リオがスカートに着替えるために席を外し、スタジオには口ノ助と雫の2人のみとなった。
口ノ助はリオが戻ってくるまでの時間を埋めるように、矢継ぎ早に雫に質問をする。
「休日とか何してるの?」
「料理とかする?」
「あ、俺のことうざいと思ってる?俺も~俺も~」
など。
お喋りなメガネは飽きることなく次々と尋ね、それに対して雫も嫌な顔せずテンポよく答えていた。だがその中で、唯一、言葉を詰まらせた質問があった。
「Vtuberになったきっかけとかある感じ?」
口ノ助はその質問に何ら含みを持たせていたわけでもなく、至って自然に、今までの質問の流れで聞いてみたに過ぎなかった。しかし雫はこの質問を受けると、今までとは違ってすぐに答えを返さずに、無表情を浮かべたまま一瞬の沈黙をした。その短い間に口ノ助も視聴者も違和感を感じたのはしかし一瞬の事。雫は何でもないように口ノ助に笑いかけると、先ほどまでと同じような調子で言葉を返した。
「えっと、皆を笑顔にしたかったからです♪」
「あはあーっ さすがアイドルぅ!! でも、その割には長いこと考えてなかったかい?」
「”全国民をウサギさんにしたかったから”と迷ってました」
「あはあ!そいつぁーやべえや!」
喜んでウサギになるよー^^
可愛いぴょんうほおおお!
↑キメラで草
んぴょおおおおおおおん
その後、”雫ちゃんは朝はパン派?ご飯派?どっち派?”という質問を皮切りに、口ノ助は質問者でありながら、自らその双方の立場からの自論を展開して”パンは食べやすい・・・でも、栄養をしっかり取らないといけないんだよなあ~・・・”などと自分で自分の考えに意見して白熱した議論を展開するという地産地消かつ奇怪な遊びを始めたので、雫は置いて行かれる形となった。
そうして手持ち無沙汰になった雫は、ひとりでに喋っている口ノ助を放っておいて、口元を緩やかに結んでハミングによる美しい音色の鼻唄を奏で始めた。
その表情には柔らかな笑みが浮かんでいて、頭がリズムに合わせて左右にゆらゆらと揺れている。
天使が過ぎる
椅子になりたい
森の中で動物に囲まれながら歌ってそう
分かる
軽快な鼻唄。
彼女をこうして上機嫌にするのは、もうすぐスカート姿のリオがやってくるという事実である。
雫は過去にストーカーの嗅覚によってリオの家を突き止めて、双眼鏡を使って玄関から出てくるリオや窓から見えるリオを観察していたが、そのような恰好は確認が出来なかった。
すなわち、もうすぐ現れるリオの姿は雫の知らない新たなリオの一面ということになる。雫はそれを思うと胸を躍らせずにはいられなかった。
そして当然リオの新衣装に期待を寄せて居るのはリオの視聴者もまた同様で、つまりこの場にいる多くの者が、新衣装に身を包んだ新たなリオの姿を待ち望んでいた。
口ノ助がちらりとスタジオ外を見て、文字の書かれているカンペを確認した。
リオの着替えが終わった。
「ええー、それではお待たせいたしました リオちゃんの準備が整ったようなので、登場していただきたいと思いまーす!」
きたあああ
待ってた
やったあ
待ち望んだ瞬間の訪れに視聴者一同歓喜する。
「リオちゃんの登場です、どーぞーーー!」
口ノ助の通りの良い声に続いて、画面右端からお待ちかねの時雨リオが現れた。しかし彼女は全身に真っ黒なマントで覆っていた。一面真っ黒なその姿は、まるで魔女のようである。リオは緊張した面持ちを浮かべながら、スタジオの中央へすたすた足早に歩いていく。視聴者の目に映るのは、移動する黒い塊である。
見えないよおおお
おら!身体見せなさいよ!
うっほおお(脱げやおら!)
んぴゃああ!
新衣装が見えないことにより、視聴者の心はじりじりと焦らされ、そのもどかしい感情の叫びによってコメント欄は加速した。事情を知らない者からすればそれは変態の群れに見えるし、知っている者から見てもやはり変態の群れである。つまりリオは変態の王で、図らずも焦らしプレイを視聴者に強いるのはまさにドSの鑑である。(時雨のSはドSのS!)
一方でリオはそんな事は露知らず。”見栄えが良いのでスタジオの中央で脱いでください”という事前のスタッフの指示に従って、足を動かす。
彼女の表情は凛としていて一見すましているように見えるが、その実、緊張で固まっているだけだった。
視線を感じていた。
普段の配信で感じることのない視線を、今ここに至っては強く感じていた。それは視聴者の前で布(マント)を脱いで、アバターにしても現実にしても恥ずかしいと思っている姿を見せるという特殊な状況ゆえであるが、本人は気付いてないし、気付く余裕もありはしない。(リオのRは露出狂のR!)
「リーオさん♡」
不意に横から声を聴く。リオが反射的に振り向けば、そこには椅子に座った雫がいて、手をひらひらと小さく振っていた。雫は応援のつもりである。しかしリオには何の慰めにもなりはしない。むしろリオは何故だか猪の如くその手に突撃したい衝動に襲われたので、逃げるように視線を元に戻した。
そうこうしているうちに、リオは指示されていた画面中央の立ち位置へと到着した。
視線の先に立つ口ノ助はこれもまた謎に手を振っていて、”ぐぬぬっ この男さえいなければ・・・”と少しの悔しみを込めてひと睨み。それから正面へと身体を向けて、実体のない視聴者と視線を合わせる。
寄ったカメラが時雨リオを大きく映す。
ゆっくりとマントに手をかける。
「さああ!!リオちゃんスカート姿はどんな感じなのでしょうかぁ!?」
じゅるるるるるr(生唾を飲む音)
カモンリオちゃん!!
さあさあさあ!
・・・おぇ
リオは少しのためらいを見せた後、一思いにマントを脱いだ。
やっばあ
おおおおおおお
うほっほほおほ
視聴者の目にマントの中身が明らかになった。
時雨リオの新衣装はスカートだけでなく、上も一緒に用意されていた。
上から、カラスの模様が入った黒いチョーカーを首に巻いていて、黒シャツを斜めに着崩して片方の肩を大胆に見せていくと共に、その肩には内に来ている紺色タンクトップの肩紐が掛けられていて、緩めの服装がラフな雰囲気を演出している。また肝心のスカートは黒色と灰色のストライプ模様が入っていて、太ももの半分から下を惜しげなく外気に触れさせている。
新衣装は全体的にダウナーな感じ。その余裕がダークなかっこよさを醸し出し、同時に女性的なシルエットとのギャップで可愛らしさも演出していた。
これはイケメンゴリラ
こんなん惚れるわ
全然イケてる
視聴者に衣装を披露している間、リオは気恥ずかしくなって後頭部に回した腕で髪をわしゃわしゃと掻き崩しながら、顔をそっぽに向けて立っていた。例え自分のリアルの姿が視聴者に見えていないとわかっていても、カメラで撮られている状況がどうしてもリオに錯覚を起こして、恥ずかしさを感じさせた。
「リオちゃーん、緊張してるねぇ?」
口ノ助が横から目ざとく言う。
「緊張をほぐす方法を教えようかなあ!」
「それは先輩が早く椅子に座らせてくれることだと思います」
「まあまあ 聞くだけ聞いてよ! 先輩からのアドバイスだよ!聞かなきゃ損ってもんだろ!?」
「ああ、もう分かりました 聞きますから なんですかそれは?」
「その格好でゴリラの真似をすると良い!」
リオは真顔で口ノ助の顔を見た。
「あ、はい あのアドバイスの方をお願いします」
「その格好でゴリr」
「なんでだよ!」
wwwww
どういうことだよww
ゴリラの真似来たあああ
リオは口ノ助が言い切るのを待たずして声を上げた。
「何でそれで緊張が無くなると思うんですか!?」
「リオちゃん得意じゃん!ゴリラの真似!」
「得意ですけど!なんでわざわざ新しい衣装になって一発目のこのタイミング何ですか!?」
「景気づけ?」
「つかねえよ!」
リオは確かにゴリラの真似は得意であったが、おめでたい時にするものなどでは決してない。誕生日祝いにゴリラ、クリスマスにゴリラ、新年にゴリラ、あり得ない。
「どうする?」
「やらないですよ!」
「ああでも、コメントを見てみてよ」
口ノ助に言われてリオが振り返れば、流れる沢山のコメントがリオのゴリラを期待していた。またしてもこの男が元凶である。そして雫は”見たいです!”と、またも目を輝かせている。この女、リオ関連ならなんでも喜ぶ。
リオはゴリラの真似をやらざるを得ない状況に陥っていることを実感していた。
「まじでやるんすか・・・」
「ほら、新規の人とか気になってるかもしれないし!ここはきっとチャンスってもんさああ!」
「アーカイブ見てくれや」
見たいな~~~
病気の党とのためにゴリラお願いします!
ゴリオが見れたら手術頑張れます!
それでもリオはなかなか乗り気にならなかった。
「分かった分かった これが足らないだろぉ? へいかもーん」
口ノ助がそう言うと、黒子衣装のスタッフがゴリラの被り物を持ってきた。そしてそれをリオへと手渡すと立ち去った。
「被って被ってぇ!!」
「マ?」
「リオさん!」
「・・・はあ」
リオもうどうにでもなれといった気持ちでゴリラの被り物を被った。
するとどうだろうか。
ゴリラの被り物は当然現実のもので、つまり三次元のものであるが、そこから下は二次元の時雨リオの肉体である。
そうして配信画面上に何とも奇妙なハイブリッド生物が誕生した。
こいつあやべーや
これ何の画ww?
ホラゲーかな?
「さあさあリオちゃんでゴリラの真似です! お願いします!」
リオは覚悟を決めた。
「うほほおおおおおうほおおおおhっほおおおおお」
「うほおおおっほっほっほっほっほほおおお」
「うほおおおおおおっおっおっおっほ゛お゛お゛お゛お゛」
ほおおおおwwwwwwww
ごりおきたああああああwwww
頭壊れそうwwww
ガ ン ギ マ リ オ
「お゛え」
リオはあれほどやる前は嫌がっていたのに、やり終わった後は謎の達成感を感じていた。
「リオさ~ん!こっちきてくださ~い!」
「りおちゃ~んおいで~」
一人でに満足感の余韻にふけっていると、後方から声が聞こえた。リオが声のした方向に振り向くとそこには、いつの間にやらハトの被り物を被った雫と、ワニの被り物を被った口ノ助が肩を並べて立っていた。その間には、一人分のスペースがわざと開けられている。
「ここに来てください」
「こっちおいで」
二人が手招きするのでリオは誘導されるようにそこへ向かい、間に収まった。
「はいじゃあじっとしててね」
口ノ助が言う。
「はい!サムネとれたあああ」
動物園の成れの果て
地獄絵図
サムネバイバイ
ワニとハトとゴリラが見つめる、綺麗なサムネがとれました。