side:ゴライアスの配信
某日、時雨リオと山田ゴライアスによるコラボ配信の時刻が訪れようとしていた。と言っても動画タイトルは、
『私のBarについにあのお客様が!!??』
となっており、タイトルを見ただけではコラボ相手を推測することは難しい。なんせ山田ゴライアスはVtuber界きっての面食いオカマVtuberであり、配信中においてもあの子は良いこの子も良いと勝手にオカマ品評会に挙げられたVtuberは数知れず、誉め言葉ともセクハラともつかない一方的な求愛に晒されるVtuberは日夜増産され続けているのである。
チャンネル山田ゴライアスの配信待機画面は一面真っ黒で、その中央には青色で大きなハート型の看板があり、”準備中♡”とやたら丸みを帯びた字が書かれていた。
そしてその四角い配信画面の右側では、配信開始を今か今かと待ち構えている視聴者のコメントが、縦にどんどんと流れていく。
マママ?(※ママまだ?の意)
興奮するわね!うふ!
焦らしぷれいね♡
期待に満ちたオカマチックなコメントの数々。
何故か山田ゴライアスのコメント欄にはオカマ口調なものが多い。これは別に本人が指示をしたという事は無く、勝手に視聴者にその口調が伝染しただけである。
恐ろしきかなゴライアス語は感染るのだ。
その配信の様子が他所からいつからか”ゴライアス王国”と呼ばれていることから、その異質さがうかがえる。さしずめゴライアスはその王と言ったところか。いや王女かもしれない。・・・気にすることではない。
そのうちに予定時刻となった。すると配信画面が切り替わり、穏やかなジャズのBGMと共に、一面が橙色の光に照らされ、落ち着いた雰囲気のあるBarを模した背景へと変化をした。そしてその手前の画面の右側に山田ゴライアスが現れた。
「みんな、おまたぁ~~~」
ママ^~
時間通りよん!
待ってたわよ!
やけに粘り気のある声はまさしく山田ゴライアスの特徴である。
ゴライアスは今日も青い。
青いスキンヘッドに青い瞳に青いアイシャドウに青い唇に。
とにかく青さに余念が無い。褐色の肌はその青さを際立たせる。
それと服の袖は肩から先が見当たらない。革の質感でテカリ輝く服であるが、肩から先は引きちぎられたかのように存在しない。クマに襲われて勝った説が視聴者の間では今のところ有力とされているが真相は分かっていない。
もしかしたらクマは絞め殺されたのかもしれない。
最後にクマは ”へ゛あ゛あ゛あ゛あ゛” と断末魔をあげたのかもしれない。
クマだけに。
・・・ぴょっ♡
配信は開始された。
「みんな今日も元気ね~ それじゃ今日もいくわよ~~~ん」
来てええええ♡
リップ塗らなきゃ!
いらっさああい
「あ・い・さ・つ・のーーーチュゥゥ!!!」
ちゅ!
ぶうちゅううう!!!
ちゅっちゅちゅ--ちゅ-ー!!
鳴り響いた水気を帯びたリップ音。
加速するコメント欄。
初手投げキッス。
「うふうっ みんなサイコーよ♡」
うふうっ!!
神様仏様ゴライアス様ぁぁ
ああああビクビクン!
「にしても今日はあれねぇ 若干人が多いわねぇ」
楽しみだわ!
お相手はどなたかしら?
イケメン?可愛い?
「うふっ そうよね みんな気になっちゃうわよね~」
早く呼びなさいよ!
焦らしプレイね!ああああああ!
今日の獲物は誰かしら
「焦らしプレイも好きだけどうふふふふふ♡ 早速呼んじゃうわね! 今日のお相手はこの人よ!りおちゃーーーん!!」
「はーい」
ゴライアスの呼び声に反応するように間延びした声が聞こえ、同時に突然に、画面を埋め尽くすほどの大きなアバターの顔が表示された。
一面の肌色。大きな瞳。ガチ恋距離。
拡大率500%、超巨大時雨リオである。
!?
うわっ!?
でっか♡
超 ガ チ 恋 距 離
「どうもー時雨リオですー」
「嗚呼ああっ!!!でかい!でかいわっリオちゃん!!!」
「ええ?」
「でっかすぎよん♡おほっ♡」
リオちゃんかっこいいいいいい
リオちゃん来たあああああ
嬉しいいいいいい
歓迎するわよん!
ゴライアスはやけに熱を帯びた声(意味深)を漏らす。
大きかった時雨リオは小さくなり、カーソルの動きに合わせて画面左側へとUFOキャッチャーのように移動していった。
「ごめんなさい、こっちのミスよん 気にしないで♡」
「あ、はい」
「じゃあ改めて、リオちゃんいらっしゃい!コラボ受けてくれて嬉しいわぁ~!」
「いえ、こちらこそありがとうございます!」
ゴライアスの弾む声にリオも嬉しそうに答える。アイシャドウに縁取られたゴライアスの目も細められ、リオの大きな黒い瞳も細められる。
「あっ」
リオは瞳を開き不意に声を漏らした。
「んんん?どうかしたかしらあ?」
「いやあ~ なんか私の方の配信が待機画面のまま止まっちゃってるみたいなんですよね・・・」
「あらあ~それは困ったわねえ」
リオはリオで配信を行う予定だったのだが、現在リオの配信画面は音声だけを流すのみで、依然真っ暗なままであった。リオの姿さえ映っていない。
いわゆる機材トラブルである。
「んん~~困ったなあ 私、こういうの得意じゃないんだよな・・・」
「うふうっ リオちゃんそういう時は私にお任せよ♡」
オカマの鑑!
メカオカマ!
マママママ!
「ほえ~ゴライアス先輩得意なんですか?」
「全・然♡」
「・・・ほえ~」
上げて落とすはオカマ拳法!!
ゴラ様輝いてるわ!
ふ つ く し い
ゴライアスはそれでもリオにアドバイスを送る。
「パソコンを撫でてあげるといいわよ?」
「撫でるんですか?」
「撫でるのよ!いっぱい撫でるのよ!」
フレームの縁を。
「へえ~初めて聞いた」
「ただ撫でるだけじゃだめよ!いっぱい励ましてあげるの♡」
「励ます??」
「”頑張れ♡”とか”元気出して”とかよん!!!」
「ふんふん やってみます!」
リオは素直にこくこくと頷いて見せた。
勿論ゴライアスとてこんなことで直るとは本気では思っていない。だからこれは誘導である。
リオにセリフを言わせるための誘導である。
リオちゃんも素直で可愛いわ!
あほかわいい!
そんなに何でも従っちゃだめよ♡
「さあ!まずは、応援してあげるのよ!」
「頑張れ!頑張れ!」
「もっとよお!」
「がんばれええ!がんばれえ!!」
「もっと卵を産むウミガメを応援する気持ちでえええ!!!」
「がんばれえええええええ!!!!もうちょっとだああああ!!!!産めえええええええ!!!!!!」
「う~~~んんっ!!ビクトリイイイイイっ!!!!」
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~リオの配信画面~
僕も産まれりゅううううう!!!!!
ゴラ姉あざああああああす!!
明日も頑張るうほおおおおおおおおおおおお
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「先輩!まだ直らないです!」
「次は感謝するのよ!!!」
「いつもありがとう~」
「もっと気持ちを込めてえええ!!!!」
「いつも頑張ってくれてありがとう!私も頑張るから君ももっと頑張って!!」
「もっと仕事で疲れた社会人を癒すように!!!」
「君はほんっとによく頑張ってる!!!!辛いこともあるよね!頑張らなくてもいいからね!!!逃げても全然良いからね!!!」
「”傍にいるよ”」
「私が傍にいるよ!!!」
「う~~~~んっ!!スパイシイイイイイイイイっっ!!!」
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あびゃああああああ~~~~
リオちゃんしゅきいいいいゴラ姉もしゅきいいいいいいい
アリガトウ・・・アリガトウ・・・
もう死んでもいい
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「先輩!ダメです!!」
「う~ん、こうなったら、、罵倒するのよ!」
「罵倒ですか!?」
「そう! さぼり気味なPCちゃんを焚きつけるのよ!!」
「ええと、、ば~~か?」
「もっと感情を込める!」
「ばーーーか!あーーーほ!!まぬけーーー!!!」
小学生みたいで可愛いわ♡
まだまだイケる筈よん!
イクのよ
「もっとよ!!もっともっと憎しみを込めて!!」
「お前なんか役立たずのスクラップ野郎だあああ!!働かなかったら価値なんて無いゴミ野郎ううう!!」
「幽霊が来たわよ」
「ああああくたばれええじゃないもうくたばってるううううう」
「漫画のアニメ化が失敗したわよ」
「好きな漫画だったのにいいい畜生おおおおおおお!!!」
「嫌いな人が来たわよ」
「逃げてばっかりいるあんたなんか大っっっっ嫌いだああ!!!酒ばっか飲んでんじゃねええええ!!!」
「どうするの?」
「あんたなんか、あんたなんか死んじゃええええええええええ!!!!」
「ううーーーーんっっ!!!!エクスタシイイイイイイイっっ!!!」
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ごめんなさあああいいいいい7
嗚呼あああドMで良かったあああびくんびくん!!!
うbfrwふぃfびびいいいいいい
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「はあっ はあっ」
「お疲れ様~」
「はあっ はあっ」
散々大きな声を出したリオは、息を整えるように荒い息を吐いていた。
肝心のリオの配信画面と言えば引き続き真っ暗なままである。それでもリオの視聴者はコメント欄で大喜びしているのだが、リオは直らないことに落ち込んでいるようで深いため息をついていた。
「直らないです・・・」
「まあ私には無理よねぇ~」
「んん・・・ごめんよ私の視聴者」
「まあそういう日もたまにはあるわ♡」
リオちゃん不運ね
落ち込むリオちゃんもアリね♡
はあああん抱きしめてあげたい!!
そこからリオは仕方が無く、自らの配信は真っ暗なままにしておいてゴライアスとの雑談に興じた。リオの視聴者もゴライアスの配信に移動するか、それ以外はラジオ感覚として暗闇配信を楽しむことで、とりあえずは落ち着いた様子を見せた。
10分ぐらい経過したときだったか。
不意にリオがゴライアスとの会話を途切れさせた。
「リオちゃん?」
リオは目線が左側、ゴライアスとは反対側。丁度自分の配信ではコメントが流れている位置に目をやった。
コメントの一つがリオの目に留まったのだ。
「すみません 鳴きます」
「え?」
リオの唐突な宣言にゴライアスは困惑の声を漏らしたが、それに対する返事は既に人のものではなかった。
「うほっ!」
「あら」
「うほおおおおっ!!!」
「鳴いてるのね!これが噂のリオゴリなのね!!!」
「うほっほっほほおおおおっほほほお!!!!!!うほおおおおおおお!!!!!!!」
「あらぁ逞しいいい♡」
「うほおおおおおおおおおおおっほっほっほ!!!」
立派ね♡
大自然ね!
身体がびりびりしちゃうわ♡
その素晴らしい雄たけびは、リオの配信においてもゴライアスの配信においても、けたたましく勇ましく鳴り響いた。
「あ、直りました」
配 信 が 直 っ た 。
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なんでええええええええwwww
何から何まで意味わからなくて草
鳴き声でPCを叩き起こす女
ま あ 、リ オ だ し ね 。
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「あら良かったわねえ~」
「すみません突然」
「いや良かったわ~ 生ゴリが聴けてあたし幸せよん!」
「あはは・・・ 実はうちのコメントの中で”ゴリラ語音声認証かもしれない”というのがあって、まさかと思ったんですけど試してみたくなっちゃって・・・」
「よく分からないけど良かったわね!」
「はい!良かったです!」
こうしてリオのチャンネルでも無事に配信が始まった。尤も、配信が直ったのは当然リオゴリの鳴き声のおかげでは無く、たまたまタイミングよく回線トラブルが解消されたに過ぎないのだが、そんな無粋な指摘をする者は誰もいない。
強いて言えば、このタイミングでトラブルを直してしまうリオの天運のおかげである。
リオが”リオった”だけである。
ともかくとして配信が始まったのだ。
それでいいのだ。