ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

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次からこめでぃー



似て無いもの同士だ![終」

side:リアル

 

「私、前に辛いの食べる企画したじゃんか~」

 

あったなあww

クッソ辛い焼きそばwwww

リオの嗚咽がめっちゃ聞こえて地獄だったな

今度はリアル配信でやらないか?

恒 例 の 放 送 事 故

 

「あれは良くない思い出だよね でも、あれから私は実は訓練をしているのさ!」

 

上手なゲロの訓練?

舌を引き抜く訓練?

美しい痙攣の訓練?

武士を召喚して代わりに食わせる訓練?

 

「それは日々の食事にちょっとずつ辛いのを混ぜて食べているのです!」

 

な・・・なんだってえええ(棒)

毒を持って毒を制す理論w

慣らしていくとかリオ頭良いな

↑リオが頭いいわけないだろ!森に埋めるぞ!

↑誰かの入れ知恵に決まってる!

 

「ちなみにゴライアス先輩に教わったんだよ」

 

うわっ出た

リオちゃん見てるわよおおおんn

↑普通に居るやんけwww

リオと愉快な仲間たち~怪獣編~

町が燃えそう

 

「いずれリベンジ配信をするでな」

 

その日もリオはいつも通り、くだらなくも楽しい雑談配信を行っていた。ちなみにリオには一味唐辛子と七味唐辛子の違いが分からない。

”二~六は何で仲間外れなんだ!三があったら三三味(みみみ)唐辛子で可愛いのに!(?)”などと意味不明な暴論を視聴者に説き始める始末である。尚、視聴者には一部変態な天才が紛れ込んでおり、”一味(いちみ)”と”七味(しちみ)”の共通点は共に「ちみ」という文字が入るので、乳味(ちちみ)唐辛子はいかがでしょうか?などというクソコメが流れ、それに対して脳筋ゴリラが”牛乳味の唐辛子とか君天才じゃん(?)”などと発言するので、コメント欄は未曽有の第二次ちちみブームが到来するというのは勿論ただの余談。

そんなくだらない話に花を咲かせている中で、その電話は唐突に訪れた。

その時リオのスマホは丁度パソコンの左隣に置いてあったが為に、配信にはリオのスマホの着信音が、具体的には動物園に自ら足を運びわざわざ録音したゴリラの逞しい鳴き声が、視聴者の鼓膜を秒速ゴリラmで駆け抜けて行った。

 

「え、誰だろう 配信中なんだけどなあ」

 

着信音で草

癖が強すぎるwww

うほおおおおおお!!(共鳴しゅるうううう)

世界でもお前ひとりやぞ

というか誰だゴリラにするぞ

 

「ええっと うわあっ、マネージャーだぁ」

 

マネージャーかよwww

露骨に嫌がってて草

またなんかやったんかwww?

そーれっお説教っ!お説教っ!

このままマネージャーと配信しよう

 

「怒られんのやだな 配信中だし切ろうかな」

 

怒られるの前提で草

どうせこの前のプレデターになるまで終わらない配信の48時間配信

もしかしたらエロくないのにエロい川柳選手権

いやコ〇ナウイルスゆるキャラ化選手権だろ

 

「あ、切れちゃった これ後で怒られるかな?”キレちゃった”から、とか言ってwww」

 

はい、森送り

森へお帰り

解散でーす

ありがとうございやしたああ!

くそSamギャグがまた増えちゃったよ~^^

 

その後リオはいつも通りに配信を終えた。そうしてグラスにハイボールを注いで、氷をからから転がし休憩。

ぱちぱち鳴ってる氷は可愛い。

何ともなしにスマホに手を触れたところで、リオは不意にマネージャーからの電話を思い出し、そのまま早速番号へとかけなおした。

 

\ぷるるる/

 

「あ、お疲れ様です」

「はい、はい、 え?」

「雫さんが行方不明!?」

 

 

 

話はそれなりに単純なもので、つまるところ夢野雫が行方知れずとなっていた。それの事の発端だが、それはリオも気になっていたのだが、雫は最近、毎日の定時配信を行っていなかった。

Tmitterではそれについて”具合が悪いので配信お休みします。”とのことだったが、マネージャーが連絡したところ、応答する気配はまるで無く、それが一日二日、数日経って、いよいよおかしいという次第になって。そうしてマネージャーが直接家に尋ねてみたところ、ここでもやはり応答がなくて、どうしたことかとドアノブに手をかければ鍵がかかってなくて、そうして家の中は、、家の中はまるで台風が通過したかの如くぐちゃぐちゃになっていただとか。

そこでマネージャーは雫と唯一交流の深い(唯一と言われてリオは驚いた)人物であるリオに、何か情報を求めて、まずはリオのマネージャーに連絡がいったのだ。

曰く、大事には出来るだけしたくないと。

 

いやもうなっとるやんけ!台風ちゅーか空き巣やんけ!やんけやんけ!

 

とはリオの心の第一声。思わずエセ関西弁が飛び出すほどにはそれは一大事に思われた。

それにリオにも雫の行方については一切分からない。

ともかくとして。

リオは内容を聞き終えると、すぐさま雫を捜索することにした。

 

 

今は夕方。リオは焦りの表情を浮かべながらジャージ姿で街に繰り出す。

いつから居なくなったのか、そもそも生きてるかどうかすら分からないこの状況で焦るなとは言われる方が土台無理な話である。

しかし捜索と言っても、リオには雫の向かう先など点で思いつかない。雫のマネージャーは雫の住む街を探すと言っていたので、リオはその周辺、具体的にはリオの住む街になるのだが、それを手当たり次第に探すこととなった。

まずは図書館。後は公園。その他エトセトラエトセトラ。

リオは見つからない雫の姿に悲しみよりも納得を覚えて、雫のマネージャーには”早く捜索届を出してもらいたい”とさえ思っていた。

そうして適当な公園のベンチに座り込んで、疲れた表情を浮かべて休む。赤い夕日がいつもよりやけに暑く感じて鬱陶しくて、パンをよこせと足元に群がる鳩もやはり鬱陶しく感じた。

 

見せもんちゃうぞ あっちいけ エアキック! エアキック!

 

リオはもはや雫の行先は鳩にしか分からないと足をバタバタさせて、飛んでいく鳩を眺めていたのだが、そこに珍しく白い鳩が紛れ込んでいることに気が付いた。

赤い夕日に照らされて赤く染まっている。

 

珍しいな・・・ふぁ!

 

リ オ は 唐 突 に 閃 い た 。

リオはその白い鳩に、忌まわしき存在の影を見た。具体的には、白いサギ。リオの憎き敵にして、以前にリオの見せびらかしていた酒のつまみを悠々と強奪していった詐欺のサギ。

赤い夕陽をバックにする白い鳩は、まさしくこちらに向かって夕日を背に飛んできた、古き悪き思い出と重なった。

その場所は海だった。

リオはもはや目ぼしいところをつぶし終えていたので、思い付いた海はいるわけは無いと思いながらも、探さないよりはましと思って向かってみることにした。

 

着いた。

いた。

雫いた。

砂浜に向かって大の字に仰向けになっている夢野雫がそこにいた。

リオは目を見開いて驚愕しながらも、寝転がって目を瞑って気付いていない雫の元まで、慎重に近づいていくことにした。それはまるで雫が野生動物と同等に逃げることを何故か想定していることに他ならないが、リオはようやく見つけた雫なのでそう言った反応になってしまうのだ。

やがて雫の頭を挟むよう両足で砂を踏みしめて、リオは雫を見下ろした。

 

「雫さんこんにちは」

「こんにちは」

 

雫はまるで分かっていたように、自然にリオの言葉に返すとゆっくりとその目を開いてみせた。

雫は起き上がり、両手を背後の地面に着いて座るので、リオもその隣に座った。

 

「リオさん、ここ良い場所ですよね」

「まさかいるとは思いませんでした」

「私も来るとは思っていませんでした」

「鳩が教えてくれました」

「さすがリオさんですね」

 

雫は夕日に横顔を照らされながら、屈託のない笑みをリオに向けた。リオもそれに微笑み返す。

柔らかな風がさらさらと吹いて、雫のさらさらとした髪をなびかせた。

リオと雫はしばらく何も言わず、並んで海に沈む夕日を見つめていたが、やがてリオが口を開いた。

 

「雫さん何してたんですか こんなところで」

 

リオが柔らかい口調で問いかけた、

 

「リオさんの配信を見て思い出したんです こんな場所があったなって」

「花火しましたね」

「はい ここなら落ち着くかなって」

 

雫はそう言った。

 

「なんか落ち着かなかったんです あの日、リオさんと別れてからもずっと」

「はい」

「でも理由がよく分からなくて、それがすごくイライラして家の中を軽く暴れてました」

「雫さんが台風だったんですね」

「台風?」

「空き巣とかじゃなくて良かったです」

 

”それで”とリオが話の続きを促す。

 

「それで、このままお家にいちゃまずいと思って何も考えずにお家を飛び出してきたんです」

「家出ですね」

「それでここに辿り着いたんです ここは波の音が落ち着きます 何も考える必要が無いので落ち着きます リオさんのおかげですね」

「それは海のおかげです」

 

リオは一通り話を聞き終えると、うんうんと頷きながら雫に尋ねた。

 

「何も考えないと落ち着きますか?」

「落ち着きます」

「では、何か考えているから落ち着かないんですね」

「あ、そうですね」

「それはなんでしょうか?」

 

何の捻りもない実に単純な疑問である。

それでいい。

リオは雫のこうなっている原因、何か澄ましたような目も、首すじや腕に見えるいくつものひっかき傷も、ボロボロの服も。どこか壊れている様子の雫のその理由に何となく察しがついていて、同様に雫もまたそれを分かっている。

今必要なことは、それを表に出させること。というのをリオは経験で知っていた。

酒が好きなリオである。その理由は意識考えなくて済むから。今の雫と同じ。

あともう一つ。

口が勝手にその頭のうざいもやもやを、滅茶苦茶にゴミゴミしたままに論理破綻のままに吐き出してくれるから。

それは何とも素晴らしい。ゲロするとキモティーのは何も胃の中の内容物だけではないらしいのだ。byリオ調べ

 

どうぞ私は便所です

 

リオは雫を真っ直ぐ見つめて、雫の先の言葉を促す。

 

「私は」

「はい」

「私は」

「はい」

「多分、アイドルにはなりたくないです」

「そうですね」

「でも・・・」

 

雫が両手を髪に埋める。頭を抱えて。もう死にかけてる夕日を見つめて。

 

「仕事ですよ嫌とかじゃないんですよやるんですよ知ってるんですよ分かってるんですよやりますよだって仕事ですもん自分で選んだんですから責任がありますからそういう生き方を選んだんですからわがままなんて言えないですからでもでもでもでもでも」

 

雫は砂を掴んで、掴んだ腕を頭に回して離して頭に砂をかけて、埋めるように隠そうとして、でも埋まるはずもないので、また両腕を絡みつけるように頭に回してそれを繰り返し繰り返し繰り返して。

心情を吐露するのは恐怖が伴う。それに対しての雫の身体の防衛反応として、言葉を吐き出すのに必死な雫の意識を差し置いて勝手に動き回っていた。

リオはそれを隣で微動だにせず、何も言わずに見つめていた。

やがて一息に言葉を吐き出していた雫は、そのうちに息が続かなくなったようで、息を吸い込むのと同時に、纏わせていた腕を解き放ち、身体を上に伸びあがらせた。

既に日は落ちていた。月が照らしていた。月光に照らされたその姿は、まるで水面より跳ねるクジラのようであった。

リオはそれを綺麗だなと思った。

 

「私は多分苦しかったんです」

「はい」

「だから苦しまない方法を考えました」

「はい」

「それで思ったのですが」

「はい」

「分けてみることにしました」

「え、何をですか?」

「仕事と自分を?」

「??」

 

今まで頷くばかりだったリオは、初めてリアクションとして疑問符を頭に浮かべた。

 

「それはどういうことですか?」

「つまりこういう風に自分があるから悩むんですよ はなっからVtuber夢野雫はVtuber夢野雫として別の生き物とするべきだったんだと思います」

「ええと・・・クローンとかロボットみたいなことですか?」

「違います 完全に別の生き物です! 私はもう一つの命を持つということです」

「・・・まじすか」

 

リオは思わず声を漏らす。

リオは一応は雫の言っていることを理解したが、果たしてそれが実現できるようなものか甚だ疑問であった。

つまるところ彼女は”演じる”のだ。完全に演じ切ると。そう言った。

そうして偽物は偽物として、本物(つまりは夢野雫ではなくリアルな雫自身)と完全に境界線を引いて、夢野雫を生かしてみると。

そうすることで雫はノーダメージ。夢野雫はアイドルアイドル♪うふふふ♪と。

 

いや暴論だ!そんな理論が通ってたまるか!

 

などとリオは一瞬思うのだがしかし、リオはそれを言う権利などは無かった。

リオは逃げた臆病者だ。苦しみから逃げた臆病者。しかし雫はその苦しみをあろうことか受け止めて、それに抗う術を見つけ出したのだ。リオには到底まねできないが、雫にはソレが出来るのかもしれない。と、リオは思う。

自分が出来ずとも、人に出来ない道理はない。

何故なら人はそれぞれ違うのだから。

リオはそれを思うと、少し寂しさを感じた。

夢野雫と出会ってから、なんとも強引な展開だったが過去に彼女の心に触れた。その時は”彼女が自分と似ているかもしれない”とリオは内心喜んでいたのだが、実際は雫とリオは似てなどいなかった。

雫はリオよりも力があって、リオのように逃げたりはしないらしいのだ。

 

「雫さん、やばかったら逃げるというのはどうでしょうか?」

「そうですね それもありかもしれません!でもそれはもう少し自分の考えを試してみてからにしたいです!」

「かっこいいですね」

「リオさんの方が何倍もかっこいいですよ!」

「皮肉っぽいな・・・」

「本心ですよ!人はみんな違うんですから!私はリオさんも自分も肯定します!」

「全肯定BOT!?」

 

リオは雫の髪についた砂を払いながら言う。

 

「もし逃げたくなったらどうぞ私の家を訪ねてください 私のお薬こと美味しいお酒で雫さんをもてなします!」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

それからしばらくは雫とリオは共に並んで、砂の上に仰向けに寝転んで、一緒に波の音を聞いていた

そうしてどちらかがくしゃみをしたのを合図に、二人はリオの家へと避難して、酒を飲んでその日は眠った。

後日鬼電のマネージャーに、雫がめっちゃ謝った。

 

そんな顛末だった。

 

 

 

 

 


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