動に当てられる。
「そんなことより、リオちゃんリオちゃん、コメントを読んでみたかい????」
「んっ?」
口ノ助は背景を流れるコメントを指さしながら言った。リオは雫とのイチャイチャをストップして横のコメントの方に身体を向ける。
もっと見せなさいよおらあああ
こっち向いてけろおおおおおおお
後ろ姿もレアだよおおおおおお
でも前が見たいよおおおお
「ああ、そっか」
リオはつぶやく。コメントにはリオの3Dの身体を喜ぶ視聴者がたくさんのコメントを書き込んでいた。先日のリオとコラボした際のホラゲー配信においては身体こそ自由に動かしていたが、その服装はホラゲー内のキャラの服装だった。つまり正真正銘の時雨リオの3D披露は今回が初めてということになる。
リオは喜んでいるコメントを見ると、自分も嬉しくなって笑顔が浮かんだ。そうして、配信画面に映るように振りると両手を振った。
「みんなああああ私は身体を手に入れたぞおおおおお」
やったぜええええ
蘇った魔王かな?
転生したらゴリラだった件
「いえええーーーいこんなこともできる~」
興奮したリオは自由な体を見せつける。
「サイドチェスト!フロント・ダブル・バイセップス!モストマスキュラ―――!!」
ポージング。
「うはーーーー! 仕上がってるよ仕上がってるよーー!!」
掛け声担当口ノ助。
ボディビルの会場はこちらですか?
↑いいえ、こちらは無法地帯です
たのしいいいいいい
さすがに筋肉の量は普通なんだなw
リオは一通り新たな体の動きを見せつけると、満足した表情で雫の方へと向き直った。
「いや~雫さん、自由な体っていいですね!私はパソコンの前でよく動くからしょっちゅう立ち絵が止まっちゃってたんですよね」
「そうですね!よく白目向いて固まってましたね!」
「でもこれなら大抵のことは出来ますね! これとか!」
リオはそう言って床に手を着くと、足を天井に蹴り上げた。逆立ちぃ!!
「どやあっ!」
「うわあ、すごい!」
やっぱリオってすげえわww
ほんまに猿やんけ
体幹強すぎて草
「よ、Vtuber界の凱旋門!スカイツリー!体操のお兄さんお姉さん!!」
うーん、この
ゴミみたいな掛け声好き
テンション上がってんねえw
「よ、っと」
リオは満足した様子で身体を起き上がらせた。横でぱちぱちと拍手する雫に、恥ずかしそうにはにかむ。
リオは運動神経が良い。
口ノ助は時計をちらりと見ると、タイミングを見計らって二人へと口を開いた。
「さて、お嬢さん方 そろそろお席についてもらおうかなー? 早速、番組の方を始めようじゃない?今日は楽しそうなんじゃない!?間違いなーい! あっはあああーー」
とのことで番組が進行する。