第1節 愛に恋する少女
「本当に、いいんだね?」
レイシフト直前、ドクターがそう問いかけてくる
「問題ありません」
自分が何をしたいのか、それはまだ分かっていない
でも心は熱い、覚悟はある
「――覚悟を持った良い目をしてる、でも」
「分かってます、死ぬ気はありません」
「……その言葉が本心であると願ってるよ」
「まずはベースキャンプの設置が最優先、それまではこちらからの通信も怪しい」
「それと改めて装備の確認をしよう」
「ちゃんと携帯食料は持った?ああ、あと清潔な布と消毒液… 例え魔術が使えるとしても応急手当の用意は必要だ」
「それと――」
これが何度目の装備の確認になるんだろうな
しかも色々入れようとしてるけど、そんな持ってけねえよ……
「ロマン、彼が困ってるよ」
「……ごめん でも、心配なんだ ……じゃあ、転送するよ」
「――行ってらっしゃい」
――――――――――――――――――――
「よし、無事にレイシフトは出来たな」
「ランサー、指示通りまずは霊脈のポイントを探すぞ」
「その前に、少しいいでしょうか」
「どうした」
「所長、という人物を聖杯を三つも使ってまで蘇生しようする理由は――」
「愛、ですか?」
あらかじめスルーズにのみは目的を共有してある
ドクターやダヴィンチには ……まだ言えていない
「そうじゃねえよ」
「しかもまだそうするって決めたわけじゃねえ」
そう、人理修復を考えるのであればAチームの治療のほうが正しい
なのに何で俺は、まだ迷ってるんだろうな
「ですが書物によると、条件は大部分該当しています」
「いえ、なるほど ツンデレというやつですね レオナルドが言ってました」
「だからそういうのじゃねえって、ただ…」
「ただ?」
ただ、何なんだろう
同族意識による同情なのか、救えなかった罪悪感か、それともスルーズが言うように愛なのか
色々考えてみるが答えは出ない
「――分かんねえ」
「はあ、そうですか」
釈然としないような顔をするスルーズ
「なんだよ」
「いえ変に焦らなかったので本当にそうではないのだな、と」
「少し、残念です」
「そうかい、悪かったな」
「いえ、まだ自覚していないという可能性も残っていますので」
別の本を取り出しながらペラペラとめくる
「あんまり余分なもの持ってくんなよ」
「え? ああ、これはただの再現ですよ」
そういうと本が消える
「服を作るのと同じ原理です」
「全て霊基で構成されているので色々出来るんですよ?」
「読んだ本の内容は全て記憶していますので、ほらこの通り」
また別の本が生み出される
「何か読みますか?」
……適応してんなあ
「いや、別にいい」
「そうですか」
それだけ言うとまた本に視線を移す
恋愛小説とはそんなに面白いもんかね
いや、知らない感情を把握しようとしてるだけか
――ブリュンヒルデが堕ちた理由
「いいえ、愛ですね」
突然後ろから声が聞こえる
「―――な!?」
急いで振り返るとそこには、清姫が――
「ランサー!」
「はい」
瞬時に戦闘態勢を整える
「――ここまで近づかれるまで反応がありませんでした」
「そうなると、アサシン」
いいや、バーサーカーだ
ストーキングとかいう良くわからないスキル、多分それが影響した結果……
クソ、レイシフト直後だからって油断していた…!
そりゃそうだ 原作通りに上手く進むはずはねえ
「お話しは聞かせてもらいました」
「愛、素晴らしい愛です」
こちらに語り掛けているようで語りかけていない
敵対する要素はないはずだが「狂化EX」という特殊なランク、何が起こるかはわからない
「何が、言いたい」
「いえ何やら素晴らしい愛を感じたので、少し様子を見に」
――所長とのことを言ってんのか?
とりあえず敵対ではないことらしいのは分かった
スルーズの武器を下ろさせる
「死してなお愛する者のために貫き通すその覚悟、素晴らしいですね」
「ええ、ええ! そうです! 死などでは愛するもの同士の二人の絆は止められない!」
「――貴方はよく分かっていますね」
「その蕾、出来ることであれば開花するまで見守りたいのですが…」
「残念ながら私のほうもまだ安珍様が見つかっていませんので、失礼します」
それだけ言うと離れていく
「何だったんだ……」
能力的には低い、弱いサーヴァントの部類だ
無理に引き留める必要はないのでそのまま見送る
――というよりも圧倒されて反応できなかった、が正しい
「やはりこれが愛でしたか、なるほど……」
うるせえ何言ってんだこいつは
「それよりも索敵範囲を広げろ」
「はい、了解しました」
「――ジュリオ、魔力反応を感知しました」
「どっちだ?」
「先ほどとは違うサーヴァントが一騎です、どうやら魔物に追いかけられているようですね」
単独行動をしてるってなるとジャンヌ、もしくは味方側の可能性のほうが高い
「――助けるぞ」
スルーズ単体で行った方が早いので指示を出す
「了解しました」
器用に木々を避けて飛び回りあっという間に見えなくなる
「愛、か ――よく、分かんねえな」
「さて、急いで合流するか……」
なるべく早く合流するために強化を使いながら走り出す
二日に一話くらいのゆったりペースで更新していきます