ゴリラじゃないからっ!   作:もぐら王国

52 / 64
たまには一人称


鍋だ!

私は時雨リオと言う名前で活動している。

先程まで雑談配信をしていた。

今はソファの背もたれにもたれかかり、ほっと一息ついているところだ。

視聴者から送られてくる怪文、通称クソ餅を消化するのはなかなか体力が消耗される。

最近はギリシア文字で文を送り付けてくるのが私の視聴者の中で流行ってるらしい。

なぜ流行った。日本だぞココ。私の配信で国境超えるな。

しかもあの落書きみたいな文字は無意識に意味を知りたくなる魔力が込められていて、ついつい翻訳をかけてしまう。

新手の呪いだろうか。

つまるところわたしが今Vtuberの中で一番ギリシャギリシャしてるわけだ。

ギリシャギリシャギリシャギリシャ。

・・・ギリシャしてるって何だ。

英語かな。

そうだな、多分。

雑談後は無性に糖分が欲しくなる。ただ喋るだけにしても疲れるから。

あとは酒。

仕事後に呑むのは最高。酒と結婚したい。

ということで”よっこらぁ”と立ち上がろうとしたとき、机の上に置いてあったスマホが鳴った。

うっほほおおおーーー^^ うっほおおおおおお^^

画面に表示されるのはマネージャーの文字。

すぐに嫌な連想をしてしまう。

うわ、怒られることしたっけか。

あ、配信でマネージャーの年齢分からないから適当に290歳だよーって言ったのがばれたのか。

図星だったのかな、ごめんね。

とりあえずスマホを手に取る。耳に当てる。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様です 〇〇です」

「はい あの、、31歳でしたよね」

「29です」

「あ、すみません10倍しちゃいました」

 

惜しかった。

 

「何の話ですか じゃなくて、あの、クリスマスの日、暇でしたよね」

「え、はい、暇ですけど え、暖めてくれるんですか?」

「いえ、仕事が入りました」

「へ」

「コラボです」

「げ」

「露骨に嫌がらないでください」

「いや私ほらあれじゃないですか ソロマスター的な一匹狼的な単葉植物的な えへへ」

「この業界に長くいたかったらコミュ障直してください」

「はい、すみません」

「ちなみにコラボ相手はもう決まっていて、影沼ヒトリ君です」

「・・・あ、後輩君!」

「そうです 出来るだけ緊張させないように」

「任せてください先輩ですから」

 

・・・

・・・

・・・

 

隣でがっちがちのヒトリ君がいた。

なぜに。

 

「あー初めまして、、」

「あ、はい」

「・・・」

「・・・」

 

私はスタジオにいた。

セットとしてこたつが置いてあって、その上にすき焼きの鍋が置いてある。

取り囲むように機材がいっぱい。なんでも事前に物体をキャプチャしてるから、視聴者には実際の鍋の映像と私たちVtuberの姿が見えててまじで私たちが食ってるのが分かるとかなんとか。

難しいこと言わないで欲しい。頭悪くなる。

コンセプトは”クリぼっちな視聴者をコラボ配信で楽しませる”こと。

さすが我が会社、全力で煽っていく。

そして炬燵で温まっているのは、私と、今隣で顔を真っ白にして明らかに緊張してる男の子。

見た目高校生くらいに見える。

DKってやつか。

猿じゃんね。

 

「緊張してる?大丈夫?お水呑む?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「・・・」

「・・・」

 

沈黙が気まずい。

ここは先輩の私が喋った方が良いのかな。

 

「コラボ初めて?あんま経験ない?ないよね 私も全然なくて~」

 

なんかAVのインタビューみたいになった。

gg。

 

「あの、コラボはよくします同期の人と、でも先輩はあまりないです」

 

するんだね、ヒトリだけどヒトリじゃないね。ってくだらない事言うと香ばしい空気になるからね絶対言わない。

 

「ヒトリ君だけどコラボしてるんだね 社交的で良いね」

 

限界と戒めは破るモノ。

gg。

 

「あ、でも全然緊張しちゃってすみません 迷惑かけてしまうかも、しれません」

「ん いいよいいよ気楽にやろうよ 私なんて近所の遊んでくれるねーちゃんくらいに思ってくれればいいから」

「はい 頑張ります」

 

やがてスタッフの声掛けがあって配信が始まった。

 

「みんなうほうほー 時雨リオだぞ~」

「悠久の時を生きるゾンビ、影沼ヒトリです」

 

そう、彼はゾンビだ。

 

きたああああああああああ

待ってた

うほおおおお♡

こんばんぞんぞん!!

ぞんぞん~

 

目の前の台に固定されているでっかいディスプレイには私たちの配信が映っている。

私はいつも通り見慣れた時雨リオ。短いカラス色の髪の毛に、獲物を狙うような鋭い目。

今はすき焼きが獲物だけどね。

そして隣で一緒に炬燵INしてるのは、青白い肌の男の子。目元にかかる灰色の髪の毛と、そっから覗く黒目はちょっと暗い雰囲気。

敗退的・・・じゃない、退廃的だね。

私たちが映る画面の横、流れゆくコメントから察するに、結構視聴者が来てるらしい。

 

「すごい、見たことない数だ、、」

「クリぼっち意外と多いのかな」

 

は?

あっ

リオー^^?

はい炎上

それはギルティ

 

「冗談だよ冗談 それに私もぼっt・・・ヒトリ君がいたわ」

「え、あ、え、」

 

うわあああああああ

リオがリア充みたいなことしてる・・・だと・・・?

ヒトリ逃げて

悲報 かげぬーに彼氏出来る

彼氏・・・?

なんだこの敗北感は

 

今は寒いからね。

とりあえずコメントで暖を取ってみたよ。配信が温かいね。焦げなきゃいいんだ、焦げなきゃ。炎上するな頼む。

 

「ということで今日はよろしくヒトリ君!」

「はい、リオ先輩! よろしくお願いします!」

「うわ、先輩って呼ばれた あああ、、先輩なのか・・・そうかそうか」

 

顔がにやける。

 

「・・・まずかったですか?」

「いやむしろ喜んでるんだよ! 先輩って言う響き、かっこいいよね」

「それなら良かったです」

「もっと呼んでほしい」

「先輩先輩先輩」

「おお~~~」

 

何を見させられてるんだ・・・

新手のプレイやめろ

後輩で快楽を感じる女

この関係性は正直萌える

かげぬーかわいすぎる

 

後輩の思わぬ先輩呼びに感動したところで、私は鍋の具を自分の小皿にとりわけることとする。

大きな鍋でぐつぐつ煮えている具材たちは、さっきから食欲をそそる香りを放っていて、早いところ私の口に入れてあげたい。

菜箸を手に取る。

 

「肉、肉、肉・・・ あ、肉じゃん また、肉じゃん お、肉」

 

肉がいっぱい。やった。

 

肉食動物かな?

ゴリラじゃくて恐竜じゃん

野菜も食えよ

白滝も美味しいよ

 

「野菜も食うけど、やっぱ肉だよね マッスルマッスル~」

 

筋肉にも良いからね。

まさに肉を食って肉を制す!

 

「あ、ヒトリ君も食べよ食べよ」

 

ヒトリ君は隣で様子を見守って固まっていた。

いけない、いけない。コラボだった。

 

「あ、私がよそおうか?」

 

先輩の器量を見せましょうかね。

 

「いえいえいえいえ! 自分でやります!先輩にやらせるなんてそんな」

「あ、そっかそっか」

 

ヒトリ君はすごい勢いで拒否していた。

気遣わせちゃったか。

 

パワハラ予備軍

イエローカード

ヒトリの肉まだ残ってるんだろうな

これは口にネギ突っ込む刑ですね

 

ちなみにヒトリ君は白滝とネギと白菜とキノコを小皿に移していった。

肉もお食べよ。

 

やがて実食の時。

ヒトリ君が手を合わせていただきますをした。

 

「はっ! 礼儀正しい!」

「え、そうですかね」

「失われた儀式だと思ってた」

「そんな大げさですよ」

 

リオは酒にしか手を合わせない

酒のつまみしか食べたことがない

酒から生まれた

血液が酒である

酒しか友達がいない

 

「ヒトリ君の教育に悪いゴリラたちは燃やします」

 

ひえ

wwww

アルコールは良く燃えるからね

 

できるだけ純情な後輩でいてほしい。

少なくとも私の視聴者みたいに、近所の生意気な野良猫みたいにはならないで欲しい。

彼らは可愛げが無いんだ。

もっと懐いてよ、私に。

肉をもぐもぐする。

卵の黄身に絡めてご飯の上に乗せて食べる。すっごくおいしい。

 

「うまああ」

「美味しいですね」

「酒が欲しくなるよね」

「すみません 未成年なので」

「あっ」

 

あっ

あ・・・

 

あっぶ。見た目だけかと思ったらほんとに若者だったのか、、

 

その後も美味しくすき焼きをつついているところに、スタッフから紙を渡される。

 

「えーっと”お互いの印象を教えてください”だってさ」

「印象・・・」

「私たちはお見合いに来たのかもしれない」

「ええ、それは、あの、」

「冗談だから!そのリアクションはまずい!私が鍋の具にされちゃう!」

 

美味しくないよ!

 

wwwwww

お 見 合 い

ヒトリ君、そこ代わってくれないか?(真顔)

リオ、そこをどけ(真顔)

 

ヒトリ君は考えが纏まらずに言葉に窮している感じだったので、私から言う。

 

「実はヒトリ君のこと配信でちょくちょく見てるよ」

「嬉しいです・・・」

「歌うたってるよね~ たまにコメントして逃げてるわ」

 

逃 げ ん な

逃げんの草

通り魔じゃん

ヒトリ君の歌配信好き

心が癒されんじゃ^~

 

「それはほんとに、あの、ありがとうございます」

「いやいやこちらこそ 私もヒトリ君の歌声で心が洗い流される民の一人だから」

 

ア ル コ ー ル 洗 浄

酔い覚ましに使うなwwwww

ヒトリ君を汚すな

 

「だからね印象としては、すっごい歌うまい癒し系って感じかな~」

「ど、、どうも」

 

彼の歌声はほんとにすごい。

何というか透き通ってる。チューハイに浮かべる氷くらい。

でも力強さもある。ハイボールの炭酸くらい。

・・・ワタシヨゴレテル。 

 

「それじゃあヒトリ君の番だね」

 

シンプルに気になる。

視聴者がどう見てるかはコメントで察せるけど、同業者はそういう事も無いから。

 

「そうですね・・・」

 

ヒトリ君は少し言いズラそうにしていたけど、私からは目を逸らしながらぽつりぽつりとつぶやき始めた。

 

「僕にとっては、、憧れの人です」

「ふぇ?」

「僕がVtuberに興味を持ったのは、楽しそうなリオ先輩の配信を見ていたからなので」

「まじ?」

 

卍?

 

そうだったのか・・・

まあ前から公言してるよね

リオネキに憧れる新人が現れるのかぁ(白目)

まあ魅力的ではあるはな

視聴者と殴り合いできる才能はえげつないからな

 

「ちなみに私の何が好き? あ、いや、告白じゃないよごめん違うから許して殺して」

 

「視聴者の方と

 

”てめえ舌引っこ抜くぞあ゛あ゛っ゛! ?"

 

ってケンカしたりしてるのが好きです」

 

「ああ~うん・・・」

 

切り抜きで有名な奴じゃんwwwwww

視聴者とリオの果てしなきケンカpart3 htps://www.NowTube.com/!@l=Jw&hl=ja

50万再生された切り抜きwwwww

よりによってそれなの草

ヤンキーが過ぎるwww

 

他にもある筈だ、、なぜそれなんだ、、マネージャー怖い目をしないでください。ごめんなさい。

 

「あ、いやでも、恐いなとかじゃなくて、もっとこう、視聴者さんと、自分たちと対等なんだなって感じが好きで・・・」

「・・・え、涙腺に来る」

「あ、え、」

「ごめん続けて」

「はい、あのだから、すっごく面白くて落ち着く配信の方だなって思いました」

 

いい子過ぎる

リオと正反対すぎるwww

どうか汚れないで・・・

かげぬー可愛い

純情過ぎて興奮する

え?

 

何というか、、嬉しい。

続けてきて良かったと思った。ちょっとアレな動画でアレだけど。

その後はお互いに好きな動画を言い合っていた。

私が彼の歌ったことのある曲を次々口に出して言ったら、ちょっと驚いていた。

しっかりちゃっかりファンなんだよ。引かないで。あとメタル系も歌って欲しい。

やがてスタッフから再びの伝令が来た。

 

「ええっと、”時雨リオぱいせんによるかげぬーへのアドバイス”」

 

・・・

 

「なぜ私が”ぱいせん”でヒトリ君が親しげに”かげぬー”表記なのかな、運営さん! ちょっといじりにきてんなぁ、おい!」

 

wwwww

運営にもいじられるの草

愛されてるんやでw

いいぞもっとやれ

運営に噛みついていけ

 

目が合ったスタッフが軒並み視線を逸らしていく。

大人たちよ、戦争は好きか?

 

「まあいいわ、アドバイスね こういうのかっこよくて好きなんだよね」

「よろしくお願いします」

「ふ~む 思いつかない」

「!」

 

おいw

お前もやってんな!

ないのかよw

 

いきなりしろって言われても難しいよ、これ。

 

「逆に、何か訊きたいこととかないかな?」

「訊きたいことですか」

「そ 大体答えるよ、好きな酒の銘柄とか」

「そしたらあの」

「うん」

「どうしたらリオ先輩みたいに面白い配信が出来ますか」

「あ、むずそう」

 

正直、深く考えたことが無いから分からない。

そして多分それはそれで正解なんだと思う。

ヒトリ君は興味深々な様子で、初めて私にその瞳を合わせている。

だから答える。

真剣に。

 

「多分、ありのままがいいんじゃないかなぁ」

「それは・・・」

「自分をそのまま見せるというか、偽らない!さらけだしてやる!って感じ」

「・・・すごいですね」

「ん?」

「それは、かなり、勇気がいります僕には」

「そうかな~ 難しく考えなきゃ楽勝だよ?だって難しく考えて無いからね」

 

哲学かな?

そ う だ よ

馬鹿だからな

まあ、考え過ぎるのもよくないね

 

ヒトリ君は視線を下げた。伏せた目をしている。

賞賛と言うか、諦めというか。やっぱり先輩と自分は違うんだなみたいなやつ。

意地悪言ってるんじゃないんだ。

私は確かに考えるのが苦手だから。

何とか力になってあげたい。

 

「んとさ 私考えるにしても、人を楽しませるという知識はまるで知らなかったから、考えてもしょうがないんだよね」

「・・・はい」

「だからさ、とりあえず自分が楽しめばいいかな~って、そしたら自然体になってありのままになる でも、人が楽しそうにしてたらさ、何か自分も楽しさが移るじゃん?そんな感じなんだ」

「なる、ほど、、」

「まあ人それぞれだよね~」

 

なんか名言出てる

あちい

これは姉貴

かっけえ

 

人の力になるってのは結構難しいけど。

 

「とっても参考になります」

 

喜んでるなら良かった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。