モチベが全く沸かなくてですねぇ…
いや、もう…ごめんなさい
ハジメと颯斗が奈落で活動している頃。
地上のハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室。
八重樫は暗く沈んだ表情で、眠る親友を見つめていた。
迷宮での
白崎はあの日から眠り続けて居た。
迷宮からの帰り、ホアルドで一泊した後、早朝には高速の馬車に乗り込んで王国へと帰還した。
とても訓練を続ける雰囲気では無かったし、召喚者が亡くなった以上、報告しないわけには行かなかった。
それに加え、折れかけた勇者達には、致命的な精神的障害が出る前にケアが必要だったこともある。
八重樫は帰ってきた日の事を思いだし、唇を噛み締めて俯いた。
ハジメと颯斗の死亡が伝えられたとき、王国の人間は誰もが愕然とした。
〟無能〝であったハジメはともかく、勇者達の中でも一・二を争う力を持った颯斗の死は驚かれた。
___そして喜ばれた。
〟無能〝であったハジメは、勇者達の悪評になり得るとイシュタルや国王は考えており、どうしようかと頭を悩ませていた。
そして颯斗は〟勇者〝たる天之川への当たりが強く、咎めようとする動きが多く、上の立場の者たちには嫌われていた。。
またこちら側を全く信用せず、常に裏を読もうとする目の上のタンコブだったのだ。
それによってハジメは勇者達の足を引っ張った役立たずの烙印が押され、颯斗は勇者を邪魔した愚か者と罵られた。
当然ハジメが作成した銃の事も伝えられたが、〟無能〝たるハジメがそんな物を作れるのか?と疑われた。
実際に使用した騎士達によって信じられたのだが、逆にそれを使っていながら死ぬならば、大したことは無いのだろうと斬り捨てられた。
どれだけ訴えたとて、製作者たるハジメは既に死んでいるので、どちらにしろ価値は無いにも等しいと一蹴される。
その事に激怒した八重樫は思わず斬りかかりそうになった。
天之川の方が先に怒らなければ、実際に飛びかかってもおかしく無かった。
天之川が抗議したことによってそのような言われは無くなったが、〟無能〝や〟愚者〝に心を砕いたとして天之川の株が上がっただけで、二人の酷評は覆らなかった。
あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者達や騎士団長も歯が立たなかった化け物を食い止めた二人だと言うのに。
そんな二人を死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った
クラスメイトはあの日の話をしない。
もし自分の放った魔法であったらと思うと、恐怖に支配されてしまうのだ。
人殺しとなってしまうから。
その結果、現実逃避の様に責任をハジメと颯斗に擦り付け、二人のミスの結果だと意見が一致している。
当然メルドはあの時の経緯を明らかにしようと、生徒たちへと事情聴取をしようとしていた。
誤爆でも過失でも、白黒はっきりさせた上でケアを施した方が良いと確信していたから。
しかし、それをイシュタルと国王が禁じてしまった。
メルドは納得が行かないと食い下がるが、寄る辺もなく否定され、堪えるしか無かった。
「…ごめんなさい…橘君…」
ピキリと、ヒビが広がる音を、八重樫の心は響かせた。
_______________________________________________________________
緑光石の光にに包まれる階段を、ハジメと颯斗の二人は
ハジメがドンナーを作成している間、颯斗は上階へ繋がる通路を探すために行動していたのだが、見つかったのは階下への道だけだった。
なのでハジメに錬成してもらい、上への道を作ってもらおうと、ダンジョンのなんたるかを悉く無視する手段を考えていた。
しかし、上だろうと下だろうと、一定の距離を掘り進めると何故か錬成に全く反応しない壁が現れるのだ。
他は自由に錬成出来るのだが、その壁に関しては何かしらのプロテクトが掛かって要るのだろう。
ここ【オルクス大迷宮】は神代に造られたもの。
不思議の塊なので理屈で説明できないものがあっても可笑しくはない。
なので、階下へ歩を進めつつ、上階への道を探している。
調べているのだが…
「…行き止まりか」
「チッ、分岐点は全部調べたぞ。一体どうなってやがる」
ハァ…と疲れた様にため息を吐く颯斗と、苛立ちを隠そうとしないハジメの言葉が響く。
これで上階への可能性は完全に途絶え、階下へと繋がる通路へ向かう。
凸凹とした道の先は、暗闇が広がり、餌を待つ怪物の口の如き雰囲気を醸し出している。
一度入れば二度と出られないのではないかと、そんな気持ちが自然に沸き上がる。
「ハッ!上等じゃねぇか。邪魔するなら殺して食ってやらぁ」
「くっはは!気合い十分だな。んじゃま、潰しに行くか」
二人は弱気な考えを鼻で笑うと、ニィと頬を釣り上げ、不敵に嗤い合う。
そして躊躇い事なく、暗闇へと歩み出した。
暗い通路を、ハジメの左腕にくくりつけた緑光石の光を便りに、歩を進める。
はっきり言って、光源を持つことは、自分達の居場所を伝える事と同義なので自殺行為に成るのだが、全くの光がないこの道では、進むことも儘ならないので仕方がない。
「待て。何かいる」
警戒しながら進んでいると、颯斗が足を止めた。
その言葉に、ハジメが前を見据えると、何かがキラリと光った。
「なっ!?」
いきなりハジメの左腕からビキリッ!と音を響き、石化を始めた。
その効果は緑光石にも及び、数秒で石になり光源を失わせた。
その間にも、ハジメ石化は進み、肩まで達しようとしていた。
「チィッ!」
「光を潰しやがった!」
ハジメが自作のリュックから試験管を取り出し、中の神水を煽る。
すると石化は直ぐに止まり、みるみると左腕を治していく。
「やってくれたなぁ!」
悪態を吐き、腰のポーチから〟閃光手榴弾〝を取り出すと、先程の光が見えた箇所へ投げつける。
同時に、またキラリと何かが光る。
見えないことも構わず、二人は〟縮地〝を使い離脱する。
「目ぇ閉じろよ!」
腰からドンナーを抜いたハジメは、腕を盾に目を覆う。
次の瞬間カッ!と光が弾け、視界を塗りつぶした。
「クゥ!?」
2メートル程の蜥蜴の姿が浮かび上がった。
おそらく、今までに感じた事のない光量に混乱する蜥蜴へとハジメはドンナーを向け、引き金を引く。
絶大な威力を持って、弾丸は蜥蜴の頭部へ吸い込まれ、頭蓋を貫き、中身を粉砕する。
それだけでは飽きたらず、貫通した弾丸は壁に大きな穴を空け、岩肌を焼き焦がした。
蜥蜴を始末したが、二人は警戒を緩めず、蜥蜴へと近づく。
そして肉を採取し、即座に離脱する。
流石に何も見えないこの状況で食事をするわけには行かなかった。
引き続き闇の中を歩く二人。
先程と同じ蜥蜴やふくろうの様な魔物を時に穿ち、時に粉砕しながら進む。
体感では数十時間も探索を続けて居るのだが、階下への道は見つからない。
「そろそろ休憩にするか」
「…だな、荷物も増えてきたしな」
ハジメの提案に、肯定を返す。
ハジメは拠点を作くる事に決め、壁に穴を空けた。
広がる穴に連続で錬成をかけ、六畳程の空間が出来上がる。
忘れずにハジメは神結晶を取り出し、壁の窪みへ嵌め込んで、容器にポーションが流れるようにセッティングする。
「んじゃまぁ…」
「飯にするか」
リュックに入っている容器に適当に詰め込んでいた肉を取り出す。
ナイフへぶっ刺すと、〟纏雷〝でこんがりと焼いていく。
不味そうなこんがり肉である。
メニューは蜥蜴の丸焼きと羽を飛ばして攻撃してくるふくろうの丸焼きと六本足の猫の丸焼きである。
「「いただきます」」
カブリと噛みつき、ムグムグと硬い肉を咀嚼していく。
そして次第に、体へ痛みが走る。
これは体が強化されている証だ。
やはりここの魔物は、爪熊よりも強いのだろう。
確かに暗闇の中での固有魔法のコンビネーションは厄介であった。
最も光で照らせばドンナーで撃ち抜けるし、気配が分かる颯斗の前には無力であったが。
時折神水を服用しながら、体の痛みを無視して食事をしていく。
苦痛ばかり味わっていた二人は、痛みに慣れていた。
「ふぅ、ごっそさん」
食べ終わった颯斗は、ステータスを確認しようとプレートを取り出す。
==============================
橘颯斗 17歳 男 レベル:27
天職:拳闘士
筋力:1085
体力:1370
耐性:1660
敏捷:710
魔力:400
魔耐:1660
技能:全属性耐性・物理耐性・複合格闘術・剛力・金剛・縮地・直感・気配感知・限界突破・闘気・魔力操作・胃酸強化・纏雷・風爪・夜目・石化耐性・言語理解
===============================
新たに追加されたのは〟夜目〝と〟石化耐性〝の二つ。
おそらく石化させてくる蜥蜴から耐性を獲得し、ふくろうから目を獲得したのだろう。
周りを見渡すと、先程よりもよく見える。
これはこの階層に置いてはかなりのアドバンテージとなるはずだ。
ハジメを見れば「石化の邪眼!とかカッコいいのに…」とよくわからない事を呟いて落ち込んでいる。
ハジメが弾丸を作るための作業に入った。
精密な作業を求められることを知っているので、颯斗は終わるまで体力を回復させようと仮眠に入った。
ここまで来るのに相当な時間をかけたが、まだ一階層も降りていないのだ。
先に進めば進むほど強敵が待ち構えて居るのは容易に分かる。
少しでも体力を回復させ、無事に帰るためには最善を尽くさねばならない。
颯斗は警戒しながらも、意識を落とした。
二人は、時折消耗品の補充以外の時は常に動き続けた。
特に〟夜目〝の効果によって自由に動ける様になったのは大きかった。
この広大な迷宮を休みながら探索するのは、どれだけの時間がかかるか分からない。
そのため二人は、急ピッチで攻略を続けた。
そして遂に、下層への道を見つける。
降りた先には、地面一面がタールの様な、粘りっけのある沼地であった。
蒸し暑い空気に、足を取られる地面に思わず顔をしかめるのは仕方がないだろう。
二人は〟空力〝や岩を足場にして進んでいく。
そんな時、〟鉱物鑑定〝をしていたハジメの動きがピタリと止まる。
「…うそん」
「あ?どうしたハジメ」
「…」
ハジメは無言でプレートを颯斗へ見せた。
==============================
フラム鉱石
艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50℃。タール状のとき摂氏100℃で発火する。その熱は摂氏3000℃に達する。燃焼時間はタール量に比例する。
===============================
「…マジか…」
颯斗が足を上げれば、なんども踏んでいる半液体状のものがびちゃびちゃと、靴から滴り落ちた。
「か、火気厳禁っすか…」
頬を引きつらせるハジメが呟いた。
ここではハジメのメインウェポンである〟纏雷〝やレールガンが使えないのである。
もちろん電磁加速が無くても、燃焼石による炸薬だけでも強力なのだが、ここ奈落の魔物相手に通じるかどうか…
「やることは変わんねぇさ。邪魔するなら殺せば良い」
「…ハッ!そうだな。殺して食うだけだ」
獰猛な笑みを浮かべる颯斗を見たハジメは、つられるように殺気を振り撒いた。
軽い調子で二人は歩き出す。
しばらくして三叉路へ当たった。
近くの壁に印をつけ、取り敢えず左から調べようと足を踏み出し___
「っ!? 伏せろ!」
悪寒を感じた颯斗が叫ぶ。
ハジメは素早く身を屈めると、横から鮫の様な魔物が、鋭い牙をこさえた口を開きながら飛びかかってきた。
当然そこには何もなく、ガチンと硬質な音を響かせ、タールの中へ消えて行った。
「チィッ!今度は〟気配察知〝が反応しねぇ奴か!」
「本当にめんどくせぇ奴しか居ねぇな!」
地面に留まっているのは危険だと考え、〟空力〝によって飛び上がる。
そして鮫が二匹に増え、二人へ飛びかかる。
「なめんな!」
「あめぇ」
ハジメは空中で宙返りすると、逆さまの視界の中で、頭上を通りすぎる鮫へ引き金を引く。
颯斗はするりと体を後ろに倒し、視界に広がる鮫の腹へ突きを放った。
弾丸は鮫の体を蹂躙せしめんと、空気を切り裂いて迫る。
しかし、一瞬沈み込むと、ゴムが当たったかの様に跳ね返した。
颯斗の突きが鮫へと吐き刺さるが、拳が柔らかい脂肪に包まれ、威力が分散されてしまう。
よってダメージを与えられずに、ただ飛ばしてしまった。
「物理攻撃無効っすか?俺の天敵じゃねぇか」
「んなこと言ってる場合か?」
呑気に呟く颯斗へ、ハジメも呑気に返した。
そんなふざけた二人だが、再度飛びかかってきた鮫に目もくれず、ヒョイっと軽く避けた。
「気配が無くても物理無効でも…」
「俺等の脅威にはならねぇよ」
三度目の正直と言わんばかりに、再度飛びかかってくる鮫。
そんな鮫に慌てることなく、ハジメは爪熊から得た技能〟風爪〝を発動させ、颯斗は腰を落とし、腕を引き絞る。
ハジメは自ら鮫へ近づき、口が頭部を噛みきる寸前にクルリと身を翻し、〟風爪〝を纏わせたドンナーで頭部を切り裂いた。
颯斗は微動だにせず、向かってくる鮫を見据えている。
そして遂に牙が颯斗の身を引き裂こうとしたところで、伸ばしていた手の甲を鼻に添え、横に勢いを反らす。
そしてがら空きの脇へ再び突きを放つ。
その突きは、先程のものよりも鋭く早い。
鮫の体を吹き飛ばすよりも前に、颯斗は鮫の
そして鮫が吹き飛ぶのと合わせ、掴んだまま腕を引き抜く。
「グギャァア!?」
ブチブチッ!と嫌な音を立てながら引き抜かれた鮫は、絶叫を響かせる。
ホッカリと穴を空けた鮫はしばらくの間もがいていたが、徐々に動きが緩やかになり、やがて静かになった。
颯斗の手の中にある心臓は、まるで抜かれたことに気付いていないように、力強い鼓動を打っていた。
「お前…えげつねぇな」
「頭吹き飛ばすお前が言うな」
ドン引きの表情を浮かべるハジメに、颯斗は心臓を捨てながら言葉を返す。
「いや今のは酷すぎねぇか?」
「敵に慈悲かけてどうすんだっつーの」
「それもそうか」
頬を引きつらせたハジメは、颯斗の言葉に納得し、鮫の解体へ意識を集中させた。
既に二人の倫理観は完全に崩壊し、敵に容赦なしを掲げている。
もちろん無闇に喧嘩を売るつもりは無いが、向かってくるのなら殺すと決めている二人は、既に
「うし、肉取れた」
「んじゃさっさと行くぞ」
___いずれ、故郷に帰ることを夢見て、