その後も1時間ほど配信は続いた。
素でボケているリオと、基本ふざけているゴライアスである。二人の間で交わされる会話は視聴者の予想をことごとく裏切り、コメント欄には草が生い茂り、視聴者の心を大いに楽しませた。そして豊富な素材提供には『時雨リオ打打打打打打打打打打』を初めキチMAD(タグ:ゴリラ界からの刺客、森へ帰れ、ゴリ押しを超えた何か、etc...)を制作する職人たちもほくほく顔であった。
楽しい時間はあっという間に終わる。
視聴者に惜しまれながらもやがてコラボ配信は終わった。
コラボ配信を終えてからというもの、リオが配信をする度にコメント欄には異変が発生するようになっていた。
それは何人かの異端者。
はぐれモノ。
コメント欄でのコメントは当然のことながら配信についてのものが一般的であるが、その者たちが残すコメントはリオの配信とは一切関係がない。配信内容がどんなものだろうと、どんな流れだろうとそれらを一切無視したコメントを連投する嫌われ者。
”荒らし”である。
ゴライアスとのコラボを機にゴライアスの視聴者と思われる荒らしが流れてきて、頻繁に出現するようになっていたのだ。
例えば・・・
「みんな、今日は待ちに待ったサッカーのワールドカップを応援する配信だよ」
酒用意したで
チュッ!!!
オカマビーーーーム!!!
https://www.okama.com/?g??l!=JP&hl=ja
「リアルにしてっと・・・ まずはこの国旗を使って、我が家のアイドル、ウーパールーパーのうー太に勝敗予想をしてもらいまーす」
ウー太おひさw
生きてたんかワレ!
あ、そーれチュ!チュ!チュ!
「今日のヤホーニュース見た!? パンダが動物園から脱走だってさ! 野良パンダ見たいよね~」
野良パンダwww
リオは野良ゴリラ
みんなにチュ!!!
「そう言えば小さい頃、近所にぽっちゃりな野良猫がいてさ~」
ぬこカワ
ぶちゅちゅちゅちゅ!?
(*´з`)好きよ~
リオに餌をあげたい
「バルベリットビビビフラペチーノ!!」
リオが壊れちゃったよ~^^
オカマ鎌しゃきいいいいん!!
呪文かな?
呪いかな?
「メタバの新メニューがこんな感じだったはず・・・」
舌足らずリオ姉貴すこ
ゴライアスぱーーんち(';')
あたしたちのゴライアスが配信してるわよ!→https://www.NowTubejo.jp/webhp?hl=ja=X&ved=0wjyx-mM7o_sAhWWPPAgI
荒らしのコメントは、リオの視界にも当然入っていた。
コメント欄に目をやる度に雰囲気の違うそれらのコメントは、たくさん流れるコメントの中でも埋もれずに浮いていて、意識を必要とせずにちらちらと映る。まるで鏡についた汚れのようである。
しかしリオは配信中に触れることは一切しなかった。
わざわざ触れる理由が無かったからである。
リオは荒らしについては否定的に捉えていない。
配信をしていれば荒らしが起こることは自然なことだ。それに綺麗すぎる場所より多少散らかっている場所の方が落ち着く。いわばそれはアクセントのようなものである。そして自分の視聴者が他人の配信に迷惑をかけてないという自信もない。このような思いから、リオは荒らしについては寛容な姿勢であった。
しかしやがて、そんな彼女でも無視できない事態が起こる。
それはある日の配信開始直前、待機画面のコメント欄でのこと。
↑うるせーぞカマ
そんなあなたにもチュッ!!!
口もぐぞオラッ
お口はミッフィーちゃん(';')
うっほおほおおお(私のためにケンカはやめて!)
バ ナ ナ ♡ の ぉ 部 屋
( ┘^ω^)┐)))ヨイサヨイサ♪(┌ ^ω^)┘)))ヨイサヨイサ♪
びよおおーーーーーんん
(/ ᐛ)/ ぱぁ
地獄絵図になっていた。
「ぐはあああっ゛っ゛wwwwww」
リオは思わず吹き出して、配信を開始しようとしていた手を止めた。
(';') ←ミ ッ フ ィ ー の 耳 引 き 抜 か れ て る し !
バ ナ ナ ♡ の ぉ 部 屋 ←多 分 う ち じ ゃ ね ー し !
(/ ᐛ)/ ぱぁ ← ぱ ぁ ! ?
リオはその滅茶苦茶具合がツボに入り、PCの前で腹を抑えて爆笑した。
今までに類を見ないカオスである。
リオは”ふーっ ふーっ”と心を整えるように息を漏らしながら、両腕を後頭部に組んで椅子の背もたれに寄りかかった。そうして半笑いを浮かべながら、改めて流れるコメントを見守った。
「・・・いや、やばいってこれw」
その恐ろしい混雑っぷりにリオはもはや感心さえ覚えた。その騒がしさは祭りにも似ていて、何故だかリオを楽しい気分にさせる。
見ていても原因などは分からない。
だが、大抵こういう事にはそもそも原因と呼べるものは無かったりすることも、リオは知っている。
リオは一通り落ち着くと、配信を開始した。
「へーい、みんなうほうほ~」
うっほほほほhっほおお
オカマビィィィイム!
ほほおおおーーーー
ううううほおっほほほ!!!
「みんな、調子どうよ?」
助けてリオパンマン!
イキイキするわよ♡
ぶっちゅうううう!
「今日あれだよね 何かみんな賑やかだよねw」
オカ卍ぃぃぃ!
楽しいいい~~~~
どうにかしてくれ
リオちゃん出番だよ
コメント欄は、荒らしに辟易している人、楽しんでいる人、気にしない人と様々である。
「はいはいはーい」
リオは手をぱちぱちさせる音と共に、視聴者の関心を集めた。
「それじゃあここで、私の、時雨リオの配信のスタイルを振り返りましょー」
ママーーー
しゅき
うふふふ♡
うっほ
配信画面にはPCに内蔵されているペイントのアプリが開かれて、白紙の画面が四角く表示された。
そこへたくさんの棒人間が描かれていく。
「えー、今までうちの配信は有象無象何でも受け入れてきました 視聴者なのに私にひどく厳しいツンデレな人、逆に甘やかしてくれる優しい人、狂ったように指示を出す指示厨、変態なもっちーを送り付けてくるやべーやつ、大喜利マシーン、投げ銭大富豪・・・」
キャラ渋滞で草
wwwww
別にリオのことなんか好きじゃないんだからねっ!
↑きもっ(ボソッ)
直 球
「今回そこに新たに”荒らしちゃん”が加わります」
棒人間がもう一人増えた。
「もちろんあまりにひどいのはブロックするけど、それ以外は皆と同じ魑魅魍魎なので仲良くしましょうー」
俺たちは妖怪だったのか・・・
ママ―!ママママー!!
問題児来たなぁ
荒らしはどこでも沸くからね
しょうがない
白紙の画面は今や棒人間で埋め尽くされた。
「それ!いいコメント! 宇宙!」
突然に黒い線で渦が描かれ始め、棒人間たちが巻き込まれていく。
どしたー?
急に何だ
宇宙!
「つまり私は宇宙なわけです!!」
白紙は渦で真っ黒になった。
ぐちゃぐちゃああああ
わけわからんwww
リオは宇宙だったんだぁ・・・
ふぁあああwwww
「はい、んじゃあ配信始めるぞー」
リオはいつも通り配信を始めた。
その後リオはゴライアスの配信をちらりと覗いた。
気になることがあった。
それは視聴者によるゴライアスへの報復である。
リオの配信が荒らされたことに対して、リオの視聴者の中に、逆にゴライアスの配信を荒らそうと考える人もいるだろうとリオは予想していた。そしてもしそうだとしても、迷惑にはなっていて欲しくないと思っていた。
そうしてリオはゴライアスの配信を見るが、
うっほおおおおお!!!
リオis神→https://www.shigurerio.com/watch?v=QNcsaKodTHDBk
ゴリゴリー♡
やはり荒れていた。
そして、
新入りさんね♡
食べちゃうわよ!!!
うふふふふっっ
見事に相手にされていなかった。
「あぁ・・・これは王国だわぁ・・・」
リオは配信を見ながら一人納得していた。
ある晩、リオのスマホにゴライアスからのLIMEが来た。
リオは丁度その時ストレッチのためにバランスボールに腹這いになって乗っていた。
スマホは床の上に転がっていて、手を伸ばして届くか届かないかぎりぎりの位置にある。
暗かったスマホの画面が点いて、視線をやったリオはLIMEの通知に気が付いた。
バランスボールに乗ったままスマホを取ろう。
謎の挑戦心がリオに芽生える。
うまくバランスを取りながら腕先を伸ばす。届きそうで届かない距離に腕が震えるが、指先がスマホに触れて、バランスボールに乗ったまま何とかスマホを手にすることが出来た。
「お疲れさま、リオちゃん」
「お疲れ様です、珍しいですね。」
「あたしのところの荒らしが迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさいね」
ゴライアスは荒らしを気にしているらしかった。
「ああ、それは全然 まるで気にしてないで大丈夫ですよ^^」
「そうかしら・・・」
「むしろ新しい視聴者さんが増えて楽しいです」
「それなら良かったわ♡」
「というかゴライアス先輩、もしかして他の方とコラボしたときも毎回こうして謝ってるんですか? あの、ゴライアス先輩の視聴者さんって結構やんちゃで有名ですし」
「そうねえ、、いつも謝ってるわ」
「それはなんか、気の毒ですね・・・」
「分かってくれるのね!リオちゃん!!嬉しいわ!!!」
そこでリオがゴリラがグッジョブしているスタンプを押したが、しばらく待っても既読が付かなかった。リオは会話が終わったのだろうと判断してスマホを放り、再びバランスボールでストレッチを始める。
するとすぐに、
~~~~♪
スマホが着信を告げた。
リオは再び腕を伸ばし、そして
ひっくり返った。
「っつあぁ・・・」
リオはそのまま陸に打ち上げられたアザラシのような姿勢で、スマホを耳に当てた。
「はい」
「リオちゃん!あ゛た゛し゛は゛悔゛し゛い゛の゛よ゛~゛」
「ぅえ?」
スマホから聞こえてくる声はゴライアスのものに間違いないが、その声は悲愴に満ち溢れていた。
ゴライアスは泣いていた。
珍しいことである。いつも飄々とした様子のゴライアスがここまで大きく感情を出しているのは、リオからすると初めてだった。
「どうしたんですか?」
「聞いてよ~~~リオちゃん!!!」
「はい、聞いてますよ」
「はああああたしはぁぁ」
ゴクゴクっ
「あたしはぁぁ別にぃ荒らしたいなんてぇ」
ゴクゴクっ
「思ってないのよおおお~~~」
ごくごくごくっ
「だいぶ飲んでますねえ」
「飲まなきゃやってらんなぃわよ゛ぉ゛ん゛」
「なるほどぉ」
リオは納得した。
どうやらゴライアスはかなり酔っぱらっているらしい。
そして彼女は酔っぱらうと泣き上戸になるらしい。
それならば急なLIMEにも説明がつく。
とにかく聞いてほしかったのだ。と。
珍しいと思ったけど・・・そっかぁ、泣き上戸かあ・・・
酒癖は誰にでもある。
ただ泣き事や愚痴がたくさん出てくるので、泣き上戸は大変だ、というのがリオの経験上の感想である。
「り゛お゛ち゛ゃ゛あ゛ん゛」
「はいはい?」
「あたしはーーーうぇっ あたしは悪くないのよーーー」
「と、言いますと?」
「荒らしは勝手に荒らしをしてるのよ゛ぉ゛ あたしはあーしろこーしろなんて言ってないのよお゛ぉ゛」
「ああ、そうですよねぇ」
ゴライアスの視聴者らしき荒らしは他の配信者のコメント欄にもたびたび現れているが、それらは「愚民」と揶揄されてやはり嫌われている。
そしてその批判が主たるゴライアスに向けられることも決して珍しいことではない。
ゴライアスもそれを目にしていると思われた。
「つらいですね」
「あたしはぁぁぁ うわぁぁぁあたしぁぁぁ」
ごくごくっ
「この理不尽なぁぁぁ世の中ぉぉぉ」
ごくごくっ」
「変えたいいぃぃぃぃ!!!」
「先輩、それは何かまずい気が!」
「何回注意してもおんなじゃおんなじゃ・・・おっ」
「先輩?」
「お・・・お・・・おええええええええええ」
「先輩!?」」
電話は長引いた。
余りに遅くまで続いたので、リオは途中で寝落ちしてしまった。
夢の中でもゴライアスはゲロまみれで泣いていた。
翌日、ゴライアスがTmitterにとある投稿をしていることにリオは気が付いた。
「 荒らしのみんなへ
あたしの視聴者を装って荒らすのはやめてほしーの♡
あたしと貴方たちはむかんけーなのよん。
だってゴライアス王国の国民なら、荒らすなんて野蛮ことしないもの。
そしてどんな理由があってもみんなを傷つけてはだめなのよん!」
普段は慎重なゴライアスであるから、きっと酔ったまま投稿をしたのだろう。
リオは渋い顔をしてこの投稿を見た。
(これはあれだ・・・香ばしいにほひがする・・・)
リオはこの文よりゴライアスが荒らしとは全く関係がないというニュアンスを感じ取った。
いやそれは事実だ。
それ”も”事実だ。
しかし全く関係ないかと言えば、たぶんそうは言い切れない。
99:1の割合でも、どこかちょびっとゴライアスにも非があるように感じてしまう。
と、リオは思う。
そしてこういう捉え方が正反対で受け取られる可能性がある文の場合、その捉え方よっては人が不快になるような要素が”少しでも”含まれている事柄の場合、その対極構造によって人は口論し、煽る輩が出現し、ずれた自論を展開するものが出現し、それラ全てを批判するものが出現し、それをまた批判するものが出現し、それをそれを・・・
つまり十中八九。
炎上する。
数時間後。
燃えた。
人々は銃撃戦のように言葉の弾丸を飛ばし合っていた。
「すみませんでした」
という呟きを投稿して、代わりに先ほどの投稿を削除したのもまた火に油を注いだ。
上から指示されたんだろうな~
リオは苦笑いを浮かべる。
救いは本人がさほど気に留めていない事である。
現に今もリオのPC画面には、ゴライアスがいつも通りな様子でゲーム実況を配信している。
人気があるって大変だ
リオはTmitterではなく、心の中でそう呟いた。