ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

36 / 64
前話で”雫の瞳はマーライオンのお口(格言)”と表記してましたが、正しくは真実の口でした。マーライオンだとシンガポールで水吐くやつですからね。
ドライアイじゃ無さそうで羨ましい。


”ぶいぶいっ!”だ![3]

トマトを乗せたワゴンテーブルはスタジオの外に運ばれ、3人はそれぞれ定位置へ。雫の自己紹介の時間は終わり、一旦空気を落ち着けた。

 

「じゃあ次に、リオちゃんの自己紹介いってみよーか!」

 

そう言いながら口ノ助が眼鏡の内側で目を見開いて、リオと視線を合わせると、白い歯を見せてにっと笑った。”いってみよー”っと表情が語っていた。リオは返事をするように小さく頷く。

彼の声に反応するようにカメラがリオの顔をアップで映した。

カラス色のショートカットに、少し睨むような目つき。不良っぽいと未だにいじられることもある。そうした外面の鋭さをちょっぴり放っている時雨リオの顔立ちである。(耳にピアスが欲しいと絵師に相談中)

それは清純な夢野雫のイメージとはある意味正反対にあると言えるだろう。

不良とアイドル。ゴリラと天使。

しかしその対極にある二人がコラボすることによって対比され、二人の魅力がそれぞれ自然と引き立っているというのは間違いのない事実であった。

リオは寄ってきたカメラに気が付くと、首を少し傾けて、レンズを見下ろしながらにやりと笑った。

 

かっけえええ

姉貴ぃ!

変顔しろ

これは悪タイプ

 

単なるかっこつけである。

 

「それじゃあ一分だよ、一分!ああ、関係ない話なんだけどさ最近裏山でシイタケがいっぱいとれてもう大変で・・・猪も捕っちゃったよ?ヴァーチャル猪をね!あはあっ!今度あげるからねリオちゃん!ってことでよーいスタートぉぉぉ!」

 

口をOの字に開いたまま威勢良く伸ばされる声。

どうでもいい情報を早口でまくしたてた末の、ついでとばかりに始まる自己紹介タイムである。リオは肩の力を抜いてリラックスした様子で喋り始めた。

 

「どうも~、時雨リオで~す 好きな食べ物はグレープフルーツと酒 趣味は筋トレとかランニングとか」

 

順調に喋る。

 

「あ・・・あとウーパールーパー飼ってます んん、まだ時間ある・・・あとは・・・先日カラスが」

「終了ぉぉぉ~~~~」

 

まだ喋っていたリオの言葉を遮るように、口ノ助が間延びした声を上げた。

 

カラスがどうしたって?

口ノ助ぇ!まだリオが喋ってるでしょうがぁ!

保護したとか?

糞されたとかかね?

まあリオだしなww

 

口ノ助がちらりと横を見て、それらのコメントを確認した。

 

「ほほお~ どうやらコメント欄がリオちゃんの話の続きが気になってるようですね~ そんじゃ特別にそこだけ喋ってもらいましょうか」

「え、いや別に大したことないやつですよ?」

「ま、とりあえずどうぞ」

「・・・カラスが頭に乗りました」

「現場からは以上でーす」

 

そ れ だ け 

何なんだよwww

止まり木に見えたんだろうな・・・

いるのかその話ww

 

「いやごめん、ほんと大したことなかったわw 皆、一回は乗ってるってことだよね?通過儀礼みたいな?」

 

そういうことじゃねえよww

皆乗っけたことあるみたいに言うなw

何を通過したらそうなるんだww

カラスになっちゃうよ~^^

イニシエーション!ビヨンビヨーン!

 

背景にコメントが流れる中、明らかに何か勘違いをしたままのリオは、カメラに向かって”えへへ”と呑気な声で笑っている。するとそんなリオへ隣に座っていた雫が頷きながら顔を向ける。

 

「私もリオさんの話分かります!と言ってもカラスでは無いのですが・・・」

 

と、尻すぼみになるトーンで悲しそうに前置きしたうえで

 

「私も鳩を頭に乗せたことがあります!!」

 

と、目を輝かせながら言い放った。

 

いやいやいやwww

そうなると話がおかしくなるってww

ややこしや~

日本人皆鳥を頭に乗っける説・・・鳥頭!?

リオ!?

 

「やっぱりそうですよね!!乗っけますよね!?」

「はい!リオさん!乗っけまくりです!!」

「そっか~ じゃあ私と雫さんは”頭に鳥乗っけた仲間”ですね!略して鳥頭!」

「えへへ~リオさんと仲間ぁ~嬉しいです~」

「いえ~い鳥頭~鳥頭~」

「「わ~いわ~い」」

 

リオと雫は楽しげに笑い合いながら、握り合った両手を上下左右ににぶらんぶらん揺する。

 

なんかデバフかかりそう

MP吸い取られそう

なにわろてんねんww

不思議な踊りwwww

IQ下がりゅ~

 

それは鳥を頭に乗せた事がある者のみが許される不可侵の領域。

口ノ助は微笑み合っている二人の姿を、遠巻きに突っ立って見つめていた。

 

「ええ~、鳥が頭に乗ったことが無いのでね、悲しいことに俺はあそこに入ることは出来ませんけどもね、しかし家の家具はニ○リなんですね! ニ、トリってね!? あっはあああ!!!」

 

くたばれ

直球デッドボールで草

お前止める側だろw

眼鏡カチ割んぞwww

武士ぶっこんで闇鍋つくろう

 

視聴者の方に向かって一時的におかしなことを言っておかしくなった口ノ助であったが、落ち着くように静かに息を吐くと、未だいちゃついているリオへと顔を向けた。

 

「ん、んんっ」

 

咳ばらいを一つ。

 

「さてさてリオちゃん、自己紹介はまだ終わってないよーー? そんなに油断してていいのかぁい?」

 

口ノ助がおちゃらけた風にそう問いかけた。それを聞いたリオは”あっ”と声を漏らし、体の動きを止めた。

形はどうあれ結果として夢野雫は嫌いなトマトを食べた。そのためリオにも何かしら良くないイベントが起こる可能性は十分にあった。

リオは嫌な予感を感じると共に、今までのはしゃいだ気分が嘘のように静まり、身体の向きを雫から口ノ助へとゆっくりと変えた。その表情は笑顔を潜め、何かを覚悟するようなきりっとした顔立ちである。

リアルをうかがい知ることのない視聴者にも、彼女の雰囲気の変化は伝わっていた。

 

さあ何が来るか・・・

わくわく・・・

見てるこっちも緊張するな

フランスパン

 

「・・・来い」

 

まるで討伐に来た勇者を迎える魔王のごとく、重みのある呟きで口ノ助の次の言葉を待った。口ノ助もそれを見てにやりと笑った。

 

「それではお待ちかね!リオちゃんの追加情報ーー!」

 

口ノ助が声を上げる。

 

「リオちゃんのはこれだあっ!!」

 

\とんっ/

 

同時に掴んだフリップを司会台の上に立てる。リオは目を見開いた。

 

「”リオちゃんはスカートが履けない!?”ですっ!」

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

!?

ふぁ!?

なんだあ!?

久々の汚い叫び声、ありがとうございまぁあっす!

 

リオは負の感情で濁った心からの声を上げながら、頭を抱えてうずくまった。そうしてまるで”聞きたくなかった!”とでも言うかのように、頭を横にぶんぶんと振っている。今の彼女を見れば、誰でも一目で、相当にダメージを受けていることを察するだろう。

 

めっちゃ苦しんでるwww

どうしたんだwww

エクソシストにいじめられる悪魔の図

リオちゃーん^^?

 

「あはあっーーー 効いちゃってるねぇリオちゃん!!」

「その情報をぉどこでぇ!?」

 

リオががばりと顔を上げて、迫真の声で尋ねた。

 

「ええと、ああ、マネージャーみたいだよ?」

 

リオはそれを聞くと素早く首を回して、機材とスタッフに紛れてスタジオの外で遠巻きに見守っている自らのマネージャーを見る。

 

\ぐうっ☆/

 

マネージャーは見事なサムズアップをして見せた。

 

「裏切られたあああああああ!!」

「あっはああーーーーー」

 

リオは悲しみと多少の憎しみを孕んだ叫びを上げ、それを見た口ノ助は愉快とばかりに笑い声をあげた。

 

よく分かんないけど草

裏切られたんやろうなぁ

リオは不憫にしてこそ輝くのだ!

悲報 リオ、身内に売られるwwww

 

「まあまあリオちゃん! まずは事情を聞かせてもらおうじゃないかリオちゃん! なんでそこまでスカートを嫌うのかな!?」

 

口ノ助がリオの言葉を促した。

 

「別に!嫌なものは嫌なんです! ひらひらしてるの全然似合わないし!恥ずかしいし!」

 

照れリオ可愛い

いつも強そうなのにギャップがたまらん

可哀想だ!いいぞ!もっとやれ!

確かにリオの衣装はスカート無いな

 

「それに小さい頃とか、男子から似合わないってからかわれたりしたんですよ!それぐらい似合わないんです!」

 

男子もこらしめてたんだろうなあ・・・

力を以て力を制す

戦国時代かな?

小さい頃は女子の方が強いからね仕方ないね

↑今も強いんですがそれは

 

リオは立ち上がってスカートが如何に嫌いかを熱弁している。すろとそこへ隣に座っていた雫が立ち上がった。

 

「でも今着てみたらそうじゃないかもしれませんよ!!」

「えぇ!雫さんまで!?」

「すみません!リオさんのスカートが見たいです!!」

「なんて素直な言葉ぁ!?」

 

リオは意外な伏敵に驚いた。雫は真っ直ぐ曇りのない目、それこそ澄み切った夜空に輝く星のような輝きを放つ目でリオを見つめている。雫の可愛いセンサーにリオのスカート姿がビンビンに反応しているのである。

”見せていただけないと引きませんよ!”とばかりに天使らしからぬ謎のプレッシャーを放ちながら、雫はリオに顔を詰め寄らせ、一方で口ノ助も煽るようにニヤニヤと笑みを浮かべている。

リオの額に汗がにじむ。

窮地に追い込まれていた。

 

「リオちゃん!心配しなくてもいい!番組は衣装室にたくさんのスカートと、それを着替えるための更衣室も用意してあるよ!」

「そんな心配してない!」

「あはあ、でもでも強制じゃないからね! 全然断ってもらってもかなわないんだよぉ!」

 

口ノ助は続ける。

 

「ただし!その場合、リオちゃんには!あの運営とお化け以外に敵がいないと噂のリオちゃんにも!スカートという弱点があったという事実が残るわけだあ!」

 

口ノ助は声高らかにそう宣言した。

リオは悔しそうに奥歯をぎりぎりと噛みしめる。このテクニック、先ほどの雫の時と一緒である。口ノ助には相手の折れるわけにはいかない部分を優しく撫でる才能があるのであった。

リオはそれでも幾らか冷静であった。雫という前例を見ていたからかもしれない。リオは、口ノ助の挑発に直ぐに乗らずに、何とかこの場をしのぐ方法が無いかと頭をフルに働かせた。そうしてやがて、リオはにやりと笑みを浮かべた。

見つけてしまったのだ、助かる方法を。

 

「ふwふふwwふふふふふwww」

 

リオは不敵に笑う。

 

どした

リオ壊れちゃったよ~

怖いよぉ・・・

何だ

 

「私は気付いてしまいましたよ!雫さん、口ノ助先輩!申し訳ありませんが私の勝ちです!」

「あっはあーーー リオちゃん覚醒しちゃったかなぁ!?」

「リオ・・・さん?」

 

若干驚いた表情を浮かべている周りの人間をよそに、リオは勝ち誇った表情でこう宣言するのだ。

 

「私がスカートに着替えても!Vtuber時雨リオの姿には何の影響もない筈です!つまり、私がスカートを履く意味など無いっ!!」

 

どやあ・・・

 

リオ、したり顔。

 

「あ、絵師さんに頼んでスカート衣装もらってるよ?」

「く゛そ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛っ゛っ゛」

 

リオ、敗北!

 

敗北の女王

様 式 美

即堕ち2コマ

リオ虐楽しいいいいいいい

 

リオは膝から床へと崩れ落ち、そのままうずくまる。

 

「くっそおお・・・何でだよ・・・こんなことなら・・・もっと良い子振っておくんだったぁ・・・」

 

リオは床を拳で叩きながら現実を嘆く。雫はそんなスタジオダンゴムシになったリオの隣にしゃがみ込むと、耳元に口を寄せた。

 

「リオさん、元気出してください! なでなでしてあげますからね!」

 

雫はここぞとばかりに、リオのその柔らかな髪に手を伸ばす。”すんーすんー”っと鼻息が荒くなっている。瞳孔が開いている。抑えきれない興奮である!

”時雨リオを励ますためになでなでする”はVtuber夢野雫のかねてより焦がれてきた理想シチュの一つなのである!

 

\ヨスヨス ヨスヨス/

 

髪の毛が雫の指の隙間を通っていく。その感触が雫の表情をとろけさせ、顔に至福を浮かばせる。

 

「リーオさん♡」

「うう゛なんで・・・なんで新衣装あんまりくれないのに、、こんな時には準備されるんだぁ おかしいよぉ こんなのあんまりだよぉ」

「これからはリオさんのスカートも衣装の一つになるんですね!」

「絶対着ないいぃ・・・」

「まだ分かりませんよ?もしかしたらかっこ良くてイカした感じかもしれませんよ?」

「絶対無いよぉ・・・」

 

柔らかな笑みを浮かべて励ます雫(リオさん可愛い可愛いいい!)であるが、リオは床に向かってぼそぼそと声を篭らせる。リオはこれから起こる未来を、誰よりも悲観しているのであった。

 

「さあさあリオちゃん!? 乗るか!?反るか!? どうしようか!」

「着ますよ着ればいいんでしょ!」

「あっはあーーーーー!!」

 

やったああああああ

きたああああああ

( ˘⊖˘)<新衣装だよ

嬉しぃ・・・嬉しぃ・・・

楽しみだうほ!

 

もはや逃げ道は無い。

リオは覚悟を決めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。